(【1月5日 人民網日本語版】1月4日 訪中したマルコス大統領夫妻と習近平夫妻)
【マルコス大統領訪日 日米比の連携合意を検討】
昨日までフィリピンのマルコス大統領が来日していました。
下記は、その来日前の記事
****フィリピンのマルコス大統領、初来日へ出発…「貿易や投資の拡大を確信」****
フィリピンのフェルディナンド・マルコス大統領は8日午後、大統領専用機で日本へ出発した。昨年6月の就任以来、初めての訪日となる。9日に岸田首相と会談する。
マルコス氏は出発前にマニラ近郊のビリアモール空軍基地で演説し、「近しい隣人で、最も信頼できるパートナーでもある日本との絆を強化することを目指す。貿易や投資の拡大も促進できると確信している」と述べた。
岸田首相との会談では、安全保障や経済分野での協力について話し合うとみられる。【2月8日 読売】
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初の訪日は終了しましたが、“岸田首相との会談”の内容や訪日の“成果”については不思議なぐらい報じられていません。(もちろん、探せばいろいろあるのでしょうが、一般紙ではほとんど目にしていません。)
それだけ日本とフィリピンの間では、関係も良好で、注目されるような懸案事項がないということでしょうか。
(日本メディアが大注目の渡辺優樹容疑者ら4人の強制送還問題も大統領訪日までに目途をつけましたので)
あるいは話題になるほどのものを提示する余力が今の日本にはないということでしょうか。
唯一目にしたのは、(おそらく、貿易や投資など、マルコス大統領が関心があるであろう)経済ではなく安全保障の問題。
****日米比の連携合意提案 マルコス大統領「必ず検討」***
日本を訪問中のフィリピンのマルコス大統領は、世界の「危険な情勢」に対処するため、フィリピンと日本、米国の3カ国で合意を結ぶよう提案されたと10日の共同通信の単独会見で明らかにした。提案は連携や同盟を強化する取り組みの一環だとし「フィリピンに戻ったら必ず検討する」と述べた。
マルコス氏は、南シナ海やインド太平洋地域だけでなくロシアのウクライナ侵攻も含め、国際的な安全保障環境が不穏になってきていることが提案の背景にあると指摘した。
日米は軍事力を増強する中国に対抗するため、南シナ海問題で中国と対立するフィリピンを引き寄せようと働きかけを強めている。【2月11日 共同】
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【米中の間でバランス外交 1月には訪中 3兆円のフィリピン投資 南シナ海を巡る資源交渉は難航も】
一言で言えば、日米と中国は“フィリピンを引き寄せようと働きかけを強めている”状況で、フィリピンは両者の間でバランスをとりながら最大限の利益を引き出そうとする構図で、フィリピンに限らず、東南アジア・ASEAN諸国に共通した対応です。
“バランスをとりながら”と言いつつも、安全保障面ではドゥテルテ前政権に比べアメリカとの関係改善が、経済面では依然として中国重視が目立ちます。
マルコス大統領は年明け早々に中国を訪問してします。
****中国、3兆円フィリピン投資約束 南シナ海資源交渉は議論の余地****
フィリピンのマルコス大統領は5日、北京で同行記者団と会見し、中国側から開始済み事業も含め約220億ドル(約3兆円)の投資の約束を取り付けたと述べた。
習近平国家主席との4日の会談で、南シナ海での石油・天然ガスの共同探査・開発に向けた交渉再開で合意したが、実現は難航が予想される。マルコス氏は議論の余地が残っていると訴えた。
習氏は、米国との同盟強化にかじを切ったマルコス氏を引き寄せようと、農業やインフラ整備などの分野で経済協力の意向を示した。
両国政府が5日に発表した共同声明は、南シナ海を巡る資源交渉の早期再開をうたった。【1月5日 共同】
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“中国、3兆円フィリピン投資約束”・・・・“岸田文雄首相は、8日に来日するフィリピンのマルコス大統領との会談で、年間2千億円を超える支援を表明する方向で調整に入った”【2月2日 共同】と比べると、やはり“桁違い”の差があります。
【中国 ASEAN諸国との「対立の解消」への努力で外交に力点】
関係が強化される経済面に比べ、安全保障問題、特に南シナ海をめぐっては中国とフィリピン(あるいはASEAN諸国)との間に対立・意見の相違があるというのが一般的な見方ですが、中国の視点に立てば、経済でASEAN諸国を絡めとって、南シナ海問題はことさらに先鋭化させず友好関係をアピールする、狙いどおりの方向と言えるのかも。
フィリピンなどASEAN諸国も、安全保障問題を前面に押し出すアメリカより、経済重視で内政不干渉の中国の方が“付き合いやすい”という面も。
****比マルコス大統領の訪中で見えた、ASEANが米より中国と親和性が高い理由****
(中略)『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、訪中したフィリピンのマルコス大統領との会談で見せた中国の「修正力」に注目。相互内政不干渉を重視し、経済協力を軸に友好関係を深める姿勢は、ASEAN諸国との親和性が高いと解説しています。
