ケイの読書日記

個人が書く書評

「グレイミスの秘密」平井呈一編訳 創元推理文庫

2021-10-02 10:37:32 | 翻訳もの
 このグレイミス城はスコットランドの有名な古城。いわくつきの怪奇話がいっぱいあるらしい。シェイクスピアは、この古城を舞台にして『マクベス』を書いたという。シェイクスピアって16世紀から17世紀の人じゃない? シェイクスピアが執筆する時に、もうすでに幽霊城として有名だったんだから、年季がはいってるね。由緒正しい幽霊城だよ。

 これは実話だというんだから、Wikipediaに載ってるだろうと検索したら、グレイミス城ではなく、グラームス城で載っていた。外国語の名称を日本語表記するのは難しい。
 で、このグラームス城、今は一般公開されていて、城内を観光できるようだ。国や地方自治体の所有でなく、伯爵家の居城というなら、すごい額の固定資産税を払わなければならないだろうから、観光客に有料で公開というのも、理解できます。

 短編の中の怪奇話は、たいして悪さをしない幽霊が出るというたわいのないもので、慣れてない人だと震えあがるだろうが、何度も幽霊を見て慣れてしまっている人は、気にすることなく朝までぐっすり眠れるだろうね。 ゴキブリが出た方が大騒ぎになるかも。

 この城の伝説で、本当に怖いのは『グラームスの怪物』という怪異話。Wikipediaに載っていた。大昔、一族の一員として生まれた子どもが、ぞっとするような恐ろしい異形であったため、一生城内に監禁され、死後に居室ごと煉瓦で塗りこめられた、という話。
 確かに、こういった古い家にありがちな話。恐ろしい異形だから表に出てこられないというより、お家騒動で、正統な後継者が表に出てくると困るので、怪物みたいな容姿だといって監禁・抹殺したんじゃないかな?

 日本でも座敷牢というのは、戦前までさほど珍しくなかった。旧家ほど、そういった設備を自宅に拵えていたんじゃないかな。表に出ると都合の悪い人を、気がふれたとかでっちあげて座敷牢に閉じ込めるんだ。


 
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「呪われたルドルフ」 平井呈一編訳 創元推理文庫

2021-09-18 17:19:51 | 翻訳もの
 この「呪われたルドルフ」も前回UPしたものと同じ創元推理文庫「世界怪奇実話集」の中の一編。この「世界怪奇実話集」って、古い屋敷の中で誰もいないはずなのに話声がする、とか幽霊が屋敷内を動き回るっていう話がほとんどで、2つ3つ読むとお腹一杯、もう飽きてしまう。日本にも家にまつわる怪奇話はあるけど、西洋の方がうんと多いような気がする。
 なぜか?と色々考えるに、日本の家は昔から木と紙でできていて、燃えてしまう事も多く、耐久力に劣り土台から朽ちてしまうので、幽霊が屋敷に棲みつきにくいんじゃないかな。
 なんせ、築100年で大騒ぎしているもの。

 それに比べ、西洋の城や屋敷は、石造りで頑丈。何百年たっても土台は残り修復できる。だから、館の以前の持ち主の時代のいわくつきの幽霊がすみ続けるんだろう。とにかくひんやりして広くて薄暗いので、幽霊にピッタリです。

 で、この「呪われたルドルフ」は、それとはちょっと違って、オペラ歌手に化けた悪魔が、ルドルフのひ孫が住んでいる館に招かれてやって来るという話。ルドルフは1743年に亡くなっていて、今では絵画として額縁の中に納まっているから、このお話は1800年代の半ばの話なんだろう。
 このルドルフ男爵は怪奇話コレクターというか、不思議な話や怪談が大好きで、そういった話がある土地に行っては、怪談話を収集していた。領地の農夫たちが、そういった彼を「呪われたルドルフ」と呼んだらしい。

 いずれにしても私の興味は長続きしない。東野圭吾の「ガリレオ」みたいに科学的に説明してくれる訳じゃないから「えっ?夜中に物音が?不思議ですね」で終わってしまう。
 この実話集の最大の目玉は「屍衣の花嫁」という話らしいから、次回はそれを読んで、もうこの実話集はおしまいにしよう。
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アルベール・カミュ  宮崎嶺雄訳 「ペスト」 新潮文庫

2021-01-15 10:29:18 | 翻訳もの
 この世界的名作を読み終えて、もっと哲学的な感想を持つのかと思いきや、自分の受けた印象がすごく現実的だったので、自分でも驚いた。

 194*年、アルジェリアのオラン市でペストが発生した…という設定。私、この本を読むまで、ペストってペスト菌保菌ネズミが人間に噛みついたり引っかいたりして人間にペストをうつすと思ってたんだけど、そうじゃなくてネズミに寄生しているノミがペスト菌を保菌していて、まず最初の犠牲者はネズミなんだ。
 大量のネズミが、ノミからペスト菌をうつされ、血を吐きながら、ぴくぴく痙攣しながら、断末魔のキイキイ鳴き声を喚きながら、死んでいく。道路でも、公共の建物でも、家の中でも、ネズミの死骸がゴロゴロ転がっていて、元気なネズミの姿が見えなくなってから、ノミにかまれた人間が原因不明の熱病にかかり死んでいく。
 医者たちは、ひょっとしたら…と疑いを持ちながらも、「いや、そんなはずはない。ペストは数十年前から気候の温暖な地域では姿を消しているはずだ。ペストのはずはない」となかなか認めようとしない。
 そうだよね。ペストだったら大パニックになるし、町を封鎖しなくてはならない。

 どんな病気で死ぬのも嫌だが、ペストって本当に苦しそう。高熱にうなされ、リンパ腺がはれ、そこが裂けて膿が流れ出し、悪臭の中で患者は死ぬ。身体全体に黒い斑点が現れ、全身黒ずんで。ああ、恐ろしい。

 オラン市は封鎖された。中の人たちは様々な行動をとる。医者たちは闘うし、その医者を助けようとボランティアに志願する人、淡々と嵐が過ぎ去るのを待つ人、封鎖を機に密輸めいた事をやって儲ける人、なんとか外に出ようと門の守衛たちにお金を渡す人。もちろんペストで相当数の死者が出る。

 私は、画期的なワクチンができて、人間がペストに勝利するというストーリーだろうと思っていた。だが違った。ペストは突然、その力を弱め消滅したんである。4月半ばごろから流行し、猛威をふるいピークに達し、1月になると減退し消滅したように見え、2月に封鎖は解除された。こんなことってある?

 でも考えてみるに、医学的な治療が無かった昔、ペストや天然痘は、その猛威が治まって通り過ぎていくのを待つしかなかった。台風みたいに。これって一種の集団免疫ができたって事かなあ。
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「クリスマス・カロル」 チャールズ・ディケンズ著 村岡花子訳 新潮文庫

2020-04-01 18:04:59 | 翻訳もの
 クリスマスが近いわけでもないのに、なぜ「クリスマス・カロル」?と思った人も多いだろう。近くの図書館が、コロナの影響で休館になってしまったので、ブックオフで何か買おうと棚の間をぶらついていたら、まず集英社文庫の「クリスマス・キャロル」が目に留まった。有名だけど、私はまだ未読だったな、やっぱり、こういった世界的な名作は読んでおかなければと思いながらも、クリスマスシーズンでもないから…と他の本を探す。すると、今度は光文社文庫の「クリスマス・キャロル」を見つける。なんだよ、棚に海外文学なんてたいした冊数ないのに不思議だなと、また他の本を探し始めると…またまた新潮文庫の「クリスマス・カロル」に出会ってしまった。
 本の神さまは、今日、私にどうしても「クリスマス・カロル」を読ませたいんだなと、運命を感じ購入。なぜ新潮文庫にしたかというと、村岡花子が訳者だったから。

