しばらくすると、前方から甘いマスク氏が挨拶にいらした。彼とは昨年11月、蕨市で行われた将棋大会で対戦し、見事に負かされた。彼は私のブログを愛読してくれている、好漢である。将棋ブログ「俊の将棋blog」も開設しており、そこには将棋に対する熱い想いが連ねられている。
もう少し読みたい、というところで話が終わるが、こうした余韻が残るということは、話が面白い証左である。文章もうまく、近い将来、「勝手に将棋アンテナ」に登録されるであろう。
午後1時すぎ、LPSAの面々が室内前方に勢ぞろいする。メンバーは、山下カズ子女流五段、寺下紀子女流四段を除いた16名。自己紹介とともに、このあと行われる「指し手de BINGO!」のバレンタインプレゼントを紹介した。
対局者は中倉彰子女流初段VS渡部愛ツアー女子プロ。若妻と女子高生の天然対決である。1時15分、いよいよ「指し手de BINGO!」の対局開始。
振り駒で中倉女流初段の先手。☗7六歩☖3四歩に☗2六歩と中倉女流初段が居飛車を明示したので、場内に意外な空気が流れる。対して渡部ツアー女子プロが☖8四歩と返したので、戦前の予想とはかけ離れた、相居飛車の将棋となった。しかしこれは私にとって、願ってもない展開であった。私のビンゴカードの右隅には、「24」「86」がタテに並んでいる。このままいけば、横歩取り対中座飛車(中倉彰子女流初段のご主人!)になる可能性が大きく、一気に2つ開く。ところが…。
渡部ツアー女子プロが角を交換し、中倉女流初段が棒銀から端攻めに出たので、絶対に開くと思っていた「24」「86」が関係なくなってしまったのだ。
私の左には大野八一雄七段が座っており、当初は「イビアナがなくなった…」と「12」を指して嘆いていたのに、中倉女流初段が☗1二歩と垂らしたものだから、開いてしまった。なんだか面白くない。
私もなんとか開けていくが、「桂馬跳び」に開いているので、なかなか1列につながらない。そのうち大野七段がリーチになり、絶対開かないと見られていた番号が、必然の手順によって開き、ビンゴになってしまったのだ。
冗談ではない。プロ棋士が女流棋士からプレゼントをもらってどうするのだ。大野七段には強制的に辞退していただく。こっちは必死なのだ。
私もナナメのリーチになっているが、将棋は最終盤になっている。しかしプレゼントの賞品はまだ4つ残っている。こんなところで投了されては困る。
解説の中井広恵女流六段が、「何番が開いてほしいんですか?」と私に聞く。
「い、いいんですか? 私が番号を言ってしまってもいいんですか? 『86』です!!」
私は必死の形相で答える。序盤でカンタンに開くとフンだ「86」が、まだ閉じているのだ。
渡部ツアー女子プロが考えている。先手玉は寄り筋なのだが、ファンの声を優先しようと、詰み手順を組み合わせているのか。
「愛ちゃん、自分の指したい手を指していいのよ」
と、どこからか声が飛ぶ。よ、余計なことは言わなくていい。渡部ツアー女子プロが、☗7七玉に対して、☖8八角と打った! これは☗8六玉の1手。やったあ! 渡部ツアー女子プロの思いやりに感謝、であった。
以下☖8五金でちょうど詰み、大きな歓声と盛大な拍手が交差した。
しかし問題はここからだった。「86」でビンゴが、なんと11人もいたのだ。ここから勝ち抜くのは至難だ。
まず全員でジャンケンをし、私を含めて4人が残った。これで賞品ゲットは確定した。あとは選択の優先順位を決めるジャンケンである。私を含めた2人が勝ち、決勝の相手はLPSAファン氏となった。
パー、パー、パーで3回あいこになり、4回目にチョキを出して私の勝利となった。
さてここで初めて、残っているプレゼントを見る。と、船戸陽子女流二段提供の、沖縄県宮古島の泡盛ミニボトルが残っているではないか!
