孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インドネシア  中間層急拡大に伴う消費動向の変化

2013-04-19 21:45:14 | 東南アジア

(本文とは関係ありませんが、JKT48。まあ、これも変わるインドネシアの一面でしょう。
イスラム主義者からの批判などはないのでしょうか?
“flickr”より By Agan Sam http://www.flickr.com/photos/agansam/8404100327/)

経済規模、30年までに英独を抜く
インドネシア経済の好調さと問題点については、1月24日ブログ「インドネシア ポスト中国「東南アジアの時代」をリード 労働争議、イスラム主義などの問題も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130124)で取り上げました。

****インドネシア 消費ブームに乗った「稼ぎ頭*****
GDPは過去10年間で2倍になった。12年の成長率は11年の6・5%から6・3%に「低下」したが、辛うじて2%の伸びを達成したアメリカから見れば羨ましい限りだ。「インドネシアはASEAN全体のGDPの50%近くを占める。ある意味、東南アジアの稼ぎ頭だ」とオーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)の東南アジア担当エコノミスト、アニンダ・ミトラは言う。

経済規模は1兆ドルに迫る勢いだ。既に東南アジア最大で20カ国・地域(G20)でも16位だが、経営コンサルティング会社マッキンゼーの予測では30年までにイギリスやドイツを抜き、消費人口は9000万人増加する。

人口2億4200万人のインドネシアが快進撃を続ける理由はどこにあるのか。慎重な金融政策と通貨安によって対外債務が減少した結果、民間部門も政府部門も収支が改善。投資はパームオイル、石炭、鉱物資源などさまざまな産業の追い風になっている。経済成長の牽引役は堅調な国内需要で、製造業や輸出に比べて国外の状況の変化に左右されにくい。若い労働力や中間層の成長も、消費の堅調な仲びに貢献する。(後略)【1月29日号 Newsweek日本版】
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1月24日ブログでは、汚職・不正の問題、労使問題、イスラム主義の高まり、テロの拡散といった、インドネシアが抱える問題点を挙げています。

20年までに中間層が倍増 旺盛な購買意欲
そうした問題は抱えながらも、インドネシア経済の活況・先行きの明るさを伝える記事を2件目。
1件目は中間層の急拡大と、それに伴う消費傾向の変化を伝えるものです。

*****インドネシア 中間層が倍増 20年までに1億4000万人見込み*****
インドネシアで所得水準の上昇が進み、全国的に消費活動が活発化する見込みだ。米国のボストン・コンサルティング・グループによると、インドネシアでは家賃を除く月間消費額が200万~700万ルピア(約2万200~約7万700円)の人々で構成される中間層が現在の7000万人から2020年までに1億4000万人に倍増するという。現地紙、ジャカルタ・グローブなどが報じた。

同グループは、安定した政治状況などから、インドネシアの堅調な経済成長は今後も続き、内需拡大と所得増が同時に進行すると予想。中間層が50万人以上暮らす生活圏も、現在の24地区から20年には54地区まで増加するとしている。地域も現在のジャワ島に集中した状態からスマトラ島、カリマンタン島、スラウェシ島などに拡大していく見込みだ。

また、同グループ幹部は、4000世帯を対象とした調査で自分よりも家族のための消費を重視すると回答したインドネシア人の割合が全体の63%にのぼったと指摘。今後は、教育、家電などの耐久消費財、保険といった「家族・家庭」をキーワードとする分野で消費拡大が期待できるとの見解を示した。(シンガポール支局)【4月18日 SankeiBiz】
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2件目は、ネット通販(eコマース)業界の急成長を伝えるものです。

****インドネシア、通販活況 ネット市場、3千億→8千億円****
インドネシアで、ネット通販(eコマース)業界が急成長している。2年後には8千億円市場になるとみられ、日系企業も次々と参入する。スマートフォンも普及して勢いに乗るが、課題はインフラと法律の整備だ。

 ■中間層が購買意欲 日本勢も次々参入
スカーフ姿の若い女性が、棚から取った商品を次々と赤いかごへ入れていく。シャンプー、おむつ、殺虫剤。ここはインターネットの日用品ショッピングサイト「スカマート」の倉庫。女性は、ピッカーと呼ばれる買い物代理人だ。

「パソコン前の顧客には、自分でかごを持って買い物していると思ってもらいたい」。住友商事の子会社、住商Eコマース・インドネシア社の小久保岳人社長は、約2千点を収納するジャカルタの倉庫で、発送までの流れを説明した。
午後5時までなら即日出荷で、翌日か翌々日には届く。昨年12月のオープン後、特に都市部の共働き家庭に受けているという。車で買い出しすれば、数キロ進むのに1時間以上もかかる渋滞に悩まされるからだ。

インドネシアでネット通販が急速に広がり始めたのは、3年ほど前からだ。業界団体などの推計では、昨年は3千億円程度だった市場規模が、2年後には8千億円に達するとみられている。2億4千万人の人口と、年6%を超える経済成長率に支えられた中間層の購買意欲が膨らんでいる。

一番人気は登録者数500万人の地元系「カスクス」。ネット上に無料で売買の場を提供し、広告料から収益を得ている。決済と商品の取引は消費者同士で行われ、年間取引総額は約400億円といわれる。
カスクスのケン・ディーン・ラワディナタ最高経営責任者(CEO)は「インドネシアのネット通販はまだ夜明けの段階。中間・富裕層の多くは、カネを持っていても使い道がないため、シンガポールまで買い物に行く。ネットショッピングは強い消費意欲をすくい上げられる」と話す。

外資系企業の出資や提携が進むなか、日系では楽天が「ラクテン・ブランジャ・オンライン」を2年前に開設。サイバーエージェントの子会社は昨年、ベビー用品を扱う「ビルナ」に出資した。
日本では、注文が平日夜と休日昼に集中するが、インドネシアでは平日の昼間が圧倒的に多いという。「会社のパソコンで、勤務時間中にネットショッピングをやるようだ。ひとごとながら心配になる」(小久保社長)との声もある。

 ■消費者保護に不安
急成長の陰で、不安要素もある。インフラと消費者保護法の整備だ。

運送会社JNEでは、ネットショップの宅配は2年前から急増し、いまは全体の4割を占めるという。ジョハリ・ゼイン代表によると、渋滞が慢性的なジャカルタでは、大型車だと小回りがきかないため、1回の配送では60個が限界だ。「地下鉄整備などで渋滞対策が取られない限り、一般客と業者による道路の奪い合いが激化し、対応できなくなる」と懸念する。

業界の急成長で法規制が追いつかない問題もある。2008年制定の電子・情報取引法には、オンライン決済や消費者保護などが盛り込まれていない。カード払いなどで詐欺に遭っても救済されないことを恐れてオンラインの支払いをためらう利用者が多く、銀行振り込みが中心だ。

貿易省国内貿易部は「情報通信、財務、法務・人権の各省や警察と会合を開いており、草案作りを進めている」とするが、めどはついていない。カスクスのラワディナタCEOは「中銀頭取に『電子商取引の責任省庁はどこか』と尋ねたが、答えられなかった。早く法整備をしないと、業界全体が信頼を失ってしまう」と危機感を強める。(ジャカルタ=郷富佐子) 【4月14日 朝日】
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【「中所得国の罠」】
ただ、インドネシアだけでなく、経済的に急成長を遂げる東南アジアや中南米の国々に関しては「中所得国の罠」の問題があります。
「中所得国の罠」とは、「中所得国」まで成長したものの、そこから足踏みをしてしまい、次のステージである「高所得国」になかなか仲間入りできない現象で、基本的には“労働コストの低い低所得国との競合や、高所得国(先進国)の産業構造の高度化との板ばさみ”の状態です。


「中所得国の罠」については、4月10日ブログ「マレーシア 政権交代をかけた総選挙 「中所得国のわな」を回避する改革は可能か?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130410)で、マレーシアに関して取り上げましたが、事情はマレーシアの後を追うインドネシアについても同じです。

*****インドネシア、外国直接投資が過去最高 “中所得国のわな”に警告も****
経済好調が続くインドネシアは、2012年の外国直接投資(FDI)が前年比26%増の230億ドル(約2兆1500億円)に達し、過去最高を更新した。現地紙ジャカルタ・グローブが報じた。
同国投資調整庁の発表によると、12年のFDIは7~9月が前年同期比22%増、10~12月が同23%増と年間を通じて拡大基調が続いた。

産業別の投資先は、10~12月の場合、金属・機械・電子がトップで12億ドルに達した。2位は鉱業で11億ドル、3位は運輸・倉庫・通信で9億ドル、以下、食品(6億ドル)、自動車・輸送機器(5億ドル)と続く。
国別では、シンガポールが最大の投資国で10~12月は14億ドルにのぼる。次いで、韓国(7億ドル)、日本(7億ドル)、米国(5億ドル)の順だった。

同庁の幹部は、高付加価値型産業への投資が増加傾向にあるとしたうえで、「“中所得国のわな”を回避し、さらなる経済成長を実現するには産業革新と技術改革に力を入れなければならない」と指摘する。
中所得国のわなとは、安価な労働力などを強みに急成長した中所得国の経済が先進国入りを前に停滞することを指す。
国際通貨基金やアジア開発銀行などの国際経済機関は、インドネシアに対し、インフラ整備を強力に進めなければ、わなにかかる危険性が高いと警告を発している。【2月15日 SankeiBiz】
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この“罠”を回避していくためには、1月24日ブログで取り上げた諸問題に対処しながら、産業構造の高度化を図っていく必要があります。
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ミャンマー  少数民族問題・開発問題に見るスー・チー氏の現実的姿勢 

2013-04-18 22:17:21 | ミャンマー

(3月14日、ミャンマー中部モンユワの銅山近くの村を訪れ、地元女性と話すスー・チー氏(右)=AFP時事【3月16日 朝日】http://digital.asahi.com/articles/TKY201303150317.html)

大統領への意欲 「憲法を改正するには軍との合意がなければならない」】
ミャンマー最大野党、国民民主連盟(NLD)党首アウン・サン・スー・チー氏が来日していますが、その大統領職への意欲や野党政治家としての現実的姿勢が話題になっています。

現在は少数野党党首ですが、将来的には憲法の制約を超えて大統領を目指す姿勢を明らかにしています。

****スー・チー氏、大統領に意欲=憲法改正も目指す―ミャンマー****
来日中のミャンマー最大野党、国民民主連盟(NLD)党首アウン・サン・スー・チー氏(67)は17日夕、東京・内幸町の日本記者クラブで会見し、「政党のトップで、国家のトップになりたくない人はいるだろうか。(大統領に就任すれば)信念としている政策を実現できるはずだ」と述べ、大統領職に意欲を見せた。

ミャンマーの大統領は上下両院の投票で選出される間接選挙制で、スー・チー氏の今回の発言は2015年の次期総選挙でNLDが勝利した上で大統領への就任を目指す考えを示したものだ。
ただ、スー・チー氏は会見で「憲法の中で意図的に私が大統領になれないようにしているところがある」とも指摘。「ある人を特定の立場に就かせないようにしたり、就かせたりするように憲法を書いてはならない」と述べた。現行憲法では、外国籍の息子を持つスー・チー氏は大統領になれない。

スー・チー氏は、憲法改正には上下両院の75%を超える議員の賛成が必要である一方、軍人枠議員が議会の25%を占めている現状に触れ、「憲法を改正するには軍との合意がなければならない」と語り、総選挙前の改正を目指して軍と交渉していく考えを示した。【4月17日 時事】
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消極姿勢批判に、「私はマジシャンではない」「『法の支配』はワクワクするものではない」】
ミャンマー国内では、テインセイン政権は民主化改革を進めてはいますが、一部の少数民族との間ではいまだ内戦状態が続いています。
こうした少数民族問題については、「私たちは国民和解を重視し、変革を進めなければいけない」として、憲法改正のプロセスの中で少数民族の意見を尊重する制度を作り上げ、問題解決を図る考えを示しています。

しかし、現実的には仲介役の機能を果たしていないスー・チー氏の姿勢には「対立解消に消極的だ」と批判もあり、カチン州の少数民族組織関係者は「もうスーチー氏には頼らない」と不信感を募らせています。
記者会見でも、“消極姿勢”についての質疑がありましたが、「法の支配」を確立したうえで話し合いによる国民和解を目指す従来の考えを強調しました。

****スーチー氏:「民族問題静観」の批判に反論 記者会見*****
来日中のミャンマー最大野党「国民民主連盟(NLD)」のアウンサンスーチー議長(67)は17日、日本記者クラブ(東京都千代田区)で記者会見した。民主化の陰で深刻化する民族・宗教対立を「静観している」との批判があることに対し「必要な発言をしている」と反論し、「法の支配」を確立したうえで話し合いによる国民和解を目指す従来の考えを強調した。

北部カチン州で交戦が続くなど懸案の少数民族問題について、スーチー氏は「各グループが自分たちの立場を唯一正しいと思っているが、それでは国民和解はできない」と指摘。表面化する多数派・仏教徒と少数派・イスラム教徒との対立には「誰に対しても暴力には反対」と述べ、議論による平和的解決を訴えた。
そのためには「意見が違う人々が互いを信頼し安心感を持つ必要がある。だからこそ私は法の支配を訴える」と主張した。

西部ラカイン州で仏教徒と反目するイスラム教徒のロヒンギャ族は多くの国民から隣国バングラデシュからの不法移民とみなされ、少数民族問題からも取り残されている。スーチー氏は「(ロヒンギャ族に)公民権法が適用されるかどうか、市民権があるかどうかの確認が必要」と慎重な発言にとどめた。

一方、政府開発援助(ODA)など日本政府の支援に対しては「本当に国民が必要とする支援であるべきだ。政府だけでなく議会や野党とも協議しなければ、正しい方向に援助が行かない可能性がある」と注文をつけた。【4月17日 毎日】
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この問題に関しては、「私はマジシャンではない。長い間培われた相違の克服には時間がかかる」という発言のほか、下記のような“現実的”発言も行っています。
反政府・抵抗運動のシンボルに祭り上げられることを避け、現実政治家としての道を進む覚悟のようです。

“スーチー氏が、北部カチン州での少数民族と政府軍との戦闘や、宗教対立問題に積極的に発言しないことには批判がある。これについてテレビ朝日のインタビューでは「私は常に発言しているが、一部の少数民族は私に言ってほしいことを言っていないと思っているのかも知れない」と反論。会見でも「私が訴える『法の支配』はワクワクするものではない」と語った。
こうした慎重とも言える言動の背景には「政治家」として憲法改正実現のため軍や与党の協力を取り付けたい願望がある、との指摘がある。今月からミャンマー国内で発行を始めた日刊紙ボイスの編集長チョーミンスエさん(42)は「私的な感情を抑え、野党党首を越えた立場で政治活動をしている」と解説する。”【4月18日 朝日】

