(昨年9月、ウズベキスタン・サマルカンドで顔を合わせたロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席(右)【2月5日 共同】)
【ウクライナの生命線、欧米諸国の支援】
周知のようにロシア軍の侵攻になんとかウクライナが耐えているのはアメリカを始めとする欧米からの支援があっての話です。
****各国のウクライナ支援、15兆円超 米独の戦車供与にロシア反発****
ロシアの侵攻が続くウクライナに対し、西側諸国は相次いで支援を表明した。キール世界経済研究所(ドイツ)のまとめでは、これまでの支援表明額(2022年11月20日時点)は、軍事支援・人道支援・財政支援の3分野を合わせて少なくとも計1080億ユーロ(約15兆3000億円)に上る。
国別では、米国が479億ユーロで、全体の4割強を占める。このうち軍事支援が229億ユーロで最も多く、財政支援151億ユーロ、人道支援99億ユーロと続く。
米国はこれまで、高機動ロケット砲システム(HIMARS)や耐地雷装甲車「マックスプロ」など多くの武器を供与し、ウクライナ軍への使用訓練も実施して戦局に影響を与えてきた。地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」や主力戦車「M1エーブラムス」の供与も表明し、引き続き軍事支援をリードしていく姿勢を示している。
欧州各国の軍事支援は英国が41・3億ユーロ、ドイツ23・4億ユーロ、ポーランド18・2億ユーロ――など。ドイツは1月、欧州で広く保有されている自国製主力戦車「レオパルト2」を供与すると表明した。ポーランドなどの保有国もこの戦車を供与する方針で、ロシアは猛反発している。【2月6日 毎日】
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ドイツ戦車「レオパルト2」をめぐるドイツ・関係国間の駆け引きについては一段落しましたが、いつ・どれだけ供与するのかという現実的問題はこれからです。
アメリカは高機動ロケット砲システム「ハイマース」で使用する射程80キロのロケット弾をウクライナに供与していますが、ウクライナの要望で、射程が最大150キロと倍増する精密誘導ロケット弾「地上発射型小直径爆弾」(GLSDB)の供与も決めています。
【トルコ ロシア軍に必要な機械や電子機器など数千万ドル相当を輸出 アメリカは制裁リスクを警告】
一方のロシアは、かねてより武器・弾薬の不足、あるいは経済制裁による経済への打撃等が指摘されています。
そのロシアを支えていると言われる(公にはしていない部分も含めての話ですが)のが、トルコ、イラン、北朝鮮などであり、ぞして、今後のロシアの戦闘能力維持に最も影響力があるのが中国の動向です。
****ロシアの戦闘、トルコの輸出が下支え****
トルコの企業は昨年、ロシア軍に必要な機械や電子機器など数千万ドル相当を輸出したことが貿易データで明らかになった。ウクライナへの侵略を巡り国際社会の制裁を受けているロシアが、なぜ戦争を継続できるのかをこのデータは示している。
今回のデータによると、少なくともトルコ企業13社が、樹脂やゴム製品、車両など合計1850万ドル(24億円)を超える品目を、米国の制裁対象となっている少なくとも10社のロシア企業に輸出した。
これらのトルコ企業は米国製の製品を3回は出荷している。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)はこのデータを確認した。
これに加え、トルコ企業が2022年3月から10月にかけて、ロシアの軍需産業を対象とした米国の輸出規制に反して米国製の昇降機や発電機、回路基板など1500万ドル相当をロシアに輸出していたこともこのデータで分かった。
ロシアによるウクライナ侵攻を受け、昨年は米国をはじめ30カ国以上が、ロシアが戦争継続に必要とする資金や武器、技術を遮断する目的で制裁を発動した。トルコは北大西洋条約機構(NATO)に加盟しているものの、制裁の実行には加わらないことを表明している。
米国は中立的な立場を取るトルコなどに対し、制裁の柱となる分野について協力するよう促している。米財務省の高官は今週、ロシアの軍事調達網の分断などを狙い、トルコとアラブ首長国連邦(UAE)、オマーンを訪問した。
トルコ当局者は制裁について、国連安全保障理事会が決めた措置は実施するものの、米国などが科した措置は実行しない考えを示している。トルコ外務省はまた、対ロ制裁逃れの試みは容認していないとも述べている。【2月4日 WSJ】
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アメリカは上記のようなトルコに対し、(「米国などが科した措置は実行しない」とするトルコの立場との関係はよくわかりませんが)このままでは企業ないし銀行が制裁対象になると警告しています。
****米政府がトルコに制裁リスク警告、軍事転用可能製品のロシア輸出で****
米政府はトルコに対して、ロシアがウクライナでの軍事作戦に転用可能な化学製品やマイクロチップなどがトルコから輸出されており、このままでは企業ないし銀行が制裁対象になると警告している。
米財務省のネルソン次官(テロ・金融情報担当)は2―3日にトルコを訪れて政府や民間企業の幹部らと会談し、こうした製品のロシア向け禁輸でより緊密な連携を促した。
ネルソン氏はトルコの銀行関係者への講演で、1年にわたってトルコからロシアへの輸出が続いているのは明白で、トルコ企業は特に制裁リスクにさらされやすくなるか、主要7カ国(G7)の市場にアクセスできなくなる恐れがあると指摘。ロシアの軍産複合体に利用されかねない軍事転用可能な技術に関連した貿易を避けるよう用心すべきだと訴えた。
またある米政府高官は、ネルソン氏や米国代表団の1人がトルコにおける複数の会合で、数千万ドル規模の輸出が懸念対象に上っていると強調したと明かした。
トルコはロシアに対する包括的な経済制裁には原則として反対しているが、制裁逃れの取引がトルコ経由で行われるとの見方は否定している。【2月6日 ロイター】
米財務省のネルソン次官(テロ・金融情報担当)は2―3日にトルコを訪れて政府や民間企業の幹部らと会談し、こうした製品のロシア向け禁輸でより緊密な連携を促した。
ネルソン氏はトルコの銀行関係者への講演で、1年にわたってトルコからロシアへの輸出が続いているのは明白で、トルコ企業は特に制裁リスクにさらされやすくなるか、主要7カ国(G7)の市場にアクセスできなくなる恐れがあると指摘。ロシアの軍産複合体に利用されかねない軍事転用可能な技術に関連した貿易を避けるよう用心すべきだと訴えた。
またある米政府高官は、ネルソン氏や米国代表団の1人がトルコにおける複数の会合で、数千万ドル規模の輸出が懸念対象に上っていると強調したと明かした。
トルコはロシアに対する包括的な経済制裁には原則として反対しているが、制裁逃れの取引がトルコ経由で行われるとの見方は否定している。【2月6日 ロイター】
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【北朝鮮 武器・弾薬をロシアに供給? 事実としても、ロシア支援というより窮地にある自国経済の救済が主眼】
制裁で外貨不足に苦しむ北朝鮮にとっては、ロシアへの武器輸出はロシア支援というより、自国の切実な経済事情という側面が強いようにも見えます。
****ロシアへの武器販売、北朝鮮の頼みの綱か-外貨不足で経済停滞****
北朝鮮は旧式の武器弾薬を処分する好機に飛び付くだろうと専門家
ロシアの民間軍事会社に北朝鮮が兵器を提供とNSCのカービー氏
ウクライナを攻撃する兵器を求めるロシアの需要が北朝鮮にとっては生命線となる可能性がある。比較的小規模な武器取引でも、外貨不足で停滞している経済の成長支援につながると考えられる。
米国は今月、北朝鮮がロシアのウクライナ侵攻を支援するために武器・弾薬を提供しているとあらためて非難。バイデン政権は、それにより戦況が大きく変わることはないとしながらも、世界貿易の大半から締め出された北朝鮮に新たな収入源をもたらすことになると警告した。
北朝鮮は武器提供に関する米国の主張を否定しているものの、そうした合意があるとすれば金正恩朝鮮労働党委員長にとっては絶好のタイミングだ。新型コロナウイルス感染拡大に伴う国境封鎖で、既に停滞している北朝鮮経済は数十年ぶりの大きな落ち込みとなった。
韓国銀行(中央銀行)によれば、北朝鮮経済は2021年にマイナス成長に陥り、昨年も不透明な見通しに直面していた。金氏の資金源とされるサイバー攻撃で盗んだ暗号資産(仮想通貨)が、FTXの経営破綻で打撃を受ける可能性もある。
ウクライナの最前線で復活を遂げた20世紀型の粗末な大砲などの武器は、金氏が大量に所有しているものの一つだ。国際戦略研究所(IISS)の推計では、北朝鮮が保有する大砲は2万1600基余りに上る。
武器専門家のヨースト・オリーマンズ氏は「北朝鮮は老朽化した旧式の武器・弾薬を大幅に値上げして処分する好機に飛び付くだろう」と指摘。著作「朝鮮民主主義人民共和国の陸海空軍」を執筆した同氏は、金政権はロシアの一部システムと互換性のある旧式のけん引砲を大量に生産しているとも述べた。
米国は北朝鮮がロシアに送ったと考えられる武器の数量について詳細を明らかにしていないが、バイデン政権は昨年9月にそうした批判を最初に展開した際、ロシアは北朝鮮から数百万のロケット弾や砲弾の購入を目指しているとしていた。
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は約1週間前の記者会見で、ロシアのウクライナ侵攻に深く関与している民間軍事会社ワグネル・グループが北朝鮮から兵器の提供を受けていると発言。北朝鮮に向かうロシアの鉄道車両とされる画像2つを公開した。
