
(銃規制強化を求める異例の政治的主張を行ったミシェル・オバマ夫人 【4月11日 AFP】http://www.afpbb.com/article/politics/2938181/10566092)
【上院で超党派による法案提出】
オバマ米大統領が2期目の優先課題の一つと位置付けて取り組んできた銃規制強化ですが、ようやく進展の可能性が出てきました。
****米上院 銃規制の法案提出へ合意****
アメリカ東部の小学校で去年起きた銃の乱射事件を受けて、議会上院の民主・共和両党の有力議員は、現在、銃の販売店にのみ義務づけられている購入者の犯罪歴の調査を、インターネットを通じた販売などにも義務づける法案を提出することで合意し、ようやく銃の規制強化が実現する可能性が出てきました。
アメリカ東部、コネティカット州の小学校で去年12月、銃の乱射事件が起き、児童ら26人が死亡しました。
これを受けて、上院の民主・共和両党の有力議員2人は10日に会見し、銃の規制を強化する法案を提出することで合意したと発表しました。
それによりますと、現在、銃の販売店にのみ義務づけられている購入者の犯罪歴の調査を、新たにインターネットや銃の即売会での販売にも義務づけるとしています。
これまで銃の販売のおよそ4割が犯罪歴の調査なしに行われていると指摘されてきましたが、これで大半の銃の販売で調査が求められることになります。
一方、オバマ大統領が強く求めてきた殺傷力の高いライフル銃や特別な弾倉への規制などは、反対意見が強いとして今回は見送られました。
法案が成立するためには、今後、上下両院で可決されることが必要で、下院は銃規制への反対意見が根強い共和党が多数を握っているため予断を許さない状況ですが、今回、上院で超党派による法案が提出されることで、ようやく銃の規制強化が実現する可能性が出てきました。【4月11日 NHK】
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可決まで持っていけるか、更に下院がどうなるのか・・・まだ不透明ですが、殺傷力の高いライフル銃や特別な弾倉への規制が本会議上程の断念を余儀なくされるなど、厳しい状況でやっと実現した一歩です。
【ライフル協会「銃規制に賛成すれば中間選挙で集中攻勢をかける」】
****銃規制強化、早くも頓挫の危機=選挙見据え与党腰砕け―米****
オバマ米大統領が2期目の優先課題の一つと位置付けた銃規制強化が早くも頓挫の危機にひんしている。保守派の強い巻き返しに、与党民主党が2014年の中間選挙をにらんで腰砕けになりつつあるのが要因だ。
コネティカット州の小学校で12年12月に起きた銃乱射事件で児童ら26人が犠牲になったことを受け、大統領は1月に包括的な銃犯罪対策を発表。半自動小銃など殺傷力の高い攻撃用銃器の製造・販売の禁止と、全ての購入者に対する犯罪・精神疾患歴の確認義務化を軸に据えた。
これに沿い、民主党は法案4本を上院(定数100)に提出。3月中旬に司法委員会で辛うじて可決された。ところが、上院民主党トップのリード院内総務はその後、攻撃用銃器規制法案は本会議での賛成票が過半数をはるかに下回る40にも満たない見込みだとして上程を断念した。
民主党は上院で、同党に近い無所属を含め55議席を占める。しかし、中間選挙で改選対象となる35議席の内訳は共和党14に対して民主党は21。12年の大統領選で共和党に敗れた州が六つ含まれており、不利な状況にある。
これに目を付けたのが米国有数のロビー団体、全米ライフル協会(NRA)。40近い銃製造や銃競技の団体とタッグを組み、改選議員を中心に「銃規制に賛成すれば中間選挙で集中攻勢をかける」と脅して回った。
米国では「武器を保持する権利」が憲法で保障されており、もともと銃規制には消極的な土壌がある。リード氏の判断は、1994年以来となる本格的な銃規制に無理して突き進むことより上院の過半数維持を優先させた結果だ。【3月31日 時事】
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【オバマ大統領 危機感を持った取り組み】
こうした選挙を背景にした厳しい状況のなかで、オバマ大統領は世論に支持を訴えてきました。
銃規制が全く進展しないことになれば、オバマ大統領にとっては大きな政治的痛手ともなります。
****米大統領:銃規制法の実現に危機感 国民に訴える****
オバマ米大統領は3日、西部コロラド州デンバーの警察学校で演説し、銃規制法の実現に向けて「あなたたちの支援が必要だ」と国民に訴え、連邦議員に圧力をかけるよう求めた。法案は休会明けの来週から連邦議会で審議される予定だが、可決の見通しは立っておらず、大統領は危機感を強めている。
銃規制の中でも大統領が強く推したのは、「国民の9割が支持している」という銃購入希望者の身元調査の強化法案だ。「(価値観が多様な)米国で国民の9割が合意することはめったにない」と普遍性を強調した。
それでも法案可決を見通せないのは、政界に強い影響力を持つ全米ライフル協会(NRA)が「身元調査の強化は銃の登録制、いずれは政府による銃の押収につながる」として反対、議会への圧力を強めているからだ。
上院(定数100)での法案可決には60票が必要。だが、与党民主党は55議席(無所属2を含む)で、共和党から5人の上積みが必要だ。来年の中間選挙を控え、銃文化が強い州の民主議員の態度も揺らいでいる。
