日々是マーケティング

女性マーケターから見た日々の出来事

「鬼滅の刃」が超える壁

2020-11-11 18:23:06 | トレンド

封切り前から話題になり、今や「社会現象」ともいえる状況となっているアニメ「鬼滅の刃 無限列車編」。
公式サイト:劇場版「鬼滅の刃」無限列車編

封切り直後から、話題となり僅か1ヵ月弱で200億円の興行収益を突破、累計観客動員数も1,500万人を超すほどだ。
ジブリ映画以外でこれほどヒットしたアニメ映画というのは、これまでなかったのでは?という、気がしている。
これだけの大ヒットをする要因は、既にコミックスとして人気があり、それがテレビでアニメ化され、満を持しての映画化ということもあると思うのだが、映画館に足を運んでいる人たちがテレビアニメでファンになった子供たちだけではなく、その親、その祖父母という3世代の観客動員という、これまでとは違う動員構成となっている、という点でも特異な気がしている。
そして劇場版のヒットは、日本だけではなくアジア諸国や米国にまで及んでいる、という点で考えるとその勢いの凄さに、驚くばかりだ。

そして映画だけがヒットをしていると思われがちだが、実は主題歌も米国のヒットチャートを駆け上がっている。
billboard:LiSA「炎」が米ビルボード・グローバルチャート トップ10入り

詳細については、リンク先のビルボードの記事を読んでいただきたいのだが、このグローバルチャートの1位となっているBTSは韓国の男性ポップグループで、歌詞そのものが英語のものだ。
それに対してLiSAの「炎」は、劇場版「鬼滅の刃」無限列車編に合わせ、日本語でのリリースとなっているはずだ。
米国での映画のヒットもあってのことではあるが、日本語の楽曲が米国のヒットチャートのトップ10入りする、というのは坂本九さんの「上を向いて歩こう(海外でのタイトルは「スキヤキ」)」以来ではないだろうか?

米国での公開状況が分からないので、映画そのものに字幕や吹替がされているのかもしれないのだが、主題歌に関していえばおそらく映画の世界観を表現するために字幕付きかもしれないのだが、LiSAさんの「炎」がそのまま使われているのでは?と、考えている。
とすれば、米国内で劇場版「鬼滅の刃」無限列車編を見て、主題歌が気に入ってストリーミングで聞いている人たちが、日本語という言語の壁を飛び越えて楽しんでいるのでは?と、思っている。

政府が大手広告代理店を使って、「COOL JAPAN」のキャンペーンをするよりも遥かに大きな効果を上げているのが、今の日本のアニメであり、その代表となっているのが「鬼滅の刃」ということになると思う。
もちろん「鬼滅の刃」の前には、ジブリ作品があり、「キャプテン翼」等海外でも大ヒットしたアニメや(日本の)カワイイの代表である、サンリオのキティーちゃんなどの存在があっての、映画の大ヒットであり、主題歌の大ヒットだ。

ただ、LiSAさんの「炎」のヒットは、ストリーミングチャートを賑わしている若いミュージシャンたちにとって、自分たちの音楽マーケットが、日本国内ではないという意識付けをするのではないだろうか?
そう考えると、「鬼滅の刃」というアニメが切り開いたグローバルマーケットは、様々な影響を与え「言葉の壁」さえも、乗り越えていく可能性を感じさせているように思うのだ。







カマラ・ハリスのメッセージは、4年前から続いていた

2020-11-09 19:31:16 | アラカルト

昨日、次期米国大統領として勝利演説をしたジョー・バイデン氏。
この時の勝利演説が、一部の人たちから注目をされている。
注目される理由は、勝利演説で聖書の一部「コヘレトの言葉」等を多用したことだ。

バイデン氏自身が、敬虔なクリスチャンであるということも関係しているとは思うのだが、これまで民主党出身の大統領の多くが、これほど聖書などを多用し勝利演説をしたことは無かったのでは?という気がしている。
私自身が、クリスチャンではないので聖書などの内容を知る由もないのだが、「聖書」等からの言葉を多用したという点では、共和党の支持母体の一つである「福音派」へのメッセージも込められているようにも思われる。
Christian Press:「いま全米は癒す時」バイデン氏勝利演説に見る聖書とキリスト教

