ケイの読書日記

個人が書く書評

太宰治 「清貧譚」

2020-10-16 16:37:41 | 太宰治
 中国の古典『聊斎志異』を読んだ太宰。その中の一編にえらく想像力をかき立てられ、自分でそれをベースに日本に置き換えて書いた短編。こういう中国や日本の古典を読んだ小説家が、それを基に創作するという事はよくある話で、芥川龍之介などもよくやっている。古典をスラスラ読めるなんて、すごいなぁ。

 お話はこうだ。江戸に才之介という、貧乏だが菊の花が大好きな男がいた。良い菊の苗があると聞けば、どんな遠方にでも出掛け、高価でもこれを求めた。
 ある日沼津からの帰り道、美しく気品のある姉弟と出会い、仲良くなる。弟が菊好きと分かったので、才之介は自分の知識を自慢げに話すが、弟の方がそれを上回る菊の知識があるので、才之介は姉弟を自分の家の納屋に住まわせる。
 弟は、才之介の家の畑の半分を借り、そこで見事な菊を作り、浅草あたりで売ってお金を得るが、才之介はやっかみもあるんだろう、それが面白くなくて「自分の高貴な趣味を金銭にかえるなど汚らわしい」と罵って、ケンカしてしまう。

 だいたい昔話のパターン。私たちが、たぶんこうなるだろうなという結末に落ち着いて気分が良い。スッキリする。

 この才之介という男が、ものすごく人間的なのだ。菊の事で弟と仲たがいした才之介は、畑を二つに分けてその境界に高い生け垣を作り、お互い見えないようにして、自分のやり方で菊を作る。キレイな菊ができたが、お隣の菊が気になってのぞくと…今まで見た事のない素晴らしい大輪の菊が咲き誇り、しかもボロ納屋をキレイに改築して快適に暮らしているではないか!! 許せない!という気持ちと羨ましい!という気持ちが心の中でせめぎあい、才之介は思わず怒鳴りこんで…。

 姉が素敵な人なんだ。後に才之介の妻になるのだが、よくもまあ、こんなキレイな賢い人が才之介と結婚する気になったもんだと思う。バカボンのママみたい。(バカボン一家はどうやって生活しているんだろうか? パパは植木屋だというが、仕事してる所、見た事ない!)
コメント
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