(カイロのコプト教会近くで衝突するコプト・イスラム両教徒ら 【4月8日 YAHOOニュース】http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130408-00000010-reut-m_est.view-000)
【補助金を削減すれば物価上昇・政府への反発で「第2の革命」も】
ムバラク政権崩壊も混乱が続くエジプトですが、経済状況が悪化するなかで、混迷の度が深まり暴力行為が目立つようになっています。
財政難に悩むモルシ政権はIMFからの支援を求めていますが、IMF側は補助金削減などの財政改革を求めており、交渉は難航しています。補助金を削減すれば、物価上昇で国民の不満に火が付きかねません。
****エジプト:財政立て直しに苦慮 「第2の革命」懸念も****
中東の民主化運動「アラブの春」で独裁政権が倒れたエジプトが、財政立て直しに苦慮している。国際社会は、財政支援の条件として食料品や燃料の補助金削減を要求。
しかし、補助金を削減すれば物価上昇を招き、政府への反発が強まる可能性もあり「第2の革命」を懸念する声も出ている。
「軽油を自宅に買いだめすると、火災を起こす危険が高いのでやめるように」。エジプト政府は3月、異例の声明を出して国民に注意を呼びかけた。エジプトでは1月以降、軽油の供給不足が続き、ガソリンスタンドの前にトラックやバスの車列が目立つようになった。
緊急時に備えて、ポリタンクに軽油を入れて持ち帰る客も多い。20リットルあたり、30ポンド(約410円)の軽油が、闇市場では50〜60ポンドで取引されている。
供給不足の背景には、政府の財政悪化がある。ムバラク前政権時代から政府は補助金で軽油や食料品の価格を低く抑えてきた。だが2011年のムバラク前政権崩壊後、治安への不安から主要産業の観光業収入が低迷。
2月末の外貨準備高は約135億ドル(約1兆2700億円)まで下落。エジプト中銀が「危機的水準」とした昨年末の150億ドルからさらに減少した。そのため、軽油の輸入や補助金に充てる予算も不足している。
財政立て直しのため、政府は国際通貨基金(IMF)から総額48億ドルの支援を受ける交渉を続けている。だが支援の条件として、補助金削減などの財政改革を突きつけられ、交渉は難航している。
政府は歳出削減策として、発電や食品製造など一部の業種を除く工業用の燃料の値上げを決定。節電のため、カイロ国際空港は6月以降、1日4時間休業することも決めた。だがエコノミストの間では、市民生活に直結するパンやガソリンの補助金削減も不可避との見方が強まっている。歳出削減策が国民の不満を高めるのは必至で、人民議会(国会)選挙を控えるモルシ政権はジレンマに陥っている。
エコノミストのイブラヒム・マンスール氏は「政府は、財政改革に必要な負担や将来の経済活性化策を国民にきちんと示すべきだ。国民の理解を得ずに生活状況の悪化だけが続けば、食糧難などへの不満から第2の革命につながることもあり得る」と指摘している。【4月1日 毎日】
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“エジプトでは昨年末以降、外貨準備が3カ月分の輸入額を切る水準に落ち込むなどして通貨価値が下落、ヤミ両替が横行する事態となった。政府は今夏の電力需要を満たすだけの発電用燃料を確保できないと予測しており、暑さが本格化する6月ごろを念頭に、「政権危機説」を唱えるメディアもあらわれた。
これに対しモルシー政権は、政府に批判的なメディアへの締め付けを厳しくするなど強権姿勢に拍車がかかっている。”【4月8日 産経】とも報じられています。
なお、人民議会(国会)選挙については4月から段階実施する予定でしたが、モルシ大統領は延期して10月から実施するとの見通しを示しています。
【「4月6日運動」モルシ政権打倒へ 各地で衝突も】
こうしたなかで、ムバラク前政権崩壊につながる民衆デモを主導した民主化グループ、「4月6日運動」が6日、モルシ政権打倒のデモを呼びかけて各地で治安部隊と衝突、数十人が負傷する事態となっています。
6日はキリスト教徒とイスラム教徒の衝突で6人が死亡する事件も発生しており、経済、治安情勢の悪化でモルシ大統領への批判が高まり、暴力沙汰が拡大しています。
「4月6日運動」は昨年6月の大統領選では、イスラム原理主義組織ムスリム同胞団出身のモルシ氏を支援していますが、組織を率いるマーヘル氏は、「モルシは旧政権と同じように市民を抑圧している。支持は誤りだった」とし、モルシ政権打倒による“第2の革命”にかじを切ると宣言しています。【4月8日 産経より】
しかし、政党活動を行っていない「4月6日運動」の勢いは衰退しています。
また、社会全体に政治混乱への疲れが見られ、また、政治混乱の経済への悪影響を懸念する市民も多く、モルシ政権への不満が大規模な抗議行動に結びつくかは不透明な情勢です。
****エジプト:岐路の若者運動 設立5年、革命の熱気消え デモ暴力化****
2011年のエジプト民衆革命の原動力となった若者グループ「4月6日運動」が、活動開始から5年となる6日、首都カイロでデモを行った。
革命後も民主化の推進を求めるデモを続けているが、政党結成など政治に直接的に参加する動きはなく、6日のデモも革命時とは比較にならない小規模なものだった。暴力を伴うことが増えたデモへの嫌悪感が国民に広がっており、デモ主体の運動は岐路に立っている。
