孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス・マクロン大統領 旧植民地のアルジェリア訪問 歴史問題の難しさ ガス調達では成果?

2022-08-29 23:13:26 | 欧州情勢
(27日、アルジェで握手するアルジェリアのテブン大統領(右)とフランスのマクロン大統領(AP=共同)【8月28日 共同】)

【サルコジ元大統領 一般論として植民地制度の不正を認めつつも、自国のアルジェリアに対しての行為は「謝罪」はしない】
日本を含めて、どこの国も自国の過去に、特にその過去が負の歴史の側面がある場合、その過去に向き合あうことは非常に困難です。

その一例が欧州列強と旧アフリカ植民地の関係。
ベルギーとコンゴについて、6月23日ブログ“ベルギーとコンゴ 植民支配の重い歴史”で取り上げましたが、今回はフランスとアルジェリアの関係。

フランスのサルコジ元大統領時代の話について、2007年12月8日“フランス なお残る植民地問題と移民問題”で取り上げたことがあります。

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サルコジ大統領は(2007年12月)5日、3日間にわたる旧植民地のアルジェリア公式訪問を終えた。両国は核エネルギーの平和利用協力を含む総額73億ドル(約8000億円)以上の投資・協力協定を締結した。

サルコジ大統領は滞在中、一般的な植民地制度を「不正だ」と非難したが、アルジェリアが要請していた仏植民地時代(1830~1962年)に関する直接の謝罪はしなかった。【2007年12月6日 産経】
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一般論として植民地制度の不正を認めつつも、自国のアルジェリアに対しての行為は「謝罪」はしないという対応。
「(植民地当時)入植したフランス人はアルジェリアを支配しようとしたのではない。アルジェリアのためになることをしよう思っていた・・・」そうした趣旨の発言も。

2004年頃、“海外においてフランスの存在が果たした植民地支配のポジティブな面”“を教育カリキュラムに盛り込む法案を成立させたのが、当時の国民運動連合(UMP)党首のサルコジ氏でした。

【マクロン大統領 個々の案件では踏み込んだ言動も】
一方、マクロン大統領はこれまでアルジェリアに対するフランスの責任に踏み込む言動も見せてきました。

****マクロン仏大統領、アルジェリア戦争時の拷問を認め、謝罪****
(2018年)9月13日、マクロン仏大統領は、1957年にアルジェでフランス軍に拘束され行方不明となったモーリス・オダン(Maurice Audin)の死について、軍の責任を認め、未亡人に謝罪した。

数学者でアルジェ大学教授であったオダンは、共産主義者でアルジェリアの独立を支持し、FLN(アルジェリア民族解放戦線)とも繋がりがあった。

マクロンは、Audinがフランス軍に拘束されたうえで拷問を受け、それによって死亡した、もしくはその後処刑されたとして、共和国の名において責任を認め、87歳の未亡人に面会し謝罪した。
 
今回の謝罪が実現するには長い時間がかかっている。2007年に未亡人がサルコジ大統領に手紙を書いたとき、返答はいっさいなかった。

一方、フランソワ・オランド前大統領は、2014年6月18日、オダンは公に言われているように失踪したのではなく、拘禁中に死亡したと発言した。

今回の謝罪の手紙と面会は、その延長線上にある。マクロンは、共和国議会の投票によって導入された「特別権力」のため、「逮捕・拘禁」システムが出来上がり、それがこの悲劇を招いたと説明した。軍の責任を認めつつも、軍だけでなく議会の決定で導入されたシステムの問題だと述べたわけである。
 
今回の措置により、フランスがアルジェリアの独立を阻止するため、拷問を含めた非人道的な措置を広範に用いていたことがはっきりした。

14日のルモンド紙の社説では、マクロンが決定的な一歩を踏み出したとして、アルジェリア戦争の過去を明らかにすることは、フランス・アルジェリア両国の和解にとって不可欠だし、アルジェリアにも同様の行動を促すことになるとして評価した。

アルジェリア側は公式には目立った反応をしていないものの、総じてマクロンの行為を評価する声が目立つ。一方、極右政党の国民戦線は、国民を分断させる行為だとして大統領を強く批判した。
 
自国の暗い過去を明らかにすることは、簡単ではない。それは指導者の決断がなければできないことである。しかし、ルモンド紙が指摘するように、これはフランス・アルジェリア間の真の和解を達成するには不可欠の行為と言えるだろう。

マクロンは就任前から、植民地主義を人道に反する罪だと述べるなど、植民地統治の関わる問題について積極的に発言してきた。この勇気ある行動が、フランスとアルジェリアの相互理解と過去の克服に繋がることを願う。【2018年9月18日 現代アフリカ地域研究センター】
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****60年前のデモ弾圧「犯罪」 アルジェリア巡り仏大統領****
フランスのマクロン大統領は16日、1961年10月に植民地アルジェリアの独立を求めるアルジェリア人らのデモをパリの警察が弾圧し、多数が死亡した惨事の追悼式典に出席した。発生から17日で60年となるが、追悼式典への大統領の参加は初めて。マクロン氏は声明でデモ弾圧を「国にとり許せない犯罪だ」と批判した。

歴代大統領では前任のオランド氏が「流血の弾圧」と指摘しており、さらに踏み込んだ形。マクロン氏はアルジェリア独立戦争(1954~62年)に絡む自国の負の歴史と向き合う取り組みを進めているが、複雑な仏アルジェリア関係の改善にはつながっていない。

大統領府の声明によると61年10月17日夜、アルジェリア系住民だけに適用された夜間外出禁止令に抗議し、約2万5千人がパリへ郊外から向かうと、モーリス・パポン警視総監(当時)指揮下のパリ警察が激しく弾圧。数十人が死亡し、遺体はセーヌ川に投げ捨てられたほか、約1万2千人が逮捕された。

追悼式典はデモ参加者が渡ったパリ西郊の橋のたもとで行われ、マクロン氏は献花、黙とうした。地元メディアによると、関係者からはパポン警視総監の関与を強調し、国や当局の責任を十分認めていないと批判の声も上がった。

マクロン氏は9月、アルジェリア独立戦争をフランス側で戦った「ハルキ」と呼ばれるアルジェリア人兵士や家族らに対し、非人道的処遇で戦後、多くの犠牲や苦難が生じたとして謝罪した。【2021年10月17日 日経】
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【「謝罪」には至らず  “未来志向”で歴史学者による合同委員会やサッカー対戦】
個々の案件ではこれまでにないフランスの責任を認める言動をとっているマクロン大統領ですが、ただアルジェリア側の歴史認識(歴史書き換え)には批判も。

****アルジェリア、駐仏大使を召還 マクロン氏発言報道に反発****
アルジェリア政府は(2021年10月)2日、フランスの「許し難い内政干渉」を批判し、駐仏大使を召還したことを明らかにした。

仏紙ルモンドは、マクロン仏大統領が9月30日、アルジェリア関連の会合で、アルジェリアでは歴史が「事実に基づかず、フランスを憎む論文に基づいて書き換えられている」と発言したと報じていた。

ルモンドによると、マクロン氏はこの際、アルジェリア政治は「軍政」と指摘。テブン現大統領も「この強力なシステムに絡め取られている」と述べた。【2021年10月03日 時事】
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そのマクロン大統領は今月25日にアルジェリアを訪問し、テブン大統領と会談し。会談後の共同記者会見で、フランスの植民地支配をめぐり、両国の歴史学者による合同委員会を設置すると発表しました。

****仏大統領、アルジェリア訪問 植民地支配の歴史で共同委員会設置 エネルギー協力促す****
フランスのマクロン大統領は25日、旧植民地アルジェリアを訪問し、テブン大統領と会談した。会談後の共同記者会見で、フランスの植民地支配をめぐり、両国の歴史学者による合同委員会を設置すると発表した。ロシアのウクライナ侵攻にも触れ、資源大国のアルジェリアにエネルギー危機への対応で協力を促した。

