一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

「武蔵の国・府中けやきカップ」へ行く・お詫びだらけ(中編)

2010-03-25 00:15:54 | LPSAイベント
とりあえずほかを見て回る。1回戦敗退の中倉宏美女流二段、大庭美樹女流初段が指導対局を行っている。
中倉女流二段は「府中けやきカップ」の主役だし、大庭女流初段は昨年の同カップにエントリしながら、急病で不戦敗となった。今年のけやきカップへの意気込みは並々ならぬものがあったはずだが、現実は厳しい。
個人協賛をしているH氏が、自由対局コーナーで将棋を指している。もし私なら、デカイ顔をして公開対局を観戦しているところだが、こうして将棋を指しているのが粋である。
どうしても「詰将棋タイムトライアル」が気になる。子供の挑戦者が数人いなくなったので、意を決しチャレンジする。担当者から説明を受ける。あとでその筋の人に聞いたのだが、彼ら担当者は、詰将棋の世界では有名とのことだった。
さて、問題は全部で15問。1~7手詰で、マークシートに最終手が3つ記されており、正解をマークする。もし間違えるとペナルティで30秒が加算される。タイムの早いほうから、横綱、大関、関脇…とランクづけされ、成績優秀者は閉会式で表彰される。けっこう大掛かりだ。
私が上位入賞してしまったら、はじき出される子供が出るのではないか? やはり大人の出る幕ではないのではないか? とも思ったが、詰将棋を解く誘惑には勝てなかった。
担当者がストップウオッチを持ち、スタート。級位者のチャレンジも想定してか、1手詰と3手詰が多い。その3手詰でどうしても分からない問題があったので、マークシートの最終手をカンニングし、1手目を推理した。自己嫌悪だ。
15問、終了。タイムはノーミスで3分01秒だった。
午後2時35分、6階の大会議室(会場)へ戻る。☗島井咲緒里女流初段対☖渡部愛ツアー女子プロの対局は20分前から始まっている。解説は堀口弘治七段、聞き手は大庭美夏女流1級。
将棋は、島井女流初段の振り飛車穴熊に、渡部ツアー女子プロが銀冠で対抗。渡部ツアー女子プロは振り飛車党だが、現在は芸域を拡げるべく、居飛車を勉強しているようだ。
本局はLPSAのアイドル決戦でもある。盤上、盤外とも、お互い負けられない一戦だが、私は最後列の席に座っているので、ふたりの雄姿は見づらい。しかしその熱気はここまで伝わってくる。
盤上は島井女流初段が☗5六歩と突きだしたところで、いよいよ本格的な戦いである。細かいやりとりを経て、渡部ツアー女子プロが8筋にと金を作れば、島井女流初段も6三に馬を作り、後手の飛車と銀を牽制する。
会場を見渡せば、ほぼ満席である。階下の来場者と合わせれば、いったいどのくらいの数になっているのだろう。とにかく盛況である。
渡部ツアー女子プロの☖6二歩が指された。すかさず堀口七段が異を唱える。
島井女流初段は☗8五馬と飛車を取り、☖同桂に☗6四角と銀を取って、労せずして優勢となった。☖6二歩には☗6四馬の一手と錯覚したのかもしれない。それなら馬筋が逸れるので、☖3六香と、角・飛車の田楽刺しが打てる。
☖6二歩は確かに悪手である。しかしこの類の手は、将棋が強くないと浮かばない。逆説的だが、この手に渡部ツアー女子プロの実力を見た気がした。
以降は島井女流初段の手が冴え、歩使いの妙技が続出する。堀口七段の解説どおりに手が進む。☖4四銀引の飛車取りに、構わず☗3四歩と銀取りに叩いたのが最後の決め手。ここで渡部ツアー女子プロの投了となった。
これで決勝戦は、第1回優勝の島井女流初段と、泣いても笑っても最後の公認棋戦対局となる、藤田麻衣子女流1級の顔合わせとなった。
その準備の間、室内前方では、岡本眞一郎氏出題の懸賞詰将棋の解答発表と、正解者の抽選が行われるようだ。聞き手は中倉女流二段が呼ばれた。
今回は3問すべて解答したから、楽しく聞くつもりだった。ところが…。1問目、必然の6手が終わった後、大盤では私の記入した手と別の手が指されて進む。
これはおかしい。たしかにその手順でも詰みだが、これは受け方に誤った応手があるのだろう。しかし大盤は何事もなかったように進行する。…あれっ?! 私が間違えたのか!? …あっ!! 私が解答した☗3一金は☖同角で詰まない!!
