孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南シナ海問題での日本の立ち位置

2015-11-06 23:28:04 | 南シナ海

(ハリス米太平洋軍司令官からメダルを授与される河野統合幕僚長=6月18日、ハワイの太平洋軍司令部(米太平洋軍提供)【11月6日 朝日】)

南シナ海での自衛隊の活動について「今後検討していくべき課題だ」(菅官房長官)】
アメリカは、南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島で中国が建設している人工島の12カイリ(約22キロ)内に艦船を侵入させ、「航行の自由」を盾にした形で、中国のこの地域への急速な進出を阻止する行動に出ています。

現在までのところ、外交上の非難合戦やASEANを舞台にした綱引きはあるにしても、軍事的には中国は抑制的な対応をとっていること、ただ今後ともそうした対応が続く保証もないこと、ASEAN・東南アジア地域においては中国との決定的対立を多くの国が回避するほどに中国の存在が大きくなっていることなどは、一昨日の4日ブログ「南シナ海をめぐる米中対立 緊張が高まるいくつかのシナリオ 中国と対立を避けるASEAN諸国」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151104)でも取り上げたばかりです。

前回4日ブログでは、日本との関係については、“米中間の緊張が今以上に厳しさを増す情勢となれば、アメリカの日本への支援要請も強まるのでしょう。 安倍首相はそうした事態を想定して安保関連法を成立させたとも言われていますが、国内世論的には、与党内情勢を含めて、南シナ海問での日本・自衛隊の直接関与というのは難しい選択でしょう。”といった程度にとどめましたが、今回はそのあたりの話。

アメリカからは日本の協調を求める声がすでに出ています。

****12カイリ内航行、日本にも促す 南シナ海 ジョン・マケイン米上院軍事委員長****
米国の安全保障政策に大きな発言力を持つ共和党の重鎮、ジョン・マケイン上院軍事委員長は3日、ワシントンの連邦議会内で朝日新聞のインタビューに応じた。

米海軍の艦船が南シナ海で、中国が領有権を主張する人工島から12カイリ(約22キロ)内に進入したことに関して「いずれの国も国際法が許す範囲であれば、どこでも航行する権利がある」と語り、日本にも同様の行動を取るよう促した。(後略)【11月5日 朝日】
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現在のところは、海上自衛隊の対応能力が不十分なこともあって「航行の自由作戦に自衛隊が参加する予定はない」(菅官房長官)というのが日本政府の対応ですが、一方で、南シナ海での自衛隊の活動について「今後検討していくべき課題だ」とも。

****変わる安全保障)攻防の海、自衛隊苦心 装備不足でも、米と呼応探る****
「国際法にのっとって海洋活動を行う観点から米軍の行動について支持する」

3日午後、マレーシア・クアラルンプール郊外のホテル。ダウンライトが照らす一室で、カーター米国防長官と会談した中谷元・防衛相は、南シナ海で中国が領海と主張する海域を米艦が航行した「航行の自由作戦」に支持を表明した。

中谷氏は、翌4日の東南アジア諸国連合(ASEAN)と日米中などの防衛相が一堂に集まった会議でも作戦への支持を表明。中谷氏が演説を終えると、カーター氏は笑顔を見せた。同席した中国の常万全国防相は下を向いたままだった。

米軍は、日本が南シナ海での関与を強めるよう求めている。6月のハワイでの会談で、米太平洋軍のハリス司令官は、河野克俊(かわのかつとし)統合幕僚長に、南シナ海で米軍が実施する共同訓練や多国間演習に、自衛隊も参加するよう持ちかけたという。

しかし、河野氏の返答は慎重だった。河野氏は海上自衛隊の出身。海自が米軍を支援するだけの艦船などの装備が足りないことを知っているからだ。

海自が保有する護衛艦は47隻。一見、多いようだが、海自艦艇は尖閣諸島周辺の警戒、ロシアの動向の監視、北朝鮮のミサイル対応に加えインド洋・ソマリア沖の海賊対処も行う。訓練や定期修理もあり、やりくりに苦慮しているのが実態だ。

