(【2月10日 Bloomberg】 2月6日 コルカタ 抗議行動で燃やされるアダニ氏(左)とモディ首相の似顔絵)
【インド史に残る「黒歴史」 モディ首相、蒸し返したメディアに報復】
インド・モディ首相のグジャラート州首相時代に起きたイスラム教徒が千人規模で殺害された暴動への関与がBBC報道によって再び問題視されていることは、1月31日ブログ“インド モディ首相とガンジーの間の深い溝 再び問題視される州首相時代のムスリム殺害暴動関与”でも取り上げました。
この問題、イギリスとの外交関係などにも影響が出ているようです。
****放火、強姦、死者1000人超...インド史に残る「黒歴史」を蒸し返されたモディ首相の怒り****
<英BBCの番組が告発した20年前の事件におけるモディ現インド首相の役割。英印関係の強化を目指すスナク英首相の足かせにもなっている>
<英BBCの番組が告発した20年前の事件におけるモディ現インド首相の役割。英印関係の強化を目指すスナク英首相の足かせにもなっている>
インドのナレンドラ・モディ首相の「古傷」に新たな注目が集まっている。英BBCが『インド:モディ問題』と題された2部構成のドキュメンタリー番組を放送したのは1月17日と24日のこと。その焦点となったのは、2002年にグジャラート州で起きたヒンドゥー教徒とイスラム教徒の衝突におけるモディの役割だ。当時モディは、同州の首相だった。
3日間にわたる激しい暴力と、その後約1年続いたグジャラート州各地での衝突で、1000人以上が犠牲になったといわれる。このうち790人がイスラム教徒だった。
20年前の事件を掘り返すこの番組に、モディ率いるヒンドゥー至上主義の与党・インド人民党(BJP)は激怒。インドでは放映されていないものの、政府は番組を「植民地時代の思考」に基づくものだと批判して、情報技術法に基づきインターネットを通じた番組映像の共有を禁止した。
しかしこの措置は、かえって番組への注目を高めることになり、番組のダウンロードを可能にするリンクが、野党政治家や学生などの間で共有される事態になっている。
この騒動に頭を抱えているのはモディだけではない。インド移民を両親に持つリシ・スナク英首相は、英経済を立て直すべく、インドとの関係を強化して、2国間貿易協定を結びたいと考えてきた。
だが、前途は多難だ。イギリスとしては、インドが求める留学生や企業幹部に対するビザ発給拡大に応じるわけにはいかないし、インドも、法律や金融分野の市場開放に応じるつもりはない。
インドは今、政治的にも微妙な時期にある。欧米諸国はインドを民主主義のパートナーと見なし、中国のライバルになれる国と考えている。
だが9年近くにわたるモディ政権の下で、インドでは政治的自由が制限されるようになってきた。活動家は投獄され、イスラム教徒などマイノリティーの権利は縮小されてきた。こうしたモディの政策は、24年の総選挙で問われることになるだろう。
虐殺を暗に推進した疑い
そんななかで放送されたBBCのドキュメンタリーは、モディにとって過去の亡霊を呼び起こすものだ。
グジャラート州で列車火災が起こり、59人が死亡する事故があったのは02年2月。ほとんどは聖地を巡礼した帰りのヒンドゥー教徒だった。火災の原因については今も議論があるが、事件直後はイスラム教徒の仕業とされた。
これを機に、過激なヒンドゥー教徒によるイスラム教徒の襲撃が始まった。当時、グジャラート州の州首相だったモディは、列車火災の犠牲者の遺体を最大都市アーメダバードに運ばせており、これがヒンドゥー原理主義者たちを刺激したという声もある。
イスラム教徒の商店は略奪の標的となり、住宅は放火され、多くの女性が集団レイプに遭った。元国会議員が自宅前で殺される事件も起きた。
BBCの番組は、モディがこうした暴力を取り締まらなかったと主張する。それどころか、イスラム教徒に暴挙を働いても「罪に問われない風潮」をつくり出して、暴力を拡大させた「直接的な責任がある」と断じている。
当時、インドの人々はこの事件のニュースに驚愕した。国際社会からも非難が殺到した。だが、BJPを率いていたアタル・ビハリ・バジパイ首相は、野党や市民団体からモディの更迭を求める声に対して、「モディは州首相としての責務をきちんと果たすべきだ」と述べるにとどまった。
BBCを動かした報告書
その後、モディは州議会を解散したが、新たな選挙でも勝利を収めた。そして13年には国政に進出する意欲を明らかにし、14年の総選挙でBJPを大勝に導いた。インド議会で、1つの政党が単独過半数を確保するのは30年ぶりだった。19年の総選挙で、BJPはさらに議席を伸ばした。
BBCの『モディ問題』は記録映像をはじめ、インドの専門家や暴動の生存者へのインタビューを織り交ぜて、グジャラート騒乱におけるモディの責任を追及する。
