孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

セルビアとコソボ EU加盟に向けて“歴史的合意”

2013-04-21 21:57:03 | 欧州情勢

(「分断の街」ミトロビツァ 川を挟んで手前南側はアルバニア系、奥北側はセルビア系住民の居住区となっています。 セルビア系居住区へは土砂で遮断されています。“flickr”より By e ele e http://www.flickr.com/photos/elenadepascual/8500051757/)

欧州最後のバルカン紛争地点での新たな歴史の幕開けが期待されている
分離独立をめぐり深い傷跡を残すセルビアとコソボの和解への模索と、その困難な道のりにちては、これまでも何回か取り上げてきました。
最近では、2月26日ブログ「コソボ 独立から5年、「祖国」を手にしたが、生活向上には高い壁  進まぬセルビア系住民との和解」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130226)など。

コソボの分離独立を認めないセルビアの基本姿勢、コソボ領内に存在するセルビア系住民居住区の扱いなど、対応が困難な問題がありますが、EU加盟を目指す両国にとって、EUが関係正常化を加盟の条件としていますのでなんらかの対応を迫られてもいます。

2011年3月から両国の直接交渉は行われており、最近では歩み寄りの姿勢も出てはきていましたが、4月2日にブリュッセルで行われた両国首相の会談では、コソボ領内でコソボ政府の支配を拒んできたセルビア系住民居住区の地位について合意できませんでした。

”コソボの人口約170万人の9割をアルバニア系住民が占めるが、北部の住民のほとんどがセルビア系。武力紛争のさなか南部から北に逃れ、5年前の独立宣言後も首都プリシュティナの中央政府の支配を拒んできた。
北部地域の自治体は今も自らをセルビアの一部とみなし、セルビア政府の予算で運営されている。南端の都市ミトロビツァは川で南北に分断。北大西洋条約機構(NATO)主体の国際治安部隊が警戒する。”【4月7日 朝日】

今回、EUの仲介によって、関係正常化へ向けた一歩がようやく踏み出されたようです。

****セルビアとコソボが歴史的合意、関係正常化へ前進*****
セルビア共和国とその自治州だったコソボ共和国は19日、関係正常化に向けた歴史的な合意書に署名した。西バルカン諸国の将来にとって重要な動きであり、両国は欧州連合(EU)加盟に向けて一歩前進した。

セルビアのイビツァ・ダチッチ首相とコソボのハシム・サチ首相は、両国間で続く緊張緩和のための2年間におよぶ厳しい交渉の末、15項目からなる合意書に署名。EU の指導者たちはこれを画期的な出来事として歓迎しているコソボ紛争の終結から14年、さらにセルビアからのコソボの一方的な独立宣言から5年が経った今、この合意がなされたことで、欧州最後のバルカン紛争地点での新たな歴史の幕開けが期待されている。

コソボのサチ首相は「この合意は過去の傷を癒すだろう。和解と国家間協力の時代の始まりを象徴する合意だ」と語った。セルビアのダチッチ首相は「セルビアの提案が受け入れられた。私が署名したのは、今後数日間に双方がこれを受け入れるか拒否するかを決める提案文だ」と述べた。

22日に会合予定のEU閣僚は、両国の交渉結果を受け、セルビアのEU加盟への扉を開くか否かを決定する予定。セルビア側は、6月のEUサミットでEU加盟交渉の開始日が決まることを期待している。22日までに両国の合意がない場合、セルビアのEU加盟は無期限延期となる。【4月20日 AFP】
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”画期的な出来事”“新たな歴史の幕開けが期待”という今回合意ですが、22日のタイムリミットを背景にしたEUの強い指導があったようです。
経済状態が悪く、失業率が約25%に達するセルビアにとって、EU加盟の成否は死活問題ともなっています。
独立したものの経済的苦境が続くコソボも同様でしょう。
EUには、加盟交渉をてこにして武力対立を抱えてきたこの地域の安定を図ろうとする狙いがあります。

****EU、懸命の説得=セルビアとコソボの関係改善****
旧ユーゴスラビア中核国のセルビアと、2008年にセルビアから一方的に独立したコソボが19日、関係正常化に取り組むことで基本合意し、対立克服への大きな転機となることが期待されている。合意の背景には、欧州連合(EU)加盟を悲願とする双方に対してEUが展開した懸命の説得工作があった。

北大西洋条約機構(NATO)軍による空爆から10年の節目に当たる09年にEU加盟を申請したセルビアに対し、まずEUが要求したのは、ボスニア・ヘルツェゴビナ内戦時のセルビア人武装勢力司令官で、旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷に起訴されたムラディッチ被告の拘束だった。

セルビアは11年に被告を拘束、戦犯法廷に引き渡し、これを高く評価したEUは12年、セルビアをEUの加盟候補国として承認した。ただ、加盟候補になってもEUとの加盟交渉は始まらなかった。EUが交渉開始の条件として、今度はコソボとの緊張緩和を迫ったからだ。

EUは12年末、セルビアとコソボの対立の象徴となっているコソボ北部のセルビア系住民の処遇で双方が合意すれば、セルビアはEU加盟交渉の開始、コソボは交渉準備の本格化がそれぞれ13年に可能だと諭し、早期の事態打開を促した。

対話は大詰めを迎えた4月に入って2度も決裂。しかし、仲介役のアシュトン外交安全保障上級代表(EU外相)は諦めなかった。セルビアとコソボの現状をEU加盟国に報告する22日のタイムリミットが迫る中、アシュトン氏は報告作成を後回しにして粘り強く双方を取り持ち、EU加盟を通じた関係改善という道筋を受け入れさせた。

今回の合意を受け、EUは6月の首脳会議で、セルビアとコソボの加盟を後押しする決定を下すとの公算が大きくなっている。【4月20日 時事】
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内容は曖昧で、合意の実行には困難が伴う
「一つの中国」など、利害が対立する外交交渉においては問題点をあえて玉虫色・曖昧にして、双方が都合のよいように解釈する手法がとられますが、今回合意も多分にそんな雰囲気があります。

コソボ側は「独立が承認された」としていますが、セルビアはコソボを国家として承認したわけではなく、コソボが一方的に独立を宣言している現状を事実上追認するという姿勢です。
EUも加盟条件として国家承認までは求めていないとされています。

また、問題点となっていたコソボ北部の少数派セルビア系住民居住区についても、自治権をめぐる解釈はセルビア側とEUでは異なっています。

*****セルビア:コソボ独立「追認」…EU加盟へ関係改善*****
欧州連合(EU)の仲介で関係正常化に向けた首脳同士の直接交渉を昨年10月から行っていたセルビアとコソボは19日、「EU加盟への道をお互いに阻止しない」ことを含む15条項で合意した。

セルビアはコソボを国家として承認していないが、コソボが一方的に独立を宣言している現状を事実上、追認する。ただ、正常化の最大の障害であるコソボ北部の少数派セルビア人地域の扱いはあいまいなままで、合意の実行には困難が伴う。

セルビア側は国内の協議を経て22日に正式に態度表明する。セルビアは昨年、EU加盟候補国になっており、今回の合意により、6月のEU首脳会議で加盟交渉開始を認められる見通し。

セルビアの自治州だったコソボは内戦や99年の北大西洋条約機構(NATO)によるコソボ空爆などを経て、08年に一方的に独立を宣言した。96カ国が承認したがセルビアは国家と認めていない。
報道やEU当局によると、合意はコソボとセルビアが、EU加盟を目指す双方の政策を容認する。コソボ政府は19日、「独立が承認された」と強調した。

コソボ北部のセルビアに隣接する地域には約5万人のセルビア人が集住する。現在、セルビア政府により、自治機関や学校、病院などが運営されており、関係正常化の最大の障害になっていた。
合意はセルビア人地域がコソボ政府の統治下に入ることを認める代わりに、医療、教育、司法、警察分野でセルビア人による自治を尊重。セルビア政府は、コソボ北部が独自の政府や議会を持つ共同体になると説明しているが、EU当局者は「自治権獲得ではない」とし、扱いはあいまいだ。

EU内では5カ国がコソボを承認していないが、EUは全加盟国が承認したうえで双方をEUに加盟させることを最終目標にしている。EUは今回の合意を「加盟への一歩」(アシュトン外務・安全保障政策上級代表=外相)と位置づけている。【4月20日 毎日】
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コソボ北部の少数派セルビア系住民居住区の扱いが難しいのは、セルビア政府とコソボ政府の間の問題ではすまず、当事者であるセルビア系住民に強い反コソボ感情・コソボ統合への不安感・本国セルビアへの不信感が存在しているためです。
自治権があるのか、ないのか・・・両国政府間では玉虫色・曖昧でもすみますが、具体的な進展によってはセルビア系住民が「本国セルビアから見捨てられた」として態度を硬化させる可能性もあります。そのことは、セリビア国内世論にも影響します。

かなり危うい「合意」にも思えますが、22日に会合予定のEU閣僚などであまり中身に深入りせず、合意を既成事実として固めてしまうしかないでしょう。
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