それでも海自は、現有の装備や能力で、米国の要請に精いっぱい応えようとしている。ソマリア沖で海賊対処に当たる護衛艦や哨戒機が日本と往復する際や、練習艦隊が定期的な遠洋航海に出向く際などに南シナ海に入り、自衛隊の存在感を示したり哨戒活動をしたりする。海上幕僚監部は、そんな案を検討している。

菅義偉官房長官は5日の記者会見で「航行の自由作戦に自衛隊が参加する予定はない」と述べる一方、南シナ海での自衛隊の活動について「今後検討していくべき課題だ」と、将来、警戒監視活動などに携わる可能性を示唆した。

折しも、南シナ海で10月下旬から、海上自衛隊の護衛艦「ふゆづき」が米海軍の原子力空母「セオドア・ルーズベルト」などの米艦船と、通信訓練やヘリコプター離着陸などの共同訓練を行った。

ふゆづきは、インドと米国の両海軍が主催し、海上自衛隊も招かれた海上合同訓練「マラバール」に参加した帰途だった。南シナ海最南部のボルネオ島北方を航行し、中国が埋め立てた人工島周辺12カイリには近づかない。

防衛省幹部は「航行の自由作戦とは連動しない」と話すが、日米の緊密な連携をアピールし、中国を牽制(けんせい)する狙いがあった。【11月6日 朝日】
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不測の事態も
国内世論の抵抗もありますので、直ちにアメリカと協調して中国と対峙するというのは、あまり現実性はないようにも思えます。

ただ、万一米中両軍が衝突するような事態になったら・・・自衛隊が米軍の後方支援にあたるという状況も起きるのでしょうか。

もちろん、オバマ大統領も習近平主席も、実際に砲火を交えるような事態は望んでいないでしょうが、偶発的な(あるいは一部勢力の故意による)「不測の事態」を含め、事態が一気にエスカレートする危険性は常にあります。

中国の攻撃型潜水艦が10月下旬、日本近海を航行していた米海軍の原子力空母ロナルド・レーガンの至近距離に近づいていたことは前回ブログでもとりあげました。

南シナ海で潜水艦を活動せたい中国と、これを阻止したいアメリカとの間できわどい状況が今後も続くと思われます。

****米中“原潜”攻防戦激化 米軍、最新装備で中国側封じ込め 南シナ海で緊張状態****
・・・軍事ジャーナリストの世良光弘氏は「南シナ海で米イージス駆逐艦と、中国のミサイル駆逐艦が対峙しているように、海中で、米中の攻撃型潜水艦同士が熾烈な攻防戦をしているはずだ。米原潜は同海域に数隻入っているのではないか」といい、続ける。

「海上とは違い、海中の攻防戦は外部に見えないだけに激しく、まず発表もしない。一般的に、潜水艦が『事故』『行方不明』というときは、敵との衝突があったと考えられる。もし、『潜水艦が撃沈された』という発表があれば、米中の緊張状態がピークに達したといえる」

かつて、中国の原潜は「ドラをたたきながら水中を進む」と揶揄(やゆ)されるほど、スクリューやエンジンの音が大きかった。米海軍や海上自衛隊には簡単に発見できたといわれる。ところが、世良氏は指摘する。

「確かに、中国原潜はうるさかった。だが、宋級通常型潜水艦などの静粛性は向上している。世界最強の米海軍も侮れない。だから、P8対潜哨戒機を飛ばして警戒している。2006年に沖縄近海で、中国の潜水艦が探知されずに、米空母『キティホーク』の至近距離に浮上して挑発したことがある。現在の緊張状態で同様のことが起きれば、米軍が攻撃してもおかしくない。今後、1、2カ月はこのような緊張状態が続く」【11月6日 夕刊フジ】
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(原子力空母ロナルド・レーガンへの中国潜水艦の接近は)中国海軍の失態という分析だが、(軍事ジャーナリストの)井上氏は「ただ…」といい、以下のように付け加えた。