カービー氏は金政権が受けるメリットに触れ、「われわれは北朝鮮の行動を明確に非難し、ワグネルへのこうした供給を直ちにやめるよう求める」と表明した。
米国務省の報道官は、ロシアへの武器販売によって北朝鮮が受ける可能性のある経済的な恩恵についてコメントを控えたが、米国はワグネルに対するさらなる軍事物資提供を引き続き懸念していると語った。【1月30日 Bloomberg】
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北朝鮮は、上記記事にもあるように「(米国が)ありもしないことまででっち上げて、我々のイメージを傷付けようとしている」(北朝鮮外務省のクォン・ジョングン米国担当局長)と否定しています。
この北朝鮮からロシアへの武器輸出(裏を返せば、そこまでロシアが武器・弾薬に困っているという話にもなります)については、以前からある話ですが、事実かどうかは判然としません。
ロシアが以前北朝鮮に輸出した武器・弾薬などを北朝鮮から買い戻したという話もあるようですが、新たにロシアが北朝鮮から本格的に武器・弾薬を購入するという話については疑問を呈する向きもあるようです。
「ありうる」けど、規模は大きくないと推測する向きも。
****ロシアが北朝鮮に販売した武器を買い戻した理由****
(中略)
北朝鮮の政治・軍事について詳しい、聖学院大学政治経済学部の宮本悟教授は、北朝鮮からロシアへの武器販売について「ありうる話だ」という。
ウクライナ侵攻のためにロシアは極東地域の部隊や兵器を欧州寄りに移し、極東の守りが手薄になっているとされ、それを補強するため北朝鮮から武器を調達する可能性はある、と説明する。
一方で宮本教授は「北朝鮮の武器はもともと自国を守るためのものであって、ロシアに武器を輸出する余力はそれほど大きくない」と指摘する。報道された「数百万ドル」という調達金額も、軍事的には非常に小規模なものでしかない。「これでロシアが武器不足に陥っていると判断するのは難しい」という。(後略)【1月1日 東洋経済ONLINE】
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生活水準が比較的高いとされる地方都市・開城市でも食料事情が悪化し、1日数十人が餓死していると報じられている(韓国の聯合ニュース)北朝鮮ですから、売れるものなら“好機に飛び付くだろう”とは思いますが。
ただ、北朝鮮としてもロシアとの関係で“深入り”する考えはないようです。
“北朝鮮は、ウクライナ東部のロシア占領地域を支援するために労働者を送り込むのを遅らせている。これはウラジーミル・プーチン大統領に最も近いこの同盟国でさえ、戦争の行方に懐疑的になっていることを示唆している。”【2月3日 BUSINESS INSIDER】
【イラン ロシア国内にイラン製ドローン生産工場建設 「本格的な防衛パートナーシップ」構築】
続いて、イランが関与しているとされるのがドローン。ロシア国内にイラン製ドローンの生産工場を建設するとか。
****ロシアとイラン、ドローン生産で協力 防衛関係強化へ****
ロシアは、イランが設計したドローンの新たな生産工場を国内に設ける計画で、イラン政府と協議を進めている。米同盟国の当局者らが明らかにした。
工場ではウクライナ戦争向けに少なくとも6000機のドローンが生産される可能性があり、ロシアとイランの協力関係の深まりを示す新たな兆候だ。
当局者らによれば、イラン政府高官は1月上旬にロシア入りし、施設の建設予定地を訪問してプロジェクトを進めるため詳細を協議した。両国はより速いドローンの生産を目指していて、ウクライナの防空システムにとって新たな脅威となる可能性もあるという。
イラン政府はこれまで数百機のドローンをロシアに供与しており、ウクライナ国内の軍事および民間施設への攻撃に利用されていると米政府当局者らは述べている。
またバイデン米政権は、ロシアとイランが「本格的な防衛パートナーシップ」を構築しているほか、ロシアが同国の戦闘機を飛行できるようイランのパイロットを訓練していると指摘している。年内にはイラン側にロシアの戦闘機を供与する意図があるという。
米政府は昨年12月、ロシアとイランが合同でドローン生産拠点をロシア国内に設ける検討をしていると述べていた。ロシアとイラン当局者からこの件について今のところコメントは得られていない。
工場はまだ着工しておらず、ウクライナでの戦況に直ちに影響を与えることはないとみられている。【2月6日 WSJ】
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このイラン・ロシア関係は「本格的な防衛パートナーシップ」のようです。
