(英中部の街では「EU離脱 ポーランドのダニどもはいらない」と書かれたカードが家や学校にばらまかれた・・・・とのことです。【6月28日 東京】 一方で、移民として最大の利益を得ているポーランドなど東欧諸国は、シリア難民らの受入を拒否しているという現実も 画像は【http://kaigai-matome.net/archives/35566861.html】)
【離脱派が勝利したことで、反移民感情が一層過激になって表面化】
国民投票でEU離脱を決めたイギリスでは、人種差別的な問題が増えているとも報じられています。
****<英国>少年6人、移民殺害 東欧出身者へ攻撃増****
英南東部ハーローでポーランド移民の男性(40)を暴行して殺害したとして、地元警察は8月31日までに15〜16歳の少年6人を殺人容疑で逮捕したと発表した。人種差別が背景にあるとみて調べている。
国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決めて以降、東欧出身者らに対する嫌がらせなどが相次いでおり、移民や市民団体が懸念を強めている。
警察によると、少年6人は8月27日深夜、ハーローの商店街のピザ店前で食事をしていた精肉工場従業員の男性ら2人を暴行。男性は頭などを強く打ち同29日に死亡。もう一人のポーランド人男性(43)も腹などを負傷した。死亡した男性は2012年にポーランドから移住していた。
人種差別などの相談を受け付ける英国の市民団体「ストップ・ヘイト」によると、国民投票前後4週間を比較すると、投票後は相談件数が1.5倍に急増しているという。
ポーランド移民で組織するポーランド社会文化協会(本部ロンドン)の広報担当者は「移民の存在が目立ちやすい地方都市で、特に人種差別的な問題が起きている。国民投票後に増えている傾向がある」と話した。
地元メディアは、少年らが男性をポーランド人と認識して襲ったと報じている。【9月1日 毎日】
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国民投票の激しい選挙戦が住民の分断を招き、従来は表に出すことが抑制されていた人種差別的・排外主義的言動を表に出すことが許されるような雰囲気を作った結果とも思えます。
もっとも、上記のような事件はとかくセンセーショナルに取り上げられやすいところはありますので、注意も必要かも。
下記記事にあるように地元住民には、事件の起きた地区はとかく“問題のある地区”で、事件を起こした若者は誰もが知る“問題児”だったとして、別に移民を狙って起こしたものではない・・・との声もあるようです。
****駐英ポーランド大使、国民投票後の外国人排斥増加を非難****
英ロンドン北東部のハーロウで先週末、ポーランド人男性が若者グループに殺害される事件があった。
警察がヘイトクライム(憎悪犯罪)の可能性も視野に捜査を行う中、現場を訪れた駐英ポーランド大使は8月31日、英国では欧州連合(EU)離脱が決まった国民投票後にゼノフォビア(外国人排斥)に根差した襲撃が増加していると非難した。
ハーロウは労働者階級の人々が多く暮らす町。アルカディ・ジェゴツキ駐英ポーランド大使は、アレク・ユジビクさん(40)が襲われた現場に花を手向けた後、「状況はブレグジット(Brexit、英国のEU離脱)の後、さらに悪くなっている」と語った。
工場労働者だったユジビクさんは、町の中心部に古くからあるショッピングセンターで襲撃され、頭部を負傷。29日に死亡した。地元の10代の若者6人が身柄を拘束されたが保釈され、詳しいことはまだ分かっていない。警察では、ヘイトクライムの可能性もあるとして目撃情報を募っている。
ユジビクさんの弟ラデクさん(36)は、英大衆紙サンに「警察の説明では、兄は友人とポーランド語で話していたために襲われたそうだ」と語った。
ジェゴツキ大使と共に現場を訪れた地元選出のロバート・ハーフオン英下院議員は、国民投票が「下水道からやってきた、分裂を悪用し人種差別的な主張を通そうとする人々に悪用されている」と批判した。
ハーロウは英国内でも東欧からの移民が最も多い地域の一つ。だが、地元住民らはユジビクさんの事件について、人種差別よりも、事件が起きたザ・ストウと呼ばれる地区の高い犯罪率が原因だと指摘している。
