(雪の中、日本から贈られた秋田犬“ゆめ”と戯れるプーチン大統領 なお、もう1頭はブルガリアから贈られた“バフィー”です。 米ロ関係の今後は、このプーチン大統領次第でもあります。【4月11日 AFP】http://www.afpbb.com/article/politics/2938157/10563518)
【互いに制裁を発動し合う異常事態】
国際関係の中心がアメリカ・中国関係に移り、アメリカ・ロシア関係は冷戦時代のような注目は集めていませんが、“米露関係は最近、ロシアの人権状況を問題視するオバマ政権・米議会と、これに反発するプーチン政権が互いに制裁を発動し合う異常事態となっている”と、ギスギスした関係が続いています。
この異常事態の中心にあるのは、ロシア政府の不正を追及したセルゲイ・マグニツキー弁護士の獄死事件です。
****米国:露官僚ら入国禁止 露も対抗措置へ*****
米財務省は12日、ロシア政府の不正を追及したセルゲイ・マグニツキー弁護士の獄死事件に関与したとして、ロシア内務省官僚ら18人に対して米国内法に基づく制裁を発動したと発表した。18人の氏名を公表した上で米国管理下の資産を凍結し、米国への入国を禁止した。
一方、ロシアも対抗措置として入国禁止にする米国人のリストを一両日中に発表する方針だ。
米露関係は最近、ロシアの人権状況を問題視するオバマ政権・米議会と、これに反発するプーチン政権が互いに制裁を発動し合う異常事態となっている。
オバマ政権のドニロン大統領補佐官(国家安全保障担当)が14、15日に訪露し、核軍縮やシリア情勢への対応を巡って協議するが、両国の関係冷却化は長引きそうな雰囲気だ。
マグニツキー氏はロシア高官の汚職などを追及していた08年11月、英投資会社の脱税に関与したとして逮捕され、翌09年11月に獄中死した。
米議会は拷問の末に殺害された疑いを抱き、昨年12月に成立させた対露通商規制条項(通称ジャクソン・バニク条項)を撤廃する法律に、拷問に関与した疑いのある人物への制裁を盛り込んだ。今回の入国禁止発動はこれに基づく措置で、ロシア内務省や拘置所の幹部などが対象とされた。
一方、ロシアのぺスコフ大統領報道官は今回の米国の措置について「米露関係に否定的な影響を与える」と懸念を表明。ただ、今回のリストの中にロシア政府高官は含まれておらず、対象人数も比較的少なかった。このため「米政府が対露関係に与える損失を最小限に抑え、ロシアとの対話を継続しようとしていることの表れ」(プシコフ下院外交委員長)と冷静に受け取る向きもある。【4月13日 毎日】
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このセルゲイ・マグニツキー弁護士の獄死事件に関しては、昨年末にも米ロの間で実質的制裁の応酬がありました。
****ロシア:米向け養子縁組「禁止」 人権巡り対抗****
米政府が人権問題で新たにロシアへの制裁を発動し、対抗措置としてロシアで、人権問題を理由に自国の子供を米国へ養子に出すことを禁止する法律が来年1月にも成立する可能性が出てきた。だが外交上の駆け引きに子供の問題を持ち出す事態にロシア国内でも批判の声が上がっている。
ロシア議会が審議している法案は、米国に養子として引き取られたロシアの幼児が放置されて死亡した過去の事件を引き合いに、人権擁護の立場から米国民との養子縁組を禁じるもの。死亡した幼児の名前から「ジーマ・ヤコブレフ法案」と呼ばれている。下院は21日、賛成420、反対7で可決し、上院も26日に採決する見通し。プーチン大統領が年内に署名すれば来年1月1日から施行される。
この法案が急浮上した大きな理由が米国側の対露制裁措置だ。
ロシアの動きに先立ち、オバマ米大統領は今月14日、74年から続けてきた対露通商規制条項(通称ジャクソン・バニク条項)を撤廃する法案に署名。ロシアが8月に世界貿易機関(WTO)に加盟したことを受け、米企業の対露進出を促す措置だったが、同時にロシア人弁護士のセルゲイ・マグニツキー氏が09年に獄中死した事件をめぐり、虐待に関与した疑いのあるロシア政府当局者の米国入国を禁じる条項も法案に盛り込んだ。
