(ロシアへの兵器供与検討否定し、米の主張は「虚偽」だとする中国外務省の汪文斌報道官(2023年2月20日撮影【2月20日 AFP】)
【中国のロシアへの武器供与について、ウクライナがアメリカ主張を否定】
中国によるロシアへの「殺傷力のある」武器供与をめぐっては、ブリンケン米国務長官が懸念を表明。2月17~19日にドイツで開かれたミュンヘン安全保障会議で、中国外交部門トップの王毅(ワンイー)・共産党政治局員と会談した際に「深刻な結果」もたらすと警告したと報じられています。
また、同時期の2月23日には、ドイツ誌シュピーゲルがロシアが35~50キロの弾頭を搭載可能なドローン100機の購入について中国企業と協議していると報じました。
このあたりの話は、中国とロシアの接近に対するアメリカの牽制ということで、2月24日ブログ“中国 王毅氏のロシア訪問で連携をアピールするも慎重対応は崩さず 米は中国のロシア接近を牽制”でも取り上げました。
もちろん、中国は強く否定しています。
****「戦場に武器を提供しているのはアメリカだ」米高官の“武器供与”発言に中国政府が強く反発****
アメリカのブリンケン国務長官がウクライナへの侵攻を続けるロシアに対し「中国が武器の供与を検討している情報がある」と発言したことを受け、中国政府は「戦場に絶え間なく武器を提供しているのはアメリカだ」と強く反発しました。(中略)
中国外務省 汪文斌 報道官
「戦場に絶え間なく武器を提供しているのは中国ではなくアメリカだ。アメリカ側は中国に命令する資格がない」
一方、中国外務省の汪文斌報道官は20日の記者会見で強く反発し、「アメリカ側に偽の情報を広めることを停止するよう促す」とけん制しました。(後略)【2月20日 TBS NEWS DIG】
中国外務省 汪文斌 報道官
「戦場に絶え間なく武器を提供しているのは中国ではなくアメリカだ。アメリカ側は中国に命令する資格がない」
一方、中国外務省の汪文斌報道官は20日の記者会見で強く反発し、「アメリカ側に偽の情報を広めることを停止するよう促す」とけん制しました。(後略)【2月20日 TBS NEWS DIG】
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「悪いのはロシアだ」という前提を抜きにして言えば、「戦場に武器を提供しているのはアメリカだ」という中国の言い分は至極“もっとも”です。
興味深いのは、前述のドイツ誌シュピーゲルのドローン報道の位置づけはよくわかりませんが、ウクライナがアメリカの主張を否定し、中国のロシアへの武器供与に関して「議論の兆しもない」と強調したとのことです。
****中国のロシアへの武器供与検討を否定 ウクライナ情報局長****
ウクライナのキリロ・ブダノフ情報局長は27日放送の米メディアとのインタビューで、中国がロシアに武器供与を検討しているとの米国の主張を否定し、「議論の兆しもない」と強調した。
米政府高官らは最近、中国がロシアに対し殺傷兵器の供与を検討していることを「確信」しており、供与を断念するよう外交的圧力を強めていると述べていた。
ブダノフ氏は米政府系放送局ボイス・オブ・アメリカのインタビューで、米国の主張に同意しないとし、「現時点では、中国がロシアへの武器供与に合意するとは思えない」「そのような議論の兆しさえもない」と述べた。(中略)
ロシアの武器調達先についてブダノフ氏は、確認が取れない北朝鮮を除いては、「実際に何らかの供与をしているのはイランだけだ」と述べた。 【2月28日 AFP】
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上記のウクライナ側の発言は、そもそもアメリカの言うような“疑惑”の根拠があるのか? という問題と、全面的にアメリカに支えられているウクライナがアメリカ主張を否定して、中国の肩を持つ背景が何かあるのか? という問題の二つの側面で興味深いところです。
ウクライナが中国を擁護するということの背景には、昨日ブログ“中国「停戦案」の反響 ウクライナには一定の期待感も 積極関与に対応を変えた中国の意図”でも触れた、ウクライナと中国の関係、中国への期待などもあってのことでしょうか。
そもそもアメリカ主張に根拠がないということであれば、単に事実を言ったまで・・・ということでしょうが。
【確証もない“揺さぶり”?】
アメリカの主張は確証もない“揺さぶり”だとの指摘も。
****ロシアへの「武器支援疑惑」で中国を揺さぶり始めたアメリカの“狙い”****
ロシアによるウクライナ侵攻から1年が経過し、欧米はウクライナへのさらなる武器支援を約束。一方で中国によるロシアへの武器支援疑惑を喧伝し、メディアもその論調に乗って中国を揺さぶっています。
この状況を「デジャブ」と語るのは、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さん。(中略)1年前にも確証のないまま同様の疑惑を騒ぎ立て、その後に打ち消していたと指摘。アメリカによる中国のイメージを悪化させる戦略が繰り返されているとして、その狙いを解説しています。
