(3月7日 アミアン工場を巡る混乱 “flickr”より By Alternative libertaire http://www.flickr.com/photos/92965231@N04/8556303059/)
【仏失業者:1997年7月以来の最高水準】
キプロス問題で揺れる欧州経済は、相変わらず高い失業率が続いています。
****ユーロ圏失業率、初の12%台 2月、悪化とまらず****
欧州連合(EU)統計局が2日発表した2月のユーロ圏17カ国の失業率(季節調整値)は12・0%で、前月から横ばいだった。1月の数値は当初11・9%と発表されたが、今回、悪化方向に0・1ポイント修正された。1999年のユーロ導入以来、失業率が12%台に入るのは初めてで、最悪の水準を更新し続けている。
大手2銀行の破綻(はたん)処理・再編が決まったキプロスは前月比0・3ポイント悪化の14・0%。預金の引き出し制限など経済の混乱と景気悪化が続き、さらに失業率が上がると見込まれている。
他の南欧諸国ではスペインが同0・1ポイント悪化の26・3%、イタリアが同0・1ポイント改善の11・6%だった。
景気がふるわないフランスは同0・1ポイント悪化の10・8%、オランダも同0・2ポイント悪化の6・2%だった。ドイツは横ばいの5・4%だった。【4月2日 朝日】
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スペインの26.3%という数字は厳しいものがありますが、欧州第2位の経済大国フランスの不振も懸念されています。
****1月の仏失業者数は増加ペース加速、約15年ぶり高水準****
フランス労働省が26日発表した12月の本土での失業者数(登録求職者数)は、前月比4万3900人(1.4%)増の317万人となった。1997年7月以来の最高水準となったほか、過去最高の319万6000人に迫る水準となっている。
失業者数は1年7カ月にわたって大幅な増加が続き、12月には一旦小幅にとどまったものの、1月に再び加速した。ただ、増加の半分は1月に行われた算定方法の変更が原因という。
ただ調整前の増加数は2万2800人で、やはり12月の8000人から増加幅が大きく拡大した。
オランド大統領は、失業対策を最優先課題に掲げ、2013年末までに失業者数の増加に歯止めをかけると公約している。しかし先週末には、景気低迷で失業率目標の達成が困難になっていると認めた。
ロイターの調査では、アナリストは、すでに10%を上回っている失業率について、来年初めまで上昇を続けると予想している。(後略)【2月27日 朝日】
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【急落するオランド大統領支持率】
経済状況の改善に有効な手をうてないオランド大統領への不満・批判も高まっています。
重要閣僚の政治スキャンダルも足を引っ張っています。
****オランド仏政権、支持率急落 脱税疑惑で予算相辞任****
オランド政権は政治的にも難しい局面に立たされている。失業増に国民の不満は高まり、支持率は30%台に低迷。19日には、カユザック予算相が脱税疑惑で辞任に追い込まれた。
脱税疑惑はネット新聞「メディアパルト」が昨年末に報じて表面化した。スイスの大手銀行の口座を使い、その口座を閉じた後はシンガポールに資金を移したという内容だった。潔白だと主張してきたが、パリ検察当局が捜査に着手する意向を発表すると一転した。オランド氏も辞意を受け入れざるを得なかった。
幕引きを急ぐのは、いっそうの緊縮型となる予算案づくりが避けられないからだ。担当閣僚が捜査への対応に追われれば、ユーロ危機からの出口を示せない政権に風当たりが強まるのは必至だ。
18日のオピニオンウエー社の世論調査ではオランド氏の支持率は31%と前月から8ポイント急落した。西アフリカ・マリへの軍事介入でやや上向いた支持はしぼんだ。
最大野党の民衆運動連合(UMP)は20日、オランド政権の経済運営を批判して、下院に内閣不信任案を提出した。与党・社会党が単独過半数で否決したが、政権の衰えを印象づけた
【3月25日 朝日】
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【与野党に広がる政治スキャンダル】
オランド大統領を追及する側の野党UMPも、実質的リーダーのサルコジ前大統領が違法献金疑惑の渦中にあり、いまひとつ迫力を欠いているのがオランド大統領にとっては幸いです。
野党UMP側はサルコジ前大統領への捜査を「政策捜査」と批判しています。
****サルコジ仏前大統領に違法献金疑惑、捜査開始****
仏捜査当局は21日、サルコジ前大統領の違法献金疑惑で正式な捜査を開始した。
サルコジ氏に対しては、2007年の大統領選で、化粧品大手ロレアルの大株主で大富豪のリリアーヌ・ベタンクール氏(90)から法定上限を超える政治資金を受け取ったとの疑惑が浮上。検察は21日、サルコジ氏を仏南西部ボルドーで事情聴取した後、判断能力が低下した「弱者」を欺いた疑いで、同氏に捜査開始を通告したと発表した。正式捜査は起訴の前段階となるもので、同氏が刑事責任を問われる可能性が出てきた。