整理すると、この将棋は13手詰で、7手目以降の作意は☗3三銀☖同玉☗4二銀不成☖3二玉…となる。しかるに私は☗3一金☖同玉☗4二銀打☖3二玉…と書き、作意と同じ収束をしたのだ。何たるケアレスミスか(しかも帰宅後、封筒に書いた詰め上がりの駒の配置を見たら、「サ」になっていなかった)。投票の〆切まで時間がたっぷりあったのだから、詰み手順をとことん確認するべきだったのだ。
2問目「オ」、3問目「リ」は正解。しかし私の気分はさえない。いよいよ抽選となったが、正解者は12名とのこと。昨年は難問だったので、2問正解でも抽選の権利があったが、それでも該当者は6名しかいなかった。今年は「易しくした」というから、全問正解者が対象だろう。
中倉女流二段が解答用紙を6枚選ぶ。ところがその4人目だかに、私の名前が呼ばれたので、「エッ!?」と驚いた。
とまどいつつ前方に向かうと、私の2つ前の席にいた金曜サロン常連のW氏が、
「一公さん、相変わらず何か貰っていくねえ」
と茶化す。しかし私は混乱していて、返事ができない。
岡本氏から賞品をもらうが、この雰囲気、場の流れの中では、「ワタシ、1問目間違えてたんですけど…」とは言えなかった。
席に戻り、いただいた封筒を開けると、岡本眞一郎氏の詰将棋集だった。扉には、中倉宏美女流二段が「慧眼」と揮毫してある。詰将棋好き、宏美ファンにはたまらないお宝である。しかし、私に戴く資格があるのだろうか。
左横には、やはり賞品が当たった金曜サロン常連のI氏が嬉しそうである。私にも話しかけてくれるが、私は上の空だ。
決勝戦の用意が整い、岡本氏、中倉女流二段がこちらへ戻ってくる。私は熟考のすえ、ふたりに歩み寄った。
「あのう…先ほど賞品をいただいた者ですけど…あれは全問正解者が対象なんでしょうか」
「はい」
と岡本氏。やっぱり…と思う。
「あれ、私、1問目を間違えていたんです。だからこれは戴けません」
すると岡本氏は笑って、
「ああ、それはいいですよ」
と応じる。そういえば前年も、「分かりません」と書いた女性の解答も正解扱いにしていた。岡本氏も、自分の創った詰将棋を一生懸命考えてくれただけで、満足なのだろう。
そこで私も引きさがった。先ほどの男性は、決勝戦を間近で見るべく、前方へ移動した。
決勝戦の前に、島井女流初段、藤田女流1級のインタビューがあった。島井女流初段はジャケットを脱いで、白系のワンピースになっている。昨年のマイナビ女子オープン一斉対局のときのように、1枚脱いだときの島井女流初段は強い。
一方の藤田女流1級は、これが現役最後の対局とは思えない平静さである。
解説は、堀口七段と、渡部ツアー女子プロ。
将棋は☖島井女流初段の四間飛車穴熊に、☗藤田女流1級の左4六銀戦法となった。急戦を得意とする、藤田女流1級らしい選択だ。
しかし私の頭には、やはり詰将棋の件が頭に残っている。確かに私の誤答は、紛らわしかった。あぶりだし文字と詰め手数は合っていたし、間違えた箇所も1問目の7手目と9手目だけなのだ。これは採点者が見落としたとしても無理はない。
だがこの詰将棋は、岡本氏が1ヶ月もかけて創ったという労作である。その詰将棋を誤答しながら賞品を戴く、というのはやはりどうかと思う。
本当なら、この本が残り6名の誰かに行くはずだった。この本はファンランキング2位である中倉女流二段の揮毫入りだから、私だって手放したくはない。しかしこの6人の中に、同じ宏美ファンがいるかもしれないと思うと、やはりそのまま黙っているわけにはいかなかった。
私は再び、ふたりのところへ足を運ぶ。
「やはりこれは戴けません」
「……」
「私、7手目の☗3三銀を☗3一金と寄ってしまったんです。☗3三銀は、この詰将棋のキモです。それが見えなかったんだから、やはりこれは戴けません」
そう言うと岡本氏は笑って、
「解りました。じゃあこれは(最後に行われる)お楽しみ抽選会に回しましょう」
と受け取ってくれた。
しかしこの顚末を先に記せば、「お楽しみ抽選会」では、この賞品は提供されなかった。私は最初、連絡不行き届きかと思ったが、そうでないことに気づいた。この抽選会は、優勝者予想クイズの正解者とアンケート提出者の中から選ばれる。しかしその人が詰将棋好きだとは限らない。もちろん中倉女流二段の揮毫はあるが、メインはあくまでも本のほうである。「猫に小判」になってしまう恐れがあるのだ。
では結局、私のしたことは何だったのだろう。温情を見せてくれた岡本氏と、魂を込めて揮毫してくれた中倉女流二段を困惑させ、このブログにすべてを書くことによって、正解者の残り6人がこのエントリを読めば、その方にもイヤな思いをさせることになる。
結局、誰もトクはしないのだ。それでも書かずにおれなかった。つくづく私はバカだなあ、と思った。
(つづく)
コメント (6)
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