孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国旅行で実感する中国・アフリカ関係

2018-07-19 18:47:31 | 中国

(一昨日観光した「万峰林」 カルスト地形が生み出す造形美です。画像のスポットは英訳では「The held moon by stars」 “星々に抱かれた月”といったところでしょうか。)

目にする唯一の外国人はアフリカ系
現在、中国を旅行中です。

今は、ガイド氏と別れて、貴陽北駅の高速鉄道待合エリアで、南寧行きの列車を待っているところです。改札までまだ1時間ほどあるようです。

貴州省を旅行していたこの五日間、一見して外国人とわかる外国人はまったくみかけませんでした。
(中国も、北京・上海はもちろん、シルクロードや雲南といった人気コースでは外国人観光客が大勢います)

ところが、今朝ホテルの朝食時にアフリカ系の旅行者を多数目にしました。

アジア各国を旅行していると、中国・韓国・欧米の旅行者はうんざりするぐらい見かけますが、アフリカ系はさほど見かけません。

そのアフリカ系旅行者が、基本的に外国人を目にしない貴州省で大勢目にするということに、驚いた次第です。

中国とアフリカの関係の緊密さについては、今更の話です。もちろん、それにともなう摩擦もあるようですが、“ある程度”は関係強化の必然のなりゆきでもあるでしょう。

****中国を訪れた日本人は「降りる駅や空港を間違えたのか」と勘違いするらしい=中国メディア****
中国は世界的に見て観光大国と言えるだろう。世界観光機関によれば、中国を訪れる外国人客の数は世界的に見ても上位の水準となっている。

「百聞は一見に如かず」ということわざがあるように、話で聞いているのと実際に体験するのでは大きな違いがあるが、これは中国でも同様と言えるようだ。

中国メディアの快資訊は9日、中国を訪れた日本人は「降りる駅や空港を間違えたのか」と勘違いしてしまうほど、「現実の中国は想像と違っていた」ことに驚くと伝えている。

記事はまず、中国南部の都市である広州市を初めて訪れた日本人は「まるでアフリカに来たかのようだ」と感じるほど、アフリカ人がたくさん住んでいること紹介。「アフリカに来たのかと勘違いするほどである」と紹介また、

北部の都市である黒龍江省ハルビンにはロシア人が非常に多く、「ロシアに来ているかのような錯覚を起こす」と紹介した。

さらに、北京や上海、深セン、成都といった大都市では民度も高まりつつあり、マナーを守る人が増えていて、治安も非常に良いということに日本人は驚くと紹介。

広い国土と長い歴史を持つ中国は地域ごとに異なった特徴があり、経済成長が続く中国は想像以上に国際化が進んでいて、さまざまな人種の人が集る国であることを紹介した。

大都市では非常に発達した中国の姿を見ることができるが、内陸部に行けば古き良き中国が残っていることを実感することができる。中国を訪れる機会があれば、地域ごとの特色を楽しんでみるのも面白いかもしれない。【7月12日 サーチナ】
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****日本人はアフリカを訪れると「中国の強大さ」に驚くらしいぞ=中国メディア****
中国のアフリカ諸国に対する政治、経済面における影響力は非常に大きく、中国企業もアフリカに積極的に進出し、アフリカ市場における中国製品のシェアも高い。それゆえ、アフリカを訪れた人は現地における中国の影響力の大きさに驚きを禁じ得ないようだ。

中国メディアの快資訊はこのほど、アフリカを訪れた日本人が「中国の強大さ」に驚いたらしいと伝えつつ、アフリカでは中国の勃興を感じ取ることができると伝えている。

記事は、日本人がアフリカ諸国を訪れると「中国の影響力の大きさ」に圧倒されると伝え、多くの日本人が「まるで中国に来たかのような錯覚に陥る」と主張。

中国メーカーの携帯電話をはじめ、日用品から電気製品、さらには、鉄道など、アフリカではありとあらゆるものが中国製であることに日本人は圧倒されるのだと伝えた。

一方、アフリカにおける日本の影響力や日本製品のシェアは中国とは比較にならないほど小さいとし、「アフリカで見られるのは、日本の中古車くらいだ」と主張。

アフリカは資源が豊富で、著しい経済成長を続ける国もあるだけに、世界中の企業が進出を狙っている有望市場だが、そこで中国は圧倒的な影響力を獲得しており、「中国の勃興を感じ取ることができる場所」だと論じた。

多くの中国企業がアフリカに進出し、中国製品がアフリカで大きなシェアを獲得しているのは事実だが、現地では中国人に対する反感が高まっているという見方もある。

中国企業は現地でアフリカ人ではなく、中国人を雇用し、アフリカ人に富をもたらさないためと言われており、一部の国では中国企業や中国人が襲撃される事件も起きている。【7月11日 サーチナ】
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****中国 習主席 中東とアフリカ歴訪 BRICS首脳会議にも出席へ****
中国の習近平国家主席は19日から中東とアフリカの5か国を訪問し、中国が提唱する巨大経済圏構想「一帯一路」を通じた協力の強化を呼びかけるほか、BRICS=新興5か国の首脳会議にも出席して、アメリカのトランプ政権の保護主義的な動きを念頭に多国間の自由貿易の推進を訴えるものと見られます。【7月19日 NHK】
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とんだ勘違い
今、貴陽から南寧に向かう高速鉄道に乗車しています。
私はとんだ勘違いをしていました。(チケット手配は現地旅行社にまかせていましたので・・・・)

予定表では、この高鉄の到着は夜の8時過ぎで、貴陽から5時間40分かかります。

でも、地図で貴陽と南寧を見ると、せいぜい500kmぐらいの距離です。
どうして“高速鉄道”で500kmを6時間近くかかるのか?それでは“中速鉄道”です。

実際、車内に表示されるスピードは240~250km出ています。どうなっているのか?

さきほどgoogleで検索したところ、貴陽から最短距離で南寧に向かうのではなく、桂林(ひょっとしたら広州まで?)大きく迂回する路線のようです。それなら6時間弱も納得です。(まったく、お気楽です)

納得ですが、桂林を経由するなら桂林で1泊・・・・というスケジュールもあったかも・・・。桂林は最初に中国を訪れた30年ほど前に観光しただけですから、もう一度離江下りを・・・・という思いも。

まあ、これから行く南寧でも桂林と同じような風景、川下りが楽しめますので、今回はこれでよかったのでしょう。(高速鉄道ルートの話は別にして、今回旅行で桂林を予定にいれることも検討し、結局はずした経緯もあります)

6時間弱と長旅ですが、昔の中国旅行に比べると、冷房完備の快適なシートは“天国と地獄”です。
昔は・・・・という話を始めると止まらなくなりますので、止めておきます。

ただ、今からすれば笑い話のように大変でしたが、そうした苦難を乗り超えての旅行は、今もキラキラ輝く時間でもあり、人生観にも大きく影響するものがありました。

それはともかく、実をいうと今朝から体調がよくありません。下痢です。
毎日、痺れるような料理を食べていたせいでしょうか。

朝が最悪でしたが、今は少し落ち着いてきました。
傷ついたり、病気の獣は、巣穴でじっとうずくまり、体調・体力の回復を待ちます。
私も、南寧につくまであと3時間ほど。じっとうずくまることにします。
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中国  プイ族「六月六」の五穀豊穣祈願

2018-07-18 23:10:12 | 中国
中国・貴州省を旅行中です。
今日(18日)で4日目。初日は古い町並み、二日目は雄大な滝、三日目はカルスト地形の造形美に深い渓谷・・・といったものを観光。

今日は、貞豊という街で行われた少数民族プイ族のお祭り「六月六」の観光です。

街の城門付近で行われた、民族衣装のプイ族による笛・太鼓・ラッパ・弦楽器などの演奏といった賑やかな“お祭り”のオープニングセレモニーも楽しめましたが、貞豊の郊外で行われた五穀豊穣を祀る素朴な儀式という非常に珍しいものを見ることができました。

田んぼのなかの小高い場所に祭壇が設けられ、鶏などの供物を携えた村人が大きく取り囲むなかで、村の長老たちが祈りの儀式を執り行い、その後長老・村人が祭壇の周囲をグルグル回ります。








派手な音楽などもなく、静寂と強い日差しのなかで淡々と執り行われます。

そうして祈りが終わると、村人は自分たちの田んぼに各自移動し、田にしつらえた小さな祭壇に手にしていた供物などをささげます。


NHKのドキュメンタリー番組にも出てきそうな光景です。

似たような儀式は日本各地、あるいは世界各地にもあるかとは思いますが、こうした儀式の一部始終を見るのは初めてのことでとても印象深いものがありました。

おそらく、この地方尾でも昔は各地で行われていたのでしょうが、今もきちんとした形で残るのは、今日見学した、街の中心部から車で30分ほどいった場所ぐらいなのでしょう。
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中国 朝食事情など 街から消えた油条

2018-07-17 23:02:51 | 中国

(黄果樹瀑布)

現在、中国・貴州省を旅行中です。

16日に宿泊した興義のホテルは、かなり大きなホテルでしたが、朝7時からの朝食に7時10分頃に行ってみると、広い朝食会場はすでに満杯状態。

ビュッフェ形式ですが、中国のおばちゃんたちが山盛りにとっていきます。
それはいいとして、ジュースのサービスを、持参のペットボトルに2本も移していくのは、止めた方がいいでしょう。

広いスペースを埋め尽くした中国人民の旺盛な食欲は一種壮観でもありますが、この中国人の胃袋を満たさないといけない習近平さんは大変だろうな・・・・とも実感。

中国の観光地は完全に中国人仕様です。当たり前のようですが、東南アジアやインド・エジプトなどでは、観光の大きな部分を外国人観光客が占めており、観光地・ホテルも一定に外国人を念頭に置いた形になっています。
中国の場合はそれがなく、サービスを提供する側も、受ける側も中国人です。
(このことは、中国社会が観光を楽しむレベルに達していることを意味します)

中国人仕様ということで、ホテルのビュッフェ形式の食事メニューに、他の国なら必ずあるトーストとかコーヒーといったものがありません。改めて「中国人民による、中国人民のための観光」を実感した次第です。

朝食と言うと、中国の一般家庭では外食が多く、日本に最近多くやってくるようになった中国人観光客が、「どうして日本は、朝食を食べる店が少ないのか?」と疑問に思うという話はよく聞きます。

中国では、朝食用に軽食の屋台みたいな店が路上に多数でていました。
なかでも定番は細長いパンを油で揚げた「油条」でした。

「でした」と過去形で書いたのは、今回旅行では、そうした屋台、油条をまったく見かけないからです。

ガイド氏の話では「油条は油を使用して健康によくないので、最近は人気がありません」とのこと。

健康云々はともかく(他の中国料理も油は多量に使いますので)、生活レベルが向上したことで、嗜好も多様化しているのでしょう。

もうひとつは、当局の規制が厳しくなって、勝手に路上に店などだせなくなった・・・・という要因もあるようです。

昨日(16日)はかなり盛沢山な観光メニューでした。

まず、貴州省観光のメインでもある安順市の黄果樹瀑布エリアに。
高さ78m、幅101m、アジア最大と言われる黄果樹瀑布は、雨量の多い時期を選んだだけに水量も十分で、「壮観」と言うしかない迫力です。

滝の裏側を、しぶきでビショビショになりながら歩いたり、滝つぼにかかる虹を眺めたりもして楽しめます。

このエリアには他にも大きな滝がありますが、私が行ったのは天星橋地区。ここでは奇岩と水と緑の織りなす景観、巨大鍾乳洞、そして銀鏈墜潭瀑布が楽しめます。

(天星橋の鍾乳洞)


(銀鏈墜潭瀑布)

黄果樹瀑布が垂直に落ちる滝であるのに対し、銀鏈墜潭瀑布は“早瀬”のような水平方向の滝で、落差はあまりありませんが、急流が銀鱗のように岩を覆いながら向かってくる様は、これもまた美しく「壮観」です。

黄果樹瀑布エリアのほかにも、カルスト地形が生み出す奇妙な景観「双乳峰」
にも訪れました。


名前からわかるように、一対のオッパイの形をした山が笑えます。片方だけのオッパイはカルスト地形の場所ではあるでしょうが、見事に左右そろっているのはここだけでしょう。

今(17日夜)は貞豊という街のホテルにいます。
明日18日に少数民族プイ族のお祭り「六月六」が行われるのに合わせてやってきました。

街はお祭りムードで賑わっていますが、夕食に地元の有名店に行ったのが間違い。

お祭り前の宴会などで調理場はパニック状態。頼んだ料理がいつまで待っても出てきません。

注文をキャンセルして店を代えようかとも思ったのですが、なんだかんだで結局食べ終わるまでに2時間ほどかかってしまいました。

今日は早めにホテルに入ったので、ブログ更新もできるかと思っていたのですが、予定が狂ってしまいました。

そんな訳で、(今日の観光の話もなく)中途半端ですが今日はこれで取りあえず更新だけしておこうと思います。これから洗濯もしないといけませんし。
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中国・貴州省を旅行中 変化する中国 大きな違和感はなくなったようにも

2018-07-15 22:54:56 | 中国

(明代の屯田兵に由来する天龍鎮老漢族村の「地劇」の衣装 地面で演じるので「地劇」 後ろの席の観客が見下ろしたときに違和感がないように仮面はおでこのあたりに被る・・・・とか)

【夜中の2時にチェックイン 4時半には起床】
今、関西空港から中国・成都(四川省)に向かう四川航空機内にいます。

今日(7月14日)から10日間ほど中国を旅行します。いつものぶらり一人旅です。
中国は3年前の西安以来で、9回目ぐらいですが、今回の目的地は貴州省の貴陽を起点としたコースと、広西チワン族自治区の南寧を起点としたコースです。

貴陽からのコースの見どころとしては、アジア最大級の滝と言われる黄果樹瀑布、少数民族プイ族のお祭りなど。
南寧からのコースの見どころとしては、ベトナム国境にある、やはり大きな滝である徳天瀑布や、桂林にも似た風景の明仕田園など。

この時期は比較的雨が多いので、普通なら旅行は避けるのですが、今回は上記のようにメインが“滝”ということで、あえて水量が多いこの時期を選んでの旅行です.。(とは言っても、あまり降られても困るのですが・・・・)

現地では日本語ガイドを頼んでありますので、観光には問題はありません。

唯一の心配は、現地にたどりつくまで。今夜は成都で一泊して、明朝のフライトで貴陽に向かいますが、おそらく今夜成都のホテル(四川航空手配の無料トランジットホテル)に入れるのは夜中の2時頃ではないでしょうか。

明日のフライトが早朝7時ということで、いろいろ逆算していくと、眠る時間はせいぜい2~3時間。というか、ホテルで眠ってしまって大丈夫だろうか・・・・というのが不安です。

今、15日の朝6時半。成都の空港で貴陽へのフライトを待っています。

昨夜はやはり大変でした。
トランジットホテルの人間が出口で待っている・・・・ということでしたが、そんな人物はいません。

ぼったくりの白タクなどを振り切って、空港の係員に相談。なんとかホテルに入ることができました。(実際は、途中であきらめて、空港で一夜をあかす覚悟もしたのですが)

ホテルチェックインが夜中の2時頃。早朝のフライトのため、5時にホテルを出るミニバンに乗れとのこと。
モーニングコールは4時半。2時間ほどしか眠る時間はありません。

目覚ましを3つセットして、なんとか5時の空港行きの車に。

「なんとかなった・・・」と安心したのですが、空港のターミナルを間違えてターミナル2に着いてしまいました。

いろいろ訊いて、ターミナル1行きのシャトルバスがあるのはわかったのですが、始発が6時と書いてあります。
30分以上待つ必要があります。

チェックイン時間などを考えてなるべく早く移動したいこと、暗くて雨も降っていることなど・・・・もあって、結局、ぼったくりのおばさんの勧める車で移動することに。

わずか750mほどの距離で100元(約1700円)。絵にかいたような“ぼったくり”ですが、チェックインを無事にすますまでは何があるかわかりませんので・・・・

そんなこんなで、ようやく貴陽に向けて出発です。
貴陽に着けば、日本語ガイドと専用車で移動ですから、何も問題はありません。

ただ、天気がどうか・・・。成都は雨が降っています。
雨は覚悟しての旅行とはいえ、やはり雨に降られるとテンションもあがりません。

まあ、こればっかりは仕方がないことです。

【中国の特色ある政治体制のことなど】
ここからは、15日の貴陽での観光を終えて、宿泊ホテルで書いています。
心配した天気の方は、ときどき雨はパラつくことがあったものの、時には日が差すことも・・・といった不安定な天気でしたが、なんとか観光には支障がない程度にもちこたえたといったところ。

観光の話は旅行ブログで詳しく紹介するとして、今、国内では、ここ2か月ほど中国語入門の市民講座に通っています。

週1回、1時間半の授業ですから、まだまだ発音と超簡単な挨拶の段階。昔、大学で2年ほど中国語の講座をとったことがあるのですが、当時の記憶の残りかすと併せて、何とかなれば・・・といったところです。

授業の中の例文に「日本の印象はどうですか?」というものがあって、30代ぐらいの中国人女性の先生が、「日本の印象は“好(ハオ)”ですね。中国の印象はどうですか?“不好(プーハオ)”ですね。」と。

彼女曰く、「日本で報じられる中国に関するニュースは悪いものばかり。汚い、不作法だ、怖い・・・。でも、中国のすべてではありません。もっと中国のこと、中国人ことを知ってもらえば・・・・」と、非常に残念そうでした。

いつも言うように、ニュースというのはネガティブなものが殆どで、仕方がない面がありますが、確かに中国のことを嫌う日本人がどれほど中国のことを知っているのか?という情報不足の面はあるかも。

今や多くの中国人観光客が日本を訪れるようになり、それなりに中国側の日本に対する情報は増大しており、旧態依然の反日的な見方に疑問を呈する声(まだ少数派であるにしても)も出つつありますが、日本側の中国に対する情報・認識は停滞しているような感も。

日本人が中国を嫌う理由は大きく分けて二つ、一つは社会全体の清潔度やマナーの問題でしょう。

ただ、中国は急速に変化しています。
今日観光した青岩古鎮や天龍鎮老漢族村や、宿泊している関嶺の街など、こまかいことを言えば日本との違いは多々ありますが、全体の印象としては日本の観光地、都市とそんなに差はありません。

多くのトイレもきれいになりましたし、ちゃんと列をつくって順番待ちし、割り込むような人もいません。そこらに痰を吐くような人も見かけなくなりました。

20年前、30年前とは全く違います。

日本人が中国を嫌うもうひとつの理由は政治の問題。
共産党一党支配のもとで人権・自由が弾圧されていることは間違いありませんし、習近平政権のもとで、そうした締め付けが従来以上に厳しくなっていることもよく指摘されています。

ただ、将来的に中国がそうした抑圧的な体制をずっと維持できるかはやや疑問も。

****被災地訪問の安倍首相に日本人から批判、中国人は意外な反応****
2018年7月12日、新京報の中国版ツイッター・微博(ウェイボー)アカウントは、安倍晋三首相が西日本豪雨の被災地である岡山県を視察に訪れたことに対して、日本のネット上では不満の声が出ていると報じた。

記事は、安倍首相が11日に岡山県に入り、避難所で生活する市民と握手をしたほか、再建を進めることを表明したと紹介。その一方で、日本のネットユーザーからは「どんなにパフォーマンスをしても、宴会のことは忘れない」など、豪雨に見舞われた5日に安倍首相が東京・赤坂の衆院議員宿舎で開かれた懇親会に出席し、その様子がツイッターで公開されたことに対する不満や非難が出ていることを伝えた。

中国のネットユーザーは「中国では国の指導者をこんなふうに非難することはまかりならない。長生きしたくないなら別だけど」「日本のネットユーザーには自由があるな」など、ネット上で公然と安倍首相への批判が行われていることに対する感慨や羨望(せんぼう)の声を寄せた。

また、「中国の指導者が被災地を訪問したってニュースは今のところ見てないな(※中国でも台風による被害が発生)」という声や、「パフォーマンスが一番好きなのはどの国なんだか」「他人の揚げ足を取る前に、自分の国を見よ。倒産だの失業だの、恨みの声ばかりだぞ」「毎日のように欧米や日本、台湾を批判して、自分たちは人民に奉仕するなどと自慢している」など、中国政府や中国のメディアに苦言を呈するユーザーも多く見られた。【7月12日 レコードチャイナ】
**********************

“ネット上で公然と安倍首相への批判が行われていることに対する感慨や羨望の声”・・・・こうした見方、“中国の現状がまともなのか?”という疑問は、日本など外の世界に関する情報が拡散するにつれて深まるでしょう。

もちろんそれで政治体制が変革されるとは言いませんが、指導層も馬鹿でなければ、単に抑圧するだけでなく、何らかの対応をしていかないと政権を維持できないという認識にもなるのではないでしょうか。

ただ、今日観光をしながら聞いた話で気になったのは、中国にも民主主義的な自由に憧れる雰囲気はあったけど、最近は台湾の状況など見ていると、そうした政治的自由にどれほどの価値があるのか、むしろ中国の政治体制が優れているのでは・・・・といった類の意見がネットでは増えているとの話です。

あまり政治的な話に深入りするのもいかがなものか・・・・ということで、“台湾の状況”が何を指すのかなどは確認しませんでした。

「習近平氏の号令でトイレ改革が一気に進むなど、権限を一部に集中させる独裁的な政治体制は効率がいい側面はあるが、批判を許さない体制は、指導者が間違った道に進もうとしたとき大変なことになる」とだけ付け加えておきました。

その方もその点には、毛沢東の過ちなどを挙げて同意のようでした。

移動と観光で疲れが半端なく、頭も回りませんので、支離滅裂ですが今日はこのへんで。
 
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トランプ流ディール NATO、ドイツ、イギリスを揺さぶる 信頼関係は低下

2018-07-13 22:46:29 | 欧州情勢

(ブリュッセルで11日、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議を前に記念撮影をする各国首脳。前列左からメルケル独首相、ベルギーのミシェル首相、NATOのストルテンベルグ事務総長、トランプ米大統領、メイ英首相【7月12日 朝日】)

【「いまは脱退する必要はない」】
ほんの2年前までは、アメリカ主導のNATOからアメリカ自身が抜けるなんて、悪い冗談でしかありませんでしたが、トランプ大統領はGDPの2%以上を国防費にあてるという目標を早期に達成するよう欧州各国に求め、各国が応じなければアメリカがNATOから脱退することを示唆したと伝えられています。

守ってやっているのだから、ちゃんと用心棒代を払え。でなければ・・・という話で、わかりやすいと言えば非常にわかりやすいですが、これが“同盟国”の関係か?と言われればなんとも・・・・。用心棒は条件さえよければ、“守ってやっていた”欧州を見限って、ロシアと手を組みます。「用心棒」というのはそういうものです。

トランプ大統領は会議では、2%の約束はもちろん、“最終的に目標を4%に倍加することが望ましい”とも主張したようです。

トランプ大統領の剣幕に押し切られるように、加盟国は「2024年までに2%達成を揺るぎない責任とする」という形で、一応の“結束”は保ちましたが、およそ“信頼”とは言い難い雰囲気にもなっています。

****NATO首脳会議閉幕 米欧結束に残る不安****
北大西洋条約機構(NATO)首脳会議は12日、2日目の協議を行い、閉幕した。会議ではトランプ米大統領が求める加盟国の国防費増大で合意したものの、トランプ氏は12日、不満を繰り返した上、加盟国に目標達成への強い圧力をかけた。米欧の軍事同盟の結束には不安が残った。
 
首脳らは12日、アフガニスタン支援やウクライナとの協力の継続などに合意。初日の11日には2024年までに国防費を国内総生産(GDP)比2%に引き上げる目標の達成が加盟国の「揺るぎない責任」とする共同宣言を採択した。
 
有事には一定規模の陸海空軍部隊が30日以内に展開できる態勢を整え、東欧が脅威を受けるロシアへの抑止力強化も決定。NATOは「不朽で強靱な欧州と北米の絆」などとうたう別の宣言も採択した。
 
だが、トランプ氏は12日の記者会見で「NATOの費用のおそらく90%を払ってきた」と述べ、欧州が貿易で米国から利益を得ながら安全保障も米国に頼る状況を批判。

加盟29カ国のうち大半の加盟国の国防費が目標を下回る現状に「極めて不満」と語り、最終的に目標を4%に倍加することが望ましいと主張した。
 
一方、首脳会議の成果には「NATOは2日前より強くなった」と評価。NATOを離脱する考えがないことも明らかにした。
 
12日の協議ではトランプ氏が再び国防費問題への不満を示し、改めて議論する事態になった。ロイター通信によると、トランプ氏は議論で国防費のGDP比率の低さが目立つドイツのメルケル首相に厳しい態度をとったほか、「2%目標」は来年1月までに達成されるべきだとも述べた。
 
ストルテンベルグ事務総長は12日の記者会見で「率直な議論で切迫感が生まれた」と評する一方、メルケル氏は「とても厳しい会議だった。さらにどれほど国防費を増やせるのか、話し合わねばらないだろう」と厳しい表情で語った。【7月12日 産経】
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2%の目標自体は、トランプ大統領が就任する前の2014年のNATO首脳会議で、10年かけて2024年までに目指すことが決まっていましたので、それを改めて確認したというところです。

日本の防衛費が1%の枠をめぐって大きな政治問題があったように、各国それぞれの事情があり、すぐに倍増とはいかない面がある問題です。

しかしトランプ大統領はまだご不満なようで、「直ぐに払え!」と吠えています。

***防衛費「直ちに2%払え」 NATO諸国に米大統領****
ベルギー首都ブリュッセルで北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席したトランプ米大統領は11日、加盟国が防衛費を2024年までに国内総生産(GDP)比2%に拡大し米国の防衛負担を軽減する問題を巡り「2025年まで待たずに直ちに2%払え」とツイッターで要求し、不満をあらわにした。
 
首脳会議では24年までの2%の目標達成を再確認する共同宣言を発表、結束を取り繕ったが、宣言発表直後のトランプ氏のツイートで、防衛費を巡る亀裂が修復されていないことが示された。【7月12日 共同】
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と思ったら、「とても満足している」とも。

****トランプ氏「満足」国防費負担増に成果強調****
NATO(=北大西洋条約機構)の首脳会議が12日に閉幕し、トランプ大統領は「とても満足している」と述べ、国防費の負担増加に各国が応じる姿勢をみせたとして成果を強調した。

トランプ大統領は会議2日目も国防費の負担問題を持ち出し、GDP(=国内総生産)の2%以上を国防費にあてるという目標を早期に達成するよう求め、各国も努力を強化する姿勢を示した。

ロイター通信などは、各国が応じなければアメリカがNATOから脱退することを示唆したと伝えているが、トランプ大統領は「各国の対応に満足できたので、いまは脱退する必要はない」と述べた。

NATOのストルテンベルグ事務総長は「トランプ大統領の明快なメッセージは大きなインパクトを与えた」としており、ヨーロッパ側は押し切られたかたち。【7月13日 日テレNEWS24】
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「甘い顔をしていたら、つけあがっていつまでも払わない。脅してやれば直ぐに払うさ」というトランプ流ディールですが、各国にはアメリカに対する“信頼”とは逆の“疎ましさ”も。

NATOの現状については、以下のようにも。トランプ流の“威圧”で、軍事能力は改善しているとも。

****トランプ氏の威圧奏功か 変身遂げたNATO軍****
ドナルド・トランプ米大統領から防衛費を増大するよう集中砲火を浴びてきた北大西洋条約機構(NATO)は、再び勢力を拡大するロシアへの懸念も相まって、ここ数年では最も優れた軍事能力を備えるまでに至った。(中略)
 
トランプ大統領は公の場でも、水面下でも、加盟国は防衛支出が不足しており、欧州防衛の費用を十分に負担していないと批判してきた。先月には、欧州首脳に一連の書簡を送っている。

 NATO加盟の欧州27カ国のうち、昨年、防衛費の目標を達成したのは4カ国に過ぎない。一方、トランプ大統領の下で、米国の欧州向け防衛費は倍以上に膨らんだ。
 
しかし、改善の兆しは顕著だ。NATO当局者によると、配備可能な兵士の数は増えており、即応能力も高まっている。
 
NATOは目下、他国の指揮官の下に兵士を配備して各国の統合を深めるともに、道路や橋など、軍事機器に対応できる基本インフラを強化し、演習で軍を素早く動員できることを示している。
 
年末までには8カ国が防衛費の目標を達成できる見込みで、16カ国以上が目標の達成に向かっている。実質ベースでは、NATO加盟の欧州諸国による昨年の防衛支出は、2010年以来の水準に高まった。
 
だが、それでも現在の欧州の防衛費は、実質のドルベースで10年前の水準を約7%下回っており、NATO軍の多くは緊急時に即時配備の用意が整っていないか、海外への派遣で疲弊した状況にある。
 
旧ソ連の脅威に対抗するために創設されたNATOは、ハイブリッド戦争、非対称戦争といったロシアが新たに掲げる戦術に対し苦戦している。
 
NATOにとって一段と気掛かりなのは、トランプ大統領の下で政治的な結束が弱まっているところに、軍備増強が進められていることだ。

トランプ大統領は、欧州の同盟国を米国が防衛するとのコミットメントに対し、公の場で疑問視する姿勢を示してきた。
 
かつてスロバキアのNATO大使を務めたトマス・バラセク氏は「トランプ大統領の登場以前よりも、NATOの団結力は低下している」とし、「抑止力の効果が下がるのは明白だ」と語る。(後略)【7発8日 WSJ】
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例えばロシアがバルト3国へ侵攻した場合(そういうことが現実問題としてあるかどうかは別にして)、NATOがどこまで対応できるのか・・・といった話はありますが、今日の本題ではないのでパスします。

【「ドイツはロシアに完全に支配されている」】
今回、特にトランプ氏のやり玉に挙がったのがドイツ。

“トランプ氏は特に、18年の防衛費が1.24%にとどまる見込みのドイツを批判。国防費問題で名指しするとともに、ロシアからドイツへの天然ガス・パイプライン計画などについて触れ、「ドイツはロシアの人質になっている」と批判。「ドイツが何十億ドルもロシアに払いながら、我々がロシアから守ってあげなければいけないというのは理解できない」とも話した。”【7月12日 朝日】