これは私がいただくのがスジであろう。ありがたく頂戴した。
「一公さんは毎回何かしら貰っていくよなあ」
と、どこからか声が飛ぶ。そういえば前々回の「指し手de BINGO!」でもビンゴし、山下女流五段提供の「女流棋士発足15周年記念テレホンカード」を頂戴した。あのころは女流棋士の団体がふたつに分かれるなんて、誰も想像していなかっただろう。
ここで休憩に入ったが、対局が早く終わったので、のちの企画が20分前倒しになった。
午後2時10分。フリーブースコーナーの開演である。
まず入場時に私たちは、6名の女流棋士の名前が入ったカードをいただいていた。その該当女流棋士に挨拶をするとシールが貰え、6名をコンプリートすると、女流棋士のサインが入った「どうぶつしょうぎ」の駒(1コ)がもらえるのだ。それで最初は、そこかしこに行列ができた。
ちなみにその6名、「たこ」(と書かれてあったのだ)は別格として、「マナ」「マユミ」「マイコ」「カオリ」「サオリ」(だったと思う)の5名は、源氏名に見えた。
チケット持参コースは、前述の「心理テスト~相性診断~」(担当:中倉彰子女流初段、中倉宏美女流二段)のほかに、「リレー将棋」(中井女流六段、多田佳子女流四段、藤森奈津子女流三段、大庭美樹女流初段)、「2分14秒将棋(持ち時間2分、切れたら14秒。この数字はバレンタインデーにちなんでいる)」(石橋幸緒女流四段、松尾香織女流初段、渡部ツアー女子プロ)の3つ。
チケット不要ブースは、「思い出の対局解説」(蛸島彰子女流五段、神田真由美女流二段)、「じゃんけんでゲット!」(島井咲緒里女流初段)、「懸賞詰将棋コーナー」(鹿野圭生女流初段、特別参加・永瀬拓矢四段)、「どうぶつしょうぎコーナー」(大庭美夏女流1級、藤田麻衣子女流1級)の4つだった。適材適所、見事に担当が分かれた感じだ。
私は心理テストのコーナーである。白いテーブルが横に2つ、3列に並べられていて、私はいちばんうしろのテーブルの席に着こうとすると、前方にいた中倉女流姉妹が、
「一公さん、こっちこっち」
と手招きする。ふつうなら遠慮してしまうのだが、このおふたりに招ばれては、私もふらふらと吸い寄せられるしかない。図々しく、最前列の席に座ってしまった。そうして視線を上げると、中倉女流姉妹が笑顔で私を見ている。
な、なんて素晴らしいツーショットなんだろう。思わず見とれてしまう。
まるでこれから授業を受けるみたいだ。とするならば、彰子先生は現代国語、宏美先生は古文、というところか。
宏美先生が、
「このたびは(ファンランキングで)2位にしていただき、ありがとうございます」
とにこやかに言う。こちらこそどういたしまして、と返したいところだが、隣に彰子先生がいるので、私は狼狽した。そういえば昨年ファンランキングを発表したときも、宏美先生は、彰子先生の横で私に御礼を述べた。やはり宏美先生は、彰子先生をライバル視しているフシがある。
(あっこちゃんに大差をつけて2位に上がったんだから!)
とでも言いたそうである。ふだんはパソコンをあまり使わないという彰子先生がキョトンとしているので、私は
「いやいやいやいや」
と言葉を遮り、
「ひ、宏美先生のその姿、素晴らしいですよねえ。前、先生のブログに教壇に立った先生の写真がありましたけど、あれは本物の女教師のようで、素晴らしかったです」
と、話を逸らした。ファンランキングの発表時期も、細心の注意が必要だと痛感する。
「女教師…フフフ」
と、宏美先生が妖しく笑みをもらす。ああ、頭がスパークしそうだ…。
配られた「テスト用紙」を表にする。船戸女流二段のプロデュースで、15の設問のうち、14問に女流棋士の名前を書くようになっている。その答えで、回答者の深層心理が分かるのだ。女流棋士会所属の女流棋士を書いてもいいのだろうが、私はLPSA女流棋士に限定した。
さっそく回答に入るが、こうしていると学生時代を思い出す。LPSAファンクラブではこういうクイズが好きで、第1回、第3回はLPSAカルトクイズが行われた。
宏美先生がのぞきにくる。ここまでけっこう答えは記入したが、まだ宏美先生の名前はない。
「す、すみません」
なんだかバツが悪い。
「1番(の設問)は誰にしましたか…?」
1問目は、「山に行くなら誰と行きたいですか?」
とある。
「私は多田先生にしました」
「ああ、ううん、なるほど…」
と宏美先生がうなずく。
「ま、まずいでしょうか」
「じゃあこれだけ先に答えを教えますね。『苦労を共にする価値がある貴方にとって、人生のパートナー』です」
「うわっ! そ、そうですか。多田先生は山に登るイメージがあったので…」
「実際登られるらしいですよ」
実際登ってもなんでもいいが、多田先生か…。しかし頭に浮かんじゃったんだから、仕方ない。そうやって14問目まで書いて、ガク然とした。宏美先生の答えがひとつもないのだ! 15問目は色の選択なので、女流棋士の記入はこれで終わりである。
「せ、先生…先生の名前をひとつも書けませんでした」
私がそう言うと、さすがに宏美先生も顔を曇らせた。診断結果がどうなろうと、ひとつでも宏美先生の名前を書いておけば、あとで絶好の会話のタネになる。しかし記入が皆無では、そのとっかかりがない。
すぐうしろでは、島井女流初段の「じゃんけんでゲット!」が行われている。定員10余名が同時に島井女流初段とジャンケンをし、最終勝利者が島井女流初段とツーショット写真を撮れるのだ。さらにミニ色紙までいただけるという、夢のような企画である。ほかのコーナーに比べて時間の余る私たちは、そちらに移動して参加した。
ここは島井女流初段ひとりだけの担当だ。緊張するのか、ジャンケンをする前にフーフー深呼吸する姿がかわいらしかった。そういえば私は、改訂版ファンランキングで、島井女流初段を4位から10位に落としてしまった。島井女流初段の昨年の活躍がほとんどなかったためだが、このアイドルチックなお顔を拝見すると、10位はマズかったなと思う。まあ、3位と4位の差は離れているけれども、4位以下は便宜上数字を振っただけで、どの順位でも同じようなものだ。
ゲームは、勝ち、あいこで勝ち進むルールである。第1回戦では、私は最後の2人まで残ったが、決勝で負けて、ツーショット写真と色紙の獲得ならず。第2回戦でも早々と敗退し、すごすごと心理テストブースへ戻った。
結果発表の時間となり、回答用紙が配られる。ちなみに14の記入設問で、私が書いた女流棋士は、船戸女流二段5つ、島井女流初段3つ、多田女流四段2つ、中井女流六段・山下女流五段・中倉彰子女流初段・渡部ツアー女子プロ1つ、だった。
設問と回答、結果の解説をここに書くわけにはいかないが、注目の彰子先生は、「私が好きな人」であった。
「あっ、私の好きな女流棋士は、彰子先生でした!!」
と叫ぶと、あらー、と笑みを返してくれる彰子先生。宏美先生の顔は、見る勇気がなかった。
そのあと、三たび島井女流初段とのジャンケン勝負に挑戦したが、やはりツーショット写真獲得はならず。ファンランキングで10位に落としたバチが当たったのか。
最後にもう1回心理テストブースに戻り、
「私の好きな女流棋士は、彰子先生でした!!」
