(オーストラリアの主要各紙は21日、1面に黒塗りの文書を掲載した。【10月21日 BBC】)
【オーストラリア 政府に不利な報道をした記者たちを、それが公共の利益にかなう内容にもかかわらず脅かしている】
「国境なき記者団(Reporters Without Borders=RWB)」は、情報の自由、報道の自由を目的に、1985年にフランス・パリで設立された非政府組織で、戦争地域などで活動するジャーナリストの金銭的・物的支援や、拘束されたジャーナリストの救出、メディア攻撃に対する非難声明、情報の自由に対する攻撃の監視などの活動を行っています。
この「国境なき記者団」は世界各地の約130名の記者と協力して、世界各地で報道の自由に違反している情報を調査・収集し、「報道の自由度指数」に関する報告書を作成しています。
そのなかで毎年報告されているのが「報道の自由度ランキング」
4月に発表された2019年のランキングでは、オーストラリアは21位、「満足できる状態」ということで、まずまずの評価となっています・・・・が。(日本の話は後述します)
****豪メディアに捜査、危機感 機密報道の記者に、指紋提出求める/通信記録にアクセス*****
オーストラリアで、政府の機密情報をもとに伝えた報道をめぐる連邦警察の捜査が、波紋を広げている。
6月に公共放送ABCなどを捜索して衝撃を与え、7月には記者に指紋の提出を求めるなど、捜査の実態が次々明るみに出た。豪主要メディアは政府に、「報道の自由」を守るための法改正を求めている。
連邦警察が捜査しているのは、ABCによる2017年7月の報道。独自入手した政府の機密文書をもとに、09~13年にアフガニスタンに派遣された豪特殊部隊が非武装の男性や子どもを殺害する事件が少なくとも10件あったと報じた。
これを受けて、警察は6月5日、ABCのシドニー本部を家宅捜索。「機密情報の公表を禁じる刑法の規定に基づいた」と説明し、担当記者らが刑事訴追される可能性を否定しなかった。
ABCは7月15日、警察が今年4月、担当記者と番組プロデューサーに、指紋と掌紋のコピーの提出を求めるメールを送っていたと報道。「住宅に不法侵入した容疑者と同じような扱いを受けた。豪州で記者が指紋提出を求められるのは初めてとみられる」と批判した。
さらに、この記者についてシドニーモーニングヘラルド紙が、警察が今年初め、豪航空最大手のカンタス航空に、記者が利用した16年の6月と9月のフライトの記録の提出を求めていたと報じた。
同紙はまた、警察が17年7月からの1年間に、通信会社が保管するジャーナリストらの電話やインターネットの記録に、58回にわたってアクセスしていたと伝えた。ただ、今回の記者に関する情報かは不明だ。
警察が依拠したのは通信傍受法で、ジャーナリストの通話記録や電子メールの相手先や通信時刻などがわかるデータを、捜査機関は利用できると定めている。
警察はABCへの捜索の前日の今年6月4日には、別件の捜査で、大手新聞社ニューズコープの記者のキャンベラの自宅も捜索した。この記者は昨年4月、政府が情報機関による市民への監視を強めることを検討していると機密情報をもとに報じていた。
■テロ防止背景
豪州は、米NGOの「フリーダムハウス」が各国の社会の自由度を数値化した2019年版の報告書で、100点満点中98点と、209カ国・地域中6位タイだった。
報道の自由を含む市民の「表現と信教の自由」の項目では満点の評価を受けた。国際NGO「国境なき記者団」(本部・パリ)が4月に発表した報道の自由度ランキングでも180カ国・地域中21位。67位の日本を大きく上回る。
7月23日に発表された民間の世論調査では、ABCなどへの警察の家宅捜索について、40%が「とても心配」、34%が「少し心配」と答えた。
豪州では近年、国内でのテロを防ぐため、機密情報の管理や通信傍受など治安対策の法律を強化してきた。警察幹部は捜索翌日の会見で「機密情報が守れない国とみなされると、協力国から我が国への(テロなどの)情報が枯渇する」と説明。とくに「ファイブアイズ」(米、英、豪、加、ニュージーランド)と呼ばれる国々の情報機関同士の協力に影響が出るとした。
