孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

“ここ数年、アフリカでは民主主義の前進がうかがえる出来事が続いている”・・・のか?

2017-09-09 22:55:53 | アフリカ

(ケニアのナイロビでは、通りを(選挙無効判断を行った)マラガ最高裁首席判事にちなんで改称する運動が行われている【9月5日 WSJ】)

ケニア大統領選挙無効判断 「アフリカ大陸の法の支配に与える影響は大きい」】
東アフリカ・ケニアで8月8日に行われ、ケニヤッタ大統領が再選を果たした大統領選挙について、最高裁判所が無効の判断を示し、60日以内の再選挙を命じた・・・という話は、9月1日ブログ“ケニア  最高裁、選挙後の混乱が続く大統領選挙の無効を決定”で取り上げました。

ケニヤッタ大統領も命令に応じるしかなく、来月に再選挙が行われるようです。
ただし、野党側から不正の温床ともなっていると指摘されている選挙管理員会メンバーはそのままのようですから、どうでしょうか・・・。

****ケニアのやり直し大統領選、10月17日に投票へ=選管****
ケニアの選挙管理委員会は4日、最高裁がやり直しを命じた大統領選について、投票日を10月14日に設定した。今回も2期目の再選を目指すケニヤッタ大統領と、野党のオディンガ元首相の一騎打ちになるという。

ただ大統領報道官は、政府が選管メンバーを変更する考えはないとしており、政府と野党の対立を生みそうだ。

8月の選挙ではケニヤッタ大統領が140万票を獲得して当選したが、最高裁は今月1日、選管が適切な手続きを踏まなかったとして選挙結果は無効と判断、60日以内のやり直し選挙を指示した。ただ、人事刷新は命じなかった。【9月5日 ロイター】
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最高裁の無効判断については、「本当に再選挙するのだろうか? そんなことがあるのだろうか?」という半信半疑な印象も個人的にはありました。

その根底には、「民主主義が十分に機能しているとは思えないアフリカで、そのようなルールの尊重・徹底が実現するのだろうか?」という(アフリカに対しては非常に失礼な)疑念もありました。

今回のケニア最高裁判断は、それだけ“画期的”な判断だったようです。

****ケニア最高裁判決、アフリカ民主主義の分水嶺か****
先月のケニア大統領選を無効とした同国最高裁判所の判断は、アフリカの民主主義にとって新たな始まりを意味する。アフリカの他の地域で独裁主義が再び登場するなか、政治体制をめぐる論争に新たな局面を切り開いた。
 
アフリカでは今、異なる政治体制が冷戦以降で最も激しい争いを演じている。勢いに乗った民主主義者が、西側の民主主義では生活水準の大幅改善は続かなかったと主張する独裁的なテクノクラートと競い合っている。
 
ケニア最高裁は今月1日、先月8日実施の大統領選で不正が行われたとする野党の異議申し立てを認めた。当局は当初、現職のウフル・ケニヤッタ大統領がライラ・オディンガ氏に圧勝したと宣言していた。ケニヤッタ氏は選挙のやり直しを求める裁判所の要求をしぶしぶ受け入れ、支持者に勝利を誓った。
 
ケニアは来月10日、禍根を残しかねない大統領選を多額の資金を投じて再び実施するが、最高裁の判決は既に歴史的な偉業だ。
 
裁判所が大統領選の結果を覆したのはアフリカでは今回が初めて。世界でもオーストリア、モルジブ、ウクライナに次いで4度目だ。
 
ケニアの首都ナイロビでは多くの市民が判決について誇らしげに語った。ソーシャルメディアでは、ナイロビのある通りをデービッド・マラガ最高裁首席判事にちなんで改称する運動が行われている。
 
判決から2日後の今月3日、ナイロビ出身の運転手アユブ・ケマニさん(34)は「私はケニヤッタ大統領の支持者だが、ケニアの裁判所は信頼できるとわかって満足している」と語った。「(ケニヤッタ派が)再選挙で勝利するかどうかはともかく、ケニアの民主主義は強くなった」
 
アナリストによると、最高裁判決は判事が行政に支配されていると見受けられるケースが多いアフリカで司法機関に勇気を与えており、その影響はケニア国内にとどまらないとみられる。
 
英シンクタンク、王立国際問題研究所のアフリカ担当トップのアレックス・バインズ氏は「私がアフリカ研究を初めてから、今回のケニア発のニュースは最も重要な出来事の1つだ」と語る。「アフリカ大陸の法の支配に与える影響は大きい。ケニア国境のはるか向こうの裁判所も勇気づけるだろう」
 