と言うと、彰子先生は、今度は困惑しながら、微笑んでくれた。その横にいる宏美先生を恐る恐る窺うと、その顔に笑みはなく、無表情に見えた。
これは…マズい。完全に、マズい。彰子先生もそうだが、宏美先生だって、べつに私のようなものに名前を書いてもらわなくてもいいのだ。ただ宏美先生にも、ファンランキング2位のプライドがある。それが深層心理では8位の姉に抜かれた形になり、(あなた本気でランキングつけてるの?)という思いが募り、不愉快になったと思われる。
ううう、この「修復」をどうしようか…。私は事の重大さにアオくなった。
ところで、心理テストで5つも名前を書いた、船戸女流二段との相性結果はどうだったか。甘めに見て、4つ当たり、というところだった。
(つづく)
もう少し読みたい、というところで話が終わるが、こうした余韻が残るということは、話が面白い証左である。文章もうまく、近い将来、「勝手に将棋アンテナ」に登録されるであろう。
午後1時すぎ、LPSAの面々が室内前方に勢ぞろいする。メンバーは、山下カズ子女流五段、寺下紀子女流四段を除いた16名。自己紹介とともに、このあと行われる「指し手de BINGO!」のバレンタインプレゼントを紹介した。
対局者は中倉彰子女流初段VS渡部愛ツアー女子プロ。若妻と女子高生の天然対決である。1時15分、いよいよ「指し手de BINGO!」の対局開始。
振り駒で中倉女流初段の先手。☗7六歩☖3四歩に☗2六歩と中倉女流初段が居飛車を明示したので、場内に意外な空気が流れる。対して渡部ツアー女子プロが☖8四歩と返したので、戦前の予想とはかけ離れた、相居飛車の将棋となった。しかしこれは私にとって、願ってもない展開であった。私のビンゴカードの右隅には、「24」「86」がタテに並んでいる。このままいけば、横歩取り対中座飛車(中倉彰子女流初段のご主人!)になる可能性が大きく、一気に2つ開く。ところが…。
渡部ツアー女子プロが角を交換し、中倉女流初段が棒銀から端攻めに出たので、絶対に開くと思っていた「24」「86」が関係なくなってしまったのだ。
私の左には大野八一雄七段が座っており、当初は「イビアナがなくなった…」と「12」を指して嘆いていたのに、中倉女流初段が☗1二歩と垂らしたものだから、開いてしまった。なんだか面白くない。
私もなんとか開けていくが、「桂馬跳び」に開いているので、なかなか1列につながらない。そのうち大野七段がリーチになり、絶対開かないと見られていた番号が、必然の手順によって開き、ビンゴになってしまったのだ。
冗談ではない。プロ棋士が女流棋士からプレゼントをもらってどうするのだ。大野七段には強制的に辞退していただく。こっちは必死なのだ。
私もナナメのリーチになっているが、将棋は最終盤になっている。しかしプレゼントの賞品はまだ4つ残っている。こんなところで投了されては困る。
解説の中井広恵女流六段が、「何番が開いてほしいんですか?」と私に聞く。
「い、いいんですか? 私が番号を言ってしまってもいいんですか? 『86』です!!」
私は必死の形相で答える。序盤でカンタンに開くとフンだ「86」が、まだ閉じているのだ。
渡部ツアー女子プロが考えている。先手玉は寄り筋なのだが、ファンの声を優先しようと、詰み手順を組み合わせているのか。
「愛ちゃん、自分の指したい手を指していいのよ」
と、どこからか声が飛ぶ。よ、余計なことは言わなくていい。渡部ツアー女子プロが、☗7七玉に対して、☖8八角と打った! これは☗8六玉の1手。やったあ! 渡部ツアー女子プロの思いやりに感謝、であった。
以下☖8五金でちょうど詰み、大きな歓声と盛大な拍手が交差した。
しかし問題はここからだった。「86」でビンゴが、なんと11人もいたのだ。ここから勝ち抜くのは至難だ。
まず全員でジャンケンをし、私を含めて4人が残った。これで賞品ゲットは確定した。あとは選択の優先順位を決めるジャンケンである。私を含めた2人が勝ち、決勝の相手はLPSAファン氏となった。
パー、パー、パーで3回あいこになり、4回目にチョキを出して私の勝利となった。
さてここで初めて、残っているプレゼントを見る。と、船戸陽子女流二段提供の、沖縄県宮古島の泡盛ミニボトルが残っているではないか!
