孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラク・モスル奪還は“間もなく完了” IS崩壊は“第2章”の始まりか?

2017-03-20 21:51:04 | 中東情勢

(モスル西部で、ロケット弾を発射するイラク政府軍(2017年3月14日撮影)【3月15日 AFP】 70万人とも50万人とも言われる住民が残る地域へ撃ち込まれる訳ですから、住民犠牲も少なからぬものが想像されます)

モスル西部に残るIS戦闘員は400~500人程度
イスラム国(IS)が支配するイラク・モスルにおいては、イラク軍による奪還作戦が進められています。
モスルを包囲し1月に東部を奪還したイラク軍は、2月19日から西部の奪還作戦も開始しています。

モスル西部には国連の推定で約75万人の民間人が残り、ISも激しい抵抗を続けているため、作戦は難航する可能性があるとされ、実際、ISの激しい抵抗にあい、戦闘による多大な住民犠牲も出ていますが、戦局は急速に最終局面に向けて動いているようです。

イラク治安部隊の司令官は今月12日、モスル西部地区について、「おおむね3分の1以上がわれわれの部隊の支配下に入った」と述べていますが、昨日の下記記事によれば“ISが支配するのは西部の30%ほど”とされています。

****モスル奪還へ最終局面 体揺らす砲撃、街に残る自爆遺体****
黒煙が上がった直後、爆音がとどろき体が震えた。過激派組織「イスラム国」(IS)の最大拠点イラク北部モスルに入ると、イラク軍などによる奪還作戦が「最終局面」(同軍幹部)に向かっていることがわかる。世界を揺るがせた過激派組織は包囲され、瀬戸際に追い詰められていた。

イラク第2の都市モスルの奪還作戦は昨年10月に始まり、今年1月、東部が解放された。朝日新聞記者は12、13両日、イラク軍に同行して市内に入った。(中略)

西部への幹線道路は、3月中旬までにすべてイラク軍側に制圧された。IS戦闘員は包囲され、外部からの補給路はほぼ断たれた形だ。

■残る戦闘員「住民を盾に潜伏」
ISの前身組織は2014年6月、モスルを占拠。「カリフ制国家」の樹立を宣言し、ISと改称した。イラクとシリアで勢力を広げ、最盛期の14年には両国土のほぼ3分の1、数百万人を影響下に置いたとされる。
 
シリア北東部ラッカがISの「首都」とされるが、最高指導者アブバクル・バグダディ容疑者が「カリフ」として演説したのはモスルのモスク(礼拝所)だったことから、モスルが最重要拠点だったとされる。

バグダディ容疑者をめぐっては、モスル西部に潜んでいるとの見方やシリアに逃亡したとの説もある。
 
イラク陸軍のリヤド・ジャラル・タウフィ現地司令官は、「モスル全体の奪還がIS壊滅への重要なステップになる」と強調した。

西部に残るIS戦闘員は400~500人程度。ただ自爆攻撃や狙撃などを繰り返し、徹底抗戦の構えを崩していない。爆弾を積んだ無人飛行機ドローンも使っているという。
 
司令官は「住民を盾に民家に潜んでおり、一軒一軒の探索を強いられている」という。ISが支配するのは西部の30%ほど。大がかりな作戦で一気に奪還することも可能だが、住民の犠牲を最小限に食い止めるため、慎重にならざるを得ないという。
 
モスル奪還を含めたイラクでのIS掃討作戦は、米軍などの支援を受け、10万人規模で進んでいる。別の軍関係者は、「ISには組織的に抵抗する能力はなく、モスル奪還は間もなく完了する」と強調した。

掃討作戦はシリア側でも進行中だ。

■避難民20万人、着の身着のまま市外へ逃れる
モスル西部には、なお70万人近くの住民がいるとされる。イラク政府は上空からリーフレットをまいて、戦闘に巻き込まれないため市内にとどまるよう呼びかけている。だが、危険を冒して市外に逃れようとする住民は絶えない。
 
モスル近郊など20カ所あまりに避難所が設けられ、全体で20万人ほどが身を寄せているという。モスルの南約5キロに位置するハマームアリには連日1千人ほどがたどり着く。着の身着のままの人がほとんどだ。
 
農業を営んでいたというマフムールさん(85)の家族9人は徒歩で逃げてきた。「この年になって家も家財道具もすべて失った」。12日にIS戦闘員が隠れ家として使おうと自宅に押し入ってきたため、隣家などに身を寄せていると、空爆で自宅はほぼ全壊したという。
 
3月に入って雨が降ったり、急に冷え込んだりする日が続き、避難民キャンプでは体調を崩す人も多い。戦闘の恐怖がトラウマとなっている子どもも少なくないという。キャンプの担当者は「人も物も足りない。避難民を守るには支援の拡充が必要だ」と訴えた。【3月19日 朝日】
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避けられない住民犠牲
“大がかりな作戦で一気に奪還することも可能だが、住民の犠牲を最小限に食い止めるため、慎重にならざるを得ない”とは言うものの、現実問題としては、戦闘となると住民被害は避けられません。

****モースル開放作戦(民間人の被害****
これまでもお伝えしているように、西モースル解放作戦は旧市街の攻略に入り、ISもいまだ激しく抵抗し、方々で激しい市外戦が続いているようですが、特にグランドモスクに通じる地域の周辺では激しい戦闘が続いている模様です。

ISは住民を人間の盾として使っていると非難されていますが、同時にISも政府側も、狭い地域で破壊力の大きい、臼砲や大砲、ロケットを使っているために、民間人の被害が増大しているとのことで、イラク人権網は、政府軍に対して非誘導弾の使用をやめるように呼び掛けている由。

また、有志連合軍の空爆も、家屋の破壊や住民の死傷を招いていると批判されています。

なお、旧市街では道路が狭く、作戦に支障があるために、政府軍は家々の外壁を破壊して、新しい通路を開削する等の作戦も行っているよし。

このような状況で、イラク人権網および多くの国際的人権団体が、狭い旧市街での戦闘は住民の被害を増大させているとして、政府軍とISの双方に対して、最大の注意を払うように呼び掛けている由。

イラク人権網は、西モースルにはいまだ50万の住民が残っており(確かに戦闘開始前は住民75万と伝えられていたので、まだ50万人が残っている可能性があるかもしれない)、彼らは死の危険に直面しているとのアッピールを行ったよし。

同組織によると過去2日間で、40名の住民が死亡したよし。彼らはal sarjikhana,al farouq,alshahawan,al midan,al risala地区の住民の由。

また民間人の死者を調査している団体によると、2014年以来の有志連合による民間人の死は2590名に上る由。【3月20日 野口雅昭氏 「中東の窓」】
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地下トンネルでの脱出も
いずれにしても、10万人規模の攻撃軍に対し、“西部に残るIS戦闘員は400~500人程度”という状況では組織的な反撃は不可能で、モスル奪還は間もなく完了すると推測されます。

奪還作戦は補給路・逃走経路を絶って行われています。

****イラク軍、モスルと市外つなぐ最後の道路制圧 IS戦闘員の退路断つ****
イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の主要拠点であるイラク北部モスルの奪還作戦を進めているイラク政府軍は、市外につながる最後の道路を制圧し、ISの戦闘員を市内に閉じ込めた。米主導の対IS有志連合の特使が12日明らかにした。

有志連合の調整役を担う米国のブレット・マクガーク特使はイラクの首都バグダッドで記者会見を開き、「モスル北西のバドゥシュのイラク陸軍第9部隊が昨夜、モスルと市外を結ぶ最後の道路を制圧した」と述べた。
 
現在、モスル西部ではイラク軍や政府側の民兵が、市内では2つの特殊部隊と連邦警察がそれぞれISの掃討作戦を進めている。
 
マクガーク特使は「モスル市内に残っているIS戦闘員は退路が断たれた以上、全員そこで死ぬことになる。モスルで彼らを打倒するだけでなく、市外に逃げられないようにする」と語った。【3月13日 AFP】
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“市外に逃げられないようにする”とのことですが、“西部に残るIS戦闘員は400~500人程度”というのは少なすぎるような感も。

道路以外の逃走経路としては、地下トンネルもあるようです。

****イラクのモスルに地下トンネル網 イスラム国掃討の障害に****
過激派組織「イスラム国」(IS)はイラク国内最大拠点、北部モスル市内や周辺で奇襲や退避用の地下トンネル網を張り巡らしていた。イラク軍などが昨年10月以降進めるモスル奪還作戦の障害となっており、一部戦闘員らの逃走を許す恐れもありそうだ。
 
モスルの東約20キロにあるキリスト教徒の町カラコシュ付近の教会に、大きな穴が掘られていた。「ISが掘ったトンネルで、2方向に長さ10キロ以上あった」。警備の地元民兵が指摘した。
 
