ケイの読書日記

個人が書く書評

津村記久子「まともな家の子供はいない」

2015-02-18 13:20:57 | 津村記久子
 津村記久子の小説では、主人公は社会人が多い。でも、これは受験生セキコ14歳が主人公なので、さほど期待せずに読んだが…いいなぁ。津村記久子の小説って、本当に私の感覚にピタッと来る。

 セキコの父親は、親から受け継いだ設計事務所をつぶしてしまって、再就職するがどこも長続きせず、今は家でブラブラしている。母親は、そういった夫に文句を言う訳でもなく、せっせとパートに出掛け家計を支える。夫婦仲は良い。
 妹は、勉強ができるので、母親から期待され、私立中学を受験するらしい(どこにそんな金があるんだ!とセキコは怒っている)周りに合せるのが上手で、家でぶらぶらしている父親とゲームを一緒にやって、たまには洋服を買ってもらっているらしい(これについても、失業者が無駄遣いするな!とセキコは怒っている)

 家の中で、セキコ1人がカリカリ怒っている。なんといっても中学3年生。家の経済状況が分かるから、そして受験で公立か私立か決めなきゃならいから、イライラが募るのだ。成績は中の上から中の中を行ったり来たり。

 夏休み、勉強しなくちゃならないが、うっとうしい父親がいるので、家にいたくない。かといって、図書館は、大学受験を控えた高校生や、居場所のない中高年のおっさんたちで、座る場所すら確保するのが大変。
 そう、図書館って驚くことに、本を読んだり借りたり勉強する人は、むしろ少数派。行き場がないおっさんたちの、暇つぶしの場所になってるんだ!! 新聞読むふりして、うたたねするおっさんたち。私もよく目撃する。どういう訳か、おばちゃんはいない。
 まあ、無料だし、冷暖房完備だから、理解できないことはないが…。

 セキコは、塾の夏期講習が休みになる盆前後の一週間、どう過ごせばいいか、途方に暮れている。でも、同じように居場所がなくて困っている中学生が、他にも大勢いるんだよね。
 塾のクラスメートも、それぞれの家庭の事情を抱えている。本の題名通り『まともな家の子供はいない』
 中学生って本当に大変だよ。家だけじゃなく、学校でも、塾でも。


 スクールカーストみたいなものは、どこでも存在する。セキコと友人のナガヨシは地味な女子だから、華やかなグループより、下位にランクされるけど、セキコは、妬んだり羨んだりしない。ちゃんと、自分のポジションを分かって楽しんでいる。
 セキコやナガヨシに、私も会ってみたいな。
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津村記久子「やりたいことは二度寝だけ」

2014-12-22 13:35:31 | 津村記久子
 表紙の装画があまりにもかわいいので手に取る。作者がモデルらしいぽーっとした女性が、ヨガのポーズをとっている。タイトルがまた、すごい!『やりたいことは二度寝だけ』 なんというテンションの低さ、低体温、低血圧気質。
 先回のブログが野心満々の林真理子のエッセイだったので、よけい感じる。でも、それがいいなぁ。

 津村記久子は小説もいいが、エッセイも好みだな、と読み進めていくと、意外な一面もある。この人、結構、スポーツ好きなんだ! 大阪の人だから野球好きは分かるが、欧州サッカーもかなり詳しいらしい。
 それに英語だけじゃなく、スペイン語も熱心に勉強しているようだ。
 この人の小説に、よく「語学が堪能で、インターネットの外国語スポーツニュースをさっさと読める女性」が出てくる。私は今まで、同僚でそういったモデルになる人がいるんだろう、と思っていたが、自分がモデルなんだ。へーえぇぇ!!!


 前半のエッセイは、日本経済新聞のエッセイ欄「プロムナード」というビッグネーム紙の連載で、やっぱり芥川賞の威力はすごいなぁと思った。原稿料もいいんじゃない?
 でも、考えるに、津村さんの作風が、日本経済新聞に合っているからの依頼だよね。

 女流小説家って、ちゃんと会社勤めをした人って少ないように感じる。
 もちろん、出版社勤務から作家になった人は多いが、出版社は高学歴の人が高収入を得ている特殊な業界で、一般的な会社とはいえない。他には…学生時代から文章で収入を得ていて、そのまま専業作家になったり。
 だから、普通の事務職やってるOLを、ちゃんと書ける人って少ないんだ。
 その点、津村記久子さんは、新卒で入った会社はすぐ辞めたものの、その後に入社した会社は、ずーっと勤めている。

 唯川恵なども、地方銀行に10年勤めていたから、一般事務職OLの日常を書くのがすごく上手い。
 やっぱり、自分で経験したことのない事柄を書くのは難しいよ。
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津村記久子「ワーカーズ・ダイジェスト」

2014-11-04 16:21:04 | 津村記久子
 「会社員、必読!!」と帯に書いてあるけど、本当に激しく同意する。池井戸潤や真山仁のような企業小説では全然ない。かといって、生活の大部分を恋愛にさいているようなOL小説でもない。
 本当にフツーの会社員の日常が書かれている。最初から出世コースを外れている男の人や、中途採用で中小企業に入った一般事務の女の人。間違っても総合職ではない。彼ら、彼女らの疲労が日々蓄積されていく日常。
 仕事であっぷあっぷしてしまって、恋愛も隅に押しやられ、へとへとになっている。

 何が、彼ら彼女らを疲れさせるかというと、イヤな上司や気の合わない同僚よりも、クレーマーなんだよね。よく分かります!!