 読んでみて、深く感銘を受ける。19世紀中ごろの作品だが、さすが100年以上も読み継がれている作品だけの事はある。素直に素晴らしいと思う。

 金の亡者・スクルージ老人は、クリスマスの前日、貧しい人達への寄付を集めに来た紳士たちを追い払い、クリスマスに一緒に食事をどうですかと誘いに来た甥っ子の相手をせず、使用人の書記がクリスマス当日休みたいという当然の要求に、嫌みたらたらで返答する。
 スクルージ老人自身は、金があるのにもかかわらず、鵞鳥もケーキもプディングも用意しない部屋で、おかゆをすすろうと家に帰ると、商売上の相棒だったが7年前に死んだマーレイ老人の亡霊と対面する。
 マーレイ老人はスクルージ老人に、第1、第2、第3の幽霊が来て、自分の運命を変えるチャンスがあると告げる。そのとおり、スクルージ老人のもとには、過去の幽霊、現在の幽霊、未来の幽霊が現れ…。

 この小説には、19世紀半ばのイギリスのクリスマス風景が描かれているが、その素晴らしい事と言ったら!! クリスティのミステリにもキラキラしたお金持ち家庭のクリスマスの情景描写があって、うっとりする。こっちの「クリスマス・カロル」では、もっと貧しい家庭の様子だが、それでも本当に美しい。
 貧しいながらも、精いっぱい着飾って、ご馳走を作って、親せきや友人や住み込みで働いている子どもたちが集まって来て、歌や踊りゲームなどで楽しく過ごす。

 そして、未来の幽霊が見せた物とは…。孤独に死んでいく老人は珍しくないが、死体を発見した家政婦や洗濯女たちが、死人に身寄りがないのを良いことに、シーツや毛布やカーテンや衣類を持ち出し、古着屋に売るのは当時よくあった話なんだろう。それでも、死体を埋葬するため上等なシャツを着せてあるのに、どうせ埋められるんだからと、はぎ取る女は凄い!!おい!地獄に堕ちるぞ!
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「金時計」 ポール・アルテ 平岡敦訳 ㈱行舟文化

2019-10-23 09:53:47 | 翻訳もの
 名探偵オーウェン・バーンズシリーズ作品。表紙に、カバーイラストは著者直筆!って書いてある。イラストは図書館というより誰かの書斎みたい。本だけでなく、いろんな置物・小物があって、素敵な書斎のイラスト。ポール・アルテって多才なんだ。そういえば前作のあとがきで、ギターも堪能とか書いてあったっけ。すごいなぁ。

 1901年の中年女性殺害事件。1911年の女性実業家殺人事件。1991年劇作家アンドレの奇妙な体験。それら3つが絡み合って物語は進行する。
 メインの事件は1911年の雪に閉ざされた森の中で、ヴィクトリア・サンダースの死体が発見された事件。容疑者は、彼女の招きで山荘に集まっていた人々。ヴィクトリアのろくでなしの弟、有能な社員、その妻、その美人秘書、ヴィクトリアのインド人執事。
 動機は色々あるようだが、最大の謎は、彼女の死体の周りは雪で覆われ、被害者の足跡しか残っていなかった。つまり雪密室。だからこそ、オーウェン・バーンズの出番なのだが。

 最終的には、きれいに図解で謎は解かれるが、ちょっとミステリアスな雰囲気が足りないね。物語としては1991年の事件の方が面白いと思う。
 
 劇作家アンドレはスランプに陥っていた。そこから抜け出すために、子供の頃観たホラー映画を是非ともまた観たいと熱望していた。その映画は、少年時代の彼に強烈な印象を残し、劇作家としてデビューする彼に、多大な影響を与えた。
 しかし、なにせ子供の頃の話。しかも予告編だけ観ただけなので、探してもみつからない。
 うろつく人影、雨に打たれた屋敷、恐怖におののく女、ゆっくり回るドアノブ、らせん階段…etc

 しかし読者はだんだん不安になってくる。劇作家がここまでこの映画に執着するのは、ただ自分の創作の源泉となっている作品を観たいだけなのか、本当はもっと他の理由が(本人も意識していない)理由があるんじゃないか。
 劇作家は、映画マニアの哲学者モローを訪ね、彼の精神分析を通じて、少年時代に立ち返っていく…。

 1901年の事件と1911年の事件が繋がってるだろうことは予想がつくが、それが1991年の事件とどう繋がるんだろうと、色々頭をひねる。だって80年90年の隔たりがあるんだものね。
 それを、あっと驚く東洋の思想が結び付けて…。舞台がインドだったら分かるけど、イギリスだから驚く。キリスト教世界にも、こういった思想ってあるんだろうか?
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