豪州のメディア法に詳しいメルボルン大のデニス・ムラー上級研究員は「連邦警察が政治的な勢力になっている。政府に不利な報道をした記者たちを、それが公共の利益にかなう内容にもかかわらず脅かしている」と指摘する。
■政府も動くが
強制捜査に危機感を抱いたABCやニューズコープなど豪メディアは連名で、政府に対し、(1)情報提供者の保護(2)記者への強制捜索令状の発行の厳格化(3)公共の利益のために機密情報の内容を報じた記者への刑事訴追の免除――などの報道の自由の保障を明確にする法改正を要求。さらに、ABCとニューズコープはそれぞれ捜索令状は憲法上無効との司法判断も、連邦裁判所に求めている。
内外で広がる批判や懸念を受けてダットン内相は8月9日、機密文書漏洩(ろうえい)に関する捜査について「自由で開かれた報道の重要さや幅広い公共の利益を考慮するように期待する」として、強制捜査を検討する前に別の関係者への捜査を尽くしたり、記者に自発的な捜査協力を求めたりするよう連邦警察長官に指示した。
これに対し、ニューズコープのマイケル・ミラー会長は同日、「今ほど(大臣の警察への)助言より法改革が必要なときはない」と豪紙に語り、政府の対応は不十分との認識を示した。【8月11日 朝日】
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当局側による報道への圧力強化の背景に“国内でのテロを防ぐため、機密情報の管理や通信傍受など治安対策の法律を強化”する動きが進んでいいることが指摘されていますが、日本の「特定秘密保護法」制定と同種の流れでしょう。
****報道の自由訴え 豪主要紙が1面黒塗り 警察の放送局捜索を批判****
オーストラリアで、国の機密情報が漏えいした疑いがあるとして、公共放送ABCなどが警察の捜索を受けたことに対し、地元の主要な新聞は、21日、一斉に朝刊の1面の文面をほとんど黒く塗りつぶして報道の自由を訴えました。
オーストラリアの公共放送ABCが、おととし、国防省の機密文書に基づき、アフガニスタンに派遣された兵士が民間人を殺害したなどと報じたことについて、連邦警察はことし6月、当局者による機密情報漏えいの捜査の一環として、シドニーにあるABCの本部を捜索しました。
こうした事態に対し、地元の主要な新聞は、国民の知る権利を脅かす行為だと厳しく批判し、21日朝の紙面で報道の自由を訴えるキャンペーンを一斉に展開しました。
各紙とも1面の文面のほとんどを黒く塗りつぶしたうえで、1番下に「政府があなたたちから真実を遠ざけるとき、何を隠蔽しているのでしょうか」と問いかけています。
2面以降も関連する記事を掲載し、このうち有力紙「オーストラリアン」は内部告発者が守られ、報道した記者が罪に問われないようにすべきだと訴えています。
捜索に踏み切った連邦警察は機密情報を守れないと他国から情報を得られなくなると説明していますが、主要な地元紙が、こうしたキャンペーンを展開したことで、今後報道の自由をめぐる議論が活発になるとみられます。【10月21日 NHK】
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知る権利を求めるメディア側と機密保持を重視する政府の立場は対立しています。
“安全保障に関する法律が報道の自由を制限し、オーストラリアに「秘密の文化」を生み出していると非難している。
一方、政府は報道の自由を擁護するとしつつ、「誰も法の上に立つことはできない」との姿勢をとり続けている。
スコット・モリソン首相は20日、「法治主義」は維持される必要があると強調。「それは私も、どのジャーナリストも、他の誰もが対象となる」と述べた。”【10月21日 BBC】
【日本 経済的な利益が優先され「多様な報道が次第にしづらくなっている」】
同種の対立は、他の国でも、日本でもあるところですが、日本における報道の自由は、冒頭「報道の自由度ランキング」によれば日本人が意識している以上に芳しくないとされています。
