孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  チベット住民被災者が多い青海地震で異例の対応

2010-04-20 22:09:27 | 災害

(千人近い遺体を火葬にする炎と見守る僧侶 “flickr”より By Eclipse.info
http://www.flickr.com/photos/www-eclipse-info/4536626239/
“中国青海省で起きた地震で死亡し、チベット仏教寺院に3日間安置されていた1000人近くの遺体が17日、玉樹チベット族自治州玉樹県の山で一斉に火葬された。数百人の僧が読経する中、遺族は故人と別れを告げた。中国新聞社電が伝えた。 四川省最大のチベット仏教ニンマ派寺院から読経のため僧を率いてやって来た活仏は「チベット地区の民衆は遺体を天葬(鳥葬)にするが、地震の死者は多く、時間がかかる。疫病予防も考慮して、火葬が妥当と判断した。宗教規定にも合致する」と語った。”【4月18日 時事】)

【指導部、外遊を取りやめ現地入り】
昨日のブログでは、ポーランド大統領搭乗飛行機の墜落事故に関し、ロシアのポーランドへの配慮が功を奏し、歴史的な経緯でロシアに対する不信感・恐怖感が強いポーランド側にもロシアを好意的に受け入れる動きが出ていることを取り上げました。

今日の話題は、中国青海省の玉樹チベット族自治州玉樹県で14日発生した地震。
標高3700メートルでの厳しい寒さと酸欠に加え、標準中国語(北京語)を理解しない高齢者も多い「言葉の壁」もあって、救助活動は困難に直面しています。

しかし、これまで中国中央政府からの分離・独立の動きがあり、08年には激しい抗議行動もあったチベット族居住区で起きた地震であったため、中国指導部はチベット系住民の不満が社会混乱につながることを懸念して、被災住民へ配慮した異例の対応を見せています。
なお、新華社の20日報道によれば、地震による死者は、これまでに2039人になっています。

****中国、異例の被災対応*****
胡主席、現地入り 幹部ら外遊延期  青海地震 チベット族に配慮
中国の胡錦濤国家主席は18日、14日に起きた青海地震の被災地視察のため青海省玉樹チベット族自治州玉樹県に入った。中国指導部は、被災者の大多数を占めるチベット族住民への配慮を視野に入れ、「民族の団結」や「社会の安定」を強調。相次ぐ異例の対応で、震災対策を最重視する姿勢を打ち出している。

「(胡主席は)18日朝、飛行機で玉樹の被災地に向かった」「到着後、すぐに車で被災視察に向かった」「テント内で簡単な昼食をとり、視察続行」
国営新華社通信は18日、胡主席の被災地入りの動きを計8本の速報電で伝えた。同通信が指導者の動きをここまで詳細に速報で伝えることは異例。震災対応への指導部の重視姿勢をアピールしようとの狙いは明らかだ。
胡主席は外遊先のブラジルで「人民と共に救援活動に取り組まなければならない」とし、チリ、べネズエラ両国への訪問予定を延期。17日に急きょ帰国した。胡主席が外遊途中で急きょ帰国に踏み切るのは昨年7月、新疆ウイグル自治区でウイグル族住民らによる騒乱が起きた時以来だ。(中略)

今回の被災地の同自治州は、チベット族が住民の9割以上。分離・独立の動きも伝えられ、2008年のチベット騒乱で激しい抗議の動きがあった地域でもある。震災対策の遅れなどで住民の不満が広がれば周辺地域のチベット族にも波及し、大規模な騒乱にもつながりかねないとの懸念が指導部にはあるとみられる。
中国の指導者は、社会の混乱につながる恐れのある災害対策を重視してきた。1998年には江沢民国家主席(当時)が長江の洪水被害を受けて訪日を延期した。だが、今回は、温家宝首相も発生翌日の15日に被災地入りし、東南アジア歴訪を延期。李長春・常務委員も17日、サウジアラビアなど4カ国訪問を取りやめ、外遊先から帰国した。
指導部の3人がそろって外遊日程を変更する対応は極めて異例で、死者・行方不明者が8万7千人に上った08年の四川大地震の際にも匹敵する重視ぶりだ。
中国当局は被害者の遺族に1人当たり8千元(約11万円)を支給するといった補償措置も早々と発表。チベット族の食生活に合わせた小麦粉を中心とする援助物資の支給や、避難所での宗教行為を認めるなどの措置をとっていることも強調し始めた。【4月19日 朝日】
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また、温首相は、壊滅的な被害を受けたチベット仏教寺院を訪れ、僧侶が救援活動に参加していることを称賛。「震災救援だけでなく、寺院復興にも力を入れる」と言葉をかけ、政府のチベット仏教僧への気遣いぶりを強調したとも。

チベット仏教4大宗派の一つ、サキャ派の聖地、結古寺(ジェグ・ゴンパ)も建物の9割が倒壊する被害を受けました。
****中国地震:チベット仏教聖地の寺も倒壊…政府苦慮*****
結古寺は文化大革命時に一時破壊されたことがあるだけに、中国政府が対応を誤るとチベット族からの反感を招くと懸念されている。(中略)
中国政府は結古寺の象徴性に配慮した対応を取っているようだ。16日に寺を訪ねると、一般の避難民には行き渡っていないテントも、十数張り届いている。「災害救援」と書かれた青いテントが急ごしらえの祈とうスペースになっていた。
僧侶の一人は「テントは、今朝届いた。カップめんも昨日持ってきた。(文化大革命で寺を)破壊したけれど、今回は助けてくれていると思うよ」と中国政府の対応を評した。【4月17日 毎日】
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“中国中央テレビは、胡主席が「安心して休みなさい」と、テントの医療施設で治療を受ける少女を励ます映像を繰り返して放映した。胡主席は慰問中、チベット族の住民に向かって、「共産党と政府は被災者の救済や復興に全力を尽くす」と何度も強調。「中国各民族の支持や団結」を訴えた。”【4月20日 読売】と、メディアもこうした指導部の対応を大々的に報道し、抗議や不満を抑えることに全力を挙げています。

【チベット族の中に中国政府への好感?】
こうした中国当局の対応は、一定に効果をあげているとの見方もあるようです。
****チベット族に中国への好感芽生える=中国政府の救援活動が奏功―米誌*****
2010年4月15日、米誌ニューズウィークによると、青海省玉樹チベット族自治州玉樹県で発生したマグニチュード7.1の地震後の救援活動によって、チベット族の中に中国政府への好感が芽生え始めている。18日付で環球時報が伝えた。
記事によると、中国政府は震災後すぐに救援活動を開始、ボランティアも含めた救援隊が被災地で活動している。募金活動も活発に行われており、温家宝首相が被災地に赴くなど政府の関心が高いこともアピールしている。今回の震災の性格は08年の四川大地震とほぼ同じだが、違うのは四川大地震の被災者のほとんどが漢族だったのに対し、青海地震では被災地の住民の97%がチベット族だということだ。
あるブロガーは、「これはチベット族もわれわれと同じように生活し、同じように痛みを経験していることを知る好機だ」と指摘、「震災は漢族とチベット族が草の根でお互いを理解する『前代未聞の』機会だ」と述べる。インターネット上では被災者に対する同情の声が高まっており、「被災地の同胞のために祈祷をささげよう」という書き込みもある。
人々の被災地への関心と反応は、チベット族の中国という国家に対する感情に変化をもたらし始めた、と同記事は指摘する。内陸の高地という被災地の地理条件の中での救援活動は困難を極める。しかし展開されている救援活動の効率は高く、それによって中国政府はチベット族の好感を得ることになるだろうと記事は伝えている。
【4月19日 Record China】
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実際、どれだけ「和解」の動きが出ているのかは上記記事では判然としませんが、住民感情に配慮した救助・支援活動が相互理解・和解へ向けたひとつのきっかけになりうるとは考えられます。

【「和解」に向けて大胆な取り組みは・・・】
被災地は、ダライ・ラマ14世の出身地でもあり、ダライ・ラマも被災地入りを熱望しています。
****ダライ・ラマ、被災地入り「熱望」=故郷の中国青海省地震で*****
チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世は17日、多数のチベット族が犠牲になった中国青海省地震の被災地を訪れることを「熱望している」と述べた。チベット亡命政府のあるインド北部ダラムサラで記者団の取材に応じた。
ダライ・ラマのスポークスマンが電話で時事通信に語ったところによると、ダライ・ラマは記者団に対し、被災地訪問の実現に向けて「適切なルートを通じた中国当局との接触を模索している」と語った。
ダライ・ラマは1935年、現在の青海省に属するチベット北東地域で生まれた。この日、英語とチベット語による声明を発表。「青海省は偶然にもわたしが生まれた場所。この地の多くの人々の願いをかなえ、彼らに安らぎを与えるため、自分自身で現地入りすることを熱望している」と訴えた。
その上で、被災者に対し、「希望を捨てず、勇気を持って逆境に向き合ってほしい」と励ましの言葉をかけた。【4月17日 時事】
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なお、中国政府が認定したチベット仏教第2の高位者パンチェン・ラマ11世は、「被災者が党と政府の指導の下で、災難に打ち勝ち、故郷を再建できると信じている。苦難を脱し、永久の平穏を祈願する」との見舞いの電報を送り、10万元(約136万円)の寄付をしたと報じられています。【4月16日 時事】

中国政府が勝手にねつ造したパンチェン・ラマ11世はともかく、ダライ・ラマ14世が被災地に入れれば、被災者の精神的支えとして大きな意味があります。
単に社会混乱の芽をつむといった発想ではなく、中国政府もこの際、不倶戴天の敵ともしてきたダライ・ラマ14世を現地に招き、中国政府指導部と一緒に被災者を励ますといったことを行えば、チベット族融和にも大きな効果が期待できるのではないかとも思えます。
そんな、太っ腹の政治家は中国にはいないのか・・・、いないでしょうね。

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カチンスキ大統領の国葬 ロシアの配慮を好意的に受け止めるポーランド

2010-04-19 22:28:19 | 国際情勢

(18日のカチンスキ大統領の国葬に参列したメドベージェフ露大統領(奥)、手前はウクライナ・ヤヌコビッチ大統領、中央はリトアニア・グリバウスカイテ大統領 アイスランド火山による航空機トラブルで出席を取りやめた国も多い中で、東欧・旧ソ連諸国からの列席が目立ちます。もちろん地理的な近さで陸路での出席が可能なためでしょうが、ポーランドへの親近感・つながりの深さもあるのでは。
強烈な愛国主義でドイツやロシアなどと摩擦を起こして国民からの批判もあったカチンスキ大統領を、旧王族や国家的英雄が眠る南部クラクフのバベル城に埋葬するという政府の決定には、国内でも異論があったようです。ただ、“悲劇の死”は人を“英雄”します。“flickr”より By plasmastik
http://www.flickr.com/photos/plasmastik/4531390182/)

【カチン虐殺に重なる悲劇】
70年前に悲劇の舞台となった「カチンの森」が、今月10日、新たな惨事の舞台となりました。追悼式に向かうカチンスキ大統領らを乗せたポーランド政府専用機が、ロシア西部スモレンスクの森に墜落。ロシアによる救助活動が行われましたが、一人の生存者も見つかりませんでした。

第二次大戦中に当時のソ連・スターリン政権の決定で戦争捕虜ら2万人以上のポーランド人が銃殺され埋められた事件は「カチンの森事件」と総称されていますが、埋葬現場は5カ所あり、43年にナチス・ドイツ軍が初めて大量の遺体を発見した「カチンの森」には、このうち4421人が埋葬されています。
ロシア側は事故に先立つ7日、プーチン首相が70年に合わせロシア首脳として初めて事件の舞台を訪れ、ポーランドのトゥスク首相を招いて追悼式典を行い、ポーランドとの歴史的対立を乗り越えようと「和解」を呼び掛けたばかりでした。【4月10日 毎日より】
ロシアと折り合いの悪いせいか、カチンスキ大統領はこの式典には招待されませんでしたが、ロシアはポーランド国家元首を受け入れ、ポーランド側は別日程の10日に大統領主催の式典を行うことにしていました。

今回の惨事は、ポーランド大統領を含む政府要人が多数死亡するという事故そのものの衝撃以外に、この事故がロシアとポーランドの関係にどのような影響をもたらすか、ひいてはロシア・欧州各国間の今後の関係にどのように影響するか・・・という政治的観点から注目されていました。