【「責任ある投資は責任ある政府があって初めて成り立つ」】
テインセイン政権については、“記者会見で大統領への評価を問われると、「現政権はしっかりとした改革策がない。政策の優先順位もない。外国からの援助なら何でもいいというのでは不十分だ」と痛烈に批判した。”【同上】とのことです。
興味深いのは、対外的にはテインセイン政権の民主化姿勢として評価が高い“大規模ダム建設計画凍結”をも批判していることです。

****テイン・セイン大統領を批判=ダム建設凍結でスー・チー氏*****
来日中のミャンマー最大野党、国民民主連盟(NLD)党首アウン・サン・スー・チー氏は17日午後、ミャンマーの民主化運動を支援してきたNGOや人権団体の代表と東京都内で意見交換した。出席者によると、スー・チー氏はこの中で、テイン・セイン大統領が大規模ダム建設計画を凍結したことについて「無責任」と批判した。

凍結されたのは、中国の支援で北部カチン州のイラワジ川流域に軍事政権時代に計画されていたミッソン・ダム計画。環境破壊につながるなどとして国民から反対の声が上がる中、テイン・セイン大統領は2011年9月、建設凍結を突然宣言し、テイン・セイン政権の改革姿勢を示す動きとして注目を集めた。 

しかし出席者によれば、スー・チー氏は「問題の解決を先延ばししただけで全く解決になっていない。何の法律に基づいているわけでもなく、一方的に一人の人間が宣言したのは非常に無責任な行為だ」と語った。「責任ある投資は責任ある政府があって初めて成り立つ」とも述べたという。スー・チー氏としては「法の支配」確立の重要性を強調したものとみられる。【4月17日 時事】
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先月、ミャンマー中部の銅山開発を巡る反対運動を巡り、スー・チー氏が委員長を務める調査委員会は「開発継続」を認める報告書を公表しています。

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反対運動は、レパダウン銅山の一部住民が昨年6月、土地収用への「補償金が不十分」として始めた。この動きに僧侶を含む民主化活動家が合流し、開発中止を求める運動に発展。治安部隊は11月、開発予定地を「占拠」した反対派数百人をガス弾を使い強制排除、多数の負傷者が出た。

このためテインセイン政権の要請でスーチー氏をトップとする調査委員会が発足。11日公表された報告書は「地元住民への適切な補償と雇用機会の提供が必要だ」と問題点を指摘しつつ「開発は中国の利益というより国益にかなう」と強調。「開発の一方的な中止は中国との関係に悪影響を与え、外国企業がこの国への投資に関心を失うことにもつながる」と懸念を示した。

反対派は、治安部隊が強制排除の際に「深刻なやけどを負う白リン弾を使った」と非難していたが、報告書はこの事実を認めながら、反対運動は「地元と無関係な組織の扇動で広がった」と指摘した。また、反対派が主張する「環境影響」についても「大きな影響はない」と否定した。(後略)【3月13日 毎日】
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【「彼女に多くを望み過ぎた。でも、今も彼女にすがりたい」】
このスー・チー氏の報告書に対し、地元住民は怒りをあらわにしています。
*****スー・チー氏に抗議の声=銅山周辺住民、報告書に反発―ミャンマー****
ミャンマー中部モンユワ地区で中国企業などが開発する銅山に関し、事業を中止すべきではないとする国会の調査委員会報告書がまとまり、委員長を務めるアウン・サン・スー・チー氏が13日、住民らに報告するため現地入りした。

住民らからはスー・チー氏に対しても厳しい抗議の声が上がった。
地元記者によると、現地では報告書に不満を持つ住民ら約250人が集結。「スー・チー氏はいらない。報告書も調査委もいらない」と気勢を上げた。(後略)【3月13日 時事】
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*****救世主スー・チーを嫌う村****
「抵抗の象徴」を熱烈に支持した国民の間に政治家となった彼女への失望が広かっている

・・・・スー・チーは車列を連ねてやって来て、警察の許可なしで抗議行動をすべきではないと農民に説教した(実際は許可を申請したが断られていた)。確かに農民たちの畑をつぶし、先祖伝来の土地を奪うことにはなるが、この事業がもたらす恩恵にも目を向けるべきだと諭した。

「耳を疑った」と語るのはゾー・ウィン(40)。村の大通りに立ち塞がり、車列の進入を阻んだ1人だ。「小さな女の子たちが地べたで泣き叫んでいるのを、あの人は豪勢な車から見下ろしていたんだ」
質疑応答の場では、村人から悲痛な叫びが上がった。それでもスー・チーは「やたら偉そうにしゃべっていた。まるで私たちが無知だと言わんばかりに」と、ゾー・ウィンは言う。

面と向かってでなくとも、公然とスー・チーを悪く言うことは、ミャンマーでは今もタブーに等しい。何十年も続いた圧政を乗り越えて前へ進むには彼女の存在が欠かせないと、ほとんどの国民がみているからだ。
しかし、と開発反対派で詩人のアントーマウン(80)は言う。もはやタブーは破られ、今や人々の目は資源豊かなレパダウン山を囲む貧しい村落に向いている。似たような抵抗派の拠点は各地にあり、みんなが今回の問題でのスー・チーの振る舞いを注視している、と彼は語る。

「私たちの国は長年、闇に覆われてきた。その闇から連れ出してくれる誰かを待望していた。そして私たちは彼女がその人だと信じた」
レパダウン山周辺で取材に応じた村人のほとんどは、開発支持さえ撤回すれば喜んでスー・チーを迎え入れると語った。彼らの家の多くには、今もスー・チーの写真と父アウンーサン将軍の写真が飾ってある。(中略)

中国と世論のはざまで
ただ、今も多くの人がスー・チーに期待を寄せている。かつて捕らわれの身で抵抗のシンボルだった彼女は、今では政治家として体制側に入り込み、いまだ軍部主導の政府に利用されかねない立場なのだが。
 
もしもスー・チーが村人たちの側に立てば、ミャンマーヘの最大の投資国・中国を怒らせることになる。よちよち歩きの改革をいつでもひっくり返せる軍部も黙っていないだろう。だからスー・チーは公式の報告書でも村人との対話集会でも、銅山がもたらす富で環境破壊を止め、地元民をもっと豊かにできると説くしかなかった。

彼女がレパダウン銅山を訪れた後、政権側はさっそく公約をばらまいた。地元民への「土地の補償、上地の返還……環境保護や雇用創出」には特に配慮すると、担当者のミントーアウンはヤンゴン(ラングーン)の地元メディアに語っている。

NLD創設者の1人ウィンーティンは独立系英字誌「イラワジ」に、スー・チーはこの問題に「果敢に」立ち向かっており、「もしも軍に任せていたら、ずっとひどいことになっていたはずだ」と述べた。
しかしナイーザー・オー(25)のような村人は、スー・チーヘの思いはもう元には戻らないと訴える。「彼女はここに来て、私たちに銅山開発を続けさせろと言った。その開発こそ私たちの未来だ、その開発で私たちは潤うのだと」

ナイーザー・オーは納得できないでいる。「ちょっと待ってよ、それは違うって。私たちに恵みをもたらすのは大地。野菜も薪も、何だって山の辺りで育つのだから」
彼女が「スー母さんに伝えてほしい。私たちは今もあなたを大好きでいたいのだ」と言うと、周りの農民たちもうなずいた。「期待が大き過ぎたのかもしれない。彼女に多くを望み過ぎた。でも、今も彼女にすがりたい」【4月16日 Newsweek日本版】
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開発に託す国民生活水準向上への強い思い
テインセイン大統領の“大規模ダム建設計画凍結”を批判したスー・チー氏の真意はいまひとつはっきりしないところもありますが、自らの銅山開発への対応を踏まえて、生活向上のためには開発が必要なこと、開発のためには外国からの投資が必要なこと、そのためにはポピュリズム的なその場しのぎではなく法制度整備が重要なこと・・・を強調したものと思われます。

一連のスー・チー氏の発言には、単に政権・軍部・中国への現実的配慮というだけではなく、ミャンマーの経済水準が他のアジア諸国からも大きく遅れていることを憂い、なんとか国民生活水準の向上を実現したいという強い思い、そのためにはやはり開発が必要だとの認識が根底にあるように思われます。
大統領への意欲も、遅れたミャンマーを何とかしたいという思いがあってのことでしょう。

それは指導者を目指す政治家としてのひとつの見識でしょう。
実際に政治のイニシアティブをとった際に、開発の犠牲となっている者の救いを求める声にもバランスがとれた配慮を示せるかが、優れた指導者となるか、二流の政治家に堕すかの境目でしょう。
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パキスタン  総選挙に向けて「世直し」に動く司法 「司法クーデター」の批判も

2013-04-17 22:52:31 | アフガン・パキスタン

(パキスタンの司法関係者は政治権力に対し非常に行動的です。写真 (AP Photo/Emilio Morenatti)は、チョードリー最高裁長官が解任されていた頃、それに抗議する司法関係者の警察の催涙ガスから逃げる様子のようです。 “flickr”より By H@shim A ™ http://www.flickr.com/photos/hashim_a/3841535284/)

無人機攻撃に関する密約
パキスタンでは米軍による無人機攻撃が続けられています。
イスラム武装勢力への打撃となっている一方で、民間人犠牲も多く、パキスタン国内の反米感情を高めてもいます。

*****パキスタン北西部で米無人機攻撃、4人死亡*****
パキスタンの治安当局者によると、同国北西部の部族地域で14日、米軍の無人機による攻撃があり、武装勢力のメンバー少なくとも4人が死亡した。攻撃があったのは、隣国アフガニスタンと国境を接する北ワジリスタン地域の中心都市、ミランシャーから西方約35キロのダッタ・ケル(Datta Khel)。この地域はアフガニスタンの旧支配勢力タリバンと、国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)系武装勢力の活動拠点となっている。 治安当局者によると、米軍の無人機6機が建物の上空をしばらくの間飛行し、そのうちの1機が日没時にこの建物に向けて2発のミサイルを発射したという。米軍によるこうした攻撃についてパキスタン政府は主権の侵害だとして強く批判しているが、米国側はイスラム過激派との戦いにおける極めて重要な対抗手段だと主張している。

英国の非営利組織「調査報道ジャーナリスト協会(TBIJ)」によると、米中央情報局(CIA)が2004年以降にパキスタンで行った無人機による攻撃で3577人が死亡しており、そのうち最大で884人が民間人だとみられている。【4月17日 AFP】
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“パキスタン政府は主権の侵害だとして強く批判している”とのことですが、最近、この無人機攻撃に関して、攻撃の主体となっているアメリカCIAとパキスタン国軍の中枢でもある3軍統合情報局(ISI)の間の密約が明らかにされています。

*****無人機攻撃でパキスタンと密約=CIA、2004年に―米紙*****
米国とパキスタンが2004年、「国家の敵」とパキスタンが位置付けていたイスラム過激派指導者を米国が無人機で殺害し、その見返りとして、パキスタンが自国内での米国の無人機運用を認める密約を結んだと、7日付のニューヨーク・タイムズ紙が報じた。

両国の複数の当局者の話として伝えた。密約交渉は米中央情報局(CIA)とパキスタンの情報機関である3軍統合情報局(ISI)との間で行われ、無人機攻撃はすべてCIAが秘密作戦として実行、米政府は公式には作戦の存在を認めないことなどで合意した。無人機をめぐり密約が存在することは以前から指摘されていたが、同紙は詳細が明らかになったのは初めてとしている。【4月7日 時事】
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いくらアメリカでも何も合意なしにパキスタン領内での活動は行わないでしょうから、密約があったことは想像に難くないところです。
パキスタン側としては、反米世論への配慮、国軍のメンツもあって内密にしていたというところでしょう。


当時の大統領であったムシャラフ前大統領も、この密約を認めています。

*****米無人機攻撃で密約認める=ムシャラフ前大統領―パキスタン*****
パキスタンのムシャラフ前大統領は12日までに米CNNテレビの取材に応じ、米国が武装勢力掃討のためパキスタン国内で実施している無人機によるミサイル攻撃について、パキスタン側が了承する密約があったことを認めた。密約の存在は指摘されていたが、公に認める発言は初めて【4月12日 時事】
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総選挙参加のために亡命先から帰国したムシャラフ前大統領は、帰国即時の逮捕は免れているものの、最高裁への出頭を求められており、どうせ認めざるを得ないのなら、早めに自分から・・・といったところでしょう。

*****ムシャラフ前大統領に出頭命令 パキスタン最高裁****
パキスタン最高裁は8日、ムシャラフ前大統領に対し、9日に最高裁に出頭するよう命じた。
1999年の軍事クーデターで文民政権を倒し、自ら大統領に就いた後の2007年、反対派を押さえ込むために非常事態を宣言したことなどが国家反逆罪に当たるかどうか審理する。有罪なら死刑が適用される可能性がある。

ムシャラフ氏に対しては、07年のブット元首相暗殺事件で十分な警備態勢を取らなかった容疑など4件で逮捕状が出ている。(イスラマバード)【4月9日 朝日】
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【「世直し」か?「司法クーデター」か?】
そのムシャラフ前大統領ですが、総選挙立候補については、ほぼその道を閉ざされたとのことです。

*****パキスタン裁判所、ムシャラフ前大統領の総選挙出馬を認めない決定*****
パキスタンで5月11日に行われる総選挙について、同国の裁判所は16日、ペルベズ・ムシャラフ前大統領(69)の立候補を認めない決定を下した。
ムシャラフ氏は先月末に亡命先から帰国し、4つの選挙区で立候補を届け出た。認められたのはパキスタン北部の町チトラルのみだったが、これについて弁護士グループが異議を申し立てていた。裁判所は16日、ムシャラフ氏は大統領在任中の2007年に憲法に違反する行為を行ったとして、チトラルでの立候補承認を覆す決定を下した。ムシャラフ氏陣営は最高裁に上訴する方針。しかし、ムシャラフ氏は2007年のベナジル・ブット元首相暗殺事件への関与が疑われているほか、同じ2007年に最高裁長官を解任したムシャラフ氏に対する最高裁の姿勢も厳しいことから、政界復帰は難しいという見方も出ている。【4月17日 AFP】
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もとより、ムシャラフ前大統領は国民の支持を失っており、「過去の人」となっていましたので、同氏の総選挙不参加自体は大勢への影響はさほどないでしょう。
注目されるのは、ムシャラフ前大統領や与党・人民党のアシュラフ前首相などが選挙管理員会によって次々に総選挙参加を阻止されており、その背景で司法が「世直し」的な強い姿勢で臨んでいることです。


*****パキスタン選管、前のめり 前大統領・前首相らに失格連発 来月総選挙*****
来月11日に総選挙を控えたパキスタンで、選挙管理委員会が有力政治家に立候補届の失格処分を連発している。軍事政権の後、5年間続いた文民政権は失政続き。世論の政治不信を背景に、選管自ら「世直し」に立ち上がった形だが、暴走を心配する声も出始めた。