****独はロシアの「捕らわれの身」NATOトップと会談のトランプ氏が批判****
ベルギーの首都ブリュッセルで北大西洋条約機構のトップと会談に臨んだドナルド・トランプ米大統領は11日、ドイツがロシアとの「不適切」なガス取引で「捕らわれの身」になっていると発言し、ドイツを痛烈に批判した。
 
トランプ大統領はイエンス・ストルテンベルグNATO事務総長との朝食会の冒頭、儀礼的なものにするという慣行を破り、ドイツをはじめとする加盟国が費用を負担していないと激しく非難。
 
トランプ大統領は、ロシアからドイツに天然ガスを供給するパイプライン計画「ノルド・ストリーム2」に言及し、「ドイツはロシアによる捕らわれの身となっている。膨大なエネルギーをロシアから得ているからだ」と発言。
 
続けて「世界中の誰もが、このことについて話している。われわれがドイツを守るために数十億ドルも払っているというのに、ドイツは数十億ドルをロシアに支払っていると」「ドイツはロシアに完全に支配されている」と語った。
 
トランプ大統領はさらにNATOに対し、主に不十分な費用負担の点で批判を展開。「われわれはドイツやフランス、皆を守ってきた」「この状況は数十年間にわたり続いている」と述べ、「こんなこと、こんな不適なことに我慢していくつもりはない」と話した。【7月11日 AFP】AFPBB News
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ただ、会議後は「メルケル首相とは非常に良い関係にある」とも。

****ドイツ首相と良好な関係強調=トランプ米大統領、批判から一転****
トランプ米大統領は11日、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の場でメルケル独首相と会談した。トランプ氏は会談後、NATO加盟国の国防支出や貿易問題などについて話し合ったと述べ、「首相とは非常に良い関係にある」と強調した。
 
メルケル氏も「米国とは良いパートナー同士」であり、今後もトランプ氏とのやりとりを楽しみにしていると応じた。
 
トランプ氏はNATO首脳会議開幕前、ドイツのロシア産天然ガス輸入に言及し、「ロシアの捕虜」になっていると批判。メルケル氏は、現在のドイツは独立国家だと反論していた。
 
トランプ氏はマクロン仏大統領とも会談し、貿易やNATOに関する問題について意見を交わした。マクロン氏との会談では周囲の笑いを誘うなど、メルケル氏の時より和やかな雰囲気で行われた。【7月12日 時事】 
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まあ、トランプ大統領がメルケル首相を好ましくは思っていないのは事実でしょう。

ロシア・ドイツが進める天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」については、アメリカ国務省は制裁対象となる可能性を警告しています。

****ノルドストリーム2へ投資する欧州企業、制裁の可能性=米国務省****
7月11日、米国務省は、ロシアとドイツの間で建設が計画されている天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」へ投資する西側企業に対し、制裁対象となる可能性があると警告した。(中略)

「(パイプラインは)欧州全般のエネルギー安全保障および安定性を弱体化させる。ロシアにとって、欧州各国とりわけウクライナを政治的に支配するための新たな手段となる。ロシアは、このプロジェクトが欧州を分裂させることを理解しており、その有利な立場を利用している」と述べた。

ノルドストリーム2に投資している欧州企業はドイツの化学大手BASF(BASFn.DE)傘下のウィンターシャル、ウニパー(UN01.DE)、オーストラリアのOMV(OMVV.VI)、英蘭系のロイヤル・ダッチ・シェル(RDSa.L)、フランスのエンジー(ENGIE.PA)の5社。【7月12日 ロイター】
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ロシアは、米国産液化天然ガス(LNG)を押し売りしようとするアメリカのキャンペーンの一環だと批判しています。【7月13日 ロイターより】

【「(辞任したジョンソン前外相が)偉大な首相になるだろう」】
トランプ大統領は舞台をイギリスに移しても、言いたい放題は変わりません。

イギリス・メイ政権は周知のようにEU離脱をめぐって揺れており、EUからの独立を重視する従来の「ハード・ブレグジット(強硬な離脱)」路線を軌道修正し、協調を優先した「ソフト・ブレグジット(穏健な離脱)」の傾向を明確にしたことに、離脱強硬派のデービス離脱担当相、ボリス・ジョンソン外相が辞任する騒ぎになっています。

その内容については別機会に。

このメイ首相の方針をトランプ大統領が批判。

****穏健な英EU離脱案、米英貿易協定の機会つぶす─トランプ氏=英紙****
トランプ米大統領は、メイ英首相が先週、欧州連合(EU)からの穏健な離脱案を示したことについて、米英が貿易協定を結ぶ機会を「恐らくつぶす」との認識を示した。英紙サンがインタビューの抜粋として12日遅くに伝えた。

報道によると、トランプ氏は「英国がそうした(穏健な)離脱で合意すれば、われわれは英国ではなくEUとやり取りすることになるため、恐らく取引をだめにするだろう」と述べた。

トランプ氏はまた、離脱方法に関する自身の助言をメイ首相が無視したと主張。「私ならかなり異なる形でやっただろう」とし、「メイ氏にどうすべきか伝えたが、聞き入れられなかった」と述べた。【7月13日 ロイター】
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イギリスにとって、EU離脱後のアメリカとの「特別な関係」は命綱ともなりますが、その米大統領からの率直な批判にメイ首相も困惑しているところでしょう。

****英首相に新たな打撃=米大統領、EU離脱で警告****
トランプ米大統領がメイ英政権の欧州連合(EU)離脱方針に対し、「(それでは)米国との貿易協定は実現しないだろう」と警告を発した。

米国との自由貿易協定(FTA)締結は、離脱後の英国の最優先課題の一つ。EUとの協調を優先する「ソフト・ブレグジット(穏健な離脱)」路線にかじを切り、重要閣僚の辞任を招いた首相にとって、トランプ氏の発言は新たな打撃となりそうだ。
 
トランプ氏は英大衆紙サンとの13日までのインタビューで「EUは貿易で米国を公平に扱っていない」と批判。英国がEUと緊密に連携するなら、米国は「英国をEUとして扱う」と述べた。米国とEUは2013年にFTA交渉を始めたが、話し合いは暗礁に乗り上げている。
 
メイ政権は、農業製品の安全基準などに関してEUが決めたルールを離脱後も順守する考え。米国が肥育ホルモン剤を使用した牛肉や、塩素系薬品で洗浄・消毒した鶏肉を英国に売り込もうとしても、EUが規制を緩和しない限り、英国に譲歩の余地はない。
 
こうした方針が6日に決まった際、EUからの独立を重視する英与党・保守党のEU懐疑派は「米国とのFTAがほぼ不可能になった」と首相を批判した。「農産品は米国との貿易協定の中心を占める公算が大きい」(英BBC放送)からだ。
 
トランプ氏は首相に抗議して辞任したジョンソン前外相が「偉大な首相になるだろう」とも指摘。代表的な懐疑派の前外相は次期宰相の座を虎視眈々(たんたん)と狙っており、与党内の「内戦」(英メディア)をたきつける形となっている。【7月13日 時事】
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今この時期に、「(辞任したジョンソン前外相が)偉大な首相になるだろう」というのも、随分とあけすけな内政干渉です。

ゆく先々で混乱と困惑をまき起こすトランプ大統領です。

トランプ大統領は外遊前に“「NATOがある。次の英国は、ちょっとした混乱状態だ。そしてプーチン氏だ」と話し、「率直に言って」この中でプーチン氏が一番やりやすいかもしれないと述べた。”【7月11日 CNN】とのことですが、メルケル首相やメイ首相にとっても、「厄介な相手は、プーチン氏ではなくトランプ大統領だ」という話にもなるでしょう。

トランプ大統領は基本的な価値観みたいなところで、メルケル首相などよりプーチン大統領に共感するものがあるのでしょう。

トランプ流の強引なディールで短期的には一定の成果は上がったにしても、長期的には、より重要な信頼関係が崩壊していくいようにも思えます。
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米中貿易戦争  ハイテク分野をめぐる攻防 あるべき対応は「貿易戦争」ではなく科学技術振興への投資

2018-07-12 23:04:06 | アメリカ

(アイゼンハワー米大統領(左)とフルシチョフ首相 “1957年、人類初の人工衛星スプートニク1号の打ち上げに成功し、アメリカは「スプートニク・ショック」に見舞われた。戦後初の米ソ首脳会談は、1959年だった。ソ連が自信を持ち、余裕があったから実現したとも言える。フルシチョフがアメリカへ行くというかたちの首脳会談で、ときのアメリカ大統領アイゼンハワーと会い、フルシチョフは国連でも演説し、平和・友好ムードが演出された。【2017年6月28日 中川 右介氏 「現代ビジネス」】”

譲歩・配慮の姿勢はみせつつも、しばらくは「戦争」拡大の流れか
周知のように米中間で「貿易戦争」が始まっています。

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米中両国は6日、互いに340億ドル(約3兆7600億円)相当の輸入品に追加関税を課す措置を発動し、貿易戦争の火ぶたを切った。両国は少なくとも数カ月は争う構えを見せている。

米国の関税措置は米東部時間6日午前0時1分に発効。これを受けて中国政府は米国の農産物や自動車など545品目に対して報復関税を発動した、と国営新華社通信が報じた。【7月6日 WSJ「米中貿易戦争が開始、来年までもつれ込むか」】
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トランプ大統領はさらにエスカレートさせる構えです。

****米トランプ政権 中国製品6031品目に関税上乗せへ****
アメリカのトランプ政権は、先週、中国製品に25%の関税を上乗せして輸入を制限する制裁措置を発動したのに追加して、さらに2000億ドル、6031品目の輸入品に10%の関税を上乗せする手続きに入ることを明らかにしました。

正式に発動されれば、中国からの輸入品のおよそ半分に関税を上乗せすることになり、米中の対立はさらに深まることになります。【7月11日 NHK】
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中国も一歩も引かない姿勢です。

****米国の対中追加関税は受け入れられず、対抗措置取る=商務省****
トランプ米政権が新たに2000億ドル相当の中国製品に10%の関税を適用する方針を発表したことを受けて、中国商務省は11日、全く受け入れられないとし、対抗措置を取らざるを得ないと表明した。

商務省は声明で、米国の行動は中国と世界全体に打撃を与え、米国自身の利益も損なうと指摘した。【7月11日 ロイター】
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なお、“2000億ドル相当の中国製品に10%の関税を適用する”という追加措置は、“多くの手順を踏む必要があるため、今秋終盤まで発動の準備は整わないもよう”【前出WSJ】とのこと。

いずれにしても、アメリカでは中間選挙が近づいており、中国との争いは「政治的勝利」と映る可能性があるため、トランプ大統領は当分は強気の姿勢を崩さないのでは・・・とも推察されます。

また、アメリカ経済は現在好調で、アメリカが貿易戦争による経済的圧力を直ちに感じる可能性は低いため、両国の「貿易戦争」は来年までもつれ込むとの見方もあります。【前出WSJより】

ただ、当然ながら両国とも、やみくもに突っ走ているわけでもなく、様子を見ながら、過度に刺激しないようにとの配慮もにじませながらの対応です。

****互いに譲歩の姿勢も****
事態がすぐに打開される兆しは見られないものの、米中は互いに多少は譲歩する姿勢を見せてきた。

トランプ氏は、対イラン・北朝鮮制裁に違反したとされる中国の通信大手、 中興通訊 (ZTE)に救済の手を差し伸べた。

米企業によるZTEへの部品供給を禁止する米商務省の制裁措置(ZTEにとって実質的に死刑宣告を意味する)を覆し、議会による制裁再開の動きも阻止した。また、中国の対米投資制限と対中ハイテク輸出規制の脅しも取り下げた。

中国政府も、韓国などに対してしたように、愛国心をあおって消費者に米国製品のボイコットを促すことは控えている。また、共産党の検閲当局は国営メディアに対し、貿易戦争やその中国株式市場の下落への影響について大々的に報じないよう指示している。

中国の専門家は、関税の影響が出て市場が反応し始めれば、両国が交渉を再開する可能性が高いと見ている。

米当局者によると、トランプ氏は貿易措置が米市場に与える影響を注意深く見守っており、対米投資制限に踏み切らなかったのもそれが一因だという。

トランプ政権は、第1弾となる340億ドル相当の輸入品への関税や第2弾となる160億ドル相当の輸入品に対する関税(恐らく8月に発動)を課すにあたり、消費財はおおむね除外するなど配慮している。

最初の対中関税の対象となるのは自動車部品、電子部品、ジェットエンジン部品、コンプレッサー、その他機械類だ。

これは消費者の反応を和らげることになるはずだと政権当局は見ている。ただし、機械や動力装置、その他部品への関税は企業のコストを押し上げ、やがて消費者に転嫁される可能性が高い。【前出WSJ】
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ハイテクをめぐる覇権争いの側面 アメリカの中国への軍事・安全保障面での警戒感が背景
ただ、両国のせめぎあい(特に、アメリカ側の主眼)は、単に“貿易赤字削減”が目的ではなく、今後の世界経済・政治を牽引するハイテク分野の主導権をめぐる争いともなっています。

****米中関税戦争、ハイテクをめぐる覇権争いも****
6月15日、トランプ政権は、中国からの輸入品 1,102 品目、500億ドル相当に対して、25%の制裁関税を課すと発表した。まず 7月6日に340 億ドル分に関税を課し、残りの160億ドル分については、後に関税を課すとしている。

注目されるのは、4月に発表された原案と比べて、ハイテク関連品を重視したものとなっていることである。原案からテレビなどの消費者向け汎用品などを削除し、その代わりに、光ファイバー、計測機器、電子部品の製造装置などハイテク産業関連品目が追加された。

これは、「中国製造2025年」(「メイド・イン・チャイナ 2025」)を念頭に置いてのことと報じられている。

「中国製造2025年」は、中国政府が2015 年に発表した産業高度化に向けた長期戦略である。
低コストで大量生産する現在の「製造大国」から、2025年に「製造強国」、建国百周年の 2049年に「世界トップ級の製造強国」を目指すとしている。

トランプ政権は、「中国製造2025年」を、ハイテク分野で米国に追い付き追い越そうとしている戦略とみなしている。USTRのライトハイザー代表は、そのために中国政府がハイテク企業に補助金を出したり、外国企業から先端技術を奪おうとしたりしているのは問題である、と批判した。

6月15日に米国が追加した制裁関税対象品目は、中国が「中国製造2025年」で重点投資する分野の産業関連である。

このように、トランプ政権の対中制裁関税付与は、当初の貿易赤字削減から、ハイテク分野での米中の覇権争いの様相を呈してきている。

トランプ政権は「中国製造2025年」自体を批判しているが、産業政策それ自体は批判されるべきものではない。欧州諸国も日本も実施してきた。問題は、その手段として、巨額の補助金を交付したり、知的所有権を侵害したり、中国に進出した外国企業に技術移転を強要したりすることである。これらの不正な手段は批判されるべきである。