帝政ロシアなどによる18世紀のポーランド分割に続き、ソ連は1939年にナチス・ドイツとともにポーランドに侵攻、第二次大戦後も半世紀近く支配下に置いた歴史的経緯、更には「カチンの森」やワルシャワ蜂起見殺しなどの“事件”を含めて、ポーランドにはロシアに対する不信感が根強くあり、死亡したカチンスキ大統領はそうした反ロシア感情を代表する対ロシア強硬派の政治家でした。

対ロシア最前線に立つポーランドとロシアの関係は、欧州全体の対ロシア関係(ロシアからすれば欧州戦略)に影響します。
“EU加盟各国の対露関係はそれぞれ異なるが、仮にロシアとポーランドの2国間関係が改善すれば、それはロシアとEU間の全般的なムードの改善をもたらす可能性が高い。しかし、それは同時に、墜落事故の影響でポーランドが再びロシアに不信感を持つようになってしまえば、EUの東西緊張はまだまだ続くことになる可能性もあるということでもある。”【4月12日 AFP】

「この事故は陰惨さを象徴している。ポーランドでは、ロシアと関係することがらはすべて悲惨で悪いものだという考えが再び持ち上がるかもしれない」「たとえ事故原因がパイロットのミスによるものだと判明したとしても、KGB(旧ソ連国家保安委員会)がカチンスキ氏を殺したと言う人はいなくならないだろう」「ポーランド人の意識にある『ロシアフォビア(ロシア恐怖症)』はますます強化されるだけだろう」・・・というような懸念もありました。

【和解の芽をつみたくないロシアの配慮】
しかし、今のところは、ポーランドとの歴史的対立を乗り越え「和解」を求めるロシア側の対応が功を奏して、むしろポーランド側の心を開く展開になっているようです。
メドベージェフ大統領は事故直後の10日、プーチン首相をトップとする墜落原因調査の政府委員会設置を命じ、首相は早期の事故原因究明とともに、モスクワに到着する遺族への対応に万全を期すよう指示。
ロシア外務省は、墜落事故発生から数時間以内に、ロシア当局による墜落事故の調査や身元確認に加わるポーランド側の要員に対してビザ(査証)をただちに発行すると発表。
ロシア側は原因究明から遺族受け入れまで、細かい配慮を行ってポーランド政府に全面的に協力する姿勢を示しました。
こうしたロシア側の事故後の対応には、ようやく訪れたポーランドとの関係改善の芽をつんではならない、という思惑が色濃くにじんでいると報じられています。

****ポーランド大統領機墜落 和解寸前…ロシア苦悩****
◇服喪の日◇ 
モスクワ市内のポーランド大使館や西部サンクトペテルブルクの同国総領事館には、事故の犠牲者を悼むロシア人らが多数訪れ、手向けられた花やキャンドルが増え続けている。
ロシア政府が遺族受け入れのために用意したモスクワ市内のホテルには、ポーランドから100人以上の関係者が到着した。両国の専門家は遺体の身元確認を合同で進めており、ポーランドのコパチ保健相は「ロシア側の専門家は熱心に作業を進めている。ロシア政府に感謝したい」と述べた。両国は事故原因の究明も合同で行う見通しだ。
事故が起きた10日、プーチン首相は現場に飛んでポーランドのトゥスク首相と抱き合って犠牲者を悼んだほか、メドベージェフ大統領も黒いネクタイ姿で国営テレビに出演、弔意を示した。ポーランド国民への連帯を示す服喪の日の12日、ロシアのメディアは広告中止などの対応を取った。
◇「歴史の清算」一変◇ 
こうした迅速な動きは、ロシア政府が事故をいかに重く受け止めているかを象徴するものといえる。第二次大戦初期にソ連秘密警察がポーランド兵を大量虐殺した「カチンの森事件」から70年となるのを機に、首相に続いてカチンスキ大統領を受け入れて「歴史の清算」を果たすはずだったのが、事故により事態が一変してしまったからだ。
◇欧州戦略に影響も◇
ロシアとポーランドは過去、幾度となく戦火を交えるなど対立と融和を繰り返した。最近では、オバマ米政権のミサイル防衛(MD)見直しに伴ってポーランドへの迎撃ミサイル配備計画も白紙となるなど、ロシアとポーランドの政治的関係が変わる可能性も出ていた。
欧州でも屈指の対露強硬姿勢で知られるポーランドとの関係は、ロシアの欧州戦略全体を左右しかねない重要な意味がある。ロシアは事故後の対策に万全を期すことで、関係改善の流れを継続したい意向だ。
ただ、70年を経て再び訪れた「カチンの悲劇」がポーランドの人々の脳裏に長く刻まれることも間違いなく、将来にわたってロシアとポーランドの関係に影を落とすことも確実だ。【4月13日 産経】
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【ロシアへの好意的な雰囲気】
こうしたロシア側の“配慮”を、ポーランド側は概ね好感を持って受け止めているようです。
ポーランド南部のクラクフで18日行われたカチンスキ大統領の国葬には、アイスランドの火山噴火の影響により、オバマ米大統領やチャールズ英皇太子、サルコジ仏大統領、メルケル独首相らが欠席することになりましたが、ロシアのメドベージェフ大統領は航空機でクラクフに到着、ウクライナ、チェコ、エストニア、ラトビアの首脳らとともに追悼ミサに姿をみせました。

****ポーランド:ロシアに好意的ムード 大統領国葬****
ポーランドの古都クラクフで18日行われたカチンスキ大統領夫妻の国葬では、アイスランド火山噴火の影響で多くの外国首脳らが欠席する中、メドベージェフ・ロシア大統領の存在がひときわ目を引いた。カチンスキ氏らが犠牲となったロシア西部のポーランド政府専用機墜落事故で、ロシア政府は原因調査や遺族支援などに尽くしており、ポーランド全体でロシアへの好意的な雰囲気が強まっている。

メドベージェフ大統領はモスクワから専用機で空路クラクフ入り。カチンスキ夫妻のひつぎが安置された教会の入り口にバラの花束をささげた。
「ロシアの真摯(しんし)な対応に驚いている」「見方が変わった」--。カチンスキ氏の弔問に訪れたポーランド人の多くは、かつてポーランドで圧政を敷いたロシアについて、こう語った。コモロフスキ大統領代行も17日の追悼式典で「ロシア市民の自然発生的な深い思いやりに感謝している」と述べた。
ロシアは事故直前、第二次大戦中に旧ソ連の秘密警察がポーランド軍兵士らを虐殺した「カチンの森事件」70年に合わせ、プーチン首相がポーランドのトゥスク首相を現地に招いて追悼式を行い、両国関係の改善に動いていた。
ただ、両国間に今も横たわる歴史観や政治風土の違いを乗り越え、真の和解に至るかどうかについては「もう少し冷静に推移を見守る必要がある」(地元ジャーナリスト)との見方が出ている。【4月19日 毎日】
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今回の惨事が、禍転じて・・・となるかどうかは、今後のロシアの対応にかかっています。

ロシアがポーランドに示したのと似たような配慮・気遣いを、中国当局は、中国青海省の玉樹チベット族自治州玉樹県で14日発生した地震において、大多数を占めるチベット系住民被災者に対して示しています。
そのあたりの話はまた別の機会に。

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イラン追加制裁をめぐる関係国の動き 中国の「本音」

2010-04-18 19:51:50 | 国際情勢

(12日行われたオバマ米大統領と胡錦濤国家主席の米中会談 
“flickr”より By edjane obama
http://www.flickr.com/photos/38661887@N08/4519216830/)

【もうひとつの国際会議】
アメリカは今月6日に発表した核戦略指針「核態勢見直し(NPR)」の中で、「核拡散防止条約(NPT)を順守する非核保有国に対し、米国は核攻撃しない」としていますが、NPT加盟国のイランは、条約を順守しているとは見なされず、新たな政策からは除外対象とされています。

また、今月12、13日にアメリカ主導で開かれた47カ国の首脳が参加した「核安全保障サミット」期間中、イランへの制裁決議採択の鍵を握る国々の首脳との会談を積極的にこなし、協力を迫ったと言われています。
特に、中国の胡錦濤国家主席とは約90分の会談時間の大半をイラン問題に費やしたそうです。また、非常任理事国で制裁に消極的なトルコのエルドアン首相とも会談しています。

こうしたアメリカの対イラン追加制裁へ向けた動きに、イラン側は反発を強めており、NPRについては「核による脅しだ」としています。
また、アメリカ主導の「核安全保障サミット」に対抗する形で、イラン政府主催の「核軍縮・不拡散国際会議」を開催、独自の姿勢を国際社会にアピールしています。

****イラン:「核軍縮を主導」国際会議始まる 米に対抗、追加制裁回避狙い*****
イラン政府主催の「核軍縮・不拡散国際会議」が17日、首都テヘランで2日間の日程で始まった。核開発問題でイランへの追加制裁が国連安保理で検討され、5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議でも米欧諸国から非難が予想される中、イランは会議を通じ国際社会との関係を強化し、何とか追加制裁を回避したい考えだ。
アフマディネジャド大統領は会議冒頭の演説で、米国を繰り返し批判し「拡大主義を取る高慢な国の政策によって核軍縮が進まず、世界の安定が損なわれている」と指摘。また、「残念ながら国連安保理も国際社会の持続的な安定を実現できていない」とし、安保理をけん制した。

イラン政府は会議参加者を約60カ国約200人と発表しているが、AFP通信によると、外相はレバノンやシリア、イラク、トルクメニスタン、オマーンなど周辺国や友好国8カ国にとどまり、残り多くは軍縮担当者やNGO(非政府組織)関係者とみられる。ロシアやアラブ首長国連邦(UAE)、カタールからは外相代理が参加した。(中略)
しかし、こうした国際会議の一方で、イランは国連安保理決議を無視しウラン濃縮活動を継続している。安保理には、このままイランの同決議違反を放置することは安保理の権威を損ないかねないとの認識も出ている。
こうした中、今回の会議に、レバノンは外相を派遣し、イランへの気遣いをみせた。レバノンは5月の国連安保理議長国に当たっており、追加制裁を巡る協議に影響する可能性もある。【4月18日 毎日】
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安保理議長国は4月が日本、5月がレバノンです。
レバノンは、イランの影響力が強いイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラが昨年6月の国民議会選挙で敗退こそしたものの、野党連合の主軸として閣内にも2ポストを持つ国で、挙国一致内閣を組閣したサード・ハリリ首相としてもヒズボラの意向を無視できません。
そのため、アメリカは「日本が議長国を務める4月中の採択を目指している」と言われています。
従来からイラン追加制裁に消極的な中国が追加制裁協議に加わる形になって、とりあえずの道筋は見えてはきましたが、まだ紆余曲折が予想されています。

【「不可能とはいわないまでも非常に難しい」】
****対イラン制裁 月内採択なお微妙 中国参加も米欧と距離*****
核開発を続けるイランに対する追加制裁をめぐる国連安保理常任理事国5カ国とドイツによる初の大使級会合が8日、ニューヨーク市内で開かれた。かねて制裁に慎重な姿勢を示してきた中国が参加し、議論は具体化に向け前進した形だが、一方で中国はなお話し合いによる解決に力点を置く姿勢を崩しておらず、オバマ米大統領がめざす「数週間のうちの制裁実現」にはまだ遠いのが実情だ。(中略)
中国の李保東大使は「協議は今まで通り(交渉の余地を残しつつ制裁についても議論を進める)複線型のやり方を取っている」と述べ、追加制裁の議論に急激な弾みが付くことへの牽制をにじませた。(中略)

中国は先月末、6者間電話協議で追加制裁の協議参加に同意。さらにワシントンで開かれる核安全保障サミットへ胡錦濤国家主席が出席するなど、冷え込んでいる米中関係改善の思惑も絡んで、このところ米国への接近が目立つ。
だが、議論はまだ決議案草案に向けたたたき台の段階。中国の姿勢転換で追加制裁の必要性について一応の合意が得られたとしても、個別の制裁内容についてはなお、米欧と中国の間には距離がある。
国連外交筋は「月末までの採択は、不可能とはいわないまでも非常に難しいことはまちがいない」と話している。【4月10日 産経】
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バーンズ米国務次官(政治担当)は14日の上院軍事委員会の公聴会で、国連安保理の対イラン追加制裁について、「米中はイランに強いメッセージを送らなければならないとの点で一致している。安保理決議の採択は可能だ」と述べ、中国が決議を支持するとの見通しを示して、数週間内の決議採択を目指しているとしました。
ただ、石油取引を対象にした制裁は中国とロシアの支持が得られず、「非常に困難」とも述べています。【4月15日 時事より】
同日14日、6カ国の国連大使はニューヨークで2回目の会合を開いていますが、中国の李保東・国連大使は「非常に建設的な協議をした。互いの立場がより理解できた」とし、制裁をめぐる協議が前進していることを認めたも報じられています。

