(【8月29日 WSJ】)
【家計の倹約志向、将来への悲観からデフレ懸念 中国経済の「日本化」の指摘も】
不動産市場低迷にもリンクしますが、中国では家計の節約・倹約志向が強まり、貯蓄が増加し、消費が伸びないという傾向が出ており、消費者物価指数は下落し、デフレマインドが指摘されています。
この傾向は、バブル崩壊後の日本にも似ており、中国経済の「日本化」とも。少子高齢化という構造的問題も日本と重なります。
****中国経済に漂う「日本化」 デフレ懸念、高齢化も****
景気悪化に直面する中国経済が、バブル崩壊後の日本と重ねられて「日本化」と指摘されている。経済の先行きに悲観ムードが広がり、需要不足からデフレ懸念が台頭しているといった見方だ。少子高齢化という構造問題も抱え、中国経済が長期停滞に入った可能性も意識され始めている。
「新型コロナウイルス禍の時よりも庶民はカネを使っていない」
北京で海鮮販売店を営む50代の女性は厳しい経営状況を吐露した。店の売り上げはコロナ禍の昨年と比べて20〜30%は減ったという。
習近平政権は今年1月にゼロコロナ政策を正式に終えて経済回復を急いでいるものの消費はさえない。消費動向を示す小売売上高は7月に前年同月比2・5%増で、伸び率は3カ月連続で縮小した。高額な自動車など耐久消費財は低調だ。
ゼロコロナ政策の後遺症もあって若者を中心に厳しい雇用・所得環境に見舞われている。都市部の16〜24歳の失業率は4月から6月まで20%超の過去最高水準が続いた。国家統計局は7月分の発表からこの統計の公表を停止しており、中国経済悪化を示す数字に敏感になっているもようだ。
消費者は生活防衛のために財布のひもを締めている。中国人民銀行(中央銀行)が4〜6月に行った預金者アンケートで「より多く貯蓄する」との回答は6割弱と高止まりしている。
7月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比0・3%下落と2年5カ月ぶりにマイナスに陥った。物価が継続的に下落し続けるデフレ懸念が強まっている。中国政府系シンクタンク、国家金融発展実験室の殷剣峰副主任は6月に発表した論考で、食品とエネルギー価格を除くコアCPIの伸びが昨年4月から1%以下となっていることなどから中国の状況はデフレに当てはまると指摘。「中国にも日本病の兆しが表れている」と表明した。
日本総合研究所の野木森稔主任研究員は「消費者心理はコロナ禍前よりも悪くなっている」と強調。不動産や雇用の悪化、デフレマインドの強まりなどが要因と分析し、「中国経済が『日本化』している可能性がある」との見方を示す。
少子高齢化の進展も日本の状況と重なる。中国は2022年末に61年ぶりの人口減少を記録しており、消費市場の縮小が見込まれる。
かつて2桁台も記録した中国の経済成長率だが、国際通貨基金(IMF)は24年に4・5%にまで落ち込むと予想している。経済成長は共産党政権を支えるレゾンデートル(存在意義)となっており、「日本化」が進んでさらに減速となれば習政権の威信にも響きかねない。【8月17日 産経】
********************
家族向けの「事前販売」住宅の引き渡し延期といった不動産市場の変調は家計の住宅購入意欲を低下させ、家計の消費意欲とリスク志向の減退は不動産企業・地方政府の財務状況を悪化させることに。
不動産市場の混乱・低迷に加え、若者の20%を超える失業率に見るように雇用情勢も悪化。そうした経済状況が更に家計の消費マインドを冷え込ませるという悪循環にもなっています。
****中国「信頼危機」、チャートで見る経済への影響****
国の未来を信じられない中国の家計、経済の足かせに
中国を苦しめている原因は何か。
人口動態から地政学、貿易に至るまで答えはたくさんある。だが重要な問題は、家計および(それと同じくらい重要なことに)新型コロナウイルス禍を経験した後、自分たちの生活が向上し続けることへの国民の信頼感が大きく揺らいだことに凝縮されるのかもしれない。
なぜ家計が注目されるのか。
中国は深刻な債務と生産性の問題を抱えており、とりわけ国有企業や地方政府でそれが顕著だ。だがそれは何年も前から続く話だ。輸出は落ち込んでいるものの、中国はこれまでも貿易の悪化を乗り切ってきた。さらに言えば、民間の製造業とインフラ投資は実際のところ比較的よく持ちこたえている。
目下の景気減速に関して真に新しく、注目すべき点は、消費者物価や消費支出、サービス部門の投資、不動産投資がどれも並外れて弱いことだ。これらは家計に関わるという明確な共通点がある。
家計の消費意欲とリスク志向の減退は、経済の他の部分を有害かつ自己増幅的な形でむしばむ――消費には直接的に、投資には間接的に影響が及ぶ。
