孤帆の遠影碧空に尽き

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グリーンランド  トランプ発言で高まる独立の気運

2025-01-20 23:32:19 | 国際情勢
(メルカトル図法による地図【学習塾WINGS】)

【グリーンランドは「地図ほど大きくない」】
12月27日ブログ「トランプ氏  就任前から繰り出す“ありのままを口に出すという新しい外交言語”」でも取り上げた、トランプ氏(このグログが人目に振れる頃には「トランプ大統領」になっていますが)の「(米国の)国家安全保障や世界の自由のために、米国はグリーンランドを所有し、管理することが絶対に必要だ」というデンマーク領グリーンランド購入への並々なるぬ関心については、年が明けても影響がおさまっておらず、大統領就任後の発言が注目されます。

トランプ氏のグリーンランドへの関心は今に始まったものでもなく、“1期目当時の2019年にも、「戦略上魅力的だ」としてグリーンランドの購入に意欲を示した。しかし、デンマーク首相が「ばかげている」と拒否。トランプ氏は「極めて非礼な言葉を使った」と怒り、予定していたデンマーク訪問を取りやめるなど両国関係が冷え込んだ。”【12月24日 毎日】ということが。



****「メルカトル図法」が生む幻想...トランプ氏が狙うグリーンランドは「地図ほど大きくない」****
(中略)
トランプ氏は、第1期の大統領任期中にグリーンランドの取得を提案した際、島の大きさがその理由の一部だったと、2021年にジャーナリストのピーター・ベイカー氏とスーザン・グラッサー氏に語っている。 

「地図を見てごらん。私は不動産開発者だ。建物を建てる時に『この角の店舗を手に入れなきゃ』って考える。地図を見るのも似たようなものだ」とトランプ氏は述べた。 「私は地図が大好きなんだ。そしていつもこう言うんだ。『この大きさを見てくれ。とてつもなく大きい。これはアメリカの一部であるべきだ』とね」 

2019年には、記者に対してグリーンランドの購入について「これは本質的に大規模な不動産取引なんだ。やれることはたくさんある」と語った。”(後略)【1月9日 Newsweek】
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“本質的に大規模な不動産取引”・・・なのか? 常識的にはこの種の発想は“帝国主義的野心”とも呼ばれる類で、ロシアが「ウクライナはロシアの一部であるべきだ」という発想と同じものです。

最初に「世界最大の島」グリーンランドに関して正確に把握しておくと、普段目にするメルカトル図法では実際よりかなり大きく(オーストラリアよりも大きく、アフリカ大陸と同じぐらいに)表示されていますが、実際はそこまで大きくはありません。(トランプ氏が示した地図がどんなものだったかは知りませんが)

実際はオーストラリアはグリーンランドの約3.5倍の面積があり、アフリカの方は14倍。そこで下記のような揶揄も。

****「トランプ氏はメルカトル地図を見ている」グリーンランド領有意欲をニューズウイーク揶揄****
トランプ次期米大統領がデンマーク領グリーンランドの領有への意欲を重ねて示していることについて、米誌ニューズウイークは「ドナルド・トランプはグリーンランドが実際よりもずっと大きいと考えているのだろうか?」と題した記事を掲載した。

記事では「グリーンランドはほとんどの地図に描かれているほど大きくない」「メルカトル図法は、地図上の陸地が赤道から離れるほど大きく歪んで見える。グリーンランドよりアフリカのほうが14倍大きいにもかかわらず、ほとんどの地図ではグリーンランドはアフリカとほぼ同じ大きさに描かれている」などと指摘した。(中略)

しかし、トランプ氏がメルカトル図法の仕組みを知らないとは考えられない。そもそも、グリーンランドは世界最大の島で、面積は米国の4.5分の1ある。

トランプ氏がグリーンランドに目を付けた理由について、米メディアは、ロシアと中国をにらんだ安全保障上重要な場所であることと、レアアース(希土類)など豊富な地下資源の存在を挙げている。【1月14日 産経】
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【安全保障上の懸念と豊富な地下資源 トランプ発言は理由あってのこと】
ただ、12月27日ブログでも書いたように、また、上記記事にもあるように、トランプ氏のグリーンランドへの関心は充分に理由があってのことです。

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グリーンランドが近年注目される背景には、その地政学的な重要性がある。米ニュースサイト「ポリティコ」によると、仮にロシアが米側に向けて核を搭載した長距離弾道ミサイルを発射した場合、グリーンランド上空を通る可能性が高いという。グリーンランド北部には米軍の宇宙軍基地(旧空軍基地)もあるが、視界の悪い北極圏上空では十分に対抗できない懸念もあるとされる。

近年は北極圏でロシアが軍備を増強させているほか、中国も資源開発を進めている。トランプ氏はこうした状況を念頭に「米国はグリーンランドを所有し、管理することが絶対に必要だ」と訴えた。【12月26日 毎日】
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ミサイル云々に関しては下記の地図を見れば明らかです。
(【ウィキペディア】

更に、グリーンランドの地下に眠る資源、温暖化でその地下資源が利用可能となってきていること、中国がそれに目をつけて関係を深めていることも。

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(グリーンランド)西部にある観光の拠点、イルリサットの岸辺に立つと、目の前にディスコ島が見える。この島には世界有数のニッケルの鉱床があるとされ、開発計画が進んでいる。ニッケルは電気自動車のバッテリーなどに必須の希少金属で、計画はアマゾンのジェフ・ベゾス氏や、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏が絡むファンドも支援する。

現地で開発に当たるイギリス本拠の「ブルージェイ・マイニング」社のスティーンスガードCEOは「ロシア、中国といった、欧米とは違う価値観を持つ資源大国への依存から脱却する、という意味でも、グリーンランドの資源への注目度は上がっている」と述べた。つまり経済安全保障の文脈だ。

ニッケルだけではない。グリーンランドにはコバルト、銅、プラチナ、チタン、金といった資源が眠っているが、まだまだ採掘・開発されていない。厳しい気候や地形が開発を妨げてきたからだ。

しかし温暖化で気温が上がってくれば状況は変わりうる。グリーンランドの氷床が溶ける、というのは温暖化を象徴する現象としてよく参照されるが、「開発について言えば温暖化はグリーンランドにとってプラスに働くんです」とCEOは苦笑した。

7日の会見でトランプ氏は「ロシアや中国の船が(グリーンランド周辺に)うようよいる「双眼鏡を使うまでもない」と警戒感を示したが、実際、中国は近年グリーンランドへのアプローチを強めてきた。

北極圏での資源開発や、温暖化によって拡大が期待される北極海航路への関心は強く、グリーンランドでも空港の拡張工事に参画しようとしたり、ウラン鉱山開発に参入しようとしたりしてきた。(前者はデンマークとアメリカの横やりで頓挫、後者は自治政府内で政権交代があり、環境汚染を気にした新政権がストップをかけた。)

こうした動きがトランプ氏の発言に繋がっているのも間違いないだろう。【1月10日 TBS NEWS DIG】
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【対応に苦慮するデンマーク】
デンマークも「グリーンランドは売り物ではない」という考えではあるものの、相手が何をするかわからない、世界最強の力を持つアメリカ大統領のトランプ氏ということで、対応に苦慮しているようです。

****グリーンランド領有発言で動揺=トランプ氏対応に苦慮―デンマーク****
トランプ次期米大統領が最近、デンマーク領グリーンランドの領有への意欲を重ねて示していることで、デンマーク国内に動揺が広がっている。

政府は「言葉の戦争をエスカレートさせるつもりはない」(ラスムセン外相)という立場で穏便に対応する方針だが、トランプ氏への対応に苦慮しているのが実情だ。

トランプ氏は、ロシアや中国の脅威に対する安全保障上の理由からグリーンランドの領有が必要だと主張。軍事的圧力をかける可能性を排除しない一方、デンマークが反対する場合、関税引き上げ措置を取る考えを示唆した。

英BBC放送によると、デンマークのフレデリクセン首相は地元テレビで「米国がグリーンランドを(武力を通じて)獲得する事態は想像を超えている」と述べ、要求を一蹴。デンマーク産業連盟のソーレンセン会長も「貿易戦争をしたい人はいない。落ち着くことが最善」と述べ、経済面での影響が出ることへの不安払拭に努めた。

フレデリクセン氏は9日、与野党党首らを集めた特別会合を開いて対応を協議。会合後、トランプ氏に会談を申し入れたと明らかにし、20日の米大統領就任後に実現させたい意向を表明した。

米ニュースサイト「アクシオス」は11日、デンマーク政府が、グリーンランドの安全保障強化や駐留米軍増強について話し合う用意があるとするメッセージをトランプ氏側に非公式に伝えたと報じた。

グリーンランドを巡っては、トランプ氏が第1次政権下の2019年に買収を主張した際、フレデリクセン氏が「ばかげている」と拒絶。これに立腹したトランプ氏がデンマーク訪問を取りやめた経緯がある。【1月11日 時事】 
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デンマークのフレデリクセン首相は1月15日、トランプ氏と電話で会談し、グリーンランドの独立の是非はグリーンランド自身が決定すると伝えたとのこと。

【トランプ発言で集まる世界の注目 独立へ向けた気運を高める】
現実にグリンランドがアメリカに売却されるようなことはないでしょうが、一連の騒動は世界の注目をグリンランドに集め、かねてからのグリーンランドの「独立」への動きを加速させる可能性があります。

グリーンランド自治政府も改めて自身の重要性を確認し、うまくやればアメリカや中国からの支援も引き出せるという思いも強くしているのではないでしょうか・・・想像ですが。

****高まる独立の機運****
こうした中、300年余り続いてきたデンマークによる支配からの独立の機運が高まっています。

2019年の世論調査では「将来、デンマークからの独立を支持する」と回答した人が67.7%に上り、2023年4月にはグリーンランド自治議会で初の憲法草案が審議されました。

さらにことしの新年の演説で、自治政府のエーエデ首相は「いまこそ我が国が次のステップに進むときだ」と述べ、独立を追求する方針を打ち出しました。

2013年まで4年間、グリーンランド自治政府の首相を務めたクライスト氏は、イヌイットの人たちが独立を志向するのは自然な流れだと話します。

クライスト元首相
「デンマークの支配のもと、強制的に移住させられた人や、人口抑制策として体内に避妊具を装着された女性もいたことが近年明らかになり、人々の間には怒りが広がっています。

自分の『家』を持ちたいと思うのは当然のことです。私たちはイヌイットのアイデンティティーや文化、ことばを維持するべきです」

ただ、グリーンランドは歳入の半分以上を、デンマーク政府からの補助金に依存しています。

クライスト元首相は「その穴を埋められる見通しが立たなければ、独立は現実的ではない」と指摘します。

「グリーンランドは貧困やアルコール依存などの社会問題を抱えている上、教育にも力を入れる必要があります。デンマークの補助金の代わりとなる、外国からの投資をもっと呼び込まないといけません。私が生きている間に独立を見たいですが、現実的にはまだ数十年かかるでしょう」(後略)【1月9日 NHK】
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****「デンマーク人にもアメリカ人にもなりたくない」高まる独立機運…「ばかげたこと」トランプ氏に批判 “グリーンランド買収”現地の本音を緊急取材****
(中略)
トランプ氏の発言がデンマークからの独立機運を“後押し”?
この市場で働く男性は、「トランプはグリーンランドを買うことなんてできないさ。彼は人のことなんか関心がない。興味があるのは金だけさ」と話し、ほかの住民も「グリーンランドは売り物じゃない」、「ばかげたこと、まるでサーカス。われわれをばかにしているわ」と、同じく否定的な考えだった。

そして彼らが口にしたのは、「独立」という言葉だ。
「われわれが望んでいるのは独立だ」、「時間や財源など必要だけど、独立は実現するわ」などと話していた。

デンマークによる300年以上の支配からの独立機運が高まっているグリーンランド。
トランプ氏の発言は、そんな彼らの思いを後押ししたのかもしれない。

では地元の議員は、グリーンランドを取り巻く状況をどうとらえているのだろうか。

ーートランプ氏の発言に驚いた?
シウムット党、ドリス・イェンセン議員:
もちろん驚きました。なぜなら私たちは、民主主義の価値観の中で暮らしているからです。世界中から注目されていることで、私たちにはチャンスが生まれています。私たちの目標は、将来的に独立することですから。

最大野党の党首・グルーバル氏は、「われわれはデンマーク人にもアメリカ人にもなりたくない。グリーンランド人として独立したいんだ」と話した。(「イット!」1月20日放送より)【1月20日 FNNプライムオンライン】
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【中国との経済的つながり】
グリーンランドでは中国の投資、中国との貿易にも強い関心が寄せられています。(そうしたことが、トランプ氏のグリーンランドへの思いを強めています)