 特に、女性主人公・奈加子は、フリースクールの運営者から仕事の依頼を受けるが、毎回ダメ出しされてうんざりしている。もちろん、レベルの高い仕事をしようとダメ出しするのはいいが、その相手の場合、奈加子と接触したくて、何度もクレームを付けるのだ。
 不登校児向けのフリースクールの運営者だから善人だろうと、最初は好意を持っていた奈加子も、さすがにそのしつこさにゲッソリするようになる。これって、一種のセクハラというかパワハラだよね。受注企業の担当者は、顧客に対して、何があってもニコニコすべきだ!という無言の圧力。


 私も、これに近い事があった。別に好意を持たれた訳ではない。純粋なクレームだが、そのクレームを相手が楽しんでいる事はよくわかった。1度のクレームに1時間以上電話をかけてきて、「アンタ、そんなにヒマなんですか?」と言ってやりたかったが、もちろん言えない。何日もそういう事が続いて、最後に私も腹をくくって、「あなたの要求はお断りします。この電話は録音してあります」と宣言。
 それ以降、クレームの電話は、ピタッとやんだ。本当に録音してあったし、裁判になっても、良いと思っていた。出るとこ出て、白黒つけた方がサッパリする。

 クレーマーの事、思い出して、私もイヤな気分になったが、この小説は暗い話ではない。どちらかというと、優しく思いやりのある、生姜湯のような小説。じんわり温まり、「まー、明日から頑張ろう」と思わせてくれる、優れものです。
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津村記久子「職場の作法」

2014-08-27 10:47:07 | 津村記久子
 前々前回、ブログにUPした「パリローチェのファン・カルロス・モリーナ」の、前篇に当たるようなお話。
 だから、鳥飼(語り手)、浄之内さん、田上さんも、登場。

 彼女たちのお勤めしている会社は、地理情報を顧客に提供する会社らしい。例えば、建築事務所が,A地点に建物を建るつもりで設計しようとすると、土壌に問題がないか調べるため、依頼するらしい。
 そういえば、津村記久子が芥川賞をとった時、朝刊の『この人』のコーナーで紹介されていて、土木計測会社で、アルバイト事務をしている、という記事があったような。
 実際に、こういった仕事をしていたんだろうね。だから、描写がすごく詳しい。


 話は飛ぶが、村田沙耶香って、今でもコンビニで週3回アルバイトしてるんだってね。先日、新聞のインタビュー記事で読んだ。
 でも、彼女は、有名な賞をいくつもとっているし、知名度もある人だから、本は売れてると思う。専業作家で十分やっていけると思うが。
 それとも、作品に生かすために、人間観察をしているんだろうか? コンビニには、色んな人が来るものね。


 前々前回のブログで、浄之内さんを「イマドキの東京で頑張って働いている、独身の高学歴女性」と書いたけど、本書を読んで、情報がいくつも入ってきた。
 大変な資産家で、名門の家のお嬢さんらしい。いとこが、『美人過ぎる県会議員』とか市会議員とかで、TVで引っ張りだこ。
 それを知っている、同郷の同じ会社の男が、ぺらぺらと社内でしゃべって、しかし反応はイマイチなので、なおさら力説するので、浄之内さんはすごく嫌がっている。
 こういう人っているよね。職場の作法に反します。止めてください。浄之内さんは、謙虚な人なのです。
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津村記久子「とにかくうちに帰ります」

2014-08-17 08:56:16 | 津村記久子
 またまた津村記久子。どうして私は、津村記久子の小説が好きなのかと、自分なりに分析してみると…。
 小説に恋愛要素があまり無いから、かもしれない。彼女のほとんどの小説で、女主人公が非モテ系、恋愛偏差値が極端に低いのだ。


 例えば、この『とにかくうちへ帰ります』では、2組のコンビが暴風雨の中、死にそうになりながら、大きな橋を渡って、バス停にたどり着こうとする道程を書いている。
 一組は、塾帰りの小学生と30代のサラリーマン。もう一組は、OLと、その一年後輩のサラリーマン。二人は一緒に会社を出たのではなく、偶然、橋のふもとのコンビニで出会ったのだ。
 雨と風はすざましく、コンビニは店じまいするところだった。(24時間営業のコンビニでも、天候次第で、こういう事もあるんだね)
 ここで、ビニールのレインコートや、温かい飲み物を買って、暴風雨の中、歩き出す。本来ならバスが通っているが、それに乗り遅れ、しかも、いつも通っている道路は、交通事故があって通行止めになってしまった。
 仕方ないので、大回りして遠くの橋を渡らなければ、帰れない。

 荒れ狂う雨と風の中、永遠に続くかと思われるほど長い橋を渡りきって、やっとバス停にたどり着くのだが…。


 こういった状況下で、ほとんどの女流小説家が、二人の間に恋愛感情を芽生えさせるが、この小説では何も起こらない。

 もちろん、津村記久子の小説内でも、恋愛体質の女性は登場する。この『とにかく~』の中にも、「人は一生恋をする生き物よ」とのたまう30歳代後半の女性が出てくる。お前はフランス人か!!!
 でも、そういった女の人はワキ役なんだよね。津村記久子の小説では。主役になりえない。サッパリしていて好感が持てる。
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