孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南シナ海をめぐる米中対立 緊張が高まるいくつかのシナリオ 中国と対立を避けるASEAN諸国

2015-11-04 23:34:08 | 南シナ海

(なかなか手をつなぐのは難しそうで・・・ 4日、拡大ASEAN国防相会議 左からロシア、シンガポール、タイ、アメリカ、ベトナムの国防相 【http://wowway.net/news/read/category/world/article/the_associated_press-no_joint_declaration_at_asia_defense_meet_amid_sea-ap】)

米中、互いに牽制
アメリカ海軍が横須賀基地所属のイージス駆逐艦「ラッセン」を、南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島で中国が建設している人工島の12カイリ(約22キロ)内に10月26日夜(日本時間27日午前)、派遣したことを明らかにしたことで、南シナ海を巡るアメリカ・中国の対立が表面化していることは連日報道されているとおりです。

両国の交渉・綱引きはいろんなレベルで行われていると思われますが、潜水艦による文字通りの「水面下」の牽制も行われているようです。

****中国の攻撃型潜水艦、米空母ロナルド・レーガンに接近 10月下旬、日本近海で**** 
米ニュースサイト「ワシントン・フリービーコン」は3日、中国の攻撃型潜水艦が10月下旬、日本近海を航行していた米海軍の原子力空母ロナルド・レーガンの至近距離に近づいていたと報じた。中国潜水艦がここまで米空母に接近したのは2006年以来という。

米海軍のイージス駆逐艦ラッセンは、10月27日に南シナ海で中国が造成した人工島周辺を航行。空母接近はこの直前のタイミングだった。

同サイトは中国側がラッセンの航行や、対中強硬派として知られるハリス太平洋軍司令官の訪中に合わせてけん制した可能性を指摘した。

潜水艦の接近時に空母艦内では警報が鳴ったが、対潜哨戒機が発進したかどうかなどは不明。中国潜水艦の詳しい種類も明らかになっていない。

ロナルド・レーガンは母港の米海軍横須賀基地を出て、韓国海軍との合同演習のために九州南方を経て日本海に向かう途中だった。【11月4日 産経ニュース】
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一方、水面の上の原子力空母ロナルド・レーガンには、中国への強硬姿勢をとるカーター米国防長官が乗艦して、中国を牽制するとか。

****南シナ海で空母乗艦へ=中国にらみ米軍存在誇示―カーター長官****
カーター米国防長官は4日、拡大東南アジア諸国連合(ASEAN)国防相会議の閉幕後に記者会見し、南シナ海を航行中の米空母「セオドア・ルーズベルト」に5日、マレーシアのヒシャムディン国防相と共に乗艦すると明らかにした。

南シナ海で人工島の造成と施設建設を進め、海域の管理強化を図る中国をけん制する狙いがあるもようだ。(後略)【11月4日 時事】
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マレーシアは後述のようにASEANを舞台にした米中両国の綱引きに苦慮したASEAN議長国でもありますが、国防相がアメリカ原子力空母の米国防長官とともに乗り込むというのは意外な感もあります。
もっとも、だからといってマレーシアがアメリカ寄りを鮮明にしたという話でもないでしょう。

抑制的な中国 ただし、今後も続く保証はない
これまでのことろは当初懸念されていたような米中間の軍事的衝突などは起きておらず、基本的には中国側の「抑制的」な対応が目立ちます。

軍事的には中国側が劣勢にあると見られていることや、万一思わしい結果を得られなかった場合には国内での習近平主席の政権基盤が揺らぐことなどを考えると、当然の対応とも思われますが、今後とも「抑制的」対応が続く保証もありません。

****習近平の不気味な「沈黙****
習にとってアメリカとの対決はリスクが大き過ぎるが、重大な危機に発展する可能性を完全には排除できない

・・・・事前に米政府から知らされていた近隣のアジア諸国にとって、アメリカの行動は予想外ではなかった。意外だったのは中国の反応だ。

多くの観測筋は、中国側が米艦の通航を阻止しようとして危険な事態に発展しかねないと恐れていたが、その不
安は外れた。

中国政府は、米政府が中国の主権を侵し、不測の事態を招く危険を冒していると非難し、海軍の艦船にラッセンを追尾させたものの、中国艦船はラッセンとの距離を保った。

抑制的な態度は、現実主義的な対応を取った結果とみることができる。中国政府は仰々しい言葉でアメリカを非難するが、自国の領有権主張が国際法上の根拠を欠く海域で米軍と衝突することのリスクは十分に心得ている。