ここ数年、アフリカでは民主主義の前進がうかがえる出来事が続いている。ガーナでは昨年、平和的で公正な選挙が実施され、政権交代が実現した。
 
ガンビアでは今年、23年間にわたって同国を支配してきたヤヤ・ジャメ大統領が選挙結果を受け入れ、亡命した。
2015年にはナイジェリアで1960年の独立後初めて、文民政府間での政権交代が行われた。同国ではまた、軍の人権侵害に対して裁判所が罰金の支払いを命じた。
セネガルの裁判所は最近、チャドの独裁者イッセン・ハブレ氏に人道に対する罪で有罪を言い渡した。
 
南アフリカでは権力分立を弱体化しようとしていると非難されているジェイコブ・ズマ大統領に対し、裁判所と行政監察官が異議を申し立てた。

アンゴラでは先月の選挙で投票率が13%上昇する一方で、与党のアンゴラ解放人民運動(MPLA)への支持が大幅に下がった。
 
しかし、民主主義が前進する一方で、ルワンダやエチオビアなどでは独裁的な支配者が台頭している。これらの国ではアフリカ大陸の平均値を大幅に上回る勢いで経済が成長している。

評価が分かれるルワンダのポール・カガメ大統領は先月の大統領選で得票率99%で三選を果たした。カガメ氏が国づくりに成功したことで、面倒な民主主義より独裁的なテクノクラートのほうが好ましいのではないかと考える評論家も現れた。
 
独裁的な指導者を求める傾向にも相乗効果があり、タンザニアのジョン・マグフリ大統領といった支配者をその気にさせている。マグフリ氏は経済促進のために政治的敵対勢力や個人の自由を弾圧していると批判されている。

民主主義体制を敷いてきたザンビアでも、エドガー・ルング大統領は先月まで4カ月にわたって政敵を国家への反逆を理由に投獄するなど、徐々に独裁的な手法を採用し始めている。
 
しかし複数の国で実施された世論調査では、アフリカの有権者は今でも圧倒的に民主主義を支持している。世論調査会社アフロバロメーターによると、昨年11月に36カ国の5万3000人超を対象に実施した調査では、民主主義が「常に好ましい」と回答した人は67%に上った。一方で大統領による独裁や一党支配を有望な選択肢として考える人は11%にとどまった。
 
ケニアの選挙やり直しは欧米政府から称賛されてはいるが、ケニヤッタ大統領とオディンガ氏の間で緊張が高まっている。再選挙によって暴力的な危機の可能性が高まったと指摘するアナリストもいる。
 
マラガ首席判事の判断は司法が政治的な論争を超越した存在であるとの明確なメッセージを国の指導者に送ったと受け止めるアナリストもいる。
 
国際危機グループ(ICC)のアフリカ担当ディレクター、コンフォート・イーロ氏は「(選挙やり直しの)決定は重大で、非民主的な慣行や独裁的な傾向が存在するとの認識に異議を申し立てるものだ」と指摘する。「他の国が同様の態度を取るかどうか分からないが、今はアフリカ大陸にはひな型がある」【9月5日 WSJ】
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“独裁政権下で不正・汚職が蔓延している”“武装勢力の跋扈で政府軍を含めた殺戮・暴行・レイプなどが横行している”等々・・・アフリカの現状を嘆いてばかりいても仕方ありません。

“ここ数年、アフリカでは民主主義の前進がうかがえる出来事が続いている”、今回ケニア最高裁がアフリカ民主主義にとって“分水嶺”ともなりうる画期的なものだった・・・・ということであれば、実に喜ばしい話です。

民主主義が前進している・・・のか?】
もっとも、上記記事で挙げられている事例を見ていくと、“ここ数年、アフリカでは民主主義の前進がうかがえる出来事が続いている”と言えるのだろうか?・・・との疑問も感じます。

確かに、ガーナで複数政党制が認められて以降、現職大統領が初めて敗れた2016年12月のガーナ大統領選挙は平穏に行われました。敗れた現職大統領が相手候補に祝福の電話をかけたとか。

しかし、ガンビアで選挙に敗れたジャメ前大統領が亡命したのは、周辺国の軍事介入も辞さないとの強い圧力があってのことです。

****ガンビア前大統領、着服額は56億円 現政権が汚職追及****
西アフリカ・ガンビアの法相は22日、22年に及ぶ長期政権を敷いた後、昨年の大統領選で敗れて亡命したヤヤ・ジャメ前大統領について、国費の着服額が少なくとも5000万ドル(約56億円)に上るとの調査結果を明らかにした。アダマ・バロウ現大統領による初の大きな汚職追求の動きだ。
 
