
(EU加盟の旧共産圏国の中で唯一、大半の銀行セクターを民営化することを拒否しているスロベニアでは、銀行セクターはGDP比20%に相当する70億ユーロの不良債権を抱えているとされ、キプロスの次は・・・と金融不安が大きくなっています。国民の間にも、キプロス同様の預金課税や預金き出し凍結などの措置への不安が広がっているとも。 “flickr”より By 757Live http://www.flickr.com/photos/757live/8623076100/)
【キプロス:GDPの約7割に相当する自己負担】
人口80万、GDP178億ユーロの小国キプロスの金融破たんが欧州経済を揺さぶっていましたが、現段階では一応の対応策がとられた・・・ということになっています。
キプロスでは経済全体が金融業に依存していますが、そのキプロスの銀行はギリシャ国債を大量に持っていたため、ギリシャの財政危機に伴って経営危機に陥りました。キプロスの金融機関が持つ資産はGDPの約7倍もあるため、政府は自力で救済できず、EUへの支援を要請していました。
また、これまでキプロスが低い税率でロシアなどの金融資本を集め、脱税の温床と疑われていることもEU側の対応を難しくしました。
財政規律・モラルハザードを重視するドイツなどのEU側の要請もあって、預金者に一定の負担を求める形の対策が検討され、預金封鎖などの社会混乱を招いたことは周知のところです。
結果的に、キプロス国内の2大銀行の10万ユーロ(約1200万円)超の大口預金者に相当の負担を強いる形になりましたが、その大口預金者の多くがロシア人ということで、ロシアの対応が注目されていました。
そのロシアのプーチン大統領とEUを主導するドイツ・メルケル首相が8日会談を行い、一定の合意に達したもようです。
****ロシア:対キプロス、返済条件緩和へ…独首相と会談****
ロシアのプーチン大統領は8日、訪問先のドイツ北部ハノーバーでメルケル首相と会談した。記者会見でプーチン氏は、キプロスへの金融支援について「欧州委員会の依頼に沿い、ロシアは11年に実施したキプロスへの融資25億ユーロ(約3225億円)を整理すると決めた」と表明した。キプロス側から要請されていた返済条件緩和に応じるとみられる。(後略)【4月9日 毎日】
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12日にはユーロ圏財務相会議が行われ、キプロスへの最大で100億ユーロ(約1.3兆円)の金融支援を行う方針を決めたことで、キプロスが債務不履行に陥る事態は避けられました。
****EU:キプロスへの3兆円の財政再建策を決定****
欧州連合(EU)のユーロ圏17カ国は12日、アイルランドの首都ダブリンで財務相会合を開き、債務危機のキプロスに対する総額230億ユーロ(約3兆円)の財政再建策を正式決定した。
想定を上回る経済の悪化で、再建に必要な財政資金は当初見込み(175億ユーロ)から大幅に拡大。この結果、ユーロ圏などから支援を受ける条件としてキプロスが自力で調達する資金額は、当初予定の58億ユーロから130億ユーロに膨らんだ。国内総生産(GDP)の約7割に相当する自己負担は、今後のキプロス経済に深刻な重荷になりそうだ。
再建策は、2016年1〜3月期までの3年間にキプロス政府が必要とする財政資金の不足額を補う内容。キプロスは、国内大手2銀行の10万ユーロ超の高額預金者に一定の負担を強制する措置で106億ユーロを捻出するほか、法人税増税や中央銀行が保有する金の売却などで必要額を賄う。ユーロ圏諸国とIMFは、当初の予定通り最大100億ユーロを融資する。
IMF理事会と、ドイツなど各国の議会による承認を経て、第1弾の融資が5月中にも実施される見込み。ただ、キプロス政府は4月の公務員給与や年金支払いに必要な財政資金も不足していると表明しており、支援実行まで綱渡りの財政運営が続く。銀行の経営危機をきっかけに信用不安が深刻化したキプロスは昨年6月、EUなどに支援を要請した。【4月12日 毎日】
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このEU支援策は、素人的には不思議でもあります。
“ユーロ圏などから支援を受ける条件としてキプロスが自力で調達する資金額は、当初予定の58億ユーロから130億ユーロに膨らんだ”とのことですが、58億ユーロの調達すら右往左往していたキプロス政府にその倍以上の資金が調達できるのでしょうか?