フィリピンのマルコス大統領の訪中から見える中国とASEANの深い関係
中国外交を「戦狼外交」と呼ぶことは、習近平の対外政策を誤解させている。その陰に隠れた中国の強かさをかえって見えなくさせてしまうからだ。
(中略)むしろ日本が警戒しなければならないのは、中国の修正力である。
20大で党中央政治局委員に昇格した王毅外相(国務委員)が発表した「2023年の中国の特色ある大国外交の6大任務」(=以下、6大任務)(中略)のなかで王毅は、「中米関係の修正と正しい進路への回帰を目指し、中国EU関係の安定した持続的な発展を推進し、周辺諸国との友好・相互信頼と利益の融合を深め、発展途上国の団結と協力を強化する」ことを打ち出している。
また「中露の包括的・戦略的協力パートナーシップを揺るぎないものに」することにも言及しているので、要するに全方位だ。
習指導部がこうした選択をする背景には、ASEANの存在が大きい。2022年を「内政の一年」と位置付けてきた中国は、20大後、一気に外交に力点を移した。
そして、この2カ月余の動きから見えてくるのは、「対立の解消」への努力だった。その成果の一つが、フィリピンのフェルディナンド・マルコスの中国への公式訪問(1月4日)だ。
絵解きを急げば、中国はこのポジションをとることで国際社会での中国の存在感を大きくし、求心力を高められると学んだのだ。それは繰り返しになるがASEANとの関係から導き出されたと考えられるのだ。事実、1月4日の習近平国家主席とマルコス大統領の会談の中身は、中国側から見てほぼ満点だった。
マルコスは「これは私が大統領に就任してから東南アジア以外の国を訪れる初めての公式訪問だ」と訪中の重要性に触れた後、「中国はフィリピンにとって最も強力な協力パートナー。比中の友好の継続と発展を妨げて得るものは何ない」と友好関係をアピールした。
両国が接触する度に「懸案」と報じられる南シナ海問題でも、マルコスは「われわれは友好的な協議と交渉を継続することによって問題を処理したい」とした上で「石油や天然ガスの開発に向けた交渉を再開したい」と中国に呼びかけ、少なくとも深刻な対立を抱えていることを感じさせなかった。
会談の最後には共同声明が発せられ、一帯一路をはじめとした数々の協力文書に両国が署名したのである。
実は、中国がASEANを意識して対立の解消と全方位の立ち位置を模索していると書いたのは、その中国の姿勢がASEANとの関係を強化する上で最も受け入れられやすいという事情があるためだ。
ASEANは周知のように、軍事同盟だった組織を加盟国が中心となり1967年から経済を中心とした組織へ移行してきた経緯がある。その性格はいまも引き継がれ、対立よりも経済発展を優先する傾向が強い。
この性質は昨今のアメリカと実は相性が悪い。米中対立を積極的に域内に持ち込もうとする行為を警戒するからだ。この点では中国のような経済協力以外の要素をできるだけ持ち込もうとしない国の方がストレスは少ないといえるだろう。またASEANは相互内政不干渉も重視しているため、この点でも中国との親和性が高いのである。
アメリカはバラク・オバマ大統領の2期目から明らかなアジアシフトを掲げ、中東地域に向けていた力をアジアへと振り向けた。この流れはジョー・バイデン政権の下でさらに強化されている。その象徴がアメリカ・ASEANサミット(2022年5月12日)であり、IPEF(インド太平洋経済枠組み)の立ち上げへとつながっている。だが、いずれの動きもASEAN側の反応は芳しくない。
IPEFがASEANの国々から敬遠されていることは、このメルマガで何度も書いてきたが、アメリカ・ASEANサミットも決して成功とはいえなかった。というのもその目的が中国排除であることが露骨であったからだ。
また経済発展を重視するASEANの国々に対して、そのメリットをきちんと示せなかったことも──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年1月15日号より一部抜粋)【1月19日 富坂聰氏 MAG2NEWS】
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【アメリカ 安全保障重視でフィリピンとの関係強化を図る】
アメリカは、経済重視の中国に対し、安全保障重視の姿勢です。(経済担当は日本の役割ということでしょうか。それにしては前述のように日中では体力差がありますが)
****米軍使用可能基地が4カ所増 米・フィリピン合意 中国をけん制****
米国、フィリピン両政府は2日、両国間の「防衛協力強化協定」(EDCA)に基づき、米軍が使用できるフィリピン国内の基地を4カ所増やすことで合意した。台湾有事への懸念や、南シナ海での中国の挑発的な行動を受け、米国は存在感を高めて中国をけん制する構えだ。
2014年に締結されたEDCAでは、すでに南シナ海に面するフィリピン西部・パラワン島の空軍基地など5カ所が米軍が使用可能な施設に指定されている。今回の合意は、オースティン米国防長官のフィリピン訪問に合わせて公表されたが、4カ所の具体名は明らかになっていない。今後、さらに基地1カ所が指定される予定。
