孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベネズエラ  14日に大統領選挙投票 故チャベス大統領の「社会革命」の行方は?

2013-04-12 23:22:32 | ラテンアメリカ

(野党側からは「チャベス氏の亡霊と戦っているようだ」との声も 与党マドゥロ候補の選挙運動を行う故チャベス大統領の亡霊ならぬ、そっくりさん。 “flickr”より By Urbeguayana.com  http://www.flickr.com/photos/urbeguayana/8621489893/

チャベス流「社会改革」継続か、ブラジル型の経済モデルか?】
南米ベネズエラで「国内では社会主義政策、国外では革命を広めようとしたカリスマ的扇動政治家」(米紙ウォールストリート・ジャーナル)チャベス前大統領の死去を受けて行われている大統領選挙は11日で公式の選挙戦を終了し、14日に投票が行われます。

****ベネズエラで14日に大統領選、試される故チャベス大統領の「社会革命****
14日にベネズエラで行われる大統領選挙は、故チャベス大統領自らが「社会革命」と宣言した政策の成果を試すものとなりそうだ。

大半の世論調査では、チャベス氏死去への同情票も集まって後継者のマドゥロ暫定大統領(50)が、野党候補で州知事のカプリレス氏(40)を大きく引き離している。両候補は11日に公式の選挙運動を終了した。
マドゥロ暫定大統領はチャベス氏の路線を維持することを誓っており、カラカス郊外で支持者に対して、「私がチャベス氏の後継だ。大統領になる準備はできている」と意気込みを示した。

一方のカプリレス氏は、チャベス政権下で14年間にわたって対立を招いた政治を終わらせ、国民の最大の関心事となっている犯罪を撲滅すると表明した。産業を促進しながら、社会保障への支出を手厚くするブラジル型の経済モデルを推進すると表明している。【4月12日 ロイター】
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選挙戦の話に入る前に、上記記事の“国民の最大の関心事となっている犯罪”については、下記の関連記事もありました。

****囚人がストリップ嬢とマリファナパーティー ベネズエラの刑務所 ナイトクラブも運営****
カリブ海に浮かぶベネズエラ北部マルガリータ島の刑務所で、服役囚がナイトクラブを勝手に開業し、家族や友人を招いてパーティーを開催していたことが明らかになった。
ストリッパーも交えたドンチャン騒ぎにあきれる声も多いが、囚人による「やりたい放題」は恒常化しているようだ。
背景には、治安の悪化でベネズエラ国内の刑務所が過密状態にあり、刑務官へのわいろや暴力がはびこっているという、笑えない実態がある。無法地帯と化した刑務所内では、毎年数百人が殺害されるなど、事態は深刻だ。(中略)
ベネズエラの犯罪率は高く、世界でも最悪の水準。このため、国内に30カ所以上ある刑務所は規定を超える収容者と暴力に悩まされており、2012年だけで600人近い囚人が命を落とした。
NGOによると、ベネズエラの刑務所には、定員1万6500人に対して、3倍の4万8000人が収監されているという。実に、囚人の1%以上が毎年、刑務所内で殺害されている計算だ。(後略)【4月7日 産経】
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【「チャベスが路線を敷き、マドゥロがハンドルを握る」】
で、選挙戦の方は、大方の世論調査でチャベス大統領の後継者として「弔い合戦」に臨むマドゥロ暫定大統領が野党候補のミランダ州知事・カプリレス氏を大きくリードしていると伝えられています。
今回選挙戦は期間が短かったこともあって、両候補の激しい中傷合戦に終始したとの報道もあります。

****14日にベネズエラ大統領選 チャベス氏後継、大きくリード****
手法を踏襲 さながら「弔い合戦」
南米ベネズエラの反米左翼チャベス氏の死去に伴う大統領選が14日、行われる。チャベス氏の後継者であるマドゥロ暫定大統領(50)と、野党統一候補のカプリレス・ミランダ州知事(40)との一騎打ち。国内では貧困層へのバラマキ政策、外交では反米主義を推し進めた「チャベス路線」の踏襲か決別かが最大の焦点となる。
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昨年10月の大統領選では、カプリレス氏が44%を得票して善戦したのに対し、チャベス氏は過去最低の54%にとどまった。しかし、チャベス氏の“弔い合戦”の様相をみせる今回の選挙では、後継者のマドゥロ氏に支持が集まっている。最近の世論調査では、マドゥロ氏の支持率は53~55%と、カプリレス氏(支持率30~35%)を大きく上回っている。

マドゥロ氏はチャベス氏に積極的に言及することで、基盤を固めようと躍起だ。地元メディアによれば、チャベス氏が死去した3月5日から16日間、ラジオやテレビでチャベス氏に言及した回数は3456回に上った。不利な戦いを強いられる野党陣営からは、「チャベス氏の亡霊が徘徊(はいかい)している」との嘆きが漏れるほどだ。
マドゥロ氏はまた、チャベス政権時代の14年間に1社から4社へと増えた国営テレビを活用し、長時間にわたって政治主張を展開。野党側がケーブルテレビを通じて政治広告を放映できるのは1日4分に限られている。

マドゥロ氏はチャベス氏同様、豊富な石油資源をもとに医療費無料化や無償住宅提供、年金拡充などのバラマキ政策を公約に掲げる。元バス運転手のマドゥロ氏はその経歴を揶揄(やゆ)されることも多いが、最近はそれを逆手にとって自らバスを運転し、「チャベスが路線を敷き、マドゥロがハンドルを握る」と“庶民の味方”を強くアピールしている。

昨秋まで約6年間、外相を務めたマドゥロ氏は外交面でもチャベス路線を継承する方針で、3月上旬には米外交官2人を追放。最近は米国との非公式交渉チャンネルも遮断した。また、「米国はカプリレス氏を暗殺してベネズエラ政府の仕業と見せかけ、国中を混乱させようとしている」と対米批判を展開。“反米闘士”としての人気上昇を狙うとともに、野党陣営も揺さぶっている。

一方、カプリレス氏は社会福祉政策を充実させつつ、市場経済重視の「ブラジル型社会」構築を公約に掲げる。外交面では、対米関係改善を図るとともに、日量約10万バレルの石油を特恵価格で送っていたキューバとの関係見直しを表明。また、ディーゼル油を提供してきたシリアなどに対しても、「私の政治志向は民主主義であり、独裁主義ではない」と非難を強めている。【4月11日 産経】
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ベネズエラでは投票日の1週間前から世論調査結果の公表は禁じられていますが、“同国の世論調査は変動が激しく、物議をかもすことで知られている”【4月9日 ロイター】との指摘もあります。

また、“民間各社が3月に実施した世論調査では、チャベス人気を背景にマドゥロ氏が10~15ポイントの差でリードしているとされた。だが、4月に入り、カプリレス氏優位を伝えるコンサルタント会社もあり、前回以上の接戦になるとの見方も出始めている。”【4月12日 朝日】との報道もあります。

結果を注視する中南米周辺国
以前のブログでも取り上げたように、中南米でのリーダーシップを目指すチャベス大統領は豊富な石油資源をもとに周辺国への巨額の支援を行ってきました。そのため、周辺国は大統領選挙の行方を注視しています。

****チャベス大統領死去:反米左派諸国に大きな不確実性****
・・・・マドゥロ氏はチャベス路線継承が確実視されている。野党候補が勝利した場合、中南米カリブ地域の反米左派政権に対する石油などの援助は、大幅に刈り込まれる見通しだ。そうなれば、キューバやニカラグアは深刻な経済危機に直面する。

05〜11年、チャベス政権は世界40カ国以上に820億ドル(約7兆6600億円)に及ぶ経済支援を行った。キューバは285億ドル、ニカラグアは97億ドルと突出している。
ベネズエラの支援が途絶えれば、90年代前半にソ連が崩壊して石油輸入が途絶え、経済が大幅に縮小して餓死者も出た状況に後戻りしかねない。

キューバ政府は数年前から首都ハバナ沖の海底油田開発を積極化しているが、試掘の結果は思わしくない。
中米ニカラグアのオルテガ政権は、ベネズエラの支援を原資に貧困層対策を拡充し公共料金を低く抑えて、支持層を固めてきた。ベネズエラの支援途絶は政権の危機に直結することになる。【3月6日 毎日】
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キューバ、ニカラグア以外にも、ベネズエラの支援は及んでいます。

****チャベス流支援、光と影 ベネズエラ大統領選、14日投開票****
南米ベネズエラで、反米左派の旗手として存在感を示してきた故チャベス氏の後継を決める大統領選挙が14日、投開票される。選挙結果次第では、チャベス氏が進めた周辺国への手厚い支援が打ち切られる可能性も高く、中南米各地で関心を集めている。

 ■周辺国、カネ打ち切り懸念
・・・・(ボリビアの)読み書きができない15歳以上を対象とした事業で、2006年に始まった。教科書などの教材がベネズエラの資金で作られ、82万人が受講。ボリビアは08年、非識字者ゼロを宣言した。

近郊の集落では家庭に水道管を引く工事の準備が進む。全家庭への飲料水提供を目指し2年前に始まったこの事業も、ベネズエラ政府の協力を得たとされる。自宅から50メートルほど離れた水場に週2、3回水をくみに行くという主婦のエルサ・ママニさん(60)は「チャベス大統領の後継者に勝ってほしい」と話した。

チャベス氏はカリブ諸国に石油を破格の好条件で提供。経済危機に陥ったアルゼンチンを国債を買って支え、ブラジルにも音楽教育などの文化的支援をするなど、中南米全域に様々な支援の手をさしのべた。

支援の背景には、米国の影響を排除して中南米・カリブ諸国の統合を目指すチャベス氏の思惑もあったと言われ、これまでにつぎ込んだ支援は600億ドルに上るとされる。 【4月12日 朝日】
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対外支援のしわ寄せで国内経済疲弊
こうした対外支援のしわ寄せが国内の外貨不足に及んでおり、国内経済の疲弊をもたらしている側面もあります。
また、財政も悪化しており、与党マドゥロ氏が当選しても見直しが必要との指摘もあります。

****国内は外貨不足深刻 ****
一方で、ベネズエラの国内経済は停滞している。
首都カラカスから車で約40分。サモラ市の工場でホセ・サラガさんはため息をつく。業務用冷蔵庫などを製造販売してきたが、ニッケルなどの原材料の購入先だった業者が08年ごろから輸入に必要な外貨不足に陥り、原材料を入手できなくなった。6人の従業員を抱えるのは限界だという。

ベネズエラの外貨不足は慢性的だ。南米最大の産油国でありながら、輸出で得た外貨は周辺国支援などで散財。外貨は政府が厳格に管理し、民間企業などが公定レートで購入できる額には制限がある。重要な素材の輸入や大企業に優先的に割り当てられ、中小企業が入手するのは年々難しくなっている。闇市場でドル購入は可能だが、価格は公定レートの3倍。サラガさんは「機械や原料を輸入する外貨を供給できずに産業が育つわけがない」と嘆く。

薬品の輸入には政府は優先的に外貨を割り当ててきたが、昨年から割当量が減り、品不足が続く。カラカス中心部の薬局で働く女性(20)は「患者さんが来るたびに断るのが心苦しい」。薬品の強盗や偽薬品の押収も報じられるようになった。

政府は将来の石油収入を見込んで中国などから借金を重ね、対外債務は12年には454億ドルに。チャベス氏が初当選した1998年の倍に増えた。「原油価格が下落すれば破綻(はたん)しかねない」との指摘もあり、チャベス氏の後継候補が選挙で勝っても、これまでの各国支援政策は見直しを迫られるとの見方も強い。【同上】
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困難なチャベスなきチャベス流継続
チャベス大統領の国際舞台での華々しい“活躍”、国内貧困層へのバラマキが可能だったのは、98年に1バレル10ドルだった石油価格が2008年に150ドルへと上昇していくという石油価格高騰に支えられていました。
手厚い貧困層対策もあって、極度の貧困層が国民に占める割合は、99年23.4%から11年8.5%に大きく減少しています。【12年10月4日 ガーディアンより】

一方で、上記のような国内での外資不足、社会主義的国有化政策による経済非効率化などで国内経済は停滞しており、2012年のインフレは31.6%にも及んでいます。
汚職や犯罪の増大といった社会問題もあります。また、強権的政治手法も問題視されています。

独特のカリスマに支えられたチャベス氏の時代は終わりました。
大方の予想どおりマドゥロ暫定大統領が勝利したとしても、国内経済・対外支援に関して改革・修正が必要とされていますが、カリスマなき“チャベスの後継者”には困難な課題にも思えます。
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