それに対して、副大統領となったカマラ・ハリス氏の演説はバイデン氏の演説とは、随分違う内容だったように感じている。
その一つが、「私は最初の副大統領かもしれませんが、最後ではありません」という言葉だと思う。
Huffpost:カマラ・ハリス氏、女の子たちに力強いメッセージ。「私は最初の副大統領かもしれませんが、最後ではありません」

この演説を聞いて、思い出したことがある。
それは4年前、当時の民主党の大統領候補であったヒラリー・クリントン氏の「敗北宣言」の一節だ。
先日、拙ブログでの「Good Loserになる難しさ」というテーマでエントリした時、ヒラリー氏の「敗北宣言」の動画のリンクを貼ったので、そちらを見て欲しいのだが、この時、ヒラリー氏は「女の子たちに、自分たちの可能性を信じて欲しい。そして今回は負けてしまったけど、近いうちに女性が政治の中心で活躍する日は近いと信じている」という趣旨の演説をしている。

ヒラリー氏のこの言葉は、4年前の大統領選でのミッシェル・オバマ氏の応援演説から引き継がれたメッセージでもあったはずだ。
ご存じの方も多いと思うのだが、オバマ夫人であるミッシェルさんは「女児や若い女性に対する教育の重要性」を、様々なところで話していた。
「教育の重要性」は、教育を受ける機会の平等というだけではなく、社会に出た後にも様々行動を起こす時、信頼を得る為に必要な基礎であり、それらの教育機会を得られることで、本当の女性の社会進出となる、と話していたからだ。
ハーパスバザー:【動画】ミッシェル・オバマ夫人の民主党大会で喝采を浴びた名スピーチ

ミッシェルさんとヒラリー氏、そしてカマラ・ハリス氏、それぞれ表現は違うが「若い女性、女の子たちへのメッセージ」としての趣旨は、一貫して変わっていない。
それは若い女性、女の子という枠を超え、様々な差別を受けている人たちへの、力強いメッセージへと変わってきている、ということもわかるはずだ。

カマラ・ハリス氏の演説を見ながら「日本の女性政治家の中に、これほど力強いメッセージを自分の言葉として演説できる人はいるのだろうか?」と感じた方は、少なくなかったのではないだろうか?
そう考えると、日本では男性ウケの良い女性政治家ではなく、男性政治家と丁々発止で自分の言葉で自分の考えを発信できる女性政治家の登場は、まだまだ先のような気がする。


今回の米国大統領選から見える、様々なアメリカ(あくまでも私見)

2020-11-08 21:29:07 | アラカルト

開票がすべて終了した訳ではないが、どうやら次の米国大統領はジョー・バイデン氏に決まったようだ。
バイデン氏が高齢ということを考えると、もしかしたら1期で退任をし次の若い世代へバトンを渡すのでは?という気がしない訳ではないが、とにかく4年間はバイデン氏とカマラ・ハリス氏のコンビで、アメリカという国を背負っていくことになるはずだ。

このバイデン氏の勝利宣言を受け、全米各地では様々なことが起きているようだ。
ニューヨークでは、バイデン氏勝利が決まったことで「お前は、クビだ」というコールが一斉に起こったという。
この「お前は、クビだ」というのは、トランプ氏が大統領になる前に出演していたテレビ番組での、トランプ氏の決め台詞だった。
正に、今回の大統領選挙でトランプ氏は、多くの国民から「お前は、クビだ」と言われてしまったということになる。

とはいっても、トランプ支持者にとってこの敗戦を受け入れがたいという気持ちが強くあるようだ。
その極端で象徴的な行動として表れているのが、トランプ支持者がライフルなどの銃を持って集会に集まった、というニュースだろう。
毎日新聞:「トランプ氏への変わらぬ支持」誓い集会 銃所持者も多数 米ミシガン州

銃を所持して集会に参加した人達の中には、「(今回の選挙で)治安が悪くなる、極左が暴力。準備を怠るわけにはいかない」というコメントに、「一体、何を彼らは恐れているのだろうか?」という、気がしたのだ。
確かにこれまで地震などの自然災害が発生した時や、今回の大統領選にも影響を及ぼしたであろう「#Blacklivematter」運動などに乗じて暴動が起きたことは、事実だろう。
だからと言って、このような集会に銃を持って出かける、というのはよほどの「恐怖心や不安」が、あるからなのではないだろうか?

