(サンクトペテルブルグ 政治犯釈放を求める抗議行動 プーチン大統領の写真の下に書かれているのは“Go away!” “flickr”より By Roma Yandolin http://www.flickr.com/photos/madw/8606327463/)
【プーチン批判の封じ込め】
11年末の下院選時の不正選挙批判など、一時期高まったロシア・プーチン大統領への国内批判は、このところは殆んど鎮静化しているように見えます。
大統領復帰から1年以上が経過し、プーチン大統領側が批判勢力を力で封じ込んだとも言えますが、プーチン批判そのものが国民的広がりを欠いていたとも言えます。
*****プーチン大統領3選から1年=反政権デモは低調―ロシア****
ロシアのプーチン大統領(前首相)が返り咲きを決めた2012年3月の大統領選から4日で丸1年。6割以上を得票したプーチン氏は5月の通算3期目就任後、公約実現に向けて順調に歩みだし、政敵もなく18年の大統領選まで安定政権を継続する勢いだ。4選のシナリオも現実味を帯びている。
政権基盤を揺るがしかねないとみられた一連の反政権デモは、野党勢力への強制捜査などが「奏功」し、最近は下火傾向。野党勢力は反政権女性バンド「プッシー・ライオット」収監問題や、米国への養子縁組を禁じられたロシアの孤児問題を訴えるが、「反プーチン」色は薄まった印象だ。【3月4日 時事】
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基盤を固めたプーチン政権はその後も引き締めの手を緩めず、外国からの支援を受けるNGOへの圧力を強めています。
****ロシア政府:人権団体などのNGO事務所を捜索 規制へ****
ロシア政府が、外国から資金援助を受ける国内の非政府組織(NGO)の事務所を相次いで捜索するなど本格的な規制に乗り出した。昨年3月の当選から1年が経過したプーチン大統領への批判的な言動を封じる狙いだが、欧米諸国の批判を呼んでいる。
露連邦検察庁などは3月下旬、国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」や、ロシアの人権団体「メモリアル」の事務所を予告なしで訪問。昨年11月に外国の基金を受け取り「政治的な活動」を行うNGOに対し、「外国の代理人」として登録し、活動報告を義務づける法律が施行されたことから、書類の提出などを求めた。ロシアメディアなどによると、100近くの団体が過去1カ月で捜索を受けた模様だ。
一方で、プーチン大統領は3月30日、市民社会の発展などに貢献しているNGOを対象に、総額約30億ルーブル(約90億円)の支援を拠出する大統領令に署名。NGOが政権の意向に従って活動する場合は援助していく方針を示した。
一連の動きについて米国務省のヌーランド報道官は3月28日、「前例のない検査を深く憂慮している」と指摘し、さまざまなチャンネルを利用してNGO支援を模索していく意向を表明。ドイツも自国の関係するNGOが対象となったことから、ロシアに抗議している。
プーチン大統領は11年末の下院選を発端にした反政権運動について、欧米諸国が支援したと糾弾し、米国から支援を受けていた国内のプログラムを昨秋、相次いで閉鎖した。【3月31日 毎日】
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外国からの支援を受けていれば「外国の代理人」としてレッテルを貼り、政権の意に従えば資金的に援助する・・・というのは、いかにも露骨な批判封じに見えますが、今のロシアでは一定に効果がある方法なのでしょう。
【政権基盤の強化・再編】
政権を支える政治組織についても、不人気な政権与党「統一ロシア」を見限り、国民運動体「全ロシア人民戦線」をてこ入れする形で、基盤強化の動きが報じられています。
****プーチン氏、権力基盤固め 支持組織「全ロシア人民戦線」格上げ****
ロシアのプーチン大統領が、2011年に結成されたプーチン支持の国民運動体「全ロシア人民戦線」の本格的なてこ入れに動き出した。政権与党「統一ロシア」の権威が失墜しつつある中、人民戦線を超党派の組織として成長させ、16年の下院選や18年の大統領選に向けて権力基盤を強化する思惑が指摘されている。
人民戦線は11年末の下院選に先立って創設され、労働組合や経済団体など1千以上の各種団体を包含する。プーチン氏は3月29日、南部ロストフ・ナ・ドヌーで行われた人民戦線の討論会に出席し、この組織を「社会団体」に格上げするとともに、6月中旬に創設大会を行うよう求めた。
観測筋は、プーチン氏がここで正式なリーダーに選出されるとみている。
人民戦線は、11年12月の下院選や12年3月の大統領選で人気に陰りの出ていた統一ロシアを補完する役割を果たしたが、その後の活動は目立っていなかった。3月29日の討論会でプーチン氏は社会・経済政策に関する出席者の要望に耳を傾け、この模様は大々的にテレビで報じられた。
プーチン氏が人民戦線の強化に動き出した背景には、大統領1期目から議会の支持母体としてきた統一ロシアをもはや当てにできなくなった事情がある。
統一ロシアが辛うじて過半数を獲得した前回の下院選後、モスクワでは「選挙不正」に抗議するデモが吹き荒れ、同党には「詐欺師と盗人の党」とのレッテルが定着した。最近も外国に保有する資産の不申告といった醜聞に見舞われ、同党議員の辞職が相次いでいるありさまだ。
プーチン氏はすでに統一ロシア党首の座をメドベージェフ首相に譲っており、今後は政党を超越した「国民の指導者」像をいっそう前面に出すとみられる。16年の下院選に向け、人民戦線が他の親政権政党を取り込むとの見方も強い。独立新聞は、プーチン氏が人民戦線という「国民親衛隊」を率いて18年の大統領選に臨む可能性を指摘した。
プーチン政権は他方、昨年5月の発足以降、反政権派や非政府組織(NGO)への締め付けを強めてきた。3月には著名人権団体を含む各地のNGOが大規模な捜索を受け、欧米諸国が懸念を示したばかりだ。強権的な政治手法には都市部の中産階層を中心に反発もくすぶっており、中長期的な政治状況には不透明な要素も多い。【4月1日 産経】
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一方、個人崇拝とも思える熱烈なプーチン支持で活動していた青年団体「ナーシ」については、再編成の方向が報じられていますが、「プーチン離れ」で活動が下火になったことも背景にあるようです。また、その役割は終わったとの見方もあります。
****プーチン親衛隊 再編成 10代に照準 地方支部拡充へ****
ロシアのプーチン大統領を支えてきた官製青年団体「ナーシ」が、地方支部を増やすなど組織の再編成を計画している。これまでモスクワなどの大都市で示威行動を行ってきたが、近年のプーチン氏の支持率低下に伴い存続の危機に直面していた。
反政権派への対抗勢力として、インターネット空間などで宣伝活動を強めるとの見方がある一方で、すでに団体の役割を終えたとの声も出ている。
ナーシはロシア語で「友軍」などの意味がある。同組織の広報担当のフェダレンチック氏が11日、インタファクス通信に地方支部の開設や組織の再編成を行う計画を明かし、「大学や他の教育施設などで活動を強化する」と表明した。非営利団体(NPO)として、大学生や10代の学生らに団体の理念や活動を広めていく方針を明かした。
ナーシは2005年、スルコフ大統領府副長官(当時)の肝煎りで創設。ウクライナやグルジアで起きた政変のうねりがロシアに達するのを防ぐため、政変の原動力となりかねない若者を政権側に取り込む狙いがあった。
プーチン氏を個人崇拝する若者らで組織するナーシは毎年、「強いロシアを」と訴える官製デモを実施。外交問題が発生すると相手国の大使館前で抗議行動を行い、外交摩擦を激化させる要因にもなった。北方領土問題をめぐり、モスクワの日本大使館前で抗議集会を行ったこともある。
しかし、ここ数年は「プーチン離れ」が進むにつれてナーシの勢力も弱まり、昨年10月のプーチン氏の誕生日に合わせて行われたデモでは、参加者がかつての数万人規模から約500人に減った。
露有力紙イズベスチヤによると、団体の再組織化は1月、メンバーとウォロジン大統領府第1副長官との面会後に決まったという。政権側が再びナーシを支持拡大に活用しようとしている可能性もありそうだ。
一方、団体の創設者で組織の活動から身を引いたヤケメンコ氏は英字紙モスクワ・タイムズに対し、「プロジェクトはもう終わったのだ」と語っている。【2月15日 産経】
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【プーチン大統領に近いグループによる主要経済分野の掌握強化】
ロシアでは政権とのつながりが経済活動において決定的な力を発揮すること、そうした政権との関係を利用した政商的な存在が巨額の富を得ていると言われていますが、そうした権益を享受する階層にも世代交代の動きが見られ、プーチン大統領により近いグループの台頭があるようです。
****「新世代」億万長者が台頭 プーチン政権 “政財一体化”鮮明に****
この数年、富豪大国として知られるロシアの長者番付に変化が出てきた。ソ連崩壊後の混乱期に莫大(ばくだい)な資産を築いたオリガルヒ(新興寡占資本家)と呼ばれる富豪に代わり、プーチン大統領や政権に近い“新世代”が台頭しているのだ。プーチン政権は2003年の「ユコス事件」を機に新興財閥への統制を強めてきたが、ここにきて“政財一体化”がより鮮明になりつつある。
十傑に旧友
米フォーブス誌がまとめた13年版の長者番付によると、推定10億ドル(約945億円)以上の個人資産を持つ「ビリオネア」はロシアに110人おり、米国と中国に次ぐ3位。今回は、プーチン大統領の旧友として知られる石油トレーダーのティムチェンコ氏が、初めて十傑に入ったことが注目された。
同氏はプーチン氏がサンクトペテルブルク副市長だった1990年代からの親友で、独立系天然ガス企業「ノバテク」の大株主でもある。4年前に4億ドルだった推定資産は今や141億ドルに膨れ上がった。ノバテクの共同保有者であるミヘリソン氏も国内3位に順位を上げた。
十傑圏外ではあるが、60年代からプーチン氏の柔道仲間だったロテンベルク氏(パイプライン建設会社など保有)も資産33億ドルで31位につけている。
ロシアのオリガルヒはソ連崩壊後、国営資産の民営化に乗じて破格値で資産を獲得。それを雪だるま式に増殖させ、資金不足に悩んでいた政府を支援して政治への影響力を強めた。
だが、第1期プーチン政権下の2003年、石油大手「ユコス」のホドルコフスキー社長(服役中)が拘束され、同社が解体・再国有化された事件を機に流れが変わった。政権に従順なオリガルヒのみが生き残るという暗黙の了解が形成され、この傾向は08年の世界金融危機で多くの富豪が政権の救済を受けたことでいっそう強まった。
今回の番付では、英サッカーチーム「チェルシー」のオーナーとしても知られるアブラモビッチ氏が13位、「アルミ王」ことデリパスカ氏が16位と、代表的な旧世代オリガルヒが勢いを失っている。
評判は決定的資産
前出のティムチェンコ氏はメディアの取材に対し、プーチン氏との関係によって利益を得ているわけではないと強調してきた。また、番付1位のウスマノフ氏はプーチン氏を礼賛しているが、むしろソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などへの投資で資産を急増させた。
ただ、政治学者のサリン氏は「(富豪らの)圧倒的多数はさまざまな役人やその親族と親しくしている」とした上で、「プーチンとの関係は別格だ」と指摘する。「プーチンと仲が良いという評判だけで、腐敗した(経済)システムでは有利に働く。そうした評判は決定的な資産といえる」
実際、フォーブス誌が国家事業の受注額を調べた別のランキングでは、ロテンベルク氏とティムチェンコ氏の企業がそれぞれ1位と3位。ティムチェンコ氏の「ノバテク」は急成長し、今や国営「ガスプロム」による天然ガスの独占輸出権を崩そうと政府に圧力を強める存在だ。
また、長者番付で2位のフリードマン氏と4位のベクセリベルク氏らは、英BPとの合弁でロシア3位の石油会社「TNK-BP」を国営石油「ロスネフチ」に売却した。国営企業のトップにも軒並みプーチン氏の側近が配置されていることを考えれば、プーチン氏に近いグループによる主要経済分野の掌握は強まりこそすれ、弱まっていないことが分かる。【3月30日 産経】
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こうしたプーチン大統領による政治・経済掌握の流れのなかで、“復古的”とも言えるような動きも見られます。
****「ソ連」復古の動き…労働英雄をロシアが顕彰****
ロシアのプーチン大統領は29日、国家発展に大きく貢献した個人に「労働英雄」の称号を授与し表彰する制度を設けた。
ソ連時代の「社会主義労働英雄」の称号を連想させるもので、復古主義の新たな動きとして注目される。
タス通信によると、「労働英雄」の称号は「国家的、社会的、経済的な活動を通じ傑出した功績をあげ、ロシアの繁栄に尽くした国民」に贈られる。金メダルを授与されるほか銅像が建てられるという。
ソ連時代の「社会主義労働英雄」の称号は、原爆開発の中心となったイーゴリ・クルチャトフ氏や航空機設計者のセルゲイ・イリューシン氏などに授与された。【3月31日 読売】
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【プーチン路線を揺さぶるシェールガス革命】
外交的には、プーチン大統領は、旧ソ連諸国を統合して経済関係を強化する「ユーラシア経済同盟」の結成を2015年目処に目指しています。
国内的な管理強化、プーチン大統領個人を頂点とした政治・経済体制の確立、「ユーラシア経済同盟」の結成・・・・など、旧ソ連の復活をも思わせるような流れですが、どこまでもロシアはロシア、欧米とは一線を画した形での道を進んでいます。
こうしたプーチン路線が軌道に乗るかは、石油・天然ガス依存体質のロシア経済を改革・近代化していけるかにかかっていますが、近年のアメリカ発のシェールガス革命は、ロシア経済にとって大きな試練ともなっています。
そこで、プーチン大統領が期待しているのが極東開発ということになる訳ですが、そこらの話はまた別機会に。