総選挙は下院定数342のうち、女性や非イスラム教徒への留保枠を除く272議席が争われ、のべ8千人以上が立候補届を提出。同じ日に計577議席が争われる四つの州議会議員選にはのべ1万9千人以上が届け出た。同国では1人で複数選挙区に立候補できる。選管は10日、審査の結果、のべ4千人以上が失格になったと明らかにした。

先月の任期満了まで内閣を率いたアシュラフ前首相は、在任中の「首相基金」の乱用が問題視されて失格に。1999年の軍事クーデターから2008年まで政権の座にあったムシャラフ前大統領は四つの選挙区で立候補したが、政権当時の違法行為の疑いを理由に三つで取り消された。(筆者注:前期のように、ムシャラフ前大統領は四つ目についても取り消されています)

また、中央選管は3日、投票用紙に候補者名と並んで「投票したい候補者なし」の選択肢を設けると発表。「民主主義への信頼をむしばむものだ」(英字紙ドーンの社説)と戸惑いが広がった。

さらに選管は先月末から、前回08年の選挙で当選した前職議員の学歴詐称について刑事訴追も始めた。国会・州議会議員のうち189人をリストアップし、すでに11人が有罪判決を受けて収監された。有罪確定なら来月の選挙に立候補できないばかりか、政界から永久追放となる。

選管が独自色を強めるようになったのは、ムシャラフ大統領辞任後に政権の座についたザルダリ大統領の下で3度にわたり憲法が改正されたためだ。最高裁判所や軍部との対立でザルダリ氏が政権運営に苦しむうち、野党側の要求に屈服する形で、選管の中立性や権限が次第に強化された。

選管委員長は大統領の任命制だったが、野党の同意が必要となり、与野党の合意で12年、元最高裁判事のエブラヒム氏が選ばれた。総選挙前の約2カ月間を担う選挙管理内閣の首相任命は与野党間で意見が合わず、最終的に選管が元判事のコソ氏を指名した。

エブラヒム委員長の後ろ盾は、昨年6月にギラニ首相(当時)を失職させるなど政治批判を強めてきた最高裁のチョードリ長官だ。6日には選管担当者を前に演説し、「資格のない政治家が議会に入り込むのを許してはならない」と厳格な対応を求めた。

元々、選管の地方幹部は判事出身。「まるで司法と選管が手を結んだクーデターだ」(地元記者)といった批判が出ている。ただ、市民の間では、選管の「政治家いじめ」に留飲を下げる人がほとんどとみられている。

 ■軍、表向き静観
過去の総選挙では票の操作や政治工作の疑いが持たれてきた軍部は今回、静観する構えだ。
軍部トップ、キアニ陸軍参謀長は2月末、報道機関幹部らを集めた異例の会合を開き、「選挙で選ばれた指導者が有能でも無能でも、それは人々の審判だ」と発言。「軍は民主プロセスを妨げる意思はない」と強調したという。

ムシャラフ軍事政権の失敗や米軍によるアルカイダ指導者オサマ・ビンラディン容疑者の越境暗殺作戦などで、軍の威信は低下。経済状態の悪化で、数カ月内に国際通貨基金(IMF)の追加融資を得なければデフォルト(債務不履行)の可能性がささやかれる。「この時期に軍が政治介入すればIMFの支援が遠のくことを軍部も理解しているはずだ」(民間シンクタンク幹部)とみられている。
ただ、軍が恒久的に政治介入を放棄したり、文民統制を受け入れたりした様子はみられない。

今回、選管が候補者に失格を乱発する根拠は、議員の適格性を定めた憲法62条と63条。2度目の軍事クーデターで政権を握ったジアウル・ハク大統領の下で85年に加えられた条項だ。「イスラム教について十分な知識を持ち、宗教的義務を実践している」など、いくらでも拡大解釈が可能な条項のほか、「司法や軍部を侮辱した罪で有罪判決を受けていない」との文言もあり、軍部や司法の優位が色濃くにじむ。 【4月16日 朝日】
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パキスタンでは以前から司法が社会的に強い影響力を有しており、脛に傷を待つ大統領や首相が司法の追及で辞職に追い込まれることもありました。
ザルダリ政権のもとでの野党攻勢で、司法の権限・中立性がさらに強まっているとのことです。
おそらく現在のパキスタンで最も影響力を有しているのは国軍トップのキアニ陸軍参謀長と、司法トップで国民的信頼もあついチョードリー最高裁長官でしょう。

ただ、いくら“無能な政治家・指導者”であったとしても、選挙によって選ばれた指導者・議員・政党が安易に司法判断で辞職・解党に追い込まれるような事態は、「司法クーデター」の危険性もはらんでいます。

総選挙、シャリフ元首相優勢
総選挙(5月11日)については、与党・人民党の苦戦、野党・シャリフ元首相の勢力の優勢が伝えられています。

*****パキスタン:「イスラム教徒連盟」躍進か 来月総選挙*****
パキスタン総選挙(5月11日投票)まで1カ月を切った。同国は1947年の建国以来3度のクーデターが起き、今回初めて投票で政権移行の実現が見込まれる歴史的選挙。前回選挙(08年)で第1党となり、5年間政権を維持した「人民党」は、経済政策の失敗や腐敗ぶりから支持を失った。このため、野党第1党でナワズ・シャリフ元首相が率いる野党「イスラム教徒連盟」の躍進が予想されている。

シャリフ氏は、首相だった99年当時、ムシャラフ陸軍参謀長(後に大統領)を解任したことから軍事クーデターを招き、失脚した。国政・外交の実権を握るとされる軍から強い不信感を持たれており、復権した場合は軍がけん制に動く可能性がある。

また、自由選挙を認めない武装勢力「パキスタン・タリバン運動」が政治集会への攻撃を繰り返している。16日には、北西部ペシャワルで、反タリバンの政党「アワミ民族党」の集会で自爆攻撃があり、9人が死亡、50人以上が負傷した。

一方、政治亡命先の中東ドバイから先月帰国し、出馬を予定していたムシャラフ前大統領は16日、ペシャワル高裁に出馬申請を取り消された。
大統領だった07年当時に非常事態を宣言し、これが最高裁に「違憲」と判断されたことが問題視された。ムシャラフ氏は最高裁に上告する構えだが、高裁決定が覆る可能性は低く、事実上出馬の道を断たれた。

今年1月に大規模な反政府集会を開いて人民党政権を揺るがしたイスラム教説教師、カドリ氏の動きも注目されている。カドリ氏は軍との関係も取りざたされている。
選管当局は、50人以上の現職議員(地方議会を含む)の出馬申請を「学歴詐称」などの理由で却下した。人民党のアシュラフ前首相も「権力乱用」を理由に出馬申請を取り消された。カドリ氏の支持者たちは「腐敗一掃を求めるカドリ氏の訴えが効いた」と受け止めている。【4月17日 毎日】
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ただし、日本のように正確な世論調査が行われている訳でもありませんので、前評判と結果がずれることもありうることです。
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中国  「ネット世論空間も共産党が管理する」ための規制強化

2013-04-16 22:12:43 | 中国

“2012年11月19日、中国大手ポータルサイト・新浪(SINA)の関係者は同社の微博(中国版ツイッター)ユーザー数について、「新浪微博のユーザー数は約3億6000万人で、男女がそれぞれ半分ほど占めている。うち80年代生まれのユーザーが全体の52%を占め、90年代生まれが37%と、約90%が若い世代のユーザーだ。70年代生まれのユーザーは僅か6%で70年代よりも前の世代は2%しかいない。また、大卒レベルの学歴を持つユーザーは全体の80%に及ぶ」と伝えた。”【2012年11月21日 Record China】 写真は【11年12月22日 KINBRICKS NOW】より

【「取材・編集者のネット活動管理強化に関する通知」】
広東省の週刊紙・南方週末の新年号でも注目された中国の情報管理は今更の話でもあります。

****IFJ報告書:「中国のメディアは氷河期****
国際ジャーナリスト連盟(IFJ、本部ブリュッセル)は4日、昨年の中国における報道の自由に関する報告書を発表した。中国当局は昨年、情報統制や検閲を強化しており、調査を始めた2008年以来メディアへの抑圧が最も厳しかった11年と同様に「氷河期」が続いていると指摘している。

報告書は、中国当局が国内メディアに1日に十数項目にもわたる通達を出して調査報道などを禁じたと批判。報道内容が問題視され、多くの記者らが処分されたという。【2月4日 毎日】
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そうした情報管理になかにあって他のメディアに比べると政府批判などの生の声が反映しやすい形となっているネット世論空間についても、共産党による管理・規制強化が行われているとのことです。

****中国、情報統制を強化=海外サイトの引用制限―記者の「微博」も徹底管理****
中国メディアを管理する国家新聞出版放送総局は16日までに「取材・編集者のネット活動管理強化に関する通知」を国内報道機関向けに出し、海外メディア・サイトの情報を無許可で使用してはいけないと指示した。また記者・編集者が仕事上の情報を発信するためミニブログ「微博」(中国版ツイッター)を開設する際には、所属機関の許可を義務付けるなど、情報統制を一段と強化した。

中国では、広東省の週刊紙・南方週末の新年号の社説が共産党宣伝当局の指示で改ざんされるなど、習近平指導部になってもメディアへの引き締めが強化されている。今回の通知には、微博利用者が5億人を超える中、社会安定を最優先に「ネット世論空間も共産党が管理する」(中国メディア関係者)狙いがありそうだ。【4月16日 時事】
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当局の意図については、“うわさやデマなど「有害情報」がインターネット上で拡散するのを防ぐのが目的としている。世論形成に影響力を持つ記者が微博などを通じて当局に不都合な海外の報道を発信するのを阻止する狙いもあるとみられる。”【4月16日 毎日】と指摘されています。

【“不都合な海外の報道”】
“不都合な海外の報道”ということでは、粉ミルクに関する下記報道なども、政府の失政・中国社会の歪みを如実に示すもので、中国国内での報道は制約されるのでしょう。
なお、粉ミルクに関しては、以前も取り上げたように、すでに香港で欧州と同様の問題・軋轢が起きています。

****欧州のスーパーから粉ミルクが消えた、中国向けの大量購入で****
欧州やオーストラリアのスーパーマーケットや商店で粉ミルクの棚が空っぽになる事態が相次いでいる。国産の粉ミルクに不安を持つ中国人の母親たちの需要に応じて、バイヤーたちが欧州ブランドの粉ミルクをまとめ買いしているためだ。

まだ2008年の化学物質メラミン入り粉ミルク事件の記憶も新しい中国で、乳児を持つ親たちは国産粉ミルクの3~4倍もの金額を払ってでも欧州からの粉ミルクを入手している。これに対し欧州の店舗も、粉ミルクの品切れを防ぐため粉ミルクの購入数に制限を設けるなどの対策に乗り出した。
 
ドイツに住む中国人女性シャオさんは、ドイツで購入した粉ミルクをインターネットを通じて中国の母親たちに販売している。
シャオさんのような欧州に住む多数の中国人たちが、地元で粉ミルクを大量に購入しスーパーなどの棚を空っぽにしているのだ。
中国ネットオークション最大手「淘宝(タオバオ)」ではドイツ、英国からそれぞれ4000点、フランスからも3000点の粉ミルクが出品されている。(中略)

■尾を引く国産粉ミルク不信
2008年のメラミン入り粉ミルク事件に加え、昨年にも国産の粉ミルクから発がん性物質が発見されており、国民の国産粉ミルク不信は高まるばかりだ。
それでも、2012年の国連児童基金(ユニセフ)報告書によれば中国での母乳率はわずか28%だ。産休期間が短いことや粉ミルクメーカーの宣伝攻勢が背景にある。 

だが、購入者たちは中国市場で販売される商品に不信感を抱いている。欧州ブランドの粉ミルクでも中国市場向けパッケージで販売されているものは信用できないという。
消費者調査企業ユーロモニターによれば、中国は間違いなく世界最大の粉ミルク市場だ。「中国の若い親たちは国際的な粉ミルクメーカーの商品、特に製造国と同じパッケージのまま輸入されたものが、より安全だと考えている」とアナリストのベラ・ウォン氏は話す。
こうした中国で高まる海外ブランド粉ミルク志向が、欧州各国で粉ミルク不足を引き起こしているのだ。

■欧州では怒りの声も
ドイツメディアは空っぽになった粉ミルクの棚の写真を掲載。欧州最大の発行部数を持つビルト紙は1月、「アプタミル(ドイツの粉ミルクブランド)の棚の前でドイツの母親たちが『私たちの粉ミルクを中国人が買い占めた!』と怒っている」と報じ、アプタミルを製造するMilupaは、「アジア向け輸出」が原因だとしてアプタミルの品切れを謝罪した。
ただしMilupaは直接、アプタミルをアジアに輸出しているわけではなく、購入者はドイツ国内の商店で直接アプタミルを買っていると説明している。

こうした事態に欧州の各店舗は粉ミルクの購入数に制限を設け始めた。
ドイツの薬局チェーンDMはアプタミルの購入数を1回3箱までに制限。英国でも各スーパーがメーカーからの要請に応じて粉ミルクの購入数を1人あたり1日2缶までとした。Milupaの親会社ダノン(Danone)は「中国への非公認輸出」による粉ミルクの大量買いを防ぐための措置だと説明している。

中国経済紙「21世紀経済報道」によると、英国のスーパーマーケットで1週間に粉ミルクを100箱以上購入した中国人が入店を拒否されたという。
ドイツ・フランクフルト(Frankfur)近郊を拠点に中国人への粉ミルク販売を続けていた中国人男性はAFPに対し、最近は粉ミルクの入手が難しくなったため中国への粉ミルク販売業を止めてしまったと明かした。

だが粉ミルクの品切れや購入制限にも関わらず、シャオさんは諦めていない。「あるスーパーで粉ミルクが売り切れていたら、別のスーパーを探します。私がやっていることは(中国の)母親や子供たちのためなんです。私自身も母親なので、どんなに粉ミルクが大事か身をもって知っているから」【4月16日 AFP】
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ネットアンケートで共産党政権に否定的な答えが7~8割
ネット上での情報公開と規制に関しては、共産党一党独裁を否定するアンケート結果が公表されて話題となっています。

****8割が共産党に否定的 中国ネット調査、すぐ削除****
中国共産党の機関紙「人民日報」傘下の論壇誌「人民論壇」が、習近平(シーチンピン)国家主席が提唱する「中国の夢」に関するネットアンケートを実施したところ、共産党政権に否定的な答えが7~8割を占める事態になった。回答は15日に突然締め切られ、サイト上の回答結果も見られなくなった。