実際、この中国の不正なやり方に関しては、日本や欧州諸国も認識を共有している。7月3日付の当コラムでも、「日米欧三極が表明した中国への懸念」と題して取り上げた。

しかしながら、中国への対抗措置として、関税を使うのは、報復を招くことも含み賢明なこととは思えない。理想的には、中国の不正手段によるハイテク産業育成について、共通の利害を持つ欧州、日本やカナダなどの諸国と米国が協力して、中国に働きかけるのが望ましいだろう。

もちろん、日米欧三極通商大臣会合等の試みはあるが、トランプ政権は、貿易問題となると、協力どころか、鉄鋼・アルミニウムに対する関税付与などで同盟諸国とも対立している。

いずれにしても、米中の関税戦争は、貿易赤字問題に加えて、ハイテクをめぐる米中の覇権争いの要素が加わり、妥協は容易ではない。米中両国とも関税戦争の弊害は理解していても、当分の間は、話し合いによる落としどころの探り合いをしながらも、貿易戦争の回避は難しいだろう。【7月11日 Wedge】
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アメリカ側が中国のハイテク部門を問題視するのは、不正な手段での技術の流出防止だけでなく、“軍産一体”となってハイテク振興策を進める中国への軍事・安全保障面での警戒感があるとも指摘されています。

****米に中国「軍産一体」脅威論 対中制裁を断行、強硬姿勢の背景に****
トランプ米政権は、ハイテク技術の覇権を狙う中国の産業育成策「中国製造2025」に対抗し、中国への制裁関税を強化する方針だ。

強硬策は、米技術の流出防止が目的だが、民間の技術力を底上げし、先進的な軍事技術の獲得につなげようとする中国への警戒感も一因となった。米国では「中国の軍事と民間は一体だ」との不信感があり、ハイテク分野の米中攻防は長期化する見通しだ。
 
米政権が10日、関税を適用する中国製品を2千億ドル(約22兆円)相当とする追加制裁を表明したのは、中国製造2025を実現するため、中国が米国の知的財産を侵害しているとみているためだ。
 
中国は次世代技術の本命とされるAI(人工知能)などの分野で世界屈指の競争力を握る目標を掲げる。ハイテク分野に国家主導型で乗り出す中国に対し、米政権は「経済的侵略だ」(ナバロ大統領補佐官)と敵対姿勢を隠さない。
 
強硬策に振れる米国の対中政策は、軍事・安全保障面での中国脅威論も背景にある。米国からの部品輸出が禁止された中国通信機器大手、中興通訊(ZTE)をめぐっては、「ZTEの通信機器を通じて米国の秘密が中国当局に漏れる」(米議員)などと、米国内の不信が表面化した。
 
米通商代表部(USTR)がまとめた中国による知財侵害の報告書は、先進技術の開発力を底上げするため、産業界と軍事部門が一体的に取り組むよう求めた中国の政府方針「軍民融合」に注目している。軍民融合は2014年、「国家戦略」に格上げされ、17年には専門の監督組織が新設されたという。
 
軍事と民間を両輪として産業振興を進める戦略は、民生品を軍事用にも転用する「デュアルユース」と呼ばれる技術動向も後押ししている。

かつて軍事から民間に広がった技術として、インターネットや衛星利用測位システム(GPS)が知られている。だが近年は、半導体レーザーやセンサーなど、優れた民生品を軍事用に改善して利用するケースが増えた。
 
USTRの報告書によると、中国の地方政府が支援する買収ファンドなどが、デュアルユースの技術取得を視野に、企業買収を展開したことが確認された。
 
“軍産一体”となってハイテク振興策を進める中国への懸念から、米政府は、輸出品を制限する輸出管理制度を強化する検討に入った。

トランプ米大統領は6月下旬、「米安全保障と技術面のリーダーシップを守るため」として、商務省に検討作業を指示。米メディアによると、ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)も作業に参画する。
 
トランプ氏は、中国との通商問題で、巨額の貿易赤字削減や米国内への雇用回帰を訴えている。ただ、自前で先端技術の開発力を確立する野心をあらわにする中国への警戒は根深く、米中のハイテク覇権をめぐる対立は沈静化する兆しがみえない。【7月12日 産経】
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以上は、現実政治世界における対応であり、今後、現実政治がどのように決着するのか、ますます「貿易戦争」がヒートアップして日本を含め世界経済の疲弊にもつながるのか、(北朝鮮問題への対応なども含めて)ある日突然“手のひら返し”で和解して“ウィンウィン”の関係をアピールするようになるのか・・・そのあたりはよくわかりません。(個人的には後者の可能性が強いのでは・・・と見ていますが)

正しい対応は貿易戦争ではなく科学技術振興への投資
ただ、本来あるべき対応といった“正論”としては、下記の主張が本筋のようにも思えます。

****米中貿易戦争とスプートニクの教訓****
アメリカに潜む中国ハイテク化への警戒心 正しい対応は貿易戦争ではなく科学技術振興への投資だ
ヤーション・ホアン(マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院教授)

アメリカと中国が貿易戦争に突入しつっある。これを単なる貿易赤字の問題と考えるべきではない。テクノロジーをめぐる戦いという側面も大きい。
 
報道によると、米財務省は、「産業上重要な技術」を保有するアメリカ企業に中国企業が投資することを禁じる規則を準備している。商務省も、その種のテクノロジーが中国に渡ることを防ぐための輸出規制の見直しを計画しているという。
 
ドナルド・トランプ大統領は既に、中国からの輸入品500億ドル相当に追加関税を課す方針を明らかにしている(その第1弾が7月6日に発動された)。
対象品目の多くは、中国の習近平国家主席が打ち出した「中国製造2025」計画で重視されている分野のものだ。同計画は、航空宇宙、ロボティクス、製薬、機械などのハイテク産業で中岡を世界のトップに押し上げることを目指している。
 
米政府は中国政府に対し、同計画に基づく補助金や助成金を全廃するよう求めているが、中国側は応じていない。
 
アメリカが神経をとがらせるのは理解できる。中国の技術開発の進め方には批判も多い。しかし、米政府が取るべき対応はもっとほかにあった。具体的には、次の2つのことをすべきだ。
 
第1に、アメリカはほかの国々と共に、中国の知的財産権侵害と市場参入障壁を批判し続けるべきだ。
 
自由な市場で競争が行われていれば、ある国が科学技術分野で成功しても、ほかの国が損をするとは限らない。癌の新薬が開発されたり、コンピューターの処理速度が向上したりすれば、世界の全ての国の人々が恩恵に浴せる。 

豊富な人的資源を持つ中国は、世界の科学技術の進歩に大きく貢献できる可能性を持っている。世界の国々は、中国がイノベーションを目指すことを歓迎してしかるべきだ。
 
ただし、前提として、イノベーション競争が市場のルールにのっとって行われる必要がある。その点、中国は知的財産権と市場アクセスに関して優等生とはとうてい言えない。

米政府は、中国にルールを守らせるよう努力を払うべきだ。しかし、中国のイノベーションそのものを阻もうとすべきではない。

ビジョンなきリーダー
第2に、もっと重要なことだが、中国がイノベーション能力を育むのに呼応して、アメリカも科学技術基盤への投資を拡大しなくてはならない。
 
アメリカのリーダーたちは、中国の影に怯えるのではなく、科学技術支援を強く訴えていく必要がある。言ってみれば、「中国製造2025」を21世紀の「スプートニク・ショツク」と位置付けるべきなのだ。
 
1957年10月4日、当時のソ連は人類初の人工衛星「スプートニク1号」の打ちあげに成功した。このニュースに激しい衝撃を受けた米政府は、宇宙開発関連の研究開発と教育に莫大な予算を投入した。
 
ソ連によるスプートニク打ち上げから1年もたたずに、当時のドワイト…アイゼンハワー大統領はNASAの創設を承認し、初の有入宇宙飛行を目指す「マーキュリー計画」を開始した。
 
米議会も59年、全米科学財団(NSF)に1億3400万ドルの予算を割り振った。この金額は前年比で1億ドル近い増加だ。NSFの予算は、68年には約5億ドルに膨れあがった。アメリカは、子供たちの理数系スキルを高めるための取り組みにも資金を投人した。
 
スプートニク・ショツクヘの対応を通じて、アメリカの航空宇宙、マイクロエレクトロニクス、集積回路、通信などの分野は大きな進歩を遂げた。

この後数十年間、アメリカは世界の科学技術開発の先頭を走り続けることになる。その土台を築いたのは、当時の政府の政策だったと言っても過言ではない。
 
いま米政府は、このときと同じような対応を取るべきだ。ところが、トランプ政権はイノベーションを十分に支援していないばかりか、イノベーションヘの投資を妨げている。

例えば、石炭火力発電の復活を目指す一方で、いわゆる「第4次産業革命」の牽引役と期待される再生可能エネルギーヘの投資には極めて冷ややかだ。
 
同政権は、イノベーションを促進するような教育も支援していない。むしろ、19年度予算案で教育省の分算を5.3%削減する方針を示した。
 
批判されるべきなのは、トランプ政権だけではない。米議会もイノベーションの促進に不熱心と言わざるを得ない。アメリカ科学振興協会(AAAS)によれば、連邦政府の研究開発予算は76年にはGDPの1.2%相当だったが、0.7%まで落ち込んでいる。
 
アメリカは、スプートニク・ショツクの後のように予算を惜しまずにイノベーションを後押ししなくてはならない。イノベーションは、予算や支援体制の真空地帯では生まれにくい。アメリカが科学技術への支援を強化しなければ、ほかの国がその空白を埋めることになる。
 
アメリカのイノベーションを脅かす敵は、貿易赤字でもなければ、「中国製造2025」でもない。真の敵は、ビジョンなきリーダーたちだ。【7月17日号 Newsweek日本語版】
******************

正論だと思います。
残念ながら、トランプ大統領とビジョンはいかにもむすびつきません。力業で支持層を喜ばすような“成果”を引き出しとしても、パックス・アメリカーナの終焉に向かうだけのように思えます。

ビジョンなきリーダーを選んだアメリカの不幸であり、同盟国日本の不幸でもあります。
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香港  ソフト路線で民主派の対決姿勢も緩む 進む中国との一体化 分裂する民主派

2018-07-11 21:45:12 | 東アジア

(【2月26日 japanese.china.org.cn】港珠澳大橋は、中国広東省珠海市と香港およびマカオを結ぶ海上橋。完成すれば、全長35kmと世界最長クラスの海上橋になります。すでに本体工事は終了。一大経済圏構想「粤港澳大湾区」を体現する橋ですが、民主派からは「無用の長物」、中国支配の手段といった批判もあります。)

盛り上がりを欠いた中国の政治介入への抗議デモ
香港においては、中国の支配が強まる中で「一国二制度」が形骸化しつつあることは、かねてより指摘されるところです。

****香港の駅に中国入管設置へ=「領土割譲」と民主派反発****
香港立法会(議会)は14日夜、香港と中国本土を結ぶ高速鉄道の香港側ターミナル駅に中国政府の出入境管理施設の設置を認める条例案を可決した。

同施設や車両内には中国の法律が適用され、中国政府職員が中国への往来を審査することになる。これに対して民主派は「(中国への)領土割譲だ」と反発している。
 
高速鉄道は全長約140キロで、広東省広州市から深セン市を経由して香港に至る。中国区間は既に開業、香港区間も4月から試験運転を始めており、9月の全線開通を目指している。利用者は香港側ターミナル駅で、中国への出入境や通関の手続きをすべて終えることになる。
 
立法会では親中派議員40人が賛成、民主派議員20人が反対を投じた。民主派は中国の司法管轄権が香港域内に及ぶと警戒している。香港メディアによると、香港基本法に違反するとして裁判所に司法審査を申し立てることを検討中という。【6月15日 時事】
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もちろん、中国における自由・人権を認めない政治の在り方についての抗議活動などは、今も香港で続けられています。

****中国政府に「沈黙の抗議」 弁護士拘束から3年 香港****
中国で人権派の弁護士や民主活動家らが一斉に拘束された事件から3年を迎えた9日、香港の終審法院(最高裁に相当)前で、香港の司法関係者らが抗議デモをおこなった。約50人の参加者が事件のあった7月9日にちなみ、7分9秒間黙禱(もくとう)し、静かに抗議の意思を示した。
 
主催した香港のNPO「中国人権弁護士関注組」の何俊仁主席は「事件に巻き込まれた多くの司法関係者がいまだに通常の仕事に戻れていない」として中国政府を強く非難した。(後略)【7月10日 朝日】
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中国の政治介入への抗議も行われています。

****香港返還21年でデモ「中国の介入進む****
香港が中国に返還されてから21年となる1日、香港市内では、「中国の政治介入が進んでいる」などとして民主派団体などが大規模なデモを行った。

中国の影響が強まる中、香港では毎年この時期に抗議デモが行われていて、主催者側によると、今年は約5万人が参加したという。デモに参加した市民らは、「中国よりの政策が次々と取られ、自治が破壊されている」などと訴えた。

香港の議会にあたる立法会では、中国寄りの立場を取る親中派議員が過半数を占める中、先月には中国の入国管理局の権限を強化する法案が可決。今後、中国に渡る際には、香港側の駅で中国側の職員が中国の法律に基づき出入境審査を行う事になり、民主派議員らは、「香港の自治を損なう恐れがある」と反発している。

デモの参加者らは、こうした中国との融和的な政策を進める香港政府も厳しく批判していて、「市民が立ち上がり、中国の独裁を終わらせよう」などと呼びかけた。【7月1日 日テレNEWS】
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しかし、上記の抗議デモも盛り上がりを欠いた感は否めません。特に、若者の反応が鈍いようです。
ひと頃の「雨傘運動」の熱気は、運動の挫折とともに、過去のものになりつつあるようです。

****若者の関心、急低下****
香港の中心部では1日、民主派のデモが開かれたが、参加者(主催者発表)は約5万人で前年と比べ約1万人減、4年前の約10分の1に減り、盛り上がりを欠いた。背景には、林鄭氏の政権運営への若者の反発が鈍いことがある。
 
雨傘運動で中心的に活動した周庭(アグネス・チョウ)さん(21)は嘆く。「私たちのメッセージがなかなか中高生に伝わらない」。雨傘運動のころ、若者はSNSのフェイスブックで情報を共有し、抗議活動を主導した。

だが、最近の中高生の間では写真が中心のSNSのインスタグラムが流行。文字があまり使われず、中高生への働きかけが難しくなったという。
 
民主的な選挙の実現という訴えが実らぬまま雨傘運動が終わった後、若者の政治への関心は急低下している。そうした空気も背景に林鄭氏は中国寄りだとして反対の声が根強い政策にもアクセルを踏みつつある。
 
国歌への侮辱行為を禁止する国歌法の審議が近く始まる予定。民主派は「林鄭氏も結局は梁氏と同じ路線だ」(区諾軒・立法会議員)と反発するが、明確な対抗策を描けていない。【7月2日 朝日】
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ソフト路線で無理をしない林鄭月娥行政長官 民主派の対決姿勢も緩み、習指導部の思惑通りの展開
中国寄りのイメージが強い林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官ですが、その手法は“ソフト路線”で、いたずらな対立激化を避けているとか。