6日夕(日本時間6日深夜)、カイロ中心部に、4月6日運動が計画した反モルシ政権デモの参加者が集まっていた。「革命を盗んだのを覚えているか。忘れているなら、思い出させてやる」。メンバーが政権批判の雄弁をふるうと、参加者が「ダウン、ダウン、(モルシ)政権」とシュプレヒコールを上げた。
だが集合時間に集まったのは約300人。数万人が広場に結集してムバラク前政権を倒した2年前の熱気とはほど遠かった。参加者も変化を実感しているようで、サイード・ファトヒさん(25)は「周りの人々は、デモにはうんざりしているように感じる」と力なく話した。
4月6日運動は08年、若者らがインターネットの会員制交流サイト「フェイスブック」上で組織した。グループ名は4月6日に賃上げを要求するストライキを呼びかけたことに由来する。11年の革命後も、暫定統治した軍最高評議会や、12年6月に就任したモルシ大統領に対して、少数派や女性の人権尊重、民主的な憲法の制定などを求めてデモを続けてきた。
だが革命後はデモ中の暴力などが増えた。メンバーらによると、12年夏ごろからデモ中に女性が性的嫌がらせをされたり、盗難が起きたりするなどの事件が増えたという。治安部隊との衝突も増え、今年1〜2月の一連の反政権デモでは約70人が死亡した。4月6日運動はこうした暴力への関与を否定しているが、暴力の停止を呼びかけても止められないなど、自ら企画したデモを制御できていないのも事実だ。
一方、デモ以外の政治活動は低調だ。昨年の大統領選や人民議会(国会)選に候補者を擁立せず、現時点では政党結成の動きもない。広報担当のハリド・マスリ氏は「完全な民主システムができるまで、監視の立場を続ける」と説明する。【4月8日 毎日】
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【「教会や、キリスト教徒への攻撃は私個人への攻撃とみなす」】
一般的に政治運動に閉塞感が現れると、一部に過激な暴力に走る動きも出てきます。
エジプトでもそうした暴力が懸念されますが、ここにきて更に懸念されるのはイスラム教徒とコプト教徒の対立の激化です。
イスラム国家エジプトには1割ほどのコプト教徒(キリスト教)が存在しますが、両者の対立に火がつくと本格的騒乱に陥る危険があります。
****「かぎ十字」落書きで衝突、6人死亡 エジプト****
エジプトの首都カイロとその近郊の町で、先週末からイスラム教徒とキリスト教徒の一派コプト教徒の衝突が相次ぎ、これまでに6人が死亡した。ムハンマド・モルシ大統領の出身母体のイスラム教勢力と野党との対立が激化する中、国内が分裂し緊張が高まっていることが改めて浮き彫りになっている。
今回の衝突のきっかけは5日夜、カイロ近郊の町ホスースで、イスラム教の宗教施設に子どもたちが「かぎ十字」の落書きをしたことだった。
50代のイスラム教徒がこの子どもたちを叱りつけたところ、通りがかったキリスト教徒の若者と口論になり、これがイスラム教徒とキリスト教徒の間の銃撃戦に発展。キリスト教徒4人とイスラム教徒1人が死亡したほか、教会やキリスト教徒の家が放火され、薬局が略奪の被害に遭った。
さらに、この衝突で死亡した4人のキリスト教徒の葬儀が7日、カイロにあるコプト教の大聖堂で行われた際、参列者らがモルシ大統領を非難。その後、ひつぎを担いだ葬列が大聖堂を離れようとすると、地元住民らが投石し、再び衝突が起きた。目撃情報によると、機動隊が介入し大聖堂に向けて催涙ガスを発射。この衝突で1人が死亡した。
葬儀に参列したコプト教徒の若者によると、葬儀はテレビ中継されており、キリスト教徒らが「(ムスリム)同胞団の統治を打倒せよ」とスローガンを叫んでいた。葬儀後は、ひつぎを担いで大統領府まで行進し暴力反対を訴える予定だったが、大聖堂の外で住民らが待ち構えていて石や瓶を投げてきたため、キリスト教徒側も反撃したという。
エジプト保健省によると、一連の衝突で少なくとも84人が負傷したという。
エジプトの8300万人近い全人口のうち、キリスト教徒は6~10%。2011年2月にホスニ・ムバラク大統領が退陣して以降、コプト教徒とイスラム教徒はたびたび衝突しており、これまでにキリスト教徒を中心に約50人が死亡している。【4月8日 AFP】
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モルシ大統領としても、コプト教徒とイスラム教徒の衝突拡大という最悪のシナリオだけは避けたいところで、
7日夜に声明を出し、コプト教の宗教指導者と会談したことを明らかにした上で、「教会や、キリスト教徒への攻撃は私個人への攻撃とみなす」として、イスラム教徒に自制を求めています。【4月8日 読売より】
少数派のコプト教徒側には、このままでは多数派のイスラム教徒によって存在を脅かされるという危機感があります。
経済問題・民主化を巡る対立なら対応のしようもありますが、長年の不信感を背景にした宗教対立に火がつくと血で血を洗う憎しみの応酬になりかねません。
イスラム教徒に大きな影響力のあるムスリム同胞団を母体としているだけに、モルシ大統領には宗教対立を拡大しないための毅然たる対応が求められます。