ケイの読書日記

個人が書く書評

湊かなえ 「Nのために」

2017-05-03 11:36:02 | 湊かなえ
 超高層マンションの一室で、そこに住む野口夫妻の惨殺死体が発見された。現場には、血まみれの燭台を手にした西崎という青年、野口夫婦の招待客で西崎とは同じ下宿の杉下希美、ケータリングサービスのため野口家を訪れた成瀬、野口家に遅れて到着した杉下の友人で野口の部下の安藤望がいた。
 西崎は殺人を自白し、他の3人の証言も、それを裏付けるものだった。
 しかし、そこには歪んだ真実が隠されていて…。


 章ごとに主人公を変え、それぞれの視点から主観を物語る。4人の眼から立体的に事件が描かれる。4人のなかでも、やっぱり一番主要な人物といえば、杉下希美だろう。
 瀬戸内海の小さな島出身で、島一番の名家だったが、婿養子に入った父親が愛人を作り、妻と子供たち(杉下希美とその弟)を家から追い出したので、大変苦労した。高校卒業後、東京の大学に入学、生活費を稼ぐため、バイトに明け暮れるが、強い上昇志向を持ち続ける。なかなかの策士。
 趣味の将棋を利用して、安藤を巻き込み、大手商社勤務の野口に取り入る。

 結局、この杉下希美が、良かれと思ってやった事が、野口夫妻が惨たらしく殺された遠因になっている。

 
 野口の美しい妻は、私の嫌いなキャラだが、でも同情すべき点はある。
 いくら、野口氏と杉下の間に、恋愛感情などなかったとしても、野口氏が妻を深く愛していることを妻自身が自覚していたとしても、何時間も将棋で一室にこもるというのは…妻の心中、穏やかではないはず。

 野口夫妻は、共依存関係なんだ。恋人をつくって逃げれば、それで解決というわけじゃない。


 もう一人、殺人を自白した西崎という青年。杉下の隣室の住人である彼は、純文学を目指していて、素晴らしく美しい顔の持ち主だが、身体には多数のアザや火傷の痕が残っていた。子供の頃、実母からひどい虐待を受けていたらしい。
 彼は、文学でその虐待を愛に昇華させようとしていた。

 うーん、この西崎が、イマイチ上手く書けていないような。西崎が杉下に「究極の愛とは?」と問う場面がある。「罪の共有」と杉下は答える。なるほどね。
コメント (4)
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