(新疆ウイグル自治区当局は、漢族とウイグル人の結婚に際し、現金報酬、住宅、子どもの教育補助、仕事、医療保障などの提供を約束する。一方、結婚を断ればウイグル人一家が危険にさらされる可能性があるため、結婚は半ば強制的に進められることが多いようだ。(中略)
海外に逃れた複数のウイグル人女性は、ウイグル人の家族は、結婚に関心を示す漢人男性を拒否できる立場にはないと証言している。拒否すれば本人や家族が罰を受け、収容所に入れられたりすると想定されるためだ。【2022年12月1日 日本ウイグル協会】)
【チベット 親子の絆を断つ同化政策】
中国のチベットやウイグルにおける同化政策は日本人が想像する以上に強固・大規模で執拗です。親子の絆を断ち切るほどに。
****親や祖父母とチベット語で会話できない──漢民族の教育を受けさせる「洗脳」****
<中国で寄宿学校に学ぶ子供は2割程度。しかしチベットでは地元の学校が次々に閉鎖され、ほとんどの子供が親元を離れて寄宿学校に入らざるを得ない>
中国政府がチベット人の子供たち約100万人を寄宿学校に送り込み、漢文化に「強制的に同化」させようとしてきた──。
国連人権理事会に任命された特別報告者が2月6日、そう警鐘を鳴らす報告書を発表した。
寄宿学校で学ぶ子供の割合は、中国のほかの地域では2割程度。しかしチベットでは地元の学校が次々に閉鎖され、大半の子供が親元を離れて寄宿学校に入らざるを得ない。
教育内容は多数派である漢民族の文化が中心で、チベット独自の言語や歴史を学ぶ機会はほとんどない。
その結果、子供たちは「両親や祖父母とチベット語で会話をする能力を失いつつあり、それが同化とアイデンティティー喪失につながっている」と、特別報告者は指摘する。
国連は昨年8月にも、中国が新疆ウイグル自治区でウイグル人などを「職業訓練施設」に強制収容していると指摘し、現代の奴隷制だと非難した。だが中国当局は、この時も事実無根と反論していた。【2月14日 Newsweek】
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【今後の焦点はダライラマ14世の後継者問題】
チベット文化の中核たるチベット仏教についても「宗教の中国化」を進めています。
****「宗教の中国化を堅持」チベット視察の中国高官、少数民族の同化政策継続も強調****
新華社通信によると、中国共産党序列4位の汪洋ワンヤン人民政治協商会議主席が23〜25日、甘粛省甘南チベット族自治州を視察し、党への忠誠を信仰に優先させる「宗教の中国化」を堅持する方針を強調した。
汪氏は自身が主宰した座談会で、「宗教の中国化を堅持し、チベット仏教を社会主義社会にさらに適応させる」と述べた。汪氏は「中華民族共同体の宣伝・教育を深化させ、標準中国語の普及を推進する」とも語り、少数民族の同化政策を引き続き進める考えも強調した。【2022年5月28日 読売】
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中国政府の執拗な同化政策に対して、独自のチベット文化を守ろうとしているチベットの人々ですが、おそらく今後の最大の焦点は、高齢のダライラマ14世の後継者への介入でしょう。
****ダライ・ラマ後継に介入する中国 チベット支配強化狙う****
チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世が87歳になった。なお精力的に活動しているが、高齢を気遣う声も強まっている。信者から一身に敬愛を集めるチベット社会の精神的支柱にもし万一のことがあれば、その衝撃は計り知れない。とりわけ懸念されているのは、中国政府が自分たちの意のままになる人物を一方的にダライ・ラマの後継者に選び、チベット支配の強化に利用しかねない問題だ。(時事通信解説委員 杉山文彦)
(中略)
失踪したパンチェン・ラマ
しかし、たとえ後継者を亡命政府が認定しても、中国側がそのまま受け入れる見込みはほとんどない。ダライ・ラマ14世のことを共産党政権は独立を目指す「分裂主義者」と見なし、敵視しているからだ。
実際、中国がチベット仏教界の後継問題に介入した前例がすでにある。
1995年5月、ダライ・ラマは当時6歳のゲンドゥン・チューキ・ニマというチベットに住む少年を、阿弥陀如来の化身とされるパンチェン・ラマの11世に認定した。ところがそのわずか3日後、この少年は両親とともに拉致された。そして中国政府は同年11月、別のギャルツェン・ノルブという6歳の少年を一方的に「パンチェン・ラマ11世」にまつり上げた。
