孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス  年金改革案に対して波状的な大規模デモ・ストライキ 「言うべきことを言わざるは恥」

2023-02-16 21:59:31 | 欧州情勢


(【1月20日 FNNプライムオンライン】1月19日、 第1波の抗議デモ)

【年金改革案発表 定年退職64歳へ 抗議の波状的な大規模デモ・ストライキ】
社会の高齢化に伴い年金財政が悪化し、政府が改革(改悪?)を試みるのは日本を含め多くの国で起きている話です。フランスでも。

フランス・マクロン政権は、年金の受給開始年齢を現行の62歳から64歳に引き上げる方針ですが、国民の反発は根強いものがあります。

政府の年金制度改革案に反対する大規模なデモ・ストライキが波状的に繰り返されており、そのたびに交通機関が運休、多くの学校が休校になっています。

反政府デモが相次いだ2018年のジレジョーヌ(黄色いベスト)運動の再来を懸念する声もあります。

****フランス、定年退職64歳へ=年金改革案発表、9月にも施行―大規模デモ再来の恐れ****
フランスのボルヌ首相は10日、マクロン政権の最大の課題の一つと位置付けられてきた年金改革案を発表し、実質的な定年退職年齢に当たる年金受給開始年齢を現行の62歳から段階的に引き上げ、2030年には64歳にする方針を打ち出した。激しい反発と抗議行動も予想されており、欧州連合(EU)の中核国フランスの政治が再び揺らぐ恐れもある。

マクロン大統領は当初、65歳への引き上げを目指していた。しかし、検討過程での国民の反発を受け、一定の譲歩を示した形だ。

改革案は2月から議会で審議される。仏メディアによれば、与党連合は穏健右派・共和党の支持をおおむね取り付けており、法案可決を視野に入れる。

政府は9月1日の施行を目指すが、国民の不満は依然として強く、2018年11月から全土へ広まった反政府デモ「黄色いベスト運動」の再来となる大規模な抗議行動が懸念されている。

ボルヌ氏は記者会見で「現実を直視することが必要だ」と訴え、高齢化が進む中で年金制度を維持するには改革が不可欠だと強調した。改革により「フランス人の間で疑問や不安が生じるのはよく承知しているが、説得していきたい」と決意を語った。その上で「議会審議が進む中で改革案を発展させる用意はある」と指摘し、柔軟な対応に含みを持たせて反発する世論をけん制した。

今回の改革案では、電力やガス業界など主な公共部門で認められている優遇策「特別年金制度」について、新規採用者には今後適用しない。一方で整備士やパン職人など、20歳未満から見習いとして働き始めた人については、早期退職を可能とする。

ボルヌ氏と記者会見に臨んだルメール経済・財務相も「フランスの年金制度は世界でも最も寛大な制度の一つだ」と強調。「定年退職年齢を引き上げなければ、年金支給額引き下げなどさらに不当な措置を取る必要がある」と警告した。国民に向けて「これが唯一の選択肢だ」と訴えた。【1月11日 時事】
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この改革案に対し、1月19日を皮きりに、大規模抗議デモが波状的に繰り返されています。

****仏、年金改革反対デモに約110万人 労組は月末再実施も予告****
(中略)19日のストには鉄道運転士や教職員や製油所労働者も参加。国営原発の職員も半数がスト入りした。鉄道関係者によると、都市間の高速鉄道やパリの鉄道サービスも大きく乱れた。パリでは集まった若者らと警察の小競り合いが断続的に続き、警察が催涙ガスを発射したり、数十人を拘束したりした。

この日の国内デモ参加者数は、2019年にマクロン氏が最初に年金改革案を通そうとした際のデモの人数を上回った。【1月20日 ロイター】
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ストには学校の教員らも加わっています。
一部では警官との衝突も起きています。

****仏年金改革抗議デモ参加者、警察の殴打受け負傷 睾丸切除****
フランス・パリで先週、年金制度改革案に抗議するデモにカメラを持って参加していた男性が、警察官から警棒で股間を強く殴打されて負傷し、片方の睾丸(こうがん)の切除を余儀なくされた。男性の代理人弁護士が22日、明らかにした。