設問は4問。3千人以上から回答があった。「共産党に改革を進める勇気と知恵があると思うか」という問いでは、「完全に同意」「同意」は合わせても1割強だったのに対し、「同意しない」は7割を超えた。

さらに「中国の特色ある社会主義を守り発展させることは、人民の利益にかなうと思うか」「共産党だけが、中国の特色ある社会主義の道を人民がよく進むよう導けると思うか」「(共産党)一党が政権を担う制度をどう思うか」といった問いに対し、「同意しない」が約8割にのぼった。

中国版ツイッター「微博」では削除前の回答結果の画像が次々に転載され、「公開した担当者は勇気があるな」などと書き込みが続いている。【4月16日 朝日】
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アンケート結果内容も、それが公表されたことも驚きです。

ただ、ネットアンケートは統計的な手法に基づいた世論調査とはかなり乖離した結果が出やすい性格があります。
特に、サイトを見る人に一定の傾向がある場合は、そのサイト上でのアンケートはその傾向に沿ったものになりますから、国民全体の意見という訳ではないでしょう。
そうは言うものの、7~8割が現行政治体制を否定する回答をしたというのは興味深いところです。

そうした結果が公表されたというのは、もっと驚きですが、南方週末以来の政府による報道規制への反発が背景にあるようにも思えます。
そもそも、習近平国家主席が提唱する「中国の夢」をアンケート対象にすること、アンケートの選択肢からして、政府に対する相当な不満があるようにも見えます。

ネット世論を当局が管理しきれるか・・・という問題は、「中国の特色ある社会主義」が今後も持続できるかという問題にとって重要な影響を持つ問題です。
昨年末も、インターネットユーザーの「実名登録制」などの管理・規制強化が行われています。

****中国、ネット実名を義務化 市民の言論に影響も****
中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)常務委員会は28日、インターネットユーザーの「実名登録制」など、ネットの管理強化の義務化を決定した。個人情報の保護が目的だが、権力の監視役を担っている「ネット世論」を萎縮させかねないとの懸念が出ている。

「ネット情報保護の強化に関する決定」によると、ネット上に企業の顧客名簿が流出したり、個人のプライバシーが暴露されたりする問題が深刻化しているとして、ユーザーの身元管理を強化するため、メールやサイトを利用する際、実名で登録することを義務づけた。今後、関連法規が整備される見通しだ。

中国のネットユーザーは5億人超。市民がネットを通じて官僚の不正や腐敗を告発する動きが加速している。匿名性が奪われれば、ネット上での市民の言論活動が鈍る可能性がある。
告発メールを毎日平均2千件受けているサイト「人民監督網」の朱瑞峰氏は「実名制だと、当局に目をつけられた人がブログなどに登録できず、発言の場を失う恐れがある」と指摘している。 【2012年12月28日 朝日】
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フランス  元閣僚の脱税スキャンダルで支持率が急落するオランド社会党政権

2013-04-15 22:01:18 | 欧州情勢

(10日、元閣僚の脱税問題を受け対策を発表するオランド仏大統領 【4月11日 AFP】http://www.afpbb.com/article/politics/2938166/10563277?ctm_campaign=txt_topics

報道官より収入が少ないプーチン大統領
政治家とカネの話は今更の感がありますが、オバマ米大統領やロシアのプーチン大統領の収入となると多少は興味もわきます。

****オバマ夫妻の年収61万ドル…プーチン氏は*****
オバマ米大統領とミシェル夫人は12日、2012年の確定申告書を公開した。
大統領としての給与は39万ドル(約3800万円)で、これに著書の印税などを合わせ、夫妻の年収は計約61万ドル(約6000万円)だった。うち15万ドルは寄付したという。

大統領に就任し、著書がベストセラーになった09年の年収は550万ドルに達していた。その後、印税が減り、年収は11年の約79万ドルと比べ2割減った。

一方、ロシア大統領府は12日、プーチン大統領の2012年の所得を発表した。首相だった前年より200万ルーブル(約660万円)増え、約579万ルーブル(約1910万円)になったことがわかった。入れ替わりに、大統領から首相になったメドベージェフ氏の所得は581万ルーブルで、プーチン氏よりやや多かった。【4月15日 読売】
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アメリカ大統領の場合、選挙に要する巨額の費用がどのようにまかなわれているのか、寄付金だけで足りているのか・・・そのあたりはよく知りませんが、大統領を辞めてからの回顧録出版で相当の収入も見込めるのではないでしょうか。

ロシアのプーチン大統領については、大統領報道官より収入が少ないそうです。

****2012年のプーチン大統領の世帯収入、報道官より低かった****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の2012年の年収は570万ルーブル(約1800万円)と、ドミトリー・メドベージェフ首相とほぼ同水準だったものの、大統領報道官と比較すると大幅に低かったことが、ロシア政府が12日に公開したデータで明らかになった。
 
年収が最も多かったのは、政権の中でも有数の資産家で、経済政策を担っているイーゴリ・シュワロフ第1副首相。クレムリン(大統領府)のウェブサイトで公表されたデータによると、同副首相が申告した2012年の世帯所得は4億4840万ルーブル(約14億2000万円)で、その約半分は妻の所得だった。

メドベージェフ首相の年収は580万ルーブル(約1800万円)で、妻の所得申告はなかった。一方、ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は、妻と合計した世帯収入が1110万ルーブル(約3510万円)だった。

ロシアでは昨年から政府高官の所得の公開が義務付けられたばかり。シュワロフ第1副首相は昨年、その高額の所得で国民を驚かせ、自身の利害がロシアの法律に一切抵触していないことを明らかにせざるを得なくなった。
シュワロフ第1副首相の報道官が12日語ったところによると、同副首相は政府高官が海外で銀行口座や資産を保有することを禁じる法改正に対応するため、自身の資産を海外の口座や信託からロシア国内に移しているところだという。【4月14日 AFP】
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プーチン大統領については、その“お友達”が長者番付に名を連ねています。
“米フォーブス誌がまとめた13年版の長者番付によると、推定10億ドル(約945億円)以上の個人資産を持つ「ビリオネア」はロシアに110人おり、米国と中国に次ぐ3位。今回は、プーチン大統領の旧友として知られる石油トレーダーのティムチェンコ氏が、初めて十傑に入ったことが注目された。
同氏はプーチン氏がサンクトペテルブルク副市長だった1990年代からの親友で、独立系天然ガス企業「ノバテク」の大株主でもある。4年前に4億ドルだった推定資産は今や141億ドルに膨れ上がった。ノバテクの共同保有者であるミヘリソン氏も国内3位に順位を上げた。
十傑圏外ではあるが、60年代からプーチン氏の柔道仲間だったロテンベルク氏(パイプライン建設会社など保有)も資産33億ドルで31位につけている。”【3月30日 産経】

ロシアの政治・経済システムでは、権力との近さが何よりもものを言うようです。
その権力の中枢にいるプーチン大統領自身の収入はそんなに大きなものではない・・・ということですが、まあ、プーチン大統領なら咳払いのひとつでもすれば何十億ぐらいはすぐに誰かが持ってくる・・・とも思われますので(あくまでも想像ですが)、そんなに蓄財に励む必要もないのでしょう。

いくら蓄財に励んでも権力を失い失脚すれば、石油王手ユコスの元社長で、脱税などの罪で2003年に投獄されたミハイル・ホドルコフスキー服役囚のような立場になります。
蓄財よりは、少しでも長く権力を維持し、辞めてもなお影響力を失わないことが重要です。

【“シャンパン社会主義者”】
今朝のTVニュースを横目で眺めていたところ、フランス・オランド社会党政権の閣僚のなかに富裕税の対象となる資産家が少なくとも3名いるとかで、オランド大統領が対応に苦慮している・・・といった内容のニュースがありました。

資本主義を攻撃し、金持ちは何らか不正を働き、貧しい労働者を搾取することで資産を増やしていると考える従来の左翼的発想からすれば、口では労働者の味方を標榜しながら、自身は資産をため込んでいる“シャンパン社会主義者”“キャビア左翼”とも揶揄されるような存在というのは位置付けが難しいところがあります。

ただ、中国共産党に金持ち資本家が入党できる現代ですから、社会党政権閣僚に金持ちがいたとしても驚きでもなんでもありません。
主義・主張の問題と、自身が資産を持っているどうかとういうことは別物なのでしょう、きっと・・・・恐らく・・・・多分。

もっと言えば、自分を含めてみな多かれ少なかれ“口だけ”のところはあって、普段言っていることと、日頃の行いに乖離があるのはごく普通のことです。

清廉さ売りの社会党政権、スキャンダルでダメージ
しかし、カユザック予算相が脱税疑惑で辞任に追い込まれ、支持率が急落するオランド大統領にとって対応が難しいというのもわかります。

****オランド仏政権、支持率急落 脱税疑惑で予算相辞任****
オランド政権は政治的にも難しい局面に立たされている。失業増に国民の不満は高まり、支持率は30%台に低迷。19日には、カユザック予算相が脱税疑惑で辞任に追い込まれた。

脱税疑惑はネット新聞「メディアパルト」が昨年末に報じて表面化した。スイスの大手銀行の口座を使い、その口座を閉じた後はシンガポールに資金を移したという内容だった。潔白だと主張してきたが、パリ検察当局が捜査に着手する意向を発表すると一転した。オランド氏も辞意を受け入れざるを得なかった。

幕引きを急ぐのは、いっそうの緊縮型となる予算案づくりが避けられないからだ。担当閣僚が捜査への対応に追われれば、ユーロ危機からの出口を示せない政権に風当たりが強まるのは必至だ。

18日のオピニオンウエー社の世論調査ではオランド氏の支持率は31%と前月から8ポイント急落した。西アフリカ・マリへの軍事介入でやや上向いた支持はしぼんだ。
最大野党の民衆運動連合(UMP)は20日、オランド政権の経済運営を批判して、下院に内閣不信任案を提出した。与党・社会党が単独過半数で否決したが、政権の衰えを印象づけた
【3月25日 朝日】
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オランド大統領は国民の信頼回復のために、公務員の監視や脱税の取り締まりの強化などの対策を発表しています。

****租税回避地の根絶を」、元閣僚の脱税問題を受け対策発表 仏大統領****
フランスの元閣僚がスイスに脱税用の隠し口座を持っていた疑いで訴追された問題で、フランソワ・オランド大統領は10日、租税回避地(タックスヘイブン)の「根絶」を目指すとともに、公務員の監視や脱税の取り締まりの強化などの対策を取ると述べた。

ジェローム・カユザック前予算担当相は、国外口座に約60万ユーロ(約8000万円)の資産を隠し持っていたことを認め、先週訴追された。このスキャンダルの収拾に奔走しているオランド大統領は、「過剰な金、欲、隠し資産に対する容赦なき戦い」を挑むと述べた。

オランド大統領が閣議後の記者会見で明らかにした一連の対策には、銀行が国外で行っている活動を明るみに出すことによってタックスヘイブンの利用を制限することも含まれている。
大統領は「タックスヘイブンを欧州、そして世界から根絶しなければならない」と主張し、フランスの銀行に対し、世界各地に持つ子会社の一覧の公表と活動内容の報告を毎年求めていくことになると述べた。オランド大統領は、この対象を欧州連合(EU)全域の銀行と大手企業にも拡大したいとしている。

大統領はまた、公務員への国民の信頼を回復するため、閣僚や議員などの資産や利害関係を監視する「完全に独立した政府機関」を設立するとも述べた。脱税対策の強化を目指す新法の法案は今月24日までに議会に提出される見込み。【4月11日 AFP】
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カユザック予算相の案件が表ざたになったのは、だいぶ以前、昨年12月のことです。
以来ずっと本人が潔白を主張し、大統領・首相もその説明を受け入れてきただけに、逃げ切れなくなって「いや、実は・・・」という展開には国民も失望・怒りを感じているようです。
派手で攻撃的なサルコジ前大統領にいささか辟易して、カリスマはないものの誠実・清廉そうなオランド氏を選択したフランス国民からすれば、「結局、同じじゃないか・・・」といった感もあるようです。

更に、オランド大統領は本当に真相を知らなかったのか、知っていて隠し通そうとしたのでは・・・という疑念も一部からは持たれています。

今朝TVで報じていたオランド政権閣僚の話が、“閣僚や議員などの資産や利害関係を監視する「完全に独立した政府機関」”絡みの話なのか・・・そこらの詳しい話は知りませんが、こういう政治不信・社会党政権への失望が高まっている政治状況で金持ち閣僚の処遇に苦慮・・・ということのようです。
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キプロス危機、“一応”回避 “一人勝ち”ドイツの内情

2013-04-14 20:46:35 | 欧州情勢

(EU加盟の旧共産圏国の中で唯一、大半の銀行セクターを民営化することを拒否しているスロベニアでは、銀行セクターはGDP比20%に相当する70億ユーロの不良債権を抱えているとされ、キプロスの次は・・・と金融不安が大きくなっています。国民の間にも、キプロス同様の預金課税や預金き出し凍結などの措置への不安が広がっているとも。 “flickr”より By 757Live http://www.flickr.com/photos/757live/8623076100/

キプロス:GDPの約7割に相当する自己負担
人口80万、GDP178億ユーロの小国キプロスの金融破たんが欧州経済を揺さぶっていましたが、現段階では一応の対応策がとられた・・・ということになっています。

キプロスでは経済全体が金融業に依存していますが、そのキプロスの銀行はギリシャ国債を大量に持っていたため、ギリシャの財政危機に伴って経営危機に陥りました。キプロスの金融機関が持つ資産はGDPの約7倍もあるため、政府は自力で救済できず、EUへの支援を要請していました。
また、これまでキプロスが低い税率でロシアなどの金融資本を集め、脱税の温床と疑われていることもEU側の対応を難しくしました。

財政規律・モラルハザードを重視するドイツなどのEU側の要請もあって、預金者に一定の負担を求める形の対策が検討され、預金封鎖などの社会混乱を招いたことは周知のところです。

結果的に、キプロス国内の2大銀行の10万ユーロ(約1200万円)超の大口預金者に相当の負担を強いる形になりましたが、その大口預金者の多くがロシア人ということで、ロシアの対応が注目されていました。
そのロシアのプーチン大統領とEUを主導するドイツ・メルケル首相が8日会談を行い、一定の合意に達したもようです。

****ロシア:対キプロス、返済条件緩和へ…独首相と会談****
ロシアのプーチン大統領は8日、訪問先のドイツ北部ハノーバーでメルケル首相と会談した。記者会見でプーチン氏は、キプロスへの金融支援について「欧州委員会の依頼に沿い、ロシアは11年に実施したキプロスへの融資25億ユーロ(約3225億円)を整理すると決めた」と表明した。キプロス側から要請されていた返済条件緩和に応じるとみられる。(後略)【4月9日 毎日】
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12日にはユーロ圏財務相会議が行われ、キプロスへの最大で100億ユーロ(約1.3兆円)の金融支援を行う方針を決めたことで、キプロスが債務不履行に陥る事態は避けられました。

****EU:キプロスへの3兆円の財政再建策を決定****
欧州連合(EU)のユーロ圏17カ国は12日、アイルランドの首都ダブリンで財務相会合を開き、債務危機のキプロスに対する総額230億ユーロ(約3兆円)の財政再建策を正式決定した。

想定を上回る経済の悪化で、再建に必要な財政資金は当初見込み(175億ユーロ)から大幅に拡大。この結果、ユーロ圏などから支援を受ける条件としてキプロスが自力で調達する資金額は、当初予定の58億ユーロから130億ユーロに膨らんだ。国内総生産(GDP)の約7割に相当する自己負担は、今後のキプロス経済に深刻な重荷になりそうだ。

再建策は、2016年1〜3月期までの3年間にキプロス政府が必要とする財政資金の不足額を補う内容。キプロスは、国内大手2銀行の10万ユーロ超の高額預金者に一定の負担を強制する措置で106億ユーロを捻出するほか、法人税増税や中央銀行が保有する金の売却などで必要額を賄う。ユーロ圏諸国とIMFは、当初の予定通り最大100億ユーロを融資する。

IMF理事会と、ドイツなど各国の議会による承認を経て、第1弾の融資が5月中にも実施される見込み。ただ、キプロス政府は4月の公務員給与や年金支払いに必要な財政資金も不足していると表明しており、支援実行まで綱渡りの財政運営が続く。銀行の経営危機をきっかけに信用不安が深刻化したキプロスは昨年6月、EUなどに支援を要請した。【4月12日 毎日】
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このEU支援策は、素人的には不思議でもあります。
“ユーロ圏などから支援を受ける条件としてキプロスが自力で調達する資金額は、当初予定の58億ユーロから130億ユーロに膨らんだ”とのことですが、58億ユーロの調達すら右往左往していたキプロス政府にその倍以上の資金が調達できるのでしょうか?