軍関係者らによると、ISは米軍中心の有志国連合の空爆を避けたり、戦闘中に移動したりするためにトンネル網を形成したとみられる。【3月20日 西日本】
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トンネルからアッシリア時代の遺物

(モスルのトンネル内で見つかったアッシリア時代の遺物【3月20日 西日本】)

このISによる地下トンネルからは、思わぬ“副産物”も。“思わぬ”と書きましたが、メソポタミア文明以来のこの地域の歴史を考えれば、当然の話とも言えます。

****ISが掘ったトンネルからアッシリア時代の遺物を発見 イラクのモスル東部で****
イラクの考古学者らは、イラク北部の都市モスルでイスラム過激派組織ISが掘ったトンネルの中から、約2700年前にこの地を統治していた古代アッシリア王の宮殿の跡とみられる遺物を発見した。トンネルはISが破壊した聖廟の下に掘られたものだ。
 
IS戦闘員は2014年にモスルを制圧した後、預言者ヨナの墓とされる聖廟を爆破。その後、その地下にトンネルを掘り進め、それが今回の発見へとつながった。
 
トンネルの奥深くからは、古代の碑文や翼の生えた雄牛やライオンの彫刻が見つかった。これらの遺物は、紀元前7世紀に新アッシリア王国時代のアッシリアを統治したエサルハドン王の宮殿の一部とみられるという。
 
IS戦闘員らは埋蔵品を略奪する目的でこれらのトンネルを掘ったとみられる。イラク政府軍は今年1月にモスル東部をISから奪還。西半分の奪還に向けて今も戦闘は続いている。【3月14日 IT media NEWS】
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逃走用ではなく、埋蔵品の略奪・資金獲得用のトンネルのようです。いささかインディ・ジョーンズの世界です。

戦闘経験を積んだ戦闘員が出身国に帰国
話を現実世界に戻すと、時間の問題ともなっているIS崩壊に伴って、イラクやシリア国内においては、“IS後”の主導権をめぐる争いがすでに激化しているという話は、これまでも取り上げてきました。

一方で国外的には、モスル、そして今後のシリア・ラッカ奪還に伴ってIS戦闘員が世界各地に分散する危険性もあります。

IS戦闘員は外国からの参加者が多いとされていますが、戦闘経験を積んだテロリストが出身国に戻る・・・という話にもなります。イラク・シリアにおけるIS崩壊ですべてが終わるわけでなく、あくまで“第1章”の終わりであり、“第2章”が始まる可能性があります。

IS戦闘員の出身国は世界各国にまたがっていますが、国際戦略コンサルティング会社、ソウファン・グループの2015年12月のレポートによれば、チュニジア6000名、サウジアラビア2500名、ロシア2400名、トルコ2100名、ヨルダン2000名とのことで、フランスからも1800人、イギリスからは760人が、外国人戦闘員として加わっているともされています。【2016年3月21日 Global Voices】

また、別調査では中国から300人とも。【http://top10.sakura.ne.jp/ICSR-ISIS.html】おそらくウイグル人でしょう。

チュニジアは「アラブの春」が成功した唯一の国とされていますが、問題のある者が国外に出ていくことで実現した成果とも言え、そうした者が戻ってくることで唯一の「アラブの春」の成果も動揺する可能性があります。

ウイグル人戦闘員が中国に対し、「川のように血を流し、虐げられた人たちの復讐をする」とのメッセージを発していることは、3月2日ブログ“中国・新疆ウイグル自治区 当局は大規模軍事パレード IS参加戦闘員は「川のように血を流す」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170302でも取り上げました。

ロシア・チェチェン:渡航先消失で国内で若者が過激化
事情はチェチェンなど北カフカス地域を抱えるロシアでも同じ・・・というか、中国などより格段に深刻です。
単純に、IS戦闘員が戻ってくるということだけではなく(そのことは一定に防止することも可能ですが)、過激な若者を惹きつけてきた海外渡航先が消失することで、国内で過激化する若者が増えるという問題が指摘されています。

****プーチンはシリアのISISを掃討するか──国内に過激派を抱えるジレンマ****
<チェチェン共和国でテロ攻撃が増加している。ISISに参加するためシリアやイラクに出て行った戦闘員が、ISISの劣勢を受けてロシアに帰国しているからだ。>