偶発的衝突が起きれば、習にとってはことのほか政治的リスクが大きい。
習としては、国民のナショナリズムを利用したい半面、長い目で見たリスクを考えると、南シナ海でアメリカと対
立することは許されないのだ。(中略)

米中危機への3つのシナリオ
中国にとって最悪のシナリオは、アメリカがフィリピンに圧力をかけ、スービック湾に再び米軍基地を設置する
ことかもしれない(米軍は92年にこの基地から撤退している)。これが実現した場合、米軍が先々まで南シナ海で
にらみを利かせることになり、地域の安全保障勢力図は一変する。

そのような事態を招けば、中国政府内で習の外交手腕が疑問視されるだろう。

今回、習が抑制的反応を選択した理由はこれだけではない。もっと重要なのは、国内経済の問題だ。 

習が旗を振っている反汚職キャンペーンは、権力基盤の強化には有効だったかもしれないが、経済改革の後押し
にはあまりなっていない。むしろ、賄賂を受け取ったり、公費で贅沢をできなくなったりした地方官僚の反発を買
い、実質的に全国規模で官僚のサボタージュユが起きている。

これにより、ただでさえ莫大な負債と弱い消費に悩まされている中国経済が一層苦しんでいるのが現状だ。
共産党トップとしての習の1期目の任期は、残り2年。さらに5年の任期を務めるのが既定路線とはいえ、17年
までに経済面で成果を挙げたい。

アメリカとの勝ち目のない戦いに乗り出している場合ではないのだ。そんな事態になれば、経済に振り向けるべきエネルギーが割かれる上に、国内外のビジネス界の心理を冷え込ませてしまう。

習が差し当たりアメリカとの対決回避を選択したとしても、中国軍が将来にわたり抑制的なアプローチを選び続
けるかどうかは別問題だ。アメリカが人工島周辺に艦船や軍用機を送り込み続ければ、メンツをつぶされた中国軍
部が文民指導部を押し切り、もっと強硬な姿勢を取らせないとも限らない。

少なくとも短期的には、このシナリオは現実昧が乏しい。今回の作戦により、アメリカは南シナ海問題で強い姿勢を示すという目的を達した。わざわざ頻繁に作戦を実行し続けて、緊張を高めることはしないだろう。

しかし、中国が人工島の軍事施設増強に乗り出せば、アメリカは作戦行動の頻度を高めざるを得ない。当然、衝突のリスクは大幅に高まる。

先週の出来事は、米中関係の現状を大きく変えるものではおそらくない。既に存在する地政学的対立を一層浮き
彫りにしたとみるべきだ。しかし、対立がこのまま解消されると考えるのは楽観的過ぎる。

今回のアメリカの作戦は、3つの面で米中関係を大きく損なう可能性を持っている。

第1は、戦術レベルで不測の事態が起きる可能性だ。両国のいずれかが対応を誤った場合、米中のにらみ合いが危機に発展しかねない。中国海軍に高度の裁量が与えられ、攻撃的で危険な戦術を用いることが許されれば、対立に歯止めが利かなくなる恐れがある。

第2は、対立を南シナ海に限定できなくなるケースだ。中国が報復として、アメリカヘのサイバー攻撃を強化した
り、イランや北朝鮮などへの新たな支援を開始したりすれば、米中関係に深刻なダメージが生じるだろう。

第3は、中国が引き続き、アジア諸国の安全保障に対するアメリカの関与の本気度を試そうとする可能性だ。中
国は、いま自国に地の利と時の利かあると思っている節がある。

中国はこれまで、南シナ海で人工島を建設したり、東シナ海上空にADIZ(防空識別圏)を設定することでア
メリカと同盟国の信頼関係をじわじわとむしばんできた。

そうした行動が続けば、アメリカはアジアの同盟国や友好国の安全を守る決意を明確に示すために強い態度に出ざるを得なくなる。米中の対立はさらに過熱するだろう。

私たちは、今回の中国の抑制を歓迎しつつも、南シナ海における米中の覚悟の試し合いが終わったわけではないことを理解しておく必要がある。【11月10日号 Newsweek日本版】
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「米中関係を大きく損なう可能性」としては、上記以外の重要要素として、中国国内の世論・敵対勢力の動向があります。

党内・軍部の粛清を続けてきた習近平主席ですが、その分、“敵”も多く、そうした勢力が世論を煽る形で、習政権がより強硬な姿勢をとらざるを得なくさせる・・・そうした場面も想定されます。

上記「第2」の「南シナ海以外の対立」については、逆に言えば、南シナ海問題を曖昧にしたまま、そうした他の対立で協調することで緊張緩和を図るということも可能ですが、現在のところは「サイバー攻撃」問題などはむしろ火に油を注ぐ形となっています。

基本線としては、中国側がこれまでのような南シナ海への進出を進めていけば、アメリカ側の対応もエスカレートすことになり、対立は次第に危険なものとなっていきます。

****南シナ海を泳ぐ中国原潜が米本土を狙う日****
・・・実はアメリカの本音は直接的な「核の脅威」にある。

今年5月に米国防総省が発表した中国の軍事に関する報告書に、注目すべき一節があった。
「年内に中国は初のSSBN(弾道ミサイル搭載原子力潜水艦)による核抑止パトロールを行う可能性が高い」。
ここでのSSBNとは中国海軍の晋級戦略ミサイル原潜のことで、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)「巨浪2」
が搭載されている。(中略)

「巨浪2」の射程は推定約8000キロ。陸・海・空・海兵隊約36万人から成る米太平洋軍の司令部があるハワイを脅かすことができる。さらなる射程距離改善を待たずとも、南シナ海を拠点にしながら、いざというときに軍事力の脆弱なフィリピンを越えて太平洋に抜ければ、米本土を目標にすることもできる。(中略)

そうしたSLBMの無力化を防ぐためには、南シナ海の制海権や制空権を支配するしかない。

中国が南シナ海に人工島を造る理由の1つはそれだ。南沙諸島にある数々の岩礁にレーダー施設を置くことで防空網を張り巡らせる。

哨戒機やイージス艦が接近すれば、おなじく人工島に造った滑走路から戦闘機が発進し威嚇する。人工島が整えば、
束シナ海に一方的に敷かれたADIZ(防空識別圏)が南シナ海にもつくられることだろう。

南シナ海が恐怖の海になるのをオバマは防ぐことができるのだろうか。【11月10日号 Newsweek日本版】
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「アメリカの本音」が上記のようなものなのかどうかは知りませんが、居場所を特定しづらい中国の原潜が南シナ海を自由に航行することはアメリカとしては避けたいところでしょう。

中国がそのような形で押し出してくれば、アメリカは協力関係にあるフィリピンのスービック湾に再び米軍基地を設置するという対抗策も。

スービック湾にはフィリピン軍が軍事基地を再開する方針がすでに発表されています。

****フィリピン、旧米海軍スービック基地に駐屯へ 南シナ海の中国にらみ****
ロイター通信は16日、フィリピン軍が来年初頭にもルソン島中西部のスービック湾に戦闘機や艦船を駐留させると伝えた。

同湾は冷戦時代に米海軍が戦略拠点としたが、1992年の返還後は、経済特別区として利用されてきた。
フィリピンは同湾を軍事基地として再開、南シナ海の領有権で対立する中国を牽制(けんせい)する。(中略)

フィリピンと米国は昨年、米軍によるフィリピンの軍事基地使用を盛り込んだ新軍事協定に署名した。スービック湾がフィリピン軍の基地となれば、米軍の同湾への本格回帰につながる可能性がある。

