ケイの読書日記

個人が書く書評

芥川龍之介「邪宗門」青空文庫

2024-06-13 15:34:28 | 芥川龍之介
 「平安貴公子の恋と冒険」と惹句にありそうな話。芥川には珍しく長編になりそうな話なのでワクワクして読んでいたら、途中で(しかも一番盛り上がるところで)ブチっと途切れていた。未完の作品らしい。Too Bad!!

 堀川の若殿は、中背のやせぎすの優しい顔立ち、詩歌管弦を何よりも好み、自身も諸芸に秀でていた。
 父親が亡くなり、堀川の若殿が家督を継いで5、6年たった頃、洛中に一人の風変わりな僧が現れ、摩利の教というものを説き広め始めた。この摩利の教が、どうも女菩薩の絵とか、首にかけた十字の怪しげな黄金の護符とか使ってるので、キリスト教っぽいのだ。
 でもキリスト教ってフランシスコ・ザビエルが16世紀半ばに種子島に来て広めたのが最初でしょ?これって完全なフィクションだよねと思っていたら…。中国大陸にはすでに唐の時代、景教(ネストリウス派キリスト教)が広まっていたらしい。そういえば教科書に載ってたような。
 だから遣唐使で中国大陸に渡った人は、この景教に出会っているだろうし、遣唐使としてではなく個人で大陸に渡ってさすらっていた人もごく少数だがいただろうから、そういう人が景教に出会い帰依した可能性もある。だから、全く噓八百、荒唐無稽という訳でもないのだ。

 この摩利の教の僧は、あちこちで奇跡を起こした。盲目の人が目が見えるようになったり、下半身不随で動けなかった人が立って歩けるようになったり、キツネや天狗の憑き物もきれいさっぱり落ちてしまう。だから日を追うごとに信者が増え、洛中の一大勢力になっていた。
 そんな中、嵯峨の阿弥陀堂建立供養が執り行われる。上達部殿上人それに女房達が大勢押しかけ、高名な僧都や僧正、座主が供養の真っ最中、なんと摩利の教の僧が現れ、仏教の僧たちに法力比べを持ちかける。それに乗った横川の僧都はコテンパンに負かされてしまい、仏教派あやうし!!!という所で、あの堀川の若殿が現れて…
 で、ここで終わってる。未完。ああ残念。

 これらのメインストーリーに、中御門の美しい姫君との恋物語が絡んできて、読みごたえあり。
 それにしても「法力比べ」ってマジックショーみたい。こんなことで宗教の真価が分かるのだろうか?でも、頼りになる医学がなかった時代「病気が治った」というご利益が一番信仰を集められるかも。
コメント
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