****グリーンランド買収を巡るトランプ氏の野望と「中国問題」...識者3人が語る「北極圏の行方」****
<トランプ氏がグリーンランドをデンマークから購入する構想を掲げた背景には、地政学的な狙いと豊富な資源への関心がある。しかし、独立を目指すグリーンランド住民やデンマークの反発、中国との経済的つながりが、計画の実現を複雑にしている>

(中略)しかし、トランプ氏の構想には複雑な問題が存在している。主な障害は、多くのグリーンランド住民が独立を望んでいることや、デンマークからの強い反対だ。しかし、もう一つの複雑な要因として挙げられるのが、アメリカの主要な競争相手である中国への大きな共感だ。

多くのグリーンランド住民が北京よりもワシントンとの関係を強化したいと考えている一方で、中国に対しても好意的な見方をする人々が多い。大多数は、アメリカの対中国政策に従うのではなく、独自の政策を進めたいと考えている。

グリーンランド住民はこれまでに2回、外交政策に関する世論調査を受けており、いずれもグリーンランド大学によるもので、初回は2021年、2回目は2024年に実施された。

この間に中国に対する好意的な態度は減少したが、依然として無視できない割合を占めている。2回目の調査では、グリーンランドがアメリカの対中国政策に従うべきか問われた際、79.5%が「従うべきではない」と回答した。

また、2024年の調査では57.6%の回答者が中国の国際的な影響力の拡大を否定的だと考えている一方で、42.4%は肯定的だと答えており、大きな少数派を形成している。ただし、この割合は2021年から約10ポイント減少している。(中略)

クラウス・ドッズ(ロンドン大学):グリーンランドは中国を「投資者」として期待
グリーンランドのムテ・エーエデ自治政府首相は、将来の独立したグリーンランドのビジョンが、トランプ大統領の大戦略による条件付けられたものではないことを明確にしている。

中国はグリーンランドにとって重要な経済パートナーであり、2022年だけで魚の輸出貿易は3億5000万ドル以上に達した。中国は、鉱業や観光業の発展、さらにはホテル建設への投資者として広く認識されるだろう。(中略)

最終的に、独立したグリーンランドはアメリカにとって安全保障上の懸念と広く見なされるだろう。そして、北極圏での中国とロシアの協力が進む中で、この問題は緊急の対応を要するものとなる。

マーク・ナトール(アルバータ大学):中国との協力はグリーンランドの「広範な野心」の一部
中国はグリーンランドのシーフード輸出、特にエビやハリバット(オヒョウ)の重要な市場であり、これらはグリーンランド経済にとって不可欠な存在だ。

グリーンランドの政治家やビジネスリーダーは、経済的なつながりをさらに強化することを奨励しており、鉱業プロジェクトに興味を持った中国企業が何を提供できるかについての議論を進めている。

また、インフラ、技術、科学的協力への投資に関しても中国と話し合いが行われている。さらに、グリーンランドは中国人観光客をより多く誘致することにも大きな可能性を見出している。

ただし、中国との協力は、グリーンランドの「広範な野心」という文脈の中で捉えられるべきだ。それは中国だけでなく、他の多くの国々との貿易関係や経済的パートナーシップを強化することに重点を置いている。

この優先事項は、グリーンランドが経済的な機会を得て貿易関係を多様化し、グローバル経済への参加を拡大し、デンマークや欧州連合市場への依存から脱却するために必要なものだ。(中略)

ホイットニー・ラッケンバウアー(トレント大学):中国との貿易と投資推進は続くも楽観論は薄れる
近年、中国のデンマークにおけるソフトパワーの影響力は低下しており(これはデンマークがグリーンランドへの中国のインフラ投資に対して強硬な姿勢を取ることに直接反映されている)、グリーンランドの政治的優先事項は、地政学よりも地域経済の考慮を重視する傾向がある。

それでも、グリーンランド大学のナシフィク(外交・安全保障政策センター)が実施した最新の世論調査によれば、国内問題が外交政策上の懸念よりも優先される傾向がある一方で、55.4%のグリーンランド住民が中国との協力を減らしたいと考えており、59%がアメリカとの協力を増やしたいと望んでいることが明らかになった。

かつての中国投資への期待感が大きく薄れたものの、グリーンランド政府は引き続き貿易や連携を推進し、外国の関心を持続可能な経済発展へとつなげようとしている。(中略)

グリーンランドが北アメリカ防衛において重要であることを踏まえると、同地における中国の影響力は「リスク」、場合によっては脅威とみなされている。【1月20日 Newsweek】
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