とにかくEU側としては最大100億ユーロしか出せないという制約が前提にあり、あとは実現できようが、できまいが、とにかく自己調達する形にして数字のつじつまを合わせた・・・といった感もあります。

当然、今後キプロス国内において、この130億ユーロをどうするのか、その結果、国民生活にどのような結果が及ぶのか・・・ということが問題になりますが、その状況如何では、危機の再燃もあるのではないでしょうか。
また、EU支援策を議会で審議するドイツなどでは、本当にキプロスは自己調達できるのか?ということが問題になるのではないでしょうか。

EU側としては、これでキプロス問題をクリアしたいところですが、オランダのデイセルブルム財務相が3月25日、「キプロスの銀行再編はテンプレート(雛形)になる」という趣旨の発言をしたことで、大口預金者らに負担を強いる今回の支援策が他のユーロ圏の国にも適用されるという憶測から、キプロス同様に金融問題を抱える欧州各国への影響も出ています。
市場の敏感な反応に、「キプロスは特殊な例」と打ち消す騒ぎにもなりましたが、財政規律を重視するドイツなどの本音ともとられています。

失業率が25%ほどにもなるような国と完全雇用に近いような国が同一通貨を使用し、財政政策などは各国が独自に策定するといった、ユーロ圏の基本的枠組みが抱える問題は相変わらずですから、ギリシャ、キプロスに続く問題が発生するであろうことは容易に想像できます。

ドイツに対するルサンチマン
また、ギリシャ危機以来の一連の混乱のなかで、経済的に強いドイツと弱い立場にある問題国の間での相互不信・軋轢も表面化しています。

****混乱で一段と、憎まれ役ドイツの一人勝ち****  
預金課税に揺れた「キプロス発の欧州危機再燃」はひとまず避けられた。欧州連合(EU)などの金融支援が基本合意に達し、当局者は収拾に躍起だ。だが一連のゴタゴタは、最強国ドイツの突出と再建に苦しむ他国の停滞という欧州のいびつな力関係を露呈した。

2007年から12年5月まで在任したキプロス中央銀行のオルファニデス前総裁が、英エコノミストの電話・書面のインタビューで、キプロス危機の背景を率直に説明している。前総裁は、ギリシャ国債の民間投資家に損失負担を求めるEU合意と、欧州の銀行監督当局が域内行に自己資本比率の大幅引き上げを課した規制が、キプロスの主要行の資本不足を深刻にした、と明かす。どちらもドイツの強い意向が働いた。

 ■預金者に負担強いた背景に独総選挙
では今回、預金者にも負担を強いる前代未聞の支援策が急浮上したのはなぜか。前総裁は「(9月の)ドイツ総選挙」を背景に挙げる。メルケル独首相が再選を狙う一方、周辺国を助けるのに寛大だった最大野党のドイツ社会民主党(SPD)が金融支援に一転して慎重になったという解説だ。実際、預金者による負担をより強く求めたのはSPDの方だとの指摘もある。

低い税率でロシアなどの金融資本を集め、脱税の温床と疑われるキプロス。南欧支援に疲れたドイツの納税者が、ロシアの富裕層を助けるような融資に納得できるはずがない――。キプロスの預金者に負担を求める処理策の決定過程に、独政党による総選挙への駆け引きがあったのは間違いない。

逆にドイツ側には、キプロス問題でまたも自らの厳しい姿勢が批判の矢面に立たされることへのいら立ちが募り続けている。
南ドイツ新聞は、少額預金者への課税を決めようとしたのはキプロス自身だとするショイブレ財務相の反論を紹介。財務相が「ババ抜きのババ」、つまり混乱の責任をかぶせられたと指摘した。「キプロスの銀行側も損失を分担しなければ、金融支援策は独議会で過半数の支持を得られなかった」という与党側の見方も伝えている。

普段はドイツに厳しい英FT紙も「冷戦時代の米国と同じように、何をしようともドイツが仲間の国に非難されるという感情がベルリンに広がっている」と、同情的な解説を載せた。ギリシャやスペインでみられたように、キプロスでもメルケル首相とヒトラーを同列視するデモ行進が目立った。危機でも粘り強いドイツに対するルサンチマン(強者に対して弱者が抱く屈折した感情)の動きに嫌気がさす、というのが、偽らざるドイツの人々の心境だろう。

救われる側、助ける側の双方の間で広がる感情の溝はいつになったら埋められるのか。それはまだ見通せない。皮肉なことに、ドイツに経済規模で続く欧州の「FISH」(フランス、イタリア、スペイン、オランダ)はいずれも失業率の高止まりや経済の不振、あるいは政治の不安定に悩んでいる。

 ■南北間を取り持つ指導力が不在
ドイツ流緊縮主義に反旗を翻して昨年5月の大統領選挙を制したオランド仏大統領だが、脱税疑惑が浮上した予算担当相の辞任劇など、内政の実績でいいところがない。メルケル独首相に成長路線で対抗したイタリアのモンティ首相は総選挙で自党の支持が10%台に低迷、発言力を失った。相対的にドイツの「一人勝ち」の構図がよりくっきりする。

キプロス問題を巡り、ドイツの考え方に近いオランダのデイセルブルム財務相が「大口預金者の負担が今後の銀行処理のひな型になる」という趣旨の発言をしたことで、金融市場は金融部門に問題を抱える周辺国の不安再燃を懸念し始めている。納税者の支援に安易に頼る「モラルハザード」を防ぎたいドイツや「北の欧州」の論理と、まずは足元の危機の火元を消したい南欧勢の思惑のずれ。その間を取り持つ指導力の不在が気になる。【4月8日 日経 編集委員 菅野幹雄】
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ドイツ経済に翳り 政治状況も微妙
“一人勝ち”と言われるドイツも問題を抱えています。
先ず、肝心の経済の先行きが少々怪しくなっていることです。

****大黒柱ドイツも景気後退の瀬戸際に****
ユーロの大黒柱まで倒れるかもしれない。ユーロ圏最大のドイツ経済が先月、景気後退寸前の水準まで減速していたことが分かった。

製造業とサービス業の経済活動の指標である「購買担当者景気指数(PMI)」は、景気拡大と景気後退の分かれ目である50をもう少しで下回る50・6まで下落。2月の53・3から大きく低下した。
PMIを算出している英金融情報会社マークイットの主任エコノミスト、クリス・ウィリアムソンは、「ユーロ圏で唯一の希望の星が、輝きを失おうとしている」と言う。
ユーロ圏全体のPMIも2月の47・9から46・5に低下し、経済活動の収縮が一層進んでいることを示した。回復の兆しは見えないと、ウィリアムソンは言う。

だがマークイットのデータにもわずかながら希望はある。企業の1年後の景況感予測は、調査がキプロス危機さなかの3月に行われたにもかかわらず2ヵ月ぶりに上昇した。
それでも全体として見れば、依然として綱渡りが続くユーロ圏経済。ドイツの景気悪化が最後の一撃にならなければいいが。【4月16日号 Newsweek日本版】
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もうひとつは政治の問題。
国際的にはヒトラーとも同列視されるほどの絶大なリーダーシップを発揮しているメルケル首相ですが、国内の政治状況はそれほど盤石でもありません。

メルケル首相率いる民主・社会同盟の支持率は昨秋から40%前後で推移し、05年以来の高水準が続いていますが、現在の連立相手である保守系の自由民主党は議席獲得に必要な5%も危うい状況で、9月に予定されている総選挙での過半数確保は微妙とも見られています。

そこで、福島事故後に国内で高まった「反原発」世論に乗り15%ほどの支持率を持つ環境政党・緑の党と国政で初の連立を組む可能性が浮上しています。
民主・社会同盟は原発推進派でしたがが、福島第1原発事故後に「脱原発」へと転換を図り、緑の党との「垣根」が低くなったことも、この連立案の背景にあります。
緑の党も昨年11月、保守色が強いカトリン・ゲーリングエッカート氏を「党の顔」となる首相候補の一人に選び、政権党との連立に向けた環境を整えつつあるとのことです。【2月2日 毎日より】

こうした微妙な政治状況のなかで、“脱ユーロ”を訴える新党の存在が注目されています。

****ドイツ:脱ユーロ新党結成 総選挙に影響も****
9月に連邦議会選(総選挙)を控えるドイツで、欧州共通通貨ユーロからの脱退と旧通貨マルクへの回帰を訴える新党が結成された。経済大国ドイツでは、自らの税金が財政危機国支援に次々に使われることへの不満も根強く、2月の世論調査では3割超がマルク復活を望んでいる。
新党はユーロ問題にほぼ特化しているため、国政での議席獲得に必要な「得票率5%以上」を達成できるかは微妙だが、ユーロに懐疑的な票が流れれば、選挙の「台風の目」になる可能性もある。(中略)

ドイツには現在、ユーロ脱退を掲げる主要政党はなく、新党の広報担当ベルント・ルッケ氏は独誌に「ユーロは欧州を崩壊させている。だがユーロを批判する政党がドイツにないのは、まるで思想統制のようだ」と語る。

9月の総選挙では、メルケル首相率いる連立与党の中道右派陣営に、野党の中道左派陣営が挑む構図。だが両陣営とも現段階では過半数確保は難しい見通しで、この「脱ユーロ新党」の得票次第で選挙結果が左右される可能性もある。

新党の基盤は保守層が多いため、保守系与党のキリスト教民主・社会同盟のフォルカー・カウダー議員団長は「ドイツの豊かさは、団結した欧州の上に成り立っている。この新党が有権者を説得できるとは思えない」と述べ、「保守票切り崩し」に危機感を強めている。
イタリアでは2月の総選挙で反ユーロ姿勢の新興政治団体が第3勢力に躍進した。【4月1日 毎日】
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イタリアの五つ星運動ほどの大躍進でなくとも、「得票率5%以上」をクリアして一定議席を確保できれば、連立においてキャスティングボードを握る立場にもなります。
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アメリカとロシア  人権問題での対立続く 安全保障面では対話の動きも

2013-04-13 22:25:30 | ロシア

(雪の中、日本から贈られた秋田犬“ゆめ”と戯れるプーチン大統領 なお、もう1頭はブルガリアから贈られた“バフィー”です。 米ロ関係の今後は、このプーチン大統領次第でもあります。【4月11日 AFP】http://www.afpbb.com/article/politics/2938157/10563518

互いに制裁を発動し合う異常事態
国際関係の中心がアメリカ・中国関係に移り、アメリカ・ロシア関係は冷戦時代のような注目は集めていませんが、“米露関係は最近、ロシアの人権状況を問題視するオバマ政権・米議会と、これに反発するプーチン政権が互いに制裁を発動し合う異常事態となっている”と、ギスギスした関係が続いています。
この異常事態の中心にあるのは、ロシア政府の不正を追及したセルゲイ・マグニツキー弁護士の獄死事件です。

****米国:露官僚ら入国禁止 露も対抗措置へ*****
米財務省は12日、ロシア政府の不正を追及したセルゲイ・マグニツキー弁護士の獄死事件に関与したとして、ロシア内務省官僚ら18人に対して米国内法に基づく制裁を発動したと発表した。18人の氏名を公表した上で米国管理下の資産を凍結し、米国への入国を禁止した。
一方、ロシアも対抗措置として入国禁止にする米国人のリストを一両日中に発表する方針だ。

米露関係は最近、ロシアの人権状況を問題視するオバマ政権・米議会と、これに反発するプーチン政権が互いに制裁を発動し合う異常事態となっている。
オバマ政権のドニロン大統領補佐官(国家安全保障担当)が14、15日に訪露し、核軍縮やシリア情勢への対応を巡って協議するが、両国の関係冷却化は長引きそうな雰囲気だ。

マグニツキー氏はロシア高官の汚職などを追及していた08年11月、英投資会社の脱税に関与したとして逮捕され、翌09年11月に獄中死した。
米議会は拷問の末に殺害された疑いを抱き、昨年12月に成立させた対露通商規制条項(通称ジャクソン・バニク条項)を撤廃する法律に、拷問に関与した疑いのある人物への制裁を盛り込んだ。今回の入国禁止発動はこれに基づく措置で、ロシア内務省や拘置所の幹部などが対象とされた。

一方、ロシアのぺスコフ大統領報道官は今回の米国の措置について「米露関係に否定的な影響を与える」と懸念を表明。ただ、今回のリストの中にロシア政府高官は含まれておらず、対象人数も比較的少なかった。このため「米政府が対露関係に与える損失を最小限に抑え、ロシアとの対話を継続しようとしていることの表れ」(プシコフ下院外交委員長)と冷静に受け取る向きもある。【4月13日 毎日】
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このセルゲイ・マグニツキー弁護士の獄死事件に関しては、昨年末にも米ロの間で実質的制裁の応酬がありました。

