ケイの読書日記

個人が書く書評

津村記久子「パリローチェのファン・カルロス・モリーナ」

2014-08-12 13:48:58 | 津村記久子
 カタカナだらけの、よく分からないタイトルだが、パリローチェというのは、アルゼンチンの地名。ファン・カルロス・モリーナというのはアルゼンチンの顔の濃い男性フィギュアスケート選手の名前。
 アルゼンチンでフィギュアスケート!?と意外に思う人もいるだろうが、サッカーの1000分の1ほどの注目度でも、頑張っている人はいるらしい。
 そのサイトを偶然見つけた日本人女性・鳥飼が、心の中で、眉毛太すぎとかダメ出ししながらも、応援していくお話です。

 この鳥飼が、お昼の時間、同僚の浄之内さんに、このマイナーな選手の事を話したら、なんと!!!浄之内さんも、カルロスの事を知っていて、以後情報交換するようになる。

 この浄之内さんという女性が…東京で頑張って働いている、イマドキの独身高学歴女性なんだなぁ。
 月1回の割合でお見合いパーティに参加し、両親の勧めで男の人と食事をしたりしている。大変な才媛で、英語どころかスペイン語も(絶対、ドイツ語、フランス語もOKだろう)フィンランド語ですら、できるみたい。

 それだからか、インターネットのスポーツニュースにすごく詳しく、世界のあちこちに、贔屓チームや贔屓選手がいるらしい。ただ、浄之内さんが応援すると、必ずそのチームや選手はコケる。まったく疫病神のような人である。


 津村記久子の小説は退屈、という人もいるが、私はそうは思わない。本人が意識しているかどうか分からないが、ほのかなユーモアがある。そういう所が、岸本葉子のエッセイに似ているね。
 書架にあったら、思わず手に取ってしまう、そういう作家さんです。
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津村記久子「地下鉄の叙事詩」

2012-09-15 20:32:43 | 津村記久子
 ラッシュ時の地下鉄の中の殺人的な混み具合の中で、人間は何を考えているのか…?

 彼女に振られたばかりの自意識過剰な大学生・イチカワ。
 20代後半のさえない独身サラリーマン・ニノミヤ。
 痴漢に狙われて被害にあっているが、恥ずかしくて怖くて「やめてください」と抗議できない女子高生・シノハラ。
 知り合いでも友人でもないシノハラを、なんとか痴漢から助けようと、満員電車の中でもがくOL・ミカミ。

 この4人に焦点を当てて物語は進行していく。

 しかし、この中のニノミヤが、なかなかいいヤツなんだ。気に入ってしまった。
 容姿についての描写はほとんど無いが、読んでいるとドランクドラゴンの鈴木を思い出す。ほら、塚地じゃない方。売れてない方。
 背は普通で、痩せていて血色が悪く、いかにも覇気が無さそうな若い男がイメージとして浮かぶ。
 独身、家賃6万円の1Kのアパートに住む。スポーツニュースを見ながら晩酌するのが好き。ギャンブルはやらない。ローヤルゼリーの入っている栄養ドリンクに頼り切っている。
 座席に座った時、足をひっこめ、なるだけスリムになるようにしているニノミヤは、電車に乗りなれた女性に人気があるようで、数少ない座った機会の際、前に女の人が来ることが多い。いやではないが、不用意に眺め回すこともできず、下方に視点を固定していなければならないのが面倒だ。

 ね?! ニノミヤは結構、紳士でしょ?

 他にもニノミヤは自分で「順応性に長けていることが取り柄だ。どんな環境でも、リラックスした者の勝ち」と自己充足をモットーとしている。

 ふう、彼ら彼女らは、地下鉄の中で哲学しているわけですよ。予想に反して、面白く読みごたえがあった。
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津村記久子「アレグリアとは仕事はできない」

2012-09-10 08:56:26 | 津村記久子
 タイトルが「アレグリアとは仕事はできない」だから、アレグリアというのは外国人研修生か何かの名前で、日本で働き始めて、職場の日本人と文化的摩擦でも起こしているんだろうか?と思ったが…。

 なんと!! アレグリアとはコピー機の名前なのだ。コピー機というか、もうちょっと上等のスキャナ・プリンタ機能も併せ持つ複合機。品番YDP2020、商品名アレグリア。へぇー!!

 女主人公ミノベは、地質調査会社に勤める事務員で、当然のことながらコピー機をよく使う。スキャナ機能・プリンタ機能は男性社員がよく使い、すこぶる調子がいいのだが、コピー機能はしょっちゅう故障し、サポートセンターに何度も電話するので、サポセンの女性従業員が嫌がっているのがわかるほど。
 それに、修理に来るサービスマンは、きまって終業時間ギリギリなのだ。
 このムカつくコピー機との仁義なき戦いが書かれている。

 しかし、いくら故障ばかりするといっても、たかだかコピー機を「ビッチ」だの「性悪女」だのと罵るだろうか? そこまでコピー機を擬人化する? 

 いやいや、私の使っているコピー機は、そもそもこんなに故障しないし、サポートセンターに電話しても、サービスマンも1~2時間ほどで来てくれるから、さほど腹も立たない。
 でも中には、サービスマンに「いっそのこと、あいつを葬りましょう。この機会に」と言わせるほどひどいコピー機もあるのだろう。
 そういったコピー機に当たらなくて本当に良かった!

 津島記久子は、地味な芥川賞作家だが、独特のユーモアがあり、だんだん好きになってきました。 
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