「今では人々はめったにザ・ストウには来ない。若い不良たちのせいだ」と倉庫で働く男性(24)は話した。地元でポーランド系の店を営む男性も、ユジビクさんが襲われたのはポーランド人だったからだとは考えていない。「あの問題児たちのことは、誰もが知っている。どこもかしこも危ないところだらけだ」
英国では6月23日に行われた国民投票前後に、ゼノフォビアが疑われる襲撃事件が複数起きた。英国家警察当局によると、全英で6月16~30日の間に外国人が襲われたとの報告は3000件以上あり、前年同期で42%も増加した。【9月1日 AFP】
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“問題のある地区”の“問題児”にとって、ポーランド移民は格好の攻撃対象に思えたのかも。真相はよくわかりません。
近年の人種差別的な問題の増加傾向は、学校における「いじめ」にも表れているとの指摘もあります。
****イギリスの学校で人種差別の「いじめ」が増加****
<イギリスの学校で、人種差別的な言動が理由で停学や退学処分になる件数が、過去6年間で2割も増加していることがわかった。政府は人種間の緊張が高まる地域の実態も考慮して、フリースクールの申請基準を拡大している>
イギリス教育省の統計を分析したところ、人種差別的な言動が理由で、学校から停学や退学の処分を受けた生徒の数が、2009年から15年までの6年間に20%増加していたことがわかった。
今週、統計の分析結果を発表した民間の慈善団体「ニュー・スクールズ・ネットワーク」によると、現状では毎日20人近くの生徒が、同級生に対する人種差別的な言動を理由に、学校から停学や退学処分を受けているという。
15年8月までの一年間に、人種差別的な言動による処分はイギリス全体で4,000件起きていた。件数が最も多かったのは、中部ウェスト・ミッドランズ州や沿岸地方の町など経済的に困窮している家庭が多い地域だった。
しかしロンドン周辺では、意外な結果が出た。
「発生件数はロンドン郊外の地域の方が多く、人種的にははるかに多様性が高い中心部の地域では少なかった」と、慈善団体の広報担当者は話している。「イギリス全体で最も問題なのは、ウェスト・ミッドランズ州と北西部のマンチェスター都市圏の2カ所だ」
学校での人種差別的な言動とは、ののしったり、嫌がらせをしたり、攻撃的な落書きのような実際の行動に加えて、言葉でからかったりすることも含まれている。
「人種差別的な言動や出来事を報告・記録するのは、生徒に『レイシスト(人種差別主義者)』のレッテルを貼るためではないし、停学や退学などの処分をするためでもない」と、別の慈善団体「人種差別にレッドカード」の広報担当者は話している。「こうした事例報告は、学校が生徒たちに人種差別的な言動をさせない教育をするうえで役立つものだ。人種差別は、いじめられる側だけでなくいじめる側も傷つけることになる」
担当者はさらに、「イギリスの学校が現在、すべての生徒にとって安全な空間を作ろうと努力していることは評価できる。停学や退学は最終手段でなければならない」と語った。「子どもたちが人種差別について学び、学校で自分がどんな責任を負っているかを知り、すべての人を受け入れるという学校の精神を受け入れる。これが実現すれば、偏見から起こる学校でのいじめは大幅に減らすことができる」
イギリスでは先月、フリースクールの申請基準が改正され、「社会的な需要」があればフリースクールを申請できるようになった。移民の増加などによって特に人種的な「分裂」が生じている地域では、こうした新たな基準を活用するべきだと関係団体はアドバイスしている。
「ニュー・スクールズ」のサラ・ピアソン理事長は、「この改正によって、地域コミュニティの需要に応じて学校を設置することも検討できる」と話している。【8月9日 Newsweek】
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離脱論議の建前的な意見とは別に、社会全体に人種差別的・排外主義的下地があるからこそ、一般国民の間でEU離脱が大きなうねりとなった・・・とも言えます。激しい選挙戦がそうした下地を刺激して、国民投票後のゼノフォビア(外国人排斥)増加を招いていることが推察されます。
【移民の間で高まる不安 帰国の動きも】