民主派のデモが盛り上がりを欠く背景には、そうしたソフトな政治運営が奏功している面もあるようです。

****習氏の思惑、香港着々 ソフト路線、高支持率 林鄭・行政長官、就任1年****
香港政府トップの林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が1日、就任から1年を迎えた。極端な中国寄りの政治で若者らの反中感情を高めた前任者から一転し、ソフト路線で社会の安定を優先。政治に対する若者の反応が鈍くなっていることも手伝って、中国に忠実な政策を着々と進めている。
 
1日は中国に香港が返還されて21年を迎えた記念日で、林鄭氏は式典で演説。「この1年で、香港政府は経済発展や暮らしの改善で実績を出した」と胸を張った。
 
林鄭氏は女性初の行政長官に就任後、企業減税のほか、教育や住宅難などの改善に着手。親中派と民主派が激しく対立する社会の亀裂の修復を目標に掲げた。
 
就任式で習近平(シーチンピン)国家主席から求められた最大の宿題ともいえる「国家安全条例」の立法化を急がず、事実上、先送りする構えを見せているのもその表れだ。
 
同条例は、国家の分裂や政権転覆につながる動きを禁じた香港基本法23条を具体化するための法制だが、自由や人権が制限される恐れがあるとして、過去に反対運動が起きて頓挫した。香港政府幹部は「任期はあと4年ある。急いで着手する必要はない」と語る。
 
こうした穏健路線を習指導部が容認した背景には、急速に高まった反中感情を鎮め香港に対する統制を強めたい意向がある。
 
前任の梁振英氏は、過度に中国寄りだとして市民の不満を高めた。2014年には民主化デモ「雨傘運動」が起き、若者らが香港の中心部を2カ月あまり占拠した。

中国と香港の関係に詳しい外交筋によると、習氏は16年11月、外遊先のペルーで梁氏と会談し続投容認を示唆した。だが、梁氏の手腕を問題視する意見が巻き返し、習指導部は続投を認めないと決定。後任として香港政府高官だった林鄭氏を17年の選挙に立候補させる方針を決めたという。
 
香港大の世論調査によると、林鄭氏の支持率は政権発足以来、50%超を維持。30%台に沈んだ梁氏から回復した。民主派の対決姿勢も緩み、習指導部の思惑通りの展開となっている。【同上】
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本土との経済一体化で急速に進む「中国化」 不満を持つ香港中産階級も
中国・習近平政権は急ぐ必要はないでしょう。
香港市民生活の土台をなす香港経済はいよいよ中国と一体化を強めています。経済が一体化すれば、政治面でもおのずと一体化の流れが強まります。

****広東・香港・マカオを結ぶベイエリア 名実ともに世界一になれるか****
中国の粤港澳大湾区(広東・香港・マカオ大湾区)の発展計画が、近く発表される。
 
中国国務院の政府活動報告の中で言及されてからこの1年来、二つの特別行政区と11の都市によって形作られる、この巨大ベイエリア構想はますます脚光を浴びている。
 
世界の三大ベイエリアは、東京、サンフランシスコ(San Francisco)とニューヨーク(New York)。いずれも、それぞれ異なるコア産業の周辺に関連産業が拡散・発展し集中したものだ。(中略)

■粤港澳大湾区:中国国土の面積0.6%、GDPの12%超生み出す
粤港澳大湾区は11都市を含み、総面積の5万6500平方キロは、ニューヨーク、サンフランシスコと東京を足した合計よりも広い。

中国の国土面積の0.6%に相当し、国内総生産(GDP)は10兆1843億元(約174兆円)で中国全体のGDP12.57%を占め、貢献度は大きい。
 
技術開発力をみると、粤港澳大湾区には著名な外資系企業16社と、ハイテク企業は約3万社が軒を連ねている。統計によると、2012年から16年の発明特許件数は年々に増え続け、この間に既にサンフランシスコを上回り、両地域の差はますます広がるばかりだ。
 
粤港澳大湾区には、世界最大の港湾群、空港群と交通網があり、貿易総額や外資導入額、コンテナ取扱量、空港の旅客利用数、などは国際的にみても既に一流レベルに到達している。
 
深セン市の張思平元副市長は、著書「『一国両制』与大湾区—粤港澳大湾区建設中的制度創新」(訳:「『一国二制度』とビッグベイエリア─粤港澳大湾区におけるイノベーション」)の中で、同ベイエリアには地球最大のベイエリアになるだけの基本条件が既にそろっているが、目標の実現のためには、まず、ユーロ圏のような経済と社会の共同体を作り上げることが必要だと説く。(後略)【6月24日 CNS】
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上記は中国系メディアの記事ですから、それを念頭に読む必要はありますが、粤港澳大湾区として中国・香港の一体化が進んでいることは事実でしょう。

ただ、香港の一般市民には、中国主導の経済一体化の恩恵にあずかれない人も多く、あおりを受けて生活が苦しくなる側面もあるようです。

****一帯一路に飲み込まれて香港が急速に「中国化****
香港経済は今、「大湾区」というキーワードで盛り上がっている。別の名を「ビッグベイエリア」ともいう。広東省の9都市に香港とマカオを加えた11都市で構成される一大経済圏構想が「粤港澳大湾区」だ。
 
中国本土と香港を結ぶ鉄道も整備が進む。広州〜深セン〜香港を結ぶ全長142キロの「広深港高速鉄道」計画は、深セン〜香港の区間がすでに試運転段階に入った。

香港〜マカオ〜珠海を結ぶ海上橋もかかり、開通が目前に迫っている。
 
習近平国家主席がぶち上げた「一帯一路」構想のもと、“香港の中国化”は、想像以上の速さで進んでいる。それは、十数年ぶりに香港を訪れた筆者の目にも明らかだった。

中国に同化する街並み
ハリウッドロードといえば、観光客を惹きつける香港指折りのストリートだ。香港ならではの個性的な店を期待して訪れたが、中国本土にもよくある成金趣味的な店ばかりが目についた。

不動産価格が値上がりを続ける香港において、高額なテナント料を払っても利益を出すには、大陸の富裕層を相手に勝負するしかないということか。
 
大陸客が押し寄せる目抜き通りのネイザンロードも、まるで“上海の淮海路”のようだった。筆者の記憶に残る香港はもっと雑多な街だったはずだが、今回、見たものは、大陸客相手の「周大福」や「周生生」などの貴金属店、または「莎莎」や「卓悦」などのドラッグストア、あるいは大陸資本の飲食店ばかりだった。
 
返還前の1990年に制定された「香港特別行政区基本法」には、「1997年の返還以降も、従来の資本主義制度と生活様式は50年間変えない」と記されていた。しかし、香港の市民生活はたった20余年で大きく変化した。
 
その最大の要因は、大陸からの人と資本の移動である。これに加えて大橋がかかれば、中国との一体化はさらに進むだろう。

住宅も大陸系に占拠されていく
かつて香港の裏路地には、庶民が集う食堂が無数にあった。この道何十年という老舗の店舗もあり、手作りの味を自慢にしていた。

しかし近年の地価高騰が経営を直撃し、名物食堂も雲散霧消してしまった。賃料が10万香港ドルから30万香港ドルへと3倍に上がったところも珍しくなく、「長年の人気店でもテナント料が払えず、惜しまれながらも店を閉じるところが少なくない」(香港に長い日本人)という。
(参考)「香港で朝食を、私が吉野家に入ってしまった深いワケ」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53284

香港では住宅問題も深刻だ。
香港には日本のような公営住宅があり、人口の3分の1がそこに居住する。残る3分の1が民間の賃貸住宅に住み、さらに残りの3分の1が豪邸を含む分譲住宅に住むと言われている。
 
香港で最も古い油尖旺地区の公営住宅「石硤尾邨」を訪れてみた。住民に話を聞くと、「募集要項を満たしていれば誰でも居住を申請できる」という。

そのため、“新香港人”と呼ばわれる大陸からの移民による申請が増加し、公営住宅はパンク状態なのだそうだ。インターネットの掲示板には、「ただでさえ少ない住宅なのに」など不満の声が数多く書き込まれている。

中産階級は豊かさを実感できない
2017年、香港には5847万人の観光客が訪れたが、そのうちの76%の4444万人(いずれも日帰りを含む、数字は香港政府観光局)は大陸からの観光客だ。
 
大陸客は香港経済を潤し、貴金属店や化粧品店を儲けさせた。高速鉄道が開通し、大橋がかかればもっと多くの大陸客がこの地に訪れるだろう。「大湾区」構想が本格的に動き出せば、香港はさらに豊かになるかもしれない。
 
現在、香港証券取引所に上場する6割の企業は、中国企業である。高騰する不動産価格も、もとをたどれば中国から資金が流れ込んだからだ。香港経済は確かに大陸への依存度を高めている。完全にその支配下に組み込まれつつあると言っても過言ではない。
 
だが、中国化による豊かさを実感できる香港人は、ほんの一握りに過ぎない。香港の中産階級は、住宅や医療、福祉などのサービスを大陸からの移民と奪い合っている。

また、大陸の富裕層による不動産投機により、生活の質を大きく下げた。香港全体の世帯数の過半数を占める中産階級は、「中国化」を決して喜んではない。
 
旺角(モンコック)の美容院で働く美容師の男性は、冒頭で紹介した「大湾区」にまったく関心を示さなかった。その美容師は筆者の髪にドライヤーを当てながら、新しくかかる大橋についてこうつぶやいた。
「橋なんてどうでもいいですよ。僕らが中国に行くわけじゃありませんから」
 
橋の利用者のほとんどは大陸の中国人だというのだ。中国主導のインフラ建設は「香港人にとっては無用の長物」なのかもしれない。そんな金があるなら福祉に回せ、というのが本音だろう。
 
筆者が訪れた香港歴史博物館では、香港人の家族連れや高齢者が静かに展示物に見入っていた。太古から戦前・戦後までの香港の生活や文化が時系列に整理された展示場では、特に1970年代のコーナーに立ち止まる人たちが目立った。

それは、第25代香港総督・マクレホースのもとで香港市民の生活水準が引き上げられ、市民が苦しさの中にも光を見出した時代だった。30年後、はたしてこの博物館はどんな歴史を伝えるのだろうか。【7月10日 姫田 小夏氏 JB Press】
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分裂する“民主派” 「反親中」でまとまれるか?】
中国との一体化で利益を受ける人もおり、そうでない人も。両面でしょう。

選挙制度の関係で議会は親中派が過半数を占めていますが、香港の世論はおよそ6対4ぐらいの割合で民主派への支持が強いと言われてきました。(“林鄭氏の支持率は政権発足以来、50%超を維持”ということで、このあたりにも変化が生じているのかも)

しかし、雨傘運動以来、1国2制度の形がい化への懐疑とともに、「香港は香港で、中国とは違う」という香港主体性意識の高まりが顕在化。そのなかで、従来の民主派だけでなく、「本土派」「自決派」「独立派」と呼ばれる勢力が台頭し、民主派は一枚岩ではなくなっています。

上記のような香港中産階級の不満を政治に反映できるかは、いわゆる民主派が「反親中」でまとまることができるかにもかかっています。

****反親中」でまとまれるか****
(3月11日の補選では)かろうじて民主派勢力でまとまることができたが、最近は民主派勢力の間で路線をめぐって意見の隔たりが深まり、一部の民主派は親中派に取り込まれつつあるとの懸念も生じている。

また、雨傘運動のあとに勃興した本土派、自決派、独立派の関係も複雑かつ対立含みで、親中派に比べ団結力では大きく劣っている。

香港政府、立法会で多数を占める親中派議員、そしてその背後にいる中国政府を相手にこれからも困難な戦いを戦い抜くためには、「反親中派」の一致した運動が求められる局面に入ったことも印象づける選挙となった。【3月16日  野嶋剛氏 東洋経済online】
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東アジアで新たなフロンガス製造が発覚・・・やはり中国企業か 法令順守精神の問題

2018-07-10 22:50:20 | 中国

東アジアのどこかの国でフロンガスが製造されている
大気中の有害な“ガス”と言えば、最近ではに二酸化炭素などの温室効果ガスがもっぱら話題になりますが、ひと昔(ふた昔?)以前は、オゾン層破壊とかオゾンホール拡大といったことで、フロンガスが大きな話題となりました。

****オゾン層とは****
オゾンは酸素原子3個からなる気体です。
 
大気中のオゾンは成層圏(約10~50km上空)に約90%存在しており、このオゾンの多い層を一般的に オゾン層といいます。

成層圏オゾンは、太陽からの有害な紫外線を吸収し、地上の生態系を保護しています。 また成層圏オゾンは、紫外線を吸収するため成層圏の大気を暖める効果があり、地球の気候の形成に大きく関わっています。
 
上空に存在するオゾンを地上に集めて0℃に換算すると約3ミリメートル程度の厚さにしかなりません。 このように少ない量のオゾンが有害な紫外線を防いでいます。【気象庁HP】
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****フロンガス」 とは****
オゾン層の破壊や、地球温暖化を引き起こす化学物質の総称。代表的なフロンガスであるクロロフルオロカーボン(CFC)は、無色、無臭、不燃性で化学的に安定している優れた特性のため、エアコンや冷蔵庫の冷媒、電子部品の洗浄、発泡スチロールの発泡材、スプレーなど幅広い用途に使われた。

しかし、1970年代に入り、大気中へ放出されたフロンガスが有害な紫外線を吸収するオゾン層を破壊することがわかり、1992年11月に開催されたモントリオール議定書締約国会議で、CFCをはじめとするオゾン層破壊物質が特定フロンとして指定され、全廃されることとなった。

特定フロンの全廃を受けて、代わりに使われるようになったのが、オゾン層を壊さない代替フロンだ。

しかし、代替フロンが地球温暖化を進める強力な温室効果ガスであることが分かり、温暖化防止の国際的な枠組みである京都議定書で削減が義務づけられた。

なかでも、代替フロンとして冷媒用途での使用が増加しているハイドロフルオロカーボン(HFC)は大きな温室効果をもつ。

国内では、フロン回収・破壊法や自動車リサイクル法により、フロンガスの回収と破壊が義務づけられている。
しかし、フロンガスは10年以上かけて成層圏へ到達するため、現在でも、オゾン層の破壊は進んでいる。【緑のgoo】
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フロンガスでオゾン層が破壊されて地上への紫外線が強くなると、皮膚がんを発症しやすくもなります。

フロンガスの使用が禁止されたことで、あまり意識することもなくなりましたが、先日、そのフロンガスが新たにつくられている、それも東アジアで・・・との報道がありました。

****オゾン層破壊のフロン、新たに作られている可能性 東アジアで放出 米機関****
フロンガスは、1980年代になって地球のオゾン層を破壊することが分かり、段階的廃止が決まった。

以後大気中のフロンガスは徐々に減少を続けてきたが、米政府機関の観測で、近年CFC-11と呼ばれるフロン類の排出量が増えていることが判明した。

科学者たちは、どこかの国で製造されていると見ており、オゾン層回復のための世界の協力体制に水を差すものだとしている。

◆禁止されているフロンガス 近年減少速度が低下
CFC-11の異変を報告したのは、27年にわたり大気中の微量気体を観測しているアメリカ海洋大気庁のStephen Montzka氏とその同僚たちだ。