****報道自由度、日本67位 国境なき記者団、前年同様 ****
国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」(RSF、本部パリ)は18日、2019年の世界各国の報道自由度ランキングを発表した。日本は前年と同じ67位。経済的な利益が優先され「多様な報道が次第にしづらくなっている」と指摘した。
全体の傾向についてRSFは「記者への憎しみが暴力となり、恐怖を高めている」と指摘。クリストフ・ドロワール事務局長は「恐怖を引き起こす仕掛けを止めることが急務だ」と訴えた。
ランキング対象の180カ国・地域のうち「良い」か「どちらかと言えば良い」状況にある国は前年の26%から24%へ減少。
トランプ大統領が批判的メディアを敵視している米国は48位に順位を下げ、日本と同様「問題のある状況」とされた。
1位は3年連続でノルウェー。フィンランドとスウェーデンが続き、3位までを北欧諸国が占めた。
政府が独立系メディアやインターネットへの圧力を強めているとしてロシアは149位に下がり、中国も177位に下落した。北朝鮮は最下位を脱して179位となり、トルクメニスタンが最悪だった。
日本は10年には11位だったが、次第に順位を下げ、17年は72位だった。【4月18日 日経】
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日本はG7では最低の順位ですが、2010年の11位からすると急速に状況が悪化しているように見えます。
****順位が下がった理由****
「報道の自由度」ランキングは、意見の多様性、政府機関・宗教からの独立性、報道の内容によって政府や特定団体などからいやがらせや脅迫を受けていないかなど、7つの質問項目を基準に採点されます。
最新版(2017年版)では日本はイタリアに抜かれて主要7カ国のなかで最下位、アジアのなかでも韓国に抜かれ3位に後退してしまいました。
日本について国境なき記者団は、「日本のメディアの自由は、安倍晋三が2012年に首相に再就任して以降、衰えてきている」と指摘。
一方、日本の記者クラブについては、フリージャーナリストや外国人記者を選り好みしており、自己検閲を増大させていると批判しました。
また、日本政府はメディアに対する敵意を隠さず、ジャーナリストに対してハラスメント(いやがらせ)をしていると非難。
さらに、SNS上のナショナリスト達は、政府に批判的な記者や、慰安婦問題や南京問題などの論争に取り組むジャーナリストに対して脅迫・いやがらせをしていると問題視しました。
特定秘密保護法も批判の対象となっており、違法に取得された情報を公表したとして有罪判決を受けた場合、内部告発者に10年の懲役を科す法律を「国連の抗議を無視して成立させた」と非難しました。【https://www.sin-kaisha.jp/article/global/報道の自由度ランキング、なぜ日本はg%EF%BC%97で最下位/】
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特定秘密保護法について日本弁護士連合会は、「特定秘密」はとても範囲が広く曖昧で、どんな情報でもどれかに該当してしまうおそれがあると指摘。
また、「特定秘密」を指定するのは、行政機関であるため、行政機関が国民に知られたくない情報を「特定秘密」に指定して、国民の目から隠してしまえる危険性があるとも指摘しています。
【アメリカ トランプ大統領のメディアバッシングがデマ、フェイクニュースの新時代に引きずり込む】
アメリカも2019年版で48位と良くありません。
****トランプの影響? 米国も順位を落とす****
米国の「報道の自由度」は(2017年版では)昨年より順位を2つ落として、43位となりました。
国境なき記者団は、トランプ大統領による相次ぐメディア批判や、マスコミへの報復としてホワイトハウスへのアクセスをブロックしていることなどを非難しました。
また機密情報などの内部告発者に対する逮捕や告訴が続いていることから、今日まで、アメリカのジャーナリストは、情報源の秘匿などの権利を認める「ジャーナリスト・シールド法」に守られていないと指摘しました。
