ケイの読書日記

個人が書く書評

鮎川哲也「クライン氏の肖像」

2007-10-06 09:46:21 | Weblog
 氏名年齢不詳の会員制高級バーのバーテンダーが、客から持ち込まれた事件を、ガラスのコップを磨きながら推理し解決していく、という丸っきりオルツィ「隅の老人の事件簿」の焼き直しのような短篇集。

 最初の数編を読んで「えっ!こんなんで犯人って決めつけていいの? で、物証は?」と思ったりもしたが、本格とはこんなものだと割り切って読んでいくうちに、だんだん面白くなってきた。

 14編収められているが、私が一番好きなのは「クイーンの色紙」
 クイーン夫妻(正確にはダネイ夫妻)の日本訪問時の雰囲気がよく書かれているし、戦前戦後の推理小説史が盛り込まれていて興味深い。


 鮎川哲也は、マンションの一室で行なわれたホームパーティに招待される。部屋の主の翻訳家はクイーンの色紙を持っていて飾っており、それが大の自慢。
 ところが、その色紙がパーティの最中、なくなってしまう。
 当然疑われるのは、お客たち。部屋の隅々まで徹底的に捜し、身体検査までやるが、どうしても出てこない。

 いったい、クイーンの色紙はどこにある?


 種明かしをすれば「なあんだ」という事になるが、伏線をあちらこちらに張ってあり「どうして、こんな事に気がつかなかったんだろう」と自分の不注意さがふがいない。

 表題作の「クライン氏の肖像」より良い出来だと思う。「クライン氏の肖像」は
動機がありふれたもので、すぐ分かってしまうよ。
 『クイーンの色紙』を表題作にすればよかったのに。
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ディクスン・カー「妖魔の森の家」

2007-10-01 11:05:21 | Weblog
 カーの短篇を読むのは初めてだが、すっごく面白い。カーの長編といえば怪奇趣味は満点以上だが、推理小説としての整合性を欠き、冗長というイメージがある。

 でも、ここに収められた5編はみな、オカルト色は薄いがトリックに優れ、本格派の推理小説として優秀な作品ばかり。
 特に表題作の「妖魔の森の家」と中篇の「第3の銃弾」は特に素晴らしい。

 専門家には「妖魔の森の家」の方が評価が高いようだが、私は「第3の銃弾」の方が出来が良いと思う。


 ストーリーはこうである。
 判事に刑の宣告を受けた青年が、刑期を終えてから判事の家に押し入り射殺しようとする。
 判事の娘から連絡を受けた警官は、青年の姿を認めながらほんの少しばかりの差で部屋へ入れず銃声を聞いた。部屋へ飛び込んでみると、すでに判事は倒れており一発はその心臓に、他の一発は壁にめりこんでいる。

 しかも部屋の状況は密室で青年と被害者しかいないのだから、当然青年が犯人として捕らえられる。
 しかし、銃弾を調べていくと非常に不可解なナゾがでてくる。

 判事の体内から取り出された銃弾は、青年のピストルから発射されたものではなく、発砲したとされる消音式の空気ピストルは部屋の何処からも発見されなかったのである。

 
 どう考えても不可能としか思えない状況を、カーはスラスラ解いていく。


 また、トリックだけでなく名探偵側、犯人側双方のキャラも秀逸。すごく魅力的。


 ポール・アルテはカーのどこに心酔したのか不思議だったが、この短篇集を読むとうなづける。
 お奨めの一冊。
コメント (2)
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