14年末時点でイギリス国内に住む外国籍約534万人で、そのうちポーランド国籍所持者は、最も多い85万人、16%を占めています。
激しい選挙で強化・顕在化した移民への厳しい視線、離脱決定による今後の移民の地位に関する懸念は、こうした移民を不安にさせています。
下記記事は国民投票前のものですが、移民のそうした不安を報じています。
****軋む英国 EU離脱国民投票/2 移民、広がる不安****
軋(きし)む英国
「英国で働くポーランド人の間には離脱への不安が広がっている」。
10年前にロンドンに移り住み、塗装工として働くクリス・ザルヒンスキさん(37)はこう話す。
英国の欧州連合(EU)からの離脱が決まれば査証(ビザ)なしで働くことができなくなる可能性が高い。「もう潮時だ」。妻と長男が暮らす自国に戻ると決めた。
ポーランドの首都ワルシャワから南へ約300キロの村で生まれ育った。貧しい暮らしを抜け出そうと英国で働いていた兄を頼った。個人事業者として塗装の他、大工仕事や電気、水道工事も請け負う。
英国人に負けないように客が望む以上に丁寧な仕事を心がけた。最初は英国人より安い価格を提示して仕事を取ったが、今は同価格だ。「名刺を配らなくとも口コミで仕事が舞い込む」と自負する。月収は母国の5倍の約2000ポンド(約30万円)。稼ぎの大半は先に帰国した妻と長男に送金している。
ポーランドは他の東欧諸国とともに2004年にEUに加盟。ビザなしで入国できるようになり、東欧からの移民が英国に殺到した。中でもポーランドが突出している。
英国は第二次世界大戦前後にユダヤ系を中心にポーランドから多くの移民を受け入れており、新移民をひきつける土壌もあった。
14年末時点で英国内に住むポーランド国籍所持者は全外国籍約534万人中、最も多い85万3000人、16%を占める。
離脱派の矛先はポーランドなどEU域内の東欧諸国からの移民へ向けられている。元ビル建設作業員のビル・トーマスさん(67)は安い賃金で働く移民に職を奪われたことがある。「賃金だけでなく、雇い主に気に入られようと時間外も働くので、英国人労働者にしわ寄せが来る」と強い口調で語った。
国民投票の実施日が決まった今年2月以降、ポーランド移民を支援するロンドンの慈善団体「東欧アドバイスセンター」には、問い合わせが殺到している。昨年は月3件程度だったが、先月は70件以上に跳ね上がった。
多くは英国で定職に就いていることの証明になる永住カードや英国籍の取得方法に関する質問だ。バーバラ・ドロスドビッチ代表は「結果も出ていないのにパニックになっている」と話す。
ポーランドからの移民の大半は、英国人が嫌がる農作業などの肉体労働、清掃業に就いている。ドロスドビッチ代表は「数十万人のポーランド人がいなくなれば誰が代わりを果たすのか。英国社会は成り立たなくなる」と疲れた表情で語った。【6月18日 毎日】
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ポーランド移民に重なるとも思われますが、ナチス迫害・亡命の経験を持つユダヤ人の間で、イギリス国内での排外主義の高まりにたいする不安が広がり、新たな亡命準備的な動きもあるようです。
****ユダヤ人の独市民権取得急増=EU離脱決定で排外主義懸念―英****
英国の欧州連合(EU)離脱が決まった6月の国民投票後、ナチス・ドイツの迫害を逃れ英国に亡命したユダヤ人やその子孫の間で、ドイツの市民権を取得する動きが目立っている。
英市民権を持ちつつ英国以外のEU諸国で働くユダヤ人が取得に関心を示しているほか、国民投票を機に英国で広がった排外主義的風潮への懸念も背景にあるようだ。
17日付の英紙デーリー・テレグラフによると、ロンドンの独大使館では国民投票後、ユダヤ人から市民権取得に関する問い合わせが400件以上も寄せられた。申請は例年20件程度だが、問い合わせた人のうち少なくとも100人が、既に手続きを済ませたという。
ナチス時代に英国へ逃れたユダヤ人は約7万人で、このうち存命者は5000人程度。独基本法(憲法)では、ナチス時代に人種や宗教などを理由に市民権を剥奪された人々やその子孫は、再び市民権を取得できると定めている。【8月18日 時事】