なかでも重要なのは、事件当時イギリスの外相だったジャック・ストローのインタビューだろう。ストローは当時、イギリスの在インド高等弁務官事務所(大使館に相当)が、事件について独自調査を行ったと証言している。
BBCは、この調査結果をまとめた英政府の秘密報告書を入手。イスラム教徒に対する暴力は「報道を大幅に上回る」範囲に及んだこと、その目的は「ヒンドゥー教徒居住区域からイスラム教徒を追い出すこと」だったとする報告書の該当部分を放送した。
さらに、実際の犠牲者は政府発表の1044人をはるかに上回り、警察はイスラム教徒に対する暴力を取り締まらないよう指示を受け、そして暴力のゴーサインは「間違いなくモディから出されていた」という報告書の内容も紹介された。
それでもモディが、事件の責任を認めることはないだろう。既にインド政府は事実上、モディには一切責任がないとする独自の調査報告書をまとめており、昨年6月にはインド最高裁が報告書の正当性を認める判決を下している。
釈放されつつある犯罪者たち
事件から20年がたつインドでは、当時有罪となった人々の多くも釈放されつつある。つい最近も、イスラム教徒の妊婦を集団レイプし、彼女の3歳の娘を含む家族14人を殺害して終身刑を言い渡された11人が釈放された。
そんなインドと貿易協定をまとめたいスナクは、難しい立場に立たされている。BBCの番組の基礎となっているのが英政府の調査報告書であるだけに、その内容を軽んじるような発言はできない。
実際、1月に英議会でこの問題について問われたスナクは、イギリスはいかなる迫害も許さないと述べるにとどまり、モディの責任については直接的な言及を避けた。
(中略)インドの首相に就任してから、モディが即席の会見に応じたことは一度もない。インタビューに応じるとしても、自分に批判的なジャーナリストの質問には決して答えない。
インドにBBCのような放送局がないことに、モディは感謝していることだろう。【2月1日 Newsweek】
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モディ首相は“自分に批判的なジャーナリストの質問には決して答えない”だけでなく、批判的メディアへの圧力を強めています。
****インド税当局、インドのBBCオフィスを捜索 モディ首相のドキュメンタリー放送後****
インドの税当局は14日、ニューデリーとムンバイにあるBBCのオフィスを家宅捜索した。所得税に関する捜索だという。
これに先立ちBBCは1月に、インドのナレンドラ・モディ首相について批判的なドキュメンタリーをイギリスで放送。モディ政権はこの番組の内容を批判し、国内での上映を禁止したり、オンラインで見られないようにしている。
(中略)モディ首相が率いる与党・インド人民党(BJP)のガウラヴ・バティア広報担当は、BBCを「世界で最も腐敗した組織」と呼び、今回の税務当局による家宅捜索は合法で、政府とは無関係だと述べた。
「インドはあらゆる組織に機会を与える国だ。毒をまき散らさない限りは」とも、バティア氏は述べた。
インド最大野党・国民会議派のK・C・ヴェヌゴパル幹事長は、14日のBBC家宅捜索について、「見るからに必死で、モディ政権がいかに批判を恐れているかを表している」、「このような威圧の手口を、私たちは最大限に厳しく批判する。こうした非民主的で独裁的な態度がこれ以上続くのは認められない」とツイッターに書いた。
超党派の報道関係者団体「インド編集者ギルド」は、BBCに対する家宅捜索について「深く懸念する」と声明を出し、「政府の方針や国の主流派に批判的な報道機関を威圧し、嫌がらせをするため、政府機関を使うという以前からの流れの一環」だと批判した。
アムネスティ・インターナショナル・インドの理事会は、「BBCが与党BJPを批判的に報道したことを理由に、BBCに嫌がらせをして威圧しようとしている」と政府当局を批判。「政府批判を黙らせるため、所得税局の広範すぎる権力を(政府が)繰り返し、武器として使っている」と指摘した。(後略)【2月14日 BBC】
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【“アダニ・ショック”でインド議会も紛糾 モディ首相と大富豪アダニ氏の怪しい関係も】
モディ首相に関しては、上記の“インド史に残る「黒歴史」”以上に、現在進行形の“不正”との関係が問題視されています。
直接的には、大手財閥アダニ・グループの不正会計疑惑ですが、モディ首相とアダニ氏は「アダニが急成長した背景にはモディ首相との密接な関係があった」とかねてより指摘される関係ですので、火の粉はモディ首相に降りかかる可能性もあります。
