(【1月17日 佐藤太郎氏 Newsweek】 アルミホイルで顔を覆われたマネキン、カブール すべての権利を奪われたアフガニスタンの女性たちの悲痛な顔のようにも見えます)
【国外脱出の希望からデマの「救援機」に殺到した群衆 治安部隊が威嚇射撃】
最近印象的だった“悲しいニュース”
****「救援機に乗れる」空港殺到 アフガン、地震で誤情報****
アフガニスタンの首都カブールで、トルコでの大地震に関連して「被災者支援のための救援機に乗れる」との誤情報が出回り、市民数百人が空港に殺到、治安部隊が威嚇射撃で追い払う騒ぎがあった。地元メディアなどが10日までに報じた。生活難から国外脱出を試みた人が多くいたとみられる。
騒ぎがあったのは8日。地元メディアが伝えた映像では、空港近くの通りを暗闇の中、大勢の人々が叫びながら走り、銃声も響いた。
空港へ駆け付けた男性(26)は「トルコの人々を助けられるし、この国を脱出する良い機会だと思った」とAP通信に語った。【2月10日 共同】
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治安部隊が「うわさは事実ではない」として、混乱は翌朝までに鎮圧したとのこと。
国連児童基金(ユニセフ)によると、アフガニスタンの人口の半数以上となる約2440万人が人道支援を必要としています。失業や貧困の生活苦から逃れるために国を出たい人も多いでしょう。
タリバンの暴力、前政権時代への報復に怯える人々も多いでしょう。
タリバンによる極端・特異なイスラム法の解釈で、女子生徒たちは中学生になると教育が受けられず、女性の就労も制限されている状況で、希望が見いだせない人々も多いでしょう。
群衆の中には女性や子どももいたようで、何とか自国を出たいと群がる人々の混乱、治安部隊が威嚇する銃声・・・なんとも痛ましいニュースです。
タリバンによる統治の様相については、下記のようなニュースもありますが、これはむしろ「タリバンなら当然そうなるだろう」といったところ。
****タリバン、バレンタインデー禁止令 生花店は閑散****
アフガニスタンの首都カブールでは14日、イスラム主義組織タリバンがバレンタインデーを禁止したため、しおれたバラの花束や売れ残りの風船を手に、露天商らが悲痛な面持ちで客待ちをしていた。
アフガンではバレンタインデーはそれほど広がっていないが、近年は都市部富裕層の間で祝う習慣となっていた。だが今年、カブールの有名なフラワーストリートに立ち並ぶハート形の花輪やぬいぐるみを売る店は閑散としていた。
ある店の窓には、「恋人たちの日を祝うな!」と警告する勧善懲悪省のポスターが貼られていた。バレンタインデーは「イスラム教でも、アフガニスタンの文化でもなく、異教徒の呼び掛けている日だ」「恋人たちの日を祝うことは、ローマ教皇に同情するに等しい」と書かれていた。武装した護衛を連れた勧善懲悪省の職員が、カブールの街中を巡回していた。(中略)
若いカップルがいそいそと花を買ったが、道徳警察がパトロールしているのを目にしてサッとその場を離れた。 【2月15日 AFP】
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【顔をアルミホイルで覆われたマネキン すべての権利を奪われたアフガニスタンの女性たちの悲痛な顔のようにも】
偶像崇拝を禁じるイスラムの教えにのっとって・・・ということで、カブールでは店のマネキンも首を切り落とすか、顔を隠すかするように命じられているとか。
****「マネキンも捕らえられ、閉じ込められている」タリバン支配下のマネキンは斬首を免れた......****
タリバン政権の支配のもと、アフガニスタンの首都カブール中の女性服店のマネキンは、頭部に布袋で覆われたり、黒いビニール袋で包まれたりして、街は異様な光景を呈している。頭巾をかぶったマネキンは、タリバンの純血主義的なアフガニスタン支配を象徴するようだ。
しかし見方を変えると、カブールのアパレル小売業者による、ささやかな抵抗と創造性の表れとも捉えられる。
ある店のマネキンの頭部は、着用している伝統的なドレスと同じ素材で作られた袋のようなものを被せられている。紫色のドレスのマネキンは、同じ紫色の頭巾を。もう一人は金の刺繍が施された赤いドレスで、顔には赤いベルベットの仮面、頭には優雅な金の冠をかぶっている。
「マネキンの頭にプラスチックや変なものをかぶせると、ショーウインドーも店も見栄えが悪くなってしまうから」と、店のオーナーのバシルさんは言う。他のオーナーと同様、彼は報復を恐れてファーストネームのみを名乗ることを条件にAP通信の取材に応じた。