ネイチャー誌に発表された彼らの研究によれば、CFC-11の大気中のレベルは全体として低下しているが、減少速度が予測より遅いという。Montzka氏は、近年CFC-11の排出量が増えているようだと述べている(米公共ラジオ網NPR)。

クロロフルオロカーボン(CFC)は、冷蔵庫やエアコンの冷媒、またスプレー缶の噴射剤としてかつては広く利用されていた物質だ。建物の断熱材や家具などにも使われていた。

しかし、皮膚がんのリスクを増加させる有害な紫外線を除去するオゾン層を破壊することが、1985年になって判明。その2年後にモントリオール議定書で、段階的廃止が決定された。

ガーディアン紙によれば、CFC-11はCFCのなかでは2番目に有害とされる物質であり、2007年以来、原則的にその生産は報告されていない。

◆他の仮説は除外 新たに作られていると考えるのが妥当
ガーディアン紙によれば、Montzka氏たちは、CFC-11の減少速度低下の理由を突き止めようと、いくつかの仮説を立てている。

まず、大気がCFC-11を散布、分解する方法に変化があったことで計測に影響が出たのではないかと考えたが、最新のデータからは関連は認められなかった。
 
次に、古い資材に使われたCFCが大量に放出された、または何か別の化学物質の製造過程で副産物として発生したという可能性も考えたが、計測結果が示唆するほどの規模の物質が、これらの理由で排出されたと考えることは難しいとしている。

最終的にたどり着いたのは、誰かが新たに製造しているという結論だった。排出されているのは東アジアだということは突き止められたが、正確な場所までは分かっていないという(インデペンデント紙)。

◆違反は簡単? グローバルな協調の難しさを露呈
(中略)カリフォルニア大学サンディエゴ校のデビッド・ビクター教授は、国際社会が違反者を摘発するのは簡単ではないと断じる。同氏は、モントリオール議定書には執行メカニズムはあっても強制的に従わせる力はなく、報告書を出し貿易制裁で脅す程度だと述べ、違反をする国が出てもおかしくないと考えている(NPR)。
 
さらに、政府自体が禁止を求めても、執行能力に欠け、違法な製造を摘発できないケースもある。ビクター教授は、CFC類が規制されたため、ブラックマーケットでの価格は上がっており、闇ビジネスをするのはそう難しくもないと説明する。

できれば他国が援助の手を差し伸べるべきだが、部外者が入って、執行活動に取り組むのはかなり難しいとも述べ、国際協調が容易ではないことを指摘している。【5月22日 NewSphere】
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中国企業が今も違法に使用 「(フロンガスの排出濃度上昇について)中国も大いに懸念している」(中国外務省)】
東アジアで、しかも地球規模で変調をきたすほど大量に新たにつくられている・・・・という話になると、どうしても“ある国”が怪しいのでは・・・とも考えてしまいますが、証拠もなく疑ってもいけません。

そんな“疑惑”について、「やっぱり・・・」というニュースが。

****オゾン層破壊するフロン類、中国企業が違法に使用 NGO報告****
オゾン層破壊物質として国際的な規制の対象になっているクロロフルオロカーボン(フロン)類が現在も中国の工場で違法に使用されているとする報告書を、環境圧力団体が9日、発表した。

CFC類については、その放出が増加していることが最近の研究で明らかになり、科学者らを困惑させていた。
 
英ロンドンの非政府組織「環境捜査局」は今回、調査対象とした中国10省にある工場18か所で、禁止されているCFC類の使用が判明したことを明らかにした。
 
バイヤーを装ったEIAの調査員に対して生産業者や貿易業者が話したところによると、発泡材を製造している中国の企業の大半では、より良質で安価なトリクロロフルオロメタンの使用が続いているという。発泡材は建設部門の活況で断熱材としての需要が高まっている。(中略)
 
AFPの取材に対し、中国外務省は9日、中国はモントリオール議定書の目標達成に「多大な貢献」をしてきたと語った。
 
外務省はまた、「CFC-11排出濃度の上昇は地球規模の問題であり、関係各国すべてが真剣に受け止めるべきだ」とファックスでコメント。EIAの報告書が提起した具体的な主張に対する反応は何も示さず、「中国もまたモントリオール議定書の批准国として、国際社会と同様に、この問題について大いに懸念している」と述べた。

■「怪しい」操業
報告書に引用されているある企業代表者の話によると、この企業では、内モンゴル自治区で「怪しい」操業を行っている無許可の工場からCFC類を調達したり、税関でCFC類が見つからないよう隠匿行為を行ったりしているという。
 
また、報告書に発言が引用された別の企業は、CFC類を自社工場で生産しており、1日に40トンのCFC製剤の生産が可能だとしている。

さらに、ある貿易業者によると、規制対象のCFC製剤を、代替フロンとして使用されているハイドロフルオロカーボン化合物や他の化学物質の混合物と不正に表示して輸出している中国企業もあるという。
 
主にアジアや中東の国々向けのこうした化合物の輸出量を考えると、CFC類の禁止を表明している国々が気付かずにCFC類を輸入していることも考えられると、報告書は指摘している。
 
EIAのアレキサンダー・フォン・ビスマルク米事務局長は「中国がこのCFC類の違法な生産を阻止しなければ、ゆっくりと回復しつつある地球のオゾン層を危険にさらすことになる」と話し、「CFC-11は非常に強力な温室効果ガスでもあり、地球の気候に対する深刻な脅威となる」と指摘した。
 
今回のEIAの報告書は、オーストリア・ウィーンで11日から14日まで開かれるモントリオール議定書公開作業部会の開催に先立ち発表されたもの。会では不正なCFC-11排出の問題が議題に上がるとみられている。【7月10日 AFP】
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禁止されているものでも、しかも禁止理由が地球環境・人類の健康にとって有害であるというものであるにもかかわらず、利益につながるなら・・・という発想が、精神的貧困を示しています。

もちろん、日本でも悪質な企業による“違反”はいろんな方面でありますが、社会全体として法令順守の精神に乏しいところが、日本において、また、世界において、中国が“大国”としての扱いを渇望しながら、いまひとつリスペクトされない所以でもあります。

中国政府も「中華民族の偉大な復興」を掲げるのであれば、まずはこういう面で毅然とした対応をとるべきでしょう。

中国各地で、光化学スモッグを招くオゾン汚染
大気の中で成層圏に存在するオゾン層は、生命にとって有害な紫外線が地表に降り注ぐ量を和らげていますが、一方、地表付近では、オゾンは光化学オキシダントなどとして生成し大気汚染の原因となります。

中国では最近、そのオゾン汚染が一部地域で生じる可能性があると報告されています。

****中国各地でオゾンが主要汚染物に、当局が報告****
中国生態環境部は、持続的な高温と地表近くの南寄りの風による影響で、北京・天津・河北地区と山東省のほとんどの地域と河南省北部の一部都市でオゾンの軽度・中度汚染が生じる可能性があると報告した。科技日報が伝えた。

予測によると、6月4日から15日にかけて、中国の長江デルタや華南・西北・東北地区の主要汚染物質にオゾンが含まれるという。

地表近くの低空のオゾンは、いったいどこから来るのだろうかという点について、中国工程院院士、北京大学教授の唐孝炎(タン・シャオイエン)氏は、「気温が高く日照がやや強い場合、大気中の窒素酸化物と揮発性有機化合物(VOCs)は紫外線照射により光化学反応を起こし、オゾンを形成する」と説明した。

そのため青空が広がり、太陽がぎらぎらと照りつける紫外線の強い夏の日には、オゾン汚染が特に生じやすい。オゾンは常温では特殊な匂いを持つ薄青色のガスであり、青い空に白い雲の晴天だと思いきやオゾン濃度が基準を超過しているということがよくある。

唐氏は、「オゾンは強い酸化剤であり、それ自体が有害だ。その大気中の質量濃度は大気の酸化能力、すなわち二次汚染物質を生み出す能力を反映する。そのため大気中のオゾン汚染と大気の酸化性を制御し、引き下げようとする場合、同時に窒素酸化物とVOCsの排出量を削減するという汚染物質の一斉制御を実現しなければならない」と説明した。

中国生態環境部環境観測司長の劉志全(リウ・ジーチュエン)氏は、「中国のオゾン汚染は分散型・地域型という特徴を示している。主に遼寧省中南部、北京・天津・河北及び周辺地域、長江デルタ、武漢都市クラスタ、陝西省関中地区、成都市・重慶市、珠江デルタに集中している。

中国のオゾン汚染は軽度が中心で、深刻な汚染が発生したことはなく、検出不可能な値にまで達したということも起きたことがない」と指摘した。

劉氏は「先進国のオゾン汚染ガバナンス経験を見ると、窒素酸化物とVOCsの排出削減の推進を続ければ、長期的にはオゾンの濃度は徐々に低下することになる。短期的には、汚染の濃度は気象、前駆体の濃度・比率などの影響によって大幅に変動する」と述べた。【6月5日 レコードチャイナ】
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“中国のオゾン汚染は軽度が中心で、深刻な汚染が発生したことはなく、検出不可能な値にまで達したということも起きたことがない”・・・とのことですが、中国当局の公表数値が信頼できないことは、一時期のPM2.5による大気汚染でも明らかにされたところで、どうでしょうか・・・・。

前述のフロンガスによるオゾン層破壊が進むと、紫外線照射が増大し、地上でのオゾン発生も増加しますが、そうしたことが影響しているのかは知りません。多分、別問題なのでしょう。

黄砂や大気中有害物質は、地理的な理由で中国大陸から日本に飛来拡散します。
オゾンについても同様です。

中国政府にあっては、フロンガス同様に、“窒素酸化物とVOCsの排出削減の推進”にこれまで以上に真剣に取り組んでもらいたいものです。

環境汚染対策に重点を置き始めた中国政府ですが・・・
中国の名誉のために付け加えると、中国政府は近年、環境保護に強力に取り組む姿勢を見せています。

****習主席、環境汚染対策で檄=35年までに「美しい中国****
中国の習近平国家主席は18、19両日に北京で開いた全国生態環境保護大会で演説し、「2035年までに生態環境を根本的に好転させ、『美しい中国』をつくる目標を基本的に実現させる」と強調した。国営新華社通信が19日伝えた。
 
会議には党、中央・地方政府、軍、国有企業の幹部らがそろって出席。習氏は環境汚染対策でも「党の指導を強化しなければならない」と表明した上で、「生態環境を害した幹部は一生涯責任を追及する」と檄(げき)を飛ばした。【5月19日 時事】
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大気汚染・土壌汚染などに関する住民の不満が高まり、共産党政権としても“体制維持”のために看過できないレベルに達していることが背景にあります。

“あういう国”ですから、やるとなると半端ないところもあります。

****中国が異次元の「環境規制」 数万カ所の工場が操業停止に****
中国はこの数カ月で数万の工場を閉鎖し、かつてない勢いで汚染対策に取り組んでいる。国をあげた環境対策は、製造業に広範囲な影響を及ぼしている。

環境保護当局の監査で、中国の全工場の40%が少なくとも一時的に閉鎖されたとの試算もある。また、監査の結果、8万カ所以上の工場が罰金や刑事罰を受けた。

当局は監査時に工場の操業を停止させ、電気やガスを止める。そのため、納品の遅れや生産数の削減、コスト増が発生し価格転嫁も起きている。これにより、米国で販売される中国製製品の価格上昇も起こりそうだ。

中国政府はこの数十年ほとんど看過されてきた環境問題に取り組み、法整備を積極的に進めている。取り締まりによって、中国沿岸部では一時的な操業停止を迫られる工場が続出しているほか、海外移転を余儀なくされるケースも出ている。

中国は最近、大気中の微小粒子(PM2.5)の濃度を、2035年までに1立方メートル当たり35マイクログラムに削減すると発表した。中国の環境規制強化は、環境や人々の健康にはいいかもしれないが、産業やGDP成長率にマイナスとなる可能性がある。【2017年11月2日 Forbes】
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ただ、社会全体に法令順守の精神が徹底していないと、よく言われるような「上に政策あれば下に対策あり」といった話にもなります。また、長期的な効果も期待できません。

法令順守の精神をはぐくむためには、罰則強化や中国お得意の監視体制もあるのでしょうが、基本的には教育の問題でしょう。

もっとも、中国では“法令順守”が“共産党による指導への絶対的服従”にすり替わる懸念があるのが厄介なところでもあります。
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マレーシア 中国依存の「東海岸鉄道」中止  透明性・経済合理性を求められる中国「一帯一路」

2018-07-09 22:37:16 | 中国

(7月7日、ブルガリアの首都ソフィアで開催された第7回中国―中・東欧諸国首脳会議に出席した李克強首相(中央)【7月9日 人民網】 欧州には、英独仏とは異なる流れもあります。)

国益とならず、財政破綻を招く これ以上、中国に国の安全保障を“身売り”できない・・・アジア諸国、欧州にも広がる懸念 
前政権の中国依存の大型事業計画に批判的なマハティール首相が就任当初から、高速鉄道計画廃止に続き、見直しを表明していましたので、予想されていたことではありますが、マレー半島部のタイ国境から南シナ海に沿って東海岸を走り、マラッカ海峡に通じる「東海岸鉄道」の事業停止が命じられました。

「東海岸鉄道」は、中国が1兆4千億円規模の総工費の大半を融資し、有事に脆弱なマラッカ海峡経由の輸送路のバイパスとして「一帯一路」の主要事業に位置づけられている事業です。

「一帯一路」に沿った中国主導の事業展開に対しては、“採算性や必要性が不明確なまま、巨額のインフラ資金を融資し、(中略)「開発独裁」につけ込んで周辺国を債務不履行に陥れ支配する。”【5月28日 産経】との警戒感があり、マレーシア・マハティール政権だけでなく、ミャンマー、ネパール、パキスタンなどでも見直しの動きが出ています。

中国からの巨額の資金は、親中政権に不透明な形で流れ込み、マレーシアの“1MDB”汚職疑惑などに関与することにもなります。

また、欧州諸国には「中国は一帯一路によって西側の価値観とは異なる制度を作ろうとしており、西側の主要経済国に対する挑戦」との批判もあります。

****マレーシア東海岸鉄道事業中止、広がる反一帯一路****
「事業中止の命令に驚きを隠せない。しかし、マレーシアの法律を尊重するとともに、遵守する」
 
中国が支援するマレーシア最大級のプロジェクト「東海岸鉄道」(ECRL)の計画を管理するマレーシア政府系のマレーシア・レール・リンク(MRL)がこのほど、「国益にそぐわない」ことを理由に、中国の習近平政権が進める一帯一路主要事業、ECRLの工事の即時中止を中国交通建設集団(CCCC)に命じたと明らかにした。
 
マレーシア政府によると、同事業の即時中止は、マハティール首相が決定した。「契約内容だけでなく、利子率も高く、マレーシアにとっては不利益だからだ」という。
 
これを受け、6日、マハティール首相は8月中旬に中国(北京)を訪問し、習国家主席と首脳会談を行うことを明らかにし、ECRLなどの中国との大型プロジェクトなどに関し、協議する方針を示した。中国訪問は5月の首相就任後、初めとなる。
 
