一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

三浦弘行八段とのおかしな会話

2010-03-05 01:52:23 | 男性棋士
2日(火)のA級順位戦は、三浦弘行八段が郷田真隆九段に逆転勝ちし、名人挑戦権を獲得した。
三浦八段には昨年9月、東京・四ツ谷で行われた「将棋ペンクラブ大賞・贈呈式」で、初めてお目にかかった。三浦八段は、昨年の「LPSA・詰め将棋日めくりカレンダー」に、俗手の好手が散りばめられた詰将棋を提供された。私の好きな棋士のひとりである。
それは、乾杯が終わり歓談の最中のことだった。私のすぐ前で三浦八段がポツンと茶そば(だったと思う)を食べており、声を掛けさせていただく絶好のチャンスがあった。
しかし毎度毎度書いているが、私は極度の引っ込み思案で、自分からプロ棋士に声を掛けることはまずない。しかもそれがA級八段(「九段」より「八段」のほうが強そうに思えるのはナゼだろう)で、全く面識もなければなおさらだ。
しかしそのときは、何かに吸い寄せられるように、三浦八段に声を掛けてしまった。
「あの…三浦先生でいらっしゃいますよね」
もう食事を終えていた三浦八段は「はい」と答える。ここで三浦八段が芸能人なら、「いつもテレビを拝見しています」という便利な言葉を使えるが、あいにく三浦八段は将棋棋士である。
「いつも先生の将棋を拝見しています」
と言うべきだろうが、あいにくウチは朝日新聞でもなく毎日新聞でもなく、読売新聞を購読している。竜王戦では三浦八段の将棋を見た記憶がないので、それを言ったらウソになってしまう。
ここで早くも言葉に詰まった私は、どう凌いだか記憶にないのだが、
「先生の将棋はいつも素晴らしいです」
とでも言い繕ったかもしれない。
対して、三浦八段の答えは、「はあ…」だった。
ここから三浦八段と私との、奇妙な会話が始まった。
「先生は将棋の勉強をいつもされているようですけど、それはいまもやられているわけですよね」
「はあ…」
「あ、ああ、それは素晴らしいですよね」
「はあ…」
「あっ、三浦先生といえば、七冠王のときの羽生先生から棋聖を獲られたんですよね」
「はあ…」
「あれはやっぱり嬉しかったでしょうね」
「はあ、それは」
「やっぱりあの、羽生先生はお強いですよね。その羽生さんから獲ったんですものね」
「はあ…」
「やっぱり、あの、先生の、いままでの代表局といいますか、そういったものはあの第5局ということになりますでしょうか」
「はあ、やっぱり…そうですね…」
――ダメだ。まったく会話になっていない。私は緊張のうえに緊張を重ねてしどろもどろ。私が三浦八段の「答え」を先回りして訊いているから、三浦八段の方もただ相槌を打つしかないのだ。
私は大汗をかき、激しい自己嫌悪に陥って、その場を離れた。
そこから先は、M氏の筆による「将棋ペンクラブログ」3日付の記事に詳しい。実はその記事を読むまで、以後の私の記憶が欠落していたのだが、あのあと三浦八段は、たしかに祝辞を述べたのだった。
私は三浦八段の朴訥なさまを目の当たりにしていたから、
「この人、本当にスピーチは大丈夫なのだろうか?」
と、自分の話術はタナに上げて、心配になった。そこのところは憶えている。
しかしそれは杞憂に終わった。内容はまったく憶えていないので説得力に欠けるが、三浦八段は静かな語り口で参加者を惹き、感動の渦に巻き込んだのだった。

さて、そんな三浦八段の、名人戦七番勝負初見参である。昨年挑戦した郷田真隆九段が一刀流の佐々木小次郎ならば、三浦八段は群馬の宮本武蔵である。再び羽生善治名人からタイトル奪取なるか。その激闘を、いまから楽しみにしている。
コメント (10)
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