インターネットで拡散している19日のデモの様子を捉えた動画には、カメラを所持し、地面に倒れている男性の両脚の間を警察官が殴打し、立ち去る様子が映っている。

代理人によると、男性はスペイン系の26歳で、カリブ海にある海外県グアドループ在住のエンジニア。デモの写真を撮っていた。「公権力の行使者による、体の一部切断につながる故意の暴力」を受けたとして、被害届を出す意向だという。

さらに、「殴打は激しく、片方の睾丸を切除しなければならなかった」と代理人は説明。男性は現在も入院中でショック状態にあり、なぜ負傷する羽目に陥ったのかと問い続けているという。

この事態を受けてパリ警視庁は、内部調査を指示したと発表。一方で、今回の出来事は「過激な暴力を背景に、暴力的な個人を拘束するための警察活動の範囲内で起きた」との見解を示した。(後略)【1月23日 AFP】
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1月31日は第2波が行われ、内務省によるとフランス全土で計127万人以上が参加しました。

****フランス全土で再びデモ 年金受給年齢引き上げ反対*****
フランスでは、年金の受給年齢の引き上げ法案に反発したデモとストライキが再び全土で行われた。
フランス全土で127万人余りが参加する抗議活動が行われ、警察とデモ隊が衝突し、催涙ガスが飛び交った。(中略)

世論調査では、36%の人が「改革の必要性を理解する」としたものの、「反対」と訴える人は65%にのぼった。

デモに参加する研究員「フランスには、すでに良い社会保障制度があるのに、政府は数々の改革でそれを崩そうとしている」

この日は鉄道や教育機関でもストライキが行われ、政府への抗議は断続的に続く見込み。【2月1日 FNNプライムオンライン】
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【譲らないマクロン大統領 3月7日には“「フランス全国を停止させる」ことも辞さない”抗議行動も予定】
マクロン大統領としては、政治的リスクを伴いますが、強気のマクロン氏は押し切る構えです。

****仏大統領支持率34%に低下 政府の年金改革影響****
22日付のフランス紙ジュルナル・デュ・ディマンシュは、今月の世論調査でマクロン大統領の支持率が昨年12月から2ポイント低下し、34%となったと報じた。政府が実行を図る年金制度改革が原因とみられる。32%だった2020年2月より後で最低の水準。

マクロン氏の支持率は新型コロナウイルスの流行開始以降40%前後で推移してきた。同紙の委託で調査している大手調査機関IFOP幹部は「新たな時期」に移ったとの見方を示し「非常に悪い流れだ」と指摘した。

マクロン政権は今月、1期目に実現できなかった年金制度改革の新案を発表した。【1月22日 共同】
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2月7日に行われた第3波デモ参加者は全土で計約76万人となり前回の約127万人を下回りましたが、2月11日の第4波は100万人規模を回復、第5波2月16日に続いて3月7日には“「フランス全国を停止させる」ことも辞さない”抗議行動も予定されているとか。

****年金改革反対デモ、11日に100万人近くが参加****
11日に全国で年金改革反対デモ行進が行われた。内務省集計では合計で96万3000人が参加し、大規模な動員が達成された。

同日には、労組が交通ストなどを断念し、デモ行進に集中する形で多数の参加が得られるよう配慮した。その成果もあり、ストライキも行われた前回7日の75万7000人を上回る参加者数を記録。ただし、1月31日の127万人には及ばなかった。

その一方で、今回のデモ行進は、規模の小さい自治体でも実施され、参加者の裾野が広がった。労組側は共同で、16日(木)にも抗議行動を実施する予定だが、3月7日(火)のその次の抗議行動に特に照準を合わせており、この日には「フランス全国を停止させる」ことも辞さないと予告している。