気球の次は「ロシアへの武器支援」で中国を揺さぶり。わかりやすい対立の裏で交錯する各国の動き
(中略)そもそもバイデン政権は、(ウクライナ和平仲介に関して)中国の建設的な役割など望んではいない。中国とロシアを反目させ、それがかなわなければ、ロシアの同類として国際社会から孤立させたいからだ。
筆者も1年前、同じ内容の原稿を書いた。まるでデジャヴだ。そしてデジャヴといえば、「中国がロシアに兵器の支援をする」という疑惑をアメリカの政府高官が、ここにきて声高に叫び始めたこともそうだ。
匿名の高官の発言から始まるのはアメリカの対中攻勢のパターンだ。最後はアントニー・ブリンケン国務長官が出てきて疑惑に拍車をかける。
一年前にも同じことが起きた。当然、中国は反発するが、ほどなくして匿名の高官が再び登場し「中国にロシア支援の動き見られず」と火消し。疑惑の幕は閉じられた。
要するに実態のない疑惑なのだが、この間、検証能力を欠くメディアは疑惑を流し続け、世界には「中国が裏でロシアを支援」というイメージが定着してしまう。
今年2月18日、ブリンケンがミュンヘン安全保障会議に出席し、中国の王毅党中央政治局委員と会談した後、SNSで「中国がロシアに物質的な支援を提供しないよう警告した」と投稿したのは、まさにデジャヴだ。
同じタイミングで20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議のためインドを訪れたジャネット・イエレンも中国を名指しし、「ロシアへの物資提供やあらゆる形の組織的な制裁回避に対し我々は深刻な懸念を抱いている」と追い打ちをかけた。
中国側はこれに激しく反発。定例会見で中国外交部汪文斌報道官は「根拠なき中傷」、「戦場に武器を提供し続けているのは米国であって中国ではない。米国には中国に指図や命令をする資格はない」と応じたが、情報の拡散を止められたとは思えない。
中国は自国の気球がアメリカに撃墜された問題でも、「アメリカは残骸を拾い上げ、分析した。中国はその進展を明かすように求めたが、アメリカ側からの反応はない」と不満を漏らしていた。証拠がなくても情報は拡散され、イメージは造られるのだ。
実際、アメリカのテレビPBSの番組「ニュースアワー」に出演したウィンディ・シャーマン米国務副長官も、中国のロシア支援疑惑についてキャスターから「具体的に中国が検討しているどのような支援のことを指すのか」と問われても明確には答えなかった。
不思議なのは、米中のこうした攻防の舞台となったインド(南部ベンガルール)に対しては、バイデン政権も中国とは違ってどこまでも寛容な点だ──【2月28日 富坂聰氏 MAG2NEWS】
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気に入らない相手に関しては、証拠の有無を問わず徹底的に攻撃する、見方につけたい相手に関しては、おおくのことに目をつぶる・・・というのは、世間一般の常識ではありますが・・・
アメリカには、イラクの大量破壊兵器という“前科”もありますので、そうしたことも考慮する必要があるのかも。
中国のロシアへの軍事支援に関しては、ベラルーシのルカシェンコ大統領の訪中も注目されています。
****ベラルーシ大統領、習近平氏と会談へ…同盟国ロシアへの軍事支援働きかけるとの見方も***
ロシアの同盟国ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が2月28日、北京に到着し、中国の習近平シージンピン国家主席と会談する。
ロシアのウクライナ侵略を手助けする立場として、ルカシェンコ氏が自国を介した対露軍事支援を中国に働きかけるとの見方が出ている。
ルカシェンコ氏の訪中は昨年2月のロシアの侵略開始後初めてで、習氏が招待した。訪中は3月2日までの日程で、中国はベラルーシとの関係強化を誇示し、対露軍事支援の供与を懸念する米国をけん制する意図があるとみられる。
米政策研究機関「戦争研究所」は2月27日、ルカシェンコ氏が訪中を通じ、ロシアに「制裁の抜け穴」を提供するための道筋を付ける可能性があると指摘した。ルカシェンコ氏は訪中前の27日、攻撃用無人機の国内での量産に意欲を見せた。
露軍はウクライナ北方にあるベラルーシに侵略開始前から演習名目で駐留しており、現在もウクライナへのミサイル攻撃の拠点としている。ベラルーシは露軍動員兵の訓練などにも協力する一方で、直接参戦は拒み続けている。【2月28日 読売】
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いくら協調パートナーあるいは同盟国と言っても、自国の利益が第一。中国・ベラルーシがアメリカの怒りを買ってまでロシア・プーチン大統領を支援するというのも、やや考えにくいところではありますが・・・。