それから四半世紀が過ぎても、ダライ・ラマが認定したパンチェン・ラマ11世は失踪したまま。米国務省は今年4月25日、声明を出し、中国に対して「きょうはパンチェン・ラマ11世であるゲンドゥン・チューキ・ニマの33回目の誕生日だ。その居場所と生活状況を直ちに説明し、彼に完全な人権と基本的自由の行使を認めるよう求める」と迫った。
「国際社会は抗議の声を」
ダライ・ラマの後継者も、中国が選定に介入すれば、操り人形にされる恐れがある。
ダライ・ラマ14世は2011年、首相職を亡命政府に設け、政治指導者の立場からは退いた。とはいえ、その存在はチベット人社会で圧倒的であり、一方、中国にとってはなお大きな壁と映っている。
共産党政権はチベットで中国への同化政策を推進し、政教一致社会の転換を図ってきた。多くの仏教寺院を破壊し、中国語教育を強制した。中国人の移住者も増やし、チベット人600万人に対して中国人が750万人と、人口も逆転した。
だが(ダライ・ラマ法王日本代表部事務所の)アリヤ氏は「中国はチベットを侵略してからもう70年になるけれど、いまだに完全に支配できていない。私たちは土地を奪われたものの、チベットの文化、宗教のアイデンティティーはとても強く、ナショナリズムを守ることができたのです」と話す。
その中核にいるのがダライ・ラマ14世だ。だからこそ中国は後継者選定を主導しようと動いている。アリヤ氏は危機感を募らせ、「中国が自分勝手なことばかりするのに対して、国際社会も沈黙せず、抗議の声を上げてほしい」と訴えている。【2022年9月11日】
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この問題で、中国政府のコントロール下での転生による後継者人選を警戒するダライラマ14世は、後継者は必ずしも転生による必要はないという考え方(チベット側が選んだ人間が後継者になればいいという考え)もあるとしていますが、中国政府は(自らのコントロール下での)転生による人選を主張するという、チベット仏教側の宗教的伝統に反してでも・・・という姿勢に対し、宗教に批判的な共産党政府が宗教的伝統に従って・・・と奇妙な逆転現象が生じています。
【DNA強制採取によるデータベース構築も】
一方、科学技術を駆使した統制管理も進んでいます。
****チベットで住民のDNA強制採取 国際人権団体が中国非難****
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は5日、中国当局がチベット自治区で、幼稚園の子どもを含めた住民から強制的にDNA採取を進めていると非難する声明を発表した。
声明によると、犯罪抑止などを名目に自治区全域で採取を推進、住民は拒否することができない。自治区への一時的な滞在者も対象となり、当局は地域レベルのDNAデータベース構築に取り組んでいるという。
HRWは「当局は監視能力向上のため住民の同意なしに(DNAを得るための)血液を採取している」と批判。「DNA採取を地域全体に強制するのは深刻な人権侵害」と非難した。【2022年9月5日 共同】
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【ウイグルでも進む近未来ディストピア的監視社会 信用度が低いと収容所】
こうした科学技術やAIを使った監視体制はウイグルでも。
****168人への取材で判明。もはや「AI監獄」と化した新疆ウイグル自治区の実態****
日本の大手メディアがほとんど踏み込むことのない新疆ウイグル自治区の問題。アメリカ人ジャーナリストのジェフリー・ケイン氏が168人ものウイグル人に取材し暴いた現在の彼の地の状況は、驚くべきものでした。
今回の無料メルマガ『1分間書評!『一日一冊:人生の智恵』』では、中国共産党がこの数年で進めてきた最先端AIを駆使した統制方法を紹介。取得したデータを利用し、強制収容所内で起こっているかもしれない恐ろしい疑惑についても言及しています。
『AI監獄ウイグル』 ジェフリー・ケイン 著 濱野大道 訳/新潮社
第二次大戦中、ドイツのナチス政権は、占領地のユダヤ人に黄色いダビデの星のマークを着用することを義務づけていました。ユダヤ人は最終的には強制収容所で虐殺されることになりました。
この本ではアメリカ人ジャーナリストである著者が、168人のウイグル人に取材した結果、今、ウイグルではスカイネット(天網)と言われる個人認識・評価システムでウイグル人の信用度を評価していることがわかります。ウイグル人は中国共産党から、デジタル上でマークを付けられているのです。
2013年頃には、ウイグル族か、失業中か、海外に住む家族がいるかといった情報をもとに、ウイグル人の信用度が評価され、「信用できない」と判定された場合、ガソリンを購入できない程度でした。