年金改革法案の下院審議は今週末(17日)に終了する予定だが、主に左派野党側が乱発した1万6000件近くの修正案の審議をまだ残している。

10日までには年金特殊制度(公社等に適用される)の一部の段階的な廃止を定める第1条がようやく採択された。政府は年金改革の基本方針では譲らない姿勢を維持しており、厳しい綱引きが今後とも続くと予想される。【2月13日 エトワ】
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【「言うべきことを言わざるはフランス人の恥」】
一般に、個人の権利意識が強いフランスでは(他人に迷惑をかけるストが非常に難しい)日本と異なり、こうした抗議行動に市民が寛容なことは知られていますが、そのあたりの事情を描写した報告が下記。

****言うべきことを言わざるは恥 フランス年金改革反対デモの層の厚さ****
毎週のように、特に土曜日になると、どこかで何らかのデモをやっている気がするフランスで、今回の年金改革反対のデモは、12年ぶりの労働組合統一の大規模なデモになると言われていましたが、実際に年明け1月半ばに入ってから始まった今回のデモは、すでに数回にもわたって続いており、フランス本土でほぼ毎回100万人以上を動員する大規模なものとなっています。

今回の年金改革の焦点は、なんといっても定年の年齢が引き上げられることにあり、現在は62歳定年であるところを当初の政府の改正案では、65歳までに延長されたもので、これにフランス国民は大激怒。

政府は早々に64歳に引き下げる歩み寄りを見せたのですが、この64歳までという2年間の延長を国民は、「死ぬまで働かせるつもりか?」、「老後の生活を奪うのか?」と国民の怒りは一向におさまりそうもありません。

デモとストライキはセットのようなものですが、このストライキの方は、一番迷惑な公共交通機関などではありますが、これには、パンデミックのために浸透したリモートワークの普及により、以前ほどの混乱はありませんが、それでもこの騒動が長引き、冬休みのバカンスに出かける人々が足止めを食ってしまったり、先週もパリ・オルリー空港ではフライトの50%がキャンセルされた・・などという話を聞くと、「出かける予定にしてなくてよかった・・」とホッとしつつも、これでは、一体、いつだったら、キャンセルされるリスクがないのか?とウンザリしてしまいます。

しかし、今回ばかりは、全国民に共通する問題ゆえ、怒るに怒れないところもあるのですが、通常でもフランス人の日常のテンションからしたら、このような足止めなどにもっと怒ってもよさそうなものに、意外とあっさり受け入れて飲み込んでいるのも解せない気もするのです。

家族ぐるみでデモの教育をするフランスの文化
私がフランスに来たばかりの頃に、夫の友人宅に招かれた時、料理上手な奥様が腕を振るって大歓待してくださったのですが、その時に、「フランスに来て最も印象的なことは?」と聞かれて、「デモとストライキ」と答えたら、とても満足そうだったことがとても意外でした。

私としては、当時、長引くSNCF(フランス国鉄)のストライキのために、通勤には、通常の倍近い時間がかかるだけでも、もうヘロヘロでウンザリしており、「文句があるからといってストライキで解決しようとするのは、駄々をこねている子供のようで、これがまかりとおるなんて!!」と多少、皮肉を込めて答えたのですが、それが満足そうに受け取られたことに、逆に驚かされたのを覚えています。

フランス人は、このデモやストライキをする権利というものをとても尊重していて、彼らの生活にとっては、大前提に存在するものであり、彼らの誇りでもあるのです。

今回の年金改革は、現役世代だけでなく、次世代の若者や子供にも関わることでもあり、高校生がこの抗議のために学校をブロックしたなどということも起こっていますし、デモ隊の中には、子供連れの家族、おばあちゃんが子供夫婦や孫たちまで引き連れて参加し、「言うべきことを言わないのは恥、抗議するべきときには、しっかりそれを表現しなければならない。デモというものを子供たちにも受け継いでいかなければならない!」などと家族ぐるみで来ていたりして、なるほど、こうしてフランスのデモは脈々と受け継がれていっているのだと、フランスの家庭の教育には、このような項目も入っているのだと妙な感心をしたりもしました。

この連れられている小学生くらいの子供たちも、おそらく親たちが話していることの受け売りであろうと思いつつも、マイクを向けられれば、いっぱしのことを力強く語ったりするのもフランスならではだなと思うのです。