【加速する米中対立】
軍事支援・武器供与以外でも、ロシア支援で米中の対立は強まっています。
****ウクライナ侵攻めぐり中国企業への制裁に中国政府「強烈な不満」****
アメリカがロシアに対する新たな経済制裁を発表し、その中に中国企業が含まれていることについて、中国政府は「強烈な不満を表明する」と強く反発しています。
アメリカ政府は24日、ロシアのウクライナ侵攻から1年になるのにあわせ、ロシアに対する新しい経済制裁を発表しました。
また、ロシアの制裁逃れに加担していた中国を含む第3国の個人や団体も制裁対象に加えられ、これについて中国政府は次のように反発しました。
中国外務省 毛寧報道官
「中国はこれに強烈な不満と断固たる反対を表明し、すでにアメリカ側に厳正な申し入れを行った」
そのうえで、「偽情報をばらまき、道理なく中国企業に制裁を科すのは、あからさまないじめとダブルスタンダードだ」と批判、制裁を撤回するよう求めています。【2月27日 TBS NEWS DIG】
アメリカ政府は24日、ロシアのウクライナ侵攻から1年になるのにあわせ、ロシアに対する新しい経済制裁を発表しました。
また、ロシアの制裁逃れに加担していた中国を含む第3国の個人や団体も制裁対象に加えられ、これについて中国政府は次のように反発しました。
中国外務省 毛寧報道官
「中国はこれに強烈な不満と断固たる反対を表明し、すでにアメリカ側に厳正な申し入れを行った」
そのうえで、「偽情報をばらまき、道理なく中国企業に制裁を科すのは、あからさまないじめとダブルスタンダードだ」と批判、制裁を撤回するよう求めています。【2月27日 TBS NEWS DIG】
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【再び新型コロナ「中国武漢研究所由来」説】
根拠が定かでないアメリカの中国批判ということでは、今頃・・・という感はありますが、例の新型コロナ「中国の研究所由来」説もまた再燃しています。
****新型コロナは「研究所由来」=米エネルギー省が結論―報道****
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは26日、新型コロナウイルスの起源を調査するエネルギー省が、自然由来ではなく「研究所から漏出した可能性が最も高い」と結論付けたと報じた。ホワイトハウスや議会関係者に新たに共有された機密報告書の内容として伝えた。
エネルギー省は、高度な生物学的研究を行う国立研究所を所管する。報道に関し、サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)はCNNテレビで「否定も肯定もできない」と語った。その上で、「バイデン大統領は特に、エネルギー省傘下の国立研究所を真相究明の作業に参加させるよう求めた」と付言した。【2月27日 時事】
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ただ、「武漢のウイルス研究所から流出した可能性が高い」という見解は、アメリカ政府の統一見解ではありません。
****新型コロナ研究所流出説「統一見解ない」 米高官****
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は27日の記者会見で、エネルギー省が新型コロナウイルスの起源について、中国湖北省武漢のウイルス研究所から流出した可能性が高いとの分析結果をまとめたと米メディアが報じたことについて、「現時点では米政府内で一致した見解はない」と述べた。
米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)などが26日報じたもので、エネルギー省は機密扱いの報告書の中で「低い信頼度」の判断としながら、武漢のウイルス研究所から流出した可能性が高いと結論付けた。
カービー調整官は、新型コロナの起源に関する米情報機関の統一見解や政府としての明確な結論は出ていないと指摘。「バイデン大統領は将来の新たな感染症のパンデミック(世界的大流行)を予防するために調査を継続することが重要と考えている」と強調した。結論が出れば米議会などに説明するとしている。
同紙によると、エネルギー省と同様に連邦捜査局(FBI)も先に、新型コロナが武漢の研究所から意図しない形で流出した可能性が高いと結論付けた。
だが、米政府内の4機関はウイルスが自然界から伝播した可能性を指摘、2機関は判断を下していないとし、同紙は「米情報当局の中でいかに判断が異なるかを浮き彫りにしている」と指摘した。
中国政府はウイルス研究所起源説をめぐる米国の報告書に強く反発している。【2月28日 産経】
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「現時点では米政府内で一致した見解はない」とは言っても、こういう情報が流れると「やっぱり中国が・・・」という世間の反応を惹起します。