【中国“最善の戦略はのろのろと時間を稼ぐこと”】
イラン追加制裁決議が可能かどうかは、中国がカギを握っていますが、アメリカへの協力姿勢を示したとも言われる中国の本音は、アメリカがイラン問題の泥沼に足をとられる状態がこのまま継続することにあるとの指摘もあります。

****イラン制裁で中国に翻弄されるアメリカ******
米政府は忘れているようだが、現実主義の立場から見れば中国が本当に「イエス」と言うはずはない
スティーブン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授=国際関係論)

ニューヨーク・タイムズ紙などが報じたところによると、核開発を進めるイランへの経済制裁強化を求めるアメリカに対し、中国が同調する用意があるという。ニューヨーク・タイムズの記事には「イラン制裁について中国が対米協力を約束」という見出しがついているが、中身はちょっと違う。
同紙によれば4月12日、中国の胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席が新たなイラン制裁のための「交渉に参加する」ことに同意した。一方で記事は、追加制裁を遅らせたり骨抜きにするために交渉を利用する、という中国にお決まりのパターンも指摘。(中略)

中国の態度は当然のものだろう。イランに深刻な影響を与える経済制裁に乗り気でない理由が山ほどあるからだ。まず、中国はイランの石油・ガスに対する権益を確保し、イランに投資する道を残しておきたい。中国にとってイランは今や第2位の石油・ガス輸入相手国で(中国の消費量の15%を供給)、イランにとって中国は第2位の輸出相手国だ。中国はイランに多額の投資もしている。将来的に中国の石油需要が高まるのは必至だから、中国政府が対イラン関係を悪化させるとは考えられない。
第二に、イランの核問題に対して中国が楽観的であることが挙げられる。核開発について、中国はより現実的な考えを持っているからだ。
中国の指導者たちは、64年に中国自身が核実験を行ったとき、地政学的に大した影響力が得られなかったことをよくわかっている。核保有国になっても台湾やベトナム、朝鮮半島やその他の場所で支配権を得たり、脅威的存在になることはなかったと自覚している。
中国の台頭はわずかな核兵器を持つことではなく、経済発展をすることでもたらされた。イランの核にも同じことが当てはまるというのが中国政府の考えだ。だから中国は、イランが核兵器開発を断念することを望みながらも、最悪の場合に備えて多大な代償を払うつもりなど毛頭ない。

しかもアメリカとイランの関係が(爆発しないまでも)くすぶり続ければ、長い目で見て中国の利益になる。中東や中央アジアとの関係でアメリカが苦戦すれば、中国は戦略的に大きな恩恵を受ける。アメリカがイラクやアフガニスタンに何兆ドルも費やしながら、同時にイランと対立し続けるのを見て、中国がほくそ笑んでいるのは間違いない。
結局、アメリカがイランに時間とカネと精力と政治力を費やせば費やすほど、中国の長期的な野望に対処できなくなってしまう。アジアにおける影響力を確立し、アメリカに取って代わろうとする野望だ。
アメリカとイランの関係悪化は、外交や投資面で中国に大きなチャンスを与える。中国が最も望まないことが、イラン核問題の迅速な解決だ。それでアメリカとイランの緊張緩和の道が開かれれば、中国の影響力は縮小し、アメリカがこれまで見ていなかった地域に目を向けるようになるからだ。

とはいえ中国も、ペルシャ湾岸で戦争が勃発する事態は避けたい。石油価格が(少なくとも一時的に)上昇し、世界経済が再び不況に陥り、そのほか予想外の結果がもたらされる恐れがあるからだ。
だから中国は、アメリカと同盟国が対イラン経済制裁をめぐってゆっくり議論を続けることを願っている。イランとの対立は続いてほしいが、武力行使は実現してほしくないからだ。
中国にとって最善の戦略はのろのろと時間を稼ぐこと。つまり、制裁強化に反対しないまでも、決して「イエス」と言わないことだ。中国はいずれ何らかの追加制裁に合意するだろう(イランの輸出が途絶えた場合、中国への石油供給を何らかの形で保証すると、アメリカがなりふり構わず約束してからかもしれないが)。
だがイランのウラン濃縮活動を断念させるほどの厳しい内容にはならないだろう。議論は続き、アメリカの指導者はそれに多くの時間と労力を費やし、中国は長期的な利益を伸ばし続ける。
残念ながらそれが現実主義の初歩というもの。アメリカ政府がそれを忘れているようなのが残念だ。【4月14日 Newsweek】
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別にアメリカ政府も“忘れている”訳ではなく、ただ、どういう事情であれ、中国が表向き協力姿勢を示すようになったことの意味合いは小さくない・・・ということでしょう。
“中国の台頭はわずかな核兵器を持つことではなく、経済発展をすることでもたらされた”との認識はそのとおりでしょう。
議長国日本の岡田外相は、16日、ライス米国連大使と約40分にわたって会談。核開発を続けるイランへの国連安保理の制裁決議をめぐるアメリカ側の姿勢の説明を受けたとのことです。

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核安全保障サミット、アメリカ主導の核物質管理体制 ロシアも“核燃料バンク”

2010-04-17 20:31:41 | 国際情勢

(核安全保障サミット出席者 どうでもいいことですが、こういう撮影の立ち位置はどうやって決めるのでしょうか? ワシントン・ポストのコラムでコケにされた鳩山首相は右後方、メルケル独首相の後ろのようです。
“flickr” By GreenDominee
http://www.flickr.com/photos/green_leader/4524543021/)

【「適切な管理」と「違法取引阻止」】
世界47か国の首脳級が参加し、核テロからの「防護」に焦点を絞って開催された「核安全保障サミット」は、オバマ米大統領が求めた「4年以内の核物質の国際管理」への支持を表明する共同声明を採択、13日閉幕しました。

****「核テロ」阻止に管理徹底…核安全サミット閉幕*****
世界47か国の首脳級が参加した「核安全サミット」は13日夕(日本時間14日早朝)、「核テロ」阻止のため、核物質の安全を「4年以内に徹底させる」ことをうたう共同声明と、そのための具体的作業内容を示す「作業計画」を採択して閉幕した。
議長を務めたオバマ米大統領は閉幕後の記者会見で参加各国を代表して「核物質を決してテロリストの手に渡さない」と決意表明した。
オバマ大統領は会見で核拡散防止条約(NPT)の強化も訴えており、大統領が目指す「核なき世界」に向けた次の焦点は、5月にニューヨークで開催される同条約再検討会議に移る。

サミットでは、新たにメキシコが、保有する高濃縮ウランの放棄を表明するなど、参加国から提案が相次いだ。共同声明は、「対話と協力で核の安全を強化する」と述べ、核物質管理のため、参加47か国が核兵器の原料となる高濃縮ウランとプルトニウムの「適切な管理」や「核物質の違法取引阻止のため協力」など12の行動を取ることを確認した。
「作業計画」では、高濃縮ウランから低濃縮ウランへの燃料転換や、核の安全保障を明記した法整備、核テロ防止のための情報交換などの具体策が示された。オバマ大統領は会見で、「各国指導者は協議のためでなく行動を起こすために集まったのだ」と強調した。

クリントン米国務長官とラブロフ露外相は13日、核軍縮で不要となった両国の兵器級プルトニウム各34トン、計68トンを原発用核燃料に転用、処分する協定に署名した。ラブロフ外相は「核軍縮の共通目標に向けた前進だ」と意義を語った。
大統領は、サミットに招待されなかった核開発国のイランについて、強力な制裁の結果、核の放棄に向かうことに期待感を表明。北朝鮮については、核問題を巡る6か国協議への復帰が重要との認識を示した。
「核安全サミット」は次回、2012年に韓国で開催されることが決まった。(後略)【4月14日 読売】
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核兵器の原料となる高濃縮ウランとプルトニウムの各国保有量は計2000トンを超え、数十カ国に分散しています。これらを「適切な管理」のもとにおき、不正な取引でテロリストの手に渡るような事態を防止しようというのが今回サミットの目的でした。
不正取引があった場合に迅速な対応を取るため、製造元を確認できる核鑑識などの新技術の開発を急ぎ、情報の共有で協力する方針も決められています。

【「わが国が核兵器を持っていれば(米露は)違う対応をしただろう」】
いくつかの国からは、高濃縮ウラン放棄も表明されています。
****ウクライナ、高濃縮ウラン放棄へ******
「核安全サミット」出席のため訪米中のウクライナのヤヌコビッチ大統領は12日、オバマ米大統領と会談し、国内に備蓄されている高濃縮ウランを2012年までにすべて放棄すると表明した。
冷戦期に米国や旧ソ連から拡散した高濃縮ウランの回収は、「核テロ」防止のための重要課題の一つ。オバマ大統領はウクライナの決定について「歴史的な一歩」と評価した。
ギブス米大統領報道官によると、ウクライナの高濃縮ウランは核爆弾数個分に相当する量で、米国は過去10年間、放棄するよう説得してきた。米国は移送に必要な技術や資金を援助する。ヤヌコビッチ大統領は米CNNテレビに対し、移送先はロシアになると述べた。
米民間団体「核脅威イニシアチブ」によると、ウクライナには、濃縮度90%の兵器級ウラン約68キロを含む少なくとも約87キロの高濃縮ウランが保管されている。

また、カナダのハーパー首相は同日、国内の医療用原子炉から出る使用済み高濃縮ウラン燃料を、今後は米国に移送すると表明した。さらに、AP通信は、チリが高濃縮ウラン18キロの放棄に合意し、3月までに米国が全量を極秘裏に回収したと報じた。【4月13日 読売】
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もっとも、こうした大国主導の流れに反発する国も。
****ベラルーシ:高濃縮ウラン放棄せず 核サミット参加拒否*****
インタファクス通信によると、ベラルーシのルカシェンコ大統領は14日、訪問先の同国ゴメリ州で記者団に、国内に保管する数百キロの研究用高濃縮ウランを外国に売却する考えはないと表明。それが理由で「(米ワシントンで12~13日に開かれた)核安全保障サミットに招待しないと言われたので、自分も行くつもりはないと答えた」と述べ、事実上参加を拒否したことを明らかにした。
大統領は、保有する高濃縮ウランは「事実上兵器に使用できるものと、やや濃縮度の低いもの」があるが、いずれも国際原子力機関(IAEA)の監視下にあると説明。「米国かロシアに売却するよう言われたが、なぜ命令されなくてはならないのか。これはわが国の物だ。(低レベル放射性物質をまき散らす)『汚い爆弾』を作るつもりはないし、誰かに売り渡すつもりもない」と述べ、あくまで研究目的のための保有だと強調した。
さらに「わが国が核兵器を持っていれば(米露は)違う対応をしただろう」「わが国は(経済をバナナ輸出に依存するような小国を指す)バナナ共和国ではない」などと米露への不信感をぶつけた。

旧ソ連のカザフスタン、ウクライナ、ベラルーシはソ連崩壊後、保有していた核兵器をすべてロシアに移送し、非核保有国として核拡散防止条約(NPT)に加盟した。残された研究用などの高濃縮ウランについても、核拡散の危険性を懸念する米露の要請で、カザフスタンはすでに米国などへの移送を始め、ウクライナも今回の核安保サミットで放棄を表明した。
94年からベラルーシの大統領を務めるルカシェンコ氏は「欧州最後の独裁者」「奇人」などと評され、最近は同盟国ロシアとの関係もぎくしゃくしている。【4月15日 毎日】
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【イランや北朝鮮への間接的な圧力】
なお、オバマ米大統領には、核開発で独自路線をとるイランや北朝鮮への間接的な圧力にも利用する狙いがあったとも言われています。
“オバマ大統領はサミット期間中、イランへの制裁決議採択の鍵を握る国々の首脳との会談も積極的にこなし、協力を迫った。このうち、中国の胡錦濤国家主席とは12日、約90分の会談時間の大半をイラン問題に費やした。13日には、非常任理事国で制裁に消極的なトルコのエルドアン首相とも会談した。”
“北朝鮮は12年に「強盛大国の大門を開く」と、軍事や経済大国化の完成を表明しているが、同じ年に(隣国の韓国で)サミットを開催することで、北朝鮮の核問題に国際社会の注目を集める狙いがあるとみられる。”【4月14日 毎日】