****ロシア:米向け養子縁組「禁止」 人権巡り対抗****
米政府が人権問題で新たにロシアへの制裁を発動し、対抗措置としてロシアで、人権問題を理由に自国の子供を米国へ養子に出すことを禁止する法律が来年1月にも成立する可能性が出てきた。だが外交上の駆け引きに子供の問題を持ち出す事態にロシア国内でも批判の声が上がっている。

ロシア議会が審議している法案は、米国に養子として引き取られたロシアの幼児が放置されて死亡した過去の事件を引き合いに、人権擁護の立場から米国民との養子縁組を禁じるもの。死亡した幼児の名前から「ジーマ・ヤコブレフ法案」と呼ばれている。下院は21日、賛成420、反対7で可決し、上院も26日に採決する見通し。プーチン大統領が年内に署名すれば来年1月1日から施行される。

この法案が急浮上した大きな理由が米国側の対露制裁措置だ。
ロシアの動きに先立ち、オバマ米大統領は今月14日、74年から続けてきた対露通商規制条項(通称ジャクソン・バニク条項)を撤廃する法案に署名。ロシアが8月に世界貿易機関(WTO)に加盟したことを受け、米企業の対露進出を促す措置だったが、同時にロシア人弁護士のセルゲイ・マグニツキー氏が09年に獄中死した事件をめぐり、虐待に関与した疑いのあるロシア政府当局者の米国入国を禁じる条項も法案に盛り込んだ。
米議会の指導部が国内の対露批判に配慮したためだ。マグニツキー氏は当時、脱税に関与した容疑でロシア当局に逮捕され調べを受けていたが、逆にロシア政府当局の汚職も告発していた。

これに反発するロシア政府は今月、米国産食肉に対する事実上の輸入制限を始めた。養子縁組禁止の法案についても、プーチン大統領は「感情的だが、適切な措置」と理解を示し、署名へ含みを残している。
米国は99年から昨年までに約4万5000人のロシア人を養子として引き取り、最大の引受先となってきた。そのため養子縁組が禁止されれば、約70万人といわれるロシアの孤児にとって大きな打撃となる。

ロシアでは法案の見直しを求める署名活動も行われ、約10万人が反対を表明。「米国との養子縁組協定を破棄すれば、海外に(恵まれない)子供を引き取ってもらう道を閉ざしてしまう」とラブロフ外相が指摘するなど、政府内の意見も割れる事態となっている。【2012年12月26日 毎日】
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プーチン大統領はこの養子縁組禁止法案について、「ロシア議会による感情的な対応であることは理解しているが、(法案は)適切だと考えている」とコメント。
アメリカからの人権批判につては「米国こそ問題だらけだ。これまでも指摘してきた(米兵によるイラク人収容者虐待があった)旧アブグレイブ刑務所や(キューバの)グアンタナモ米海軍基地がいい例だ」と述べ、ロシアの司法制度に口出しする倫理的な権利をアメリカは持たないと反発、法案にも署名し、法律は今年1月から施行されています。

欧州でのミサイル防衛(MD)計画凍結で、対話の動きも
一方、安全保障問題では、両国間で懸案となっていたアメリカの欧州ミサイル防衛(MD)計画が北朝鮮問題の余波を受けて凍結されたことで、歩み寄りの動きが出ています。

****ロシア:安保ハイレベル対話へ 米MD計画凍結で****
ロシアは米国が欧州でのミサイル防衛(MD)計画を凍結したことを受け、安全保障問題に関するハイレベルの対話に乗り出した。米露は昨年後半から人権問題やシリア情勢をめぐり対立を深めてきたが、関係の冷却化に歯止めをかける狙いのようだ。

露国防省によると、ショイグ露国防相とヘーゲル米国防長官は25日に電話で協議し、次官級協議を再開させ、ミサイル防衛問題や国際情勢を議論していくことで一致した。ショイグ氏はさらに、ヘーゲル氏を5月下旬にモスクワで開く安全保障に関する国際会議に招き、国防相会談の開催も打診。「国防当局の対話に秩序をもたらしたい」と訴えた。

また、25日には米国のドニロン大統領補佐官(国家安全保障担当)が4月15日にロシアを訪れ、パトルシェフ安全保障会議書記と会談する日程も明らかになった。プーチン大統領も日程を調整できれば、ドニロン氏との会談に応じる可能性があるという。

米国は今月15日、北朝鮮の核兵器と弾道ミサイルに対処する狙いで、西部アラスカ州で地上配備型の迎撃ミサイルを追加配備すると発表。財源としてポーランドなどで配備する予定だった迎撃ミサイルを凍結し、予算を回す方針を示した。

ロシアは米国に対し、欧州でのミサイル防衛計画が自国の弾道ミサイルを標的にしていないことを文書で確約するよう要求している。米国が欧州での迎撃ミサイル配備を放棄していないことから、ロシアは「懸念が残されている」(ウシャコフ大統領補佐官)と主張するが、配備が先延ばしにされた点を考慮し、対米姿勢を軟化させている模様だ。

米露関係では、オバマ米政権が昨年12月に人権弾圧に関与したロシア政府当局者に対する制裁を発動したことに対し、プーチン政権が米国民との養子縁組を禁止するなど、「報復合戦」が起きていた。そのためオバマ大統領が今年前半に予定していた公式訪露が9月に繰り延べされることが確実になり、外交日程にも支障を及ぼしていた。【3月26日 毎日】
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戦術核削減問題に向けた対話への期待
この流れを受けて、3年前にアメリカとロシアが調印した戦略核弾頭の配備上限をそれぞれ1550発に削減する新戦略兵器削減条約(新START)では対象外となっている戦術核弾頭の削減の問題にも動きが出ています。

****NATO:戦術核削減、露が対話姿勢に****
ラスムセン北大西洋条約機構(NATO)事務総長との会見で、NATOが射程の短い戦術核の削減について検討を重ねていることが明らかになった。事務総長が「期待」を述べる背景には、ロシアが対話に転じた事情がある。「核兵器なき世界」の一端をNATOが実現できるかは、ロシアが警戒する米が進めるミサイル防衛計画とも密接に関連し今後、ロシアの動向がカギを握る。

NATO外交筋は、23日にブリュッセルで開かれるNATO外相会議にラブロフ露外相が出席することを明らかにした。先月、米国は北朝鮮の脅威に対応するため、欧州でのミサイル防衛を凍結して、米本土で展開する方針を発表。NATO外交筋は、「欧州での米国のミサイル防衛計画の一部が凍結され、ロシアの不安が取り除かれた」と話し、時間はかかるがNATOとロシアの対話が進展すると語った。

ここ数年、NATOとロシアの関係は冷え込んでいた。最大の障害は、米国が2020年まで4段階で計画していた欧州でのミサイル防衛整備計画だ。NATO側はイランの脅威を強調し、ロシア向けでないとしてきた。しかし、ロシアは信用せず、ミサイル防衛の共同運用やロシア向けでないとの法的保証を求めてきた。

世界の核兵器の大半は米露が保有。大陸間弾道弾など射程の長い核兵器は10年に調印した米露の新戦略兵器削減条約(新START)で配備上限を各1550発にすることで合意している。しかし、射程500キロ以下の戦術核については米露間の条約や対話の枠組みには含まれておらず、課題となっていた。

戦術核は東西冷戦の中で欧州に集中的に配備され、冷戦終結時にロシアは約2万発、米国は約4000発を保有していた。専門家によると現在、米国は160〜200発に大幅に削減した一方、ロシアは依然、3000発以上を維持。通常戦力で劣るロシアにとって、戦術核は捨てがたい事情がある。【4月11日 毎日】
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一期目に「核なき世界」を掲げたオバマ政権ですが、核弾頭の維持管理費は毎年300億〜400億ドル(2兆8500億〜3兆8000億円)に上り、核軍縮は巨額の財政赤字への対応策でもあります。

交渉はまだ“これから”の段階で、NATO事務総長も“「私たちは無邪気ではない」と話し、NATO加盟国が冷戦終結後、戦術核を大幅に削減したのにロシアが大量に維持する現状を指摘。削減は「ロシアの意思にかかって」おり、ロシアと相互に減らす「バランスの取れたものにすべきだ」とした”【4月11日 毎日】とのもとです。

また、アメリカ国内においても、共和党との対立が先鋭化している議会で承認がえられるか・・・という問題があります。
“オバマ政権と野党共和党との関係の悪さも核軍縮の足かせになっている。政権がロシアと条約を調印しても、批准に協力しない可能性が強い。米露核軍縮に詳しい米シンクタンク・ブルッキングス研究所のスティーブン・パイファー氏は、オバマ政権が批准を必要としないロシアとの「政治的合意」による核軍縮を狙う可能性を指摘する。”【4月8日 毎日】
イランは核開発を続行し、更に、北朝鮮のような核を振りかざす国が出てくると、アメリカ議会での核軍縮の承認は難しいかもしれません。

それはともかく、冷戦時代に比べるとすでに大量の核兵器が廃棄されてきている訳ですが、その処分・管理は大丈夫なのでしょうか?
特に、ロシアの場合、廃棄された核兵器の核物質が闇市場に流れるようなことはないのでしょうか?
やや不安を感じる部分ではあります。
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ベネズエラ  14日に大統領選挙投票 故チャベス大統領の「社会革命」の行方は?

2013-04-12 23:22:32 | ラテンアメリカ

(野党側からは「チャベス氏の亡霊と戦っているようだ」との声も 与党マドゥロ候補の選挙運動を行う故チャベス大統領の亡霊ならぬ、そっくりさん。 “flickr”より By Urbeguayana.com  http://www.flickr.com/photos/urbeguayana/8621489893/

チャベス流「社会改革」継続か、ブラジル型の経済モデルか?】
南米ベネズエラで「国内では社会主義政策、国外では革命を広めようとしたカリスマ的扇動政治家」(米紙ウォールストリート・ジャーナル)チャベス前大統領の死去を受けて行われている大統領選挙は11日で公式の選挙戦を終了し、14日に投票が行われます。

****ベネズエラで14日に大統領選、試される故チャベス大統領の「社会革命****
14日にベネズエラで行われる大統領選挙は、故チャベス大統領自らが「社会革命」と宣言した政策の成果を試すものとなりそうだ。

大半の世論調査では、チャベス氏死去への同情票も集まって後継者のマドゥロ暫定大統領(50)が、野党候補で州知事のカプリレス氏(40)を大きく引き離している。両候補は11日に公式の選挙運動を終了した。
マドゥロ暫定大統領はチャベス氏の路線を維持することを誓っており、カラカス郊外で支持者に対して、「私がチャベス氏の後継だ。大統領になる準備はできている」と意気込みを示した。

一方のカプリレス氏は、チャベス政権下で14年間にわたって対立を招いた政治を終わらせ、国民の最大の関心事となっている犯罪を撲滅すると表明した。産業を促進しながら、社会保障への支出を手厚くするブラジル型の経済モデルを推進すると表明している。【4月12日 ロイター】
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選挙戦の話に入る前に、上記記事の“国民の最大の関心事となっている犯罪”については、下記の関連記事もありました。

****囚人がストリップ嬢とマリファナパーティー ベネズエラの刑務所 ナイトクラブも運営****
カリブ海に浮かぶベネズエラ北部マルガリータ島の刑務所で、服役囚がナイトクラブを勝手に開業し、家族や友人を招いてパーティーを開催していたことが明らかになった。
ストリッパーも交えたドンチャン騒ぎにあきれる声も多いが、囚人による「やりたい放題」は恒常化しているようだ。
背景には、治安の悪化でベネズエラ国内の刑務所が過密状態にあり、刑務官へのわいろや暴力がはびこっているという、笑えない実態がある。無法地帯と化した刑務所内では、毎年数百人が殺害されるなど、事態は深刻だ。(中略)
ベネズエラの犯罪率は高く、世界でも最悪の水準。このため、国内に30カ所以上ある刑務所は規定を超える収容者と暴力に悩まされており、2012年だけで600人近い囚人が命を落とした。
NGOによると、ベネズエラの刑務所には、定員1万6500人に対して、3倍の4万8000人が収監されているという。実に、囚人の1%以上が毎年、刑務所内で殺害されている計算だ。(後略)【4月7日 産経】
*********************

【「チャベスが路線を敷き、マドゥロがハンドルを握る」】
で、選挙戦の方は、大方の世論調査でチャベス大統領の後継者として「弔い合戦」に臨むマドゥロ暫定大統領が野党候補のミランダ州知事・カプリレス氏を大きくリードしていると伝えられています。
今回選挙戦は期間が短かったこともあって、両候補の激しい中傷合戦に終始したとの報道もあります。

****14日にベネズエラ大統領選 チャベス氏後継、大きくリード****
手法を踏襲 さながら「弔い合戦」
南米ベネズエラの反米左翼チャベス氏の死去に伴う大統領選が14日、行われる。チャベス氏の後継者であるマドゥロ暫定大統領(50)と、野党統一候補のカプリレス・ミランダ州知事(40)との一騎打ち。国内では貧困層へのバラマキ政策、外交では反米主義を推し進めた「チャベス路線」の踏襲か決別かが最大の焦点となる。
                   ◇
昨年10月の大統領選では、カプリレス氏が44%を得票して善戦したのに対し、チャベス氏は過去最低の54%にとどまった。しかし、チャベス氏の“弔い合戦”の様相をみせる今回の選挙では、後継者のマドゥロ氏に支持が集まっている。最近の世論調査では、マドゥロ氏の支持率は53~55%と、カプリレス氏(支持率30~35%)を大きく上回っている。

マドゥロ氏はチャベス氏に積極的に言及することで、基盤を固めようと躍起だ。地元メディアによれば、チャベス氏が死去した3月5日から16日間、ラジオやテレビでチャベス氏に言及した回数は3456回に上った。不利な戦いを強いられる野党陣営からは、「チャベス氏の亡霊が徘徊(はいかい)している」との嘆きが漏れるほどだ。
マドゥロ氏はまた、チャベス政権時代の14年間に1社から4社へと増えた国営テレビを活用し、長時間にわたって政治主張を展開。野党側がケーブルテレビを通じて政治広告を放映できるのは1日4分に限られている。

マドゥロ氏はチャベス氏同様、豊富な石油資源をもとに医療費無料化や無償住宅提供、年金拡充などのバラマキ政策を公約に掲げる。元バス運転手のマドゥロ氏はその経歴を揶揄(やゆ)されることも多いが、最近はそれを逆手にとって自らバスを運転し、「チャベスが路線を敷き、マドゥロがハンドルを握る」と“庶民の味方”を強くアピールしている。

昨秋まで約6年間、外相を務めたマドゥロ氏は外交面でもチャベス路線を継承する方針で、3月上旬には米外交官2人を追放。最近は米国との非公式交渉チャンネルも遮断した。また、「米国はカプリレス氏を暗殺してベネズエラ政府の仕業と見せかけ、国中を混乱させようとしている」と対米批判を展開。“反米闘士”としての人気上昇を狙うとともに、野党陣営も揺さぶっている。