【中国 プーチン大統領にとって「頼みの綱」だが、中国は自国利益最優先で安いロシア産原油を買い漁っただけ】
そうしたイランやトルコとの関係にも増して、プーチン大統領が最も欲しいのは大国「中国」の本格的支援でしょう。
****中国、軍用品でロシア支援 「欧米制裁に抜け穴」と分析****
米ウォールストリート・ジャーナルは4日、欧米による制裁対象となっているロシアの複数の国営軍需企業に対し、中国企業が戦闘機の部品や電波妨害機器などの軍用品を輸出し、ウクライナ侵攻を支援していると報じた。ロシアの税関記録を分析し、明らかになったという。
同紙は、他にも軍民両面で利用可能な技術を使った多くの製品をロシアが中国から輸入していると指摘。中国を抜け穴として制裁を回避している実態が浮かび上がったとしている。
昨年10月に中国企業から最新鋭戦闘機スホイ35の部品を輸入。昨年8月には別の軍需企業などが輸送ヘリの航法装置や軍用車のアンテナを供給していた。【2月5日 共同】
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****ロシア、対中貿易が急増 制裁の限界浮き彫り****
ロシアと中国の貿易が昨年、急拡大したことが新たな報告書で明らかになった。疲弊するロシア経済にとって中国は生命線となっており、西側による制裁の効果に限界があることも示された。
米首都ワシントンに本部を置く非政府組織「自由ロシア財団」の報告書によると、ロシアは中国から半導体やマイクロチップなど、ウクライナとの戦争継続に不可欠な技術分野の輸入を増やした。
一方、エネルギーをはじめとする中国によるロシアからの購入拡大は、米英や欧州連合(EU)加盟国など西側によるロシアからの購入減少を補って余りある規模に達した。
「米国、EU、英国がロシアとの取引を縮小したため、中国が他を大きく引き離しロシアにとって最も重要な貿易相手国となった」と報告書は指摘した。(後略)【1月31日 WSJ】
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しかしながら、中国も“深入り”してロシアを支える考えはなそう。
“22年の露中貿易の拡大は、国際石油価格が高騰する中で、中国が割安になったロシア産原油を積極的に買い増したという要因にほぼ尽きると言っていい。”【下記 WEDGE記事】というように、あくまでも中国の利益が最優先です。
****煮え切らない中国、焦るプーチン 露中経済関係の実情****
(中略)先進国に制裁の包囲網を敷かれたロシアは、電子部品、とりわけ半導体の不足に苦しむことになった。注目されたのは、中国が抜け穴となり、ロシア向けの電子部品供給を拡大するのではないかという点であった。(中略)
今のところより詳細なデータが得られないので、断言はできないが、中国がロシア向けに電子部品輸出を大幅に増やした様子は見られない。
(中略)22年には、ロシアからのエネルギー輸入が59.5%も伸びたのに対し、エネルギー以外の品目は11.6%しか伸びなかった。このように、22年の中国の対露輸入増は、ほぼエネルギー輸入増に尽きると言って過言でない。(中略)
ロシアが息を吹き返す唯一のシナリオは……
22年12月30日にプーチン大統領と習近平国家主席のリモート首脳会談があった。その席でプーチンは、22年の露中貿易は25%ほど伸びており、このペースで行けば24年までに往復2000億ドルの貿易額を達成するという目標を前倒しで実現できそうだと、手応えを口にした。
しかし、上で見たとおり、22年の露中貿易の拡大は、国際石油価格が高騰する中で、中国が割安になったロシア産原油を積極的に買い増したという要因にほぼ尽きると言っていい。
シベリアの力2をめぐる駆け引きに見るように、中国はプーチン・ロシアに救いの手を差し伸べているわけではなく、経済協力を進めるにしても、自国にとっての利益を最優先している。
このように頼みの中国が積極的に支えてくれないとなると、筆者が以前のコラム「プーチンによる侵略戦争はいつ終わるのか」、「2023年ロシア経済を待ち受ける残酷物語」で論じたように、ロシア経済が中長期的に衰退に向かうことは、やはり不可避であろう。
ただし、一部で警鐘が鳴らされているとおり、もしも近いうちに中国が台湾に軍事侵攻するような事態となれば、話はまったく違ってくる。その場合、中国はロシアとのより強固な同盟関係を構築するはずなので、経済面で相互補完性の強い中露が支え合って、ロシアが息を吹き返す可能性が出てくる。【2月6日 WEDGE】
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こうして見ると、ロシアがある程度あてにできるのはイランのドローンぐらいかも。
北朝鮮は支えになるほどの力はないし、トルコ・中国は自国への悪影響に耐えてまでロシアに肩入れする考えはないでしょう。