****インド議会紛糾 アダニ疑惑巡り野党抗議****
インドの複合企業アダニ・グループの不正疑惑を巡り、同国野党の間で調査を要求する声が強まっている。議会は紛糾し、野党が抗議活動を行うなど、モディ政権への圧力が強まっている。
アダニで株価操作などの不正がまん延しているとした先月の米投資会社ヒンデンブルグ・リサーチの報告書を受けて、影響が広がっている。
野党は上下両院の議員で構成する委員会か、最高裁判所の監督下にある機関による調査を政府に要求している。
主要野党・インド国民会議のジャイラム・ラメシュ議員は週末の発表文で「アダニ・グループの疑惑に対し、モディ政権は意識的に沈黙を守っている。癒着の気配がする」と述べた。6日には、ナレンドラ・モディ首相がアダニ問題から逃避していると非難した。
アダニのグループ企業はモディ政権と緊密に連携し、空港や港湾設備などインフラの近代化を勧めてきた。アダニをモディ政権が後ろ盾についた「オリガルヒ(新興財閥)」になぞらえる野党議員もいる。【2月8日 WSJ】
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****アダニ・ショックがインドに与える影響 モディ首相と大富豪の怪しい関係が白日の下に晒されるか****
人口世界一となったとされるインドを「世界経済を牽引する存在」として位置づける風潮が日に日に高まっている。
インドの国内総生産(GDP)は昨年、旧宗主国の英国を上回って世界第5位に浮上し、2025年にドイツ、2027年に日本を追い越すことが見込まれている。
インドは有望な投資先として世界の注目を一身に集めている感が強い。
インドとこれまで縁遠かった日本でも同様だ。日本企業にとってもインドは最も有望な海外の事業展開先となっている(国際協力銀行調べ)。
だが、そのインドが1月下旬から大逆風に見舞われている。
インドの大手財閥アダニ・グループが米投資会社による不正会計疑惑の指摘を受けて窮地に立たされている。いわゆる「アダニ・ショック」だ。
アダニは1988年に創業以来、港湾・空港運営やエネルギー分野などのインフラ関連事業を中心に積極的な買収攻勢を仕掛けてグループ全体を急成長させてきた。2021年度の主要7社の売上高は約2兆ルピー(約3兆1000億円)に上ったと言われている。
今やインド経済を担う存在となったアダニだが、米ヒンデンブルグ・リサーチが1月24日に「同グループは数十年にわたって大胆な株価操作と不正会計を実施してきた」とする報告書を発表すると事態は急変した。
ヒンデンブルグは、事前に企業に空売りを仕掛けた上で疑惑を提起して株価下落につなげる手法で知られている。2020年に「米国の新興電気自動車企業のニコラが技術力に関する虚偽の説明で投資家を欺いた」と指摘し、創業者を退任させたという実績を持つ。
アダニ側はヒンデンブルグに対し「単に特定の企業ではなくインドの成長物語に対する計画された攻撃」と猛反発、413ページに及ぶ反論書を開示したが、空振りに終わり、信用の低下に歯止めがかからない状態が続いている。
大荒れのインド市場
アダニ・グループの株式時価総額はあっという間に半減した。消失額は8兆ルピー(12兆4000億円)を超え、インド史上最大級の規模に達している。予定していた2000億ルピー(3100億円)規模の公募増資を撤回せざるを得なくなっている。
アダニの昨年度の負債額は2兆ルピー(3兆1000億円)に上っているが、疑惑発覚後、海外の金融機関はアダニとの取り引きに極めて慎重になっている。アダニ疑惑により国営銀行の株価が急落しており、「インドの金融システム全体に深刻な影響が出るのでないか」と懸念が広がっている。
インドの株式市場は大荒れになっており、皮肉にもアダニが主張したとおり、インド経済そのものに対する信頼問題へと発展している。
インド経済を大混乱に陥れた張本人は一代で世界屈指の富豪に昇りつめたゴーダム・アダニ氏だ。アダニ氏の個人資産は昨年一時世界第2位(1470億ドル)となったが、1月24日以後に急落し、13位と大きく後退している。
アダニ氏にとってさらに悩ましいのは政治との関係が取りざたされていることだ。
「アダニが急成長した背景にはモディ首相との密接な関係があった」との指摘がかねてなされていた。両氏は同じ西部グジャラート州の出身で、アダニは同州を基盤に事業を拡大してきたからだ。
2月1日のインド議会では野党議員が政府の成長計画へのアダニの関与を激しく追及したことから、審議が中断を余儀なくされた。
インド政治を大きく動揺させるスキャンダルに発展するリスクが生じており、モディ政権にとって大きな足かせとなりつつあるが、「その悪影響を最も受けるのは雇用対策だ」と筆者は考えている。
アジアで最も低い労働参加率
インドは成長著しいものの、雇用創出の速度が人口増加の速度に追いつけず、深刻な雇用問題に悩んでいる。
