ケイの読書日記

個人が書く書評

高瀬隼子「おいしいごはんが食べられますように」 講談社

2023-02-06 15:13:18 | その他
 第167回芥川賞作品。タイトルが牧歌的なので、もっと穏やかな話なのかなと思っていたら、すごく不穏な小説なんだ。驚いた。

 職場でうまくやっている二谷君と、仕事はできないがお菓子作りが得意で、職場のアイドル的存在の芦川さんと、仕事をてきぱきこなす押尾さんの3人が主な登場人物。しかし、ここに隠れたキーパーソンが…パートの原田さん。この正義の味方・原田さんが、職場をいっきにざわつかせる。

 二谷君と芦川さんは付き合っている。2人とも30歳前後で、芦川さんのほうが1歳年上。結婚の話は出ていないが、芦川さんは仕事ができないことを自覚しているので、何とか結婚に持ち込み寿退社したいと思っている様子。職場のみんなは、この交際を知っている。
 押尾さんは芦川さんの後輩で、二谷君のことが気になっている。2人の交際は知っているが、二谷君にちょっかいをかけている。これは、二谷君が好き、芦川さんから奪いたいというのでなく、芦川さんより自分のほうが魅力的なはずだ、という思いからの行動だ。で、押尾さんは、二谷君と仕事帰りに飲みに行ったとき「芦川さんを見ているとイライラするから、2人で意地悪しよう」と提案する。それに、二谷君も乗っかる。彼も、芦川さんと付き合ってはいるがイラっとすること多いんだろうね。

 芦川さんは体が丈夫ではなく、よく早退する。どんなに忙しくても絶対残業せず、定時で帰る。自分が仕事で迷惑をかけていることを知っているので、よくクッキーやケーキを自分で焼いて持ってきて、皆に配る。
 お菓子作る時間があるなら残業しろよと、皆、心の中で思っているが言えない。芦川さんは職場で守られるべき存在だから。上司に守られ、同僚に守られ、パートの原田さんに守られる。

 このパートの原田さんについては、小説内であまり説明されていない。私は勝手に想像する。旦那と子供2人の4人家族。重要な仕事をやっているわけではないが、パート歴は長く、パートの人たちのリーダー的存在。正社員と違い転勤がないので、この職場に長くいて発言力が強い。上司の支店長や室長とも良好な関係を築いている。彼女なりにこの職場を愛しているんだろう。正義の味方となって、芦川さんに対するイジメを告発し、罪を押尾さん一人におっかぶせ、か弱い芦川さんと二谷君を結婚させようと画策する。

 押尾さんのイジメは陰湿で許せないものだが、それに二谷君が加担してたって、原田さんは気づいてたんじゃないの? いるよね、こういう人。私も一人、すぐ思い浮かぶ。
コメント
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