両国政府は声明で「米比同盟は試練を越え、強固になっている。新たに追加された施設が、我々の協力関係を拡充する機会を生み出すことに期待する」とした。
フィリピンでは1992年に米軍が撤退。EDCA締結後は、米軍に使用を認める基地の選定が進められてきた。しかし、ドゥテルテ前政権はEDCAの破棄をにおわせたり、EDCAの根拠となる国内で米軍の活動を可能にする「訪問軍地位協定」の破棄を一方的に通告(後に撤回)したりするなど両国関係が不安定化することがあった。
一方で、フィリピンと中国が領有権を争う南シナ海では、中国が船を集結させるなど挑発的な行動が目立ち、フィリピン側の懸念が高まっている。【2月2日 毎日】
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【ちぐはぐな印象の中国 南シナ海で依然として挑発的対応も】
【前出 MAG2NEWS】では、中国は“「対立の解消」への努力”をしており、マルコス訪中でその成果がしめされているとのことですが、それにしては南シナ海での中国側の高圧的・挑発的対応が続いています。
右手(軍など強硬派)のやることを左手(外務省など国際関係を重視する部門)が知らされていないということでしょうか。(中国の場合は、往々にしてそういうことがあります。ひょっとしたら、例の気球も・・・)
****フィリピン、中国に自制呼びかけ 海警局船の妨害行為受け****
フィリピン国防省は13日、中国は強引な行為を慎み、「挑発行為」を冒さないようにすべきだと指摘した。フィリピン沿岸警備隊はこの日、南シナ海で中国海警局の船が妨害行為をしたと非難している。
国防省の報道官は記者団に「人命を危険にさらすような挑発行為を中国政府は慎むべき時だ」と述べた。ガルベス国防相は中国海警局の行為は「攻撃的で危険」と指摘したという。
フィリピン沿岸警備隊によると、今月6日に南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島のアユンギン礁にある海軍拠点への補給活動を行う船に対し、中国海警局の船が「軍事級のレーザー」を照射して妨害した。ブリッジにいた乗組員がレーザー照射を受け、一時的に前が見えなくなるなど危険な状況を招いたという。
「フィリピン政府船によるが軍兵士への食料・物資の補給を意図的に妨害したことは、西フィリピン海(南シナ海)におけるフィリピンの主権をあからさまに無視し、明確に侵害している」とした。
中国外務省は、フィリピン政府の非難に関する質問に、海警局は法にのっとって行動していると説明した。
中国は、1月にマルコス大統領が訪中した際、海洋問題に「誠実に」対応する用意があると述べていた。
マルコス大統領は先週、日本を訪問。「訪問軍地位協定(VFA)」を日本と締結する可能性について自国領海の安全保障確保やフィリピン人漁業者の保護強化につながるならば「結ばない理由はない」と12日に述べた。
フィリピンは、オースティン米国防長官が今月初めに訪問した際、VFAの下で米国軍が利用できる国内軍事施設を増やすことでも合意している。【2月13日 ロイター】
国防省の報道官は記者団に「人命を危険にさらすような挑発行為を中国政府は慎むべき時だ」と述べた。ガルベス国防相は中国海警局の行為は「攻撃的で危険」と指摘したという。
フィリピン沿岸警備隊によると、今月6日に南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島のアユンギン礁にある海軍拠点への補給活動を行う船に対し、中国海警局の船が「軍事級のレーザー」を照射して妨害した。ブリッジにいた乗組員がレーザー照射を受け、一時的に前が見えなくなるなど危険な状況を招いたという。
「フィリピン政府船によるが軍兵士への食料・物資の補給を意図的に妨害したことは、西フィリピン海(南シナ海)におけるフィリピンの主権をあからさまに無視し、明確に侵害している」とした。
中国外務省は、フィリピン政府の非難に関する質問に、海警局は法にのっとって行動していると説明した。
中国は、1月にマルコス大統領が訪中した際、海洋問題に「誠実に」対応する用意があると述べていた。
マルコス大統領は先週、日本を訪問。「訪問軍地位協定(VFA)」を日本と締結する可能性について自国領海の安全保障確保やフィリピン人漁業者の保護強化につながるならば「結ばない理由はない」と12日に述べた。
フィリピンは、オースティン米国防長官が今月初めに訪問した際、VFAの下で米国軍が利用できる国内軍事施設を増やすことでも合意している。【2月13日 ロイター】
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アユンギン礁はフィリピンのEEZ内にあります。
“(中国の)艦船は緑色のレーザーを2度照射。巡視船の後方約140メートルに接近した”【2月13日 共同】
こういうことをやっても、フィリピンを日米との連携の方向に追いやるだけで、少しも中国の利益にならないと思いますが、中国の“核心的利益”を侵害されていると感じる中国海警にはそういう発想はないのでしょうか。
中国のよくわからないところです。