【主導権をめぐる綱引き】
今回サミットは、アメリカ主導の国際的核管理体制構築の動きが目立ちましたが、もうひとつの核大国ロシアも動いています。

****核燃料バンク、米露の主導権争い本格化か*****
13日に閉幕した核安全サミットでは、核物質の管理強化に向けた米国主導の流れができたが、ロシアも核物質管理の世界的な体制作りで影響力を持ちたい考えで、今後、主導権をめぐる綱引きが本格化しそうだ。
ロシアは、3月末、国際原子力機関(IAEA)との間で核燃料バンク設立の合意書に署名した。
シベリア・アンガルスクの濃縮・貯蔵施設に、低濃縮ウラン120トンを備蓄する計画だ。露専門家は「核燃料バンクを通じて、ロシアは核不拡散分野で指導的役割を果たす狙いだ」と解説する。

核燃料バンクは、原発の燃料用の低濃縮ウランを備蓄し、原発を持つ国の要請に応じて市場価格で供給する仕組み。濃縮ウラン燃料の供給を保証して、各国が個別に濃縮施設を持たなくても済むようにするのが狙いだ。
濃縮ウランの生産施設を増やさないことで、核物質流出の機会そのものを減らせる。ロシアは、核燃料バンクが核物質管理の手段としても重要だと訴えている。
米国も、核燃料バンクの独自案をIAEAに提案している。廃棄した核兵器から出た高濃縮ウランを薄めて供給する計画だ。
核燃料バンク構想は、核燃料事業に新たな国が参入することを制限し、既存の核燃料生産国による濃縮ビジネスの独占につながる側面もある。【4月14日 読売】
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ただ、ロシアの場合、その安全管理に不安もあります。
「国際ウラン濃縮センター」のあるシベリア・アンガルスクにはすでに10万トン以上もの放射性廃棄物が貯蔵されていますが、コンテナに貯蔵された放射性廃棄物は屋外に置され、コンテナは部分的に腐食していると伝えられています。【原子力資料情報室 http://cnic.jp/modules/news/article.php?storyid=779

これまでもチェルノブイリ原発事故のほか、1957年9月29日、ロシア・南ウラル地方にあるマヤーク核施設で、施設内のタンクに貯められていた高レベル放射性廃液が爆発し、大量の放射能が環境中に放出された「ウラルの核惨事」と呼ばれている大規模事故も発生しています。汚染地域23村落1万700人が移住させられ、高濃度汚染地域の多くは、50年を経た今でも立ち入りが制限されているとも。
爆発事故だけではなく、マヤーク再処理工場は50年代半ばまで、高レベル廃液を含む全ての放射性廃液を近接する川や湖、人造湖に垂れ流しており、その汚染被害も広範囲に及んでいます。
過去の事故とは言え、安全管理に関する基本姿勢に疑念が残ります。

昨年5月、来日したプーチン首相と麻生前首相は原子力協定に署名しました。
これにより、日本の核物質をロシアに送ることも可能になっています。

核管理体制については、核兵器を保有するイスラエル、パキスタン、インドが不問に付されている“二重基準”の問題や、中国など米ロ以外の核保有国の核兵器削減義務が履行されていないことなど、問題も山積しています。

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ドイツ  増加するアフガニスタンでの犠牲者  装備強化に向かうのか、厭戦気分の高まりか?

2010-04-16 22:50:50 | 国際情勢

(4月2日の戦闘で死亡した3名のドイツ軍兵士の棺を運ぶヘリを見送るドイツ連邦軍兵士
“flickr”より By ralfmax1
http://www.flickr.com/photos/31127421@N05/4489364583/)

【犠牲増大に装備強化の動き】
アフガニスタンに派遣されているドイツ軍で、“また”死傷者が出たことが報じられています。
****アフガン治安支援活動、ドイツ兵士4人死亡*****
ドイツのDPA通信によると、アフガニスタン北部で15日、国際治安支援部隊(ISAF)として活動している独連邦軍部隊が旧支配勢力タリバンの攻撃を受け、兵士4人が死亡、5人が負傷した。
独軍基地があるクンドゥズから南に約100キロのバグラン州内でパトロール中だった。【4月16日 読売】
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“また”というのは、今月2日にも犠牲者が出て、アフガニスタン駐留のあり方の見直しが論議されたばかりだからです。
****ドイツ:アフガン駐留軍の装備強化か…3兵士死亡などで*****
アフガニスタン北部に駐留するドイツ軍が今月2日、旧支配勢力タリバンとの戦闘で兵士3人を犠牲にし、さらに混乱下で独軍がアフガン軍の車両を誤射してアフガン兵6人を死亡させた。これらをめぐり、ドイツ政界は大きく動揺。メルケル首相や閣僚は、事態の悪化した現地状況を初めて「戦争」と呼び、装備の強化などアフガン駐留のあり方を見直す構えだ。
交戦で独軍兵が一度に3人死亡したのは、独軍が戦後創設されて以来最大の犠牲という。また、アフガン兵に対する誤射は、昨年9月、独軍が米軍に依頼した空爆で市民を含む140人以上が死亡したのに続く失態。報道によると、北大西洋条約機構(NATO)軍が誤射の詳細を調査中だが、夕暮れの砂嵐の中、ドイツ軍の到来を歓迎して近づいてきたアフガン軍の車両を独軍の歩兵戦闘車が砲撃したことが判明している。
ドイツのシュミット国防政務次官は7日、カブールを訪れ、ワルダク国防相に誤射を謝罪した。

一方、メルケル首相は就任以来、参列したことがなかった独兵士の葬儀に初めて出席。さらに、首都郊外ポツダムの軍海外派遣司令部を訪れ、装備や兵士の訓練態勢を見直すよう軍幹部らに指示した。
だが、見直しの具体的な中身は未定だ。独軍はこれまで現地の治安維持を軍派遣の目的に掲げてきたため、攻撃ヘリや戦車を装備していないが、攻撃力の強い戦車などを投入する可能性が指摘され、早くも政界や軍内部から異論が出ている。タリバンは民家を攻撃拠点とすることが多く、戦車を使えば市民が今以上に巻き添えになる恐れがあるためだ。【4月13日 毎日】
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【増派決定】
“治安支援”といったレトリックではなく、「戦争」と公言して、装備強化の方向で見直し・・・ということのようですが、15日の犠牲者でこの動きが加速するのでしょうか?
ただ、世論調査によれば、国民の6割から7割はアフガニスタン派兵に反対しているとも言われ、犠牲者の増大はこうした世論の厭戦気分を強めることも考えられます。

増派・装備強化に走る政府・軍と厭戦気分の世論の間には隔たりも生じているように見えます。
政府側は2月、増派を決定しています。
****アフガン派遣、要員上限を850人引き上げ ドイツ議会*****
ドイツ連邦議会は26日、アフガニスタンへ派遣中の連邦軍の上限数を4500人から5350人に引き上げることを賛成多数で承認した。
採決では、429人が賛成し、111人が反対、46人が棄権した。討議中、左派党議員が昨年の9月にアフガン北部クンドゥズであった独連邦軍が要請した空爆で犠牲になった民間人の名前が書かれた紙を掲げて抗議し、議場から一時的に退場させられる一幕もあった。独公共放送の世論調査では約7割がアフガン派遣に反対している。
増員された850人は、500人がアフガンの治安維持や現地の軍・警察の訓練要員、350人は年内に予定される下院議会選などの状況に応じ、柔軟に対応するための追加要員。独政府は1月末にロンドンであったアフガン会議に合わせて850人の増員計画を閣議決定していた。【2月27日 朝日】
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ドイツはすでに4300人を派兵していますが、これは米英に次ぐ規模です。
ただ、派兵に消極的な国内世論にも配慮して、2011年から段階的にドイツ軍部隊を撤退させ、2014年には治安権限をアフガン側に移譲するという「出口戦略」も明らかにしています。
ドイツの増派は、アメリカ・オバマ政権からの要請にこたえたものですが、メルケル政権内においては、連立政権に参加した自由民主党党首のウェスターウェレ外相が増派に極めて慎重な姿勢を示すなど閣内の不一致も露見しているようです。【1月26日 毎日より】

【「武器はアフガンに平和をもたらさない」】
一方、世論の動向を伝えるものとしては、教会トップの派兵批判も報じられています。
****ドイツ:教会トップがアフガン派兵を批判 年頭の説教で*****
ドイツのキリスト教プロテスタントを率いる指導者がドイツ軍のアフガニスタンでの活動を公然と批判する年頭の説教をし、政界に波紋を広げている。独政府は年初にアフガン支援を大幅に見直す予定だが、独教会トップの発言は、見直しの焦点となる増派の議論にも微妙な影響を与えそうだ。

ドイツ人口の3割を組織する独福音教会(EKD)のトップ、マルゴット・ケースマン監督(51)が東部ドレスデンと首都ベルリンの大聖堂で1日に行った説教で発言した。アフガン北部で09年9月にあった独軍の依頼による米軍空爆で多数の民間人が死亡した事件に触れ、「武器はアフガンに平和をもたらさない。我々は平和を夢見、全く違う手段で紛争を解決しなければならない」と批判した。

これに対し、政界の与野党から「発言は地位乱用だ」などと反発が出る半面、増派に慎重姿勢を取ってきたウェスターウェレ外相は「私の政治アプローチと同じだ」と称賛。一方、軍人組織の連邦軍協会、キルシュ代表は「(発言は)兵士たちに新たな心理的負担を強いただけ」と不満をあらわにしている。

ドイツのプロテスタント教会はナチス時代、多くが政権に抵抗しなかった反省があり、聖職者が年頭説教で国内外の政治問題に触れることはむしろ一般化している。EKDはキリスト教人口の半分に迫るプロテスタントの9割以上を擁し、昨年10月、EKD評議会議長に初の女性として、最年少で選出されたケースマン監督の発言はメディアから注視されていた。
ケースマン監督は説教に先立つクリスマスの独紙との会見でも「この戦争は正当化できない」などと「速やかな撤退」を求めていた。【1月5日 毎日】
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【日本同様、湾岸戦争での批判が転機】
もともとドイツは、侵略戦争・敗戦という日本と共通する歴史があるため、日本同様、海外派兵には慎重な対応をとってきました。
そして、これまた日本同様に、1991年の湾岸戦争で多国籍軍に資金面のみで参加し人的参加しなかったことから国際的批判を浴び、そのことが、海外派兵を積極化させる転機となっています。
92年には日本とともに、カンボジアでの国際連合カンボジア暫定統治機構にPKO活動として衛生部隊を派遣、その後、1999年3月のコソボ紛争では、NATO軍の一部として、ドイツ連邦軍はユーゴスラヴィア空爆に参加しています。

ドイツでは、連邦軍の任務を規定した基本法はその活動を「防衛」に限定していますが、1994年7月12日の連邦憲法裁判所判決により、基本法の「防衛」とはドイツの国境を守るだけでなく、危機への対応や紛争防止など、世界中のどこであれ広い意味でのドイツの安全を守るために必要な行動を指すと定義が拡大され、ドイツ連邦議会の事前承認によりNATO域外への派兵が認められています。【ウィキペディアより】

海外派兵にも「普通の国」として取り組むようになったドイツですが、09年9月4日に起きたドイツ軍の要請を受けてISAFが行った空爆で地元住民に多数の死者が出た問題は、ドイツ国内において海外派兵に関する大きな論議を呼びました。

****ドイツ:アフガン空爆で情報隠し 政界ゆるがす問題に****
アフガニスタン北部で多数の民間人が死亡した9月4日の米軍空爆をめぐり、空爆を依頼したドイツ軍が「民間人はいなかった」などと事実とは違う説明をしていたことが、独政界をゆるがす問題に発展している。連邦議会国防委員会は調査委員会を作り、首相や国防相など多数の参考人を呼ぶ徹底した調査を行おうとしている。

