ケイの読書日記

個人が書く書評

多和田葉子 「雲をつかむ話」

2017-01-10 17:23:33 | その他
 「雲をつかむような」ではなく「雲をつかむ」話。年代や場所がくるくる変わって、戸惑う。純文学の作家さんなので、文章が格調高すぎて、軽く読み飛ばすことができない。

 
 日本人だがドイツ在住の小説家が、獄中の人から面会を求められたり文通を依頼されたりファンレターが来たりすることは、一般の人よりも多いだろう。しかし、後に犯人として逮捕された人と、それとは知らず言葉を交わす機会が、そんなに多いとは思わないけどなぁ。
 この本に登場する、罪を犯した(とされる)人々には、何かしらのモデルがいると思うんだけど、それにしては数が多すぎる。何人かは、多和田さんの完全なフィクションなのかなぁ。そんな事を考えながら読んでいた。

 人を殺して逃げ回っていた男が、『本を売ります』という看板を見て、作家の家に一時的に逃げ込む話。
 思想的な問題で、警官を撃ってしまい、ジャマイカで暮らすドイツ人作家。
 詩の朗読会に招かれ、紹介された牧師夫人は、夫に殺されてしまった。
 何度も無賃乗車して、その請求書を無視していたら、逮捕されてしまった若い男。
 クリスマスに招かれた家の家政婦さんは、旦那を殺して服役し、最近出所したばかりのイタリア女性。
 かつてのルームメートだったベニータとマヤの間の確執。マヤはベニータの胸を刺す。


 もちろん自分も、いつ何時、罪を犯して塀の中の住人になるか分からないから、大きな事はいえない。しかし、ドイツは死刑がないし、複数の人を殺しても15年くらいで出て来るらしいし、刑務所改善運動というのが盛んで、刑務所の中より娑婆で更生させようという考えらしく、日本よりはうんと世の中の犯罪者率が高いのかもしれない。
 でも…幼女レイプ犯が近所にいるかもしれないと思うと、穏やかな気分ではいられないね。


 話は大きく変わる。ドイツ(というかヨーロッパ)では、文学祭(文化祭じゃないよ)や詩の朗読会が人気あるんだね。日本では映画祭はよく聞くけど、文学祭は聞いた事ない。それとも私が知らないだけで、あちこちで開催されているんだろうか?
 そして、詩人が、文学関係者の中で一番のステイタス。小説家より数段上らしい。「自分の職業は詩人」という人がいたら、私は絶対その人の顔を見る。どんな人が詩人なんだろうって。まだ歌人とか俳人という方が、受け入れやすい。自分の中では。
コメント
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