なぜなら家計の借り入れは長らく、主に住宅ローンを通じて、資金繰りの悪化した不動産開発会社や地方政府を下支えする役目を果たしてきたからだ。
倹約シフト
中国の家計債務(主に住宅ローン)は過去10年間に急増した。可処分所得に占める割合は2009年以前の米国の水準に近づいている、と一部のアナリストは指摘する。
ただ金融危機以前の米国とは決定的な違いがある。中国では住宅ローンに滞納の波が押し寄せているわけではない。それどころか家計はローン返済を急ピッチで進め、おおむね倹約に励んでいる。
リスク回避傾向の高まりには多くの原因があるが、恐らく中国政府がコロナ下で行った重要政策のいくつかが寄与している。特に3年に及ぶ「ゼロコロナ」政策がサービス部門の雇用創出にブレーキをかけたことや、政府が不動産開発会社に債務圧縮を迫ったため、家族向けの「事前販売」住宅の引き渡し延期が相次いだことなどだ。
割を食った消費者
理解すべき重要な点は、中国の家計が実際、同国経済の要である不動産業界への巨大な貸し手であることだ。中国で2021年に販売された住宅の約9割は「事前販売」だった。すなわち、不動産開発会社はまだ建設されていないマンションの権利を販売したということだ。
中国の家計は要するに、利子が発生する住宅ローンを組み、その現金をまだ存在しないマンションと引き換えに不動産開発会社に無利子で渡していたということだ。さらに不動産開発会社が開発用地を購入することによって、地方政府の財源を支えていた。(中略)
21年に不動産大手の中国恒大集団などが資金難に陥り、マンションを引き渡せない事態が起きると、住宅購入者は不動産市場から撤退し、ローンの繰り上げ返済によって対応した。23年上半期には、個人向けの住宅ローン債務残高が2000億元(約4兆円)減少した。
試練の雇用市場
さらに悪いことに「住宅危機」は、中国経済の重要な雇用創出源であるサービス部門がすでに脅威にさらされている中で起きた。原因となったのは、政府のゼロコロナ政策や、インターネットプラットフォーム業界に対する規制当局の締めつけだ。同業界は都市部の雇用の約4分の1を占めるとの試算もある。
公式統計によると、20年から22年の間にサービス部門の雇用は1200万人の純減となった。同部門は20年まで、中国における12年以降の雇用純増の全てを占めていた。また高学歴新卒者の大半を吸収する業界でもある。しばらくの間は好調な輸出が、この溝を埋めるのに役立った。だが23年に経済が再開すると、コロナ下の輸出ブームは反転し始めた。
その結果、23年4-6月期に入る頃には中国のサービス部門と建設部門は深い痛手を負い、製造部門は失速の危機にあった。雇用市場は足場が不安定となり、記録的な数の大学新卒者が社会に出る中、若年失業率は20%超に上昇した。21年と22年には就職を諦めて大学院に進学する者も増えた。
信頼感の危機
雇用市場と不動産市場の厳しい状況を受け、悲観的ムードが広がってきた。家計はコロナ前よりはるかに高い水準の貯蓄をしており、消費を増やしたり、住宅を購入したりすることには懐疑的な態度を示す。
中国人民銀行(中央銀行)が都市部の銀行預金者を対象に長年行っているアンケート調査によると、4-6月期に貯蓄に意欲的だった回答者は約58%と、22年12月の62%からはやや低下したが、19年中盤に比べ約15ポイント上昇した。消費に前向きな回答者は24.5%にとどまった。
預金の実際の伸び率も高止まりし、調査会社の龍洲経訊(ガベカル・ドラゴノミクス)によると、4-6月期は年率換算で15%を超えていた。これに対し、コロナ前の平均は10%前後だった。
下方スパイラルを断つには
中国経済は依然として成長し、就労者の所得は増え続けている。だが中国が不動産会社の経営不振や住宅価格の下落、家計の倹約志向による負の連鎖から抜け出せない限り、景気悪化を食い止めるのは難しいかもしれない。
そうなると悲観的見通しがより深く根を張り、さらなる貯蓄を促すことになり、経済が勢いを失うリスクがある。また不動産開発業者や地方政府、貸し手の銀行が、家計の倹約で生じた資金調達エコシステムの穴を埋めようとする過程で、金融システムに大きな問題を引き起こす可能性もある。
この負の連鎖を断ち切るには、恐らく中央政府が自らのバランスシートを動かし、家計への大型の財政移転を行ったり、間接的に不動産開発会社を救済したりする必要があるだろう。また外国人投資家や一部の国内起業家たちを遠ざけている、厳しい規制措置の一部を方針転換する必要があるだろう。
だが中国政府がそのような措置を講じるかどうかは依然不透明だ。一つには、中央政府が大規模な直接支出に慎重になっている可能性がある。地方政府の債務という形でかなり多額の実質的な負債を抱えているからだ。
また数年前から政府は、住宅市場の投機的な動きやIT業界の権力者の存在、外国人への依存を「社会の病弊」として印象付けることに多くの政治資本を費やしてきたため、今になってあからさまに方針転換することは、重大な政治的リスクとなりかねない。実質的に、最高指導部の看板政策のより多くが失敗だったと認めることになるからだ。【8月29日 WSJ】
***********************
日本の「失われた30年」との類似性はありますが、“中国はこれまでも貿易の悪化を乗り切ってきた。さらに言えば、民間の製造業とインフラ投資は実際のところ比較的よく持ちこたえている”といったこと、EVのような成長部門を有していることなど、日本とは異なる点も。
【浪費的消費を嫌い、「福祉主義」を懸念する習近平主席の考えにそぐわない経済刺激策】
いずれにしても目下のデフレ傾向の連鎖を断ち切るためには中央政府の大規模な出動が期待される方策ですが、上記のように、そうした中央政府の消費・投資刺激策に消極的な現政権は消極的な面もあるようです。
もっと言えば、そうした消費・投資刺激策で成長軌道に乗せるという資本主義的手法は、習近平主席の考えにそぐわない、「共産党」の存在意義をも失わせるという面も。
一方で、経済悪化に対する国民の不満が募れば体制を揺るがすことにもなりかねず、政権として放置もできません。
****景気回復は期待外れで不動産危機も...追い詰められた「中国経済」、なのに景気刺激策にも出られない訳****
<景気回復が遅れても大規模な財政出動には慎重。習近平政権の新たな経済政策は、社会の不安や市場の不満に耐え切れるか>
(中略)
共産党の政治的正統性
ただし、こうした(中央政府の経済回復に向けた)動きは実質的というよりレトリックにすぎない。大規模な景気刺激策が取られないことは、経済的苦境と向き合う中国指導部の決断力の限界を示唆している。
GDPの成長率は指導部が許容できる範囲で踏みとどまっており、社会不安は政治的に懸念されるレベルまで悪化していないというわけだ。
長い目で見れば、彼らは現在の難局を、経済の新常態(ニューノーマル)に向かうために必要な調整と捉えている。中国共産党は「新発展理念」の下、「成長第一」の考え方から脱却し、習が「資本の無秩序な拡大」と呼ぶものを「より質の高い」発展に置き換えようとしている。これは景気刺激策の引き金が引かれない理由の1つでもある。
しかし、そこにはもっと根本的な理由があるのではないか。最近の経済指標は、指導部にとって受け入れやすいというだけでなく、長期的な政治的利益に合致しているのだ。仮に中国経済が資本主義のメカニズムによって高成長に戻れば、「共産主義」を名乗る党の存在意義はますます疑わしくなるだろう。
中国の政治エリートは、「中所得国の罠」にはまることを懸念するより、国内の上位中流階級がますます拡大することに脅威を感じているようだ。個人や企業の富の創造に上限を設けることは、そうしなければ存在意義を失いかねない党の支配力を拡大する手段でもある。経済の拡大をせき止めることは、中国の政治経済システムの特徴であってバグではない。
確かに、中国指導部は経済の不振とそれに伴う社会不安に満足してはいない。ますます多くの若者や都市生活者が職を失い、キャリアや今後の人生に幻滅して、「躺平(タンピン)主義(諦め、寝転び主義)」が広がっている。現役世代の信頼を失うことが政治的正統性の危機に発展しかねないことを、指導部は知っている。
中国経済に関する不利な報道を抑圧
さらに、景気後退が中国政府に否定的な世論を招くことを懸念して、中国経済に関する不利な報道を抑圧しようとしている。(中略)
ただし、経済不振に対する世論を恐れて当局が大規模な景気刺激策に踏み切るとは限らない。現金給付のような措置は、持続可能性と「闘争」を強調する習の経済ガバナンスの精神に反する。富の移転は政治的なパワーバランスを国民の側に傾けるかもしれず、習の国家主義思想に反する。
こうした政治的論理は、少なくとも短期的には、中国指導部が大規模な景気刺激策を打ち出すことを牽制するはずだ。もちろん、より長期的な展望は定かではない。いずれ政府が大規模な財政・金融刺激策を実施するとしても、それは積極的な政策の方向転換によるものではなく、大規模な経済危機や社会の不満の高まりによって強制される可能性が高い。(後略)【8月30日 Newsweek】
********************
****中国経済再生を阻むイデオロギー欧米流の消費喚起に習氏が抵抗する理由****
中国の経済政策を動かすのは今やイデオロギーとなった。約50年前に西側に門戸を開いて以降、その傾向は最も強まっており、指導部は混迷する経済に活を入れるための有効な手を打てずにいる。
