孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  カーン首相による“中国依存見直し”はあるものの、やはり必要なチャイナマネー

2019-04-03 23:05:56 | アフガン・パキスタン

(【331日 GULF NEWS】グワダルの国際空港起工式に参加したカーン首相 左手前は中国大使でしょうか?)

 

【中国だけでなくサウジ・アメリカとの関係も】

昨日、パキスタン・フンザ方面の観光旅行から帰国しました。

周知のように、パキスタンは近年、中国との関係を強化しています。

****パキスタン、中国から21億ドルの財政支援 25日までに ****

パキスタンが(3月)25日までに、中国から約21億ドル(約2300億円)の財政支援を受ける見通しとなった。

同国の外貨不足は201810月時点で120億ドルにのぼる。すでにサウジアラビアから60億ドル、アラブ首長国連邦(UAE)から30億ドルの支援を取りつけ、中国と国際通貨基金(IMF)にも支援を求めていた。 

(中略)パキスタンは自国内で広域経済圏構想「一帯一路」の一部事業を進める中国に支援を要請していたが、具体的な支援額は明らかになっていなかった。 

パキスタンの外貨準備高は315日時点で約88億ドルと、1年前の約116億ドルから2割強減っている。外貨準備高は少なくとも月間輸入額の3カ月分が必要とされるが、現在は輸入額の2カ月程度の水準で、対外債務を返済できなくなる懸念が高まっていた。 

すでに支援を表明した中東の2カ国に加え、中国の支援で合計110億ドルの外貨が積み増しされる計算で、パキスタンの対外債務の返済が滞るリスクはひとまず後退した。同国はIMFにも支援を要請したが、合意に至っていない。26日にIMFの交渉団が同国を再び訪問する予定だ。【323日 日経】

***************** 

結局のところ、チャイナマネーへの期待ですが、一方で、もとから関係が深いサウジアラビア(パキスタンの核開発はサウジアラビアからの資金によるもので、有事にはサウジアラビアに核兵器を提供する密約があるとも言われています)、またアフガニスタンのイスラム過激派へのパキスタン国軍の宥和的な対応を批判して関係がギクシャクするアメリカなどとの間でバランスを維持することにも腐心しています。 

****パキスタンと「関係大幅改善」=アフガン和平への協力評価か―トランプ米大統領****

ランプ米大統領は22日、テロ対策をめぐって冷え込んでいたパキスタンとの関係について「大幅に改善した」と述べた。アフガニスタン駐留米軍の撤収を見据えて進めている反政府勢力タリバンとの和平交渉に、パキスタンが協力的な姿勢を示していることを評価したとみられる。【223日 時事】 

*************** 

これまでタリバンを支援してきたとされるパキスタン国軍が本当に方針を変えたのかは疑問はありますが、イスラム過激派へ厳しい姿勢をとるカーン首相の姿勢への評価や、カーン首相のもとで国軍も以前とは違っているといった声も旅行中に耳にはしました。(イスラム過激派の力が強く、政府の支配力が十分でないとされていた北西部地域から国軍によって過激派が一掃されて、治安は大幅に改善されたは事実のようです。) 

【カーン首相の中国依存見直し策】

バランスに腐心するなかで、カーン首相は中国との関係を、より具体的に言えば「一帯一路」関連事業について、見直しを行っているとも言われています。 

もし、そうした中国との関係見直しが本格化すれば、中国にとっては「一帯一路」の中核に位置するパキスタンとの関係見直しということになり、その影響は大きなものがあります。

****一帯一路の生命線、パキスタン経済回廊計画暗礁へ****

マレーシアに続きパキスタンも、中国の融資額12位が反旗翻す?  

かつて、世界に名を轟かせたクリケットのスター選手だった政治家と92歳で首相に再び返り咲いた老練の政治家――。 

東南アジアで今、域内に改革を呼ぶ新しいASEAN(東南アジア諸国連合)を象徴するリーダー2人がいる。パキスタンのカーン首相とマレーシアのマハティール首相だ。 

両者とも昨年後半に選挙で勝利し、その後相互訪問も果たしている。公私ともに長年親交が深い。 

この2人の最も特徴的な共通点は、大国を翻弄させるその巧みな“大国操縦力”にある。 

昨年5月に61年ぶりに初の政権交代を果たして首相として再登板、「新マレーシア」を引っ提げるマハティール首相。ナジブ前政権が蜜月だった中国の習近平政権が推す一帯一路の大型プロジェクトの延期や中止などの見直しを打ち出した。 

人口わずか3300万人の“小人”が14億人の巨人を翻弄してきたのは、国際社会でも周知のことだ。 

一方、マハティール首相の息子ほどの65歳という年齢のパキスタンのカーン首相は、元クリケットのスーパースターだった。そのカリスマ性から若者と中間層の間で絶大な人気を誇る。 

昨年7月の総選挙でパキスタン正義運動(PTI)を率いて勝利し、8月、新首相に選ばれた。 

政策構想「新パキスタン」を打ち出し、危機的な債務状況のもと緊縮財政を敷き債務削減に取り組む一方、貧困対策に精力を注いできた。 

カーン氏は「パキスタンは、借金と外国からの援助で生活するという悪しき慣習を長年続けてきた。こうした状況で繁栄できる国は存在しない。自分の足で立ってこそ、国家だ」と力説、債務削減の重要性を訴えてきた。 

外貨準備高は昨年50%近く下落し、80億ドル前後をかろうじて維持しているものの、一帯一路のインフラ事業などで膨らむ対外債務は1000億ドルを超える。 

「貿易赤字の3割強は対中赤字で、さらに対外債務の4割強が、中国からの融資」(中央銀行関係者)。 

まさに、典型的な中国への依存過多型国家といえる。カーン氏は首相就任後、中国からの財政支援を受ける一方で、実はしたたかに「脱中国」も進めてきた。 

パキスタンとマレーシアは、中国による一帯一路融資額では、アジア諸国の1位、2位を占める。中国にとっては最も重要な「一帯一路支援国家」なのだ。 

(中略)一帯一路に関するマハティール氏の本音は、「国益にかなう限り、一帯一路を有益に活用する」ということなのだ。 

言い換えれば、国益にならない場合は、容赦なく切り捨てるか、自分が首相である間は中国の面子を保ちながら「延期」という策をとる。 

「大国に物申すマハティール首相は若い頃から、私の人生の師匠」カーン氏はこのように言い切る。自他ともに認めるマハティール信仰者である。 

現在、中国の国境付近の開発地域で、一帯一路の生命線とも称される「中パ経済回廊(CPEC)」に関連する約400にも及ぶ関連プロジェクトの公共事業計画の見直しを進めている。 

そもそも、中パ経済回廊は中東からの原油や物資を中国のウイグル自治区までパイプラインや陸路で輸送するのが主目的。 

そのため中国・北西部の新疆ウイグル自治区カシュガルから、アラビア海に面するパキスタン南西部のグワダルを結ぶという一帯一路の最も要の大プロジェクトなのだ。 

総延長は3000キロにも達し、中国にとっては悲願の「中東へのゲートウエー」確保にも位置づけられている。 

もし仮に、米中が軍事衝突してマラッカ海峡が封鎖されたとしても、原油などのエネルギーはこの回廊を通じて確保が可能になるわけだ。 

中国にとっては一帯一路の運命がかかっている事業ともいえ、万が一の場合には習近平主席の命取りにもなりかねない。 

そのため、中国政府は前政権の中国との腐敗や汚職に関連した一帯一路プロジェクトの見直しを掲げたカーン氏の就任後、2週間ほどでパキスタンをスピード訪問。その大役を担ったのが、王毅国務委員兼外相だった。 

その際、同国へのインフラ整備を引き続き支援する考えを表明する一方、パキスタンの危機的対外債務の状況は「中国の一帯一路とは『無関係』」と、中国によるパキスタンへの「債務の罠」疑惑を一蹴した。 

一方、カーン氏は中国から引き続き支援を仰ぎながらも、就任後初の訪問先には、サウジアラビアを選んだ。(中略) 

カーン氏が最初の訪問国を中国ではなくサウジを選んだのは、まさに戦略的判断といえる。

「中国とサウジを天秤にかけ、外交の梃子とした戦略が見え隠れする」(外交アナリスト)。サウジからは60億ドルという巨額の資金協力もちゃっかり取りつけた。(中略) 

一方、カーン首相は中国も昨年11月初旬に訪問。習近平国家主席や李克強首相と会談。「中国はパキスタンの理想国家」と中国を絶賛する演説を披露し、一帯一路への協力を表明し、財政支援を約束させた。 

しかし、蜜月を演出する一方で、「脱一帯一路」の時計の針は動き始めている。

パキスタン政府が、首相の中国に対するラブコールの熱唱から2か月経った今年1月、中パ経済回廊の重要な柱の一つを中止する方針を決めた。 

総投資額600億ドルに及ぶ石炭発電プロジェクトで、「すでに供給電力を十分確保できる」とし、プロジェクト中止を中国政府に伝えたという。 

さらに、一帯一路のパキスタン最大プロジェクトで、カラチと北西部ペシャワルを結ぶ1872キロの鉄道路線(ML-1)改修計画も、暗礁に乗り上げている。 

パキスタン政府は、当初の予算を82億ドルから、いったん62億ドルに下げると発表したものの、巨額資金によるひも付き融資を警戒し、現在では42億ドルにまで減額したいとしている。 

中国の投資を警戒するカーン首相の意向が反映しているといわれる。(中略) 

先の石炭発電やML-1計画の暗礁で、一帯一路の生命線「中パ経済回廊」計画そのものが頓挫する可能性も浮上してきた。 

カーン首相は「パキスタンの400近い一帯一路プロジェクトが『政治的動機』である」と非難し、一帯一路プロジェクトの見直しを進めていく構えだ。 

中国政府は、425日から3日間、各国首脳が協議する2回目となる一帯一路の国際フォーラムを開催する。 

同会議を反転攻勢に出る絶好の機会にするという野心を見せるが、「中国の、中国による、中国のための」一帯一路への反旗を阻止することは、簡単ではなさそうだ。【327日 末永 恵氏 JB Press

***************** 

【それでもチャイナマネーを必要としているパキスタン】

上記のような、中国とサウジ・アメリカなどを天秤にかける見直し、「債務の罠」への警戒感はあるのでしょうが、1週間ほどの観光旅行の印象ととしては、やはり圧倒的な中国の存在感です。 

今回旅行で使用したカラコルムハイウェイ自体が中国支援によるものですし、新たな道路の建設、巨大ダムの建設などが各地で進行しており、中国建設関連企業の施設・宿舎をあちこちで目にします。 

「一帯一路」についても、“見直し”はあっても、基本的には(国益にかなう限り、地元の人々に恩恵を与えるものである限り)これを維持していくと思われます。 

中国メディアはパキスタンとの関係について以下のようにも。

 

****パキスタン、「中国・パキスタン経済回廊」を称賛 地域一体化の中心に****

パキスタンのバクティヤール計画・開発・改革相は15日、「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」が周辺地域の一体化と相互接続強化に大きな好機をもたらすとの見方を示した。

経済協力機構(ECO)が同日に首都イスラマバードで開催したシンポジウム「成果と挑戦」に出席したバクティヤール氏は、CPECの進展に伴い、パキスタンは地域の貿易と活動の中心となったと述べた。(後略)【318日 新華社通信】

******************

 

この“CPEC”(中国・パキスタン経済回廊 China-Pakistan Economic Corridor)という言葉は、ガイド氏から毎日のように耳にしました。ちなみにガイド氏は「中国第一」の中国の姿勢にはやや批判的で、日本びいきの方でした。 

なんだかんだ言いつつも、中国の存在が圧倒的なこと、つまりチャイナマネーによるインフラ投資をパキスタンが必要としていることは、わずか1週間でもパキスタン国内を旅行すれば一目瞭然です。 

未整備の道路が車内でダンスを踊るような悪路なのに対し、チャイナマネーで整備された道路は滑空するような滑らかさです。 

フンザ方面では停電は毎日で、ホテルの自家発電機も深夜は切られていしまいますので、夜の室内は“真っ暗”です。中国支援の巨大ダム(水没問題などはありますが)が完成すれば電力事情も改善するでしょう。 

ホテルでバスタブにお湯を貯めようとすると、茶色い水で底が見えません。地下水ではなく、氷河の水をそのまま使っているとか。健康面での悪影響も多々あるようです。

 

旅行中、「一帯一路」「CPEC」の中核である南部港湾グワダルで、カーン首相や中国大使が参列する空港起工式が行われました。 

下記はそれを報じた英語記事をgoogle翻訳したものです。(一部、加筆・修正しましたが、大体の趣旨は、そのままで理解できます)(google翻訳はたいしたものです!)

 

****パキスタンのグワダル国際空港は国で最大になります****

新グワダル国際空港は、世界最大の旅客機、エアバスA380を含む大型航空機に対応する、パキスタンで2番目の施設になります。 

現在、昨年オープンしたイスラマバード国際空港のみがA380に対応しています。ラホールやカラチの空港を含む他の大空港は、この大物を処理するための設備が整っていません。(中略) 

金曜日、パキスタンのイムラン・カーン首相が新グワダル国際空港の起工式を行った。

(中略)イムラン氏は、「今後数ヶ月、数年で、パキスタンの成長の原動力となるだろう」と語った。(中略)

 

3年建設計画

空港の建設は3年以内に完了し、25,600万米ドルの費用がかかります。

中国 - パキスタン経済回廊(CPEC  China-Pakistan Economic Corridor)の下での他のプロジェクトが譲許的融資(concessional loans 商業金融に比べて条件が借り手にとって有利に設定されている融資)の下で運営されているのとは異なり、空港は中国の助成金(Chinese grant)の下で計画されています。(中略)

 

空港に対する中国の助成金

中国政府は、中国無償資金協力の下、パキスタンの空港建設を支援します。

このプロジェクトはバロチスタン(パキスタンの最大の面積を持つ州)の総合的なインフラ開発の一部です。それは安全な操作のための全ての近代的施設を備えたグリーンフィールド施設として開発されるでしょう。 

このプロジェクトは、初期取扱能力が年間3万トンの貨物ターミナルを備えた近代的なターミナルビルで構成されています。 

この機会に、覚書(MoU)がパキスタンと中国職業訓練所と朴中国友好病院の建設のために調印されました。

イムラン首相は、中国政府が空港に対して行った助成金に中国大使に感謝した。

 

地元の人々へのメリット

彼は、それが地元の人々に恩恵を与えない限り、どんな開発も役に立たないと断固として言った。(中略) 

彼は、グワダルの病院の能力が強化され、職業訓練機関も雇用機会の創出に役立つことを喜ばしく思いました。 

イムラン首相は、Insaf Sehat Card(健康カード)を発足させ、すべての家族に72万ルピーの健康保険に加入することを発表しました。 

彼は以前に電力がイランから伝達されていたと言いました、しかし今政府は地域を全国的な送電網と結び付けることに決めました。

 

淡水化プラント

淡水化プラントも市内に設置され、クリーン&グリーンパキスタンの下に100万本の苗木が植えられます。その上、地域を汚染から守るために固形廃棄物管理システムも確立されるでしょう。(中略)

 

CPECプロジェクト

560億ドルの投資規模の中国パキスタン経済回廊(CPEC)は、世界でより強い貿易のつながりを実現するための、中国のOne Belt One Road(一帯一路)イニシアチブの最も重要な部分の1つです。(中略) 

中国は開発取引(development deals)を含むCPECへの約560億ドル(2055000万ドル)の投資を約束しており、これはパキスタンの年間GDPの約20パーセントに相当する。 

CPECは、パキスタンのGwadar港と中国の新疆地域を結ぶ高速道路、鉄道、パイプラインからなる、2030年までに3,218kmのルートを建設する中国最大の投資と考えられています。 

全体として、経済回廊プロジェクトは約34,000億ドルの費用で約17,000メガワットの発電を追加することを目的としています。 

残りのお金は、カラチ港と北西部の都市ペシャワールとの間の鉄道路線を改良することを含めて、交通インフラに費やされるでしょう。 (後略)【331日 GULF NEWS

***************** 

単なる旅行者の目から見ても、低水準のインフラの状態にあるパキスタンにとって、道路・鉄道・電力・水道などのインフラを改善し、住民生活に資するチャイナマネーは非常に重要な位置づけにあるように思われます。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« パキスタン  食べた料理い... | トップ | アメリカ  「魔女狩り」批... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

アフガン・パキスタン」カテゴリの最新記事