「中国軍の一部に、跳ね返り組がいる。2013年、海上自衛隊艦船へのレーダー照射を行ったような連中だ。もし、米空母に同様のことをすれば危ない。米軍は相手が攻撃態勢に入ったと認識すれば、すぐ撃つ。米中は紛争状態に突入するだろう」【11月5日 夕刊フジ】
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【夕刊フジ】はこの種の話が随分好きなようで、米中衝突を期待していいるようにも見えます。
ただ、そうした「不測の事態」の可能性も排除できないのも現実です。

安倍首相はそうした事態への自衛隊の関与を第一に想定して安全保障関連法案を成立させた・・・という話は、10月20日ブログ「高まる「南シナ海有事」の危険 そのとき日本は?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151020)でも取り上げたところです。

****後方支援、対象にも****
安全保障関連法の柱の一つである重要影響事態法は、南シナ海での事態発生も想定している。安倍晋三首相は、5月の国会答弁で「南シナ海で、ある国が埋め立てをしている」と述べ、適用を示唆した。

原油を輸入に頼る日本にとって、同海域は最も重要な海上交通路(シーレーン)だ。安倍政権は関与に積極的な姿勢を見せる。

同法の前身の周辺事態法(1999年制定)は、朝鮮半島有事などで自衛隊が米軍に後方支援をすることを想定していた。活用範囲を事実上「日本周辺」に限定しており、南シナ海はその範囲外だった。

重要影響事態法は周辺事態法を改正して作られた。地理的な制約をなくし、南シナ海を含む世界中どこでも活動できる。米軍にとどまらずオーストラリア軍などへも支援が可能になる。

今後、仮に南シナ海で武力紛争が起きた場合、日本への武力攻撃の恐れがあるなど「日本の平和と安全に重要な影響を与える事態」と政府が認定すれば、自衛隊が米軍などに後方支援ができる。

後方支援には、物資や人員の輸送などに加え、周辺事態法では認められていなかった弾薬提供や発進準備中の航空機への給油など、武力行使により近い支援など幅広い内容を含む。

防衛省幹部の一人は、こう語る。「南シナ海での衝突が、沖縄の尖閣諸島に飛び火してくる可能性もある。最悪のケースを想定し、重要影響事態法も含めた対応を考えておいた方がよい」【11月6日 朝日】
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「最悪のケースを想定した」議論・外交が必要とされますが、やる気満々の安倍首相に対し、与党内にもいろんな考えがあるところでしょうが、表立ってものを言う政治家は少ないようです。

****南沙「日本に無関係」=野田聖子氏****
自民党の野田聖子前総務会長は4日夜のBS日テレの番組で、中国が進める南シナ海の人工島造成について「直接日本には関係ない。南沙(諸島)で何かあっても、日本は独自路線で対中国の外交に徹するべきだ」と述べた。同島近海では米国が艦船を航行させ中国をけん制、日本政府も支持を表明したばかりで、発言は波紋を呼びそうだ。

野田氏は次期総裁選への出馬に意欲を示しており、自身の外交政策を問われる中で発言した。野田氏は「南沙の問題を棚上げするぐらいの活発な経済政策とか、お互いの目先のメリットにつながるような2国間交渉をやっていかなければいけない」とも語った。【11月4日 時事】
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安倍首相との対立軸を明確化させるためもあってか、随分思い切った発言です。
当然のごとく、ネット上でも袋叩き状態です。

ただ、シーレーンの重要性云々の話はありますが、米中両国はお互いの思惑で力比べをしているとも言え、日本は日本の立場で考える必要があります。
ASEAN諸国の動きを見ていても、今後ますますアジアは中国を軸として動いていく流れにあるようにも見えます。

中国は問題の多い国で、日本との間でいろんなしがらみがある国ですが、これまでのようにアメリカと一緒になって中国を抑え込んでいこうというだけで将来に対応できるのかは疑問です。

実際に衝突が起きてしまうと、どういう選択にしろ日本としては難しい立場に置かれます。
そういう事態にならないように、米中間の「落としどころ」を探る方向で日本外交も米中双方に働きかけていく必要があります。

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