大統領は昨年12月に東部コネティカット州で起きた小学校銃乱射事件を受け、包括的な銃犯罪対策案を掲げた。殺傷能力の高い銃器の製造・販売を禁止する法案も柱の一つだったが、可決の可能性がほぼ消滅。身元調査の強化も実現できなければ、大統領にとって政治的に大きな挫折となる。
コロラド州では99年に高校で生徒2人が13人を射殺する事件が発生、昨年7月には映画館で12人が殺害される事件が起きた。大統領は8日にコネティカット州でも演説を予定。「悲劇の地」からの相次ぐ訴えで国民の後押しを得たいところだ。【4月4日 毎日】
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8日、オバマ大統領は乱射事件で小学生ら26人が殺害されたコネティカット州ニュータウンに近い大学でスピーチを行い、「これは政治の問題ではない。銃の暴力によって引き裂かれた家族のためにするべき正しいことだ」と訴えています。
****銃規制強化、オバマ政権に世論追い風 米国****
銃規制の強化を重要課題に掲げるオバマ米政権。連邦議会は野党・共和党を中心に反対が強かったが、ようやく成立に向けた兆しが見え始めた。銃犯罪による被害者の悲痛な声が動かす世論を、反対派も無視できなくなっている。
「これは政治の問題ではない。銃の暴力によって引き裂かれた家族のためにするべき正しいことだ」。8日、オバマ大統領は熱く訴えた。乱射事件で小学生ら26人が殺害されたコネティカット州ニュータウンに近い大学。オバマ氏の横には事件の被害者も並んだ。
政権が推す銃規制強化策は(1)すべての銃購入で身元照会を義務化(2)殺傷力が高いアサルト・ウエポン(突撃銃)を規制(3)11発以上の銃弾が入る弾倉の販売禁止――などが柱だ。しかし、共和党の上院議員らは「憲法で保障された銃所持の権利を侵害する、いかなる法律にも反対する」と強く抵抗した。
ニュータウン事件以降、州レベルではコネティカット州のほか、ニューヨーク、コロラド、メリーランドなどで銃規制を強化する法律が成立している。しかし、これらはいずれも知事も議会も民主党が与党の、比較的リベラルな州。共和党が与党の州では逆の動きも出ており、ミシガン、オハイオ両州では銃購入を容易にする法律も成立した。
こうした状況の中、オバマ政権にとって頼みの綱は被害者の声だ。最近の世論調査では、6割が「より厳しい規制」を支持し、身元照会の義務化には9割近くが賛成している。
成立までの道のりはまだ遠いが、民主党のハリー・リード院内総務は9日、「11日には審議入りが決まる」と語った。(ワシントン=望月洋嗣、ニューヨーク=中井大助) 【4月11日 朝日】
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また、地元シカゴでは10日、ミシェル・オバマ米大統領夫人が銃規制強化を訴える、政治に踏み込んだ異例のスピーチを行っています。
*****「私も殺されていたかも」 ミシェル夫人、地元シカゴで涙ながらに銃規制訴える****
ミシェル・オバマ米大統領夫人は10日、地元シカゴで行った演説で、自分も若い頃に銃犯罪で命を失っていたかもしれないと述べ、涙ながらに銃規制を強く訴えた。ミシェル夫人が米国内の政治議論にここまで直接的に言及するのは異例だ。
シカゴで開かれた昼食会で青少年犯罪について演説したミシェル夫人は、今年1月のバラク・オバマ米大統領の就任式でマーチングバンドの演奏を披露したシカゴの高校生、ハディヤ・ペンドルトンさん(15)が、その1週間後に公園で何者かに銃で撃たれて死亡した事件に触れ、シカゴ市議や市当局者らに対し、銃犯罪で若い命が奪われることのない建設的な方法を探そうと訴えた。
夫人はまた、ペンドルトンさんの葬儀に参列した際、遺族がミシェル夫人のことをとても身近に感じてくれていたことが忘れられないとコメント。涙を流して次のように語った。
「ハディヤは私だったかもしれないし、私が彼女だったかもしれない。私は無事に成長してプリンストン大学に進学し、ハーバード大学法科大学院で学び、家庭を持ち、かつて想像もできなかった恵まれた人生を送っている。でも、ハディヤはどうなったか。みなさんもご存知でしょう」
さらに夫人は自身の子ども時代のシカゴがいかに危険だったかを説明。「これは地球の裏側の戦場での話ではありません。私たちが故郷と呼ぶ街で起きていることなんです」と述べ、オバマ大統領は銃の暴力から子どもたちを守るため全力を尽くしていると訴えた。
米国では、大統領夫人が政治問題に踏み込んで発言することはまれだ。1990年代のビル・クリントン大統領時代には、ヒラリー・クリントン夫人が医療保険改革に関与し、幅広い層から批判を買っている。(後略)【4月11日 AFP】
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購入者の犯罪歴の調査を義務付ける法案の提出について与野党間の合意が成立した背景には、こうした一連のオバマ大統領の銃規制にかける強い意志があったとも言えます。
ただ、それだけに今後法案が成立しない場合は、大統領の痛手も大きくなるとも言えます。
政治的には賭けになりますが、政治指導者は避けて通れません。成立すれば、1期目の医療保険制度改革に次いで、オバマ大統領の大きな実績になります。
財政問題などをめぐり、与野党の対立で機能不全に陥っているアメリカ議会ですが、国民の9割近くが賛成する規制強化すら実現できないとなれば、いよいよその機能が疑問視されることにもなります。