この疑惑は10年に発覚し、サルコジ氏の側近だった当時の閣僚や、ベタンクール氏が事情聴取を受けた。サルコジ氏が大統領を退任した後の昨年夏、警察はパリにある同氏の自宅や事務所を捜索した。【3月22日 読売】
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なお、フランス警察は3月20日、国際通貨基金(IMF)のクリスティーヌ・ラガルド専務理事がサルコジ政権の財務相在任中に実業家とフランス銀行間で起きたトラブルに介入した職権乱用の疑いで、ラガルド氏のパリの自宅を家宅捜索しています。
疑惑は以前からのもですが、“沈静化した感もあった疑惑に再び火がついたかたち”とも言われています。
「政策捜査」云々はわかりませんが、与野党ともにスキャンダル花盛りの状況で、経済立て直しは進展していません。
【硬直的労働市場、急がれる生産性改善】
そんななかで、硬直的な労働条件をやり玉に挙げて話題になったのが、グッドイヤー社のアミアン工場買収を求められたアメリカ企業タイタンのCEOの「フランスの労働者は1日に3時間しか働かない」という書簡です。
****仏労働者は「1日3時間しか働かない」、米企業CEO****
米タイヤ製造大手タイタン・インターナショナルの最高経営責任者(CEO)が、経営難に陥ったフランスの工場を買収してほしいとの仏政府からの要請に対し、フランスの労働者は「1日に3時間しか働かない」ため、工場の買収は「ばかげている」と返答していたことが分かった。
仏経済紙レゼコーによると、タイタンのモーリス・テイラーCEOはアルノー・モントブール仏生産回復相に宛てた2月8日付けの手紙で、フランス北部アミアンにある米グッドイヤー社の工場への投資を検討してほしいとの要請に対し、次のように返答した。
■「休憩1時間、おしゃべり3時間、仕事3時間」
「あの工場は2回ほど視察しました。フランスの労働者は高い賃金を受け取っているが、3時間しか働きません。休憩と昼休みに1時間、おしゃべりに3時間、仕事に3時間費やす。フランスの労働組合員に面と向かってこれを指摘したら、それがフランスの働き方だと言われました」
グッドイヤーは先月、労働組合との5年にわたる交渉が決裂したため、1173人が働くこの工場を閉鎖すると発表していた。
テイラーCEOは、これまでタイタンは経営難に陥った多くの工場を買収してきたが、今回の買収案には全く興味がないと断言した。
「弊社に(買収の)議論を始めてほしいとのことですが、それがどれほどばかげたことだとお思いでしょうか?タイタンにはタイヤを製造する資金と能力がある。頭のおかしな労働組合にはなにがありますか?フランス政府です」
テイラーCEOはまた、フランスの産業はその低い生産性に加え、中国などからの安価な輸入品という脅威にさらされていると指摘。「タイタンは中国やインドのタイヤ会社を買収し、時給1ユーロ以下の賃金を支払って、フランスが必要な全タイヤを供給しよう。おたくの『労働者』とやらはいらない」
社会党率いる仏政府は、激しさを増す国際競争に直面する仏産業の生産性改善に懸命に取り組んでいる。国内経済が停滞する中、仏企業はここ数か月で数千人の雇用削減を発表している。【2月22日 AFP】
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グッドイヤー社のアミアン工場には北と南の2か所あり、以前経営が悪化した際に、経営側のからの雇用維持のための労働条件「改悪」の申し出に、南工場の労組はこれを受け入れ、現在も雇用は維持されています。
一方、北工場の労組はこれを拒否し、現在の工場閉鎖・買収の騒ぎとなっています。
左派政権のオランド政権は工場閉鎖を避けるべくこの問題に介入して、北工場のタイタンへの買収を仲介した・・・という経緯になっています。
タイタンのモーリス・テイラーCEOからの刺激的な書簡を受け取ったアルノー・モントブール仏生産回復相は相当に怒ったようで、「ラファイエットがアメリカの独立を助けたことをお忘れか」と反論したとか。
いささか筋違いの反論のようにも思えますが。
なお、TVニュースで見聞きしたところでは、「3時間しか働かない」というのは、工場の生産調整のためだとの話もありました。
事情はよくわかりませんが、いくらフランス労働者が“仕事嫌い”だったとしても、理由もなく「3時間しか働かない」こともないでしょう。テイラーCEOの書簡にはフランスに対する悪意も感じられます。
もっとも、硬直的な労働市場がフランス経済立て直しの大きな制約条件になっているのは事実でしょう。
労働組合を支持基盤とする左派オランド政権にとっては、ただでさえ高い失業率が続く状況で、この問題に切り込んで生産性を改善させるのは非常に難しいところです。
前出【2月22日 AFP】によれば、“社会党率いる仏政府は、激しさを増す国際競争に直面する仏産業の生産性改善に懸命に取り組んでいる”とのことですが、どうでしょうか。