アブバカル・タンバドウ法相は記者会見で、ジャメ氏が2013~17年に自ら、あるいは関係者に指示を出して、中央銀行などから少なくとも5000万ドルを違法に引き出していたと述べた。ジャメ前大統領が今年1月に赤道ギニアに亡命するまでに着服したとみられる金額が明るみに出たのは初めて。(中略)
 
昨年12月の大統領選でバロウ現大統領に敗れたジャメ氏は選挙結果を受け入れず、数週間にわたって抵抗。しかし近隣諸国が軍事介入する姿勢を見せたことを受けて今年1月下旬に出国し、赤道ギニアに亡命した。
 
今年4月の議会選では、長く野党だった統一民主党(UDP)がジャメ氏の出国で混乱に陥っている同氏の政党、愛国再建同盟(APRC)を圧倒し、絶対多数を握っている。【5月23日 AFP】
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“文民政府間での政権交代が行われた”ナイジェリアでボコ・ハラムの脅威が一向におさまりません。
それは、単にボコ・ハラムが“しぶとい”というだけでなく、そうした状況を生む“統治”にも問題があると思われます。

****ボコ・ハラム攻撃で犠牲者急増****
イスラム過激派ボコ・ハラムの攻撃により、西アフリカのナイジェリアとカメルーンで4〜8月に少なくとも民間人381人が死亡し、それ以前の5カ月間と比べ2倍以上に増えた。

誘拐した少女らに爆発物を装着させ、市場など人出の多い場所で遠隔操作で爆破したり自爆を強制したりする事例が急増しているという。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが5日、明らかにした。(中略)

ボコ・ハラムはナイジェリア軍などの掃討作戦で支配地域を失う中で戦術を変え、警備が手薄な「ソフトターゲット」を狙うようになったとされる。

専門家の間には「ナイジェリアという国の破壊を望んでおり、そのために自爆テロを多用している」(キャンベル元駐ナイジェリア米国大使)との見方がある。(後略)【9月6日 毎日】
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チャドの独裁者イッセン・ハブレに対する裁判も、すんなり進んだ訳ではありません。

チャド政府の調査委員会によると、ハブレ政権下で数万人の反体制派が殺害されたとのことですが、リビアに支援された反政府勢力によってハブレは1990年にセネガルに亡命しました。

セネガル政府の対応については批判も多々ありましたが、2012年に国際司法裁判所がセネガル政府に対して迅速にハブレの裁判を行うか、ベルギーに身柄を移送するよう命令を下したことで、セネガル政府も特別法廷を設けることに同意、2016年5月30日に特別法廷は人道に対する罪によりハブレに有罪を宣告しました。

腐敗が常々指摘される南アフリカ・ズマ大統領は、マンデラ元大統領の遺産を食いつぶす形で求心力が低下し、先月には不信任一歩手前まで行きました。

****不信任否決も与党から造反=南ア、大統領に強まる批判****
南アフリカの国民議会(下院、定数400)は8日、野党が提出したズマ大統領への不信任案の採決を行い、賛成177、反対198で否決した。

しかし、賛成票は151の野党議席を26も上回り、大統領の与党・アフリカ民族会議(ANC)から多数の造反があったことが浮き彫りとなった。
 
AFP通信によれば、最大野党・民主同盟(DA)のマイマネ党首は採決後、「結果は大方の予想より僅差だった」と指摘した。
 
2009年以来大統領の座にあるズマ氏の不信任案否決は8回目。しかし、今回初めて無記名で投票が行われた。これにより大統領に不満を抱くANC議員が造反しやすくなり、可決される可能性もあるとみられていた。
 
ズマ大統領については、腐敗が繰り返し批判されており、野党のみならずANC内でも辞任を求める声が上がっている。

3月には、財政健全化路線を進め市場の信認が厚かったゴーダン財務相を更迭したことで、通貨ランドの急落など市場の混乱を招いた。【8月9日 時事】 
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アンゴラ総選挙では“与党のアンゴラ解放人民運動(MPLA)への支持が大幅に下がった”とのことですが、それでも与党は61%を得票し勝利、MPLAのロウレンソ国防相が新大統領に選ばれ、今月25日に就任します。