これは私がいただくのがスジであろう。ありがたく頂戴した。
「一公さんは毎回何かしら貰っていくよなあ」
と、どこからか声が飛ぶ。そういえば前々回の「指し手de BINGO!」でもビンゴし、山下女流五段提供の「女流棋士発足15周年記念テレホンカード」を頂戴した。あのころは女流棋士の団体がふたつに分かれるなんて、誰も想像していなかっただろう。
ここで休憩に入ったが、対局が早く終わったので、のちの企画が20分前倒しになった。
午後2時10分。フリーブースコーナーの開演である。
まず入場時に私たちは、6名の女流棋士の名前が入ったカードをいただいていた。その該当女流棋士に挨拶をするとシールが貰え、6名をコンプリートすると、女流棋士のサインが入った「どうぶつしょうぎ」の駒(1コ)がもらえるのだ。それで最初は、そこかしこに行列ができた。
ちなみにその6名、「たこ」(と書かれてあったのだ)は別格として、「マナ」「マユミ」「マイコ」「カオリ」「サオリ」(だったと思う)の5名は、源氏名に見えた。
チケット持参コースは、前述の「心理テスト~相性診断~」(担当:中倉彰子女流初段、中倉宏美女流二段)のほかに、「リレー将棋」(中井女流六段、多田佳子女流四段、藤森奈津子女流三段、大庭美樹女流初段)、「2分14秒将棋(持ち時間2分、切れたら14秒。この数字はバレンタインデーにちなんでいる)」(石橋幸緒女流四段、松尾香織女流初段、渡部ツアー女子プロ)の3つ。
チケット不要ブースは、「思い出の対局解説」(蛸島彰子女流五段、神田真由美女流二段)、「じゃんけんでゲット!」(島井咲緒里女流初段)、「懸賞詰将棋コーナー」(鹿野圭生女流初段、特別参加・永瀬拓矢四段)、「どうぶつしょうぎコーナー」(大庭美夏女流1級、藤田麻衣子女流1級)の4つだった。適材適所、見事に担当が分かれた感じだ。
私は心理テストのコーナーである。白いテーブルが横に2つ、3列に並べられていて、私はいちばんうしろのテーブルの席に着こうとすると、前方にいた中倉女流姉妹が、
「一公さん、こっちこっち」
と手招きする。ふつうなら遠慮してしまうのだが、このおふたりに招ばれては、私もふらふらと吸い寄せられるしかない。図々しく、最前列の席に座ってしまった。そうして視線を上げると、中倉女流姉妹が笑顔で私を見ている。
な、なんて素晴らしいツーショットなんだろう。思わず見とれてしまう。
まるでこれから授業を受けるみたいだ。とするならば、彰子先生は現代国語、宏美先生は古文、というところか。
宏美先生が、
「このたびは(ファンランキングで)2位にしていただき、ありがとうございます」
とにこやかに言う。こちらこそどういたしまして、と返したいところだが、隣に彰子先生がいるので、私は狼狽した。そういえば昨年ファンランキングを発表したときも、宏美先生は、彰子先生の横で私に御礼を述べた。やはり宏美先生は、彰子先生をライバル視しているフシがある。
(あっこちゃんに大差をつけて2位に上がったんだから!)
とでも言いたそうである。ふだんはパソコンをあまり使わないという彰子先生がキョトンとしているので、私は
「いやいやいやいや」
と言葉を遮り、
「ひ、宏美先生のその姿、素晴らしいですよねえ。前、先生のブログに教壇に立った先生の写真がありましたけど、あれは本物の女教師のようで、素晴らしかったです」
と、話を逸らした。ファンランキングの発表時期も、細心の注意が必要だと痛感する。
「女教師…フフフ」
と、宏美先生が妖しく笑みをもらす。ああ、頭がスパークしそうだ…。
配られた「テスト用紙」を表にする。船戸女流二段のプロデュースで、15の設問のうち、14問に女流棋士の名前を書くようになっている。その答えで、回答者の深層心理が分かるのだ。女流棋士会所属の女流棋士を書いてもいいのだろうが、私はLPSA女流棋士に限定した。
さっそく回答に入るが、こうしていると学生時代を思い出す。LPSAファンクラブではこういうクイズが好きで、第1回、第3回はLPSAカルトクイズが行われた。
宏美先生がのぞきにくる。ここまでけっこう答えは記入したが、まだ宏美先生の名前はない。
「す、すみません」
なんだかバツが悪い。
「1番(の設問)は誰にしましたか…?」
1問目は、「山に行くなら誰と行きたいですか?」
とある。
「私は多田先生にしました」
「ああ、ううん、なるほど…」
と宏美先生がうなずく。
「ま、まずいでしょうか」
「じゃあこれだけ先に答えを教えますね。『苦労を共にする価値がある貴方にとって、人生のパートナー』です」
「うわっ! そ、そうですか。多田先生は山に登るイメージがあったので…」
「実際登られるらしいですよ」
実際登ってもなんでもいいが、多田先生か…。しかし頭に浮かんじゃったんだから、仕方ない。そうやって14問目まで書いて、ガク然とした。宏美先生の答えがひとつもないのだ! 15問目は色の選択なので、女流棋士の記入はこれで終わりである。
「せ、先生…先生の名前をひとつも書けませんでした」
私がそう言うと、さすがに宏美先生も顔を曇らせた。診断結果がどうなろうと、ひとつでも宏美先生の名前を書いておけば、あとで絶好の会話のタネになる。しかし記入が皆無では、そのとっかかりがない。
すぐうしろでは、島井女流初段の「じゃんけんでゲット!」が行われている。定員10余名が同時に島井女流初段とジャンケンをし、最終勝利者が島井女流初段とツーショット写真を撮れるのだ。さらにミニ色紙までいただけるという、夢のような企画である。ほかのコーナーに比べて時間の余る私たちは、そちらに移動して参加した。
ここは島井女流初段ひとりだけの担当だ。緊張するのか、ジャンケンをする前にフーフー深呼吸する姿がかわいらしかった。そういえば私は、改訂版ファンランキングで、島井女流初段を4位から10位に落としてしまった。島井女流初段の昨年の活躍がほとんどなかったためだが、このアイドルチックなお顔を拝見すると、10位はマズかったなと思う。まあ、3位と4位の差は離れているけれども、4位以下は便宜上数字を振っただけで、どの順位でも同じようなものだ。
ゲームは、勝ち、あいこで勝ち進むルールである。第1回戦では、私は最後の2人まで残ったが、決勝で負けて、ツーショット写真と色紙の獲得ならず。第2回戦でも早々と敗退し、すごすごと心理テストブースへ戻った。
結果発表の時間となり、回答用紙が配られる。ちなみに14の記入設問で、私が書いた女流棋士は、船戸女流二段5つ、島井女流初段3つ、多田女流四段2つ、中井女流六段・山下女流五段・中倉彰子女流初段・渡部ツアー女子プロ1つ、だった。
設問と回答、結果の解説をここに書くわけにはいかないが、注目の彰子先生は、「私が好きな人」であった。
「あっ、私の好きな女流棋士は、彰子先生でした!!」
と叫ぶと、あらー、と笑みを返してくれる彰子先生。宏美先生の顔は、見る勇気がなかった。
そのあと、三たび島井女流初段とのジャンケン勝負に挑戦したが、やはりツーショット写真獲得はならず。ファンランキングで10位に落としたバチが当たったのか。
最後にもう1回心理テストブースに戻り、
「私の好きな女流棋士は、彰子先生でした!!」
と言うと、彰子先生は、今度は困惑しながら、微笑んでくれた。その横にいる宏美先生を恐る恐る窺うと、その顔に笑みはなく、無表情に見えた。
これは…マズい。完全に、マズい。彰子先生もそうだが、宏美先生だって、べつに私のようなものに名前を書いてもらわなくてもいいのだ。ただ宏美先生にも、ファンランキング2位のプライドがある。それが深層心理では8位の姉に抜かれた形になり、(あなた本気でランキングつけてるの?)という思いが募り、不愉快になったと思われる。
ううう、この「修復」をどうしようか…。私は事の重大さにアオくなった。
ところで、心理テストで5つも名前を書いた、船戸女流二段との相性結果はどうだったか。甘めに見て、4つ当たり、というところだった。
(つづく)