ケイの読書日記

個人が書く書評

角田光代「空中庭園」

2009-05-19 10:18:37 | 角田光代
 東京近郊のニュータウンに住む京橋家とその周辺の人々。その夫妻・娘・息子・夫の愛人・妻の母6人のモノローグ6編で作品が構成されている。

 その京橋家のモットーは「何事もつつみかくさず」。娘マナを受精したのは高速道路のインター近くにある「ホテル野猿」だし、夢精おめでとうという弟コウの性の目覚め晩餐会も開かれるほどなのだ。

 だが、当然ながら、それぞれが秘密を持ってそれを知られないよう苦心している。


 解説を書いている石田衣良は、それを「家族は実際には完全に壊れてしまっている。それなのに表面は平凡に明るく続いていくのだ」と書いているが、私はそうは思わない。
 この程度の破綻がなんだ!!

 ダンナには新旧2人の愛人がいる。彼女らに『チョロQ』『コップ男』と罵倒され続けている。へらへら近づき関係を結び、しかし彼なりに家庭を大切に思っている。
 子ども2人は高校生と中学生。ボーイフレンドに無視されたり、学年単位のいじめにあってたりしても、それを親に知られないよう気丈に振舞っている。
 家庭内では家族のバースディパーティがちゃんと行なわれる。ティッシュで作った貧乏くさい花を部屋にきゃあきゃあ騒ぎながら飾り付ける中高生の子供達がけなげ。
 母親は不登校の過去を押し隠し、昔はヤンキーだったなんて話を捏造して子供達に語っているし。

 この家庭だけじゃない。どんな家庭にも語られない秘密がある。空中分解しないだけ立派だと思うよ。
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角田光代「愛がなんだ」

2009-05-14 11:18:51 | 角田光代
 後の表紙に「全力疾走・片想い小説」と紹介してあるが、片想いなんてかわいいものじゃない。「全力疾走・ストーカー小説」ですな。これは。
 作者の角田光代が上手いから、またよけいキモチ悪い。

 OLのテルコは、マモちゃんが大好き。彼から電話があれば仕事中でもケータイで長電話。食事に誘われれば終業前に退社。
 すべてがマモちゃん最優先で、会社もクビになる。
 だが、マモちゃんはテルコが好きじゃないのだ。他にも誰も相手が見つからない時、仕方なしに誘うだけだ。
 そりゃそうでしょ。オトコは追いかければ逃げ出す性質を持っているもの。


 テルコのは愛情というより執着。もともと執着気質なのだ。たいしたオトコでもないのに、今まで費やした時間とお金を考えると手放せない。ぺったりと張り付いている。

 そんなテルコの友達は、みな勇ましい。オトコにどれだけ金を遣わせるかで自分の価値が決まると考えている。
 彼女達の周りには、「アッシー君」「メッシー君」「ミツグ君」が、ひしめいている。懐かしい言葉だなぁ。そうでしょう。彼女達はバブル世代の女だから。
 テルコみたいな女はこの時代、異端者だよ。
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角田光代「エコノミカル・パレス」

2009-04-24 16:03:08 | 角田光代
 前に読んだ『対岸の彼女』が、すごく読み応えがあったので、続いて角田光代を読んでみる。

 34歳、女性フリーター。年下の同棲相手は失業中。うだるような暑さだというのにエアコンは壊れ、お金がないので買い替えも修理も出来ない。
 生活費の負担はどんどん増える。
 おまけに旅先で知り合った男が会社を辞め、ガールフレンドを連れて転がり込んでくる。もちろん一銭も払わない。