エコノミストや投資家らは、国内総生産(GDP)を押し上げるもっと大胆な取り組みを中国政府に求めている。(中略) だが最高指導者である習近平国家主席は、欧米流の消費主導による経済成長に対し、哲学的で根深い反対論を抱いている。政府の意思決定をよく知る複数の関係者はそう話す。
習氏はそのような成長は浪費が多く、中国を世界有数の産業・技術大国に育てるという自身の目標とは相いれないと考えているという。
習氏は中国の財政規律を守るべきだとの信念を持つ。同国が抱える重い債務を考えればなおさらだ。そのため米国や欧州のような景気刺激策や福祉政策を導入することは考えにくい、と先の関係者は言う。
市場志向を強め、数年かけて中央集権化を進めた経済を逆回転させることも、同様に考えにくい。中国は消費者向けインターネット企業などの民間企業への締め付け――この締め付けが民間投資の弱体化につながった――を最近緩和しているが、これらの企業を無秩序に拡大させることには依然として懐疑的だ。(中略)
党の目標に合致する政策
政府は最終的には、より積極的な刺激策を支持するかもしれない。特に5%前後という今年の成長率目標を大幅に下回るリスクが出てくれば、その可能性はある。エコノミストの一部が指摘するのは、政府が「ゼロコロナ対策」の解除を当初は拒否したものの、代償があまりに大きいと分かると突然、方針転換したことだ。
より可能性が高い選択肢として、インフラなど政府が望ましいと考える事業への支出拡大や、最近の数回の利下げに続くさらなる信用緩和が現在は考えられる。エコノミストや政府の考え方をよく知る複数の関係者はそう言う。
このような動きは、インフラ投資であれ、半導体や人工知能(AI)など共産党の目標を前進させる重点分野に資金を回すことであれ、政府が景気てこ入れの中心的役割を果たすことを望む政権の意向を反映する。(中略)
中国が待機姿勢を続ければ続けるほど、長引く停滞に陥る危険性は高まる。そうなれば中国は信頼できる世界の成長エンジンから世界経済のリスクへと転じる可能性がある。一部のエコノミストはそう警告する。(中略)
「福祉主義」への根強い懸念
個人消費に対する消極的な姿勢は何年も前から続いている。人々が貯蓄を減らし消費を増やすことを促す政策変更(例えば医療給付や失業手当ての拡大など)には当局が抵抗する。社会福祉への支出不足は、中国共産党が公言する目標とは矛盾する。共産党は国民に継続的な繁栄をもたらすことが党に正当性を与えるとしている。
シンガポール国立大学東アジア研究所のバート・ホフマン所長によると、中国の家計が社会保障制度から受け取る給付金はGDPの7%に過ぎず、米国や欧州連合(EU)の約3分の1にとどまる。
「需要拡大を目指す具体的な措置という点では、大したことは行われていない」。世界銀行で中国担当ディレクターを務めたホフマン氏はこう話し、「消極的態度はイデオロギーに基づくもので、中国を欧米流の福祉国家にしてはならないと習氏は繰り返し述べてきた」と指摘する。
習氏は演説や著作の中で、中国は外国への依存を減らすことに注力すべきだと説き、消費促進のために政府が家計を過剰に支えることはリスクが高いと警告してきた。22年に「求是」に掲載された記事では、地方政府が「行き過ぎた保証」をすれば、中国は「福祉主義」に陥りかねないと警告した。(中略)
香港大学の陳志武教授(金融学)によると、中国の政策立案者たちは長年、国有企業に資源を振り向ける方が、国民への現金配布よりも迅速かつ確実に成長を生み出せると考えてきた。消費者は国有企業よりも気まぐれで制御が難しく、たとえ現金を受け取っても支出を増やすかどうか定かでない、というのが彼らの見方だという。
また中国当局者は国際機関の担当者に対し、文化大革命の時代に習氏自身が乗り越えた数々の苦難――当時は洞窟で暮らしていた――が、緊縮から繁栄が生まれるという思想の形成に役立ったと話していた。
「中国からのメッセージは、欧米流の社会的支援は怠惰を助長するだけ、ということだ」。国際機関の会合でのやり取りを知る関係者はこう語った。【8月31日 WSJ】
************************
ただ、国民は「欧米流の社会的支援は怠惰を助長するだけ」「緊縮から繁栄が生まれる」といった習近平主席の考えに本心から共感して共産党支配を受入れている訳ではなく、現体制が自分たちの暮らしを豊かにしてくれたから支持している・・・逆に言えば、豊かさを実現してくれないなら現体制への信頼も揺らぐということにもなります。
そのことは共産党指導部も十分に理解していますので、理念と国民の期待との間でのバランスになります。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます