(シリア反体制派に加勢するクルド人女性戦闘員たち 【4月26日 AFP】http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2940488/10621581)
【レバノン:シリア難民が人口の4分の1に迫る勢い】
シリアの内戦も2年を経過すると、正直なところ難民に関するニュースなどを目にしても、つい読み飛ばしてしまいがちです。
シリア国外難民の数は正確なところはよくわかりませんが、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、3月時点で難民登録がなされている者だけで約92万人、その内訳はヨルダンが31万人、レバノンが24万人、トルコが23万人、イラクが12万人となっています。
なお、登録待ちを含めると、3月18日で約113万人とのことです。
もちろん、これらはUNHCRが把握している者のみの数字です。
生活基盤を失った難民の生活の苦しさは今さら言うまでもないところですが、なにがしらかの避難先の国からの支援や国際援助も(十分でないにせよ)期待できるこうした国外難民はまだ恵まれた方です。
国境からも遠く、移動のための車もない人々は国内で自宅を離れた避難民となりますが、国内避難民への援助・支援は殆ど行き届かない状況にあります。こうした国内避難民は約250万ほどいると推測されています。
シリアからの国外難民を受け入れる側も限界に近づいています。
数が多いヨルダン、レバノン、トルコはもちろん、イラクも自国の紛争による難民に加えての国外難民受け入れとなります。
支援のための公的な負担増だけでなく、難民増加による地元民との仕事の競合、治安の悪化も問題となってきます。
****シリア人の波、警戒 レバノン、1日数千人 物価・家賃上昇、宗派対立も懸念****
内戦が2年に及ぶシリアから隣国レバノンへ逃れる人の波が止まらない。レバノン人口の4分の1に迫る勢いだ。レバノンは宗教・宗派が複雑な国だけに、不安定化を懸念する声も聞かれる。
首都ベイルートにある国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)前は連日、食糧や医薬品をもらうための難民登録を求めるシリア人たちであふれる。ハイファン・ムスタファさん(40)は日雇いの仕事をしながら3~10歳の2男2女を養っている。「一回の仕事で10ドルもらえればいい方」とムスタファさん。国連が配る食糧券が欲しいと訴えた。
UNHCRによると、23日現在の登録難民(登録待ちを含む)は計43万8千人。毎日数千人規模で入国している。
一方、両国は昔から結びつきが強く、人々は査証なしで行き来できる。このため比較的裕福で、援助を求めないシリア人もレバノンに逃れる。レバノン政府によると、こうした人も含めると、レバノンには現在、100万人近くのシリア人が生活しているとみられる。
レバノンはシリアよりも経済力が高く、1人あたり国民総所得も9140ドル(2011年、世界銀行)と、シリアの約3倍だ。低賃金の仕事に就くシリア人も少なくなく、レバノン人との摩擦も起きている。日用品などの物価も上がりつつあり、ベイルート市内では家賃が倍になった物件もある。
レバノンはキリスト教やイスラム教のさまざまな宗派が微妙な均衡のもとで暮らす「モザイク国家」と呼ばれる。宗派ごとに政治勢力を構成しており、国会の議席も宗派ごとに配分されている。宗教・宗派の対立で内戦も経験、シリアは政治的にも軍事的にも介入を繰り返した。政治勢力は「親シリア」「反シリア」で色分けされる。
キリスト教政党の自由愛国運動のミシェル・アウン党首は今月、テレビ中継された演説で「シリア人の入国を制限し、緊急に援助が必要な人に限るべきだ」と訴えた。逃げてくるシリア人は多数派のイスラム教スンニ派の人たちが多い。その存在が政治力を持つことを懸念した発言だ。
レバノン首相府でシリア難民政策を統括するラムジ・ナーマン調整官は「様々な政治勢力が寄り集まった複雑な国だから、シリア人の存在を政治的に利用しようという動きは止められない。コントロールもできないし、大きな負担と不安要素になっている」と話した。【4月26日 朝日】
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レバノンの人口は約420万人、そこへシリアから100万人近い難民が入ってくる・・・・混乱は必至です。
特にレバノンの場合、そうでなくとも宗教的に難しいバランスをとっている国で、親シリアと反シリアを軸に長年内戦を含めた対立が続いている国です。難民の大量流入で国の基盤・バランスが大きく揺らぐことになります。
【ヒズボラが大規模な軍事介入へ】
もっとも、レバノンの場合、単に受身的にシリア難民を受け入れているだけでなく、レバノン最大の武装勢力ヒズボラ(親アサド政権・シーア派)によるシリアへの介入も報じられています。
ヒズボラはこれまでもシリア国内での活動が報じられていましたが、より本格的な大規模介入の動きがあるようです。
*****シリア内戦:ヒズボラが大規模介入 レバノン国境に進駐****
内戦が続くシリア中部で今月中旬、隣国レバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラが国境付近にある少なくとも五つの村に約3000人の部隊を進駐させたことが、シリア反体制派の武装組織「自由シリア軍」幹部への取材で分かった。
ヒズボラはイランとともにアサド政権を支援してきたが、大規模な軍事介入が明らかになるのは初めて。戦闘はレバノンにも波及しており、周辺国を巻き込んだ地域紛争の様相が強まってきた。
複数の自由シリア軍幹部によると、ヒズボラは今月19日ごろ、レバノン国境に近いクサイル周辺に、携行式ロケット弾などを装備した約3000人の部隊を展開。シリア政府軍などと協力して、自由シリア軍を攻撃した。少なくとも五つの村にヒズボラの戦闘員が駐留しているという。
反体制派の主要組織「シリア国民連合」のサブラ暫定議長は22日、クサイルでの戦闘にヒズボラが加わっていると指摘。コーエン米財務次官も23日、ヒズボラが「シリア国内でイランと民兵組織を作り、アサド政権を助けている」と述べた。
ヒズボラの報道担当者は23日、毎日新聞の電話取材に対し、「国境付近ではヒズボラのメンバーも生活しており武装組織に対しては自衛する」と述べた。
クサイルは中部の主要都市ホムスに近い要衝だ。アサド政権の強固な基盤がある地中海沿岸都市と首都ダマスカスの中間地域に位置し、政権も重視。だが政権側は戦闘員や武器をダマスカスなど大都市に集中させる戦略をとっており、クサイルでは最近まで反体制派が優勢だった。
シリア内戦についてヒズボラは表向き介入を「自衛」に限定しているが、戦線の拡大は避けられない情勢だ。国境付近では自由シリア軍とヒズボラの戦闘が増加。シリア政府軍も3月にレバノン領内を空爆している。
さらに反ヒズボラの有力なイスラム教スンニ派指導者アシール師は22日に発表した声明で「ヒズボラの(シリア内戦への)関与は明白になった」と述べ、影響下にある武装組織にシリア反体制派との共闘を呼びかけた。
ヒズボラは1982年、対イスラエル闘争を行う武装組織として、イランの支援で設立され、レバノン国軍を上回る戦闘力を有している。シリア内戦でもイランとともにアサド政権を支援し、戦闘員や兵器を送り込んでいるとみられる。ダマスカスでもヒズボラの旗を掲げる戦闘部隊が目撃されている。【4月26日 毎日】
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【アメリカ:アサド政権の「レッドライン」超えを確認】
一方、これまでシリア内戦への関与を避けてきたアメリカがアサド政権による化学兵器使用を認めたことで、今後より積極的な関与への方針転換することも考えられます。
****シリア:政権の化学兵器使用、米政府認める****
米ホワイトハウスは25日、シリアのアサド政権が反政府勢力との戦闘で猛毒の神経ガス・サリンを使用したとの指摘について「ある程度の確信」を得たとする米情報機関の分析結果を明らかにした。
米政府がアサド政権の化学兵器使用を認めたのは初めて。オバマ大統領は化学兵器の使用を「レッドライン(越えてはならない一線)」と明言しており、英仏や中東の同盟国などと対応の検討に入った。
米政府はこれまでシリア反体制派への人道支援に集中していたが、大統領は化学・生物兵器の使用に関しては、軍事介入の可能性を示唆してきた。ただ、オバマ政権は米主導の軍事介入に極めて慎重で、反体制派への軍事支援や北大西洋条約機構(NATO)主導の間接的な介入にとどまる可能性もある。
米上院軍事委員会のレビン委員長(民主党)やマケイン上院議員(共和)らが24日、ホワイトハウスにアサド政権による化学兵器の使用疑惑について米政府の見解を尋ねる質問状を送付。ホワイトハウスは25日、回答書簡を両議員に送ると同時に内容を公表した。
書簡には「情報機関はシリア政権が小規模ながら化学兵器のサリンを使用したことについて、ある程度の確信を得た」と明記した。
ただ、使用時期や被害状況は把握できておらず、書簡は「情報機関の評価だけでは不十分だ」と指摘。対応策を決めるためには「信頼に足る確固たる事実」が必要だとし、反体制派への軍事支援や軍事介入を決定するためには国連などの徹底した調査が必要との見解を強調している。