マレーシアでは、一帯一路関連事業が東南アジアで断トツに多く、マハティール首相は、3日、政府系投資会社「1MDB」に関連した背任、収賄罪容疑で逮捕されたナジブ前首相と中国政府が決定した大型プロジェクトの見直しを図る。
 
同計画を進める中国のインフラ建設大手、CCCCはECRLの即時中止を受け、上記のような声明を発表した。
 
声明書の中で、即時中止命令に従い、建設現場の「現状保持・保存」「建設機器、道具類等の無断持ち出し禁止」などの命令事項を遵守するとともに、「中止に伴う追加費用発生や2250人以上の従業員の生活を懸念する」と突然の中止命令への驚きと不安も露にした。
 
また、事業の中止期間が明記されていないことから、「同プロジェクトは、MRLとCCCC双方の合意に基づいて決定された。双方にとってウィンウィン(相互利益の共有)の解決法が模索されると期待し、早期の再開を願っている」とマレーシア政府に嘆願した。
 
このECRLは、習国家主席肝いりの一帯一路の目玉プロジェクトで、総事業費が550億リンギ(約1兆5000億円=1リンギ、約28円。総事業費の85%を中国の輸出入銀行が20年間、3.25%で融資)。
 
タイ国境近くから、マレー半島を東西横断する形で、クアラルンプール近郊と東西の重要港を結ぶ総距離約688キロの一大鉄道事業で、昨年8月に着工し、すでに全体13%ほど建設工事が進んでいる。
 
さらに、ECRLは、(米海軍の環太平洋の拠点がある)シンガポールが封鎖された場合、中国からマレー半島東海岸側を抜ける戦略的優位性があり、「(マレー半島南部のシンガポール直下)マラッカ・ジレンマ」を克服する意味で、中国にとって地政学的に極めて重要拠点となるマレーシアを取り込む「一帯一路」の生命線でもある。
 
マハティール首相は、ECRLについて筆者との単独インタビューで「マレーシアにとって国益にならない。(見直しによっては)中止が望ましい」と発言していた。

マレーシアのリム財務相は、「ナジブ前政権下の見通しでは総工費が550億リンギだったが、新政権の査定では、前政権の査定より50%も跳ね上がり、810億リンギ(約2兆2200億円)に跳ね上がった」と中止を正式発表する直前、懸念を示していた。
 
建設途中のECRLの中断の背景の一つには、マレーシアの政府債務が1兆リンギを超えることが判明し、今後、財政難が避けられないことがある。
 
さらには腐敗、汚職で負債を抱え、中国支援を受けるアジアの他の国々と同様、マレーシアの場合も、一帯一路のプロジェクトがナジブ前首相の政府系投資会社「1MDB」の「巨額債務を救済する」ために始まったことも、マハティール首相が中国の一帯一路を見直す理由だ。
 
マレーシア政府筋によると、国際的マネーロンダリング事件に揺れる1MDBに利益をもたらすために、談合取引の間で、中国の政府銀行からの融資が一部賄賂として流れ、“利用”されたか、捜査が行われているという。
 
また、同政府はECRLだけでなく、今回、中国石油天然気集団(CNPC)の子会社「中国石油パイプライン」(CPPB)が主導する2つのパイプライン事業(マレー半島とマレーシア東部のボルネオ島)においても、事業中止の命令を下したことを明らかにした。
 
1MDBでは、ナジブ前首相、家族や関係者らが、約45億ドル(約4900億円)にも上る公的資金を横領したと見られてきた。
 
このパイプライン事業は、「この45億ドルの行方と密接な関係をもっていて、1MDBの巨額負債救済目的で、1MDB(財務省)所有の土地買収に流用されたとのではと捜査を進めている」(与党幹部)ともいわれている。(中略)
 
「マハティール首相は、これ以上、中国に国の安全保障を“身売り”できないと考えている」(与党関係者)という。
マレーシアのこうした「反一帯一路」の動きは、他のアジア諸国にも波及している。
 
ミャンマーに、ネパール、パキスタンなどでは中国主導のインフラ建設計画の延期や中止が相次いでいる。その建設総額は約770億ドル(1ドル=約110円)にもなる。
 
軍事転用への懸念がある上、中国の支援による見返りに、不信を募らせた結果と見られている。
 
さらに、インドは今年4月、北京で開催されたインド・中国経済戦略会議でラジブ・クマル国家経済政策機構副委員長が「一帯一路の大型事業で進行中の中国・パキスタン経済回廊は、カミール地方(インドとパキスタンの領土紛争地域)通過し、インドの主権侵害にあたる」と、一帯一路に反対の意を表明。インドは昨年5月の「一帯一路国際協力サミットフォーラム」にも欠席していた。
 
また、欧州でも駐中国の欧州28カ国の大使のうち27人が連名で、中国の一帯一路構想を強く批判する異例の声明を発表。
 
特にドイツを中心にその動きは広がっており、今年の4月には、ドイツの大手経済紙「ハンデルスブラット」が、「中国の一帯一路政策は、自らの政治経済の構想と目標を輸出するためで、中国政府はEUが分裂することで、自らの利益を得ようとしている」と非難した。
 
さらに、ジグマール・ガブリエル前外相が「中国は一帯一路によって西側の価値観とは異なる制度を作ろうとしており、西側の主要経済国に対する挑戦」と痛烈に批判。
 
また、英国のテリーザ・メイ首相は今年1月の訪中で、中国との経済関係をアピールする一方、一帯一路を支持する覚書の署名を拒否した。
 
こうした欧州の動きは、昨年5月の上述の一帯一路国際フォーラムで、ドイツ、英国、フランスなどEU加盟国一部が、中国の一帯一路下での中国との貿易協力での文書署名を拒否した一貫した姿勢を示すものだ。
 
米国も、ポッティンガー国家安全保障会議アジア上級部長が、「中国は透明性の高い競争入札システムを構築し、中国以外の諸外国や民間企業を参入させることが急務」と一帯一路の受注業者の90%が中国企業(米戦略国際問題研究所=CSIS=の調べ)であることを非難している。
 
マレーシアでは、中国主導でマラッカに石油関連施設を付設する新たな港湾建設計画も進んでおり、マハティール首相の中国主導による一帯一路大型プロジェクトの見直しは加速化すると見られる。
 
マレーシアの反一帯一路構想への“オブジェクション”は、国際社会にも拡散しており、にわかに構想そのものが暗礁に乗り上げる可能性も出てきた。【7月9日 末永 恵氏 JB Press】
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チャイナマネーを強く望む国々・地域も
マハティール首相は8月中旬に中国(北京)を訪問し、習国家主席と首脳会談を行うとのことですが、中国側の新たな提案次第では計画中止の再度の見直しもあるのでしょうか?

中国依存の見直しを掲げるマハティール首相も、中国との関係悪化は望んでいません。

トランプ大統領のように、発言がコロコロ変わる、ディールの一環として敢えて過激な発言をするといった事例が昨今は多いので、そのあたりはよくわかりません。

欧州との関係については、“駐中国の欧州28カ国の大使のうち27人が連名で、中国の一帯一路構想を強く批判する異例の声明を発表”というのは、主に英独仏といった西欧主導の動きでしょう。

連盟に名をつらねたとしても、“西側の価値観とは異なる制度”を志向する国もある中東欧の本音はまた異なるのでは。

中国もそこらを踏まえて揺さぶりをかけています。

****中国が欧州統合に支持表明、東欧諸国との会談控えEU警戒****
中国の李克強首相は6日、東欧・中欧諸国16カ国との首脳会議を週末に控え、同会合が協力強化を目指すものであり、欧州連合(EU)を分断するものではないと主張した。訪問中のブルガリアで開いた記者会見で話した。

この「16プラス1」と呼ばれる枠組みの会合は、ブルガリアの首都ソフィアで7日に開催される。バルト海沿岸の国やバルカン諸国の首脳らは李首相と会い、中国によるこの欧州16カ国への投資を促す狙いだ。「16プラス1」は今回で7回目となる。

250社を超える中国企業や700人以上の実業家が、会合に合わせて実施される経済フォーラムに参加する見込み。

ただ16プラス1は、EU本部があるブリュッセルや一部の西欧諸国に批判的な目で見られている。同会合がEUを分断する企てとの懸念されているためだ。

李首相は、会合で協力強化を目指すと改めて主張。EUの規定に基づいて取引を行うとし、「16プラス1は欧州統合を促す対策の一環だ。われわれは団結・繁栄している欧州を望む」と述べた。

16カ国の中には、ブルガリアとクロアチア、チェコ、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、スロベニアのEU加盟国11カ国と、アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、マケドニア、モンテネグロ、セルビアのEU非加盟国がある。

中国とブルガリアは6日、エネルギーと中小企業、科学、農業などの協力で10件の覚書に署名した。

また中国は、ブルガリアと隣国のギリシャをつなぐ鉄道計画やブルガリアのベレネ原子力発電所への投資に感心を示した。

このほか、中国国家開発銀行はブルガリア開発銀行と15億ユーロ(18億ドル)規模の枠組み合意に署名。広域経済圏構想「一帯一路」の下で向こう5年間、さまざまな事業に関する資金調達交渉を行う。【7月7日 ロイター】
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パキスタンとの問題を抱えるインドは、政治戦略的な「一帯一路」には賛同しないが、アジアインフラ投資銀行(AIIB)からのチャイナマネーはどんどんつぎ込んで欲しいといった、器用な使い分けをしています。

****AIIB、2020年までに融資規模10倍に拡大を=インド首相****
インドのモディ首相は26日、中国が主導する国際開発金融機関、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の年次総会に出席し、AIIBが今後2年間に総融資規模を10倍に拡大し、地域の資金需要をより迅速に満たせるよう支援してほしいとの考えを示した。

年次総会はムンバイで開かれた。

首相は、現在までのAIIBの融資総額は40億ドルだが、2020年までに400億ドル、2025年までには1000億ドルに増やしてもらいたいと述べた。

AIIBは2016年1月に開業。現在は87カ国・地域が加盟し、資本金は1000億ドル。これまでに12カ国で25件のプロジェクトを承認している。

中国とインドはライバル関係にあるものの、インドはこれまでにAIIBから約13億ドルの融資を受け、最大の受益国となっている。

モディ首相は、発展途上国でインフラ整備に向けた資本の調達は困難であるため、AIIBなどの国際機関が「中心的な役割」を果たすことができると指摘した。

一方、AIIBの金立群総裁は、現在から2030年までにアジアのインフラ投資が従来の約3倍の年2兆ドルに増加する必要があると述べ、「非常に大きな課題だ」と付け加えた。【6月27日 ロイター】
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AIIBによる投融資は、87ある加盟国のうちインド向けが約3割を占め、突出しています。
電力や道路などのインフラ整備が遅れているインドとしては、政治的な問題がなければチャイナマネーは大歓迎といったところでしょう。

中国:一帯一路は中国版マーシャルプランではなく、あくまでもビジネスの原則に基づくもの
「一帯一路」については、前述の“採算性や必要性が不明確なまま、巨額のインフラ資金を融資し、(中略)「開発独裁」につけ込んで周辺国を債務不履行に陥れ支配する。”といった批判がありますが、一方で、「一帯一路沿線国の中には、中国の国有企業による投資を国家による行為、ひいては寄付行為と捉える向きもある」という受け手側の問題もあります。

中国としても、そのあたりで考えるところがあるのか、最近の進捗にはブレーキがかかっているとも。

****中国の「一帯一路」、実は苦境に立っている?―仏メディア****
2018年7月4日、仏RFIの中国語版サイトは、中国が提唱するシルクロード経済圏構想「一帯一路」について、「苦境に立っているのではないか」とする記事を掲載した。

記事はまず「一帯一路は苦境に立っているのではないかという疑いの目が、中国内外の専門家やメディアからますます向けられている」とし、「中国政府にとって重い負担になりつつあるのではないか」と指摘した。

記事によると、台湾・聯合報は、中国の中央政府から中国メディアに対し、「一帯一路に関する宣伝の度合いを弱め」「一帯一路は中国版マーシャルプランではなく、一帯一路は構想であって戦略ではないという2点を強調する」ことを求める指示があったと伝えている。

その目的は、周辺諸国での中国脅威論を弱め、中国と米国、中国と日本という伝統的な外交路線に回帰することであり、専門家からは「中国政府の慎重な姿勢は日々激しさを増す米国との貿易摩擦と関係している」「米中貿易戦争は、一帯一路による中国の消耗のスピードを速め、一帯一路のリスクをさらに高めることになる」との見方が出ているという。

米紙ニューヨーク・タイムズは、一帯一路について「中国政府は5年近い時間と数千億ドルもの資金を大胆な計画へと転換させ、アジアや東欧、アフリカでの大規模プロジェクトを通じて国際影響力を拡大してきた」とした上で、「だが中国政府はいま、ブレーキを踏み始めている」と論じている。

中国政府の発表によると、今年1〜5月までに中国企業が一帯一路参加国で新たに調印した海外請負プロジェクトの契約額は約362億ドル(約3兆9900億円)だ。規模は巨大だが、前年同期と比べると6%減少している。

中国人民銀行(中央銀行)の易綱(イー・ガン)総裁は4月、「投融資の持続可能性を保証することは極めて重要だ」と述べ、国内の金融機関に対し、一帯一路による対外融資を慎重に見積もり、相手側の返済能力を確保するよう求めている。

中国の政策銀行、中国輸出入銀行の胡暁煉(フー・シャオリエン)董事長は6月中旬、上海での金融関係者会議で、「世界の貿易・投資環境は暴風雨にある中、一帯一路に関連し、同行だけで56カ国・地域で1400超のプロジェクトを実施し、融資残高は7800億元(約12兆9800億円)を超えている」とし、そうした大量の資金が短期的なものではなく持続的に一帯一路の建設を支援するものとなることが重要だとの認識を示している。

香港貿易発展局の羅康瑞(ビンセント・ロー)主席は6月末の一帯一路関連フォーラムで、「一帯一路沿線国の中には、中国の国有企業による投資を国家による行為、ひいては寄付行為と捉える向きもある」とし、「そうした国々は、こうした投資が国家による行為などではなく、あくまでもビジネスの原則に基づくものだということを理解する必要がある」と述べている。

ニューヨーク・タイムズは「一帯一路沿線国への『やりたい放題で湯水のような』融資は、それらの国々と中国との関係を悪化させている」とし、その例として、「マレーシアの新政権は交渉がまとまっていたいくつかのプロジェクトの中止を決めた。マレーシアとスリランカの新政権は前政権が中国政府からこれほど多くの融資を受けていたことに疑いの目を向けている」と指摘している。

ほかにも、米国と中国との貿易摩擦や、米国の利上げが他の国にもたらす金融混乱、世界経済の見通しの不確実性などがすべて、一帯一路の推進に影響を与えているとしている。【7月5日 レコードチャイナ】
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透明性や経済合理性を重視しないと長続きしない・・・というところを、中国としても再認識しているようにも思えます。
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AI(人工知能) 指数関数的に高度化 やがては人間を超える? “過渡期”現在の面白失敗話など

2018-07-08 22:13:25 | 世相

(Hulu配信動画「ヒューマンズ」より)