 こんなどん詰まりの生活の中で、彼女はハタチの男の子に恋をした。しかし当たり前だが全く相手にされず…。

 主人公はバブル世代。といってもジュリアナ東京のお立ち台で扇子を手に踊っていた訳ではないが、それなりに良い思いもした。
 割の良いアルバイトはいたる所に転がっていて、フリーターでも不安はなかった。
 しかし…景気が悪くなってくるにつれ時給のいいアルバイトは激減。面接に行っても不採用になる事が多くなった。
 それは年下の同棲相手も同じ。1年たったら正社員にしてくれるという話で勤めた広告代理店を、同僚や上司との摩擦で辞め、3ヶ月先に支給されるという失業保険を待ちつつ家でゴロゴロしている。
 仕事を探しに行く気配はない。
 雑文書きのアルバイトもしている彼女と、同棲相手は6畳プラス3畳のアパートでずーっと顔をつき合わせている。


 あーーー、本当にどん詰まりですね。私は彼女がいつ家から逃げ出すだろうと思いつつ読んでいたが、最後までおなかの中は不平不満で一杯だが、家出はしなかったね。エライです。

 読んでいて気が滅入ってくるけれど、不思議なユーモアもあり面白い作品。
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角田光代「対岸の彼女」

2009-04-19 11:34:49 | 角田光代
 近くで古本市があり、ぶらりと立ち寄った時、目に付いたので買ってみた。

 専業主婦・小夜子と、ベンチャー零細事業の女社長・葵との友情と亀裂を書いた第132回直木賞受賞作。

 それぞれの中学高校時代の話が書かれていて、自分にも心当たりがありすぎて、読んでいて苦しい。

 35歳の女社長が自分の子どもの頃を述懐してこう語る。
「お友達がいないと世界が終わるって感じ、ない? 友達が多い子は明るい子。友達のいない子は暗い子。暗い子はいけない子。そんなふうに誰かに思い込まされているんだよね」

 その通り、でもそれは35歳になって初めて口にできる事であり、中学・高校時代にそう感じていても、一生懸命グループから離れないように浮き上がらないように細心の注意を払って行動していた自分を思い出す。
 世界の各地で紛争があり、大勢の人が死んだり傷ついたりして大変な事になっており、自分の今の生活がいかに幸せなものか、頭の中では理解しているけど、でも、この狭い交友関係が自分にとって全てに優先するような気がしていた。その時は。

 友達が多くて楽しそうにしている人も…それなりの苦労があるんだとわかったのは、学校を卒業してしばらくしてからです。

 いじめにあって遠くの高校に引っ越した葵と、恵まれない家庭のナナコ。2人の友情は切なくて胸を打ちます。ナナコが今、どんな生活をしているか分からないけど、葵との1年半を懐かしく思い出す事があるんでしょうか?
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角田光代「三面記事小説」

2008-02-28 14:07:59 | 角田光代
 角田光代さんは、通販生活のテレビCMに出てくる小柄で目のパッチリした、あのかわいい人。40歳ぐらいだろうか?とてもそうは見えない童顔の持ち主。

 しかし、小説家としての実力は…なかなか手ごわいですね。
 この「三面記事小説」に収められている六つの短篇は、実際の事件を発想の発端にしているが、フィクションで事実とはかなり異なっている。

 それにしても角田光代は、本当に女性同士の間にある緊張関係をうまく書く人だなぁ。

 「永遠の花園」では、親友である女子中学生2人のうち1人が、担任の先生を好きになってしまい、その友情が変化していく様を上手く描いている。

 「赤い筆箱」では、性格の全く違う3歳違いの姉妹の力関係の変化を書いている。
 小さい頃は「おねえちゃん、おねえちゃん」と、何処へでも妹は姉にまとわりついて来たのに、中学生になると、友達が沢山でき恋もして青春を謳歌する妹を、友人がいない姉は許す事ができない。
 妹の日記を盗み読み、その秘密を親にばらすが、全く相手にされず、かえって「嫉むのはやめなさい」と叱責され絶望する。


 我が家は男の子ばかり3人だけど、上の子というのは難しい存在だと思う。
 親というものは、どうしても下の子の方の味方をするのよね。 
 今、考えると、長男に悪い事をしたなぁ、と思い出すことが多々ある。
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