当初はマネキンの斬首を命じられた
地元メディアによると、2021年8月に政権を奪取して間もなく、タリバンの宗教警察である「勧善懲悪省(悪徳美徳省)」は、すべてのマネキンを店の窓から撤去するか、首を切り落とさなければならないと命じたという。
偶像として崇拝される可能性があるため、人間の形をした像や画像を禁じるイスラム法の厳格な解釈に基づく命令だった。
服の売り手の中には、これに従う者もいたが、反発の声も上がった。
マネキン斬首令に異論を唱えた衣料品店のオーナーたちは、服をきちんと展示できなくなる、あるいは貴重なマネキンを傷つけなければならなくなると訴え、タリバンに規則の修正を求めた。これを受け、タリバンは命令を修正し、マネキンの頭を覆うことを許可した。
マネキンの斬首は免れたものの、店主たちの次なる課題は、頭部を覆ったマネキンの見栄えを如何によく見せるか、ということだ。タリバンへの従属と、顧客へのアピールのバランスに頭を悩ませた。
その結果行き着いたのが、マネキンが着用するドレスとセットのヘッドピースのようにも見えるスタイリングだ。
別の店主ハキムさんは、マネキンの頭にアルミホイルをかぶせた。光に反射し煌めくアルミ箔をマネキンの頭にかぶせることで、商品に華やかさを添える意図だ。「この脅威と禁止令をチャンスと思い、マネキンが以前より魅力的に見えるようにしました」
経済低迷でアパレル小売の売り上げは半減
アフガニスタンでは結婚式はタリバン以前から結婚式は男女別だった。保守的な同国では結婚式は女性にとって最も美しく装う、心踊る場だった。
タリバン政権下では、結婚式は以前以上に数少ない社交の場となった。しかし、経済は低迷し国民は貧しさで苦しんでいる。限りあるわずかな収入を、結婚式に費やすことはなくなってきている。
前出の衣料品店のオーナーであるバシルさんは、売上が以前の半分になったことを明かした。(中略)
なお、これは女性マネキンに限ったことではない。街のショーウインドーには頭を覆った男性マネキンも少なからず見受けられ、当局が一律に禁止令を適用していることを示唆している。
別の店主によると、「勧善懲悪省(悪徳美徳省)」のエージェントが定期的に店やモールを巡回して、マネキンの首が切られているか、覆われたりしているかどうかを確認しているそうだ。
頭を覆われたマネキンはアフガン女性そのもの
マネキンに課せられた規則に反対だったこの店主は「マネキンが偶像でないことは誰もが知っているし、誰もそれを崇拝したりはしない。すべてのイスラム教の国では、マネキンは服を展示するために使われています」
タリバンは当初、1990年代後半の最初の統治時代と同じような厳しい規則を社会に課すことはないと言っていた。にも関わらず、特に女性に対し、多くの制限を徐々に課してきた。
ある日、買い物中の女性は、フードをかぶったマネキンを見て、こう言った。
「このマネキンを見ていると、このマネキンも捕らえられ、閉じ込められているように感じ、恐怖を覚えます」
この店のショーウインドーの向こうに、すべての権利を奪われたアフガニスタンの女性たちの悲痛な顔が見える気がする。【1月17日 佐藤太郎氏 Newsweek】
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【強化される女性の権利侵害】
重大な権利侵害とみなされている女性の教育・就労の制限については、国際社会の批判にもかかわらず、改められる気配はありません。
****国連副事務総長、タリバン当局者に懸念 女性の権利侵害巡り****
国連は(1月)20日、アミーナ・モハメッド副事務総長がアフガニスタン南部カンダハルを訪問し、当地のイスラム主義組織タリバン当局者に同国における女性の権利の侵害について懸念を示したと発表した。
モハメッド氏は4日間のアフガニスタン訪問を終了。首都カブールではタリバン幹部とも会談した。タリバン政権が女子学生の高校・大学への通学を停止するなどの措置を取ったことを受けた。
タリバン最高指導者が拠点を置くカンダハルで、モハメッド氏は副知事と面会。地元当局によると、副知事はモハメッド氏に対し、タリバン政権が世界との強い関係に加え、指導者に対する制裁の解除、国連に大使を派遣できるようになることを望んでいると伝えた。
2021年8月にタリバンが権力を掌握して以来、どの政府もタリバン政権を正式に承認していない。【1月23日 ロイター】
モハメッド氏は4日間のアフガニスタン訪問を終了。首都カブールではタリバン幹部とも会談した。タリバン政権が女子学生の高校・大学への通学を停止するなどの措置を取ったことを受けた。
タリバン最高指導者が拠点を置くカンダハルで、モハメッド氏は副知事と面会。地元当局によると、副知事はモハメッド氏に対し、タリバン政権が世界との強い関係に加え、指導者に対する制裁の解除、国連に大使を派遣できるようになることを望んでいると伝えた。
2021年8月にタリバンが権力を掌握して以来、どの政府もタリバン政権を正式に承認していない。【1月23日 ロイター】
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国連副事務総長に応対したのが州副知事・・・タリバンははなから国連を相手にしていないようにも見えます。
タリバンは昨年12月、女性の教育・就労の制限を露わにしました。
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まず(2022年12月)20日、それまで認めてきた大学での女性への教育を停止するとしました。決定は、最高指導者アクンザダ師によるものだとしています。
女性の教育について、タリバンはおととし再び政権を掌握して以降、日本の中学・高校にあたる中等教育でも通学を認めておらず、女子が通えるのは小学校のみとなりました。
理由として男女共学などを問題視していますが、だからといってタリバンが女性専用の教育施設を全国に拡充するような動きは見られず、一方的といわざるを得ません。
さらに、続いて24日には、国内で活動するNGOに対し、女性職員の出勤を停止するよう命じました。理由については、イスラム教徒の女性が人前で髪を隠すのに使うスカーフ「ヒジャブ」を正しく着用していなかったためだとしています。【1月26日 NHK「アフガニスタン 女性の権利制限で孤立の懸念」】
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この動きは改まるどころか、強化されています。
****タリバン、女子の私大受験禁止に 女子教育で締め出し強化****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権の高等教育省は、各私立大学に対し、女子に入学試験を受けさせないよう命じた。「次の指示があるまで」としており、無期限での受験禁止となる。地元民放トロテレビが28日、報じた。暫定政権は昨年12月、全国の公立と私立の大学で女子教育を停止しており、締め出しを強めた。
高等教育省は理由には触れず、違反すれば「法的措置を受ける」として各私立大学に順守を迫った。暫定政権は日本の中学・高校に当たる女子中等教育も停止しており、女性が通えるのは小学校だけとなっている。【1月29日 共同】
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IS系武装組織などのテロも頻発しており、治安は悪化しています。どの勢力によるものかはわかりませんが、女性の社会進出を実践していた女性が標的となることも。
****アフガンの元女性議員、銃撃され死亡****
アフガニスタンの首都カブールで、元国会議員の女性が自宅で複数の侵入者に襲われ、銃で撃たれ死亡した。警察が15日、発表した。
暗殺されたのはムルサル・ナビザダ氏。2021年8月にイスラム主義組織タリバンが復権するまで国会議員を務めていた。(中略)
アフガンでは米国の侵攻以降の20年間に女性の社会進出が進み、裁判官やジャーナリスト、政治家が誕生。しかし、タリバンの復権後、そうした職業に就いていた多くの女性が国外に逃れた。
元同僚議員によると、ナビザダ氏も国外脱出を勧められたが、「人々のために残る」と断った。元同僚議員は「身の危険をかえりみず、信じるもののために闘った真の先駆者だった」と、死を悼んだ。 【1月16日 AFP】
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【女性の権利制約の背景には、社会的な風潮も】
女性への制約はタリバンだけの考えではなく、アフガニスタン社会に根深い社会風潮に基づくものでもあります。
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アフガニスタンの社会では、農村部を中心に伝統的な家父長制が色濃く残り、「女性は家庭にとどまるべきだ」という保守的な考えがいまだに根強いのが実情です。
タリバンは、イスラム教に基づいた統治をアピールすることで、長年、こうした男性を中心とした保守層からの支持を政治的な基盤としてきました。