ところが最近では、監視カメラ、裁判記録、内通者の密告データがAIによって処理され、「予測的取締りプログラム」に基づき「信用できない」と判定されると、強制収容所に送られるようになったというのです。
大学院生の証言では、2016年に警察署に呼び出され、DNA採取、採血されただけでなく、彼女の声でスカイネット(天網)は彼女を認識し、「社会ランキング:信用できない」という表示が出て、勾留センターで暴行を受けたという。
新疆ウイグル自治区では、2016年から学校、警察署、スポーツセンターが勾留施設へと改修され、全住民の最大10%が身柄を拘束されているという。
さらにウイグルでは近所の10件の家を監視するよう任命された地域自警団の役員が、「不規則なこと」がないかチェックすることまでしているのです。
2017年には、100万人の共産党幹部をウイグル人の家庭に配置する「家族になる運動」(結対認親)がスタートし、ウイグル人の家庭に漢人が寝食をともにしながら住民を監視しはじめたという。もちろん、拒否すれば、その家族は強制収容所送りになるのです。
中国共産党はウイグル人テロリストを、徹底的に監視・選別し、少しでも疑いがあれば身柄を押さえる方針であることがわかります。
中国共産党は、脅威のホットリストのなかで民主化運動家、台湾支持者、チベット族、気功集団・法輪功、イスラム教徒のウイグル人テロリストを“5つの毒”として列挙しいます。そのウイグル人を中国共産党は、犯罪者と同じように指紋、DNA、音声を採取し、少しでも疑いがあれば、強制収容所で拘束しているのです。(後略)【2月8日 MAG2NEWS】
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“「予測的取締りプログラム」に基づき「信用できない」と判定されると、強制収容所に送られるようになった”ということに関しては、以下のような記事も。
****信用度が「低い」とされた人を強制収容…新疆ウイグル自治区統治「職業訓練」の過酷な実態****
中国の新疆ウイグル自治区における統治は、いわゆる強制収容や強制労働、強制不妊といった問題で世界の注目を集めている。欧米各国では、中国が新疆において「ジェノサイド」を犯したとする声明、決議が次々に出されている。
日本の国会では、「ジェノサイド」決議こそ出ていないが、外交行動を見ると、日本は国連人権理事会において常に中国の新疆政策を批判する声明に名を連ねている。(中略)
中国共産党は1949年に中華人民共和国を建国すると、新疆にも人民解放軍を進駐させ、統治を開始した。1955年にそれまでの新疆省を改め、新疆ウイグル自治区を設置した。自治区としたのは、自らの統治が現地民族の自治であることを宣伝し、現地民族を味方につけようとしたからに他ならない。しかし実際には、漢人率いる中国共産党組織が重要事項を決定する仕組みとなっていた。
テロとみなされた「抵抗運動」
これに対し、当然ながら現地の人々は不満であった。しかし間もなく反右派闘争、文化大革命といった政治運動が波及してくると、体制を批判した人は徹底的に弾圧された。文化大革命後、名ばかりの自治をやめて民主化をしてほしい、新疆で核実験をやらないでほしい、産児制限をやめてほしいといった声が上がるようになったが、再び弾圧が徹底され、こうした声は封殺される。
共産党との対話は不可能であると悟った一部の人々は地下に潜り、自殺的な抵抗運動に身を投じた。1990年代には、爆破事件、暗殺事件が多発し、共産党はこれらを十把一絡げに「テロ」とみなすようになった。
2009年にはウルムチでウイグル人労働者の待遇改善を求めるデモがきっかけとなり、大規模な騒乱に発展したが、これに対する弾圧も苛烈を極めた。
2012年に発足した習近平政権は、「テロ」への対応策として、後手の対応ではない、先制攻撃を指示するようになる。「反テロ人民戦争」をスローガンに、「テロ組織」の撲滅を進め、冤罪、巻き添えも含む多くの「戦果」を挙げた。
2015年には、反テロリズム法が制定された。そして2016年、新たに新疆ウイグル自治区党委員会書記に陳全国という人物が就任した。
漢人を「親戚」として割り当て
陳全国がもたらした政策で悪名高いのが、親戚制度である。親戚制度とは、漢人を主とする公務員を「親戚」と称させて、現地の民族の各家庭に割り当てる仕組みを指す。2018年9月までに新疆全土で約110万人以上の政府職員が約169万戸の「親戚」となったという。