アメリカ世論は、ロシアより中国の影響力拡大に懸念を強めています。
そういう土壌にあっては、中国叩きが世論を味方につけやすい政治的“正解”ともなりがちです。(別に、アメリカの主張が、そういう根拠なき“中国叩き”だと言っている訳ではありませんが)
****米国人の6割、中国の世界的影響力に深刻な懸念―独メディア****
独ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトによると、米国人の60%が米国に次ぐ世界第2の経済大国である中国の世界的影響力について深刻な懸念を抱いていることが、米国のAP通信と全国世論調査センター(NORC)の共同調査で分かった。
調査は16〜20日にかけて実施され、成人1247人から回答を得た。誤差幅±3.7ポイント。
バイデン米大統領は16日、中国の偵察気球の撃墜で緊張する米中関係に関して「中国とは対立ではなく競争を望む」「中国と新冷戦に向かうとは考えていない」「競争が衝突に発展しないよう責任を持って管理する」などと表明した。
AP通信によると、中国の世界的影響力について深刻な懸念を抱いている人の割合は、20年1月時点の48%と21年1月のバイデン政権発足直後の54%から着実に増加している。
一方、ドイチェ・ヴェレによると、ロシアに対して深刻な懸念を抱いていると回答したのは全体の53%にとどまり、ウクライナ侵攻直後の22年3月時点の64%から低下した。【2月27日 レコードチャイナ】
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中国は「アメリカ政府が結論づけた」と反発しています。
****「コロナ起源は武漢の研究所」に中国反発 米政府が結論づけたと報道****
アメリカ政府が新型コロナウイルスの起源について、「武漢の研究所から漏れ出た可能性が高い」と結論づけたとの報道に中国が反発した。
中国外務省報道官「実験室から漏れ出たという論調を蒸し返し、中国に泥を塗り、発生源の究明を政治化することをやめるべきだ」
中国外務省は、27日の会見で、「武漢の研究所から漏れ出た可能性が極めて低いことは、中国とWHO(世界保健機関)の共同調査による科学的な結論で、国際社会にも広く認められている」と反論した。(後略)【2月28日 FNNプライムオンライン】
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【米中間に必要な衝突回避の「ガードレール」】
意図した対応に意図せざる情報の流布なども相まって過熱する米中の政治対立ですが、米ソ冷戦時代と異なるのは、米中は経済的には密接な関係にあることです。
****米中対立を加速させる、気球の「次」の危機は何か?****
2月9日付の米ワシントン・ポスト紙(WP)に、同紙コラムニストのファリード・ザカリアが、「次の気球のような危機は萎ませるのがより難しいだろう」との論説を書いている。
一般教書演説でバイデンは中国の気球事件に一行しか言及しなかったが、この事件からの波及を封じ込めようとの努力を示唆する。
われわれは、経済的に深く相互に連結されている2カ国の増大する地政学的対決を見ている。この偵察気球事件の中で、今週は米中貿易額がこれまで最大の 6900 億ドルになった。
これは、トランプ政権以降の対中関税と、それへの中国の対米報復関税にもかかわらず達成された。ハイテク製品輸出を規制するバイデン政権の新しい規則とも逆方向である。
われわれは中国とは二つのレベルで作用している。一つには、地政学レベルで緊張は急速に高まっている。もう一つは商業レベルで、これは政府ではなく米中の消費者や企業によって決められている。この関係は相互依存である。この二つの領域は、目的が逆であるのに引き続き前進できるだろうか。そうはならない可能性が高い。
地政学的緊張は迅速に大きくなる可能性がある。今週、気球よりもっと意義あるニュースがあった。核兵器を監督している米戦略司令部は、議会に中国は米国よりも多くの大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射機を持っていると通知した。米中関係が悪化する中、中国は核兵器庫を急速に建設する方向に動いている。(中略)
米中間では、誤解が生じないように十分な意思疎通をしていくことがアジア、太平洋地域での紛争を処理するために重要である。
米中間に必要な「ガードレール」
米国は米中間の衝突回避のための「ガードレール」の必要性を強調しているが、軍の間の意思疎通はガードレールの一要素として重要である。誤解から衝突を起こし、それを内外の事情から収められなくなるというのが最も馬鹿げているという意識を米中双方が持つべきであろう。(後略)【2月28日 WEDGE】
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