空爆現場に民間人がいた事実をメルケル首相やグッテンベルク国防相がいつ知ったかが最大の焦点だ。メルケル首相は9月末に行われた総選挙への影響を恐れて、選挙前に軍の失態を明らかにしなかったのではないかという疑念を持たれている。また、選挙後に国防相となったグッテンベルク氏は11月6日の記者会見で「空爆は軍事的に適切だった」と述べていたが、この時点で既に、真相を記した調査報告書に目を通していた疑いが省内部で指摘されている。政府首脳への報告が本当に遅かった場合、軍に対する文民統制のあり方が問われることにもなる。

空爆要請には、タリバン幹部らの殺害を狙う独陸軍の特殊部隊がかかわっていた。秘密のベールの下で戦闘行為を繰り広げていた特殊部隊の実態は、アフガン派兵への反対論も多い世論をさらに硬化させる可能性がある。この問題で国防省の事務次官と軍トップの統合幕僚長は11月26日に引責辞任。さらに、空爆時に国防相だったユング前労働相も「事実を知らされていなかった」と釈明して、翌27日に労働相を辞任した。【09年12月19日 毎日】
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アフガニスタンでの犠牲者増加に伴う議論がどういう方向に向かうのか・・・海外派兵に門戸を開き始めた日本もやがて直面するであろう問題でもありますので、その行方が注目されます。

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ソマリア  増加する海賊、出口の見えない内戦、国際支援も困難

2010-04-15 22:29:30 | 国際情勢

(2月18日 ソマリアの首都モガディシオ 道路わきの爆弾で死亡した死亡した男性の遺体 AFP PHOTO/MUSTAFA ABDI
“flickr”より By Giacomo Polinari  http://www.flickr.com/photos/46788688@N02/4389079141/

【音楽に代えて馬のひづめや波の音を放送】
事実上の無政府状態が続くソマリアからの奇妙なニュース。
****ソマリアのラジオ局、音楽を禁止され動物の鳴き声を放送*****
アフリカ東部ソマリアの首都モガディシオで13日、ラジオから流れていた音楽が止まり、代わりに動物の鳴き声や足音が放送された。市内の大半を実効支配するイスラム武装勢力の1つが、ラジオ局による音楽放送を禁止したためだ。
同国のジャーナリスト団体によると、武装勢力ヒズブル・イスラムは、音楽が「イスラム教に反する」として、放送禁止を通告。一部のラジオ局に対し、10日間以内に従わなければ処罰すると警告した。
これを受けて、市内14社の民間ラジオ局はすべて音楽の放送を停止した。このうち3社は音楽に代えて馬のひづめや波の音を放送し、抗議の意を示した。
あるラジオディレクターは、禁止令に不満はあるとしたうえで、「われわれの命にかかわる恐れがあるので従うしかない」と話した。ソマリア人ジャーナリストの1人は、「独立系メディアを沈黙させようとする武装勢力側の作戦が始まったのではないか」「次は女性ジャーナリストらが標的となるかもしれない」と懸念を示した。両者とも安全上の理由から、匿名を条件に語った。
同国では1991年から事実上の無政府状態が続き、ヒズブル・イスラムは国際テロ組織アルカイダ系の反政府武装勢力アルシャバブとともに、モガディシオを含む南部一帯を実効支配している。【4月14日 CNN】
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アフガニスタンのタリバン同様の教条主義的頑迷さが感じられます。
人々は、娯楽も、女性の権利も認められない息苦しさのなかでの生活を強いられます。

【ケニア 「我々には国際的責任の重荷を背負いきれない」】
最近、各国が海軍などを派遣して一時注目を集めたソマリア近海での海賊はあまり話題になりませんが、単にニュース的新鮮さがなくなったためとりあげられなくなっただけで、別に改善した訳ではないようです。
****ソマリア沖海賊襲撃、09年は198隻 2年前の10倍****
米国務省は18日、海賊が横行するアフリカ東部ソマリア沖・アデン湾で、2009年に貨物船など198隻が襲撃されたと発表した。
海賊対策にあたる国は米国や日本を含む47カ国に増えたが、海賊が活動範囲を広げ、2年前に比べて襲撃件数は10倍に急増した。これについて同省のカントリーマン次官補代理(政治・軍事問題担当)は、海賊行為を防いだ割合も高くなっていると国際社会の取り組みの成果を強調した。
09年に襲撃された198隻のうち、乗っ取りなどが「成功」した事例は50隻。現在も7隻が海賊に乗っ取られ、中国、台湾、ドイツ、ロシアなどの船員計160人が人質になっている。一方、海賊ら襲撃行為に加わった706人が拘束され、300人がケニアなどで訴追されたという。
襲撃件数は07年が19隻(うち「成功」例12隻)、08年は122隻(同42隻)だった。
カントリーマン氏は広範囲を警戒するための偵察機などを導入できないか検討していることを明らかにした。
大型の貨物船が年間3万3千隻航行するこの海域は、広さが516万平方キロに及ぶ。小型漁船も無数にあり、海賊船を見分けるのが極めて困難な状況だという。【2月20日 朝日】
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ソマリアが内戦で事実上の無政府状態のため、海賊を拘束しても、どこで訴追するかが問題となりますが、現在は隣国ケニアがこの役割を引き受けています。しかし、そのケニアも限界状態となっており、今後の海賊対策への支障が懸念されています。

****海賊収容もう限界!訴追引き受けケニア「連れてくるな」*****
ソマリア海賊対策として、海上を警備している欧州連合(EU)諸国や米国が逮捕した海賊の訴追を引き受けてきたケニアが、裁判所や刑務所の負担が大きすぎるとして、これ以上の海賊受け入れを拒む方針を決めた。ケニアは周辺地域で最大の海賊訴追引き受け国。今後の海賊対策に支障が出るおそれがある。
ウェタングラ外相は1日、「我々は最近、幾つかの国が訴追を求めてきた海賊を拒否している。別の場所を探してくれと伝えている。我々には国際的責任の重荷を背負いきれない」と語った。
ケニアはEU、米国、カナダ、デンマーク、中国、英国の艦船が捕まえた海賊を裁判にかけ、有罪になった海賊をケニア内の刑務所で刑に服させることで合意している。その見返りとしてケニア政府は、司法・矯正施設の改善支援のために国連機関から計100万ドルの支援を得てきた。これまでに訴追した海賊は100人以上に上るという。
だが、普段から手続きの遅れが問題になっている裁判制度や、過密状態が批判されている刑務所を抱えるなか、支援だけでは乗り切れない状態に陥っている。AFP通信によると、すでにデンマーク、英国との合意は撤回され、近くEUにも撤回が通知される見通しだという。これらの国は、別の引き受け国を探さなければならない。
逮捕された海賊に関しては、アフリカ東部の島国セーシェルも受け入れているが、小国のため対応できる人数には限界がある。【4月5日 朝日】
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【止まない内戦】
海賊が横行するのは、ソマリア国内が内戦状態にあるためで、そこをなんとかしない限り、海賊問題も改善しないのは皆が指摘しているところですが、そのソマリア国内の状態は相変わらずです。
****ソマリア:首都モガディシオで戦闘 市民20人が死亡*****
ソマリアの首都モガディシオで2日、暫定政府軍とイスラム武装勢力アルシャバブとの間で激しい戦闘があり、病院関係者によると、市民少なくとも20人が死亡した。AP通信が伝えた。
軍当局者によると、アルシャバブがモガディシオ南部で攻撃を仕掛けてきたという。ソマリアに展開するアフリカ連合(AU)平和維持活動(PKO)部隊が、軍を後方支援した。
軍は、勢力を拡大するアルシャバブに対して大規模掃討作戦を行うタイミングをうかがっているとされ、緊張が高まっている。【4月3日 毎日】
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暫定政府と言っても、首都モガディシオの、そのまた一部を支配しているだけと言われています。
反政府武装勢力の主要組織は、上記毎日記事にあるイスラム原理主義勢力の「アルシャバブ」と、冒頭朝日記事にあるイスラム勢力の「ヒズブル・イスラム」です。
アルカイダとの連携を深める「アルシャバブ」のほうが、“思想信条で妥協を許さない”【ウィキペディア】ということのようですが、冒頭記事を見ると、どっちもどっちのようにも思えます。

ただ、「アルシャバブ」や「ヒズブル・イスラム」にしても、あるいは暫定政府軍にしても、厳格な区分けがされている訳でもなく、こっちからあっちへ寝返ったり、内輪で戦ったり、反政府組織同士で戦ったり・・・と、自分たち以外は皆敵といった混乱状態のようです。

【滞る国際援助活動】
内戦の混乱で、国際援助活動も一時停止に追い込まれています。
****飢餓拡大の恐れ=食料援助停止、100万人に影響-ソマリア南部*****
暫定政府側とイスラム系反政府武装勢力アル・シャバブの戦闘が続くソマリアで援助活動を行ってきた世界食糧計画(WFP)が先週、治安悪化が著しい同国南部での活動を一時停止する方針を発表した。武装勢力からの攻撃が激化し、職員の安全確保が不可能となったため。食料援助を必要とする約100万人に影響が出る見通しで、紛争で困難な生活を余儀なくされている住民の飢餓が一層拡大する恐れがある。
ナイロビ駐在のWFPスポークスマンは5日、「(活動停止の)決断をなるべく遅らせてきたが、現状ではリスクが高過ぎる」として、ソマリア南部にある6カ所の地方事務所を閉鎖すると発表した。【1月11日 時事】 
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住民の命綱でもある国際援助の多くが不正流用されているとの話もあります。
****ソマリア食糧援助、半分が不正流用と国連報告書*****
国連ソマリア監視団はこのほど、ソマリアに届けられた援助食糧の半分が日常的に他の目的に流用されているとして、世界食糧計画(WFP)の管理手法を問う報告書を作成した。
報告書は、国連安全保障理事会制裁委員会に提出される。AFPが入手した報告書は、本来は入札で決定されるべきWFPの援助食糧の輸送業者について、事実上のカルテルが存在し、過去12年以上にわたって3個人とその親族・友人が援助物資輸送ビジネスにおける収入の80%を独占していると非難している。
報告によると、WFPとの輸送契約はソマリアにおける最大の収入源となっており、この3人の請負業者の収益は2009年1年で2億ドル(約180億円)に上った。3人は今や国内で1、2を争う富豪になり、強大な影響力を行使しているほか、武器の販売への関与や武装勢力との結び付きも指摘されているという。
報告書は、ソマリアに対する人道支援はその大部分が食糧援助で構成され、その大半はWFPの管理下にあるとしている。
WFPはこれらの指摘について、「根拠のないうわさ」だと否定している。【3月11日 AFP】
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こうした地域では、国際支援物資を運ぶトラックを襲おうとする者が群がるため、前方を遮る人間がいても決してブレーキをかけてはならない、引き殺しても止まってはいけない・・・そんな話をどこかで読んだような記憶もあります。平和時の常識とはかけ離れた世界です。
半分が不正流用されても、残り半分が住民の手に渡るなら、それでよしとすべきものかもしれません。
問題は、半分が住民の手にわたるのかどうか・・・というところでしょう。
国連のPKO活動は失敗して1995年に撤退、現在ソマリアに展開するアフリカ連合(AU)平和維持活動(PKO)部隊は暫定政府を支えるのが精一杯の状況です。

なお、“外務省アフリカ第2課によると、日本は06~09年度に、人道支援や海賊対策などの名目で総額約1億2040万ドルを支援すると決めている。うち、2月現在での実績は8520万ドル。国内にある暫定政府や自治政府(ソマリランド)はいずれも国家として承認していないため、2国間援助ではなく、国連機関を通じて行っている。”【3月18日 毎日】とのことです。

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胡錦濤国家主席、オバマ米大統領と会談 米中協調路線を演出

2010-04-14 22:27:12 | 国際情勢

(核保安サミットでのオバマ大統領と胡錦濤国家主席 “flickr”より By smilekorean
http://www.flickr.com/photos/48281657@N02/4520403702/)

【胡錦濤主席 イラン・為替で柔軟姿勢】
2月から3月にかけては、台湾への武器売却問題、ダライ・ラマ14世とオバマ大統領の会談、グーグル撤退に絡むインターネットの自由の問題などで米中間の軋轢が強まるなか、人民元の切り上げを求めるアメリカ側が為替操作国認定を取り上げれば、中国側は米国債売却をほのめかすというという緊張状態にありましたが、胡錦濤国家主席の核保安サミット出席に向けての動き、および訪米中のオバマ大統領との会談で、再び米中の協調路線をアピールする形に変化しています。

