ケイの読書日記

個人が書く書評

青山七恵「すみれ」

2012-10-06 12:54:57 | Weblog
 中島敦の「山月記」を読んだ時のような…読後感。

 主人公は、父親が会社経営、母親が美術雑誌編集者という家庭の女子中学生・藍子。
 両親の大学時代の友人・レミちゃんが、以前はたまに泊まりに来るくらいだったのに、今ではすっかり藍子の家に定住している。

 レミちゃんは、ちょっと変わった人で、今まで同居していた人とトラブルになり、病院に入り退院してから、藍子の家に来ることになった。
 大学時代は(といっても15年ほど前)とても才能のある人で、皆が、将来すごい小説家になるかもしれないって思ってた。有名な新人賞の最終選考に何度も残ったことがある。
 でも、運に恵まれなかったのだろう。だんだん書かなくなった。いや、書けなくなった。

 きれいで惚れっぽい人だから、付き合う男には事欠かない。異性関係がもとで親と大喧嘩して家を飛び出し、親と絶縁状態になる。そうやって転がり込んだ男が、働かず、レミちゃんのお金や、レミちゃんの両親のお金を欲しがったら?
 次々に付き合う男が、皆レミちゃんに経済的にも精神的にも頼ってくる人だったら?
 もー、一昔前の女流作家の、私小説みたいだね。

 年内いっぱいの予定だった、レミちゃんの居候生活。しかし、年が明けても一向にレミちゃんは出ていく気配なし。
 2月14日がレミちゃんの誕生日なので、藍子の両親は、レミちゃんのために大学時代の友人を招いて、パーティをする。
 集まったお友達の口から、大学時代の思い出話がさかんに語られ、若い頃のレミちゃんの話題で盛り上がる。
 突然「うるさい、うるさい、うるさい」「あんたたちの話なんか、もう聞きたくない」叫ぶレミちゃん。

 そうだよね。自分の可能性が無限大だと根拠なく信じ込んでいた大昔の話なんかされても、困るよね。レミちゃん。
 15年たって、皆、家庭を持ったり、仕事で評価されたり、社会的なポジションを得ているのに、一番元気だったはずの自分が、友人の家に居候なんて、悲しすぎるよね。レミちゃん。

 結局、レミちゃんは藍子の家から出て行くのだが、その後の事には一切触れていない。

 こういう事って、あるだろうなぁ。芥川賞作家だって、受賞直後のブームが去ると、生活が厳しくなるというではないか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

長崎尚志「闇の伴走者」

2012-10-01 11:07:43 | Weblog
 他界した漫画界の巨匠が遺した未発表原稿。
 発見された50枚の原稿には、若い女性を誘拐・監禁し、苦悶する姿をデッサンして殺害する≪漫画家≫なる人物が描かれ、さらには作中の被害者の顔は、35年前の連続女性失踪事件で消えた女性に酷似していた。

 はたして、これは巨匠本人が描いたものなのか? 別人だとすれば、誰が何のために描いた?
 作者は、現実に女性を次々に誘拐し殺した犯人なのか?

 この謎を解くために、巨匠の未亡人は、元警官の女性探偵・優希に依頼し、彼女は元マンガ編集者でマニアの醍醐とコンビを組んで、調査を開始する。

 この醍醐が、すごく癖のある男。アクが強すぎ。
 人事に腹を立て、大手出版社を飛び出し、フリーの編集者をしている。
 もともとデブなのに、独立後はストレスのためか異常に食べまくり、あっという間にプラス20㎏。
 マンガに対する愛も知識も素晴らしいが、それをひけらかしすぎ!  背景の線一つで、作画者が桑田次郎の影響を受けていると、ずばっと当てる!!

 桑田次郎って漫画家、知ってます? 若い皆さんは知らないだろうな。よほどのマニアでない限り。昭和33年生まれの私が、うっすら覚えている程度だもの。『エイトマン』の作者。テレビアニメの主題歌を覚えてますね。

 筆者の長崎尚志が、もともとマンガ編集者でマニアックな人らしい。

 キャラ的には好きになれなかったが、ストーリー展開は素晴らしい!! 犯人は誰なのか、最後までぐいぐい引っ張っていく。お勧めの1冊です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする