「心理テスト」が終わったので、ほかのブースも見て回る。「リレー将棋」のコーナーがある。私は過去2回参戦したが、いずれも負け。参加人数が多いぶん、負けた悔しさは分散されるはずだが、不思議とそうはならない。
中井広恵女流六段が参加されているので、挨拶する。先ほどの心理テストでは、中井女流六段の名前を1つだけ書いたが、その結果は「アタックされればうまくいくひと」だった。中井女流六段に迫られれば、うまくいくということか。
それを告げると、中井女流六段は苦笑い。しかしちょっと、元気がなさそうに見えた。
「どうぶつしょうぎコーナー」では、大庭美夏女流1級、藤田麻衣子女流1級が並んでしょうぎを指している。おふたりとも小さな子供をお持ちということもあり、どうぶつしょうぎの普及にはひときわ熱心だ。
「2分14秒将棋」は、石橋幸緒女流四段が2面指しを行っている。秒読みは14秒だから、ひとりあたり7秒しかない。もっとも前回のファンクラブイベントでは10秒の秒読みで2面指しを行ったというから、これはもう神業である。
気のせいに違いないが、石橋女流四段が私の視線を避けているように思える。またもおろおろする。
船戸陽子女流二段はファンクラブ担当に着任したので、今回は全体の進行を見守る役だ。会員の入場者の多寡はどうだったか。みんな楽しんでいるか。船戸女流二段の表情に笑みはない。私もサラリーマンの経験があるから、裏方の気持ちはよく分かる。
各ブースが一段落したところで、午後3時30分から、トークコーナーに入る。私たちには事前にアンケート用紙が渡されており、そこには「お酒が強いと思う女流棋士は?」「料理がうまいと思う女流棋士は?」「気が強いと思う女流棋士は?」などの設問が記されていた。トークショーは、そのアンケートを基に展開される。司会進行はもちろん、中倉彰子女流初段、宏美女流二段である。
「お酒が強いと思う女流棋士は?」は、1位が船戸女流二段、2位が松尾香織女流初段、3位が大庭美樹女流初段、となった。正月の指し初め式で、女流棋士が選んだ順位とはちょっと違ったが、これも納得の順位だ。
船戸女流二段は職業上、味を覚えながらたしなむイメージ。松尾女流初段は銘柄に関係なく、ガバガバ飲むイメージ。大庭女流初段は、静かに日本酒を傾けるイメージだ。
「料理がうまいと思う女流棋士は?」は、1位が藤森奈津子女流三段、2位が蛸島彰子女流五段、3位に中倉彰子女流初段がつけた。1位、2位はまあイメージどおりとして、3位に中倉女流初段がすべりこんだのは見事。
面白くないのは中倉宏美女流二段で、当然でしょう、とばかりニコニコ笑う彰子女流初段に、「図々しいにもほどがある」とボソッともらしたのが、笑えた。なるほど、こうやってツッこむものなのか。いつもながら、宏美女流の笑いのセンスには脱帽する。
「気の強そうな女流棋士は?」は、1位が31票で石橋女流四段、2位が19票で中井女流六段、3位は8票で船戸女流二段だった。中井女流六段は「納得いかない」ともらしたが、ご本人は、自分が断トツとフンでいたらしい。
誰かが言っていたが、勝負事には気の強さも必須である。私も中井女流六段と石橋女流四段に投票したし、このおふたりの上位入賞は当然であろう。
船戸女流二段の3位はやや意外だったが、彼女は繊細な神経の持ち主である。中井・石橋の猛者ふたりとは毛色が違う。
この設問はかなり盛り上がり、4位は7票で島井咲緒里女流初段がつけた。島井女流初段は「ちょっとショックぅ」と困惑を隠せない。「シマイ攻め」のイメージが会員の脳裏にあったか。ほかは、中倉彰子女流初段は6票、宏美女流二段・藤田麻衣子女流1級は2票、渡部愛ツアー女子プロは1票だった。
「この設問は、数が少ないほうがいいんですから」と宏美女流二段が強調する。姉に4票差をつけてのわずか2票は、満足そうである。
彰子女流初段が旦那様の中座真七段に寿司を投げつけた、という話は一部で有名だが、あれはのり巻を投げたらしい。
「キレキャラ」藤田女流1級の2票は、女流棋士間では意外そうだった。もっと多くて然るべき、ということか。
トークでは、「もし女流棋士になっていなかったら? あこがれの職業は?」という臨時の設問もあった。
松尾女流初段「ムーミンのスナフキン」
石橋女流四段「ナース」
中井女流六段「やっぱり稚内で薬局を継いでいたと思います」
中倉彰子女流初段が、「気の強い薬局になりますね」と返して、みんなを笑わせる。その彰子女流初段の名前は、ご尊父が蛸島彰子女流五段から戴いたことは有名だ。
「もし中井さんのファンだったら、『中倉広恵』になっていたかも…」
