ど本格!! 有栖川有栖のごく初期の作品らしく、すごく鮎川哲也っぽい。
日本全国をさすらっている山伏・地蔵坊が、各地で難事件に出会い、その真相をことごとく看破する。
土曜の夜、とあるスナックの片隅で、推理好きが集まり、地蔵坊先生から、その体験談を聴いて、ああでもないこうでもないと、推理談議に花を咲かせる。問題出題編と解答編がハッキリ分かれているので、読んでいる私たちも推理しやすい。
自分なりに仮説を立てて「よし!これで間違いなし」と心に秘めて解答編を読むと、推理談議に花を咲かせているスナックの客の仮説と同じ。心強く思っていると、それはハズレで、地蔵坊先生が最後に真相をあかす。
うーん、私やスナックの客の仮説の方が理にかなっているような…という気がすることもあるが、だいたいが見事な推理。
特に、第4話「毒の晩餐会」と第6話「割れたガラス窓」が良いなぁ。
いろいろ仮説を立ててみても、どうも1か所ピースが上手くはまらない。やっぱり、もっと整合性のある解答があるんだなと、地蔵坊先生の話を伺うと、本当にきれいに全てのピースがあるべき所に収まる。そんな感じ。
もちろん、スナックの客たちの見当ハズレの推理も、可能性をつぶしていく事に役に立っている訳で、こういうところが『火村&アリス』コンビのディスカッションによく似ていると思う。アリスが頭に浮かんだアイデアを、どんどん言葉に出して、火村がそれを却下していく過程。
これは、初出の月刊誌が廃刊になってしまったそうなので、この山伏地蔵坊シリーズは、この1冊のみで、とても残念。
また何かの機会に、このシリーズを登場させてもらいたいが、有栖川先生に一つお願いがある。スナックの客の顔ぶれを一新してもらいたい。紳士服店の若旦那、ヤブ歯医者、写真館のオーナー夫婦、レンタルビデオ屋のおにいちゃんじゃ、あまりにも魅力がなさすぎる。ハンサムなバーテンダーはそのままでね。