孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州各国に広がる「緊縮財政疲れ」

2013-04-29 21:39:52 | 欧州情勢

(スペイン 職探しをする人々 スペインでは、今年1~3月期の失業率が27.2%と過去最悪を更新 特に、16~24歳の若年層では57.2%の高水準に達しています 【4月28日 CNNより】)

【「庶民を犠牲にして、海外に借金返済をしている」】
経済再建の途上にあるアイスランドで、これまで緊縮財政を進めてきた与党が総選挙で大敗したことを、各紙は「緊縮財政疲れ」「改革疲れ」と報じています。

****緊縮財政疲れ、与党大敗 経済破綻のアイスランド総選挙****
2008年の世界的な金融危機で経済が破綻(はたん)状態になったアイスランドで27日、任期満了に伴う国会の総選挙(定数63)があり、緊縮財政を進める与党が大敗した。
欧州各国では、増税や公共サービスの削減に反対する勢力が存在感を増しており、財政再建一辺倒からの修正を迫られている。

経済運営の失敗の責任を問われ、09年の前回選挙で敗北した中道右派の野党独立党と進歩党がともに19議席を獲得。あわせて過半数となり、政権に復帰する。独立党のベネディクトソン党首は「再び責任を託された」と勝利宣言した。

アイスランドはリーマン・ショックに端を発した世界的な金融危機の影響で、大手銀行が破綻、通貨クローナが暴落した。中道左派の社会民主同盟が率いる現政権は、08年11月に決まった国際通貨基金(IMF)からの約21億ドル(約2千億円)の支援を受け、増税などの緊縮策を進めた。クローナ安で輸出産業は競争力をつけ、11年にはプラス成長を達成。一時9%だった失業率は5%台に改善した。

一方で、家計のやりくりに苦しむ国民は政府調査で約4割に上り、「庶民を犠牲にして、海外に借金返済をしている」(英BBC)との不満が充満していた。
独立、進歩の両党は所得減税や住宅ローンの削減を掲げて、不満をすくい上げた。「単なる人気取り政策で、長続きしない」(政治評論家のエギル・ヘルガソン氏)と見る向きもある。両党は欧州連合(EU)への加盟に反対している。

欧州では09年以降の政府債務(借金)危機を受け、財政再建の取り組みが加速した。だが、最近は「改革疲れ」の動きが目立つ。
昨春のフランス大統領選では、最初の投票で反緊縮や脱ユーロを掲げる政党が躍進。「経済成長を促す政策」を訴えた社会党のオランド氏が当選した。28日に発足したイタリアのレッタ政権も、財政再建より雇用を最優先に掲げる方針を明らかにしている。【4月29日 朝日】
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イタリアでは、混迷の末にようやくレッタ政権がスタートしましたが、大統領府でレッタ政権閣僚が就任宣誓式を行っている最中の28日、約500メートル離れた首相府前で失業中の男が拳銃を発砲、警官ら3人が負傷する事件が起きています。

****イタリア首相府前の発砲で警官2人負傷、容疑者は無職の男*****
イタリア10+ 件首都ローマにある首相府前広場で28日、無職の男(49)が銃を発砲10+ 件し、警官2人が負傷した。

医師らの話によると、警官1人は首を撃たれており、重体だという。もう1人の警官は足を負傷した。警察によると、スーツ姿の男が警官に向けて数発発砲し、「私を撃て」と繰り返し叫んだという。

容疑者は南部カラブリア州出身で無職の男であり、当初は政治家を狙って犯行を計画したが、射程圏内に見つけられなかったと捜査員に語ったという。
この日、中道左派連合のエンリコ・レッタ前民主党副書記長(46)は首相就任の宣誓を行い、新内閣を発足させたばかりだった。【4月29日 ロイター】
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欧州委員長:「限界に達した」】
オランダでも、これまでの緊縮財政を見直す動きが出ています。
こうした「緊縮財政疲れ」「改革疲れ」の空気を感じているEU首脳からは、「(緊縮)政策は基本的には正しいが、限界に達したと個人的に考えている」といった発言も出ています。

****現在の緊縮政策、限界に達した=バローゾ欧州委員長****
欧州委員会のバローゾ委員長は22日、欧州連合(EU)がここ数年、金融危機に対処すべく推し進めている緊縮財政政策は限界に達した、との見方を示した。

当地での会議「ブリュッセル・シンクタンク・ダイアローグ」で委員長は、「(緊縮)政策は基本的には正しいが、限界に達したと個人的に考えている」と述べた。「政策が成功するためには、適切な策定のみならず、最低限の政治・社会的支援が必要とされる」と説明した。

そして緊縮か成長かという二者択一の選択は「全くの誤りだ」と明言し、緊縮政策と平行して成長促進策も存在すべきとの考えを示した。
「(緊縮策は)不可欠だが、短期的であっても成長および成長策をさらに強調することで補完されなければならない。(緊縮策を)短期的な成長促進策で補完する必要がある」と繰り返した。

財政赤字を国内総生産(GDP)に対し3%に抑えるEU規則の順守において、一部の国が時間的猶予を与えられる可能性も示唆した。
「財政赤字修正政策は基本的に正しいが、(赤字修正)ペースの微調整に関する協議は常に可能だ。ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)と欧州連合財務相会議(ECOFIN)が最終決定を下すことから欧州委員会は、過剰赤字(是正)過程の延長を提案している」と指摘した。

フランスは現在、同目標達成の延長を委員会に働きかけている。名目目標は達成できないが、景気対策などの一時的影響を除く構造的財政赤字の削減は目標達成に向かっている、と主張している。【4月23日 Wall Street Journal】
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緊縮財政維持を求めるドイツ
このバローゾ欧州委員長の発言を、ドイツ外相はただちに非難しています。
ドイツ・メルケル政権は、借金による成長政策は痛みを長期的に引きずることになるとして、厳格な緊縮財政を堅持することを自国にも、欧州各国にも求めています。

マイケル・フックス(キリスト教民主同盟の副党首)は、次のように発言しています。
「我々ドイツ国民は緊縮策の困難に耐えている。 他の国民が同じ種類の緊縮政策をする必要はないと我々ドイツ国民に説明することは非常に難しい。 ギリシア人が海辺に行くために、ドイツ人が67まで働かなければならないと説明することは非常に難しい。」【4月29日 The Telegraphより】

こうしたドイツ側の感情の背景にあるものを物語る数字が報じられています。

****ユーロ最貧国はどこ? 保有資産最下位はドイツ****
「キプロス国民は裕福。ドイツ国民は貧しい」。ドイツの主要紙フランクフルター・アルゲマイネが最近の紙面でこう訴えた。意外にも聞こえるが、欧州中央銀行(ECB)が公表したユーロ圏諸国の国民の保有資産に関する統計が、その根拠となっている。

統計によると、一般世帯が持つ資産の中間値で首位のルクセンブルク(39万8千ユーロ=約5千万円)に続いたのは、ユーロ圏の支援が最近まとまったキプロス(26万7千ユーロ)。債務危機の焦点だったスペインは18万3千ユーロで、イタリアは17万4千ユーロ。ドイツ(5万1千ユーロ)は最下位でギリシャ(10万2千ユーロ)の半分だった。

統計には考慮すべき条件もある。資産には自己所有の家が含まれるため、賃貸が中心で自己保有率が低いドイツ特有の事情も反映されている。とはいえ、欧州最大の経済国の国民の“つつましさ”が表れているともいえる。

ドイツは債務危機で他のユーロ導入国支援の最大貢献国。国内では「放漫」な国を何度も助けることへの不満は強い。だが支援を渋れば「ユーロの最大受益者なのに支援しないのか」と海外からやり玉に挙げられる。
債務危機は複雑だが、一面的ではなくバランスよくとらえる必要性もあるようだ。【4月16日 産経】
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ドイツが他国に厳しい財政規律を求めるのは、欧州経済の安定がドイツにとって死活問題だからでもありますが、ドイツ国内で高まる他国救済への不満、欧州各国で高まる厳しいドイツへの不満、各国にひろがる「緊縮財政疲れ」のなかで、これまでのようにドイツ・メルケル首相が欧州をリードできるか・・・不透明です。
今秋行われるドイツ国内の総選挙も微妙です。
コメント
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