と言ったのは誰だったか。
島井女流初段の「心理カウンセラー」には、おお…という声が上がった。
船戸女流二段の発言は印象に残らなかったが、なぜか涙ぐんでいるように見えた。無事にファンクラブが終わりそうだ、という安堵の気持ちがそうさせたか。藤田女流1級のとくに発言もなく、静かに座っていた。
中倉女流姉妹の巧みな司会で、爆笑の渦の中、トークショーも終了。今後のイベントやグッズのお知らせのあと、中井女流六段が御礼の挨拶に立つ。と、話の最後に「藤田さんから皆さまへお話があります」と言うので、会場内に困惑の空気が流れた。こういうときは、たいていよくない報せだからである。
それはなんと、藤田女流1級の引退・退会の発表だった。寝耳に水、青天の霹靂とは、こういうことを云うのだろう。藤田女流1級は、
「LPSAに入会して自分の将棋を見ていただく機会が急激に増え、うれしかった。対局では勝敗にこだわってしまった。もっと横歩取りの将棋とかも指したかった。いままで応援をありがとうございました」
という意味のことを言った。
会場は水を打ったように静まり返ってしまった。この場で退会の公表をすることにはLPSAでも賛否両論があったろうが、藤田女流1級は、ファンの前で表明をしたかったのだろう。しかし引退はともかく、退会とは穏やかではない。なんとかLPSAに残れなかったものか。むろんこの結論に至るまで、藤田女流1級にはさまざまな葛藤があったはずだ。しかし藤田女流1級は、何人にも拘束されない、自由な道を選んだ。人生は1度しかない。自分の生きたい道を生きればいいと思う。
最後に石橋女流四段の御礼の挨拶があった。しかし会場は消沈し、異様な雰囲気だった。
4時すぎ、とりあえず楽しかったファンクラブイベントもお開き。私たちは出口で、この日のメインともいえる義理チョコをいただく。私の前に中倉宏美女流二段がいたので手を差し出すと、
「船戸さんからどうぞ」
と言う。それで私は船戸女流二段からチョコを戴いたのだが、なにか釈然としない。
…あれっ? スネているのか? 心理テストで名前を書かなかったから、スネているのか宏美先生!!
いつもならサッサと帰路に着くところだが、きょうは終盤でいろいろあって、真っ直ぐ帰れない気持ちである。私は金曜サロンらの有志と合流し、喫茶店や居酒屋をハシゴし、終電間際まで蒲田の街でおしゃべりをしたのだった。
中井広恵女流六段が参加されているので、挨拶する。先ほどの心理テストでは、中井女流六段の名前を1つだけ書いたが、その結果は「アタックされればうまくいくひと」だった。中井女流六段に迫られれば、うまくいくということか。
それを告げると、中井女流六段は苦笑い。しかしちょっと、元気がなさそうに見えた。
「どうぶつしょうぎコーナー」では、大庭美夏女流1級、藤田麻衣子女流1級が並んでしょうぎを指している。おふたりとも小さな子供をお持ちということもあり、どうぶつしょうぎの普及にはひときわ熱心だ。
「2分14秒将棋」は、石橋幸緒女流四段が2面指しを行っている。秒読みは14秒だから、ひとりあたり7秒しかない。もっとも前回のファンクラブイベントでは10秒の秒読みで2面指しを行ったというから、これはもう神業である。
気のせいに違いないが、石橋女流四段が私の視線を避けているように思える。またもおろおろする。
船戸陽子女流二段はファンクラブ担当に着任したので、今回は全体の進行を見守る役だ。会員の入場者の多寡はどうだったか。みんな楽しんでいるか。船戸女流二段の表情に笑みはない。私もサラリーマンの経験があるから、裏方の気持ちはよく分かる。
各ブースが一段落したところで、午後3時30分から、トークコーナーに入る。私たちには事前にアンケート用紙が渡されており、そこには「お酒が強いと思う女流棋士は?」「料理がうまいと思う女流棋士は?」「気が強いと思う女流棋士は?」などの設問が記されていた。トークショーは、そのアンケートを基に展開される。司会進行はもちろん、中倉彰子女流初段、宏美女流二段である。
「お酒が強いと思う女流棋士は?」は、1位が船戸女流二段、2位が松尾香織女流初段、3位が大庭美樹女流初段、となった。正月の指し初め式で、女流棋士が選んだ順位とはちょっと違ったが、これも納得の順位だ。
船戸女流二段は職業上、味を覚えながらたしなむイメージ。松尾女流初段は銘柄に関係なく、ガバガバ飲むイメージ。大庭女流初段は、静かに日本酒を傾けるイメージだ。
「料理がうまいと思う女流棋士は?」は、1位が藤森奈津子女流三段、2位が蛸島彰子女流五段、3位に中倉彰子女流初段がつけた。1位、2位はまあイメージどおりとして、3位に中倉女流初段がすべりこんだのは見事。
面白くないのは中倉宏美女流二段で、当然でしょう、とばかりニコニコ笑う彰子女流初段に、「図々しいにもほどがある」とボソッともらしたのが、笑えた。なるほど、こうやってツッこむものなのか。いつもながら、宏美女流の笑いのセンスには脱帽する。
「気の強そうな女流棋士は?」は、1位が31票で石橋女流四段、2位が19票で中井女流六段、3位は8票で船戸女流二段だった。中井女流六段は「納得いかない」ともらしたが、ご本人は、自分が断トツとフンでいたらしい。
誰かが言っていたが、勝負事には気の強さも必須である。私も中井女流六段と石橋女流四段に投票したし、このおふたりの上位入賞は当然であろう。
船戸女流二段の3位はやや意外だったが、彼女は繊細な神経の持ち主である。中井・石橋の猛者ふたりとは毛色が違う。
この設問はかなり盛り上がり、4位は7票で島井咲緒里女流初段がつけた。島井女流初段は「ちょっとショックぅ」と困惑を隠せない。「シマイ攻め」のイメージが会員の脳裏にあったか。ほかは、中倉彰子女流初段は6票、宏美女流二段・藤田麻衣子女流1級は2票、渡部愛ツアー女子プロは1票だった。
「この設問は、数が少ないほうがいいんですから」と宏美女流二段が強調する。姉に4票差をつけてのわずか2票は、満足そうである。
彰子女流初段が旦那様の中座真七段に寿司を投げつけた、という話は一部で有名だが、あれはのり巻を投げたらしい。
「キレキャラ」藤田女流1級の2票は、女流棋士間では意外そうだった。もっと多くて然るべき、ということか。
トークでは、「もし女流棋士になっていなかったら? あこがれの職業は?」という臨時の設問もあった。
松尾女流初段「ムーミンのスナフキン」
石橋女流四段「ナース」
中井女流六段「やっぱり稚内で薬局を継いでいたと思います」
中倉彰子女流初段が、「気の強い薬局になりますね」と返して、みんなを笑わせる。その彰子女流初段の名前は、ご尊父が蛸島彰子女流五段から戴いたことは有名だ。
「もし中井さんのファンだったら、『中倉広恵』になっていたかも…」
と言ったのは誰だったか。
島井女流初段の「心理カウンセラー」には、おお…という声が上がった。
船戸女流二段の発言は印象に残らなかったが、なぜか涙ぐんでいるように見えた。無事にファンクラブが終わりそうだ、という安堵の気持ちがそうさせたか。藤田女流1級のとくに発言もなく、静かに座っていた。
中倉女流姉妹の巧みな司会で、爆笑の渦の中、トークショーも終了。今後のイベントやグッズのお知らせのあと、中井女流六段が御礼の挨拶に立つ。と、話の最後に「藤田さんから皆さまへお話があります」と言うので、会場内に困惑の空気が流れた。こういうときは、たいていよくない報せだからである。
それはなんと、藤田女流1級の引退・退会の発表だった。寝耳に水、青天の霹靂とは、こういうことを云うのだろう。藤田女流1級は、
「LPSAに入会して自分の将棋を見ていただく機会が急激に増え、うれしかった。対局では勝敗にこだわってしまった。もっと横歩取りの将棋とかも指したかった。いままで応援をありがとうございました」
という意味のことを言った。
会場は水を打ったように静まり返ってしまった。この場で退会の公表をすることにはLPSAでも賛否両論があったろうが、藤田女流1級は、ファンの前で表明をしたかったのだろう。しかし引退はともかく、退会とは穏やかではない。なんとかLPSAに残れなかったものか。むろんこの結論に至るまで、藤田女流1級にはさまざまな葛藤があったはずだ。しかし藤田女流1級は、何人にも拘束されない、自由な道を選んだ。人生は1度しかない。自分の生きたい道を生きればいいと思う。
最後に石橋女流四段の御礼の挨拶があった。しかし会場は消沈し、異様な雰囲気だった。
4時すぎ、とりあえず楽しかったファンクラブイベントもお開き。私たちは出口で、この日のメインともいえる義理チョコをいただく。私の前に中倉宏美女流二段がいたので手を差し出すと、
「船戸さんからどうぞ」
と言う。それで私は船戸女流二段からチョコを戴いたのだが、なにか釈然としない。
…あれっ? スネているのか? 心理テストで名前を書かなかったから、スネているのか宏美先生!!
いつもならサッサと帰路に着くところだが、きょうは終盤でいろいろあって、真っ直ぐ帰れない気持ちである。私は金曜サロンらの有志と合流し、喫茶店や居酒屋をハシゴし、終電間際まで蒲田の街でおしゃべりをしたのだった。