インドの2021年の労働参加率(生産年齢人口(15歳から64歳までの人口)に占める労働力人口の割合)は46%とアジアで最も低い水準だ(日本は84%)。
雇用問題 の打撃を被っているのは総人口の半分を占める30歳未満の若年層だ。2021年の15歳から24歳までの失業率は28%とのデータがある。
マッキンゼーグローバル研究所によれば、インドが現在の雇用問題を解決するためには年間8%超の経済成長率が不可欠だが、アダニ・ショックで今年の成長率は6%台を維持できるかどうかあやしくなっている。
インド政府は2023年度の予算案で雇用創出効果が高いインフラ整備費を大幅に増加している(前年比33%増の10兆ルピー(約15兆5000億円))が、二人三脚でインフラ整備を進めてきたアダニとの関係が不調になれば、この野心的な雇用創出計画は「絵に描いた餅」になりかねない。
「若年層が雇用への不満を募らせれば募らせるほど政情が不安定化する」ことは過去の歴史が教えるところだ。インドの都市部では若年層の失業増加で治安が極端に悪化しつつある。
モディ首相の支持率は今のところ高いが、雇用環境の悪化が深刻になれば、インドの政情が不安定化する可能性は排除できない。
日本にとっても大きな存在になりつつあるインドだが、アダニ・ショックはブームに安易に流されることなく、等身大のインドに向き合うことの重要性を教えてくれているのではないだろうか。【2月13日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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****アダニ破綻なら共倒れも、インド首相の経済構想-インフラに深く関与****
アジアの富豪ゴータム・アダニ氏率いる新興財閥アダニ・グループが、不正会計疑惑に端を発する混乱で深刻な打撃を受ければ、インドのモディ政権の経済計画に支障を来すことになりかねない。
アダニ・グループはアジア第3の経済大国の同国において、鉱業や港湾、空港を含むインフラプロジェクトの最大の担い手だ。
米投資会社ヒンデンブルグ・リサーチが不正会計疑惑をリポートで指摘した1月24日以降、アダニ・グループの時価総額は大きく目減りした。同グループは疑惑を再三否定し、投資家の不安沈静化に向け、アダニ氏らは一部借り入れの繰り上げ返済に動いた。
アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のサダナンド・ デュメ上級研究員は「アダニが破綻すれば、彼との協力を前提とする首相の経済構想のかなりの部分がいわば共倒れになるだろう。この人物はインフラだけでなくグリーンエネルギーにも投資している」と指摘した。
デュメ氏は「今のインドでゴータム・アダニ氏ほど首相と結び付きの深いビジネスマンが存在するとは思えない。緊密な関係は20年余り前にさかのぼる」と話した。【2月10日 Bloomberg】
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当然ながら、与党側はアダニグループとの不適正な関係は強く否定しています。
****印アダニ問題、内相が縁故資本主義疑惑を否定****
インドのシャー内相は14日、不正疑惑に揺れる財閥アダニ・グループを優遇しているとの野党の訴えについて、与党はこの問題で「何ら隠すことも恐れることもない」と述べた。
モディ首相に次ぐ政界の実力者と見なされているシャー氏はANI通信に対し、「最高裁判所はこの問題を認識している。最高裁がこの問題を把握したのであれば、大臣として私がコメントするのは適切ではない」と述べた。縁故資本主義疑惑を否定し、野党が証拠を持っているなら裁判所に訴えるべきだとした。【2月14日 ロイター】
モディ首相に次ぐ政界の実力者と見なされているシャー氏はANI通信に対し、「最高裁判所はこの問題を認識している。最高裁がこの問題を把握したのであれば、大臣として私がコメントするのは適切ではない」と述べた。縁故資本主義疑惑を否定し、野党が証拠を持っているなら裁判所に訴えるべきだとした。【2月14日 ロイター】
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インドのような国では経済活動と政治が密接に「癒着」しているのが普通のことですので、(モディ首相を批判している側も含めて)「何もない」ということはないとは思いますが・・・・明確な証拠でも出ない限りはウヤムヤでしょう。
“インド史に残る「黒歴史」”にしても、“アダニショック”にしても、結局ウヤムヤで終わってしまうことが、インド民主主義の限界ともいうべきところかも。