****米中、イラン制裁視野に協力へ 中国は人民元改革に意欲*****
オバマ米大統領は12日、核保安サミット出席のため訪米した中国の胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席と会談した。両首脳はイランの核開発疑惑をめぐり、国連安全保障理事会の追加制裁決議も視野に入れ、協力を進めることで一致した。オバマ大統領は対ドル相場での人民元の切り上げを求め、胡主席は具体的な言及は避けつつも、人民元改革を実施する意欲を表明した。

両首脳の会談は昨年11月のオバマ大統領の訪中以来。今年1月以降、米国の台湾への武器売却問題やチベット問題などで揺れた米中関係だが、会談は両国が再び協調路線に進むことを示した形だ。
ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のベーダー・アジア上級部長が会談後の電話会見で明らかにしたところでは、両首脳は「イランは国際的な核不拡散の義務を果たさなければならない」との認識で一致。安保理常任理事国にドイツを加えた6カ国による対イラン追加制裁の協議で、両首脳が「制裁決議について作業を進めるように双方が(自国の)代表団に指示することで合意した」という。
中国は追加制裁に消極的な姿勢を示してきたが、ベーダー氏は中国側が「米国とともに取り組む用意があるとはっきり示した」と述べた。中国外務省の馬朝旭報道局長によると、胡主席も「(イラン核問題の)対話と協議を通じた問題解決を前向きに求める」と強調。そのうえで「中国と米国の総体的な目標は一致したものだ。中国は、米国とほかの国々や国連との意思疎通と協調を保ちたい」と語ったという。

人民元問題については、オバマ大統領が「中国が、より市場指向の為替相場に移行することが、持続可能でバランスのとれた世界経済の回復に重要だ」として切り上げを求めた。中国外務省によると、胡主席は「外部の圧力で人民元改革を行うことはありえない」とする一方、内容には触れなかったが、「中国が進める人民元為替制度改革の方向性を堅持する」とした。
胡主席は台湾問題やチベット問題について「中国の核心的な利益にかかわる問題で、中米関係の妨げにならないよう慎重に対応してほしい」と要請。オバマ大統領は「米国は『一つの中国』政策を堅持し、中国の主権と領土保全を尊重する」と表明した。【4月13日 朝日】
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【メンツを失わないで対米協調態勢を再び組みたい】
こうした流れについては、イラン追加制裁問題で中国の賛同を得たいアメリカ、アメリカとの全面対決を避けたい中国の思惑・利害が一致した結果と見られています。

****米中首脳会談 中国譲歩、対米協調へ転換 全面対決避け「実利」*****
12日の米中首脳会談はこのところ対立をあらわにしていた両国の歩み寄りを強く印象づけた。この米中再協調の背景には両国のそれぞれの実利を踏まえての柔軟な動きがあるが、中国側の譲歩がより大きいといえるようだ。
・・・・中国との全面的な対立は、イランや北朝鮮の核問題など目前の課題の解決を難しくするという判断から、オバマ政権は3月はじめスタインバーグ国務副長官らを中国に送り、同政権が「一つの中国」や「台湾、チベットの独立への反対」という基本政策を不変とする立場を再言明するなど、オリーブの枝を差し出した。
中国はこれに応じる形で、イランへの追加制裁の許容や胡主席の核安保サミット参加という方針を米側に伝えるようになった。オバマ政権はさらにそうした譲歩を助長するように、4月15日に予定していた「為替操作国の発表」を延期することを決めた。

こうした微妙なやりとりについて、戦略国際研究センター(CSIS)の中国研究学者、ボニー・グレーザー氏は「米国政府側は中国がメンツを失わないで対米協調態勢を再び組みたいと望んでいることを察知して、巧みに動き、中国側もそれに応じ、より大きな譲歩をする結果となった」と論評した。
米中関係の動向に詳しいワシントン・ポストのジョン・ポンフレット記者も、最近の両国間の再接近を追った長文の記事で「中国がより多くの譲歩をした」と報じた。だがこの米中再協調の構図も両国の当面の利害関係の産物であり、米側では中国の一党独裁や大軍拡への反発は水面下でゆるがせにしていない。そんな米国に対し中国がより多くの譲歩をしたという今回の展開は、中国側がまだまだ米国との全面的対決を避けたいとする基本姿勢をまた露呈させたのだといえよう。【4月14日 産経】
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今回、胡主席はイラン追加制裁問題に関して、「中国と米国の総体的な目標は一致したものだ。中国は、米国とほかの国々や国連との意思疎通と協調を保ちたい」と語り、イラン問題への協力を表明しています。
もっとも、ストレートに制裁に賛同・・・という訳ではありません。
“ただ中国は制裁発動には慎重な姿勢を崩していないとみられ、今回の会談でも直ちに制裁に賛同する言質は与えなかった模様だ。中国は既に、安保理常任理事国5カ国とドイツによる制裁協議に応じている。”【4月13日 毎日】
仮に賛同するにしても、相当に骨抜きした形式的な制裁案になるのではないでしょうか。

【中国の経済運営状況を総合的に考えると・・・】
アメリカの中国に対する為替操作国認定延期は、このイラン追加制裁協力との“取引”だったとの見方もあります。
****中国に対する為替操作国認定延期=イラン制裁との取引だった?米高官は否定―米メディア******
2010年4月5日、米ラジオ局ボイス・オブ・アメリカによると、ローレンス・サマーズ米国家経済会議(NEC)委員長は中国に対する為替操作国認定の延期はイラン制裁問題との外交取引ではないと否定した。環球時報が伝えた。
先日、米財務省は中国に対する為替操作国認定の延期を発表した。当初は胡錦濤(フー・ジンタオ)国家主席が参加する核サミット終了後の15日に発表される予定だった。延期の引き替えに、米政府が求めるイラン制裁決議案への協力を取り付けたのではないかと一部では噂されている。
サマーズ委員長はABCの取材に答え、噂を否定した。報告に必要な情報を集めるにはさらに多くの時間が必要なためだと説明している。また国際社会における米国の経済的利益は守られているとも強調した。【4月6日 Record China】
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“取引した”とは誰も公言しないでしょうが、同時並行する問題について総合的勘案がなされたことは想像に難くないところです。

人民元切り上げ問題については、オバマ米大統領は13日、核安全保障サミット後の記者会見で、「中国人民元が過小評価されている」とした上で、より市場実勢に基づく為替制度が中国経済の移行を後押しするとの見解を示し、「予定表はないものの、中国が(人民元改革で)いずれ決定を下すことを望む」と、改めて切り上げに向けた改革を促しています。
胡錦濤国家主席はオバマ米大統領との会談で「具体的な(為替)改革の措置は、世界経済情勢の変化と中国の経済運営状況を総合的に考える必要がある」と述べています。

米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は8日、中国人民元の対ドル相場の小幅な上昇と日々の相場の柔軟化を容認する方針について、「中国政府が数日中の発表を準備している」と報じていました。
“中国の経済運営状況を総合的に考える”と、インフレ対策のため、中国としても切り上げを容認する余地があります。

****中国の不動産価格、過去最高の上昇 人民元問題に影響も*****
中国国家統計局が14日発表した3月の70都市の不動産価格指数は、平均が前年同月より11.7%上昇した。2008年1月の11.3%を上回り、05年7月に月ごとの統計を取り始めて以降、最も高い上昇率になった。不動産価格急騰が中国当局に人民元引き上げを促す材料になる可能性もある。(中略)

不動産価格の上昇は、中国内でだぶつく資金が不動産市場に流れこんでいるのが要因だ。米ドルに対する人民元の相場上昇を抑えようと中国当局が「元売りドル買い介入」をしているため、中国内に人民元資金がたまるという為替介入の「副作用」と言える。
中国の胡錦濤国家主席は12日のオバマ米大統領との会談で「具体的な(為替)改革の措置は、世界経済情勢の変化と中国の経済運営状況を総合的に考える必要がある」と述べており、不動産価格の動向なども見極めるとみられる。【4月14日 朝日】
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人民元切り上げで輸出産業が打撃を受けると、国全体の経済成長にブレーキがかかり、国内社会問題に火がつく危険もあります。一時的な現象ではありますが、中国の3月の貿易収支が6年ぶりに赤字となる可能性が高いことも報じられています。
ただ、国内社会問題云々はインフレになっても話は同じです。
経済格差の拡大を背景にした国内社会問題をにらみながら、また、外国の圧力に屈したという形にならないように“メンツ”を保ちながら、慎重に検討中というところでしょう。

いずれにしても、緊張していると言っては注目をあつめ、協調に転じたと言ってはまた注目を集める米中関係です。
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タイ  強まる早期の前倒し総選挙に向けた流れ

2010-04-13 22:44:28 | 国際情勢

(4月10日バンコク 赤のデモ隊と黒の治安部隊、まるで黒澤明の映画の世界ようでもありますが、21名の犠牲者がでました。“flickr”より By gend07000
http://www.flickr.com/photos/36387844@N03/4507238989/)

【“選管は急きょタクシン派にすり寄り・・・・”】
タイの首都バンコクの繁華街を占拠するタクシン元首相支持派「反独裁民主統一戦線(UDD)」のデモ隊と治安部隊との10日夜の衝突による死者は、日本人カメラマンの村本博之さん(43)ら民間人17人を含む21人、負傷者は874人となっています。
UDDデモ隊側は、11日夜、バンコク西部の占拠場所周辺で、犠牲者の棺おけを担ぎ、泣きながら衝突があった場所などを練り歩く、追悼パレードを行っています。
その後もUDDデモ隊は座り込みを続け、大型ショッピングセンター近くの拠点を占拠していますが、治安部隊は撤収し、13日からはタイ正月に入ったこともあって、街頭は小康状態となっています。

街頭は小康状態ですが、強制排除に失敗して多くの犠牲者を出したアピシット首相を取り巻く政治状況は厳しさを増し、早期の前倒し総選挙に向けた流れが強まりつつあるように見えます。

****タイ:選管が与党の解党要求 違法献金認定****
タイ選挙管理委員会は12日、アピシット首相が率いる与党・民主党に違法献金が行われたと認定し、検察当局に対し同党の解党を求める告発を行うことを決めた。タクシン元首相派UDDに対する軍の強制排除が失敗に終わり、アピシット政権が苦境に陥ったのを受け、選管は急きょタクシン派にすり寄り、反タクシンの民主党に厳しい決定を下したとの見方が出ている。
民主党の不正献金疑惑は05年の総選挙時、民間企業から約2億6000万バーツ(約7億8000万円)の違法な選挙資金提供を受けたというもの。UDDが選管に調査を申し立てた。
UDDは今月、「調査が不当に引き延ばされている」として選管の建物に押しかけ、早期の処分決定を要求。選管側は「20日までに決める」と答えたとされるが、12日、その期限よりも1週間も早く、解党処分を求めて告発することを決めた。

タクシン派政権の最大野党「国民の力党」は08年12月、選挙違反で憲法裁判所から解党処分を受け、同派政権の崩壊につながった。民主党に対する解党処分は今後、検察当局の判断を経て憲法裁で審理されるため、処分の最終決定には長期間かかる見通し。
現時点で民主党の解党が決まったわけではないが、UDD幹部は12日、占拠中のバンコク繁華街の演壇で「我々の勝利だ」と気勢を上げた。
強制排除の失敗を受けてアピシット首相は12日、UDDに提案した「年内下院解散」のスケジュールを、「6カ月以内の解散、年内総選挙実施」に繰り上げる検討に入った。しかし勢いづくUDDはあくまで即時解散、総選挙実施を求めて繁華街占拠を継続する構えで、混乱収拾のめどは立っていない。【4月13日 毎日】
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“選管は急きょタクシン派にすり寄り・・・”というのも、アピシット首相には気の毒な感じもしますが、現実というのはそういうものなのかも。

【国軍「事態解決は政治の問題だ」】
アピシット首相を見限ったように見えるのは、タイ社会の中枢に位置する国軍も同様です。
タイのアヌポン陸軍司令官は12日、記者会見で「今必要なのは下院の解散だ。どれだけ時間がかかるかは交渉の結果による」と述べ、早期の選挙実施を提言しています。
“国軍幹部は「事態解決は政治の問題だ」と政府を突き放すように語った”【4月13日 時事】とも。
こうした状況では、再度の強制排除に踏み切るのは事実上不可能と見られています。