米議会の指導部が国内の対露批判に配慮したためだ。マグニツキー氏は当時、脱税に関与した容疑でロシア当局に逮捕され調べを受けていたが、逆にロシア政府当局の汚職も告発していた。
これに反発するロシア政府は今月、米国産食肉に対する事実上の輸入制限を始めた。養子縁組禁止の法案についても、プーチン大統領は「感情的だが、適切な措置」と理解を示し、署名へ含みを残している。
米国は99年から昨年までに約4万5000人のロシア人を養子として引き取り、最大の引受先となってきた。そのため養子縁組が禁止されれば、約70万人といわれるロシアの孤児にとって大きな打撃となる。
ロシアでは法案の見直しを求める署名活動も行われ、約10万人が反対を表明。「米国との養子縁組協定を破棄すれば、海外に(恵まれない)子供を引き取ってもらう道を閉ざしてしまう」とラブロフ外相が指摘するなど、政府内の意見も割れる事態となっている。【2012年12月26日 毎日】
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プーチン大統領はこの養子縁組禁止法案について、「ロシア議会による感情的な対応であることは理解しているが、(法案は)適切だと考えている」とコメント。
アメリカからの人権批判につては「米国こそ問題だらけだ。これまでも指摘してきた(米兵によるイラク人収容者虐待があった)旧アブグレイブ刑務所や(キューバの)グアンタナモ米海軍基地がいい例だ」と述べ、ロシアの司法制度に口出しする倫理的な権利をアメリカは持たないと反発、法案にも署名し、法律は今年1月から施行されています。
【欧州でのミサイル防衛(MD)計画凍結で、対話の動きも】
一方、安全保障問題では、両国間で懸案となっていたアメリカの欧州ミサイル防衛(MD)計画が北朝鮮問題の余波を受けて凍結されたことで、歩み寄りの動きが出ています。
****ロシア:安保ハイレベル対話へ 米MD計画凍結で****
ロシアは米国が欧州でのミサイル防衛(MD)計画を凍結したことを受け、安全保障問題に関するハイレベルの対話に乗り出した。米露は昨年後半から人権問題やシリア情勢をめぐり対立を深めてきたが、関係の冷却化に歯止めをかける狙いのようだ。
露国防省によると、ショイグ露国防相とヘーゲル米国防長官は25日に電話で協議し、次官級協議を再開させ、ミサイル防衛問題や国際情勢を議論していくことで一致した。ショイグ氏はさらに、ヘーゲル氏を5月下旬にモスクワで開く安全保障に関する国際会議に招き、国防相会談の開催も打診。「国防当局の対話に秩序をもたらしたい」と訴えた。
また、25日には米国のドニロン大統領補佐官(国家安全保障担当)が4月15日にロシアを訪れ、パトルシェフ安全保障会議書記と会談する日程も明らかになった。プーチン大統領も日程を調整できれば、ドニロン氏との会談に応じる可能性があるという。
米国は今月15日、北朝鮮の核兵器と弾道ミサイルに対処する狙いで、西部アラスカ州で地上配備型の迎撃ミサイルを追加配備すると発表。財源としてポーランドなどで配備する予定だった迎撃ミサイルを凍結し、予算を回す方針を示した。
ロシアは米国に対し、欧州でのミサイル防衛計画が自国の弾道ミサイルを標的にしていないことを文書で確約するよう要求している。米国が欧州での迎撃ミサイル配備を放棄していないことから、ロシアは「懸念が残されている」(ウシャコフ大統領補佐官)と主張するが、配備が先延ばしにされた点を考慮し、対米姿勢を軟化させている模様だ。
米露関係では、オバマ米政権が昨年12月に人権弾圧に関与したロシア政府当局者に対する制裁を発動したことに対し、プーチン政権が米国民との養子縁組を禁止するなど、「報復合戦」が起きていた。そのためオバマ大統領が今年前半に予定していた公式訪露が9月に繰り延べされることが確実になり、外交日程にも支障を及ぼしていた。【3月26日 毎日】
