(鎖国時代にソ連を仮想敵国として、アルバニア全土に建設されたトーチカ その数は50万とも75万とも 壊すのも大変で、そのまま放置されているものも多いとか。 写真は「アルバニアの今。鎖国・無神国家を経て、独特すぎる文化の国になっていた!」http://trip-s.world/albaniaより)
【血の復讐の掟「ジャクマリャ」に怯え暮らす少年たち】
ちょっと“変わった国”の、“変わった”と言うには悲惨すぎる風習。
“変わった国”というのは、アドリア海を挟んでイタリアの対岸に位置する、バルカン半島のアルバニアです。
****「血の復讐」におびえる子どもたち アルバニア、中世の慣習今も****
生活は苦しく、学校に通えないことも多い。そして日々、誰かに殺される恐怖にさらされている。東欧のアルバニアで、血の復讐の掟「ジャクマリャ(Gjakmarrja)」が残る世界で生きる子どもたちの日常だ。
ジャクマリャは、ある一族の人が殺されれば、殺した相手の一族の男性を復讐として殺せると定めたもので、歴史は中世にさかのぼる。
アルバニア北部の山岳地帯では現在でも慣習として存続し、武器を持てる年齢の男性なら一族の誰一人としてこの掟から逃れられない。
AFPは、この血讐の犠牲になるのではとおびえながら毎日を暮らす子ども数人に話を聞いた。これらの男の子たちは、首都ティラナから北に90キロほどのところにあり、モンテネグロとの国境に近いシュコドラ町の近郊に住んでいる。
クレビス君(13)は医者になるのが夢で、弟のアルバート君(11)は将来、法務大臣になりたいという。マルセル君(13)は歌手、タウラント君(仮名、13)はサッカー選手になるのが夢だ。
だが、彼らはそうした大志を抱いていても、学校に通うこともできなければサッカークラブに所属することもできず、音楽を習いに行くこともかなわない。
クレビス君、アルバート君の兄弟と、マルセル君は同じ一族の出身。「ジャクス」と呼ばれる暗殺者に殺されないように、質素な家に身を隠して生活することを余儀なくされている。
その理由は、親戚の男が2000年に、争いになった相手を殺害してしまったからだ。そのため彼らは、明日にでも襲撃に遭う恐れがあるのだという。
「自分たちの一族は血まみれなんだ」。血で血を洗う報復と死の連鎖にとらわれた生活をクレビス君はそんな風に表現した。
■問題は国の制度?
ジャクマリャの起源は、日常生活の規則を定めた「カヌン(Kanun)」と呼ばれる社会規範がつくられた15世紀の中世アルバニアにさかのぼる。
カヌンでは、誰かが殺害されたら、被害者の家族は加害者だけでなく、加害者の氏族の男性全てを復讐の対象にできると細かく規定している。
シュコドラ町のボルタナ・アデミ町長は、こうした血の抗争に巻き込まれた一族は「殺すか殺されるか」を意識しながら暮らしていると話す。
一方で、問題はカヌンではなく、現在のアルバニア当局の対応にあるという見方もある。憎み合う一族間の和解を支援する団体で働くギン・マルク氏は、「国の機関や司法システムが機能しなければ、人々は問題の解決策を見つけられない」と指摘する。
アルバニアは特に、1990年代に一党独裁体制が崩壊して一時無法国家に近い状態に陥った影響で、伝統的な血讐文化の影響を受けやすくなっている。
今年4月に発表された公式統計では、66家族の計157人が隠れて暮らしていると推定され、うち44人が子どもという。このうち57前後の家族がシュコドラ周辺で暮らし、警察や当局への通報はめったにないとされる。
ただ、ジャクマリャの脅威を口実に外国で虚偽の難民申請をする人もいるため、正確な統計は入手しにくいのが実情だ。【9月1日 AFP】
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血の復讐の掟「ジャクマリャ」については、ウィキペディアでは以下のようにも。
****ジャクマリャ*****
ジャクマリャ、ハクマリャ、あるいは血の復讐、血の報復、血讐とは、単に「カヌン」(Kanun)とも通称されるアルバニア人の氏族の歴史的な掟「レク・ドゥカジニの掟」の中で認められている、殺人に対して殺人で報いることを認める定め 。
報告によると、ジャクマリャに基づいた報復殺人の事例が、共産主義政権崩壊に伴う秩序の崩壊によって、法による統制が失われたアルバニアの辺境部、特にアルバニア北部地方でみられる一方、コソボでは希であるとしている。
アルバニア・ヘルシンキ委員会によると、報復殺人の広がりは、法治体系の機能不全が原因であると見ている。
ティラナ大学の法学の教授イスメト・エレジは、カヌンで認められた血の復讐では報復による殺人を認めているが、その中では何人を殺害してもよいかを定め、女性や子供、老人に対する殺害を厳しく禁止しているという。
アルバニアの作家イスマイル・カダレは、ジャクマリャはアルバニアに固有の特徴ではなく、歴史的にはバルカン半島全域に広くあったものと考えている。【ウィキペディア】
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“女性や子供、老人に対する殺害を厳しく禁止している”とのことですが、冒頭記事の少年たちの置かれている状況とは異なるようにも・・・・。“子供”とは幼児を指すのでしょうか。
確かに現代の法治主義とは相いれない風習ですが、おそらくこの類の風習は世界各地に存在するのではないでしょうか。
近代国家の法治主義が確立する以前、社会の安定を維持するために行われていた“ルール”のひとつのように思えます。
ですから、“変わった風習”というほど珍しいものではないでしょうが、アルバニアと言う国が“変わった国”であるのは間違いないです。
冒頭記事に興味が引かれたのは、「ジャクマリャ」の風習というよりは、アルバニアに関する話題という点でした。
【“変わった国”アルバニアの「鎖国」と「ねずみ講」】
最近、この国の話は目にする機会がありません。
国家としての「アルバニア」ではなく、「アルバニア人」ということであれば、セルビアとの激しい戦闘の末に分離独立を宣言したコソボがマケドニア人を主体とする国です。
コソボ独立にあたっては、これを支援する欧米諸国のNATOはセルビアを空爆していますが、セルビアを支援するロシアにすれば、“コソボが認められて、どうしてクリミアが認められないのか?”という主張にもなります。
コソボでは今も、主流のアルバニア人と少数派セルビア人の間で厳しい対立が残存しています。
そういう流れで「アルバニア人」はよく目にしますが、「アルバニア」自体について報じられることはあまりありません。(ちなみに、あのマザーテレサもアルバニア人で、アルバニアの空港の名称は「マザーテレサ国際空港」です。)
厳格なスターリン信奉者でもあった独裁者エンベル・ホッジャ率いる共産党による社会主義国であったアルバニアは、東西冷戦の間、西側はもちろん、ユーゴスラビア、ソ連、中国とも次々に関係を断ち、完全な「鎖国」状態となりました。
チトーのユーゴスラビアがソ連と離れて独自路線をとったこと、ソ連がフルシチョフ時代にスターリン批判を行ったこと、中国が改革開放路線をとったことが、ホッジは気に入らなかったようです。
そうした鎖国状態のなかで、ソ連を仮想敵国とした極端な軍事政策をとり、50万以上の堅固なトーチカが建設されています。また、“中国のプロレタリア文化大革命に刺激されて「無神国家」を宣言、一切の宗教活動を禁止した”【ウィキペディア】とも。
当然のごとく、こうした鎖国状態によって経済は疲弊し、欧州の最貧国、北朝鮮と並ぶ「謎の国」ともなりました。
鎖国政策は1990年頃まで続きました。
民衆の不満の高まりを背景に、ホッジャの死後、後継者のもとでは内政および外交における開放が進められましたが、“東ヨーロッパにおける共産主義の退潮が鮮明になるとともに、アルバニアも1990年に一党独裁を放棄し、アルバニア労働党は社会党へと改名したが、1992年の選挙では大敗することとなった。”【ウィキペディア】
現在はNATOにも加盟し、2014年6月よりEU加盟候補国になっています。
極端な「鎖国・孤立政策」と並んで、“変わっている”のは、国民の半分が“ねずみ講”に参加したことで国民経済が破たんしたことです。
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1990年代に市場経済が導入された際には、投資会社という名目でねずみ講が蔓延した。
ねずみ講は通常、新規参入者がいなくなった時点で資金が集まらなくなり、配当ができなくなることによって破綻する。
しかしアルバニアの場合、集めた資金で武器を仕入れ、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の紛争当事者へ売り払うことによって収入を得、配当を行っていた。
他に、国民の半分がはまったと言われるまでにねずみ講が蔓延した理由としては、社会主義国家で鎖国状態であったために、国民に市場経済の金融・経済についての教育が行われず、国民が「投資とはこんなものだ」と思い、ねずみ講の危険性に気づかなかったことも挙げられる。
また、武器の購入を通じて麻薬などの組織犯罪(アルバニア・マフィア)とも深く関わりを持つこととなり、汚職が蔓延した。ねずみ講投資会社は、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の終結とともに破綻した。【ウィキペディア】
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【“独特すぎる文化の国”】
宗教的にはイスラム教が7割、アルバニア正教会が2割、ローマ・カトリックが1割ということですが、「無神国家」を宣言した歴史もあって、世俗的で戒律などは緩やかなようです。
そうでなければ、以下のようなニュースもないでしょう。
****裸にジャケット、キャスターも一肌脱いで視聴者獲得 アルバニア****
厳しい視聴者獲得競争に直面したアルバニアのテレビ局が、視聴者に文字通り「裸」の真実を伝えるための取り組みとして、トップレスに近い格好をした女性キャスターにニュースを読ませるという大胆な手法を取っている。
Zjarrテレビで、素肌に胸元が開いたジャケットだけを着た若い女性キャスターらがトップニュースを読む姿は、保守的な同国では前代未聞の光景だ。
こうした格好のキャスターたちが初めてテレビとインターネットに登場したのは昨年だ。同テレビの社主は、視聴者の数は増え続けていると話している。
裸に近い状態で働いているグレタ・ホッジャ氏(24)は、脚光を浴びるための近道を身をもって証明している。
「地元のテレビ局で5年間、必死で働きましたが、そこでは注目されませんでした」と、ホッジャ氏はスタジオでメーク中にAFPの取材に答えさらに、「何も後悔していません…3か月でスターになりました」と話した。
人口約300万人のうち大半をイスラム教徒が占めるアルバニアでは、際どい格好でニュースを伝える手法はソーシャルメディアで物議を醸している。
一方、国内のフェミニスト団体やジャーナリスト関係者からの反応は薄い。
アルバニア・ジャーナリスト組合の代表は、「ヌードになったからといってメディアの危機は解決できない。生き残るために視聴者に何でも提供しようとしているが」と述べている。【2月28日 AFP】
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現在のアルバニアの姿については、「アルバニアの今。鎖国・無神国家を経て、独特すぎる文化の国になっていた!」http://trip-s.world/albaniaなどで紹介されています。
“メンタリティの面ではどこにも属さない(属せない)孤高の存在として、「ヨーロッパ最後の秘境」の名を欲しいままにしている。それがアルバニアという国です。”
“アルバニアンウォーク”や“双頭の鷲ポーズ”なども。
観光的には面白そうな国です。
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