【6カ月以内の解散・総選挙】
これまで政府は、憲法改正などを前提に今年末の総選挙を提案していたそうですが、現在の四面楚歌の状況で、6カ月以内の解散・総選挙が検討されています。
****タイ政府、半年内に解散の妥協案 流血事態受け提示へ****
タイのアピシット首相は12日、議会の即時解散を迫りバンコクで反政府デモを続けるタクシン元首相派の幹部に対し、半年以内に議会を解散し年内に総選挙を実施する妥協案を提示する方向で与党関係者らと協議を始めた。10日の治安部隊による強制排除が多数の死傷者を出しながら失敗に終わり、混乱収束のめどが立たない中、首相は一気に苦境に追い込まれた。【4月12日 時事】
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UDDは首相の即時退陣と国外退去を求めており、この妥協案が事態の解決につながるかは不透明のようです。
与党解党の話まで出てきていますので、UDD側は強気に出ることも考えられます。
“強制排除は失敗に終わり、首相の決断は裏目に出ただけでなく、軍も首相を事実上見放した。国内では「下院の早期解散以外に解決策なし」との声が高まり、政権は「死に体」化しつつある。”【4月13日 毎日】

【困難な国王仲介】
タイ社会を動かす力を持っているのは、国軍と王室です。
国軍は、先述のように、敢えて火中の栗を拾う意思はないことを表明しています。
92年の騒乱を調停したプミポン国王は82歳と高齢で健康がすぐれないこともあって、今までのところ仲介の動きは見せていません。

王室が全くの中立的立場かというと、タクシン元首相を追放した軍事クーデター以前にタクシン政権下での選挙を非民主的だと批判し、その後、タクシン氏に法の裁きを受けさせるべく判事らに決意を促した経緯もあるとか。【4月13日 産経】
国王あるいは王室自体はともかく、王室側近の既成権力層は反タクシンとされ、プミポン国王の信任が厚くタイ社会に強い影響力を持つプレム枢密院議長はアピシット政権の最大の後ろ盾とも言われています。
また、タクシン元首相は、軍事クーデターの黒幕として、王室側近であるプレム枢密院議長ら批判するという、これまでにない決断をしています。
そのプレム枢密院議はアピシット首相に対し13日からの「タイ正月」までの事態打開を促したとされており、アピシット首相が今回強制排除に敢えて出た理由のひとつともされています。
いずれにしても、“タクシン氏が貧困層を中心に農村部の国民から強い支持を得ているという現実もある。政治を超越した存在であるべき国王が、仲介するのは容易ではない。”【4月13日 産経】と見られています。

【発砲したのはどちら側か?】
そうしたなかで、シリキット王妃ら衝突で犠牲となった軍人を弔問したことがタイ国内で大きく報じられているのは注目されます。
****王妃が犠牲軍人を弔問=タイ*****
13日付のタイ各紙はプミポン国王のシリキット王妃らが12日、タクシン元首相支持派「反独裁民主統一戦線(UDD)」との衝突で犠牲となった軍人を弔問する写真を1面で取り上げ、王室が状況を憂慮している様子を伝えた。
3月にタクシン派が反政府集会を開始して以降、王室が表舞台に出てきたのは初めてとみられる。黒い喪服姿の王妃は正装したワチラロンコン皇太子を伴い、ろうそくをともすなどして死者に弔意を示した。【4月13日 時事】 
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王室としての立ち位置は、若干反タクシンの側にあるのかな・・・と思わせるものがありますが、少なくとも軍を衝突の責任者としての“悪玉”にはしないというということでしょうか。

多くのメディアで取り上げているように、UDD側も治安部隊から奪った銃を所持していましたので、村本博之さんを含む民間人犠牲者がどちら側からの発砲によるものかは定かではありません。
“アピシット首相は12日、「(UDDの中に)テロリストがいることが明白になった」と非難。軍は現場の指揮官クラス以外には銃を所持させず、政府は「実弾は発砲していない」と主張する。だが、一部の外国人記者は「兵士が実弾を撃っているのを目撃した」と話し、混乱の中で軍も実弾を発砲した可能性は否定できない。
村本さんは、軍側ではなくUDD側に近い地点で撮影中、流れ弾に当たったとみられる。自動小銃など威力の大きい銃で比較的遠距離から撃たれたことが確認されたが、銃撃したのが軍なのかUDDなのかは不明。真相解明にはなお時間がかかりそうだ。”【4月13日】
今後、実弾発砲がデモ隊側からなされたということが明らかになれば、流れは大きく変わり、アピシット首相を取り巻く情勢も好転する可能性もあります。

【タイ民主主義再建に向けて】
近年のタイの政治混乱は、タイ民主主義の危機のあらわれです。
タクシン元首相は国民医療保険制度の実現とか農村基金の設立など農民・貧困層を対象にした施策も行いましたが、強権的・金権的政治手法・縁故主義への都市中流層の批判もありました。
その批判は民主主義への不信感にもつながり、タクシン政権が軍事クーデターで倒されると、都市中流層はこれを受け入れています。
その後タクシン派が選挙で勝利したものの、司法権力によるサマック元首相の強引な解任、タクシン派与党の解党、反タクシン派既成権力層と一体となった都市中流層による街頭行動という強引な手段でタクシン派ソムチャイ政権が崩壊、現在のアピシット政権は誕生しています。

今回の混乱が軍の介入や国王の仲介、あるいは与党民主党の解党といった形で収まるとしたら、それはタイ民主主義とってあまりいいことではないように思われます。時期はともかく、やはり総選挙で解決すべき問題でしょう。
もちろん、選挙でもしタクシン派が勝利すれば、タクシン元首相の帰国・処遇が問題になり、また、今度は反タクシン派が実力行使に出る・・・という展開も想像されます。しかし、いつまでもそんなことを繰り返していても仕方ありませんので、何らかの妥協をタクシン・反タクシンの両者で模索するしかないでしょう。
タイ民主主義が死なないために。

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アフガニスタン・カルザイ大統領とアメリカの相互不信・確執

2010-04-12 21:44:16 | 国際情勢

(3月28日、アフガニスタンを電撃訪問したオバマ大統領とカルザイ大統領の会食
http://www.flickr.com/photos/isafmedia/4471811267/
“アフガニスタンを28日夜に訪問したオバマ米大統領とカルザイ・アフガン大統領との会談は30分で、滞在時間は約6時間。両首脳の対応からは、カルザイ政権の汚職体質への米側の懸念や、旧支配勢力タリバンへの対応をめぐる思惑の違いがうかがえた。オバマ氏のアフガン初訪問は、両首脳のぎくしゃくした関係を改めて印象づけたとも言えそうだ。”【3月29日 毎日】)

【依然続く誤爆・民間人犠牲】
アフガニスタンでの誤爆・民間人犠牲は相変らず頻発しているようです。
****アフガニスタン:NATO軍がバス銃撃、4人死亡*****
アフガニスタン南部カンダハルで12日、北大西洋条約機構(NATO)軍が走行中の民間バスを銃撃した。バスは大破し、乗っていた4人が死亡、18人が負傷した。州政府は「乗客全員が民間人で、女性や子供も乗っていた」と激しく非難した。
州政府によると、バスはNATO軍の車両とすれ違う際、突然銃撃を受けた。NATO軍広報官は「調査中」としている。
アフガンでは01年以降、外国軍の車両に近づいた車や民間人が「自爆攻撃」と勘違いされ、発砲される事件が頻発している。【4月12日 毎日】
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最近、報じられたものだけでも、上記のほか
「ドイツ軍、誤って車両を攻撃 アフガン兵6人が死亡」【4月3日 朝日】
「NATOアフガン空爆、住民に犠牲者 地元と食い違いも」【4月7日 朝日】
などがあります。
後者は、北大西洋条約機構(NATO)主導の国際治安支援部隊(ISAF)による反政府武装勢力への空爆ですが、ISAFの発表によると、タリバンが立てこもる建物をISAFが空爆し、建物からタリバンとみられる4人のほか、民間人の女性2人と子ども1人、年配の男性1人の遺体が見つかったとされています。一方、地元通信社は住民らの話として、空爆で3軒の建物が崩壊し、民間人23人が死亡したと伝えています。
この種の食い違いはいつものことです。

こうした誤爆・民間人犠牲は、アフガニスタン国民の反米・反外国感情を強める結果にもなっていますが、アメリカ・外国の傀儡政権ではないことをアピールしたいカルザイ大統領も、この問題でアメリカを批判することが多くなっています。
今月4日には、アメリカ軍がヘルマンド州マルジャに続く「大規模軍事作戦」を行う予定の南部カンダハル州の現地部族長らをマクリスタル駐留米軍司令官とともに訪ね、部族長らに「(アメリカの作戦は)あなた方を不幸にしますか」と問いかけるなど、民間人殺害の恐れが高いアメリカ主導の軍事作戦をけん制する姿勢を見せています。

【「カルザイ降ろし」の動きで確執激化】
一方、アメリカ側は、こうしたカルザイ大統領の姿勢に苛立ちを感じており、先の大統領選挙では、腐敗・汚職・麻薬を一掃できないカルザイ政権に見切りをつけようとする「カルザイ降ろし」の動きありました。
このことが、更にカルザイ大統領側の対米不信感を増長させるという形で、カルザイ大統領とアメリカ側との溝が、特に4月以降あらわになってきています。

****いら立つカルザイ氏 止まらぬ欧米敵視発言 「圧力ならタリバンに合流も」*****
アフガニスタンのカルザイ大統領が今月に入り、欧米敵視ともとれる発言を繰り返している。特に米国への不快感をあらわにし、オバマ政権になってからの両国関係は悪化の一途をたどっているとの指摘もある。その源は昨年8月の大統領選挙における「カルザイ降ろし」の動きにあり、このとき募った欧米への不信感は今や、“危機感”に変わったともみられている。アフガンの安定に直結する両国関係は、微妙な時期にさしかかっている。

「8月の大統領選で大規模な不正があったのは間違いない。だが、それはアフガン人によるものではなく、外国人によるものだ」
今月1日、カルザイ氏は選挙関係者との会合でこうぶちまけた。不正の責任を転嫁したこの発言は、“欧米敵視”と報じられたため、同氏は2日にクリントン米国務長官に電話を入れ釈明し、国際社会の支援に謝意を示したという。
ところが、その翌3日、カルザイ氏は国会議員との会合で「もし外国が私にさらなる圧力をかけるようなら、タリバンに合流するかもしれない」と発言したという。4日には自身の出身地、南部カンダハル州の部族長老との会合で「アフガニスタンの問題は、国民が自分たちの大統領は外国の支配を受けない、傀儡(かいらい)ではないと信じていれば解決できる」と語ったとされる。

一連の発言について、米ホワイトハウスの報道官は「やっかいだ」と述べ、米国務省は一時、カルザイ氏が5月に予定している訪米の取りやめもにおわせ、不快感をあらわにした。
カルザイ氏は外交でも反欧米路線をにじませている。3月上旬には、核開発問題をめぐり米国などとの対決姿勢を強めるイランのアフマディネジャド大統領が、カブールを訪問。カルザイ氏は中旬に訪中し、月末にはイランを訪れた。だが、イランから戻った日の夜、オバマ大統領は通告なしにカブールを電撃訪問し、イラン、中国との関係強化を図ろうとするカルザイ氏を「強く牽制(けんせい)した」(消息筋)という。
                   ◇
カルザイ氏はなぜ、今になって、反欧米的な姿勢を見せているのか。
大統領選で欧米はカルザイ氏に代わる候補者の擁立を画策し、事実上の「カルザイ降ろし」を展開した。米国のホルブルック特別代表(アフガニスタン・パキスタン担当)にいたっては、多数のアフガン人に出馬をけしかけたといわれる。それはカルザイ氏の汚職、麻薬対策への取り組みを不満とし、指導力を疑問視した結果だった。
だが、米国は適切な人物を見つけられず結局、カルザイ氏しかないと、同氏に軸足を戻さざるをえなかった。こうした事情を知るカルザイ氏は、昨年11月に会ったある外交筋に、米国への反発をはっきり口にしたという。