超長期政権を率いたドスサントス前大統領に対しては「黄金の引退プラン」が用意されているとか。

****38年の長期政権続いたアンゴラ、大統領に「黄金の引退プラン」を用意****
アフリカ南西部アンゴラを38年にわたって統治してきたジョゼ・エドゥアルド・ドスサントス大統領(74)のために、同国政府が「黄金の引退プラン」を用意している。
 
ドスサントス大統領は先に、8月23日に実施される選挙で再選を目指さない考えを明らかにしていた。同国議会では22日、大統領の現在の1か月分の給与の9割に相当する年金の支給を認める法案を採決する。今月8日にドスサントス氏が自分の給与を引き上げた結果、現在の月給は100万クワンザ(約69万円)を超えている。

この終身年金に加え、議会では運転手付きの車両やボディーガードの提供、旅客機のファーストクラスへの搭乗などを認めることも提案されている。
 
さらには特別な法的地位の設置も提起されており、ドスサントス氏は「共和国名誉大統領」とされ、「その職務遂行と無関係な行為に関する刑事・民事責任」、つまりいかなる汚職の容疑などの追及には特別法廷が必要となるという。
 
1979年に大統領に就任したドスサントス氏は、自らの親族を公営企業の幹部に置くなど、国家機関を用いた資金流用を糾弾されている他、人権活動家らからは指揮下にある警察と司法制度を通じた弾圧を非難する声も上がっている。【6月20日 AFP】
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ルワンダのカガメ大統領については評価が別れれます。
“大虐殺を乗り越え、天然資源に乏しい小国に政治的安定と経済発展をもたらしたカガメ氏。民族融和を掲げる一方で反体制派への弾圧を繰り返し、強権的な支配体制を確立してきた二面性を持つ。”【8月4日 毎日】

大統領選挙後、カガメ大統領による強権支配を批判していた女性活動家ダイアン・ルウィガラ氏(35)が行方不明になっていることが報じられていました。

“ルウィガラ氏は17年に及ぶカガメ政権を「恐怖政治」と批判。8月の大統領選に出馬を表明した直後にヌード写真をネットにばらまかれるなどの嫌がらせを受け、立候補も認められなかった。父親は著名な実業家で与党のスポンサー的な存在だったが、カガメ氏とたもとを分かった末に不審死を遂げた。”【9月2日 毎日】

その後、逮捕が報じられています。

****ルワンダ>大統領批判の女性活動家を逮捕****
アフリカ中部ルワンダの警察は4日、カガメ大統領による「強権支配」を批判していた女性活動家ダイアン・ルウィガラ氏(35)と母親ら3人を脱税容疑などで逮捕したと明らかにした。
 
ルウィガラ氏は8月の大統領選挙で立候補が認められず政府の妨害だと主張していた。カガメ氏は98%の得票率で3選された。
 
ルウィガラ氏は8月29日から行方不明になり、家族らは「警察に身柄を拘束された」と訴えたが、警察は否定していた。ロイター通信によると、大統領選に立候補しようとした際、提出した推薦人の署名に死者の名前が含まれていた疑いでも取り調べを受けている。【9月5日 毎日】
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ただ、投票率97%、得票率98.66%という数字はどのように考えたらいいのでしょうか?
実際に、国民からそれだけの支持を得ているのであれば、強権支配云々はごく部分的な問題ということになります。

通常は、こんな数字は“いかさま”と想像されのですが、大虐殺を鎮静化させたカガメ大統領ですから・・・・どうでしょうか、わかりません。

2016年8月のザンビアの大統領選挙に僅差で惜敗した野党候補ヒキリマ氏は、不正があったとして結果を認めていませんが、反逆罪で起訴されるところにもなっています。

****ザンビア)阻止された車列****
ヒチレマ氏の国際開発統一党は、ザンビアの首都ルサカにあるヒチレマ氏の自宅を警察が囲み、催涙ガスを発射したとFacebook上で発表した。

ヒチレマ氏は、Bloomberg に「私の唇は腫れ、目は腫れて、肌はかゆい。」とルサカからの電話で語った。

ザンビア当局によると、ヒチレマ氏自身の車列が、ルング大統領の護衛団を阻止し、ヒチレマ氏の車列に道を譲るよう説明、指示したにもかかわらず、道を譲ることを拒否した。

ヒチレマ氏は反逆罪で起訴されており、最低15年の懲役、最高で死刑に直面している。【4月12日 Intelligencer Post】
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こまかく見ていると“ここ数年、アフリカでは民主主義の前進がうかがえる出来事が続いている”のかどうか、さだかでもなくなりますが、いろんな経緯はあるものの、それなりの結果を出しているというふうに見ればそのようにも。

まずは、ケニアの再選挙が無事に実施されることを期待しましょう。前々回選挙のときのような大混乱にならないように。



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