一方、カプリレス氏は社会福祉政策を充実させつつ、市場経済重視の「ブラジル型社会」構築を公約に掲げる。外交面では、対米関係改善を図るとともに、日量約10万バレルの石油を特恵価格で送っていたキューバとの関係見直しを表明。また、ディーゼル油を提供してきたシリアなどに対しても、「私の政治志向は民主主義であり、独裁主義ではない」と非難を強めている。【4月11日 産経】
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ベネズエラでは投票日の1週間前から世論調査結果の公表は禁じられていますが、“同国の世論調査は変動が激しく、物議をかもすことで知られている”【4月9日 ロイター】との指摘もあります。

また、“民間各社が3月に実施した世論調査では、チャベス人気を背景にマドゥロ氏が10~15ポイントの差でリードしているとされた。だが、4月に入り、カプリレス氏優位を伝えるコンサルタント会社もあり、前回以上の接戦になるとの見方も出始めている。”【4月12日 朝日】との報道もあります。

結果を注視する中南米周辺国
以前のブログでも取り上げたように、中南米でのリーダーシップを目指すチャベス大統領は豊富な石油資源をもとに周辺国への巨額の支援を行ってきました。そのため、周辺国は大統領選挙の行方を注視しています。

****チャベス大統領死去:反米左派諸国に大きな不確実性****
・・・・マドゥロ氏はチャベス路線継承が確実視されている。野党候補が勝利した場合、中南米カリブ地域の反米左派政権に対する石油などの援助は、大幅に刈り込まれる見通しだ。そうなれば、キューバやニカラグアは深刻な経済危機に直面する。

05〜11年、チャベス政権は世界40カ国以上に820億ドル(約7兆6600億円)に及ぶ経済支援を行った。キューバは285億ドル、ニカラグアは97億ドルと突出している。
ベネズエラの支援が途絶えれば、90年代前半にソ連が崩壊して石油輸入が途絶え、経済が大幅に縮小して餓死者も出た状況に後戻りしかねない。

キューバ政府は数年前から首都ハバナ沖の海底油田開発を積極化しているが、試掘の結果は思わしくない。
中米ニカラグアのオルテガ政権は、ベネズエラの支援を原資に貧困層対策を拡充し公共料金を低く抑えて、支持層を固めてきた。ベネズエラの支援途絶は政権の危機に直結することになる。【3月6日 毎日】
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キューバ、ニカラグア以外にも、ベネズエラの支援は及んでいます。

****チャベス流支援、光と影 ベネズエラ大統領選、14日投開票****
南米ベネズエラで、反米左派の旗手として存在感を示してきた故チャベス氏の後継を決める大統領選挙が14日、投開票される。選挙結果次第では、チャベス氏が進めた周辺国への手厚い支援が打ち切られる可能性も高く、中南米各地で関心を集めている。

 ■周辺国、カネ打ち切り懸念
・・・・(ボリビアの)読み書きができない15歳以上を対象とした事業で、2006年に始まった。教科書などの教材がベネズエラの資金で作られ、82万人が受講。ボリビアは08年、非識字者ゼロを宣言した。

近郊の集落では家庭に水道管を引く工事の準備が進む。全家庭への飲料水提供を目指し2年前に始まったこの事業も、ベネズエラ政府の協力を得たとされる。自宅から50メートルほど離れた水場に週2、3回水をくみに行くという主婦のエルサ・ママニさん(60)は「チャベス大統領の後継者に勝ってほしい」と話した。

チャベス氏はカリブ諸国に石油を破格の好条件で提供。経済危機に陥ったアルゼンチンを国債を買って支え、ブラジルにも音楽教育などの文化的支援をするなど、中南米全域に様々な支援の手をさしのべた。

支援の背景には、米国の影響を排除して中南米・カリブ諸国の統合を目指すチャベス氏の思惑もあったと言われ、これまでにつぎ込んだ支援は600億ドルに上るとされる。 【4月12日 朝日】
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対外支援のしわ寄せで国内経済疲弊
こうした対外支援のしわ寄せが国内の外貨不足に及んでおり、国内経済の疲弊をもたらしている側面もあります。
また、財政も悪化しており、与党マドゥロ氏が当選しても見直しが必要との指摘もあります。

****国内は外貨不足深刻 ****
一方で、ベネズエラの国内経済は停滞している。
首都カラカスから車で約40分。サモラ市の工場でホセ・サラガさんはため息をつく。業務用冷蔵庫などを製造販売してきたが、ニッケルなどの原材料の購入先だった業者が08年ごろから輸入に必要な外貨不足に陥り、原材料を入手できなくなった。6人の従業員を抱えるのは限界だという。

ベネズエラの外貨不足は慢性的だ。南米最大の産油国でありながら、輸出で得た外貨は周辺国支援などで散財。外貨は政府が厳格に管理し、民間企業などが公定レートで購入できる額には制限がある。重要な素材の輸入や大企業に優先的に割り当てられ、中小企業が入手するのは年々難しくなっている。闇市場でドル購入は可能だが、価格は公定レートの3倍。サラガさんは「機械や原料を輸入する外貨を供給できずに産業が育つわけがない」と嘆く。

薬品の輸入には政府は優先的に外貨を割り当ててきたが、昨年から割当量が減り、品不足が続く。カラカス中心部の薬局で働く女性(20)は「患者さんが来るたびに断るのが心苦しい」。薬品の強盗や偽薬品の押収も報じられるようになった。

政府は将来の石油収入を見込んで中国などから借金を重ね、対外債務は12年には454億ドルに。チャベス氏が初当選した1998年の倍に増えた。「原油価格が下落すれば破綻(はたん)しかねない」との指摘もあり、チャベス氏の後継候補が選挙で勝っても、これまでの各国支援政策は見直しを迫られるとの見方も強い。【同上】
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困難なチャベスなきチャベス流継続
チャベス大統領の国際舞台での華々しい“活躍”、国内貧困層へのバラマキが可能だったのは、98年に1バレル10ドルだった石油価格が2008年に150ドルへと上昇していくという石油価格高騰に支えられていました。
手厚い貧困層対策もあって、極度の貧困層が国民に占める割合は、99年23.4%から11年8.5%に大きく減少しています。【12年10月4日 ガーディアンより】

一方で、上記のような国内での外資不足、社会主義的国有化政策による経済非効率化などで国内経済は停滞しており、2012年のインフレは31.6%にも及んでいます。
汚職や犯罪の増大といった社会問題もあります。また、強権的政治手法も問題視されています。

独特のカリスマに支えられたチャベス氏の時代は終わりました。
大方の予想どおりマドゥロ暫定大統領が勝利したとしても、国内経済・対外支援に関して改革・修正が必要とされていますが、カリスマなき“チャベスの後継者”には困難な課題にも思えます。
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アメリカ  銃規制強化に向けて、やっと一歩踏み出す

2013-04-11 21:37:47 | アメリカ

(銃規制強化を求める異例の政治的主張を行ったミシェル・オバマ夫人 【4月11日 AFP】http://www.afpbb.com/article/politics/2938181/10566092

上院で超党派による法案提出
オバマ米大統領が2期目の優先課題の一つと位置付けて取り組んできた銃規制強化ですが、ようやく進展の可能性が出てきました。

****米上院 銃規制の法案提出へ合意****
アメリカ東部の小学校で去年起きた銃の乱射事件を受けて、議会上院の民主・共和両党の有力議員は、現在、銃の販売店にのみ義務づけられている購入者の犯罪歴の調査を、インターネットを通じた販売などにも義務づける法案を提出することで合意し、ようやく銃の規制強化が実現する可能性が出てきました。

アメリカ東部、コネティカット州の小学校で去年12月、銃の乱射事件が起き、児童ら26人が死亡しました。
これを受けて、上院の民主・共和両党の有力議員2人は10日に会見し、銃の規制を強化する法案を提出することで合意したと発表しました。

それによりますと、現在、銃の販売店にのみ義務づけられている購入者の犯罪歴の調査を、新たにインターネットや銃の即売会での販売にも義務づけるとしています。
これまで銃の販売のおよそ4割が犯罪歴の調査なしに行われていると指摘されてきましたが、これで大半の銃の販売で調査が求められることになります。

一方、オバマ大統領が強く求めてきた殺傷力の高いライフル銃や特別な弾倉への規制などは、反対意見が強いとして今回は見送られました。

法案が成立するためには、今後、上下両院で可決されることが必要で、下院は銃規制への反対意見が根強い共和党が多数を握っているため予断を許さない状況ですが、今回、上院で超党派による法案が提出されることで、ようやく銃の規制強化が実現する可能性が出てきました。【4月11日 NHK】
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可決まで持っていけるか、更に下院がどうなるのか・・・まだ不透明ですが、殺傷力の高いライフル銃や特別な弾倉への規制が本会議上程の断念を余儀なくされるなど、厳しい状況でやっと実現した一歩です。

ライフル協会「銃規制に賛成すれば中間選挙で集中攻勢をかける」】
****銃規制強化、早くも頓挫の危機=選挙見据え与党腰砕け―米****
オバマ米大統領が2期目の優先課題の一つと位置付けた銃規制強化が早くも頓挫の危機にひんしている。保守派の強い巻き返しに、与党民主党が2014年の中間選挙をにらんで腰砕けになりつつあるのが要因だ。

コネティカット州の小学校で12年12月に起きた銃乱射事件で児童ら26人が犠牲になったことを受け、大統領は1月に包括的な銃犯罪対策を発表。半自動小銃など殺傷力の高い攻撃用銃器の製造・販売の禁止と、全ての購入者に対する犯罪・精神疾患歴の確認義務化を軸に据えた。

これに沿い、民主党は法案4本を上院(定数100)に提出。3月中旬に司法委員会で辛うじて可決された。ところが、上院民主党トップのリード院内総務はその後、攻撃用銃器規制法案は本会議での賛成票が過半数をはるかに下回る40にも満たない見込みだとして上程を断念した。

民主党は上院で、同党に近い無所属を含め55議席を占める。しかし、中間選挙で改選対象となる35議席の内訳は共和党14に対して民主党は21。12年の大統領選で共和党に敗れた州が六つ含まれており、不利な状況にある。

これに目を付けたのが米国有数のロビー団体、全米ライフル協会(NRA)。40近い銃製造や銃競技の団体とタッグを組み、改選議員を中心に「銃規制に賛成すれば中間選挙で集中攻勢をかける」と脅して回った。
米国では「武器を保持する権利」が憲法で保障されており、もともと銃規制には消極的な土壌がある。リード氏の判断は、1994年以来となる本格的な銃規制に無理して突き進むことより上院の過半数維持を優先させた結果だ。【3月31日 時事】
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オバマ大統領 危機感を持った取り組み
こうした選挙を背景にした厳しい状況のなかで、オバマ大統領は世論に支持を訴えてきました。
銃規制が全く進展しないことになれば、オバマ大統領にとっては大きな政治的痛手ともなります。

****米大統領:銃規制法の実現に危機感 国民に訴える****
オバマ米大統領は3日、西部コロラド州デンバーの警察学校で演説し、銃規制法の実現に向けて「あなたたちの支援が必要だ」と国民に訴え、連邦議員に圧力をかけるよう求めた。法案は休会明けの来週から連邦議会で審議される予定だが、可決の見通しは立っておらず、大統領は危機感を強めている。

銃規制の中でも大統領が強く推したのは、「国民の9割が支持している」という銃購入希望者の身元調査の強化法案だ。「(価値観が多様な)米国で国民の9割が合意することはめったにない」と普遍性を強調した。
それでも法案可決を見通せないのは、政界に強い影響力を持つ全米ライフル協会(NRA)が「身元調査の強化は銃の登録制、いずれは政府による銃の押収につながる」として反対、議会への圧力を強めているからだ。

上院(定数100)での法案可決には60票が必要。だが、与党民主党は55議席(無所属2を含む)で、共和党から5人の上積みが必要だ。来年の中間選挙を控え、銃文化が強い州の民主議員の態度も揺らいでいる。

大統領は昨年12月に東部コネティカット州で起きた小学校銃乱射事件を受け、包括的な銃犯罪対策案を掲げた。殺傷能力の高い銃器の製造・販売を禁止する法案も柱の一つだったが、可決の可能性がほぼ消滅。身元調査の強化も実現できなければ、大統領にとって政治的に大きな挫折となる。

コロラド州では99年に高校で生徒2人が13人を射殺する事件が発生、昨年7月には映画館で12人が殺害される事件が起きた。大統領は8日にコネティカット州でも演説を予定。「悲劇の地」からの相次ぐ訴えで国民の後押しを得たいところだ。【4月4日 毎日】
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8日、オバマ大統領は乱射事件で小学生ら26人が殺害されたコネティカット州ニュータウンに近い大学でスピーチを行い、「これは政治の問題ではない。銃の暴力によって引き裂かれた家族のためにするべき正しいことだ」と訴えています。

****銃規制強化、オバマ政権に世論追い風 米国****
銃規制の強化を重要課題に掲げるオバマ米政権。連邦議会は野党・共和党を中心に反対が強かったが、ようやく成立に向けた兆しが見え始めた。銃犯罪による被害者の悲痛な声が動かす世論を、反対派も無視できなくなっている。

「これは政治の問題ではない。銃の暴力によって引き裂かれた家族のためにするべき正しいことだ」。8日、オバマ大統領は熱く訴えた。乱射事件で小学生ら26人が殺害されたコネティカット州ニュータウンに近い大学。オバマ氏の横には事件の被害者も並んだ。

政権が推す銃規制強化策は(1)すべての銃購入で身元照会を義務化(2)殺傷力が高いアサルト・ウエポン(突撃銃)を規制(3)11発以上の銃弾が入る弾倉の販売禁止――などが柱だ。しかし、共和党の上院議員らは「憲法で保障された銃所持の権利を侵害する、いかなる法律にも反対する」と強く抵抗した。

ニュータウン事件以降、州レベルではコネティカット州のほか、ニューヨーク、コロラド、メリーランドなどで銃規制を強化する法律が成立している。しかし、これらはいずれも知事も議会も民主党が与党の、比較的リベラルな州。共和党が与党の州では逆の動きも出ており、ミシガン、オハイオ両州では銃購入を容易にする法律も成立した。

こうした状況の中、オバマ政権にとって頼みの綱は被害者の声だ。最近の世論調査では、6割が「より厳しい規制」を支持し、身元照会の義務化には9割近くが賛成している。
成立までの道のりはまだ遠いが、民主党のハリー・リード院内総務は9日、「11日には審議入りが決まる」と語った。(ワシントン=望月洋嗣、ニューヨーク=中井大助) 【4月11日 朝日】
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また、地元シカゴでは10日、ミシェル・オバマ米大統領夫人が銃規制強化を訴える、政治に踏み込んだ異例のスピーチを行っています。