とにかくEU側としては最大100億ユーロしか出せないという制約が前提にあり、あとは実現できようが、できまいが、とにかく自己調達する形にして数字のつじつまを合わせた・・・といった感もあります。
当然、今後キプロス国内において、この130億ユーロをどうするのか、その結果、国民生活にどのような結果が及ぶのか・・・ということが問題になりますが、その状況如何では、危機の再燃もあるのではないでしょうか。
また、EU支援策を議会で審議するドイツなどでは、本当にキプロスは自己調達できるのか?ということが問題になるのではないでしょうか。
EU側としては、これでキプロス問題をクリアしたいところですが、オランダのデイセルブルム財務相が3月25日、「キプロスの銀行再編はテンプレート(雛形)になる」という趣旨の発言をしたことで、大口預金者らに負担を強いる今回の支援策が他のユーロ圏の国にも適用されるという憶測から、キプロス同様に金融問題を抱える欧州各国への影響も出ています。
市場の敏感な反応に、「キプロスは特殊な例」と打ち消す騒ぎにもなりましたが、財政規律を重視するドイツなどの本音ともとられています。
失業率が25%ほどにもなるような国と完全雇用に近いような国が同一通貨を使用し、財政政策などは各国が独自に策定するといった、ユーロ圏の基本的枠組みが抱える問題は相変わらずですから、ギリシャ、キプロスに続く問題が発生するであろうことは容易に想像できます。
【ドイツに対するルサンチマン】
また、ギリシャ危機以来の一連の混乱のなかで、経済的に強いドイツと弱い立場にある問題国の間での相互不信・軋轢も表面化しています。
****混乱で一段と、憎まれ役ドイツの一人勝ち****
預金課税に揺れた「キプロス発の欧州危機再燃」はひとまず避けられた。欧州連合(EU)などの金融支援が基本合意に達し、当局者は収拾に躍起だ。だが一連のゴタゴタは、最強国ドイツの突出と再建に苦しむ他国の停滞という欧州のいびつな力関係を露呈した。
2007年から12年5月まで在任したキプロス中央銀行のオルファニデス前総裁が、英エコノミストの電話・書面のインタビューで、キプロス危機の背景を率直に説明している。前総裁は、ギリシャ国債の民間投資家に損失負担を求めるEU合意と、欧州の銀行監督当局が域内行に自己資本比率の大幅引き上げを課した規制が、キプロスの主要行の資本不足を深刻にした、と明かす。どちらもドイツの強い意向が働いた。
■預金者に負担強いた背景に独総選挙
では今回、預金者にも負担を強いる前代未聞の支援策が急浮上したのはなぜか。前総裁は「(9月の)ドイツ総選挙」を背景に挙げる。メルケル独首相が再選を狙う一方、周辺国を助けるのに寛大だった最大野党のドイツ社会民主党(SPD)が金融支援に一転して慎重になったという解説だ。実際、預金者による負担をより強く求めたのはSPDの方だとの指摘もある。
低い税率でロシアなどの金融資本を集め、脱税の温床と疑われるキプロス。南欧支援に疲れたドイツの納税者が、ロシアの富裕層を助けるような融資に納得できるはずがない――。キプロスの預金者に負担を求める処理策の決定過程に、独政党による総選挙への駆け引きがあったのは間違いない。
逆にドイツ側には、キプロス問題でまたも自らの厳しい姿勢が批判の矢面に立たされることへのいら立ちが募り続けている。
南ドイツ新聞は、少額預金者への課税を決めようとしたのはキプロス自身だとするショイブレ財務相の反論を紹介。財務相が「ババ抜きのババ」、つまり混乱の責任をかぶせられたと指摘した。「キプロスの銀行側も損失を分担しなければ、金融支援策は独議会で過半数の支持を得られなかった」という与党側の見方も伝えている。
普段はドイツに厳しい英FT紙も「冷戦時代の米国と同じように、何をしようともドイツが仲間の国に非難されるという感情がベルリンに広がっている」と、同情的な解説を載せた。ギリシャやスペインでみられたように、キプロスでもメルケル首相とヒトラーを同列視するデモ行進が目立った。危機でも粘り強いドイツに対するルサンチマン(強者に対して弱者が抱く屈折した感情)の動きに嫌気がさす、というのが、偽らざるドイツの人々の心境だろう。
救われる側、助ける側の双方の間で広がる感情の溝はいつになったら埋められるのか。それはまだ見通せない。皮肉なことに、ドイツに経済規模で続く欧州の「FISH」(フランス、イタリア、スペイン、オランダ)はいずれも失業率の高止まりや経済の不振、あるいは政治の不安定に悩んでいる。
■南北間を取り持つ指導力が不在
ドイツ流緊縮主義に反旗を翻して昨年5月の大統領選挙を制したオランド仏大統領だが、脱税疑惑が浮上した予算担当相の辞任劇など、内政の実績でいいところがない。メルケル独首相に成長路線で対抗したイタリアのモンティ首相は総選挙で自党の支持が10%台に低迷、発言力を失った。相対的にドイツの「一人勝ち」の構図がよりくっきりする。