専門家や外交関係者は、国内が疲弊し、国民の不満もくすぶる中、政権基盤を固めるためにも、女性の社会進出を好ましくないと考える保守層からの支持をつなぎとめる狙いがあったのではないか、そしてタリバンの統治に反発する人たちの引き締めを図ったのではないかと指摘します。【1月26日 NHK「アフガニスタン 女性の権利制限で孤立の懸念」】
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そうした考えは、女性に対する“名誉殺人”的な風潮をも生みます。
****「現代的」生活送る姉殺害、アフガン人男2人に終身刑 独****
独ベルリンの地方裁判所は16日、「現代的な」ライフスタイルを送る姉に不満を抱き、殺害したとしてアフガニスタン人の男2人に終身刑を言い渡した。
被害者のマリヤム・Hさん(当時34)は2021年7月、首都ベルリンの自宅から失踪。数週間後、南部バイエルン州の丘に埋められているのが見つかった。マリヤムさんには子どもが2人いた。
マリヤムさんが失踪したのと同時期に、20代の弟ユサフ、マフディ両被告がスーツケースを重そうに運ぶ様子が駅の防犯カメラの映像に捉えられていた。中にはマリヤムさんの遺体が入っていたとされる。
遺体の両手、両足、口、鼻にはテープが貼られていた。マリヤムさんは窒息死した後、のどをかき切られたという。
裁判長は両被告が、自分たちの影響下から姉が離れつつあったため、殺害したと指摘。検察は、両被告は姉が「一部現代的なライフスタイル」を送ることに反発し、アフガン人の夫と離婚後、新しいパートナーと交際を始めることを禁止しようとしていたと主張した。
両被告の弁護人は、ユサフ被告が口論の最中に誤って姉を死なせてしまったとし、マフディ被告の無罪を主張していた。 【2月17日 AFP】
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【スポーツカーを作っている場合か?】
こうしたなかで、「一体、何考えているのか・・・?」といったニュースも。
****「日常生活は地獄」......しかし、タリバンは、アフガニスタン初の国産スポーツカー発表****
アフガニスタンは、初めての国産スポーツカー(と思われるもの)を発表し、タリバン関係者はその功績を讃えている。
1月15日に、タリバンの報道官ザビフラ・ムジャヒドは、件の車の動画をツイッターに投稿した。アフガニスタンのニュースチャンネル「Tolo News」が伝えるところによると、「Mada 9」と名付けられたこの車。アフガニスタン製のスポーツカーは初めてのことという。
報道官ザビフラ・ムジャヒドの「この車は国にとって名誉なこと」というコメントを英テレグラフ紙が伝えている。
Tolo Newsによると、「Mada 9」はEntopという企業と、アフガニスタン技術職業訓練機関 (ATVI) のエンジニアとデザイナー30人から成るチームが共同で開発した。5年を費やしたそうだ。
まもなく電動化に対応する予定で、Entopは、アフガニスタン国内での販売を経て世界でに広める計画だと、タイムスオブインディアが伝えている。しかし量産時期については明らかになっていない。価格や車両の性能、仕様やスピードについても口を閉ざしている。
(中略)とはいえ謎が多すぎる。タリバンの報道官が共有したビデオ以外には、この車が高速で移動したり、難しい操縦をしたりする映像はない。
ATVIの校長は、このエンジンは運転手が速度を上げることができるほど「強力」だと語っている。しかし、このエンジンは2000年製のトヨタ・カローラのものという。
スポーツカーを作っている場合か
アフガニスタンは2021年8月にタリバンが国を占領して以来、経済が崩壊している。米国平和研究所によると、同国の経済は政権支配下の1年間で20~30%縮小した。
2021年10月から2022年1月の間に100万人以上のアフガニスタン人が国外に脱出したと、ニューヨーク・タイムズ紙が移民研究者の話を引用して報じた。
2022年1月、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、同国の悲惨な現状について、各国に警鐘を鳴らした。「タリバンによる占領から6カ月、アフガニスタンの人々にとって、日常生活は地獄と化している」
スポーツカーが、アフガニスタンの人々の生活を救うメシアになるとは考えにくいだろう。【1月20日 佐藤太郎氏 Newsweek】
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