ロシアが独立運動を警戒するチェチェン共和国で、過激派による銃撃事件や、暴力による死傷者の数が、15年から16年の間に急増した。今年に入り、チェチェン内務省とロシア大統領直属の国家親衛隊は大規模な対テロ作戦を実施し、テロ攻撃を企てた疑いのある地下組織を摘発した。

こうした動きは、チェチェンの若者が一層過激化する傾向を反映している。過激派の台頭は、領土を持った疑似国家としてのテロ組織ISIS(自称イスラム国)の弱体化がもたらした副産物だ。

シリアやイラクの支配地域での国家樹立を狙うISISは、近年までチェチェンから大量の戦闘員を動員した。ロシア政府はシリア介入の大義にISISの壊滅を掲げたが、ISISの掃討作戦が上手くいけばいくほど、かえってISISの戦闘員が逆流し、チェチェンの不安定な情勢に拍車をかける恐れがある。

果たしてロシアはそんなリスクを冒しても、ISISを本気で壊滅させるつもりだろうか。(中略)

最大の戦闘員供給国
チェチェンから国外に渡航した戦闘員の数は、16年に大きく減少した。チェチェン内務省の情報では、同年にシリアのテロ組織に加わった戦闘員が19人まで落ち込んだ。年間で数百人が渡航したとされる13〜15年に比べると、大幅な減少だ。

戦闘員の勧誘が下火になった要因について、当局は予防措置や摘発が成功した証だと主張する。だが実際は、シリアとイラクでISISの支配地域や勢力が縮小したからだ。(中略)

ロシア政府は過去に「チェチェンのテロは敗北した」など疑わしい見解を示したが、テロが収まったように見えたのは、チェチェンからの戦闘員流出を抜きにしては語れない。

シリア内戦が始まって以降、カフカス地方の地下組織の活動は半減した。治安当局や専門家、人権活動家、地域の住民もその事実を認める。つまり、チェチェンの武装勢力が国外のテロ活動に従事してくれれば、ロシア国内の治安問題が解消するわけだ。

ISISが支配領域や戦力を失い続ければ、ロシアが戦闘員の流出という外的な力で国内の治安問題を解消するのが困難になる。(中略)

今後ロシアには2通りのシナリオが考えられる。

1つは、シリアで経験を積んだ戦闘員が帰国してチェチェンの武装勢力と結託し、ロシアの治安上の脅威が増大するシナリオだ。ただしロシアはすでに予防措置となる法律を制定したから、可能性は低そうだ。

プーチンは2015年4月にISISはロシアの直接的な脅威ではないと述べたものの、ロシア政府はロシアからISISに参加した戦闘員が大挙して帰国する事態を懸念していた。

そのため早くも2013年10月には刑法を改正し、国外のテロ活動への参加を厳罰化。戦闘員の帰国を事前に阻止した。さらに抜け穴を塞ぐため、2016年にテロ厳罰化法とテロ対策強化法を合わせた「ヤロバヤ法」と呼ばれる法律を制定し、裏から帰国するルートも塞いだ。

シリアでISの戦い続くほうが好都合
2つ目のシナリオは、チェチェンで過激化する若者が増え続けることで、国内の過激派が更に勢いづくことだ。実際にチェチェンでは、2016年に過激派による銃撃や被害者が急増する一方で、シリアの過激派組織に加わる戦闘員が激減したのは、それが現実に起きているのを示す兆候だ。

チェチェンとロシアの当局が今年1月に対テロ作戦を実施したのも、過激派の更なる台頭を阻止すべく先手を打つためだった。

(中略)(ISが)支配地域をなくせば、ISISはチェチェンの若者を魅了し戦闘員を確保する能力を失う。ロシア国内の戦闘員の卵は、ISISに参加を目指して渡航する希望をなくし、意欲も萎むだろう。

その結果ロシア国内で過激化する若者が増えてチェチェンの過激派が増大するなら、ロシアにとってまさに悪夢のシナリオだ。むしろシリアや周辺地域でISISの戦闘が続くいたほうが、ロシアは自国の領土から過激化した若者を排除でき、最悪のシナリオを回避できる。

果たしてそんな国内事情を抱えるロシアが、シリアやイラクなど国境を越えて本気でISISと戦うつもりかどうか、予断を許さない。【3月8日 Newsweek】
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国内に過激派予備軍を多数抱える国にとっては、ISが存続し続けてくれること、あるいは、別の拠点で再建してくれることのほうが、IS崩壊よりも好都合・・・というのが“本音”なおかも。

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