米オンラインメディアのハフィントンポストは記事のなかで、「例えば元CIA職員のジェフリー・スターリング氏は、ニューヨーク・タイムズの記者に機密情報を漏らしたために2015年に有罪判決を受け、いまだ獄中にいる。スターリング氏と家族、それに数万人の支持者は彼の無罪を主張し、赦免するよう求めている」と語ります。【同上】
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「ジャーナリスト・シールド法」は取材に際しての情報源である人物を特定しうる情報を他に漏らさないことを保証する法律。
アメリカでは、いわゆるシールド法によって取材源の秘匿を保護している州も多いが、連邦レベルでは認められておらず、2005年7月に、CIA情報員の身元をメディアに漏らした政府高官の氏名の証言を拒否したニューヨーク・タイムズ紙の記者が、法廷侮辱罪で収監されたとのこと。
「報道の自由」におけるトランプ大統領の最大の問題は、相次ぐメディア批判によって、報道の信頼性を失わせようととしている点でしょう。
****報道の自由は新たな転換点を迎えている*****
国境なき記者団のクリストフ・デロワール事務総長は、報告書のなかで「報道の自由度」が全世界的に下がっていると警告しています。(中略)
トランプ米大統領がメディアに対して「無能」「不快」「フェイクニュース」などと口撃するように、公然と批判する風潮が世界的に広まっていることについて、ハフィントンポストは、「あからさまなメディアバッシングであり、世界を『ポスト真実(客観的事実よりも感情的な訴えが世論に影響すること)』やデマ、フェイクニュースの新時代に引きずり込む、極めて有害な反メディアの言葉である」と批判。報道の自由が世界的に蝕まれる傾向にあると危惧しました。(後略)【同上】
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【ミャンマー ロヒンギャ報道の記者 有罪のまま恩赦で釈放】
「報道の自由」は多くの国々で侵害されていますが、ロヒンギャ問題に絡むミャンマーの事例も国際的に懸念されました。
****スー・チー氏が向き合わない「報道の自由」の危機 ミャンマー民主化はどこへ****
ミャンマーの裁判所は(2018年)9月3日、イスラム教徒少数民族ロヒンギャの問題を取材していたロイター通信の現地記者2人に、禁錮7年の実刑判決を下した。
記者の行為が国家機密法違反だったと認定したが、「(2人を逮捕するための)わなだった」とした警察官の証言は考慮されなかった。
長期の軍事政権を終え、芽吹き始めていた同国の「報道の自由」は、試練を迎えている。だが、民主化運動を指導してきたアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相は、自分を支えてきた記者たちの懸念に、正面から向き合おうとしていない。(中略)
実刑判決を受けた2人は、西部ラカイン州で昨年、ロヒンギャ10人が殺害された事案を取材。12月に警察官から面会場所のレストランに呼び出されて資料を受け取り、外に出たところで別の警察官に逮捕された。
英国のハント外相は「不都合な真実を記事にする記者を禁錮刑とすることは報道の自由に対する大きな打撃だ」と批判。欧州連合(EU)のモゲリーニ外交安全保障上級代表は、ミャンマーの民主化を「落第」として、実刑判決が「ジャーナリストたちを萎縮させる」と懸念する。(中略)
ミャンマーの報道関係者は、今回の記者への実刑判決に絡むスー・チー氏の対応に「がっかりした」と落胆を隠さない。国内では沈黙を貫き、シンガポールやベトナムなど海外の講演会で質問されてやっと口を開いたものの、「(今回の判決は)表現の自由とは関係なく、国家機密法に関するものだ」と突き放し続けているからだ。(後略)【2018年10月1日 産経】
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2名の記者は昨年9月に一審で禁錮7年の実刑判決を受け、高裁、最高裁に上訴するも、4月に最高裁で棄却されていましたが、5月、ミャンマー政府は高まる国際社会からの批判を受け、有罪判決は容認しつつ、恩赦によって2名を釈放しました。