マクロン氏は「われわれは複雑で、つらい過去を共有している」と発言。合同委員会が両国の公文書を検証することで、未来志向の関係作りに期待を示した。(中略)

今年はアルジェリア独立から60年にあたり、マクロン氏の訪問は、緊張が続く両国関係の修復が最大の目的。

特に、歴史問題は大きなしこりとなっており、マクロン氏が昨年、アルジェリアは「フランスへの憎悪」を培い、歴史の記憶を政治利用していると発言したのに対し、テブン氏が「フランスは過去の罪を認めよ」と反論して駐仏大使を一時呼び戻す騒ぎとなった。

マクロン氏は2017年、大統領就任の直前に「植民地支配は、人道に対する罪にあたる」と発言したが、就任後は謝罪問題には踏み込んでいない。

マクロン氏の訪問は27日まで。財務、外交、国防閣僚など主要閣僚のほか、エネルギー企業トップなど約90人が同行した。

欧州連合(EU)ではロシア産天然ガス依存からの脱却が課題となる中、ドイツからフランス、スペイン経由でアルジェリアを結ぶガスパイプラインの敷設構想が浮上している。国際エネルギー機関(IEA)によると、アルジェリアは天然ガス生産で世界10位。【8月26日 産経】
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大統領就任の直前に「植民地支配は、人道に対する罪にあたる」と発言したが、就任後は謝罪問題には踏み込んでいない・・・・基本的にはサルコジ大統領当時と大枠では変わっていないということでしょうか。

両国の歴史学者による合同委員会とのことですが、日本と韓国の間でも日韓歴史共同研究がありましたが、あまり成果を出したようには見えません。どういう姿勢で臨むかによりますが・・・。

責任や「謝罪」云々で揉めるより、手っ取り早くスポーツで和解をアピールしたいという思惑も。

****過去克服へサッカー対戦も 仏大統領、アルジェリアと****
フランスのマクロン大統領は26日、フランスの植民地支配の歴史によるアルジェリアとの複雑な関係を巡り、両国によるサッカーの親善試合開催は「過去を払いのける良い機会になるだろう」と述べた。訪問先のアルジェリアの首都アルジェで記者団の質問に答えた。

両国のサッカー親善試合は、1962年のアルジェリア独立後、2001年に初めて行われたが、試合の後半にアルジェリアのサポーターがグラウンドに乱入し、打ち切りとなった。

マクロン氏は「スポーツは和解をもたらすものだと思う」と述べ、アルジェリア側と話し合う考えを示した。【8月26日 共同】
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しかし、日韓のサッカー等のスポーツ対戦を見ると、「スポーツは和解をもたらす」というより、対立・憎悪を煽る側面が強いようにも思えますが・・・。

【「新時代を開く」・・・はともかく、天然ガス調達に尽力】
「謝罪」問題はともかく、2007年のサルコジ元大統領がアルジェリアへの原発売り込みに精を出したように、マクロン大統領が注力したのは、現在価格高騰で問題になっている天然ガスの調達でした。

****仏アルジェリアが「新時代」宣言 独立60年、ガス供給増か****
フランスのマクロン大統領は27日、アルジェリアの首都アルジェでテブン大統領と両国の新たな協力関係を定めた「アルジェ宣言」に署名し、3日間の同国訪問を終えた。アルジェリアがフランスから独立して今年で60年。複雑な関係が続いているが、宣言は「新時代を開く」とうたった。

フランスの民放ラジオ、ヨーロッパ1は28日、ロシアのウクライナ侵攻で欧州諸国の重要課題となっている天然ガス調達を巡り、アルジェリアがフランスへの供給を約50%増やすことを検討していると伝えた。マクロン氏に同行したエネルギー大手エンジーのトップがアルジェリア側と協議した。【8月28日 共同】
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政治家がよく口にする“未来志向で・・・”ということでしょうか。
まあ、それもよいですが、やはり過去の清算もしておかないと、事あるごとに不満が噴き出します。
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