このような動きを見て感じることの一つは、これまで「白人が当たり前のように持っていた(?)であろう、様々な既得権益を奪われる」ということへの恐怖であったり、不安なのではないだろうか?ということなのだ。
「これまで当たり前に持っていた自分の利益を奪われる」というのは、不満を持って当然だろうし、それに代わる利益を創り出し、新しい価値観を生み出すということは、武力を行使するよりも難しく、大変なことだ。
手っ取り早さという点では、銃は護身というよりも、相手を威嚇し従属させるには、有効な方法でもあるのだ。

確かに十数年後、今現在マイノリティーと言われる人たちのほうが、マジョリティーとなるのでは?という指摘がある。
言い換えれば、今マジョリティーである白人が、マイノリティーな存在になってしまう、という危機感もあるのかもしれない。
特に、トランプ支持の中心となっている「忘れ去られた人々」と言われる人たちが多い、中南部地域では「福音派」という共和党の大票田となる支持層というだけではなく、マジョリティーであるはずの白人の中でも経済的問題を抱えている人たちが多い。
そのような人たちにとって、マイノリティーの人たちの台頭は「自分たちの存在を凌駕する存在」という、危機感が極端な行動へと向かわせているのかもしれない。

もちろん、現在マイノリティーの存在となっている人たちは、人種や文化が多様なのでその中での争いが起きる可能性は高いと思われる。ただ銃なのではなく「ことばと寛容性」によって、相手を理解するような社会を創り出していくことができれば、それは「アメリカ」という国が再び世界のリーダーとなる可能性へと繋がっていくのではないだろうか?




「国産」回帰は、グローバル化への逆行なのか?

2020-11-06 21:15:17 | ビジネス

日経新聞のWEBサイトに掲載されているCOMEMOに、「そういう考え方もあるのか?」という、記事があった。
COMEMO:行動経済学から考えると、「もしもの備え」としての国産消費は、良い策ではないかも

「新型コロナウイルス」の感染拡大によって、日本の多くの生活者が実感したことの一つが「国産品の少なさ」と「国産品への信頼と安心」だったのではないだろうか?
特に「アベノマスク」なるモノまで登場させることになった「マスク」については、ドラッグストアーから「マスク」が消え失せて初めて、生産を日本国内で行っていない=Made in Chinaがほとんどであった、ということに気づいたのではないだろうか?

今回の「新型コロナウイルス」の発生源が、中国武漢であったことから、中国からの輸入品が真っ先に停止となっただけではなく、中国国内での「マスク需要」が急激に増えたため、日本への輸出が止まってしまった、という事態になった。
そのような状況になって、初めて「国内生産の必要性」ということが、社会的に言われるようになってきた、というのが今回の「国産」商品への回帰を生んだのではという、認識を持っている。
とすれば、COMEMOで指摘されているような「もしもの備え」としての国産消費ではなく、「もしもの備えの海外生産・国内消費」ということになるのでは?という、気がしたのだ。

それだけではなく、「自粛期間中」に制限をされたのは「人の移動」であって、「物の移動」ではなかった。
もちろん、海外への輸出・輸入に関しては、多くの国々が航空便などを制限したり、取りやめたことで停止状態になってしまった、という事実はある。
そのような事実はあるが、基本的には「物流」としての「物の移動」に限定した国々は、ほとんどなかったのでは?という気がしている。
そして「移動の制限」の理由は、上述した通り「新型コロナウイルス」の感染拡大防止であり、それが「国産・国内消費」を勧める為の策ではなかった、ということも考える必要があると思う。

「国産・国内消費」の発想の始まりは、上述したように「グローバル化のリスク」を実感したからではないだろうか?
「グローバル化のリスク」を実感したからこそ、「必要なモノは国内生産をし、安定供給ができるようにしなくてはならない」という、認識に繋がったのではないだろうか?
それは「新型コロナウイルス」の世界的感染拡大により、生活者の価値観は「少々高くても(製品として)安心できる、国産を優先的に購入したい」という変化だったように思う。

ご存じの通り「国産製品」の多くは、東京などの都市部に比べると200円近く最低賃金が安い地方で、つくられている。
最低賃金が安いということは、当然収入の格差がある、ということになる。
地方経済が疲弊し、縮小することは「国産」の危機ということにも繋がっているはずなのだ。
それが、生活者の「国内産なら、少々高くても優先して購入したい」という意識変化によって、わずかかもしれないが最低賃金の格差が縮まるチャンスとなるかもしれないのだ。