「親戚」をつうじて、民族団結の理念を現地住民に広めること、貧困家庭の就業を支援することなどを目的としていたといわれる。しかし現場では、「親戚」の傍若無人ぶりが、民族間の憎悪を生む悪循環を生んだ。「親戚」に同衾(どうきん)を迫られて自殺者が出たとか、孫娘を守るために老人が「親戚」を殺したといった話も、枚挙にいとまがない。
「職業技能教育訓練センター」の恐ろしい実態
「親戚」たちが集めた各家庭の情報は、顔認証システムやスパイウェア・アプリなどの情報とともにシステムに集積され、人々の信用度の判定に用いられたとみられる。その結果生じたのが、信用度が低いとされた人を「職業訓練」を名目に施設に強制収容する、前代未聞の政策であった。
流出した文書によれば、産児制限を超えた出産が特に多い理由であったとされる。違法にたくさんの子供を出産させていたことが、共産党の政策よりイスラームの伝統的な価値観を優先させていることの現れとみなされたのであろう。収容者数は100万人以上ともいわれるが、全貌は今も不明である。
収容施設は「職業技能教育訓練センター」と呼ばれ、職業訓練を名目にしているが、目的はそれだけでない。施設に招待されたBBCの記者の報道によれば、中国語(漢語)の教育および中華民族共同体意識の鋳造(確立)といった再教育が行われている様子が確認できる。
元収容者の証言からは、成績を下げ続けた人は弾き落とされ、その後どうなるかわからない、という恐ろしい実態も指摘されている。職業訓練の名のもとに、まっとうな中国人に生まれ変わらせる、人間の改造、同化が行われていると考えられる。
強制労働、強制不妊…疑惑の数々
このほかにも、労働者が強制的に労働させられているという強制労働の疑惑、女性が産児制限を強制されているという強制不妊の疑惑がある。
中国政府に言わせれば、前者は「反テロ」と「脱貧困」の観点から、失業率を減らし、住民の平均収入を上げるために、就業促進の一環として動員が強化されたことによる。
後者は、貧困家庭の多産が将来の「テロリスト」を生み出しているという一方的な偏見に基づいて、不妊手術を奨励したことによる。
いずれにせよ、動員であれ手術であれ、それを拒否すれば、政府の政策に協力的でないとして、「テロリスト」の烙印を押されかねない。住民から見れば有無を言わさぬ強制に他ならなかった。
中国政府は、これらの政策を肯定的に捉えている。しかしそうした中国の論理は、ここに来て国際社会の批判をこれまで以上に強く受けている。
中国は国際社会の圧力に屈して政策を変えたと受け止められることはしないだろうが、2021年に陳全国から馬興瑞に書記が変わって以降、徐々に監視を弱め、政策をソフトな方向に調整しつつある。
とはいえ、新書記馬興瑞も繰り返し言っているように、「反テロ」そのものをやめることはないだろう。「テロ」を根絶したことは、第2期習近平政権の数少ない成果のひとつである。第20回党大会以降も、「反テロ」を完全にやめることはできないだろう。
そうであるとすれば、収容されたまま未だに消息がわからない人々が、生きて公の場に戻ってくる日は、まだ先のことになるかもしれない。【2022年12月30日 文春オンライン】
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【カナダ議会 政府にウイグル難民1万人受入れを要請】
こうした状況で、カナダ議会が大規模なウイグル難民受入れを政府に要請しています。
****ウイグル族1万人受け入れを=カナダ下院、政府に要請****
カナダ下院は1日、中国当局による新疆ウイグル自治区の少数民族ウイグル族に対する人権侵害が続いているとして、第三国に逃れたウイグル族ら1万人をカナダで受け入れるよう政府に求める動議を全会一致で可決した。カナダメディアなどが報じた。
動議は政府に対し、受け入れ計画を5月までに策定するよう要請した。法的拘束力はないが、フレーザー移民・難民・市民権相は声明で「カナダは常に保護を必要とする人々を助けるために自らの役割を果たす」と前向きな姿勢を示した。
カナダ下院は2021年、ウイグル族が「ジェノサイド(集団虐殺)の対象となっている」と認定する動議を可決している。カナダ政府は、22年の北京冬季五輪・パラリンピックも人権侵害を理由に外交ボイコットの措置を取った。【2月2日 時事】
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海外の人権侵害から目をそむけ難民への鎖国を続ける日本とは随分違います。
もっとも、ウイグルの人々は海外に逃れても安心はできません。
“ウイグルの絶望、海外に避難しても…「中国からの要請だ」逃げ込んだ国まで連れ戻しに協力”【2022年12月14日 47リポーターズ】