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【戦術核削減問題に向けた対話への期待】
この流れを受けて、3年前にアメリカとロシアが調印した戦略核弾頭の配備上限をそれぞれ1550発に削減する新戦略兵器削減条約(新START)では対象外となっている戦術核弾頭の削減の問題にも動きが出ています。
****NATO:戦術核削減、露が対話姿勢に****
ラスムセン北大西洋条約機構(NATO)事務総長との会見で、NATOが射程の短い戦術核の削減について検討を重ねていることが明らかになった。事務総長が「期待」を述べる背景には、ロシアが対話に転じた事情がある。「核兵器なき世界」の一端をNATOが実現できるかは、ロシアが警戒する米が進めるミサイル防衛計画とも密接に関連し今後、ロシアの動向がカギを握る。
NATO外交筋は、23日にブリュッセルで開かれるNATO外相会議にラブロフ露外相が出席することを明らかにした。先月、米国は北朝鮮の脅威に対応するため、欧州でのミサイル防衛を凍結して、米本土で展開する方針を発表。NATO外交筋は、「欧州での米国のミサイル防衛計画の一部が凍結され、ロシアの不安が取り除かれた」と話し、時間はかかるがNATOとロシアの対話が進展すると語った。
ここ数年、NATOとロシアの関係は冷え込んでいた。最大の障害は、米国が2020年まで4段階で計画していた欧州でのミサイル防衛整備計画だ。NATO側はイランの脅威を強調し、ロシア向けでないとしてきた。しかし、ロシアは信用せず、ミサイル防衛の共同運用やロシア向けでないとの法的保証を求めてきた。
世界の核兵器の大半は米露が保有。大陸間弾道弾など射程の長い核兵器は10年に調印した米露の新戦略兵器削減条約(新START)で配備上限を各1550発にすることで合意している。しかし、射程500キロ以下の戦術核については米露間の条約や対話の枠組みには含まれておらず、課題となっていた。
戦術核は東西冷戦の中で欧州に集中的に配備され、冷戦終結時にロシアは約2万発、米国は約4000発を保有していた。専門家によると現在、米国は160〜200発に大幅に削減した一方、ロシアは依然、3000発以上を維持。通常戦力で劣るロシアにとって、戦術核は捨てがたい事情がある。【4月11日 毎日】
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一期目に「核なき世界」を掲げたオバマ政権ですが、核弾頭の維持管理費は毎年300億〜400億ドル(2兆8500億〜3兆8000億円)に上り、核軍縮は巨額の財政赤字への対応策でもあります。
交渉はまだ“これから”の段階で、NATO事務総長も“「私たちは無邪気ではない」と話し、NATO加盟国が冷戦終結後、戦術核を大幅に削減したのにロシアが大量に維持する現状を指摘。削減は「ロシアの意思にかかって」おり、ロシアと相互に減らす「バランスの取れたものにすべきだ」とした”【4月11日 毎日】とのもとです。
また、アメリカ国内においても、共和党との対立が先鋭化している議会で承認がえられるか・・・という問題があります。
“オバマ政権と野党共和党との関係の悪さも核軍縮の足かせになっている。政権がロシアと条約を調印しても、批准に協力しない可能性が強い。米露核軍縮に詳しい米シンクタンク・ブルッキングス研究所のスティーブン・パイファー氏は、オバマ政権が批准を必要としないロシアとの「政治的合意」による核軍縮を狙う可能性を指摘する。”【4月8日 毎日】
イランは核開発を続行し、更に、北朝鮮のような核を振りかざす国が出てくると、アメリカ議会での核軍縮の承認は難しいかもしれません。
それはともかく、冷戦時代に比べるとすでに大量の核兵器が廃棄されてきている訳ですが、その処分・管理は大丈夫なのでしょうか?
特に、ロシアの場合、廃棄された核兵器の核物質が闇市場に流れるようなことはないのでしょうか?
やや不安を感じる部分ではあります。