同湾から約270キロ離れたスカボロー礁では、2012年から中国船が居座り、スプラトリー(中国名・南沙)諸島の一部と同様に、人工島を建設し軍事拠点化する恐れがある。スービック湾に米比両軍が駐留すれば、中国への大きな抑止力となる。【7月16日 産経ニュース】
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そうした米中間の緊張が今以上に厳しさを増す情勢となれば、アメリカの日本への支援要請も強まるのでしょう。
安倍首相はそうした事態を想定して安保関連法を成立させたとも言われていますが、国内世論的には、与党内情勢を含めて、南シナ海問での日本・自衛隊の直接関与というのは難しい選択でしょう。

逆に言えば、アメリカの強い要請にどう対処するか・・・という話にもなります。

中国に批判的な共同宣言は出せないASEAN
話を現在に戻すと、とりあえずはASEANを舞台にした米中両国の綱引きが展開された結果、共同宣言を出せないという異例の事態ともなっています。

****拡大国防相会議、決裂=共同宣言に代え議長声明―ASEAN****
マレーシアの首都クアラルンプール近郊で開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国と日米中豪韓など計18カ国による拡大ASEAN国防相会議は4日、焦点となった南シナ海問題の記述をめぐり調整がつかず、共同宣言の取りまとめに失敗、事実上決裂して終了した。2010年に同会議が始まってから、共同宣言が採択されなかったのは初めて。

会議終了後に議長声明が発表されたが、南シナ海での人工島造成など中国の活動や日米が訴えている「航行の自由」の原則には一切触れておらず、緊張緩和に向け法的拘束力を持つ「行動規範」を早期に策定する重要性を指摘するにとどまった。これは従来の方針を改めて示したにすぎず、会議で実質的進展がなかったことを宣言したに等しい。

議長国マレーシアのヒシャムディン国防相は会議終了後の記者会見で、共同宣言を見送ったことについて「(合意できない)幾つかの問題があった」と述べた。

拡大会議は、南シナ海で中国が埋め立てた人工島周辺を米艦船が10月27日に航行して以降、カーター米国防長官と常万全・中国国防相が初めて顔を合わせる機会となった。しかし、共同宣言の取りまとめに失敗したことで、南シナ海問題をめぐる米中の緊張緩和には至らなかった。【11月4日 時事】
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これまでもASEANは中国との決定的対立を避けてきましたので、想定された事態でしょう。
ASEAN諸国における中国の存在の大きさを考えると、ASEANに中国批判を期待するのは無理があります。
アメリカ・日本が直視すべき現実でもあります。

一方、中国は習主席がベトナムに乗り込んで、南シナ海問題で対立するベトナム取り込みを狙います。
領土問題では中国と対立するベトナムですが、経済的に中国に大きく依存するベトナム側は習主席を熱烈歓迎の様子のようです。

ベトナム共産党はこれまでも、中国批判の世論が過熱しないように常にコントロールしてきています。

****中国、南シナ海めぐり越接近=習主席、5日に9年ぶり訪問****
中国の習近平国家主席(共産党総書記)は5〜7日、ベトナム、シンガポールを歴訪する。中国主席の訪越は2006年の胡錦濤氏以来、9年ぶり。

南シナ海で中国が造成する人工島近海への米艦航行を受け、米中対立が深まる中、中国は領有権をめぐり対立するベトナムに接近することで、包囲網にくさびを打ち込む考えだ。

中越関係は14年5月に中国が南シナ海の係争海域で石油試掘を強行したことで悪化したが、ベトナム共産党トップのグエン・フー・チョン書記長が今年4月に訪中し、修復へ前進。

習主席の訪越で両国はインフラ建設、貿易、投資などに関する協力文書に署名する見通しで、中国は経済協力を前面に出し、ベトナムの取り込みを図る。【11月4日 時事】 
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これまで中国と一定の距離感を保ってきたシンガポールにしても、人民元の国際化を踏まえた中国との金融協力の期待から、中国との関係強化に転じています。

軍事的にはどうこうという議論とは別に、南シナ海をとりまくアジア情勢は「中国との対立を望んでいない」「中国なしには経済がまわらない」という時代になっています。

アメリカ、それに連なる日本も、そのあたりを踏まえて行動する必要があります。

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