カルザイ氏自身がこれまで語ってきたように、ブッシュ政権の米国なくして、2001年のタリバン政権崩壊はなく、自身が大統領になることもなかった。しかし、オバマ政権は駐留部隊の撤退に向けた環境整備を急ぎ、カルザイ氏側に圧力をかけており、ここにきての同氏の敵視的な姿勢は、圧力に対する“反発”ともいえる。
外国部隊が撤退した後の保身をかけ、外国の傀儡ではないことを国内向けに証明しなければならない、という焦りもありそうだ。また、カルザイ氏は、タリバンなど反政府武装勢力との対話も進めている。しかし、米国の反応は芳しくなく、カルザイ氏のいらだちを強めさせているようだ。
                   ◇
カルザイ氏が置かれた状況はジレンマにも等しい。
米軍などは、2月に南部ヘルマンド州マルジャで、最大規模とされるタリバン掃討作戦に着手。6月にはカンダハル州でも作戦を開始する予定で、一定の成果をあげ、来年夏からの兵力撤退への道筋をつけたいところだ。だが、マルジャでは多くの住民が犠牲になり反発は強い。カンダハル州はタリバン発祥の地で“本丸”。同時にカルザイ氏の支持基盤でもあり、同氏も慎重にならざるをえない。
外国駐留部隊の撤退後、不人気のカルザイ氏が大統領の地位に居続けるためには、欧米が汚職などの根源として敵視する元軍閥指導者ら有力者と、友好な関係を保っておく必要がある。
ジョーンズ米大統領補佐官(国家安全保障担当)は9日、カルザイ氏が5月12日に訪米するとの見通しを示し、この局面を「切り抜けた」と語ったが、カルザイ氏を見る米国と国際社会の目は依然、厳しい。【4月10日 産経】
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成果をあげて出口戦略を確かなものにしたいアメリカに対し、アメリカ撤退後もこの地に残るカルザイ大統領としては、地元有力者やタリバン勢力とも一定の関係を維持したい考えで、そうした立場の違いも背景にあっての不協和音のようです。

【「カルザイ大統領は信頼できるパートナーだ」】
ただ、アメリカとしても、カルザイ政権と事を構える形では出口戦略もありえませんので、なんとか関係修復に努めているようです。
****カルザイ大統領と「関係良好」=修復図る、米国防長官ら****
ゲーツ米国防長官とクリントン国務長官は11日に放映されたCBSテレビなどの番組で、アフガニスタンのカルザイ大統領との関係について「良好だ」と評価した。同大統領が欧米批判を展開し、ホワイトハウスが懸念を示すなど関係がぎくしゃくしていたことから、修復を図った形だ。
ゲーツ長官は、カルザイ大統領が駐留米軍のマクリスタル司令官とともにアフガン南部カンダハル州に足を運び、反政府勢力タリバン掃討作戦への地元部族長の協力を得る枠組み作りに貢献していると指摘。「マクリスタル司令官と定期的に会い、非常に良好な関係にある」と述べた。クリントン長官も「カルザイ大統領は信頼できるパートナーだ」と語った。【4月12日 時事】 
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今月1日のカルザイ大統領の「(大統領選挙の)不正票は外国人によるものだった」という欧米批判について、前出産経記事では“カルザイ氏は2日にクリントン米国務長官に電話を入れ釈明し、国際社会の支援に謝意を示したという。”となっていますが、別報道では“クリントン米国務長官が2日、カルザイ氏に電話で真意を問う騒動に。しかし、カルザイ氏は発言を撤回せず、クリントン氏は「驚いている」といらだちを示した。”【4月5日 毎日】ともあります。
「カルザイ大統領は信頼できるパートナーだ」というのは、いかにもとってつけた感がありますが、そう言うしかないところにアメリカ側の苛立ちが感じられます。

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タイ  デモ隊強制排除で犠牲者 追い詰められるアピシット首相

2010-04-11 15:02:46 | 国際情勢

(デモ隊にゴム弾を発射する治安部隊 10日夜の騒乱の犠牲者が、治安部隊の実弾発射によるものか、アピシット首相の言う“デモ隊が投げた小型爆弾”によるものなのか・・・そこは定かではありません。“flickr”より By Thailand Red Shirts
http://www.flickr.com/photos/thailandredshirts/4508837499/)

【流血の土曜日】
先月14日からタイ・バンコク中心部で反政府抗議行動を続けているタクシン元首相派「反独裁民主戦線」(UDD)とアピシット政権の対立については、当初、タクシン元首相派側が長続きしないのでは・・・と見ていましたが、長期化・エスカレートする抗議行動によって、次第にアピシット政権側が苦しい立場に追い込まれてきました。
そして10日、非常事態宣言のもとでの当局のデモ隊強制排除開始によって、日本人テレビカメラマンの死亡という思いがけない事態を含む、騒乱状態に陥っています。
このブログを書いている今も状況は変化している様相です。

****タイ騒乱、死者19人に 元首相派、軍兵士を「人質」に*****
タイの首都バンコクで10日夜、治安部隊とタクシン元首相派が衝突した騒乱で、病院関係者によると、11日朝までに少なくとも19人の死亡が確認された。また負傷者は825人に達している。死者の内訳は、ロイター通信のテレビカメラマン、村本博之さんのほか、軍兵士が4人、元首相派の支持者らが14人だという。
一方、治安当局者によると、元首相派の支持者らが、騒乱のさなかに複数の軍兵士を拘束し、「人質」としており、現在解放するよう元首相派を説得しているという。また北部チェンマイとピッサヌローク、東北部チャイヤプームの3県の県庁舎が元首相派によって占拠されていることを明らかにした。【4月11日 朝日】
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村本さんは取材中、左胸に銃弾を受け、バンコク市内の病院に運ばれる途中に死亡したと報じられています。

現状については、“米ニューヨーク・デイリーニュース紙によると、中心商業地区ではUDDメンバー約6万人が集まり抗戦を呼びかけている。当局はより多くの軍をバンコクの高級商店街やデモ隊の拠点がある商業地区に派遣した。都市の交通機関「スカイトレイン」は運転を休止し、すべての駅を閉鎖していると報じた。当局は27人のデモ隊に逮捕状を出したが、何人が拘束されたかは不明と伝えた。”【4月11日 11:31 Searchina】とのこと。
ただ、今日11日の動きは日本メディアでは報じられていませんので、さすがに昨日の騒乱を受けて、双方“様子見”の状態なのでしょうか。

【アピシット首相 退陣拒否】
タイの騒乱事件としては過去約20年間で最悪の事態となり、アピシット政権は追い詰められています。
治安部隊が強制排除に乗り出し、多数の死傷者が出たことを受けて、アピシット首相は10日夜、国民向けにテレビで演説。
犠牲者遺族に哀悼の意を表しつつも、騒乱の責任はデモ隊側にあるとして、「わたしとわたしの政府は事態打開に向けて職務を継続する」と述べ、タクシン派の退陣要求を重ねて拒否しました。
アピシット首相は治安部隊の発砲についても説明し、実弾の使用は空中への警告射撃および自衛の場合にのみ許されていると述べています。【4月11日 時事より】 

****タイ首相、国民向け会見 騒乱の責任「タクシン派側に」*****
タイの首都バンコクで10日、治安部隊とタクシン元首相派が衝突し、邦人1人を含む13人が死亡、521人が負傷した騒乱を受け、アピシット首相は同日深夜、テレビ演説し、「犠牲者に哀悼の意を表したい」と述べた。
そのうえで「多くの死者が出た要因はデモ隊が投げた小型爆弾だ」として騒乱の原因は元首相派にあると批判。事実関係を明確にするため、中立的な専門家による調査チームを設置することを明らかにした。自身の責任については言及しなかった。
アピシット政権は7日にバンコクとその周辺地域に非常事態を宣言した後、政府の対応については事前に国民に説明することで「透明性を確保する」と強調してきた。しかし、10日の強制排除は突然始まり、混乱を増幅させた。アピシット首相はこの間、国民の前に姿を見せなかった。【4月11日 朝日】
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【遠のく解決】
もとより、こうした犠牲者を伴う騒乱状態にもちこみ国民の政権への批判を高めることはタクシン元首相派デモ隊の戦略でしたので、小型爆弾云々は別として、騒乱がデモ隊側の執拗な挑発行動によって引き起こされたことは間違いないでしょう。
ただ、アピシット首相には、政権側に不利と言われる解散・総選挙には応じることなく、騒乱状態を引き起こすことなく事態を鎮静化させるという、いささかimpossibleなmissionが課せられていました。
そのmission遂行に失敗したことは明らかです。

ここまで強硬策を控えてきたアピシット首相が強制排除に着手した背景については、長引く抗議行動による経済損失の拡大、エスカレートする抗議行動、プレム枢密院議長サイドからの圧力などが言われています。

****タイ強制排除 流血、最悪の事態 タクシン派硬化、解決遠く*****
・・・・日本人カメラマンの村本博之さんを含む犠牲者がデモ隊、治安部隊双方に出る中、収拾のめどは立っておらず、強硬策を選択したアピシット首相は厳しい立場に追い込まれた。
・・・・アピシット首相は当初、強制排除に慎重だった。しかし、3月14日から約1カ月続くデモにより経済活動にも影響が出始めた。
デモ参加者は、タクシン氏が在任中に多額の支援を行い、今もタクシン派の影響力が強い同国北部や北東部の農民が中心だ。アピシット首相率いる連立与党は、任期切れを1年9カ月後に控え、強制排除で死傷者が出れば、これら地方での巻き返しを図るどころか、反感をさらに増しかねないとの判断もあった。
それでも今回、強制排除に踏み切ったのは、デモ隊による国会乱入や衛星放送施設占拠という違法行為がきっかけだ。
タイの英字紙ネーションは、首相が9日夜、治安部隊がいたにもかかわらずデモ隊に占拠されたことに衝撃を受け、集まった軍幹部に「政治的にどちらを支持しろとは言わないが、法に従わせるのがあなたたちの義務のはずだ」と激しく叱責(しっせき)したと伝えた。
また、バンコク・ポスト紙によると、プレム枢密院議長が13日からのタイ正月までにデモを解決するよう求めたという。
衝突を受けてタクシン派は反発、地方での抗議行動を呼びかけており、混乱は拡大の様相を示している。【4月11日 産経】
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【“民主主義”の混迷】
ここに至った経緯はともかく、冒頭朝日記事にあるような19名の死亡を含む多大な犠牲者、更に兵士の人質、北部・東北部県庁の占拠・・・という事態となっては、アピシット首相の続投では事態は収まらないように思えます。
8日に出席を予定していたベトナム・ハノイでの東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議へも出席できず、対外的問題も生じています。
しかし、仮にアピシット首相が辞任したとしても、単なる首のすげ替えでは、解散要求に加え犠牲者発生の責任問題を追及するであろうタクシン元首相派の抗議活動が沈静化するのか?

現政権は、反タクシン元首相派の街頭抗議行動、司法権力によるサマック元首相の強引な解任、選挙違反を理由とした与党の解党・ソムチャイ政権崩壊という、民主的とは言い難い強引な経緯で誕生した政権です。
ここまで国民の対立が深まっている以上は選挙によって民意を問う・・・というのが本来の話ではありますが、選挙での勝算が見込めない政権側がこれを拒否しているということのほか、仮に解散・総選挙を行ってタクシン元首相派が勝利した場合、その先にあるタクシン元首相復帰が認められるのか?という問題もあります。
タクシン元首相には、大衆迎合的なバラマキ政策、強権的・金権的政治手法への批判も根強くあります。
なお、タイの裁判所は14日、前日発生したデモ隊とタイ軍の衝突を扇動したとして、国外逃亡中のタクシン元首相と、元首相の支持者12人に逮捕状を発行しています。

無責任な部外者的発想としては、アピシット首相は辞任して与党内での首班交代を行う、タクシン元首相の帰国は認めるが政界復帰は認めないという条件で、1年後ぐらいの前倒し総選挙実施・・・というあたりで双方が妥協するというのは・・・。

今後の展開については、これまで全く表に出ていないプミポン国王の仲介の有無、あるいは国王の健康問題という要素も大きく影響します。
前回クーデターで懲りている軍は、あまり前面に出たがらないのでは。

3月19日ブログ“「こうして民主主義は死ぬ」 タイの場合”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100319)でも書いたように、現在のタイの情勢は民主主義への不信感から生じている現象でもあります。
今回の騒乱によって、そして、もし混乱が長引くようなら、タイの民主主義は更にダメージを受けることになります。民主主義が混乱と無秩序、不正と腐敗を生むものではないことを明らかにしてもらいたいものです。

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