ケイの読書日記

個人が書く書評

「新訳ペスト」 ダニエル・デフォー著 中山宥訳 興陽館

2022-08-21 15:40:44 | 翻訳もの
 このダニエル・デフォーって人は、ロビンソン・クルーソーを書いた人なんだ!1665年のロンドンペスト大禍の時、彼はわずか5歳だったから、この本は彼の伯父や父親の手記という体裁で出版されている。わずか5歳とはいえ、当時の異常な雰囲気はよく覚えていたんだろう。
 当時のロンドンの人口は50万。そのうち10万人以上が亡くなったという。すざまじいねぇ。でも、裕福な人たちは、ペストが発生した初期の段階で、家族や使用人を連れ、遠くの領地や別荘に逃げだした。あのデカメロン物語のように、お金持ちは行動できた。
 金持ちでなくても、逃げる先がある人は続々とロンドンを脱出した。逃亡しなかった人は逃げ出せなかったんだ。お金もなく頼る田舎もないから。
 それでも、死にたくないからロンドンを脱出しようとする人は、森の中で野宿し物乞いした。他の町や村には入れない。ペストを警戒する村人たちに、村に入るなと銃で脅されたので。

 ペストの原因を「何か目に見えない悪いモノ」が引き起こしているという認識だけで、その正体がはっきり分からない。そうだ、細菌の存在が分かったのは、もっと後の事なのだ。だから、患者と視線を合わせると感染する、なんていうメチャクチャな事を言う人もいた。他には、神様が不信人な人を狙って感染させているという信心深い人もいた。

 そのせいか、まるっきりネズミの話は出てこない。以前読んだカミュの「ペスト」は、第2次大戦後の話だから、一応ペスト菌はネズミに寄生するシラミかダニが保菌していると理解している。だけど、この17世紀のペスト大禍期には、猫や犬は悪い空気を運ぶかもしれないから殺処分するようにというお触れが出たけど、ネズミについては触れてない。でも、ネズミが元凶じゃないかって経験的に分かっていた人はいたんじゃないかな?

 ワクチンも治療薬も何もないこの時代、人々はバタバタと死んでいった。でも、カミュの「ペスト」でもそうだったが、何か月かペストが猛威をふるった後、その勢いはパタッと衰えるんだ。どうして?特効薬が開発された訳でもないのに。これが集団免疫って言うんだろうか?
コメント
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