AI失業時代
最近よく観る動画のひとつが、Huluの「ヒューマンズ」というドラマ。

人間と全く同じ外見を持つ人型ロボットと人間が共存している近未来のイギリスが舞台で、そのロボットのなかに“意識”を持つものが存在し、その意識の在り様も、人間の個性同様に個体によってかなり差があり、そうした意識を持ったロボットの存在に気付いた人間側の反応も様々、そこで起きる意思疎通・共感・反発・対立・・・・といったドラマです。

今後加速度的、指数関数的に発達すると思われるAI(人工知能)の技術は、人々の生活の様々な分野で活用されていくと思われます。

当然ながら、そうなったら仕事の多くがAIにとってかわられ人間は失業するのでは・・・という不安も出てきます。

****AI失業時代 9割の人はAIをサポートする低賃金労働従事へ****
10月28日、みずほフィナンシャルグループ(FG)が今後10年で1万9000人分の業務量削減を検討していることが報道されると、三菱東京UFJ銀行が約9500人、三井住友FGは約4000人相当の業務量を減らす方針であることが相次いで報じられた。

3行合わせて3万3000人の「銀行員の仕事」が消える──。過去の「クビ切りリストラ」と違う点は、3行ともAI(人工知能)などの活用によって人員や業務のスリム化を図るとされていることだ。

今はまだAI失業の黎明期に過ぎないが、これから驚くべきスピードでAIが人間の雇用を根こそぎ奪っていく「未来」も予想されている。

「2025年から2035年までに日本の労働力人口のうち、約49%の就く仕事がAIやロボットで置き換えられる」
これは、2015年12月に発表された野村総合研究所と英オックスフォード大学による共同研究結果だ。

まず、2025年には自動運転車の実用化が始まるとされ、それと同時にドライバーという仕事がなくなる可能性が指摘されている。

その5年後にはさらに大きな変化が訪れる。「社長を除く中間管理職以上の役職が必要なくなる」という。AIと雇用問題の関係について詳しい駒澤大学経済学部准教授・井上智洋氏の話。

「囲碁の世界チャンピオンを倒したグーグルの『アルファ碁』などは特定の問題に特化した“特化型AI”ですが、幅広い問題に対応できるAIを汎用AIと言います。同AIは2030年には実用化されると言われており、そこからAIに仕事を取って代わられるスピードは加速度的に進みます」
 
1人1人の社員の個性と部署の特徴を総合的に分析して人事判断を下したり、企画を立案するような仕事にも対応できるレベルに達するという。

「そうなると現在30人規模の会社なら社長1人で経営できるようになるかもしれません」(同前)

2035年頃には手足など身体機能を持った「汎用AI搭載ロボット」の実用化が期待されている。アマゾンなど通販業界の工場で行なわれている仕分け作業や在庫管理などをこのAIロボットが担うと予想されている。

次にこれまで高度な技術が必要だった心臓バイパス手術など、外科手術もより精緻な動きが可能なAIロボットが代替していくという。職人技を持つ熟練外科医でさえ、失職の可能性があるというのだ。

「2045年には現在のあらゆる仕事のほとんどをAI・ロボットが行ない、人口の1割ほどしか働いていない未来も予測されます。

会社経営者や作家や芸術家、高度なホスピタリティを持った看護師やホテルマンなど、AIとの競争に打ち勝った1割は高収入を独占的に享受する。残りの9割の人間はたとえ職を持っていたとしてもAIのサポート業務など、低賃金の仕事に甘んじざるを得なくなるでしょう」(同前)

メガバンクによって突如もたらされた「AI失業時代」は、超・格差社会到来の合図なのか。【週刊ポスト2017年11月17日号】
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2035年とか2045年には、私は棺桶に片足か両足を突っ込んでいるでしょうから、この種の問題には“お気楽”です。
どんな社会になるのか、ぜひ見てみたいものです。

大勢がAIのために仕事がなくなって生活できない・・・となると、社会的反発が大きくなって、そうした社会制度は維持できませんので、少なくともベーシックインカムのような所得保障制度によって、食べていくことはできるのではないでしょうか。(日本や欧米みたい社会では)

そうであったとしても、仕事を失って、人間は何をするのか?という問題も生じます。

人間と対立するものとしてとらえるのではなく、「拡張知能」と呼ぶべき
一方で、そうしたAIを脅威としてネガティブにみるのではなく、AIは人間にとって非常に有益な道具であるとの指摘も。(もちろん、そうだからこそ、現在AIの研究開発が盛んにおこなわれている訳ですが)

****さらばAI、これからは「拡張知能」と呼ぶ時代がやってくる****
人工知能(AI)という言葉に別れを告げ、これからは「拡張知能」と呼ぼう──。そんな取り組みのひとつが、伊藤穰一が率いるMITメディアラボと米電気電子学会(IEEE)が始めた新たなプロジェクトだ。

いまのAIを「人々のためによいことを行う道具」として捉えやすくするという、この試みの真意とは。

ダートマス大学のジョン・マッカーシー教授は62年前の夏、「人工知能」(AI)という用語をつくり出した。だが、マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ所長の伊藤穰一は、この言葉は役に立たないと考えるようになってきた。

機械学習の進歩から利益を得ようと望む企業の投資が急増するなか、AIに関する議論は避け難いものになっている。伊藤はAIという用語について、「人間と機械は敵対するに違いない」という仮定によって汚染されてしまったとも感じている。つまり、ロボットが人間の仕事を奪うとか、超知能が人類を脅かすとかいった議論のことだ。

「AIを人間とは別のもの、あるいは人間と対立するものとしてとらえるのではなく、機械がわれわれの集合知や社会を拡張していると考えるほうが、より有益であり正確です」と伊藤は言う。

AIという言葉に別れを告げ、これからは「拡張知能」(extended intelligence:EIまたはXI)と呼ぶことにしよう。この言葉なら、AIを少数の人を豊かにする、あるいは彼らを守るためのものではなく、多くの人々のためによいことを行う道具として捉えやすくなるはずだ。(後略)【7月7日 WIRED】
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【『ボブ』と『アリス』の会話は、最初のシンギュラリティ?】
いずれにしても、多くの人の関心は、AIが人間を超える“シンギュラリティ(技術的特異点)”が起きるのか、それはいつなのか・・・ということでしょう。
シンギュラリティとは、AIが発達し、人間の知性を超えることによって、人間の生活に大きな変化が起こるという概念を指します。

「あの実験は、後から振り返ったときに初めて起きたシンギュラリティだった」とも回想されるのでは・・・・ということで話題になったのが、「Facebook AI Research(フェイスブック人工知能研究所)」の実験中に発生した予想外の「事件」です。

その「事件」とは、2つのAIが会話をしている最中に、人間には理解不能な会話を始めた・・・というもの。


****Facebook AI Research(フェイスブック人工知能研究所)」の実験中に発生した予想外の「事件」とは****
ことの発端は、「Facebook AI Research(フェイスブック人工知能研究所)」が実験を行っていた2017年夏にさかのぼります。(中略)
 
Facebook AI Researchのエンジニアリング・マネージャーであるアレクサンドル・ルブリュン氏は、『ボブ』と『アリス』と命名された2つのAIエージェントに「価格を交渉して合意しろ」という目標を設定しました。

『ボブ』と『アリス』は、当初は英語を使用してコミュニケーションをしていたのですが、ここで「事件」が起きます。
 
なんと、会話が進むにつれ、『ボブ』と『アリス』は勝手に使用言語を変化させていったのです。
 
ネットで調べる限り、『ボブ』と『アリス』の元の機械語の会話はすでに見られなくなっていますが(見たところで、機械語ですので私には理解できませんが)、厳密には「まったく新しい言語」ではなく、言語としては「英語」なのですが、その内容は人間には到底理解できるものではありませんでした。
 
この会話は、海外のサイトを検索すると多数ヒットしますが、概ね次のようなものです。
Bob: i can i i everything else . . . . . . . . . . . . . .
Alice: balls have zero to me to me to me to me to me to me to me to me to
Bob: you i everything else . . . . . . . . . . . . . .
Alice: balls have a ball to me to me to me to me to me to me to me
 
この会話が「価格交渉」というのですから、「すわ、ついにAIが意識を持ち始め、勝手に言葉を生み出した」と、センセーショナルに取り上げられるのも無理はないところでしょう。
 
ちなみに、『アリス』のセリフを注意深く見ると、「zero」から「a ball」に変化していますので、私は「『アリス』は価格を上げようとしているのかな」とつい想像しましたが、もちろん想像の域は出ません。
 
ただ、この実験についてルブリュン氏は、「会話実験で言語が変化することは珍しくない」と、世間の過剰反応に警鐘を鳴らしています。

なぜFacebook AI Researchは実験を中止したのか?シンギュラリティの予兆を隠す意図はなかったのか?
もっとも、平静を装うルブリュン氏ですが、「実験を強制終了した」ことは認めています。
その理由は、「研究には活用できない会話だと判断したから」。そして、「私たちは決してパニックにはなっていない」と強調しています。(後略)【7月7日 大村あつし ORICON NEWS 】
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上記の『ボブ』と『アリス』の機械語“会話”がどういう意味を持つものか、私にはまったく理解できませんが、指数関数的に高度化するAI技術を考えると、いずれ“シンギュラリティ”は起きるのだろう・・・と、漠然とは感じています。

そのとき、馬鹿なことをしでかす人間の政治家にまかせるより、AIに政治判断をゆだねた方が賢明ではないか・・・といった議論も出てくるのでしょう。

面白い失敗をしでかす、現代のお茶目なAI 白眉は中国の“役人AI”】
近未来のAIがどのように位置づけられるのかはわかりませんが、現在のAIは“面白い”失敗もしでかしてくれて楽しめます。

****AIスピーカーが勘違い?米で夫婦の会話を録音し送信****
AI=人工知能を搭載し、音声で家電製品の操作ができるAIスピーカーをめぐり思わぬトラブルです。アメリカでAIが勘違いして、夫婦の会話を勝手に録音し、音声データを知人に送信していたことがわかりました。

AIスピーカーは、人の呼びかけに応じて情報を検索したり、家電製品を操作することができ、アメリカで普及が進んでいます。

ところが、アメリカのメディアによりますと、今月、西部 オレゴン州の夫婦が、知人から「あなたたちの会話の音声が、AIスピーカーを通じて、突然届けられた。家のフローリングの話をしていませんでしたか?」と尋ねられたということです。

このAIスピーカーは、IT大手アマゾンの製品で、搭載しているAIに呼びかけることで起動する仕組みですが、アマゾンによりますと、夫婦が会話をしていた際、AIが呼びかけられたと勘違いし、起動したということです。

さらにAIは、夫婦からの指示だと誤解して会話を録音し、知人に音声データを送ったとみられています。

被害に遭った女性は、地元のテレビ局の取材に対し「プライバシーの侵害です。もう使いません」と不信感をあらわにしていました。
アマゾンは夫婦に謝罪したうえ、非常にまれな現象ではあるが、予防策を検討するとしています。

このAIスピーカーは去年の11月から、日本語に対応した製品も販売されています。

私たちの暮らしを便利にすると注目されるAIスピーカーですが、個人データの保護などをめぐり論議を呼びそうです。【5月27日 NHK】
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録音・送信された夫婦の会話が“フローリングの話”でよかった・・・と考えるべきかも。聞かれて困る会話はいくらでもありますから。

****Siri、英議会で国防大臣に「野次****
イギリスの国防大臣が議会で演説中、思わぬ邪魔が入った。ポケットに入っていたiPhoneのAIアシスタントSiriが喋り出したのだ。

7月3日の午後、ギャビン・ウィリアムソン国防大臣が下院の前でイスラム国(IS)との戦いについての現況を説明しているとき、おなじみのアップルアシスタントの声が、ウィリアムソンの前に置かれたマイクを通じて議場に響き渡った。

「ハイ、ギャビン。『シリアで......連合の支援を受けた民主勢力』について、ウェブに説明が見つかりました......」

ウィリアムソンは議長に謝罪しんがら慌ててポケットのiPhoneの電源を切り、「自分のスマートフォンに野次られるなんて珍しいことです」と言って議員たちを笑わせた。

安全保障上の脅威?
英メディアによると、Siriは、ウィリアムソンが何度も「シリア」と繰り返すうちに「シリ」と勘違いして起動、ウィリアムソンの発言と関連する情報を探してネット検索を始めたらしい。頭がいいのか悪いのか、とにかくTPOのわきまえはないらしい。

Siriの議会デビューは大いに議場を沸かせたものの、一方では議会中もiPhoneの電源を入れたままにする国防大臣のうかつさが国家の安全保障を危険にさらしているのではないか、という懸念も指摘された。

BBCの政治エディター、ローラ・クエンスバーグのその後の取材では、ウィリアムソンに近い情報源は、機密を扱う会議などでウィリアムソンがスマートフォンを持っていたことはないと請け合ったそうだが。【7月5日 Newsweek】
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Siriの野次はともかく、後半の指摘は、もっともです。

中国のAIは、もっと“人間的”です。

****中国当局に「汚染がひどい」と報告、信じられない答えが返ってきた****
2018年6月20日、澎湃新聞によると、市民が環境保護局の中国版LINE・微信(ウィーチャット)公式アカウントに「粉じんによる汚染がひどい」と訴えたところ、驚きのメッセージが返ってきた。

問題の返信をしたのは、四川省の工業都市・自貢市の環境保護局。「緑盛南湖実験学校の周辺でトラックの巻き上げる粉じんがひどすぎる。取り締まってほしい」との要望に対する返信は、「余計なことをいちいち言うな」だった。

驚いた市民が「自貢市の環境保護局はこんな対応をするのか。恥だ」と返信すると、これに「体面は他人から与えられるもの、面子は自分で失うものだ」とのメッセージが返ってきたという。

記者が市環境保護当局に問い合わせると、市はこのようなメッセージが返信されたことを謝罪。実は担当者がひとつひとつ返信しているのではなく、外部委託先のAI自動応答システムが返信していると明かし、早急に調査を行い、問題を改めると約束した。

この報道に、中国のネットユーザーは次のようなコメントを書き込んでいる。

「(中略)「すばらしい。自動システムなのに役人ぶった言い方を完璧に再現している」(中略)「アップルやグーグルのAIを上回る性能だね」(中略)「システムのせいにするというAIの新しい使い方が発見された」(後略)【6月21日 レコードチャイナ】
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本当にAI自動応答システムが返信したとしたら、確かに“役人ぶった言い方を完璧に再現している”賢さです。
一体どんな“教育”をしたのでしょうか。

与える情報・教育次第で、AIがナチスを礼賛したり、人種差別的発言をするようになることは、これまでも報告されています。

他にも、“AIでPK予測、岩手大 左右の的中率8割”【6月27日 共同】とか、“ISS宇宙飛行士を支援するAIロボット「空飛ぶ脳」打ち上げ”【6月30日】といった話題も。

AIロボット「空飛ぶ脳」などは、「2001年宇宙の旅」の“HAL9000”を思い出させます。

AIに関しては“面白い”話題には事欠きませんが、本当は、AIの軍事利用とか、監視社会での役割など、真剣に考えるべき問題があります。そのあたりは、また別機会に。
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