こうして親子、孫まで3世代にわたってデモに参加していれば、動員数も多くなるわけで、中には、天気もいいしなどと、ピクニック気分で来ている人などもいて、仮装したり、歌を歌ったり、楽しみながら参加している人もいます。

しかし、中にはこのデモに乗じて破壊行動を行うブラックブロックなる集団がいたり、暴徒化することもあり、催涙ガスなどで煙が立ち上る程度は珍しくないことで、場所によっては、車やゴミ箱などが燃やされたり大変な事態に陥ることも少なくはなく、このデモ隊を警護する警察官や憲兵隊の武装も初めて見たときには、そのあまりの重装備とイカつさには何事か?とギョッとさせられたほどでした。

今回のデモでは、よほどこの警護が厳重なのか?そこまで暴力的な運びにはなっていないものの、これが続いて、以前の黄色いベスト運動の時のようなことになれば、もうその日はまともな生活が送れないほどに、デモのルートにある商店などは閉店を余儀なくされたりもします。

日本にも政府に抗議する手段があれば・・
フランス政府は毎回のデモに相当数の警察官や憲兵隊を動員しつつ、恐らく相当の費用をかけつつもデモを行う権利を尊重することに誇りを持っているのですが、この国民の声を非常に注意深く見ており、この国民の声に答えるために、テレビのニュース番組や討論番組に積極的に登場したりしているのが常ではありますが、今回の年金問題に対しては、今のところ、そのような討論番組、いわゆるディベート番組は1度しか目にしておらず、口の達者な政府報道官をもってしても、どうにもあまり優勢とは見えずに、その後、この手の番組への出演は控えているようにも見えます。

そもそも赤字を補填するために国民にもっと長い期間を働かなければならないことを納得させるのは至難の業で、日本のように退職後も居場所を求めて再就職(現在は経済的な問題も含んでいるとは思いますが・・)しようとする人もいる国民とは違って、老後の生活をそれなりに楽しもうとしている国民にとって、定年後、まだ元気なうちに十分楽しめる時間を奪われることは大問題でもあるのです。

フランスに来た当初は、こうしたデモやストライキを苦々しく思っていた私ではありますが、最近の日本の状況を見ていると、かなり支持率が低い現在の政府にもかかわらず、とんでもないことがどんどん決議されていってしまう気がしていて、もうこれほど人気がないことにも慣れてしまった政府には、怖いものなど何もなく、決められたことにはおとなしく従う国民は、言われるがままに従わざるを得ないような状況に、むしろ、日本にもフランスのデモやストライキなど、政府に抗議する手段はないものか?と思わずにはいられないのです。

フランス政府は、黙ってはいない国民の声に対して、非常に注意を払って発言していると思いますが、日本政府、首相などの説明などフランスだったら、絶対通用しないものばかり。以前、私はフランスの職場でフランス人の同僚に「日本人は黙って我慢するからダメなんだ!」と言われて閉口したことがあり、私自身、日本人的要素がまだまだ強いことも否めないのですが、最近では、フランスのこのデモなどが起こる状態の方が社会としては健全であるような気もしているのです。

こうしたデモが予定されている場合、在仏日本大使館からは必ず、予定されているデモのルートとともに「危険な事態も予想されますので、できる限り当日は近寄らないようにしましょう」などというメールを送ってくださるのですが、最もなことではありながら、日本ってこうなんだな・・と思ったりもします。危険だからデモには近寄るなという日本と教育のためにも孫まで連れてデモに参加する人がいるフランス。

孫を連れてきていたおばあさんが言っていた「言うべきことを言わざるはフランス人の恥」という言葉が、私には、以前よりもずっと重く響くようになっているのです。【2月15日 RIKAママさん Newsweek】
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もとろん上記内容は“RIKAママさん”の個人的感想であり、日本の高齢者の仕事に対する考え方には必ずしもネガティブなものばかりでもありません。(私自身がそういう年齢にあって、今後についていろいろ考えます)

“決められたことにはおとなしく従う国民”ということにも(私自身は、基本的に同意しますが)異論のある方は多いでしょう。

そういう話はあるにしても、日本とフランス、国民の意識に相当異なるものがあることも改めてうかがえて、興味深いところです。

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