そのような視点で考えた時、今回の「新型コロナウイルス」が社会にもたらしたことの一つは、都市部の人たちには見えなかった「国産」という安心感であり、「もしもの時の国産」ではないように感じている。


Good Loserになるのは、難しい

2020-11-05 19:48:24 | 徒然

米国時間の昨日、投票がおこなわれた米国大統領選。
郵送での投票などもあり、すべての開票が済んだわけではないが、どうやら情勢はバイデン氏有利ということになりそうだ。
とはいえ「激戦区」と呼ばれるジョージア州の開票が終わっていない為、まだまだ先行きは分からない、と言った感じだ。
ただ、獲得票数から考えれば、バイデン氏ということになりそうだ。

4年前、獲得投票数ではトランプ氏よりも多かったにもかかわらず、民主党のヒラリーさんは大統領になれなかった。
それは、米国大統領選が、獲得投票数ではなく、各州の「選挙人の総取り」と呼ばれる方法で行われる為だ。
東京新聞:アメリカ大統領選のしくみ 州ごとの「選挙人」って? 郵送投票の急増でどうなる?

このような選挙方法だからか?今回の大統領選は以前に増して混乱しているようだ。
その混乱の原因となっているのが、トランプ氏本人だ。
昨日は、状況が判明していない中勝手に?勝利宣言のようなことを行い、「開票の差し止め」を示唆するような発言があった。
これには、同じ共和党内からも批判が噴出しているようだ。
Forbes:トランプの誤った「勝利宣言」に身内の共和党から批判噴出

確かに、昨日の時点では激戦区であるフロリダを勝ち取ったことで、勝利に近づいたという印象があった。
というのも過去の大統領選では、数々のトラブルと選挙の行方を決めてきたのが、フロリダ州だったからだ。
全米51州ある中で、ほとんどの州は「共和党・民主党」の勢力図がハッキリしている、と言われている。
いわゆる「都市部」では民主党が強く、中南部の地域は共和党が強い、とされている。
そのような色分けができない州が「激戦区」ということになる。

その激戦区を制する候補者が、大統領になれるということになるのだが、トランプ氏が「開票の差し止め」を示唆した州は正に「激戦区」の州の一部であり、未開票となっている「激戦区」でバイデン氏が総取りすると、トランプ氏の再選は無くなってしまう可能性が高かったからだ。
そして今日になって、選挙集計の停止を求め提訴を繰り返している。
朝日新聞:苦しいトランプ氏「詐偽投票だ」集計停止求め提訴連発

これまでの大統領選で、このような「集計停止」等を求める候補者は、いなかったような気がする。
それだけ追い詰められたトランプ氏、ということになるのかもしれないのだが、上述したように4年前投票獲得数はトランプ氏を上回ったにもかかわらず、「選挙人の獲得数」で負けたヒラリー氏は、選挙結果が判明する前に「敗北宣言」をしている。
この時行ったスピーチが、ヒラリー氏の政治家活動の中で一番素晴らしい、と言われるほどの内容だった。
youtube:米大統領選挙敗北承服演説 ヒラリークリントン

Good Loserのお手本のようなスピーチと言われた内容だ。
そしてGood Loserになる難しさを、トランプ氏は教えているように思える。

それにしてもトランプ氏の4年間で、アメリカはどのように変わったのだろうか?
人種問題を含め格差が広がるばかりで、産業や経済においてかつての「大国・アメリカ」という力も感じられなかったように思う。
むしろ、アメリカ国内の「パンドラの箱」を開け、収拾の目途も経たないまま、憎しみだけを米国社会に知らしめたような、気がしている。


SNSなどで炎上企画をしてしまうのは、何故なのか?

2020-11-03 20:12:55 | マーケティング

Yahoo!のトピックスなどに、靴下の「アツギ」がSNS上で企画した内容が、炎上しているという記事があった。
Huffpost:アツギが「性的消費」と炎上。タイツを履いた女性のイラストで商品をPR

単なる商品のパッケージ写真だけなら、普通に見かけるモノなので「炎上」することはないと思ったのだが、「タイツの日」に合わせて描かれたイラストを見ると、「何だかな~」という感がある。
「性的消費」とまでは思わないが、どことなくタイツを履く女性に向けて描かれたイラスト、という印象は受けにくい。
特に、2枚目、3枚目のイラストは、「どこか男性が見て、カワイイ女の子」というイメージなのかな?という、気がする。