ヘーゲル米国防長官は25日、訪問先のアラブ首長国連邦で記者団に対し、アサド政権による化学兵器使用の可能性に言及。ケリー国務長官は同日、情報機関がシリア国内で2件の化学兵器使用を確認したと議員らに説明した。
一方、イスラエル軍情報機関は23日、政権側が使用したとの見解を表明。ロイター通信によると英外務省も25日、化学兵器使用に関する情報があると発表した。シリア内戦では、アサド政権と反体制派の双方が「化学兵器を相手が使用した」と主張。国連は調査団派遣を準備したが、アサド政権は入国を拒否している。【4月26日 毎日】
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アメリカの厳しい財政事情などを考えると、直接介入よりは武器等の軍事支援ということになるのではないでしょうか。それでも、もし欧米の軍事支援が始まればシリアの戦局に大きく影響します。
【トルコから撤退するクルド人武装勢力】
一方、この地域のニュースとしては、トルコのクルド人武装勢力のトルコ領内からの撤退が発表されています。
これによりトルコの治安は改善しますが、イラク・クルド人自治区への撤退するクルド人武装組織がシリアへ流入することも考えられます。
また、クルド人自治区との対立があるイラク中央政府としても、穏やかではないのではないでしょうか。
*****クルド人武装組織 トルコ撤退開始表明*****
トルコからの分離独立を目指して武装闘争を続けてきた「クルド労働者党」の軍事部門のトップが、トルコから戦闘員の撤退を開始すると表明し、およそ30年にわたる戦闘の終結に向け大きく動き出すことになりました。
クルド人武装組織「クルド労働者党」は、トルコからの分離独立を目指し1984年から武装闘争を続けてきましたが、ことしになって交渉が活発化し、先月、オジャラン指導者が戦闘員に武器を捨ててトルコ国外に出るよう呼びかけました。
これを受けてクルド労働者党の軍事部門トップのカラユラン総司令官は、25日、イラク北部にある拠点で記者会見し、「メンバーは、5月8日から段階的にトルコから退去する」と述べ、戦闘員の撤退を開始する考えを明らかにしました。
トルコでは政府軍とクルド労働者党との戦闘やテロで市民を含む4万人以上が死亡したとみられていて、およそ30年にわたる戦闘の終結に向け大きく動き出すことになりました。
一方で、クルド労働者党はトルコ政府が求めている撤退前の武装解除には応じておらず、戦闘員がイラク北部や内戦の続く隣国のシリアなどに流入することが予想され、この地域のさらなる不安定化につながるとの懸念も出ています。【4月26日 NHK】
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国家を持たない最大民族ともいわれるクルド人は、トルコ、イラク、イラン、そしてシリアで暮らしています。
シリア内のクルド人は反体制派として活動しているようです。
トルコからの撤退で、シリア内のこうした反体制活動が強化されることも考えられます。
****シリア反体制派に加勢するクルド人女性戦闘員たち****
ベールで顔を隠しもせず、自分の倍も体が大きいクルド人男性たちに怒鳴り声で指図する女性司令官エンギゼク氏(28)の姿は、男性が圧倒的多数を占めるシリアの反体制派戦闘員たちに衝撃をもたらす光景だ。銃で武装した親衛隊を引き連れた小柄のエンギゼク氏は、シリアのアレッポ市内の戦闘区域シェイクマクスドで数十人のクルド人部隊を率いている。
シェイクマクスドの大半の地区は、先月末の戦闘でシリア政府軍から反体制派が奪還したばかりだ。「女性にもマシンガンやカラシニコフ銃は撃てるし、戦車だって操れる。男性と同じくらい上手に」と、エンギゼク司令官は語る。ズボンにベージュのダウンベスト、ダークブラウン色の髪は後ろできつく束ねている。
倒壊した、銃弾で壁が穴だらけの建物に挟まれた人気がない路地で、狙撃兵たちが放つ銃声が散発的に響き渡る中、エンギゼク氏はAFPの取材に語った。「女性はわれわれ反乱軍で欠くことはできない」エンギゼク氏のような女性戦闘員は、3年目に突入したシリアのバッシャール・アサド政権に対する反乱軍の、表に現れない側面の1つだ。
エンギゼク氏が属するクルド人民防衛隊(YGP)は20%が女性で構成されている。最近、シリア反体制派に合流したYGPは、トルコの非合法武装組織「クルド労働者党(PKK)」のシリアにおける姉妹組織、民主統一党(PYD)の武装部門とされている。(後略)【4月26日 AFP】
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膠着状態が続くシリア内戦も、ヒズボラ、アメリカなどの欧米諸国、さらにはクルド人勢力などが介入・関与を強めることで転機を迎える可能性が出てきています。