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【「誰が代わりを果たすのか。(移民が去れば)英国社会は成り立たなくなる」】
ビザの問題や排外主義への不安からイギリスを離れる方向と同時に、イギリス市民権を取得して今後の地位を保全しようという動きもあります。
イギリス市民権を申請するEUからの移民の数は、この1年間で14%増加しています。
移民が経済・社会の大きな部分を占めているイギリスにとっては、移民に残ってもらわないと「誰が代わりを果たすのか。英国社会は成り立たなくなる」ということになりますが、それは農作業などの肉体労働、清掃業に限らず、イギリスが誇る医療制度、国民保健サービス(NHS)でも同様のようです。
イギリスでは医師の1割がEU移民で、NHS関係者全体では5%がEU加盟国出身者でだそうです。NHSの移民依存度は年々上がっているとか。
「EU移民が去れば、NHSは崩壊の危機に直面するだろう」(イギリス公共政策研究所IPPR研究員)とのことで、IPPRはそうした事態を防ぐため、移民のNHS関係者に自動的に市民権を付与して流失を防ぐことをイギリス政府に訴えています。【9月6日号 Newsweek日本版より】
【メイ首相「ブレグジットを実行する」 しかし不透明な“軟着陸”方法】
メイ首相がどのような形でブレグジッドという難題を軟着陸させるつもりかは、未だはっきりしません。
メイ首相は年末前に離脱手続きを正式に開始することはないと述べています。
また、議会採決なしでEUへの正式通知を行うとの見解です。
議会には発言権が認められるが、議会に諮る法的義務はないとのことです。
いつ、どういう形でというのははっきりしませんが、「離脱はやる」「国民投票のやり直しはない」ということは繰り返し明言しています。
****ブレグジットは実行する、再投票や「裏口残留」ない=メイ英首相****
メイ英首相は31日、ブレグジット(英国のEU離脱)は確実に実行しなければならない、との考えを示し、国民投票のやり直しや、EUに「裏口から」とどまる可能性をあらためて否定した。
閣議で発言した。
首相は「ブレグジットはブレグジットであり、離脱を成功裏に行う必要がある」と主張。「つまり、国民投票のやり直しはなく、EUに裏口からとどまる可能性もない。ブレグジットを実行する」と宣言した。【8月31日 ロイター】
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“英国に欧州連合(EU)離脱プロセスを始動させることは、飛行機のエンジンを切るようなものだ――ある欧州の上級外交官は言う。切るのは、滑走路が見えてからにしなさい。さもなければ、乗客乗員が悲惨な事態に陥る危険性がある、ということだ”とのことですが・・・・
*****英国の軟着陸的EU離脱、独の沈黙で視界不良に*****
・・・・メルケル首相などEU指導者らは、英国が離脱プロセスを実際に発動させるまで、予想される結果について協議しない考えだ。そのため、英政府がブレグジットをいつ、どう着地させるのかという問題は複雑化している。
メルケル首相に近い筋は、匿名を条件として「われわれは事前協議はしない」と述べた。別の独政府高官も、同国では事前交渉は固く禁じられていると主張した。(中略)
水面下では、2年間という交渉期限は短すぎるとの認識が広がりつつある。これを受けて議論に上っているのが、第3の選択肢だ。EUの非加盟国でありながらEUと密接な関係を持つスイスやノルウェーのような既存の枠組みを、英国にも一時的に適用するというものだ。(中略)
メルケル首相は、英国に対しEUからの離脱手続きを「できるだけ早く」開始するよう求め、メイ首相が交渉の立場を考え出す猶予を与えなかった。
ある英政府高官は「メルケル氏は態度を軟化させ、『時間をかけてもいいですよ』と言っている」という。だが、メルケル氏の忍耐にも限界はある。同氏に近い関係筋は「明確にすることが、すべての人々の利益にかなう」と話した。【8月31日 ロイター】
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水面下では多くの交鈔が行われているようですが、最終的にはメイ首相の決断です。
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