*****私も殺されていたかも」 ミシェル夫人、地元シカゴで涙ながらに銃規制訴える****
ミシェル・オバマ米大統領夫人は10日、地元シカゴで行った演説で、自分も若い頃に銃犯罪で命を失っていたかもしれないと述べ、涙ながらに銃規制を強く訴えた。ミシェル夫人が米国内の政治議論にここまで直接的に言及するのは異例だ。

シカゴで開かれた昼食会で青少年犯罪について演説したミシェル夫人は、今年1月のバラク・オバマ米大統領の就任式でマーチングバンドの演奏を披露したシカゴの高校生、ハディヤ・ペンドルトンさん(15)が、その1週間後に公園で何者かに銃で撃たれて死亡した事件に触れ、シカゴ市議や市当局者らに対し、銃犯罪で若い命が奪われることのない建設的な方法を探そうと訴えた。
 
夫人はまた、ペンドルトンさんの葬儀に参列した際、遺族がミシェル夫人のことをとても身近に感じてくれていたことが忘れられないとコメント。涙を流して次のように語った。

「ハディヤは私だったかもしれないし、私が彼女だったかもしれない。私は無事に成長してプリンストン大学に進学し、ハーバード大学法科大学院で学び、家庭を持ち、かつて想像もできなかった恵まれた人生を送っている。でも、ハディヤはどうなったか。みなさんもご存知でしょう」

さらに夫人は自身の子ども時代のシカゴがいかに危険だったかを説明。「これは地球の裏側の戦場での話ではありません。私たちが故郷と呼ぶ街で起きていることなんです」と述べ、オバマ大統領は銃の暴力から子どもたちを守るため全力を尽くしていると訴えた。

米国では、大統領夫人が政治問題に踏み込んで発言することはまれだ。1990年代のビル・クリントン大統領時代には、ヒラリー・クリントン夫人が医療保険改革に関与し、幅広い層から批判を買っている。(後略)【4月11日 AFP】
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購入者の犯罪歴の調査を義務付ける法案の提出について与野党間の合意が成立した背景には、こうした一連のオバマ大統領の銃規制にかける強い意志があったとも言えます。
ただ、それだけに今後法案が成立しない場合は、大統領の痛手も大きくなるとも言えます。
政治的には賭けになりますが、政治指導者は避けて通れません。成立すれば、1期目の医療保険制度改革に次いで、オバマ大統領の大きな実績になります。

財政問題などをめぐり、与野党の対立で機能不全に陥っているアメリカ議会ですが、国民の9割近くが賛成する規制強化すら実現できないとなれば、いよいよその機能が疑問視されることにもなります。
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マレーシア  政権交代をかけた総選挙 「中所得国のわな」を回避する改革は可能か?

2013-04-10 22:05:14 | 東南アジア

(写真右上に天秤の皿の図柄が見えますが、与党連合「国民戦線(BN)」の旗(秤)の一部です。“flickr”より 街にはこうした旗が溢れているようです。 By 757Live http://www.flickr.com/photos/757live/8615820644/

激戦は必至、ナジブ首相は正念場
マレーシアの総選挙は5月5日に行われることが決まりました。

****総選挙投票日は5月5日=激戦必至、ナジブ首相正念場―マレーシア****
マレーシアの選管は10日、総選挙(下院222議席、任期5年)の投票日を5月5日と発表した。1957年の独立以来、政権を握ってきた与党連合・国民戦線は、これまで経験したことのない野党の追い上げを受けている。激戦は必至で、ナジブ首相は正念場を迎えることになる。
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大方の見方は、強権的との批判もありながら開発を推進して長期政権を担ってきた与党連合・国民戦線が、アンワル元副首相を中心とする野党連合の追い上げを受けて接戦になっているというものです。
こうした野党勢力の台頭は、すでに前回(08年)選挙で表面化しており、今回は“政権交代”をめぐる争いとなっています。

****マレーシア下院解散 独立後、初めて政権交代の可能性*****
マレーシアのナジブ首相は3日、連邦議会下院(定数222)を解散した。早ければ、4月下旬にも総選挙が行われる見通し。1957年の独立以来、長期にわたって政権を握る与党連合「国民戦線(BN)」は、党幹部の汚職や最大民族マレー系に対する優遇策をめぐって批判にさらされており、初の政権交代が実現する可能性もある。

「マレーシア経済は力強さを増している。国民の自由も広がった。一層の繁栄に向けて、国民は賢明な選択をしてくれるだろう」
首相就任から丸4年がたった3日、ナジブ首相は自身のオフィスからテレビの生中継で解散を宣言し、国民にこう訴えかけた。

だが、内心は穏やかではない。与党幹部の相次ぐ汚職や、人口の50・1%を占めるマレー系を優遇する「ブミプトラ(土地の子)政策」に対する他民族の反発で、BNへの支持率は下がり続けているからだ。
08年の前回総選挙で、アブドラ前首相率いるBNの獲得議席は、安定議席となる全体の3分の2を39年ぶりに割り込んだ。

前身のマラヤ連邦が1957年に英国から独立して以来、統一マレー国民組織(UMNO)を中心とする与党連合は一貫して政権を握ってきた。03年まで22年間首相を務めたマハティール氏ら歴代の政権は、ときに強権的と批判されながらも経済開発を推し進めた。

 ■汚職報道で窮地
ところが、21世紀に入ると状況は一変する。ネットメディアがマレーシアでも急速に発展。与党が経営を支配する新聞やテレビがほとんど触れることがなかった与党幹部の汚職疑惑などを次々と報じ始めた。
マレーシアでは登録済みの有権者のうち、約4割が30歳未満とされる。若者の多くがネットで情報を得ており、BNはネットメディアの政権批判に神経をとがらせる。開発独裁という従来型の政治手法は通用しなくなりつつある。

ナジブ首相が初めて解散をほのめかしたのは11年12月。その後タイミングを探ったが、支持率は回復せず、今月30日の任期満了直前まで解散を引き延ばさざるを得なかった。

一方で、元副首相のアンワル氏が率いる野党連合・人民同盟(PR)は勢いづいている。08年の総選挙で、PRの議席数は20から82に躍進。人口比でそれぞれ22・5%、6・7%を占める中華系、インド系などの支持を取りつけることで、PRは今回の総選挙で初の政権交代をもくろむ。

財界からは国内経済の先行きに懸念の声が漏れる。3日のマレーシア株式市場は、ナジブ首相の解散宣言の観測が流れた直後に株価が一時約3%下落した。
マレーシアに拠点を構える日系企業幹部も「これまで政権交代の経験がない国だけに心配だ。追加投資をめぐっては、当面様子見する必要が出てくるかもしれない」と気をもんでいる。【4月4日 朝日】
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これまでも何回かとりあげたように、複合民族国家マレーシアの従来の基本政策は、経済的に中華系・インド系に劣後する多数派マレー系を優遇する「ブミプトラ(土地の子)政策」と呼ばれるものでした。
マレー系を優遇しながら、中華系・インド系の既得権益層とも一定の関係を保ち、開発を進めながら長期政権を維持してきました。

しかし、当然ながらマレー系優遇には、中華系・インド系の一部からは反発が大きくなっています。
また、マレー系内部にも、「ブミプトラ(土地の子)政策」を自由な活動を妨げる制約としてとらえる層が広がっています。

****初の政権交代に現実味=華人の与党支持低迷―マレーシア総選挙****
マレーシアのナジブ首相が3日、連邦議会下院の解散・総選挙を発表した。2008年3月の前回総選挙で安定多数を失い退陣に追い込まれたアブドラ首相(当時)の後を継いだナジブ首相は、1957年の独立以来続く長期与党政権の維持に懸命。しかし、人口の約4分の1を占める華人系の支持は低迷したままで、他民族の支持が伸び悩めば、初の政権交代も現実味を帯びてきそうだ。

マレーシアは、人口の過半数を占めるマレー系などの「ブミプトラ」のほか、華人系、インド系などから成る複合民族国家。与党連合・国民戦線の中核を成すマレー系政党、統一マレー国民組織(UMNO)の総裁であるナジブ首相は、09年4月の首相就任当初から「ワン・マレーシア」(一つのマレーシア)のスローガンを掲げ、華人系などへの配慮を見せてきた。

首相は今回の選挙で、下院222議席中3分の2の安定多数回復を目指す。しかし、独立系の調査機関が1月に実施した世論調査では、華人系の首相支持率は34%、与党連合の支持率は16%しかない。前回の総選挙では、与党連合の華人系政党、マレーシア華人協会が議席を半減させたのに対し、野党連合の華人系政党、民主行動党が躍進。今回の総選挙でもこうした傾向に拍車が掛かるとの見方も出ている。【4月3日 時事】
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なお、インド系の特に貧困層は、以前から政府と激しく衝突してきています。

そうしたことから、前回選挙の予想外の苦戦を受けて、与党側もブミプトラ政策の軌道修正を行ってきてはいますが、マレー系を支持基盤としていることもあって、マレー系優遇策の抜本的な改革にはいたっていません。
更に、ネットメディアが発展し、政権の汚職が広く取り上げられるようになっていることも、与党側の苦戦の要因となっています。

政権側は、減税や補助金を並べて、支持つなぎとめを図っています。
****補助金増額、減税を列挙=総選挙の公約発表―マレーシア首相****
マレーシアのナジブ首相は6日、クアラルンプール郊外の競技場で、数万人の支持者を前に、総選挙のマニフェスト(政権公約)を発表した。補助金増額、数百万人の新規雇用、減税、犯罪件数の低下を列挙し、「強力な支持を頂けるなら、次の5年間で、われわれが何をできるか想像してみてほしい」と訴えた。【4月7日 時事】
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【「中所得国のわな」】
マレーシアは経済的にはASEAN内でも良好な実績を示して「中所得国」を実現していますが、そこから公職国へ脱皮するためには課題も指摘されています。

“同国は1人当たりGDPが1万ドルに達するなどASEAN内では経済成長で先んじているにも拘らず、長期に亘り政府主導による開発独裁色の強い経済政策が採られ、マレー系を中心とする民族に依拠した規制や制度が築かれてきた結果、汚職や腐敗がまん延し、経済成長の背後で格差が拡大するなどの社会問題が表面化している。こうしたことから、同国はASEAN内でもいわゆる「中所得国の罠」に陥る懸念が叫ばれて久しい。”【4月5日 「選挙戦に突入、マレーシアは「中所得国の罠」を突き破れるか」 第一生命経済研究所 西 徹氏 http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/asia/pdf/as13_004.pdf

「中所得国」まで成長したものの、そこから足踏みをしてしまい、次のステージである「高所得国」になかなか仲間入りできない「中所得国の罠」は、基本的には“労働コストの低い低所得国との競合や、高所得国(先進国)の産業構造の高度化との板ばさみ”の状態です。
そこから抜け出すためには社会・経済構造の改革が必要とされますが、マレーシアの場合、その改革を妨げ、市場をゆがめているのがマレー系優遇のブミプトラ政策であるとも言えます。

****東アジア 新興国が成長途中でハマる、「中所得国のわな」とは****
“わな”にハマった中南米。中国、マレーシア、タイは果たして…

・・・・その成長段階を見ていくうえで、参考になるモノサシのひとつに「中所得国のわな」というものがあります。これは2007年に世界銀行が発表した「東アジアのルネッサンス」という報告書で示された比較的新しい概念です。

「開発途上国」や「低所得国」という初期段階を抜け出し、「中所得国」まで成長したものの、そこから足踏みをしてしまい、次のステージである「高所得国」になかなか仲間入りできない状況を指します。過去の例を振り返ると、1960年代の時点で、低所得国から中所得国にステップアップした国や地域は100以上ありました。

しかし、その中で高所得国入りできたのは、現在のところ、日本や香港、シンガポール、台湾、韓国など13の国・地域のみです。
同時期に中所得国入りした中南米諸国などはまさにこの?わな〞にハマった典型例です。最近では、中国やマレーシア、タイなどがこの?わな〞に陥ったかどうかが議論されています。

(中略)あくまでも、所得水準での比較なので一概には言えませんが、中所得国は、労働コストの低い低所得国との競合や、高所得国(先進国)の産業構造の高度化との板ばさみになります。また、急成長の段階で蓄積された問題(貧富の格差拡大や労働力の減少など)が噴出して足を引っ張られる傾向にあります。

目先の利益にとらわれず、経済構造や社会制度の改革など、中長期的な発展戦略に転向できるかが、“わな”からの脱出へのカギになります。【2月4日 livedoor NEWS 楽天証券経済研究所 土信田雅之氏】
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マレーシアの人口は約2800万人と他のASEAN諸国に比べて小さいものの、その中位年齢は27歳と若く、隣国のシンガポール(34歳)やタイ(35歳)などと異なり中長期的な人口増加が期待される。
さらに、1人当たりGDPは1万ドルを上回り、タイ(5389ドル)やインドネシア(3596ドル)などに比べて高く、安定的な経済成長が実現することで消費市場として拡大する素地は備わっている。

また、教育レベルの高さは外資企業にとって進出先としての魅力に繋がるものの、人件費の高さや、規制や制度の歪みは進出を妨げる一因になっており、製造業などは高付加価値品に特化するなど、他のASEAN諸国とは異なる成長モデルを歩んできた。
同国は原油や天然ガスをはじめとする豊富な資源を有するが、政府は産業構造の多様化に取り組んできたことは、他の資源国に比べて多様な輸出構造を持つ一因になっている。

ただし、これまでは政府主導による国内資本に対する保護姿勢が強い政策を志向してきたが、成長段階の成熟化に伴いこの路線が行き詰まりをみせていることを鑑みれば、路線転換を通じて競争力の向上を図るとともに、公平な規制及び制度の整備などを通じて格差問題などに対応することが求められる。”【前出 西 徹氏レポート】
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政権交代より難しい、経済・社会改革
今回総選挙で野党側が政権交代を実現する可能性も現実味が出てきてはいますが、仮に政権交代が実現できても、問題はその後ではないでしょうか?

政権交代という目標のもとで“野党連合”は一応結束していますが、アンワル元副首相率いる中道リベラルの人民正義党を架け橋に、それまで対立しがちだった中華系中道左派の民主行動党(DAP)とマレー系イスラム主義右派の全マレーシア・イスラーム党(PAS)が共闘した形です。

PASはイスラム原理主義的・マレー系至上主義的な性格もある(少なくとも、かつてはあった)政党です。DAPなどと協調して「中所得国のわな」から抜け出る経済・社会改革に取り組めるか?・・・かなり困難な作業にも思えます。
“複合民族国家”を民主的に舵取りすることは、卓越した政治手腕を必要とします。できるでしょうか?政権獲得後もアンワル元副首相がまとめていけるでしょうか?


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