日本靴下協会の統計によると、ここ数年、女性のストッキングやタイツの需要が減少している。

                   
   靴 下 需 給 推 移            
              単位 = 千デカ  
     暦 年               19年/13年
 項 目 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 (対比率)
  輸入浸透率 87.2 87.3 87.3 88.5 88.5 89.6 89.9  
短靴下 国内向け供給 137,088 134,393 132,171 130,929 129,767 132,943 124,124 90.5
輸    出 275 263 274 383 436 301 321 116.7
輸    入 119,508 117,330 115,417 115,857 114,834 119,082 111,644 93.4
  国 内 生 産 17,855 17,326 17,028 15,455 15,369 14,162 12,801 71.7
                   
  輸入浸透率 63.3 57.8 57.4 56.0 57.1 56.7 52.3  
 PS 国内向け供給 33,965 33,778 31,506 28,314 27,693 28,350 26,121 76.9
  & 輸    出 462 433 524 633 530 490 352 76.2
  T 輸    入 21,507 19,538 18,098 15,850 15,804 16,077 13,669 63.6
  国 内 生 産 12,920 14,673 13,932 13,097 12,419 12,763 12,804 99.1
                   
  輸入浸透率 82.4 81.4 81.6 82.7 83.0 83.8 83.4  
合  計 国内向け供給 171,053 168,172 163,677 159,243 157,460 161,293 150,244 87.8
輸    出 737 695 798 1,016 966 791 674 91.5
輸    入 141,015 136,868 133,515 131,707 130,638 135,159 125,313 88.9
  国 内 生 産 30,775 31,999 30,960 28,552 27,788 26,925 25,605 83.2
  会員企業数 286 281 270 266 260 251 232 81.1
            単位:億円    
国内製造出荷額 942 845 844 807 804 770    
                   
    注 : 国内向け供給 = 国内生産+輸入ー輸出        
        輸入浸透率(%) = 輸入/国内向け供給×100        
                   
  出所 : 生産、会員企業数 = 日本靴下工業組合連合会調査      
         輸出、輸入 = 財務省貿易統計          
         国内製造出荷額= 経済産業省工業統計(1184 靴下製造業)      

日本靴下協会のデータの「PS&T」という項目が、ストッキングとタイツで、2019年のデータでは対比が76.9%にまで下がっている(Excelのデータが見にくくて、申し訳ない)。
通常のソックスが大きく減っていないことを考えると、単に人口減少というよりも、ストッキングやタイツを履く女性が減ってきている、と考えるほうが自然だろう。
実際、働く女性の服装がスカートからパンツスタイルに変わったことで、ストッキングやタイツを履く機会は、減っているのでは?と、実感する場面は多い。
だからこそ、アツギは積極的な販促策の一つとして「#ラブタイツ」というSNS企画を立ち上げたのだと思う。

「#ラブタイツ」という企画そのものには、問題が無かったと思う。
ただ何故、あのようなイラストを起用してしまったのか?という点なのだ。
そこには「女性がストッキングやタイツを履かなくなった理由」という、問題の根本を見ずに表面的な販促策を考えたのでは?という、気がしている。

そもそも「ストッキングやタイツ」は、女性が履くものではなかった。
タイツを履いた肖像画第一号(というと大げさだが)は、太陽王・ルイ14世だったと言われている。
その肖像画では、ヒールのあるパンプスにタイツ、ズボンではなくいわゆるブルマーと呼ばれる短パンを履き、肩からは豪華なケープを纏っている。
それが、産業革命によって男性は今のズボンを履くようになったのだ。
ズボンを履くということは、労働をする為の衣装だともいえる。
女性が、男性と同じように働くことが当たり前になりつつある今、スカートではなく動きやすいパンツスタイルが、一般的になってきている、というのは、当然と言えば当然のことなのだ。

だからと言って、靴下メーカーとして指をくわえて、売上が下がるのを見ているわけにはいかない。
とすれば、女性の特権である「ワーキングファッション」という視点で、どのようなレッグファッションとしてのストッキングやタイツを提案できるのか?という、視点が必要だったはずなのだ。

それを安直に「カワイイ女の子が履く、タイツ(という印象を個人的に持っている)」というイラストにしてしまったために、炎上してしまったのだと思う。

過去に企業が発信したSNSや広告が、炎上することが度々あった。
そのうち、いくつかは「生活者=ユーザーの気持ち」を置き去りにしてしまい、企業の思い込みや問題の本質を考えなかったためでは?と、感じるモノがいくつかあった。
SNSというこれまでとは違う、ある意味企業が直接発信でき、生活者と繋がる広告ツールだからこそ、生活者やユーザーの姿と問題の本質を見極める必要があるのではないだろうか?


レナウンの倒産とブランド

2020-11-02 13:17:14 | マーケティング

経営危機が言われていた、アパレルメーカー「レナウン」の破産というニュースが報じられた。
日経新聞:民事再生中のレナウン、破産手続きへ 名門ブランドに幕

レナウンの経営不振は、随分前から言われていたので大きな驚きではないかもしれない。
他にもワールドが希望退職者を募り、店舗閉鎖など、いわゆる「老舗アパレル企業」の明るい話題が、聞かれなくなった昨今のような気がしている。
ダイヤモンドオンライン:ワールドが希望退職200人募集、今期358店舗を閉鎖

同じアパレル業界でも、ユニクロのように収益が黒字になっている企業もあるのだが、アパレル産業全体から見れば黒字企業はほとんどない、という状況なのでは?という気がしている。

その理由の一つとして考えられるのが、ユニクロのようなファストファッションであったり、ワークマンのような機能に特化し低価格帯のアパレルの台頭、ということになるのかもしれない。
だが、それだけではないはずだ。

一つは、生活者の気持ちとして「ファッションを楽しむ」という気持ちの余裕がなくなってきている、ということがあるような気がしている。
ユニクロのように、日常着となるようなモノはある意味「消費財」のような位置づけのアパレルだと思う。
ワークマンにしても、元々が作業着などを製造・販売している企業だと考えれば「仕事をするための消費財としての服」だと言えるのではないだろうか?

それに対して、ワールドにしても破産したレナウンにしても「消費財としての服」のメーカーではない。
ワンシーズンごとに買い替えるような服を企画し、製造・販売をしているわけではないので、生活者の気持ちが「ファッションを楽しみたい」という気持ちが起きない限り、新たな商品購入が起きるような商品ではない、ということになる。
しかしファッション業界そのものは、相当早いサイクルでデザイナーはコレクションを発表し、発表されたコレクションの傾向から、新しいトレンドが生まれ、そのトレンドに合わせてアパレル業界が動いてきた。

かつては、「春・夏」と「秋・冬」という2シーズンのコレクション発表だったモノが、今ではコレクションシーズンの細分化が始まっている、とも言われている。
ファッション業界もそれだけ、生活者の気持ちをつかむことに苦戦しているのかもしれない。
その結果として、アパレル産業そのものも、商品サイクルを短くし、販売しなくてはいけなくなり、膨大な在庫を抱えてしまう、という「負のスパイラル」に陥っているとも言われている。
実際、2017年にはイギリスの超が付くほどの人気ブランド・バーバリーが年間40億円超の売れ残り在庫を焼却処分していた、と問題になった。
Huffpost:バーバリー、40億円超の売れ残り商品を燃やす「環境に優しい方法で処分している」

この時の話題の中心は、焼却処分によって地球環境に悪影響を与えているのでは?という、指摘の問題だったのだが、これほどまでの費用をかけて処分する理由は、「ブランドイメージの維持」の為だった。

レナウンの破産により、「レナウン」というブランドは消滅してしまうのだが、「レナウン」が長い間ライセンス契約などをしてきた「アクアスキュータム」等のブランドは、既に小泉アパレルへ売却をされている。
レナウンだけではなく、日本のアパレル企業は海外ブランドとライセンス契約をしていたり、自社ブランドを育てることで、企業名とは別の「ブランド力」を持っている場合が多い。

今回のレナウンの倒産で「レナウン」という企業は無くなってしまっても、「アクアスキュータム」等レナウンが育ててきたブランドは、残るということになる。
婦人服ブランドはともかく、紳士服ブランドである「ダーバン」や顧客の中心が男性である「アクアスキュータム」等は、婦人服のような早い商品サイクルである必要は無い、ということを考えると、これらのブランドを早めに売却をしておいてよかったように思う。

上述したように、アパレルメーカーが無くなっても「ブランドが残る」という、日本独特のアパレル事業展開が「ブランド」を守った、ようにも思う。