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フェルメール作品メモ(#20)  手紙を書く婦人

2008年11月24日 | フェルメール


A Lady Writing,「手紙を書く婦人」
c.1665, oil on canvas, 45x39.9 cm,
Inscribed on the bottom of the frame of the still life : IVMeer (IVM in Ligature)
National Gallery of Art, Washington, USA


手紙を書いている婦人が、鑑賞者を見上げている。左側から薄暗い室内に差している光が、頭髪のボウと共に、ジャケットの黄色のサテンと白テンの毛皮を引き立てている。  このジャケットは、ファッショナブルなヘアスタイルと共に、「真珠のネックレスをつけた女」で描かれているものと同じものである。 後方の壁にある絵は現存している。  手紙を書いている婦人は、黄金期のオランダ絵画で好まれたモチーフである。 普通は手紙が恋に関係することが明らかに示されているが、ここでもフェルメールは曖味なシーンにしている。

薄暗い室内で、婦人が手紙から顔を上げて鑑賞者を見つめている。 一方の手で紙片を持ち、他方で羽根ペンを持っている事から、彼女は丁度今手紙を書くのを邪魔されたようである。 彼女のポーズや表情は直接何も示していないが・・・。 一見してこの絵は、オランダ絵画に数多く見られるテーマであり、フェルメールも他に二つの作品、「#26/女主人とメイド」(c.1667)、「#31/傍らにメイドを待たせたまま手紙を書く婦人」(c.1670)を残している。 オランダ絵画では、手紙を書く婦人のテーマはほとんど常に「恋」に関係している。 フェルメールの他の二つの作品では、手紙を届けたか返信を待っているメイドが描かれているが、この絵に物語性はほとんど無い。 テーマがロマンティックな意味を持っている事を示す唯一のものは、辛うじて識別出来る後方の壁に掛けられた暗い絵である。 それはバスビオラを含む楽器の静物画のように見える。 楽器は多くの場合恋を意味するので、彼女が書いている手紙は留守中の恋人宛のものであると考えられる。

フェルメールはシーンの静穏さを強調するように構成要素を配置している。 婦人は、腕を優しくテーブルに置いて観賞者の方に向いている。 椅子が画面に向かって斜めになっている。 椅子と、腕に平行な青い服地の折り目以外に、斜めの線は無い。 前景のテーブルと後方の壁の絵が、婦人のフォルムに対して、水平と垂直な骨組みを与えている。 絵の暗いフォルムが婦人の頭部と明暗のコントラストを与え、その絵のサイズは後方の壁の三分の二であり、画面の幅に比例している。 絵の右側の壁の幅はテーブルの高さと等しく、テーブルの高さは絵の下辺から画面の下辺までの距離の丁度半分である。 つまり、フェルメールが注意深くこの構図を創り出している事を示している。

この絵に製作年は示されていないが、その構図とテクニック、婦人のコステュームやヘアースタイルは、1660 年代中期の他の絵と似ている。 例えば、婦人のエレガントな黄色のジャケットは「#17/リユートを持つ女」 (c.1664)、「#19/真珠のネックレスを持つ女」 (c.1664)、「#26/女主人とメイド」(c,1667)にも描かれている。 テーブル上のインク壷と装飾子箱は「26/女主人とメイド」に描かれているものと似ている。

1660年代のフェルメールの室内にいる単独の人物画は、婦人が手紙を読んだり、水差しを持っていたり、楽器を演奏したり、何かをしている絵であり、プライベートな世界を覗き見ている鑑賞者の存在に気づいてはいない。 この絵は、婦人が鑑賞者を真直ぐに見ている点と、手紙を書くという行動を邪魔されている点で他の絵とは違っている。
 フェルメールが何故、彼が既に完成し成功している構図から離れる事を選んだのかは不明である。 鑑賞者を見つめている婦人を描く事で、彼は手紙を書くというテーマに、この静かで整頓された私室に、画面には見えない訪問者が訪れて来たという新しい要素を導入した。 婦人の落ち着いた態度に、驚きや動揺は無い。 逆に、彼女の顔に微笑みがあるのは、鑑賞者の出現を認めているからである。 


婦人のポーズに対する有り得る他の説明としては、これが肖像画であるという仮説である。 正式な肖像画に得手して欠けている自然さをこの絵は持っている。
 フェルメールは絵の前景に婦人を置き、彼女の物理的、心理的な存在感を強調している。 彼女の特徴、広い額と長く細い鼻は、「#25/若い婦人の肖像」(c.1666-67)のそれらを思い起こさせるような、肖像画的な特徴であり、同時期の彼の他の風俗画の中の婦人のそれらほど理想化されてはいない。
 彼女のフォルムは、彼女の目鼻立ちをはっきりさせるデリケートな筆使いで描かれている。 その肌の色のすばらしい変化具合は、最近の修復作業でも確認されている。

この婦人のモデルは誰かという問題は、解決していない。 最も可能性が高いのは、妻Catharina Bolnes であり、彼女は1631年生まれで、この絵が描かれた時には30代前半であったはずである。 モデルの年令を判断するのは難しいが、30代前半というのはこの人物には相応しいようである。 しかし、この仮説は確認出来ていない。

白テンの毛皮が付いた黄色いサテンのジャケットは、フェルメールの死後に作成された財産目録に記載されていたものと同じものと考えられており、「#26/女主人とメイド」(c.1667)にも描かれている。


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