キプロス問題を巡り、ドイツの考え方に近いオランダのデイセルブルム財務相が「大口預金者の負担が今後の銀行処理のひな型になる」という趣旨の発言をしたことで、金融市場は金融部門に問題を抱える周辺国の不安再燃を懸念し始めている。納税者の支援に安易に頼る「モラルハザード」を防ぎたいドイツや「北の欧州」の論理と、まずは足元の危機の火元を消したい南欧勢の思惑のずれ。その間を取り持つ指導力の不在が気になる。【4月8日 日経 編集委員 菅野幹雄】
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【ドイツ経済に翳り 政治状況も微妙】
“一人勝ち”と言われるドイツも問題を抱えています。
先ず、肝心の経済の先行きが少々怪しくなっていることです。
****大黒柱ドイツも景気後退の瀬戸際に****
ユーロの大黒柱まで倒れるかもしれない。ユーロ圏最大のドイツ経済が先月、景気後退寸前の水準まで減速していたことが分かった。
製造業とサービス業の経済活動の指標である「購買担当者景気指数(PMI)」は、景気拡大と景気後退の分かれ目である50をもう少しで下回る50・6まで下落。2月の53・3から大きく低下した。
PMIを算出している英金融情報会社マークイットの主任エコノミスト、クリス・ウィリアムソンは、「ユーロ圏で唯一の希望の星が、輝きを失おうとしている」と言う。
ユーロ圏全体のPMIも2月の47・9から46・5に低下し、経済活動の収縮が一層進んでいることを示した。回復の兆しは見えないと、ウィリアムソンは言う。
だがマークイットのデータにもわずかながら希望はある。企業の1年後の景況感予測は、調査がキプロス危機さなかの3月に行われたにもかかわらず2ヵ月ぶりに上昇した。
それでも全体として見れば、依然として綱渡りが続くユーロ圏経済。ドイツの景気悪化が最後の一撃にならなければいいが。【4月16日号 Newsweek日本版】
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もうひとつは政治の問題。
国際的にはヒトラーとも同列視されるほどの絶大なリーダーシップを発揮しているメルケル首相ですが、国内の政治状況はそれほど盤石でもありません。
メルケル首相率いる民主・社会同盟の支持率は昨秋から40%前後で推移し、05年以来の高水準が続いていますが、現在の連立相手である保守系の自由民主党は議席獲得に必要な5%も危うい状況で、9月に予定されている総選挙での過半数確保は微妙とも見られています。
そこで、福島事故後に国内で高まった「反原発」世論に乗り15%ほどの支持率を持つ環境政党・緑の党と国政で初の連立を組む可能性が浮上しています。
民主・社会同盟は原発推進派でしたがが、福島第1原発事故後に「脱原発」へと転換を図り、緑の党との「垣根」が低くなったことも、この連立案の背景にあります。
緑の党も昨年11月、保守色が強いカトリン・ゲーリングエッカート氏を「党の顔」となる首相候補の一人に選び、政権党との連立に向けた環境を整えつつあるとのことです。【2月2日 毎日より】
こうした微妙な政治状況のなかで、“脱ユーロ”を訴える新党の存在が注目されています。
****ドイツ:脱ユーロ新党結成 総選挙に影響も****
9月に連邦議会選(総選挙)を控えるドイツで、欧州共通通貨ユーロからの脱退と旧通貨マルクへの回帰を訴える新党が結成された。経済大国ドイツでは、自らの税金が財政危機国支援に次々に使われることへの不満も根強く、2月の世論調査では3割超がマルク復活を望んでいる。
新党はユーロ問題にほぼ特化しているため、国政での議席獲得に必要な「得票率5%以上」を達成できるかは微妙だが、ユーロに懐疑的な票が流れれば、選挙の「台風の目」になる可能性もある。(中略)
ドイツには現在、ユーロ脱退を掲げる主要政党はなく、新党の広報担当ベルント・ルッケ氏は独誌に「ユーロは欧州を崩壊させている。だがユーロを批判する政党がドイツにないのは、まるで思想統制のようだ」と語る。
9月の総選挙では、メルケル首相率いる連立与党の中道右派陣営に、野党の中道左派陣営が挑む構図。だが両陣営とも現段階では過半数確保は難しい見通しで、この「脱ユーロ新党」の得票次第で選挙結果が左右される可能性もある。
新党の基盤は保守層が多いため、保守系与党のキリスト教民主・社会同盟のフォルカー・カウダー議員団長は「ドイツの豊かさは、団結した欧州の上に成り立っている。この新党が有権者を説得できるとは思えない」と述べ、「保守票切り崩し」に危機感を強めている。
イタリアでは2月の総選挙で反ユーロ姿勢の新興政治団体が第3勢力に躍進した。【4月1日 毎日】
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イタリアの五つ星運動ほどの大躍進でなくとも、「得票率5%以上」をクリアして一定議席を確保できれば、連立においてキャスティングボードを握る立場にもなります。